さる12月13日、橋本がくが事務局長を務める自民党全世代型社会保障に関する特命委員会において、それまでの議論のとりまとめを行いました。この「取りまとめ」は、自民党政調審議会にお諮りした上で、12月15日に田村憲久委員長とともに総理官邸において岸田文雄総理に面会し、党からの提言として申し入れを行いました。内容としては、こども・子育て、医療、介護など日本における社会保障制度の課題に対し、特命委員会にて議論を行った結果として当面とるべき施策を整理したものであり、政府による来年以降の社会保障制度にまつわる具体的な法改正等の根拠となるものです。ぜひご覧ください。
なおこの申し入れを受け、政府では12月16日に全世代型社会保障構築会議の報告書を取りまとめていますので、併せてご参照ください。
全世代型社会保障に関する特命委員会 取りまとめ
令和4年12月13日
自由民主党政務調査会
全世代型社会保障に関する特命委員会
1.検討の経緯
本「全世代型社会保障に関する特命委員会」は、わが国において少子化・超高齢化が進展し、社会保障給付費が急増する中、未来を見据えて、わが国の社会保障制度を維持するとともに、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」という従来の形から、「全ての世代が相互に支え合う仕組み」への転換を図るために、抜本的な議論を行い、政府に対して必要な改革を提言するために設けられたものである。
本年9月、総理を本部長とする全世代型社会保障構築本部において、総理から、全世代型の社会保障制度を構築するための議論を加速化していくため、「子ども・子育て支援の充実」「医療・介護制度の改革」「働き方に中立的な社会保障制度等の構築」といった3つのテーマを中心に、年末に向けて議論を進めるよう指示があった。
政府においては、この本部の下に設けられた全世代型社会保障構築会議において、これら3つのテーマを中心に議論が進められており、本年の年末までに報告を取りまとめる予定となっている。
わが党においても、全5回、本特命委員会を開催し、政府から、全世代型社会保障構築会議の議論についてヒアリングを行うとともに、より根本的かつ中長期的な観点から、わが国のあるべき社会保障制度の姿とその実現のために必要となる制度の見直しの方向性について、議論を重ねてきた。
これまでの議論に基づいて、政府の全世代型社会保障構築会議・同本部で取りまとめられる報告への反映を含め、政府が今後取り組むべき内容について整理した。
2.全世代型社会保障に関する基本的な考え方
超高齢化とかつてない少子化が進む中で、全ての世代がお互いに支え合い、安心できる「全世代型社会保障」を実現するため、これまでわが党は政府と一体となって取り組んできた。
わが国の後期高齢者の人口は、2025年までに全ての団塊の世代が後期高齢者となることから、現在、急増する時期にある。超高齢化に対応するため、来年通常国会に提出が予定されている医療・介護関連法案は、当面の対応として必要とは言えるものの、これだけでは、「全世代型社会保障」が実現されるとは言い難い。
目下、最大の課題は人口の減少であり、少子化である。少子化対策は、これからの社会保障政策の「一丁目一番地」として取り組むべきものである。今、我々に求められているのは、少子化対策の抜本的な強化に思い切って舵を切り、具体的な政策体系を提示するとともに、そのための安定的な財源を確保することである。あわせて、当面は不可避と考えられる人口減少社会に対応した施策を講じていくことも必要である。特に、進展する高齢化に加え医療の高度化について医療保険としてどのように受け止めるかが大きな課題となっている。医療・介護を含む各制度を持続可能なものにして、世界に冠たる国民皆保険制度をはじめとした社会保障制度を次の世代に引き継いでいくことが、わが党の責務である。
そのために、本特命委員会としても議論を続け、来年度の骨太方針に向けて、更なる改革の具体化に取り組んでいかなければならない。
3.各分野の具体的提言
(1)少子化対策
コロナ禍の中で、婚姻件数が2年間で約10万組減少している。また、令和3年の出生数は81.2万人まで急減し、将来人口推計の推計値よりも7年程度少子化が前倒しで加速している。今後も高齢者の増加が続く中で、医療や介護をはじめわが国の社会保障制度を維持・発展させる観点からも、現役世代の減少は大きな課題である。こうした中で、少子化問題は、諸外国において国家戦略上の最重要課題として認識されており、わが国においても、少子化の克服を最優先の国家的課題として位置づけ、取り組みを進めなければならない。
