27.新型コロナウイルス感染症対策

2020年7月10日 (金)

個人的メモ:新型コロナウイルス感染症対策の今後について

1. はじめに

 令和2年1月に中国湖北省武漢市において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が爆発的な感染拡大を起こしました。その後、日本も含め世界中に感染が拡大している状態となっています。私は、1月より厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長代理として、加藤勝信厚生労働大臣を支えて取り組んでいました。そのため2月冒頭以降ほぼ地元の倉敷・早島に帰ることもできず、多くのご支援いただいている皆さまにご無沙汰していることを、まずは深くお詫び申し上げます。

 通常国会も閉会し、緊急事態宣言も解除されてはいますが、徐々に感染者数が再び増加する傾向があり、なお予断を許すことはできません。改めて、日本政府の新型コロナウイルス感染症対策の方針や今後について私なりに整理をしてお伝えをし、その間のご報告に代えます。ご参考にしていただければ幸いです。なおこの記事は7月上旬に執筆しており、その時点における橋本がく個人の見解であることにご留意ください。政府や所属組織を代表するものではありません。厚生労働省の公式な情報は、最近見やすくなった厚生労働省webサイト「新型コロナウイルス感染症について」 をご覧ください。

2. 新型コロナウイルス感染症の特徴

(1)新型コロナウイルスの感染方法

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、飛沫による感染伝播が主体と考えられます。また換気が悪い環境では、咳やくしゃみなどが無くても、発声や荒い息などから生じる小飛沫によっても感染が起こることがあります(参考:NHKスペシャル動画 )。これは感染者に対する積極的疫学調査の結果、ライブハウス、コーラスグループ、スポーツジム、宴会やカラオケなどでのクラスター感染があったこと等から推測されたものです。また、接触感染もあると考えられており、例えばドアノブやエレベーターのスイッチ、手すりなどからウイルスが付いてしまった手で目をこするなどの動作をすることで、粘膜から感染します。

 有症者が感染伝播の主体ですが、発症前の有症者(その時点では無症候)や、発症間もない感染者からの感染性があることがこのウイルスの特徴であり、このわかりにくさが市中感染を増やすやっかいな要因とも思われます。

(2)新型コロナウイルス感染症の症状

 新型コロナウイルス感染症の症状としては、発熱、呼吸器症状(せき、のどの痛み、鼻水鼻づまり)、頭痛、強いだるさなどが見られます。初期症状はインフルエンザやかぜに似ており、これらの時期に区別するのは困難であるとされています。8割程度の患者は発症から1週間程度で軽症のまま治癒しますが、2割程度がその後呼吸困難となり重症化し、5%程度が10日目以降に集中治療室に入る傾向があり、2~3%で致命的とされています。

 致死率は年齢で異なり、60歳未満では0.5%未満ですが、60歳代で1.5%、70歳代で5.6%、80歳代で11.9%と、高齢者でとても高くなります。基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患)などのある患者では致死率が高いといわれており、また若年であっても脳梗塞を起こすことや、軽症患者として経過観察中に突然死を起こすこともあり、血栓症との関連が考えられています。最近では、治癒した患者でも後遺症が残るという報告があり、実態調査が行われています。決してあなどることのできない病気だと考えます。

(3)新型コロナウイルス感染症の検査と治療法

 最近までは、新型コロナウイルス感染症の検査について、医師等が対象者の鼻に綿棒を突っ込んでのどの奥をぐりぐりして採取する鼻咽頭拭い液からウイルスのRNAを検出するPCR検査による方法しかありませんでした。しかしこの方法は、検体採取の際にどうしてもせきやくしゃみが出やすいため検体採取者の感染防護を厳密にしなければならず手間暇がかかること、PCR検査も研究室で行わなければならないことが多く搬送の手間がかかる場合が多いこと、そして検査そのものも時間と手間がかかること、といったいくつかのボトルネックがありました。最近さまざまな研究開発が進んでおり、唾液を検体とすることが可能になり、抗原検査による迅速な結果判明も可能になってきており、こうした方法が普及すれば、よりスムーズな検査が可能になります。

