03.医療・介護

2020年2月16日 (日)

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」について(その2)

 前回のブログでクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号について記しました。その後2月10日に、加藤勝信厚生労働大臣より横浜に駐在して本件の現地責任者を務めるよう、自見はな子厚生労働大臣政務官とともに命じられました。その後は、打ち合わせのために一度本省に戻った以外は、大黒ふ頭にいます。百聞は一見に如かずといいますが、やはり公表資料や報道だけではわからない状況が多々ありました。改めて現時点(2月16日夕方)の状況を整理します。数字等は公表資料に基づき記しますが、コメントなどはあくまでも私見を記すものであり、政府ないし厚生労働省の見解ではありません。また新たな事態の発生により、変化し得るものです。ご留意ください。

【検査結果などについて】

 ダイヤモンド・プリンセス号は、乗客2,666名および乗員1,045名、合計3,711名が乗船して2月3日に横浜港に到着、臨船検疫を続けています。発熱や呼吸器症状のある方や高齢者からPCR検査を行っています。16日0時現在で、のべ1,219名のPCR検査結果が判明しており、陽性が355名、陰性が864名です。潜伏期間があるため、いつ感染したかはわかりませんが、これは相当に高い感染率と言わざるを得ません。陽性が判明した方は医療機関に搬送し入院していただいています。なおこの結果は乗員・乗客ともに含みます。また入院した方の中には、重症の方もおられます。

 ひとつの課題は乗員の方々です。アルコール消毒薬を配布し、専門家の方に手指消毒の仕方を指導していただき、マスクや手袋着用をしていただいています。当然、発熱したりPCR検査陽性が判明した場合は、休業したり入院したりしていますが、そのためにサービスに支障が出はじめています。代替可能な業務については、自衛隊にご協力をいただいています。

 また、乗客にはご高齢の方が多いため、もともとの持病(基礎疾患)や、部屋での生活による影響があり、新型コロナウイルスによる感染症ではない症状で救急搬送になる方も日々発生しています。調査によると、乗客の最年長の方は90歳代で、70歳代の方が約1,000人、60歳代の方が約900人を数えており、とても高齢化した町ひとつを預かっている状況に近いです。

 ただ幸いなことに、新規の発熱患者の数は日々減少してきており、各種防疫対策が着実に効果をあげているかもしれません。

【検疫の終了について】

 さて、2月5日から検疫による14日間の健康管理機関が開始しており、2月19日朝にこの期間が終了することとなります。昨15日夕方に加藤厚労相が基本方針を発表しましたので、具体的に検疫の終了までのプロセスについてお報せできるようになりました。

 現在、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の皆さまに、順次PCR検査の検体採取を行っています。おそらく今日明日中には乗客全員の採取が終了するものと見積もっています。この結果が陽性の方や陽性の方の同室者を除く方については、健康確認を行い問題のない方について、更なるPCR検査は行わずに、順次下船していただきます。今の計画では、条件が整った方は19日から下船が開始でき、21日まで順次下船いただけるものと予定しています(PCR検査の検体採取および結果判明までそれぞれに時間と人手を要すること等から、どうしても順次の下船となってしまいます)。この方針については、さきほど(16日夕方)、船内放送で私から日本語で、ジェナロ・アルマ船長から英語で、アナウンスいたしました。

 陽性だった方は、結果判明次第順次医療機関に搬送となります。また、本人が陰性であっても同室の方が陽性であった場合は、感染防止対策がとられた時点から14日間の健康観察期間が始まることになります。この方々は引き続き船内で過ごすのか、別の施設に移っていただくのかは、現在検討中です。なお、報道では相変わらず「新たに70人の感染が確認」といった報道となっています。上記の通り検疫終了に向けて全員のPCR検査を行っているため、その結果が日々更新されていくのでそのような報道となるのは理解しますが、個人的には、現在のPCR検査は、もちろん陽性の方について必要な対応は行いつつ、陰性の方を確認することに意味があると思っています。

 また乗員の方々の多くは、乗客へのサーブや船の運航に従事しており、個室管理をしているとは言い難い状況があります。個室に移り業務を控えていただいてから健康観察期間が開始されることとなりますが、そのためには大多数の乗客が下船する必要があるものと考えます。また、乗員の方々の健康観察期間中の食事提供等については、船会社と政府で協議と検討を行う必要があります。

【直面している課題】

 乗員乗客あわせて3,700名の方々が乗船する客船における新発見のウイルス感染症の発生とその検疫という事態は、対処するにはさまざまな困難に直面することになります。たとえば、規模の大きさ、客船特有年齢構成、乗客乗員の存在、指揮命令系統、そして新発見ウイルスであるための情報量の少なさ、感染力の高さ、検疫特有の不自由さといったことが課題です。

 特に規模感は想像を絶しています。これが一桁小さければ(それでも大きな存在ですが)、乗客・乗員全員を、チャーター便の帰国者のように宿泊施設に移してしまうことも可能です。また、もっと迅速にPCR検査の検体採取を行うことも可能だったでしょう。しかし3,700人が一気に今すぐ宿泊可能な政府施設は陸上にはありませんし、かき集めてもその規模にはなりません。正直に言えば、協力を渋る省庁もあるようなことも耳にしたような気も…。国ですらそうなのですから、民間施設の借り上げも、協力を得るのはさらに困難でしょう(その中でご協力いただいた千葉県のホテルには、心から感謝申し上げます)。移動の交通手段の確保も、感染防護も考えねばならず、なかなか難渋します。PCR検査の検体採取も、そのためにチームを多数組んで取り組んでいただいていますが、朝から晩までフル稼働で約500検体/日の採取にとどまっており、それだけで単純に考えて一週間かかります。

 同時に、ご高齢の方が多く、その中で基礎疾患をお持ちの方も少なくありません。すでにクルーズ旅行を楽しんでいただいたあと、さらに二週間の船内滞在となっていますので、体力的には相当お辛いものと思います。実際に救急搬送も相次いでいます。健康確認などにさまざまな医療チームが活動していますが、とても手が足りているとは言えません。地元の人しかわからない例示ですが、倉敷中央病院は1,400床であれだけの規模の施設やスタッフを抱えているのです。高度医療を担う病院と比較するのは不適切だとも思いますが。また検疫で個室管理中なので、すべて往診せざるを得ず、医療アクセスの条件も良くありません。しかしいずれにしても、乗客の皆さまには、検疫のためとはいえ不自由をおかけしているわけです。ご協力に感謝を申し上げるとともに、私たちとしても引き続きできるだけストレスを軽減し、健康を保ち、仮に病変があれば早急に対応できるように努めます。

 その上で、必要な防護を行っているとはいえ(船内における防護の仕方は厚生労働省webサイトに掲載されています)、感染のリスクとは常に隣り合わせです。一般の災害と異なり、目に見えないことは厄介です。しかしその中で、多くの支援活動が勇気をもって行われていただいていることは本当に感謝の一語しかありません。DMAT(災害派遣医療チーム)、JMAT(日本医師会災害医療チーム)、AMAT(全日本病院医療支援班)、DPAT(災害精神医療チーム)、環境感染学会DICT(災害感染制御チーム)、日本赤十字社、自衛隊などが毎日稼働しています。国土交通省や神奈川県、横浜市の方々もお力をいただいています。もちろん厚生労働省および横浜検疫所も活動しています。

 困難に直面する中にも関わらず、ジェナロ・アルマ船長をはじめダイヤモンド・プリンセス号の乗員の方々が、責任感と乗客へのホスピタリティを維持し続けていることは、本当に頭が下がる思いです。できるだけ早く、乗員の方々の検疫が行える状況を作ることが、次の私たちのミッションだと思っています。今回は新型コロナウイルスによる感染症の発生という不幸な状況で私もこの船に関わることになりましたが、もし将来クルーズ旅行に出る機会があれば、この船長とクルーの皆さんと、この美しい船で楽しめるといいなと個人的には思っています。貯金が必要ですが。

 引き続き、国内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を食い止めつつ、船内の乗員・乗客の方々が安心して下船していただけられるよう、自見大臣政務官および現地厚生労働省スタッフとともに、全力を尽くします。

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2020年2月 9日 (日)

クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」について

 現在横浜港にいるクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号について、累次にわたり新型コロナウイルスによる感染者の発表が行われています。メディアの報道も相次いでおり、船内の様子断片的に伝わっています。ここで、現時点(2月8日晩)の状況を整理しておきます。数字等は公表資料に基づき記しますが、コメントなどはあくまでも私見を記すものであり、政府ないし厚生労働省の見解ではありません。ご留意ください。

【ダイヤモンドプリンセス号概要】

 2月3日横浜港に到着したダイヤモンドプリンセス号には、乗客2,666名および乗員1,045名、合計3,711名が乗船していました。ところが、香港において発症した患者1名がその前にこのクルーズ船に乗っていたという通知が香港からあったため、横浜港において再度臨船検疫を受けることとなり(その前の寄港地那覇において一度検疫を受けていました)、現在でも検疫官が乗船して臨船検疫中という状態です。この間は、検疫所長の許可がなければ乗員・乗客ともに上陸することはできません。

【検査結果について】

 一般の検疫は、空港で行われているような体温の計測や症状の有無の確認など簡易なものです。ダイヤモンドプリンセス号では、横浜港入港後2月3日から臨船検疫を開始しました。同時に、発熱等の症状のある方、その濃厚接触者、香港で下船して感染が確認された方の濃厚接触者に対してPCR検査を実施することとし、検体採取を行い、検疫所などの施設でPCR検査を行いました。現時点で乗客279名の結果が公表されており、64名が陽性となっています。

 PCR検査には時間がかかり、また一度に検査できる量にも限界があるため、5日朝~8日にかけて結果判明次第順次公表し、該当者を医療機関に搬送することとなりましたが、これらは3日~4日にかけて採取した検体の結果が逐次公表されているだけですので、この結果をもって日々感染が拡大していると捉えるべきではありません。また、この数字だけ見ると感染率22.9%となりますが、あくまでも感染リスクが高いと考えられる上記条件の方のみを検査した結果ですので、3,711人全体が同様の割合で感染していると考えることも、誤りです。もっとも、それにしても多い数字であることに違いはありません。