少子化の背景には、経済的な不安定さ、男女の仕事と子育ての両立の難しさ、子育て中の孤立感や負担感など、結婚や出産、子育ての希望の実現を阻む様々な要因が複雑に絡み合っている。第二次安倍政権以降、わが党としては、消費税率引上げなどの財源を活用して、待機児童の解消や、幼児教育・保育の無償化、高等教育の負担軽減、不妊治療の保険適用など、様々な取り組みを行ってきたが、少子化のトレンドを反転させるまでには至っていない。
現下の出生数急減などの危機的状況を踏まえれば、抜本的・総合的な少子化対策を改めて構築し、強力に推進していく必要がある。その中で、特に、現行制度で支援が比較的手薄な0~2歳児への支援に速やかに着手すべきである。
そのため、まずは、令和4年度第二次補正予算で措置した経済的支援と伴走型相談支援の一体的実施について、あらゆる方策により、今後の安定的な財源を確保しつつ、継続的かつ着実に実施していくべきである。これにより、来年4月に発足するこども家庭庁の下、全ての妊産婦や子育て世帯に対して、寄り添いながら相談に応じることのできる体制を全ての地域で構築しながら、特に低年齢児を育てる世帯への経済的な支援の充実を図るべきである。また、出産育児一時金については、大幅な増額及び見える化が必要であり、それにより、子育て世帯が真にメリットを感じることができるようにすべきである。
更に、仕事と子育ての両立支援も少子化対策にとって喫緊の課題である。労働力人口が減少するわが国においては、仕事か子育てかのどちらかしか選択できない状況に陥ることのないよう、制度面においても対応が必要である。このため、希望する方が時短勤務を選択しやすくするための給付の創設や、雇用のセーフティネットや育児休業給付の対象外となっている短時間労働者への支援、その他の育児休業給付の対象外となっている者への育児期間中の給付の創設などの施策を早急に具体化させるべきである。
こうした支援策の具体化により、大幅に子育て支援施策を充実させることとあわせて、国民各層の理解を得ながら、安定財源について、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進めなければならない。安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討すべきである。
主に0~2歳児に焦点を当てた切れ目のない包括的支援を早期に構築した後に、児童手当の拡充などについて恒久的な財源とあわせて検討を行うべきである。
また、希望する全ての若者が安心して結婚・出産・子育てという選択に踏み出すためには、経済的支援だけでなく、個々人が将来の展望を持てる安定した雇用を確保することが不可欠である。こうした観点から、まずは、継続的な賃上げ、可処分所得の増加、消費の向上という好循環の実現が重要であり、更に、少子化や婚姻数の減少の根本的要因ともいえる正規・非正規の格差の是正をはじめ、雇用の在り方の見直しに取り組んでいくべきである。あわせて、医療的ケア児を含む障害児に対する支援に積極的に取り組むべきである。
(2)医療
わが国の世界に冠たる国民皆保険を今後も堅持していくべきである。その中で、医療費の増加に伴い、これまでも国民全体で負担すべき費用が年々上昇している。高齢者にも保険料を通じてご負担を頂いてきたところであるが、同時に現役世代が支払う高齢者を支えるための支援金もそれ以上に上昇してきた。さらに、団塊の世代が後期高齢者となることから、今後3年間、わが国の後期高齢者の人口の急増が見込まれている。これに伴い、医療保険においては、急増する高齢者の医療費を支えられるよう、中間層にも配慮しつつ、高齢者か現役世代かを問わず、負担能力に応じて、全ての世代で支えあう仕組みの構築が急務である。
こうした観点から、出産育児一時金の増額とともに、それを医療保険の加入者全体で支え合う仕組みの導入に取り組む必要がある。
また、制度導入以降、現役世代の負担が大きく増加している後期高齢者医療制度への支援金の仕組みを、後期高齢者の保険料と現役世代1人当たりの支援金の伸び率が同じになるよう見直し、現役世代の保険料負担上昇を抑制する。併せて、後期高齢者の保険料負担を見直し、賦課限度額や所得に係る保険料率の引き上げを行うべきである。
健康保険組合については、保険料率に幅がある状況である。被用者保険者間の格差是正の観点から、健康保険組合間の保険料負担を公平にするため、現在、加入者数に応じた調整を一律に実施している前期高齢者の医療費負担について、加入者数に応じた調整に加え、報酬水準に応じた調整の導入に取り組む必要がある。ただし、報酬調整の導入は、あくまでも部分的なものとし、その範囲については、1/3程度に止めるべきである。今回の報酬調整の導入により、協会けんぽは一時的に負担増となっているが、構造的には負担減につながるものと考えられる。
高齢者医療制度の見直しに伴い、後期高齢者の保険料については、激変緩和の観点から配慮が必要と考えられる。具体的には、