 なお抗体検査キットがあちこちで出回っています。新型コロナウイルスに関する抗体の性質は現在研究が進められていますがなお不明な点が多いです。また国内で医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)上の体外診断用医薬品として承認を得た抗体検査はありません。ご留意ください。また厚生労働省が行った調査(資料:抗体保有調査 )によると、6月時点では東京でも1%未満の方しか抗体を保有していないことが明らかになっています。なお日本人は既に何らかの免疫を獲得しているのではないかとする言説も時折見かけますが、立証されていない限り頼りにすることも困難です。

 現時点では、この感染症に特別に効果のある治療法はありません。軽症の場合は、経過観察のみで自然に軽快することが多いとされています。症状により、発熱や呼吸器症状、基礎疾患に対する対症的な治療が行われます。重症になると人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)が使用されます。治療薬としては5月7日にレムデシビルが特例承認されており、ファビピラビル(アビガン)、シクレソニド、ナファモスタット、イベルメクチン等の臨床研究や治験などが実施ないし検討されています。しかし現時点で、インフルエンザにおけるタミフル、イナビル、リレンザのような効果的な薬剤は確認/開発されていません。サイトカインストームや血栓症との関連の指摘もあり、それらの対策のための治療薬も使われるようになっています。

 ワクチンについては、国内外で多様な方法での開発が試みられています。国内でも臨床試験が開始されており期待を持っていますが、他方でまだ有効性/安全性が十分かどうかは不明であり、仮に完成しても生産能力やワクチン確保競争の中で国民に行きわたる見通しが立っているわけではありません。当面は引き続き、「極力感染しない」ことを目標とした対策を進める必要があります。

3. 新型コロナウイルス感染症対策の考え方とこれまでの経緯

(1)当面の目標

 新型コロナウイルス対策は、引き続き当面は持久戦であると個人的には考えています。時間を稼げば、手軽な検査法や治療薬、ワクチン等の目途が立つ。そうすればインフルエンザのような扱いが可能になる。それまで極力、感染を制御(コントロール)して重症化や死亡を防ぎ続け、時間を稼ぐことが戦略的な目標であると考えます。

(2)感染制御方法の分類

 ではどうやって感染を制御するか。あくまでも私見ですが、感染の制御には、1)個人的な制御、2)施設やグループ単位での制御、3)社会的な制御、の3つの階層に分類して考えるとわかりやすいのではないかと思っています。

 1)個人的な制御とは、一人ひとりがウイルスを体内に入れることを防ぐ取り組みです。具体的には、石鹸やアルコール消毒薬等による手指衛生の徹底(動画:正しい手洗いの方法 )、環境や必要に応じたPPE(個人防護具:マスク、フェイスシールド、手袋、ガウン等)の装着、三密な環境に近づくことを避けること、接触確認アプリCOCOAをインストールすること、他の人との距離を意識すること、握手やハグを控えること(そもそも日本人はあまりしませんが)、等です。微熱であれ症状があったら会社や学校を休み家で過ごすこと、必要に応じて相談センターに連絡したり受診したりすることも、とても大事なことです。

 2)施設やグループ単位の制御とは、例えば建物の換気をすること、手すりやドアノブやエレベーターのボタンなど、多数の者が触れる場所を消毒液(といっても家庭用のバスマジックリンとか薄めたハイターとかで構いません。参考:新型コロナウイルスに有効な界面活性剤が含まれた家庭用洗剤のリスト)などで清拭すること、人と人との距離が適切に開くようベンチの場所などを配慮すること、窓口等に仕切りを設けることやゾーニングを行うことなど物理的な対策も考えられます。また、あまり大人数の人が一度に集まらないように間引いたり分散させたりすること、テレワークやテレカンファレンス(遠隔会議)を普及させることや、感染者が判明した際に濃厚接触者に連絡や把握ができるように名簿を整えておくことなども挙げられます。また学級閉鎖や個々の学校ごとの学校閉鎖などもこのレベルの制御といえるでしょう。こうした内容は、主に業種別のガイドラインとして整理されていますので、このガイドラインを遵守することが大事といえます。このレベルの対策は、新型コロナウイルスが特定の環境(三密環境)で多数の感染者を生ずるという特徴を持つことから、クラスター対策として特に重要です。