 なお、乗客は比較的高齢の方が多く、新型コロナウイルス感染症とはおそらく関係なく脳梗塞や心不全等の患者も発生しています。この方々は随時上陸させて救急搬送しています。なおその方々にもPCR検査を行っており、上記の結果の中に含まれています。

【船内について】

 2月3日から検疫官が乗船して検疫にあたりましたが、その最初の結果(31名中10名陽性)が翌日判明しました。船内には新型コロナウイルスの感染がそれなりに拡大していることが明らかになったため、翌日に最初の10名を下船させた際に、厚生労働省の職員(医師)を乗船させ、船長のご協力をいただいて、船内の感染防止環境を整えさせました。なおこの職員は、本省から交代を打診しましたが、感染のリスクがあるから自分がここに居続けるとして船内に留まっています。ありがたいことです。

 感染防止策として具体的には、乗客・乗員に対して極力個室で滞在すること、アルコール消毒や手洗い等を徹底すること、健康維持のためにデッキでの散歩は推奨するが、マスクをつけること等の注意事項を伝え、守っていただいています。なお2月4日まで船内でイベントなどが行われていたようですが、5日以降は中止しています。また同時に、wi-fi環境を整えて過ごしやすくすることなども行っています。

 なお、高齢の乗客が多く乗船が長期化したため、手持ちのご持病の医薬品がなくなる方がおられます。必要な医薬品を記入いただき調達して船内にお届けしていますが、普通の病院をはるかに上回る規模であることもあり、必ずしもスムーズに届けられていない状況もあります。ITの活用などにより改善することを検討しています。

【今後について】

 検疫済みとするためには、新型コロナウイルス感染症の感染者が船内にいない状態になる必要があります。このウイルスの潜伏期間は現在議論中ですが、同じコロナウイルスであるSARSの潜伏期間から長く見ても14日であろうと考えています。したがって、発病しないで14日過ぎれば新型コロナウイルス感染症に感染していないという証明となります。また、WHOは12.5日という数字も示していますので、その後にPCR検査のダブルチェックを行って陰性であれば感染していないとみなすこともできます(これは、チャーター便帰国者で現在宿舎にて過ごしていただいている方々も同様です)。

 ただ、PCR検査のキャパシティや検体採取の手間上、12.5日経過したところで一度に約3,700人全員の検査をして上陸させるということは容易なことではなく、フル回転で行ったとしてもその作業だけでおそらく数日を要します。現在PCR検査を各検疫所や国立感染症研究所・地方衛生研究所等以外でも民間研究機関や大学病院などで行っていただけるように準備もしていますが、可能となるまであと1週間はかかるようです。そうしたことを考慮しつつ、潜伏期間終了後どのように上陸していただくかは、引き続き検討中です。

 なお、今後も船内で発熱したり他の病気を発症したりする方が出た場合は、船内で医師の診察等の対応を行い、随時必要に応じてPCR検査を行ったり病院に搬送したりすることとなります。また既に感染が判明した方の濃厚接触者(同室の方です。本来は感染防止のため全員個室滞在にすべきですが、船内のためどうしようもありません)についても検査を行います。その結果などは都度公表します。なお、仮に今後発熱等を訴える方が新たに発生し、PCR検査を行って陽性だったとしても、感染防止対策がとられた2月5日以前に感染したものと考えてよいものと思います(ただし上記濃厚接触者を除く)。潜伏期間がありますから。

【所感】

 まだ現在進行形のオペレーションであり、反省したり感想を述べたりするタイミングではないとは思います。厚生労働省対策本部としては、全力を挙げて取り組んでいます。ただ、やはりSARSや新型インフルエンザ、エボラ出血熱等の経験はあったとはいえ、正直ひとつの町規模の大型クルーズ船での新しい感染症の発生という事態は日本では全く未経験であり、手探りで日々加藤勝信厚労相がひとつひとつ決断しつつ業務を進める状況となっています(チャーター便の帰国も同様でしたが)。たとえば検疫所で行うべきPCR検査のキャパシティひとつとっても、今後はその規模までを想定しなければならないものと思います。

 ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗員の方々が船内に留まる不自由に耐えていただいていることで、国内に新型コロナウイルスが上陸拡大することを防いでいただいています。そのことを念頭におきながら、乗客・乗員の方々もさらなる感染拡大は防止しつつ、潜伏期間を船内とはいえできるだけ不自由のないよう過ごしていただき、終了後はすみやかに日常生活に戻っていただくまでがミッションだと思っています。引き続き全力で取り組みます。

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2020年2月 7日 (金)

新型コロナウイルス感染症の現状と見通しについて(2/6晩現在)

 新型コロナウイルスによる感染症について、連日報道が相次いでいます。当初は未知の感染症で詳細は不明でしたが、1月15日に日本で最初の症例が確定してから3週間が経過し、武漢市からのチャーター便3便により帰国された方々や、横浜港にいるクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の方々など、日々さまざまな事態が積み重なっており、その数字を見ることができるようになってきました。

 日々、厚生労働副大臣および厚生労働省対策本部の本部長代理として関連業務にあたっていますが、ちょっとこの辺りで、個人的な振り返りを兼ねて、現状を整理してみたいと思います。なお基本的に数字などは公表資料によりますが、コメントなどはあくまでも私見として記すものであり、政府ないし厚生労働省としての見解ではありません。ご留意ください。

【国内における感染者の由来】

 2月6日の時点で、日本国内では45名の感染者の方が確認されています。うち、湖北省滞在歴のある方は21名おられます(チャーター便帰国者も含みます)。この方々は湖北省で感染後、日本で発症された輸入症例と考えられます。また20名は、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」船内における検疫およびPCR検査により確認された方々で、船内での感染と考えられるため、この方々も輸入症例と考えられます。

 残り4名の方々は、武漢市からのツアー客を乗せたバスの運転手さん(6例目)、その運転手さんと同行したバスガイドさん2名(8例目、13例目)、勤務先で中国からの観光客(300人/日程度)に接客する方(21例目)の4名であり、国内で感染したと思われますがいずれも中国から来られた方々との接点を持っておられます。

 したがって現時点では、日本国内で新型コロナウイルスによる感染症の感染は限定的であり、不特定多数に感染が拡大しているような状況には至っていないものと考えています。

【感染者数の今後の見通し】

 おそらく2月7日以降、いくつかの要因により感染者数は大きく増加します。理由は、(1)「ダイヤモンドプリンセス」号の有症状者等に関する検査が、現在102名終了しています(うち陽性20名)が、まだ171名残っており、明日以降その結果が順次確定します。仮に同じ割合で陽性の方が含まれるとすると、あと30名は増加するかもしれません。(2)チャーター便の4便目が明日朝武漢から戻ります。これまでも1便あたり数例ずつ陽性の方が含まれていましたので、もう数例確認されるかもしれません。

 ただ、以上は国内での感染ではありません(「ダイヤモンドプリンセス」船内も厳密には国内ですが、一般の方々とは隔絶されています)ので、これらの理由による感染者増をもって国内での感染拡大を恐れる必要はありません。

 国内で、湖北省とは全く滞在歴もなくそうした方と会うこともない感染者が確認され、その数が増加し始めると、国内での感染拡大が次のステップに移ったと考えるべきですが、まだそのような状況ではありません。

【感染した方々の状況】

 まず、PCR検査で陽性となったものの無症状の方々が4名います(当初5名でしたが、1名が発熱・咽頭痛を発症しました)。この方々も入院はしていますが、症状はなく元気でおられます。ちなみに、一般的には無症状の方にPCR検査を行うことはありませんが、チャーター便で帰国された方々は特別に全員に検査を行ったため確認された例です。おそらく世界でもあまり報告されていないものと思います。

 残り41名も全員入院しましたが、全快して退院された方が4名おられます。幸いにして、亡くなった方はおられません。

 こちらに、実際に国立国際医療研究センターで新型コロナウイルスによる感染症の患者の治療にあたられた大曲医師による所感の記事がありますので、ご参考にしてください。

 なおこちらのサイト(中国語ですがわかりやすい)によると、7日0時時点にて世界中で565名が亡くなっています。しかし分布をみると、中国の湖北省が549人とほぼ大半を占め、あと河南省、重慶市、四川省、北京市、上海市、黒竜江省、河北省、海南市、天津市、貴州省、香港、フィリピンで1~3名ずつという分布となっています。また致死率でみても、湖北省で2.8%ですが、湖北省を除く中国全土では0.2%と一桁違っており、同じウイルスでこれだけの偏りがあるのは湖北省のみ何か特殊な事情(例えば病院がパンクしており機能してないなど)があるのではないかと考えざるを得ません。

 パンデミックとは、世界的にある感染症が蔓延する状態を指しますが、現時点でそのような状況ではありません。

【国内の今後について】

 現時点では、検疫などによるスクリーニングがそれなりに功を奏しているものと考えています。しかし、潜伏期間がある以上、ウイルスの侵入を減らすことはできても、ゼロにすることは不可能です(可能性をゼロにしたければ鎖国するしかありませんが、現実的ではありません)。ただ、ウイルスの侵入機会を減らせば、それだけ国内での感染の拡大を遅らせる効果はあるものと考えます。

 そして、感染拡大を遅らせ、時間を稼いでいるうちに、相談窓口や治療にあたる医療機関の準備を行い、実際に拡大が始まったら治療が必要な患者を的確に治療につなげられる体制を整えます。一時、武漢市の映像として、病院に大勢の患者が並んで待っていたりする様子がテレビで見られましたが、こうなってしまうと真に治療が必要な重篤な方に手が回らず本来救えたはずの方も救えなくなる結果になります。爆発的な感染拡大をさせず、感染拡大を緩やかにすることで、医療機関などの準備を整えることが可能となります。検疫による水際作戦の意味は、そこにあります。具体的には、全国各地域の保健所および医療機関において「帰国者・接触者相談センター」および「帰国者・接触者相談外来」を近日中に設ける準備を行っています。