- 出産育児一時金を全世代で支え合う仕組みについては、令和6年度、7年度においては、出産育児一時金総額の半分について、支え合う仕組みとし、令和8年度から全額を対象とする。
- 後期高齢者の賦課限度額の引上げ(対象者1%程度)にあたっては、令和6年度に73万円、令和7年度に80万円と段階的に引き上げる。
- 後期高齢者の所得割の引上げにあたっては、収入上位約3割となる年収211万円までの方々について、令和6年度は制度改革の影響による引上げが生じないように、経過措置を実施すべきである。
また、後期高齢者の保険料負担割合の見直しと前期高齢者納付金の報酬調整の導入にあたっては、報酬水準の低い健康保険組合は負担軽減となるが、さらに、公費負担減を、企業が賃上げ努力を行った企業のことにより納付金が増加する健康保険組合や高齢者医療の支援負担が重い健康保険組合などへの支援に充てて、現役世代、特に健康保険組合が全体として負担軽減となるような見直しとすべきである。あわせて、保険者機能が発揮される取り組みも検討するとともに、医療費適正化や健康寿命延伸に向けて取り組むべきである。
今後、更なる高齢者の増加と生産年齢人口の急減が見込まれる中で、地域によって大きく異なる人口構造の変化に対応し、地域包括ケアの中で、地域のそれぞれの医療機関が地域の実情に応じ、その機能に応じたや専門性に応じて連携しつつ、かかりつけ医機能を発揮することで、国民が必要とする医療を受けることができるよう、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う必要がある。その際、かかりつけ医機能を有する医療機関を選択することはあくまでも患者の選択であり、義務ではないこと、さらに、わが国医療のフリーアクセスを守り、必要なときに迅速には必要な医療を受けられる原則は変わらないことを前提とすべきである。また、まずは高齢化に医療現場のエビデンスを踏まえて対応することを主眼に置くが、こどもや中高年について、かかりつけ医機能の向上に向けて医師の能力をより高めていくことも引き続き議論が必要である。
なお、新型コロナ感染症が拡大した当初における医療機関の発熱患者への対応をもって、かかりつけ医機能の制度整備が必要とする趣旨の指摘が政府作成資料で見受けられるが、感染症有事においては今般成立した改正感染症法に基づき予め都道府県との間で協定を締結した医療機関がその内容に沿って対応することとなっており、平時におけるかかりつけ医の問題は全く別の問題であることを政府においては認識すべきである。
これらの他こうした議論を反映して、全世代型社会保障構築会議の議論をまとめ、それらに基づいて、引き続き法案提出に向けて取り組んでいくべきである。
(3)介護
介護保険制度は、過去20年あまりで費用が約4倍に拡大している。今後、2025年には団塊の世代が全員75歳以上となり、更に要介護者が約半数を占める85歳以上人口の急増も見込まれる。こうした中で、令和6年度からの次期計画期間においても、持続可能な運営が実現するように、来年の骨太方針2023に向けて議論を進めるべきである。
また、更なる高齢化に合わせて、サービス提供体制の充実も求められる。高齢者ができる限り住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、地域包括ケアシステムの深化・推進を図ることが必要であり、とりわけ、中重度の要介護者になっても住み慣れた地域で単身・独居や高齢者のみの世帯の増加、介護ニーズが急増する都市部の状況等を踏まえ、それぞれの地域社会の実情にあわせた柔軟なサービスの提供が求められる。その中で、中重度の要介護者を含め在宅でも必要な介護サービスを利用しながら生活し続けられるようにすることが重要であり、複合的な在宅サービス等の普及や医療・介護の連携の推進を一層図るべきである。
今後さらに増加する認知症の方やその家族を含めた包括的な支援を図るため、相談支援や関係者との連絡調整を担う地域包括支援センターの体制整備が必要である。
さらに、今後、生産年齢人口の急減が見込まれる中で、将来にわたって安定的な介護サービスの提供体制を確保するため、介護現場の生産性の向上を推進するとともに、介護職員の働く環境改善に総合的に取り組むべきである。
(4)その他
その他の課題についても、全世代型社会保障構築会議の議論と並行して、本特命委員会においても議論を進めていく。
4.おわりに
新型コロナの中でも、高齢化は一段と進み、少子化は更に危機的状況となっている。これは国家にとっての「静かな有事」であり、国の安全保障と並んで政権として最優先で取り組むべき課題である。本特命委員会は、引き続き、この長年の課題に答えを出し、将来に希望と安心を与えるべく、議論の先頭に立っていく。
(以上)