 3)社会的な制御とは、陽性者が判明した際に保健所が積極的疫学調査を行い、濃厚接触者を探して対応を必要な対応を行うことや、陽性判明者に対して感染症法に基づき病院への入院や宿泊施設での療養を措置すること行われています。さらに感染が拡大した際には緊急事態宣言の発出や外出や営業の自粛要請、またそれらを裏打ちするための各種の経済対策や医療機関等に対するPPEの供給等も行われましたが、この分類に含まれるものでしょう。また見落とされがちですが、入国制限や検疫強化など水際での規制も社会的な制御の重要な要素だと考えます。

 この3つの分類による感染制御はそれぞれ排他的なものではなく、状況に応じて相互補完的に組み合わせて最終的に感染を抑制する関係にあります。それぞれに基本的人権を侵害する面があることや、個人情報や個人の尊厳の保護に留意が必要です。さらに個人個人の生活や社会における経済とのバランスも考慮しなければなりません。

(3)これまでの対策の経緯

 日本においては、当初は中国湖北省武漢市を中心に感染拡大していたため、まずは指定感染症の指定および湖北省等に対する水際対策の強化が行われました。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の検疫対応も、日本国内に対する社会的な制御の一環と考えられます(参考:ダイヤモンド・プリンセス号現地対策本部報告書 )。そうした対応により時間を稼ぎながら、医療提供体制や検査体制を整えることが当初取り組まれました。また積極的疫学調査によりクラスター対策の重要性が見いだされ2月25日に政府新型コロナウイルス対策本部の基本方針 に明記されました。また、3月9日の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の見解」 において、感染しやすい環境の3つの条件として、「①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた」が重なった時と示されています(ちなみに、専門家会議の提言で同じ条件について「3つの密」という表現が出てくるのは4月1日の提言です。その間に「3密」という表現が発明されたものと思われます)。

 しかし感染判明者の増加は4月に入っても続き、政府は新型コロナウイルス感染症の全国的な拡大状況を踏まえ、4月7日に7都府県を対象に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を発出、16日に全国に対象を拡大し、接触機会の8割削減など徹底した行動変容を呼びかけました。そして新規感染者数が減少傾向に転じ、医療提供体制の整備が進み余裕が出てきたことを踏まえつつ5月14日から順次解除を行い、5月25日に全国で解除となりました。また2次にわたる緊急対応策(2月13日3月10日)、そして2次にわたる補正予算(第1次補正予算厚生労働省概要第2次補正予算厚生労働省概要)を組み、経済対策や医療提供体制等の対応にあたりました。幸いにして、多くの方々のご協力とご負担により、一度は感染が下火となりました。また5月4日の提言 では、「新しい生活様式」の提案や業種別ガイドライン作成の方針が示され、取り組みがスタートしています。接触確認アプリCOCOAも、6月19日にダウンロードが可能になりました。

4. 現状および今後の対策の見通し

(1)現状について

 7月に入って東京都などを中心に感染者数増など不穏な兆候があります。今回は3月下旬からの拡大状況と比較して、PCR等検査を積極的に行っており陽性者の年齢層が低いといった差はあります。「夜の街」という表現があり、確かに各地でのホストクラブやナイトクラブなどでの陽性者判明が報道されていますが、むしろ積極的に検査にご協力いただいている(ご関係の皆さまのご協力に、深く御礼申し上げます)ために陽性者が見つかっているのは、感染対策上とてもありがたいことです。そうした結果、感染者数のわりには重症者数等はまだ低く抑えられています。したがって、感染者数が同数程度でも、3月下旬の状況とは異なっていると考えられます(その頃は、「発熱して4日してから相談」という受診の目安が生きていましたので、無症状の方がPCR検査を受けることは現在よりも少なかったのではないかと思っています)。

 しかし首都圏や関西の都市部を中心に「感染が拡大している」という方向性そのものはおそらく間違いありませんし、現時点では若者が中心だから重症化しにくいといっても、例えば医療機関や介護施設の従業員やお元気な高齢者の活動などを通じ、いずれ高齢者を中心とするクラスター感染が発生し重症者や死者がぐっと増えていく展開に再び進む可能性もあります。孤発例も増えており、市中感染は徐々に拡大しているものと思われます。また、違う地域から移動してきて確認される感染者も見られるようになっていることも気にかかります。現場の診療所の医師からは、ここ数日で受診者が若者に限らなくなっており、人数も増えているというお話も伺いました。今見えている状況は、約一~二週間前の感染状況にしか過ぎないことを頭におきつつ、十分な警戒と対策を行うことが必要です。