 なお仮に蔓延するような状態となれば、風邪程度の症状であれば、自宅で安静と経過観察とすることになるでしょう。7種類のコロナウイルスのうちSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、および今回の新型コロナウイルスを除く4種類のコロナウイルスによる感染症は、実際には風邪に含まれてしまいます。

 感染に対する最終防御ラインである一人ひとりの免疫力を高めることや、感染機会を減らすことも重要です。ちゃんとバランスのとれた食事をし、睡眠時間を確保し、生活リズムを保つこと(深夜までブログを書いたりしてはいけない)と、石鹸やアルコール消毒液による手洗いなどを行うことが効果的です。高齢者の方や、基礎疾患がある方は、人ごみを避けるなど、一層の留意が必要です。

 また、自分が周囲の人の感染源となることを防ぐため、咳やくしゃみをする際の咳エチケット(マスクを使う、ハンカチなどで口元を覆う、(手のひらではなく)腕やひじで口元を覆う)も気にしていただけるとよいと思います。

 「敵を知り己を知らば百戦危うからず」といいます。これは感染症との戦いにおいても通じる格言です。正しく対応するようにしましょう。もちろん私も、新型コロナウイルスによる感染症の拡大を防ぐため、職務に全力であたります。

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2017年12月31日 (日)

平成29年末のごあいさつ

平成29年(2017年)も暮れようとしています。今年も多くの皆さまとのご縁に恵まれ、健やかに終えることができます。心から感謝申し上げます。

後半の厚生労働部会長としての活動の中で思ったことを少し記します(今年の前半は、「厚生労働副大臣退任にあたり」に記したことと重複しますので割愛します)。

臨時国会で「働き方改革」の法案を仕上げるのが今年後半最大の仕事、と思っていました。しかし、突然の解散総選挙によって来年度通常国会に先送りになってしまいました。政治ですから、そういうこともあります。これは来年の大きな宿題です。

ただ、総選挙時の公約により、消費税税率引上げ増収分の使途変更を行うことになりました。もちろん「人づくり革命」、すなわち幼児保育・教育の無償化や待機児童解消の前倒し、高等教育の無償化等々の必要性は理解しますし、選挙の公約ですから実現はしなければなりません。一方で、財政再建のため2020年にプライマリーバランスの黒字化をする目標は先送りになりました。ということは、将来世代へのツケ回しは今なお続いているということです。消費税増収分の使途変更は、国債発行削減をより少なくする、ということは国債発行の増発に繋がるわけですから、すなわち「未来の世代の負担をより増やす選択」でしかありません。

「高齢者偏重の社会保障を全世代型に変える」という言い方もされます。実は税・社会保障の一体改革の際の、社会保障制度改革国民会議報告書の中で、子ども・子育て新制度を社会保障の一環として消費税財源の使途に位置付ける際に、既に「全世代型の社会保障」という表現を使っていますので、何をいまさら言うのかという思いもあります。ただ、話はそれだけではなくて、これまでは「高齢者に偏った社会保障を、未来の世代の負担で実現してきた」という状態だったものが「高齢者から子育て世代まで全世代の社会保障が、未来の世代により多い負担を科すことで実現される」ということに変わっただけということを指摘せざるを得ません。まあ、教育は投資ですから、未来世代に負担をかけてもそれを上回って余りある教育効果を挙げるような結果に繋がればよいのですから、ご関係の皆さまには、そうしていただけることを切に期待しています。

ただこうした政策決定が、急な解散総選挙のため必ずしも十分な議論なく自民党の公約として掲げられたことは、個人的には実に遺憾なことだと思っています。だから、自民党の人生100年本部での第一回会合冒頭において、抗議を行いました。そしてこの話は、来年のおそらく骨太の方針とともに決定されるであろう、新たな財政再建目標再設定の議論に持ち越されます。厚生労働部会長としての立場上、今の社会保障の水準を下げるような議論にあまり与したくもありませんが、後世の負担について目を瞑るわけにもいかず、おそらく辛い議論を余儀なくされることでしょう。それでもやり抜かなければなりません。そうした勉強や議論をする場を党内どこかに設けられるといいなと思っています。


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なお、今記したような内容は書籍「シルバー民主主義の政治経済学 世代間対立克服への戦略」(島澤諭、日本経済新聞出版社)に触発されたものです。この書籍は財政論を含む社会保障制度の近年の在り方と、10月の総選挙までを含む政治・政策プロセスの変遷とを重ねあわせて論じており、客観的かつ簡潔明瞭に現状の日本が抱えている課題が記されています。ぜひ特に若手の政治家には読んでいただきたいと思い、自民党青年局役員・顧問の先生方には勝手に配らせていただきました(ちなみに僕の自腹で書籍代は支出しています。政治資金ではありません。為念)。ご興味の方は、ぜひご覧いただければ幸いです。こうした議論を積み重ね、課題を乗り越えていくことが、これから私たち自民党がなすべきことです。

とりあえず来年予算編成においては、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定を、まあ多くの方々がほっとして頂けるくらいの改定率で乗り切れたものと考えています。また障害報酬サービス報酬改定の食事提供体制加算について、自民党厚生労働部会として継続の申し入れを行い、今回は継続となりました。生活保護水準については、低所得者との比較による改定がありご批判もありますが、生活保護制度が憲法上に記される「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するためのものであり、たとえば「余裕のある生活」の権利保障をするものでない以上、生活保護を受給されていない方々の生活と比較して水準を設定することはやむをえないものと考えます。その上で、子どもの大学進学の支援や、生活困窮者自立支援等をさらに進めていきます。

来年の通常国会では、働き方改革の法案審議や受動喫煙対策、医師不足対策等の重要法案が目白押しです。そうしたものにも全力を尽くして取り組んでまいります。

今年は倉敷市が三市合併50周年を迎え、昨年12月に町制施行120周年を迎えた早島町ともども、節目の年を迎えました。「一本の綿花から始まる倉敷物語~和と洋が織りなす繊維のまち~」の日本遺産への登録や、水島港における倉敷みなと大橋の竣工など、多くの方々のお力のおかげで地元倉敷・早島が発展していることはとても嬉しく、多少お役に立てていればありがたいことだと思っています。一方で、障害者就労支援事業所の廃業により多数の方が解雇される不測の事態もあり、障害者福祉と雇用安定行政の連携による対応などにも力を注ぐことになりました。

今年は突然の解散総選挙があり、秋のお祭りや稲の収穫とも重なり、多くの皆さまにご迷惑をおかけすることになりました。しかしながら、地道に「人づくり革命」や「生産性革命」の必要性について訴え、同時に上記のことについても議論をしますとお話をし、93,172票の得票をいただき、4回目の当選を選挙区で果たさせていただきました。選挙を経ることで、多くの皆さまに支えていただいて仕事ができるんだということを再確認できます。心からの感謝を申し上げますとともに、来年もその思いを持って引き続きご期待にお応えできるよう全力を尽くします。

個人的には正月に人生初の入院をするようなこともありましたが、どうにか健康で過ごすことができました。多くの方々との出会いとサポートに恵まれたことに感謝を申し上げるとともに、自らの力不足のために多くの方々を失望させてしまったかもしれず、お詫びしなければならないとも思います。ただそう簡単にものを忘れることもできません。すべてを背負いながら前を向いて進むのみです。

重ねて、ご覧の皆さまに対し、今年一年のご厚誼への感謝と、来年のさらなるご発展をお祈り申し上げます。どうぞよい年をお迎えくださいませ。


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2017年8月 7日 (月)

厚生労働副大臣退任にあたり

 昨年8月5日、第三次安倍内閣第二次改造内閣において、厚生労働副大臣に任命されました。それから約一年が経過し、3日には内閣改造が行われ、塩崎恭久大臣から加藤勝信大臣に交代となりました。副大臣および大臣政務官については、7日午前の閣議において後任が決定し、僕は退任となりました。なんとか無事に務め終えることができ、いささかホッとしています。ここで、厚生労働副大臣の一年を振り返ってみます。なお、肩書は全て当時のものです。

(過去の「振り返り」シリーズはこちら;
厚生労働大臣政務官退任にあたり
外交部会長を振り返って

◆そもそも副大臣って?
 
 個々の政策に入る前に、副大臣という役職について触れておきます。中央省庁には、大臣、副大臣、大臣政務官という役職(「政務三役」と総称されます)が置かれ、基本的には国会議員が就任します(民間登用の場合もあります)。これは、議会制民主主義制下において、行政に対して政治がコントロールを効かせることが目的です。

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 政務三役のうち、当然、大臣が最終責任者です。その下で、副大臣、大臣政務官が政策分野を分担して補佐するという形になります。ちなみに、僕の厚生労働副大臣としての担務は「労働雇用、福祉援護、年金」でした。(そして古屋範子副大臣は「医療介護、健康衛生、子供子育て支援」でした)。国会答弁や省内での決裁などは、原則的にはこの担務に沿って分担して行うことになります。

 一方、副大臣は大臣と同様に認証官(皇居で認証式が行われる)ですが、大臣政務官は内閣総理大臣に任命されるのみです。ですので対外的には副大臣は大臣並びの扱いとなる場合があります。例えば、式典等に大臣が出席できずに代理する場合は、副大臣は副大臣として挨拶しますが、大臣政務官は大臣挨拶を代理読み上げという恰好になります。企業組織でいうと、大臣をラインの部長にたとえると、副大臣が担当部長、大臣政務官は部長補佐、みたいな感じでしょうか。

 とはいえ、大臣が最高責任者には違いがありません。厚生労働省はカバーする行政分野が広範にわたるため大臣の負担が大きく、国会での質疑も大臣に集中しすぎる傾向もあります。ボスとしてお仕えした塩崎恭久大臣はとても勉強熱心で、かなり細かい点まで自分で詰めて対応しておられ、横で見ていて僕も大変勉強になりました。ただ「大臣しか答弁を認めない」という議員の方が野党におられますが、正直、あまり建設的な意図があるようには思えません。一方で細かい技術的な質疑は政府参考人(局長など)に振った方が詳しい答弁が出来たりするのも現実なので、副大臣や大臣政務官がどう国会答弁において役割分担するかは、結局ケースバイケースになっているような気もします。