(2)当面の対策の見通し

 一方で、3月ごろと比較すると、感染制御の手段が相当整備されました。とくに大きく異なっているのは、業種別ガイドラインが整備されてきたことです。既存の医療機関や社会福祉施設等既存のガイドラインに加え、7月1日現在で155の業種別ガイドラインが整備されました(参考:一覧表)。この実施がどこまで徹底しているかが問題にはなりますが、施設・グループ単位での制御は3月時点からは一定進んでいると考えられます。また個人単位での制御についても、3月ごろに指摘されていたマスクやアルコール等の不足感は解消されており、あとは徹底されることが重要という状況です。個人単位での制御および施設・グループ単位での制御が徹底されていれば、社会や経済に大きな影響を与えうる都道府県規模の営業自粛要請や緊急事態宣言といった大規模な社会的な制御まで至らずに済むかもしれません。3月~4月の段階では、3密回避等の呼びかけ以外にはもうそれしか手段がない状況でした。

 そういう意味では、現時点で必要なことは、改めて手指衛生の徹底や三密の回避といった感染対策の基本について改めて呼びかけ、一人ひとりが意識して実行すること、認証制度やシステム(参考:神奈川県「感染防止対策取組書・LINEコロナお知らせシステム」)等により業種別ガイドラインの徹底をはかり、客側も安全なお店を選ぶように行動すること、テレワークやテレカンなどを引き続き企業が行い続けることなどが急務といえます。4月~5月で取り組んでいたことを、再び思い出してください。

 もちろん自治体や政府においても、地域ごとに丁寧に対策をとりつつ今後も状況を注意深く追っていく必要はあり、爆発的な感染拡大の兆候があればさらに強力な介入を行えるよう最大限の警戒をしつつ準備を進めるべきであろうと考えます。また、出入国者の考え方すなわち水際対策については、国内の感染対策でもそれなりの影響を持つ要素です。都道府県との意見交換の場でも、かなりの数の知事から直接懸念がありました。きちんと国民の皆さまに説明できる形でかじ取りを行うことが大事だと思います。

(3)感染症対策は全員が主役

 感染制御について、個人的な制御/施設やグループでの制御/社会的な制御という3つの分類をしました。このうち社会的な制御、すなわち緊急事態宣言や大規模な営業自粛要請などについては、行政による実質的な私権の制限を伴うことも少なくなく、経済的な影響も免れない(仮に休業補償を行ったとしても、そのために国債を発行すれば後世にツケを残します)ため、行わないで済むなら行わないのがベストです。そのためには、できるだけ多くの方が個人的な制御を日ごろから当たり前に心がけていただくこと、そして責任者の方々が施設やグループでの制御に取り組み、行政もその支援を行うことが必要でしょう。

 感染症への対策、特に手指衛生や3密回避などは、誰かがやればよいというのではなく、できるだけ多くの方が、可能であれば全ての方が取り組めばより一層効果的です。そういう意味で「全員が主役」であると考えます。ラグビーで言われる”One for All, All for One”という言葉も、感染症対策にも当てはまるのではないでしょうか。

 一方で、自分の近くに感染症の陽性者はいないし、いるわけがない、いてはならない、などと思い込むことは、むしろ発熱等の症状が出てきたときに受診を躊躇することに繋がります。あるいはいわれのない偏見や差別により他人を傷つけることにもなりかねません。ダイヤモンド・プリンセス号に乗っていた時期も、その後の感染拡大時期も、聞いてもっとも悲しかったことは、各地の最前線で新型コロナウイルス対応にあたっている医療従事者やそのご家族が、地域で不当な言説を浴びせられてしまうという報せでした。もちろん、感染された方々への非難や中傷の話を聞くにつけても、同様の思いをします。いずれも人の心を折り、ただでさえ辛い人にさらに鞭を打ちこそすれ、感染対策のためには百害あって一利なしです。結局、恐怖や不安のあまり他人事だと思いたいという心理が、そのような行動を招くのではないかと推測します。

 おそらく人間だれしも、未知の感染症に恐怖や不安はあると思います。だからこそ、正しく石鹸や消毒液で手指衛生をする(再掲/動画:正しい手洗いの方法)ことで手軽に感染を防ぐことができる、身を守ることができるということを、身に着け実践しつづけることがとても大事なのです。ウイルスがどこにいるかは見えないけれども、自分の身を守る手段さえ身に着けていれば、周りの方にも自信を持って接することができるようになるものと思います。

 末尾に、Facebookにて、1~2週間に1回くらいの頻度で、何度も繰り返し書いているお願いを改めて記します。

  • 石鹸での手洗いをマメにしてください。換気を行ってください。三密(密閉空間・密集場所・密接会話)を避けてください。
  • 医療機関や介護施設など、感染リスクがありながらさまざまな現場に立っておられる方々に社会は支えられています。その方々のことに思いを致してください。
  • 誰も、感染したくてする人はいません。警戒していても、誰であってもわずかな隙も逃さないのがウイルスのウイルスたる所以なのであり、その人に非があるわけではありません。心ならずも感染してしまった方や、感染者を出してしまった組織・施設に対して必要なことは治療や支援であり、非難や差別ではありません。どうぞ温かい気持ちで接して差し上げてください。

心からのお願いです。

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2020年5月22日 (金)

厚生労働省における新型コロナウイルス感染症対策に関するICTの活用

はじめに

 政府において新型コロナウイルス感染症の対策を行うためには、全国の感染の状況や医療提供体制や検査体制等の状況をできるだけリアルタイムに近い形で把握し、適切な対策につなげる必要があります。とくに、3月中下旬にはニューヨークやイタリアにおいて急速な爆発的感染拡大(オーバーシュート)が発生していることなどを踏まえ、その端緒をできるだけ早期に掴むことの重要性が特に明らかになりました。また、感染拡大への備えとして、新型コロナウイルス感染症の患者や無症状病原体保有者などが入院・療養する病床数、人工呼吸器やECMO等の準備状況や稼働状況、医療機関におけるPPEの保有状況の把握も必要とされました。また先日抗原検査が実用化されるまではPCR検査でしか感染を確定できなかったため、PCR検査の検体処理能力や日々の処理数も把握が求められる状況が発生しました。実際に発熱が継続したり、だるさや息苦しさを感じたりした方を適切に医療に結び付けられるよう、かつ有症状者が医療機関に殺到してそこで感染拡大してしまうことを防ぐために、帰国者・接触者相談センターに連絡した上でその指示により帰国者・接触者外来を受診しPCR検査の検体採取を行うという流れが整備されましたが、その整備状況や日々の相談件数や受診件数なども、当然、確認が求められます。

 こうした情報について、疑似症を含む新型コロナウイルス感染者の報告については感染症法に規定がありますが、その他についてはおおむね厚生労働省から事務連絡により各自治体に依頼して回答をいただく形で収集をすることとなります。しかし3月下旬から4月以降にかけて感染拡大が続き、多い場所では毎日何十人にも上る陽性判明者の医療機関への搬送や積極的疫学調査などの業務が各保健所や自治体に積み重なる中で、厚生労働省への連絡が滞ったり、あとで数字が訂正されたりするケースが見られるようになりました。確認のために電話を差し上げても切られてしまう場合もあったようです。厚生労働省としても、各自治体に対して保健所の体制強化を依頼していましたが(事務連絡「保健所の業務継続のための体制整備について」(令和2年3月13日)など)、追いつきません。感染者の報告については、医師からFAXなどで送られた発生届を保健所が感染症サーベイランスシステム(NESID)というデータベースに入力する仕組みになっていましたが、その入力も滞ったり、自治体が見栄えのよいWebサイトで公表する内容とNESIDで入力されている内容が異なっていたりして、実際どうなっているのか判断に苦慮する状況もありました。一方で、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部も、サーベイランス班や医療体制班、検査班などの縦割りが生じ、めいめいに報告依頼を行う結果、自治体の手間を不要に増やしてしまうような面もありました。また、都道府県と保健所設置市区の間での壁も根強く見られました。