 ただ、僕に答弁をあてていただいたときは、役所が書いてきた答弁案をそのまま読み上げるのではなく、できるだけ自分の言葉で答弁するようには努めました。事前レクの段階で答弁案を差し戻して変更させたり、赤入れして直したりもしました。せっかく答弁させていただくのですから、自分なりの付加価値をつけなければ意味はありません。集計によると280回の答弁機会があったようです。たぶん副大臣としては答弁は多い方だったのではないでしょうか。

◆歴史的な「働き方改革」

 今回の内閣では、「働き方改革」が最大のチャレンジと位置付けられていました。その前の内閣で「一億総活躍プラン」をまとめ、その中で長時間労働の是正や正規社員・非正規社員の待遇差を是正するための同一労働同一賃金の実現が課題とされたことを受けたものです。安倍総理を議長とする「働き方改革実行会議」では、内閣官房が事務局を務めましたが、厚生労働省も兼務等で実務を担当していました。また働き方改革実行会議には、オブザーバとして参加して、議論の流れをほぼ毎回伺うことができました。

 今回の最大の成果は、労働基準法70年、前身の工場法から100年の歴史の中で、はじめて長時間残業に対して罰則付きの規定を法律に設けることに、政労使が一致したことだと考えます。もちろん、上限が長すぎる等の批判があることは承知していますが、それでも、事実上青天井に近い現状に比べればずっと大きな進歩です。これまで労働政策審議会で議論しつつもずっと合意が出来ずにいたものが、電通過労死自殺事件などによる世論の後押しも受けつつ、安倍総理が会議の議長としてコンセンサスを求め、「もしコンセンサス(全会一致)にならければ法案は提出しない」とまで言明して背水の陣を敷いたことが決め手になりました。この総理のリーダーシップ発揮の瞬間を現場で目撃することができたことは、政治家冥利に尽きる出来事でした。

 また、同一労働同一賃金、病気治療と仕事の両立や、女性活躍、テレワーク推進などさまざまな重要な課題について、働き方改革実行計画において方向性が示されました。正直、自民党政権において、ここまで労働政策が脚光を浴びるタイミングはあまり多くないように思いますが、そのタイミングで担当者として在職できたことは、恵まれたことだったと思います。

 なお一般的に、いくつかの業種を除き、中小企業・零細事業者も、働き方改革の各種規制等の適用対象となります。しかし各業種における取引慣行等も含め、大企業のツケがそうした企業に押しつけられるのではないかといった懸念が自民党内からありました。それを受け、厚生労働省と中小企業庁が共同で「中小企業・小規模事業者の働き方改革・人手不足対応に関する検討会」を設けて検討を進めることとなりました。今後、都道府県レベルでの取り組みを検討し具体化する方針です。

 また、以前から国会に提出されていた労働基準法改正案に含まれる「高度プロフェッショナル制度」に関し、連合から政府に対して要望をお預かりしましたが、後に撤回されるということがありました。これはいささか残念なことでした。まさに、「働いた時間に単純比例して売り上げや利益が上がる」時代にできた労働基準法(ないしは工場法)の時間給制の概念は、コンサルタントや為替ディーラーといった職種にそのまま当てはめ続けても、必ずしも適切ではない場合があります。例えば、短時間で大きな成果を上げる人よりも、長時間勤務しつつもなかなか成果が上がらない人の方が月給が高くなるのは、誰にとっても不合理です。また、長時間労働を削減する方向に社会が向かおうとしている中で、残業代制度がむしろ労働者にとって残業をするインセンティブとして働いている場合もありうることに対し、労働者側も使用者側も真剣に向き合うべき時期ではないかと、個人的には思います。他方、仮にこの制度を安易に労働者を自己責任で時間無制限に働かせる制度だと使用者側が捉えるようであれば、厳しいチェックも必要だろうとも思います。

 働き方改革に関する法案は現在準備中であり、国会での本格的な審議は秋の次期臨時国会になるものと思われます。日本の将来がかかった課題です。建設的な議論が交わされることを期待します。

◆年金制度改革

 昨年秋の臨時国会では、年金制度改革について議論が集中しました。受給資格期間の短縮と、賃金スライドの徹底の二本柱が主な内容です(その他にもGPIF改革など、さまざまな内容が含まれていますが)。

 年金制度は、平成16年の小泉政権時代の改正により、保険料率の上限設定、基礎年金国庫負担割合の引き上げ、マクロ経済スライドの導入など現行制度の骨格が導入されました。ただその後、リーマンショックや東日本大震災等の想定不能の出来事が発生したため十分に機能しなかったため、そうした点を見直したというのが趣旨です。

(詳細はこちらの記事がわかりやすくまとまっています。
年金制度にまつわる数々の誤解と今後必要な制度改革案(1)
年金制度にまつわる数々の誤解と今後必要な制度改革案(2)ー基礎年金の税財源化・積立方式という幻想 )


 残念ながら一部野党議員が「年金カット法案」という、木を見て森を見ないレッテルを張り議論を呼びましたが、衆参両院の厚生労働委員会等で丁寧に議論を重ね、どうにか成立にこぎつけることができました。審議中は、早朝から登庁して答弁レクを受け、長時間の審議に緊張感を持って対応し、毎日クタクタになりましたが、とても勉強にもなりました。

 また年金の仕組みは長期間にわたるものであり複雑多岐にわたります。粘り強く状態を国民にお知らせし続ける取り組みの必要性も痛感しました。地元などでは「これだけ年金制度は改正ばかり、カットばかりしているのだから、将来は年金制度はなくなるのではないか?」といった質問をしばしば受けます。お返事は「経済情勢等に応じて制度改正および額改定をしているからこそ、将来まで年金制度は持続するのです」となります。ただ、こういう質問をしたくなる気持ちは、おそらく多くの方が共有されていることであり、きちんと受け止めなければなりません。息の長い課題です。

 また質疑において貧困の問題にも議論が及びましたが、これについては生活保護制度および生活困窮者自立支援制度の見直しにおける議論に加え、塩崎大臣のイニシアティブにより新たに「新たな支えあい・分かち合いの仕組みの構築に向けた研究会」を設置し、政策テーマとして議論を続けることとしています。

◆津久井やまゆり園事件と精神保健福祉法改正案審議

 厚生労働副大臣に就任する直前、障害者施設である津久井やまゆり園で入所者など19名が殺害され、26名が傷害を受ける事件が発生しました。その事件の重大さ、痛ましさとともに、現被告が衆議院議長に宛てて書いたとされる手紙の内容が大きな波紋を呼びました。事件の一報に接し、個人的にもショックを受けたことをよく覚えています。

 障害の有無にかかわらず、人の命の重さは同じです。そうであるからこそ福祉行政というものがあるのです。手紙に書いてあった言葉は、そうした理念を真向から否定し、傷つけるものであり、決して容認することはできません。この点については塩崎大臣も僕も、累次にわたり答弁を繰り返しており、些かもぶれるものではありません。ちょっと感情的になってしまった一幕もありましたが…。

 また、その事件の検証において、自傷他害の恐れがあると認められて措置入院となった人に対して、退院後に必要であろう就労や各種相談等の支援に十分に繋げることができていない現状が明らかになりました。このことは、社会的孤立を招き、場合によっては犯罪を含むさまざまな不幸な行動にも繋がり兼ねないものと考えられます。そこで、措置入院退院後の支援計画を自治体が作り、必要な支援につなげるための法改正を行うこととし、その他の課題への対応と合わせて今年の通常国会に精神保健福祉法改正案を提出しました。参議院先議となりましたが、事前説明用資料に不適当な部分があり訂正を行うこととなるなど審議を混乱させてしまい、残念ながら成立させることができず、継続審議となりました。

 この審議においても、相当議論を重ねて対応を行うこととなりました。紆余曲折はありましたが、多岐にわたる質疑をいただいたため、むしろ論点は相当整理されたものと思います。次期臨時国会での成立を期待しています。

 なお、担当した法案には他に外国人技能実習法案、雇用保険法等改正案がありましたが、いずれも順調に質疑をいただいて成立させることができました。また、大臣政務官時代に言い出して取りまとめた「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」が、後に塩崎大臣の下で「我がごと・丸ごと地域共生社会」づくりとして発展され、そのひとつの成果として社会福祉法や介護保険法の改正に繋がったことも、個人的にはうれしいことでした。

◆厚生労働省働き方改革・業務改革加速化チーム

 厚生労働省は、働き方改革の旗振り役ですが、一方でかなり残業が多いという紺屋の白袴状態でもありました。そうした中、大臣特命による若手チーム「厚生労働ジョカツ部」が活動していましたが、その提言を踏まえて働き方改革を推進する「厚生労働省業務改革・働き方改革加速化チーム」が今年一月に設置され、塩崎大臣よりチームリーダーを命じられました。メンバーとともに鋭意議論を重ね、六月に「中間とりまとめ」を公表しました。


 過去の業務改善の過去の取り組みをレビューした上で、ただのコスト・残業削減ではなく、生産性向上を図ることを主眼において具体策を取りまとめました。実際に、厚生労働次官以下幹部に対して生産性向上とは、というお話をするところからすでに取り組んでいます(その時に使用した自作スライドを参考に掲載します)。また、7月28日に環境省や記者クラブの皆さんにもご協力いただいて、中央合同庁舎五号館の一斉消灯を行いました。あくまでも象徴的なイベントにすぎませんが、毎晩煌々と明かりがついているビルが本当に真っ暗になっている姿は、個人的には思い出に残る光景した。もちろん、電気を消すことが目的なわけではなく、職員の皆さんがその時間を豊かに過ごしておられたことを願っているわけですが。

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 ただし、まだまだ絵に描いた餅の部分が多く、具体化はこれからです。引き続き中間とりまとめに基づく取り組みが進み、厚生労働省がより働きやすい職場になるよう願ってやみません。また、しばしば、霞が関の長時間残業は国会対応のためと言われ、たしかにその面は大きいのですが、一方で国会対応は行政の義務であり、安易
にこれを削減するよう国会に求めることは慎重に考えなければならず、少なくともまず行政側で可能な努力を行ってからにしなければならない考えました。そのため中間とりまとめでは、答弁作成等に対して「見える化」の取り組みを試行しましたが、国会や国会議員に対して要望等を行うことは控えています。しかし当然ながら、質問通告は早期にしていただいた方が余計な残業はせずに済みますし、より効率的かつ意味のある答弁を行うことができます。今後、そうした検討も継続し、必要に応じて衆議院・参議院に対して要望を行うような取り組みに発展させてほしいなと願っています。

 なお、この中間とりまとめにあたり樽見英樹官房長、宮川晃総括審議官はじめメンバー各位に多大なご協力をいただきました。また事務局を務めた飯田剛調査官、吉田啓企画調整専門官には、数々のムチャ振りに対してとても精力的に取り組み、ひとつひとつ実現・具体化していただきました。心から感謝申し上げます。

 また厚生労働省ジョカツ部の呼びかけに応じ、僕もイクボス宣言を行いました。またこれを副大臣会議で呼びかけたところ、多くの各省副大臣が応じてくださり、イクボス宣言を行っていただきました。それも含め、「日本総イクボス宣言動画」にまとめられています。かなり手作り感溢れる6分弱の動画です。ぜひご覧ください。ジョカツ部の活動も、新大臣の下でも継続されることを願っています。

◆受動喫煙防止対策

 先の通常国会で、提出予定でありながら提出できなかったのが、受動喫煙対策にかかる健康増進法改正案でした。学校・オフィス・店舗など多くの人が出入りする場について原則屋内禁煙とすること等を厚生労働省の基本的な考え方としていましたが、自民党との調整がつかず最終的には塩崎厚労相と茂木党政調会長の直接会談まで行われましたが、最終的に提出に至りませんでした。もちろん次の臨時国会に向けて厚生労働省としては引き続きトライすることとなります。

 僕も、本来は所管ではありませんでしたが、自民党内との調整に途中から加わることになりました。多くの方のお話を伺う中で感じたことは、受動喫煙防止対策そのものには賛意を示す方はそれなりに多数でありほぼコンセンサスだったと言っても良いのですが、一方で「臭いから嫌い」「がんや心臓疾患等の原因になる」「歩きたばこは子供に危険」「ポイ捨てに繋がる」「喫煙スペースや学校等の敷地外で多くの人が集まって喫煙する姿が見苦しい」等々、規制すべきとする理由が人によって千差万別であり、身近な存在過ぎてこれほど議論が拡散しやすいテーマはないくらいの問題でもあったということです。その点をかみ合わせることができず、議論が収束しなかったように感じています。

 個人的には、現実にタバコの煙により息苦しくなる、喘息等の発作が起きる方の存在をどう考えるかが、最大のポイントだと考えています。その方々は、今の社会で生活するためにタバコの煙がある場所をはじめから避けて生活されているため、問題としてなかなか表面化しません。しかし、ちょっと立ち止まって考えれば、あくまでも個人の嗜好にすぎない喫煙の権利と、不本意な健康上の理由によりタバコの煙が吸えない人の行動や就労の自由の権利を同列に並べて論じることはおかしなことです。喫煙の権利の方が優先されがちな現実こそ正すべきではないでしょうか。また、喫煙者がマナーとして気を付ければよいという意見もありますが、本人のプライバシーとして本来デリケートに扱わなければならない喘息持ちであることを、当事者が言って歩かなければ回りの喫煙者が気づくはずもないわけで、全く現実的ではありません。要は、受動喫煙防止対策は、喘息など内部疾患患者のノーマライゼーションの問題として社会の在り方を考えなければならないということです。

 ある喫煙者の先輩議員が「岳ちゃんさ、夕方仕事が済んで、飲み屋で一杯飲みながらタバコを吸う、ほっと一息する自由を奪うのかい?」と丁寧にお話くださいました。しかしながら、自分の自由にならない健康上の理由によりそんなひと時がはじめから存在しない人もいるし、その人にとってそんな自由は全くの空論にすぎないということに、私たちはもう少し目を向けなけるべきだと思います。また、店先に表示すれば、タバコの煙が吸えない方が店に入ってくることがないからいいというご意見もありますが、例えば車いすの人に対して、段差があることを店先に表示してるのだから店に来るな、と言っているのと同じことだということに、今少し敏感になるべきです。

 東京オリンピックがひとつのきっかけとして今回の議論が始まっていますし、国際的に日本がどのように評価されるかということにも関わっていますが、それにとどまることなく本質的な議論が今後さらに続けられることを願っています。

 なお、今回の経緯上、塩崎恭久大臣を悪者扱いする向きがあります。しかし最終的には折り合いませんでしたが妥協も探っていましたし、決して頑固一辺倒ではありませんでした。同時に、各方面からさまざまに説得をされつつも、ある一線以上は「哲学、理念の問題」として全くブレずに譲らなかったことは、評価が分かれるかもしれませんが、僕は政治家として一つの思いを貫く立派な姿勢だったと感じています。むしろこのような結果となり、補佐役の力不足につきいささか忸怩たる思いでおります。

◆出張・視察など

 副大臣として二度の海外出張をしました。インドネシアのジャカルタで行われた第5回ASEAN+3社会福祉大臣会合では、人生二度目(一度目は会社勤めの時代にAPNICの会合にて)の英語でのプレゼンを行いました。汗をかきかき読み上げたツタナイ英語でしたが、途中で拍手をいただいて、ちゃんと理解していただいているんだと思ってホッとしました。また今年6月には、スイスのジュネーブで行われた第106回ILO(国際労働機構)総会に出席し、日本の気候変動や「働き方改革」等の取り組みについて政府を代表して演説を行いました(ただし日本語で)。政労使の三者構成により熱心に討議されている委員会の様子もしっかり拝見してきました。

 就任早々、岩手県および北海道で豪雨災害があり、岩手県岩泉市でグループホームが水害に遭い入所者が亡くなる事故がありました。弔問および現場状況把握のため、僕も現地に赴きました。しかし厚生労働省も長靴を用意していなかったのは後で反省点となりました。実は現地に住んでいる友人から、長靴を用意すべしというアドバイスはあったのですが、役所側は「不要です」と言い張るのでそのまま行ったらまだ水や泥ががじゃぶじゃぶ道を流れている状況でした。必ずしも役所の言うことが正しいとは限らず、自分で判断することも大事ということを学んだ次第です。なお、今年の福岡県・大分県での災害では、馬場大臣政務官の視察の際にはちゃんと用意されました。

 一般の方や障害者の方の職業訓練や就労支援、施設建設やトンネル建設工事現場、そして福島第一原子力発電所の廃炉作業のにおける労働者の安全衛生の確保、ハローワークや労働局、麻薬取締部など、各地の現場の視察にも足を運びました。さまざまな現場で多くの方がご努力をいただいて、生活する方や働く方の安全衛生など、厚生労働行政が円滑に進んでいることを痛感しました。また、千鳥ヶ淵墓苑にて開催される、戦没者のご遺骨の帰還の式典も何度も主催者として出席させていただき、平和の尊さに思いを深めました。

 BSフジ「プライムニュース」には、年金改革、働き方改革、受動喫煙防止対策、労働力需給のひっ迫といったテーマで出演する機会をたびたび頂戴しました。厚生労働行政の理解に多少なりとも繋がれば幸いです。

◆改めて振り返って

 国会において労働行政はむしろ野党のお家芸で、自民党内では必ずしも日のあたる分野ではなかったように思います(熱心に取り組んでおられる議員はおられます)。しかし「働き方改革」の動きの中で、俄然脚光を浴びる機会に労働行政担当の副大臣を務めることとなったのは、改めて幸運だったと思っています。

 また、大臣政務官時代に医療介護等の分野を担当し、障害者等の社会福祉は二度とも担当していたため、医療・介護・福祉・年金と労働・雇用の問題の連携に最も意を注いだような気がします。厚生省と労働省が合併してそれなりの年月が経っていますが、まだ時折連携が十分でなく「だって、『厚生』『労働』省、なんでしょ?」と注意する場面が幾度もありました。治療や介護・子育てと労働の両立、障害者や難病の方の就労支援などの分野は、まだまだ取り組みが十分とは言えません。おりしも、地元倉敷市にて、障害者就労支援施設が経営悪化のため障害者の方を大量解雇するという出来事が最近発生し、倉敷市の福祉部局と岡山労働局やハローワーク等が連携して対応に追われる事態も先日発生しました。厚生労働省分離の議論も以前はありましたが、個人的には「もっともっとくっつけ」と思います。厚生労働省は、いわばほぼ機能的には「国民生活省」とでも呼ぶべき状態であり、より一体化すべきです。

 また労働人口減少の局面が長引き、好景気もあって人手不足感が強いからこそ、「働き方改革」のチャンスなわけです。一方で、ハローワークをはじめとする職業安定行政は、もちろん景気の波への対応が必要ですからその存在意義は依然として強いものの、しかし失業対策の面も強く、意識転換が迫られているようにも感じます。職業能力開発にういて「ハロートレーニング」という名称も決まりましたし(残念ながらまだあまり普及定着していませんが…)、おりしも次の安倍政権の課題として「人づくり革命」担当大臣がおかれたことに、厚生労働省も向き合うべきだろうと思います。

 なお労働行政は政労使の三者構成が原則のため、連合をはじめとする労働組合の方々と接する様々な機会をいただきましたし、議論もさせていただきました。働く方々を守るという立場において、共感をするところも数多くありました。今後もコミュニケーションを続けさせていただければありがたいことです。

◆謝辞

 厚生労働省業務改革・働き方改革加速化チーム中間とりまとめで記載した通り、他の主要省庁と比較して、厚生労働省は職員一人当たりの答弁数や委員会開会時間等は最長です。また、地方の出先機関においても、様々に重要な役割を果たしていただいています。国民の生活に直結する仕事を日々果たしていただいている厚労省職員の皆さまの働きには日々敬意を表さなければなりませんし、たくさん支えていただいておおむね無事に一年を過ごすことができました。皆さんに心から感謝申し上げますし、これからもそれぞれにご活躍を期待しています。

 塩崎恭久大臣には大臣政務官に続いて二度目のお仕えとなりましたが、深くご信頼をいただきポイントポイントで使っていただきました。必ずしもご期待に応えきれたとは思いませんが、誠にありがたいことです。また、古屋範子副大臣、堀内詔子、馬場成志大臣政務官にも様々ご協力をいただきました。ありがとうございました。

 副大臣在任中、副大臣室の鈴井秘書官、小川主任秘書、藤澤さん、運転手の田中さんには、日々あれこれとお世話をいただき、快適に副大臣生活を過ごすことができました。誠にありがとうございました。特に鈴井秘書官には毎日お昼に付き合ってもらってあれこれ楽しくおしゃべりや愚痴を、、もとい率直に意見交換してもらって、密接に連携できてよかったと思っています。

 そして、こうして厚生労働副大臣としての務めを全うできたのは、何よりも国会に送っていただいている地元倉敷・早島の皆さまのおかげです。在京番などのために地元に帰る機会はどうしても少なくなってしまいましたが、快くお励ましいただきました。深く感謝申し上げます。地域と国政の橋渡し役として努力いたしましたが、これは引き続き努めなければなりません。

 二度にわたり、のべ750日以上厚生労働省に勤めました。おかげで厚生労働行政について相当専門的に勉強することができました。このことは、今後の政治家としての人生にも大きなプラスになるものと信じています。今後どのような役をいただけるかわかりませんが、経験を生かして全力を尽くす所存です。今後とも、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

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2015年3月22日 (日)

医療事故調査制度の検討会とりまとめにあたり

 3月20日、厚生労働省において記者会見が行われ、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」のとりまとめが発表されました。会見には検討会の山本座長および厚労省の担当課長・室長が出席し質疑対応をしましたが、僕も衆院厚生労働委員会理事会の終了後会見室に駆けつけ、厚生労働省を代表して山本座長および構成員の方々へのお礼と、今後具体化作業にあたる決意を申し上げることができました。

「医療事故調査制度の施行に係る検討会」における取りまとめについて(厚生労働省)

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(写真:記者発表の様子)

 個人的には医療事故調査制度については当選一回のころから足かけ7年にわたって議論に加わってきました。もちろんこの議論そのものは1999年に発生した都立広尾病院事件において医師法21条の解釈が争点となり、2001年に日本外科学会が診療行為に関連した「異状死」について声明を発表して以来、長年にわたる議論が積み重ねられてきた経緯があります。紆余曲折を重ね、一度は法案化一歩手前までまとまりながら挫折する一幕まであった中で、ある種の「着地」の瞬間に立ち会えたことは政治家としても本当に幸運なことでした。

 僕が関わるようになったのは、平成20年正月のある晩に、「第二次試案に反対してください」という医師の方々からのメールを一夜にして何十通も頂いたことがきっかけでした。一体これは何だろうと興味を持って調べ始め、いろんな方に話を伺い、国会でも二度質疑をしました。そのあたりのいきさつは、当時メールを送る側であった方のブログにても記されています。

医療事故調に関する国会質問(>▽<)!!!by 橋本岳衆議院議員

平成20年2月28日 予算委員会第五分科会 (第169回通常国会)
平成20年4月22日 決算行政監視委員会第四分科会(第169回通常国会)

 この頃に議論されていた案は、その後「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」として取りまとめられましたが、必ずしも医療界全ての関係者から賛同を得られることができずに法案の国会提出が見送られ、翌21年の政権交代により棚上げされることとなりました。僕も同時に国会から去ることとなり、縁が切れたかに思われました。

 ところが民主党政権下でも再び医療事故調査制度に関する検討が再開され、院内での事故調査を基本とする仕組みとして一昨年に検討会の取りまとめが行われました。この頃には安倍政権となっており僕も再び国会に戻っていました。自民党内でも僕が座長を務めていた死因究明推進PTでヒアリングを行ったりしましたが、昨年6月の医療介護総合確保法の成立により医療事故調査制度の創設が決定しました。そして9月に僕が厚生労働大臣政務官を拝命し、所管することとなりました。不思議なめぐり合わせというべきでしょう。

 所管にあたり最も気にしたことは、挫折した大綱案の二の舞になってはいけないということでした。もちろん法律は成立していますから実現をしなければなりませんが、しかし院内事故調が中心となるこの制度では現場の医療者の方々が納得して頂かなければ、円滑な施行は望めません。どうせ実現するからには、極力幅広い立場の方々にご納得をいただけるものにしなければならないということは常に意識しました。

 もっとも、検討会がスタートしてからは正直出番はありません。構成員の方々のご議論に厚生労働省が口を挟むことはできません。選挙が重なったため全出席は叶いませんでしたが、せめて極力出席してご議論を伺いました。当然、資料の類や意見書、頂いた要望書、お預かりした書籍やDVD等はすべて目を通しています。その上で、僕にできることは検討会に座っていることだけでした。一議員だったときは好きなことを発言できましたが、立場を背負うとかえって自由にものが言えなくなりますからこれは致し方ありません。

 検討会の議論は、これまでの議論の積み重ねが凝縮された激しいものでした。主に患者ご遺族の立場の方々と医療者の立場の方々の対立の構図がくっきりと浮かぶものでした。大切なご家族を不本意な形で喪われていたり、誠実に医療行為を行った結果無実の罪で逮捕される経験をお持ちだったりする方がそれぞれにおられます。当然切実な議論になります。そもそも医療事故調査は、誰もハッピーな人がいない状況の中で行われる宿命にあり、当然感情的にもなることでしょう。過去十数年にわたり議論がなかなか交わらずに来たのも故のないことではありません。一部メディアやメール媒体において、僕が医療事故調制度を骨抜きにしようとしているといった情報が流されたりして不本意な思いをしたこともありますが、それだけそれぞれの方々の想いが強いということなのでしょう。

 ですから、今般発表されたとりまとめは、まとまったという一事をもって唯一最高の解だと思います。構成員のそれぞれのお立場で不満な点が残らなかったわけではないと思いますが、「医療安全の向上」という一点で合意を形成して頂けたことは、いくら感謝をしても足りません。ここに至るまで長年にわたりさまざまな場で多くの方が検討に参画して頂きました。その全ての方々に心から深く御礼を申し上げます。

 「人は誰でも間違える」という言葉は安全学上の大命題です。その視点に立って、ただ単にミスを起こした人が処罰されるのではなく、この制度を通じて誰が担当しても同様の事故が再び起こらないシステム的な対策が医療現場において実現されるようになることを願ってやみません。また同時にこの言葉を裏返すと「人は誰でも間違いの被害者になりうる」という理解もできます。事故調査を次の安全に活かす取り組みには、必ず不本意な犠牲を伴うことも、決して忘れてはなりません。その観点でご遺族に対して誠実に接していただくことも必要です。山本座長は記者会見で「今回の制度は、医療界の自主的な取り組みに信頼を置いている」と語られたそうですが、まさにその通りだと思います。その思いは、ぜひ現場の医療に携われる皆さまに汲んでいただければ幸いです。

 なお厚生労働省としては、10月の施行に向け、医療事故調査・支援センターの指定、支援団体の告示、医療機関や国民への普及啓発など、まだまだ残された仕事はたくさんあります。頂いた取りまとめを生かし、引き続き準備を進める所存です。関係各位のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。


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2015年1月11日 (日)

平成27年度予算案大臣折衝事項について

 今日は平成27年度予算編成の大詰めとなる大臣折衝が行われました。これは、財務大臣と各省の大臣が直接会って折衝することにより、最後まで意見が合わなかった事項について合意を行うものです。介護報酬改定や障害福祉サービス報酬改定があり、また消費税3%の引き上げ(かつ残り2%の引き上げ延期)分の使途などを含みます。一部だけ切り取って評価される向きもあるため、終了後の厚労相会見で記者に配布された資料のほぼ全文(別紙1は本文に溶かしこみ、別紙2「所得水準の高い国保組合の国庫補助の見直し」は割愛)を掲載します。ご興味の方はどうぞご一読ください。

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大臣折衝事項


 平成27年度厚生労働省予算について、介護サービス料金改定(介護報酬改定)等、平成27年度の消費税増収分による社会保障の充実・安定化、医療保険制度改革の推進並びに生活困窮者支援および生活保護のため、以下の通り予算措置等を行うこと。

1.介護サービス料金改定(介護報酬改定)等

 平成27年度の介護サービス料金改定(介護報酬改定)は、介護保険料の上昇の抑制、介護サービスの利用者負担の軽減、介護職員の給料の引き上げ、介護事業者の安定的経営の確保、という4つの視点を踏まえて行う。平成27年度介護サービス料金(介護報酬)の改定率は全体で▲2.27%とするとともに、消費税増税分を活用して、次のとおり対応すること。

・月額+1.2万円相当の介護職員処遇改善加算を拡充するため、+1.65%を確保すること。
・中重度の要介護者や認知症高齢者に対して良好なサービスを提供する事業所や地域に密着した小規模な事業所に対する加算措置を拡充するため、+0.56%を確保すること。
・さらに、地域包括ケアシステムの構築に向けて、地域医療介護総合確保基金や認知症施策など地域支援事業の充実に十分な財源を確保すること。
 (別紙1より)
 ○地域医療介護総合確保基金による介護施設の整備等 公費700億円程度
 ○認知症施策の推進など地域支援事業の充実 公費200億円程度
・収支状況などを反映した適正化等 ▲4.48% (別紙1より)

 サービス毎の介護サービス料金(介護報酬)の設定においては、各サービスの収支状況、施設の規模、地域の状況等に応じ、メリハリをつけて配分を行う。
 また、介護職員処遇改善加算の拡充が確実に職員の処遇改善につながるよう、処遇改善加算の執行の厳格化を行う。
 なお、次回の介護サービス料金改定(介護報酬改定)に向けては、サービスごとの収支差その他の経営実態について、財務諸表の活用の在り方等を含め、より客観性・透明性の高い手法により網羅的に把握できるよう速やかに所要の改善措置を講じ、平成29年度に実施する「介護事業経営実態調査」において確実に反映させる。


(障害福祉サービス等料金改定(障害福祉サービス等報酬改定))
 平成27年度障害福祉サービス等料金(障害福祉サービス等報酬)の改定率は±0%とすること。
 サービス毎の障害福祉サービス等料金(障害福祉サービス等報酬)の設定においては、月額+1.2万円相当の福祉・介護職員処遇改善加算の拡充(+1.78%)を行うとともに、各サービスの収支状況や事業所の規模等に応じ、メリハリをつけて対応する。また、福祉・介護職員処遇改善加算の拡充が確実に職員の処遇改善につながるよう、処遇改善加算の執行の厳格化を行う。
 なお、次回の障害福祉サービス等料金改定(障害福祉サービス等報酬改定)に向けては、「障害福祉サービス等経営実態調査」の客対数を十分に確保するとともに、サービス毎の収支差その他経営実態について、より客観性・透明性の高い手法により、地域・規模別の状況も含め網羅的に把握できるよう速やかに所要の改善措置を講じ、平成29年度に実施する「障害福祉サービス等経営実態調査」において確実に反映させる。また、地方自治体の協力を得ること等を通じ、より具体的な現場の経営実態を把握する。そのうえで、次回の改定においては、これらにより把握された経営実態等を踏まえ、きめ細かい改定を適切に行う。

2.社会保障の充実・安定化

 来年度の消費税増収分(8.2兆円程度)は全て社会保障の充実・安定化に向ける。基礎年金国庫負担割合2分の1への引き上げの恒久化に3.02兆円を充てた上で、消費税増収分1.35兆円と社会保障改革プログラム法等に基づく重点化・効率化による財政効果を活用し、社会保障の充実1.36兆円と簡素な給付0.13兆円を措置すること。
 その中で、平成27年4月からの子ども・子育て支援新制度の円滑な施行に向けて予定していた「量的拡充」及び「質の改善」を全て実施するための十分な予算措置を行うこと。また、国民健康保険への財政支援の拡充を含む医療・介護サービス提供体制の改革の推進に必要な事項に重点的な予算措置を行うこと。
 低所得者に対する介護保険の1号保険料の軽減強化については、特に所得の低い者に対する措置の一部について平成27年度から実施すること。介護保険料軽減強化の残余の措置、低所得者への年金の福祉的給付及び年金受給資格期間の短縮については、消費税率10%引き上げ時(平成29年4月)に、後期高齢者の保険料軽減特例を原則的に本則に戻すこととあわせて、着実に実施すること。

(参考)平成27年度の社会保障の充実1.36兆円(公費ベース)の内容
・子ども・子育て支援の「量的拡充」及び「質の改善(0.7兆円ベースを全て実施)」(5,100億円程度)
・育児休業中の経済的支援の強化(60億円程度)
・地域医療介護総合確保基金(医療分900億円程度、介護分700億円程度)
・平成26年度診療報酬改定における消費税財源の活用分(400億円程度)
・介護報酬における介護職員の処遇改善・質の高いサービスに対する加算等(1,100億円程度)
・国民健康保険等の低所得者保険料軽減措置の拡充(600億円程度)
・国民健康保険への財政支援の拡充(1,900億円程度)
・被用者保険の拠出金に対する支援(100億円程度)
・高額療養費制度の見直し(250億円程度)
・介護保険の1号保険料の低所得者軽減強化(200億円程度)
・難病・小児慢性特定疾病への対応(2,000億円程度)
・年金制度の改善(20億円程度)

3.医療保険制度改革の推進に関する予算関連事項
 次期通常国会に提出予定の医療保険制度改革関連法案において国民健康保険の財政基盤安定化・財政運営責任の都道府県移行、医療費適正化計画の見直し、後期高齢者支援金の全面総報酬割の導入等の医療保険制度改革を着実に進めること。その関連において、予算に関連する以下の事項について、それぞれ記載の取扱いとすること。

(協会けんぽに対する国庫補助)
 国庫補助率の特例措置が平成26年度末で期限切れとなる協会けんぽについては、医療保険制度改革において、国庫補助率を当分の間16.4%と定め、その安定化を図ること。ただし、現下の経済情勢、財政状況等を踏まえ、準備金残高が法定準備金を超えて積み上がっていく場合に、新たな超過分の国庫補助相当額を翌年度減額する特例措置を講じること。

平成27年度:国庫補助は、法定準備金を超過する準備金の16.4%相当を減額
平成28年度以降:法定準備金を超過する準備金残高がある場合において、さらに準備金が積み上がるときは、さらに積み上がる新たな超過分の16.4%相当を翌年度の国庫補助から減額

(入院時食事療養費等の見直し)
 入院時の食事代(現行:1食260円)について、入院と在宅療養の負担の公平等を図る観点から、食材費相当額に加え、調理費相当額の負担を求めることとし、平成28年度から1食360円、平成30年度から1食460円に段階的に引き上げること。ただし、低所得者は引き上げを行わず、難病患者、小児慢性特定疾病患者は現在の負担額を据え置くこと。

(所得水準の高い国保組合の国庫補助の見直し)
 所得水準の高い国保組合の国庫補助について、負担能力に応じた負担とする観点から、平成28年度から5年かけて段階的に見直すこととし、所得水準に応じて13%から32%の補助率等とすること。

4.生活困窮者支援及び生活保護

 平成27年4月に施行される生活困窮者自立支援制度については、生活保護制度と一体的に運用する中で、複合的な課題を有する生活困窮者の自立支援に効果を上げていくことが必要である。また、自治体での準備が着実に進むよう引き続き万全を期すこととし、本制度を適切に実施するため、必要な財政措置を講じること(400億円程度(国費ベース))
 住宅扶助基準及び冬季加算については、社会保障審議会生活保護基準部会の検証結果を踏まえ、最低生活の維持に支障が生じないよう必要な配慮をしつつ、以下の見直しを行う。

・住宅扶助基準については、各地域によける家賃実態を反映し、最低居住面積水準を満たす民営借家を一定程度確保可能な水準としつつ、近年の家賃物価の動向等も踏まえて見直す(国費への影響額は平年度▲190億円程度)。
・冬季加算については、一般低所得世帯における冬季に増加する光熱費支出額の地区別の実態や、近年の光熱費物価の動向等を踏まえて見直す(国費への影響額は▲30億円程度)。

 また、医療扶助の適正化や就労支援の取り組みを着実に進め、その効果を事後的に適切に検証する。
 生活保護受給者の高止まりについては、高齢化の進展の影響が大きいものの、雇用環境が大幅に改善する中で経済的自立による保護脱却が若干好転しつつも十分に進んでいないことも要因となっている。
 こうした状況を踏まえ、高齢者や障害者世帯など生活保護受給者の様態に留意しつつ、最低限度の生活を保障し自立を助長するとの生活保護法の趣旨にかんがみ、次期生活扶助基準の検証(平成29年度)にあわせ、年齢、世帯類型、地域実態等を踏まえた保護のあり方や更なる自立促進のための施策等の制度全般について予断無く検討し、必要な見直しを行う。

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2013年5月22日 (水)

一般用医薬品販売に関する規制へのご質問について

 前のエントリに綿貫様からコメント欄にてご質問をいただきました。ありがとうございました。普段あんまりコメント欄に返信できずにいるのですが(申し訳ありません、、、全部目は通しています。感謝申し上げます)、誤解があるようですのでそれを解くためにもお返事差し上げます。

 まず、僕のエントリをきちんと読んでいただきたいですが、僕は「ネット販売だけを規制すべき」とは一言も言ったこともありませんし、そのような立場ではありません。店舗販売の方にも言うべきことはあると思っていますし、このブログでも一般用医薬品販売全般に通じる議論をしています。今一度お目通しを願います。ご提案については、お客の利便性のために営業時間をどうするかはお店の営業努力の問題であり、国が保障することではありません。ご理解賜りますように。

 ただ敢えて申し上げれば、店舗販売では医薬品の陳列配置などについて既にさまざまな規制があり、一般医薬品を販売する店舗は当たり前に守っているのです。ところがネットでの販売では、例えば「半径七メートル以内に陳列」といった物理的な規制はそのままは実現できません。そこをどのようにネット的に実装するかが問われているのです。

 実装できないからネットではその規制は省くということにすると、店舗販売の方からすれば逆に不公平なことであり法の執行の公正を欠きます。一方、実装が難しいためにネットでの販売そのものを禁止したところ、1月の最高裁判決に繋がりました。だからネットでのLRAの法理に基づく規制の在り方、具体的な実装方法が主に検討の俎上に上がっているのだと理解しています。

 16日の検討会で厚労省が出した資料「第1類医薬品が医療用として販売されていた時の副作用発生状況について」によると、例えば現在「ロキソニンS」として販売されている解熱鎮痛剤について、同じ成分が医療用として使用されていた際には約9年間で1,345例の副作用報告(うち死亡例62例)があり、医療用承認申請時に行われた臨床試験では1,700例のうちなんらかの副作用発現例は163例(発現率9.6%…この数字は結構びっくりしました)。医療用の製造販売後調査では6年間で副作用発言例は232例(発現率2.0%)です。

 一方、一般用の副作用発生状況は2年間で8例の副作用報告(うち死亡例1例)にすぎません。何人がロキソニンを買って飲んだかは資料がなく発現率は計算できません。

 同じ成分で概ね用法も同じですから、実際の副作用の確率が変化するとは考えにくいです。ということは、医療用の場合は医師や薬剤師の管理下で副作用の発見が早く、医薬品の因果関係が考慮されるが、一般用の場合は重篤化しないとわからなかったり、医薬品の副作用とわからないまま治療してしまい報告されないといった、状況把握の問題があるということです。

 したがって一般用医薬品の販売方法について、特にリスクが高いと考えられるものについて、適切に管理すべく厚労省が規制することは、十五分ぐらいに合理的なことであると証拠を基に申し上げます。その上で、店舗での各種規制と同等のネット規制のあり方はどうあるべきか、が議論されるべきことと考えています。さらに正直言って副作用発現率9.6%はちょっとびっくりで、かつ医療用の場合と一般用の場合で実態把握の差がこんなにも出ることも非常にびっくりで、ネットでも店舗でもハイリスクのものについては本人確認とかの実態把握強化の方策を考えた方がいい数字かもしれないとも思っています。

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2013年5月16日 (木)

一般医薬品販売規制のあり方と憲法・最高裁判例について

 平成25年度予算が成立しました。安倍政権最初の予算ということで、適切な執行によりアベノミクスの二本目の矢がさらに加速することを期待したいと思います。また政党の共同代表の方がいろんな発言をして世間を賑わせていますが、賑わせて注目を集めることを意図しているのであれば、気にしないのが一番だと思っています。

 一方、橋本がくが議連の事務局長として関わっている一般用医薬品販売のインターネット販売の件に関しては、厚労省の検討会がそろそろ結論に向けて大詰めに近づいているようです。当初から議連の基本スタンスとして、さまざまな立場の方々が集まった検討会において、総意がまとまり方向性が示されれば、それを尊重することで一貫しています。議論の行方を見守りたいと思います。個人的に頭の体操はしていますが、今のタイミングではこのブログでも内容に踏み込むことはさし控えます。

 ただこの議論の際に、日本国憲法や最高裁の判例がときどき引用されるのですが、いささか乱暴な取り扱いがある気がしますので、この点について思うところを記します。

 もともと今回の議論は、平成25年1月11日の最高裁判決により薬事法施行規則の一部が薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとされたことから始まりました。この判決は、「新薬事法中の諸規定を見て、そこから、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れること」を求めています。したがって、省令の制定を委任する授権の趣旨が薬事法に明確に読み取れるように薬事法を改正することで、本最高裁判決の指摘は満たすことができます。今後の法改正の際にはその点に留意が必要ですが、本質的には立法技術の問題です。

 また厚労省検討会に参考資料として提出された、駒村圭吾慶大教授による「医薬品インターネット販売規制の憲法問題に関する意見書」では、昭和50年4月30日の最高裁判決を引用し、インターネットでの医薬品販売規制を含む職業選択および職業活動の自由に対する規制が、LRA(Less Restrictive Alternatives、「より制限的でない代替手段の有無」)の法理に基づくべきこと、規制を正当化する根拠となる立法事実を提示するべきことが指摘されています。合理的根拠に基づきかつ最小限の規制に留めるべしというのは、きわめて順当な指摘であり、当然そうすべきです。同時に、ネット販売か店舗販売かを問わず、過去の薬害事件や現在でも一般用医薬品の副作用や不適切な利用による実際に被害が生じていることなどを立法事実とする最小限の規制までを違憲とするものではないことは、言うまでもありません。

 今回の検討会は、一般用医薬品販売における安全性とその範囲内での利便性について共通のゴールを設定し、その実現のためにどのような最小限の規制を行うべきかを議論するものであるべきだと思います。しかし仄聞するに「このような規制は憲法違反だ」とか「このような規制ができたら提訴する」といった発言もあるやに聞いています。そうなのであれば「共通認識のゴールはこの地点で、そのゴールをたどりつくには他にこれこれこのようなより制限的でない代替手段があるから、この規制案は最高裁判例の趣旨に則していない」という説明をしなければ、周りの人は納得しないものと思います。

 仮に、いたずらに日本国憲法や最高裁の判例という虎の威を借りて自己の主張をのみ正当化するかの如き発言があったのであれば、検討会の円滑な合意形成を妨げるものであり誠に遺憾です(そうでなかったらごめんなさい。杞憂であることを願っています)。前向きかつ合意形成を目指した議論を期待したいと思います。


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2013年4月15日 (月)

一般用医薬品のネット販売を巡る議論から、かすかに見えるもの

 先週末、ネット選挙解禁の公職選挙法改正案が一部修正の上、全会一致で衆議院を通過しました。提出者の一人として、全会派のご関係の皆さまに深く感謝を申し上げます。対案を出された民主党・みんなの党の皆さまにも、また独自の修正案を提出された共産党の皆さまにも最終的には賛成していただくことができました。「しょうがないから賛成してあげてもいいけど、あなたの法案が最善だと思ってるわけじゃないからねっ!」的な趣旨の討論の末の賛成には「ツンデレ…」という言葉が頭をよぎりましたが、何はともあれ最終的にはご理解を賜り幸甚です。今週は参議院の審議が行われる見通しです。まず最初の当事者として選挙を迎えるかもしれない参議院の先生方にも丁寧な答弁を心がけ、ご納得いただけるように努力したいです。

 と同時に、そちらにかまけてこれまで力をあまり入れられなかった他の課題も控えています。党政務調査会の死因究明制度PTの座長を仰せつかっていましたが、今週やっと第一回の会合を医師・作家の海堂尊先生をお迎えして開きます。またアレルギー対策基本法案や道州制推進基本法案の提出者も仰せつかりましたので、そちらも勉強しなければなりません。情報通信戦略調査会ももう少しコミットしないといけないし。

 また、議連の事務局長を務めている一般用医薬品のインターネット販売についてもいろいろ考えを巡らせています。具体的にどのような方針で臨むかというのは議連での議論によりますが、その中で感じたことを少し記します。心ある方の目や耳ともちろんハートに届くことを願いつつ。

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 まず、この件に関して、自分のビジネス第一で一般消費者の身の安全を二の次に考えている輩が仮にいるとすれば、全く同情の余地はありません。医薬品には必ずリスクが伴うものであり、かつスモン病事件をはじめ一般用医薬品の薬害も最終的には国の過失を認め賠償すべしという判例が積み重なっている以上、行政はまず安全を考えなければなりません。この議論は、今年1月11日の最高裁判決が大きなきっかけになっていますし重く受け止めなければなりませんが、最高裁判決がその一件しかないわけではなりません。

 また、「業界から献金をもらって既得権益を守るため行動する欲得まみれの政治家ども」とか「利権のために規制改革に抵抗する抵抗勢力・守旧派」といったステレオタイプ思考から脱せない気の毒な方も、仮にそういう方がいれば気の毒だなと同情しながら放置するしか方法がありません。献金については収支報告書を見ていただければ誰でもご覧いただけます。同時に橋本岳は多くの同僚議員諸兄姉と同様に、万を超える有権者の方に名前を書いていただいたことに基づき、自らの価値基準や正義感にのっとり意見を述べ行動します。自分がお金で動く人間だからといって他人もそうだとレッテルを張る方は、個人的には「残念な人」なんだなと評価することにしています。

 同時に、これはとても微妙な点なのですが、医薬品のメーカーも、販売者(ネットも店舗も問わず)も、一応「医薬品はリスクを伴います」ということを認めはしますが、あんまり大きな声で言いたくないんだろうなという気がするのです。薬を作るのも売るのも企業ですから、そりゃ必要以上に医薬品のリスクが大袈裟に広まって売れ行きに響いてしまっては、元も子もないでしょう。それは理解します。しかしこの議論をするにあたり、最高裁でエビデンスがないと指摘されるのが納得できる程度に、議論の土台になるべき資料がなんとなく出てこず、どうしても隔靴掻痒の感がぬぐえないのも事実です。もしかしたらそういう側面もあるのかもしれないなという想像もできてしまうのです。

 医薬品ネット販売の議論では、実は一般医薬品の売り上げそのものを守る必要があるのは攻める側も守る側も共通するため、もしかしたらこの点に関しては共犯なのかもしれません(これはあくまでも僕の勝手な想像ですよ。はい)。所管する厚生労働省も、予算がないとか言い訳があるとは思いますが、員数主義に陥り形式的活動で思考停止している気もします。

 でもタバコにはあんなにデッカク注意書きしてるのにナと思う瞬間も、正直、あるのです。

 軽微な風邪などでの医療資源費消を防ぐため、セルフメディケーションの名のもとに一般用医薬品の使用が推奨されています。現在の日本の社会保障の現状を鑑みるに、それ自身はとても重要な概念だと僕は思っています。ただ、専門家として薬剤師の介在が必要な、ひらたく言えば危険な商品であればこそ、国も企業も専門家も協力して、もっと一般の方にその効用と危険性をきちんと認識してもらう活動を行うことが先決なのではないでしょうか。

 先日、高校生の長女の家庭科(?)の教科書に、医薬品の用法やリスクに関するページがあるのを発見して素晴らしいことだと思いましたが、まあ高校生の授業一時間でそんなに記憶に残るとも思えません。地域や社会教育の場で、検診や各種の予防の話とともに「薬の効用と危険性と正しい飲み方」も徹底普及されてしかるべきです。その知識の土台があれば、対面であれネットであれどんな形で一般用医薬品を販売しようと問題なくなるのではないでしょうか。あわせて「代理と称して医薬品販売店に薬を買いに行ったら買えた」という実験記事が大新聞の一面を麗しく飾るアホな現状も消滅するでしょう。めでたいことです(なぜアホかって?そんな問題提起の仕方をしたら、ネットはおろか店頭での販売方法の規制も厳しくしろという話になり、おそらく記者の意図と真逆の結果をもたらすからです)。

 もちろん、一般消費者の方も「不都合な事実」に向き合う覚悟が求められます。自ら学ぶ姿勢なく、都合の良い時だけ利便性と効果を求め、トラブルが発生すると被害者になるという行動は、実はこの問題の解決の大きな妨げです。きちんとリスクを認識するからこそ薬の正しい用法を守ることに繋がるのですし、本当にそうなればセルフメディケーションの効用は最大限に高まることになるでしょう。

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 今行っている議論については、当面は今の社会を前提になんらかの決着をつけなければなりません。暴論には不本意でも対抗せざるを得ません。しかし同時に今の議論も残念ながらいささか場当たり的で不毛な感覚が拭えません。よってまずは個人的に提言しておきます。もちろん議員としての言動にも今後反映するつもりです。ご関係各位のご高見を賜れば幸いです。

 なおこの小文を書くにあたり、『医療にたかるな』(村上智彦 著、新潮新書)にインスピレーションを得たことを付記し、村上先生に感謝申し上げます。この本、読みやすくて爽やかに面白いし、いろんなインスピレーションを湧かせてくれますよ。ホント。

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