 個人的には、1月下旬から2月頭にかけて(湖北省武漢市の状況が世界に知れわたりWHOがPHEICを出すかどうか、政令で指定感染症に指定するかどうかの頃)も、厚生労働省内での議論において、さまざまな数字の把握に難渋している気配は感じていました。2月上旬以降のダイヤモンド・プリンセス号での勤務、3月1日からは健康観察期間としてのテレワークを経て3月15日に厚生労働省勤務に復帰した際、その景色にほぼ変化がなかったことに、同行していた自見はなこ大臣政務官ともども驚いたことを覚えています。その時点で既にニューヨークやイタリアのオーバーシュートは発生しはじめており、またダイヤモンド・プリンセス号内の業務において3,711人の乗員乗客の名簿管理などの事務作業に苦労した経験からも、いずれ支障をきたすことは自明でした。そこで日本でも4月には大きく感染が拡大するものと想定し、以後、関係各方面にお願いしつつ、以下に記すひとつひとつのシステム等の整備を図ることとしました。

新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)

 個々の医療機関の状況に関して厚生労働省が照会をかける場合、既存のルートであれば都道府県および保健所設置自治体に依頼し、保健所が医療機関に照会し、都道府県を通じて国に報告するということとなるため、各自治体に相当な手間が発生します。医療提供体制が課題となる中、この手間は早急に解消する必要がありました。また、有事において医療機関の情報を把握するシステムとしては、広域災害救急医療情報システム(EMIS)がありますが、このシステムは災害時用のシステムであり、新型コロナウイルス感染症の拡大を想定して改修することも検討しましたが、時間を要することがネックとなり断念しました。

 一方神奈川県では、新型コロナウイルス感染症の発生と拡大を受け、早期から県内医療機関の外来受付状況や病床稼働状況を調査し、Webでの公表や陽性者の搬送調整等に生かすシステムを構築していました。厚生労働省復帰直後に、自見はなこ大臣政務官の紹介でこのシステムを構築された神奈川県新型コロナウイルス感染症対策本部医療危機対策統括官の畑中洋亮さんのお話を伺い、神奈川県だけではなく全国を範囲とすべきと考えました。幸いにも畑中さんや黒岩祐治知事に神奈川県のシステムをプロトタイプとすることにご快諾をいただき、また宮下一郎・平将明両内閣府副大臣のご理解により開発に内閣官房IT総合戦略室の力を仰ぎ、日本医師会をはじめ関係する組織団体にもご理解をいただき、迅速にシステム開発を行いました。これが新型コロナウイルス感染症医療機関等情報システム(G-MIS)です。3月24日の医療関係団体との協議会、25日の全国知事会との意見交換会でご意見を頂いた上で、3月27日から都道府県ごとに順次運用が開始されました(事務連絡「新型コロナウイルス感染症対策に係る病院の医療提供状況等の状況把握について (協力依頼)」(令和2年3月26日))。

 G-MISは、病院の稼働状況、スタッフの状況、医療機器や医療資材の確保状況を、日次および週次で個々の医療機関に入力していただきます。そのうち外来の状況などについては、オープンデータおよび地図に表示する形で政府CIOポータルにおいて公開されています。病床の状況や人工呼吸器、人材充足の状況について、厚生労働省のみならず都道府県においても確認でき、搬送調整等にも生かすことができます。また稼働以降も都度機能が追加されており、マスク等が不足している医療機関には国から直接マスクを配送することとしたり(事務連絡「新型コロナウイルス感染症対策に係る病院の医療提供状況等の把握等について調査項目 一部変更のお知らせ(その2)」(令和2年4月24日))、5月に新型コロナウイルス感染症の治療薬として緊急承認された医薬品レムデシビルに関し、投与したい患者数をこのシステムで入力していただき配送につなげたりする(事務連絡「新型コロナ感染症対策に係る病院の医療提供状況等の把握等について 調査項目一部変更のお知らせ(その3)」(令和2年5月7日))などの機能が追加されました。

 5月15日現在で、登録医療機関は6,836病院、うち日次の報告をいただいている医療機関は4,234病院です(日本には約8,000の病院があります)。神奈川県の取り組みを見習い、内閣官房でコールセンターも設けており、入力の依頼や問い合わせへの対応なども行っています。「入力に手間がかかる」等のご意見も頂戴していますが、一方でタイムリーにさまざまな情報の把握が、中途に自治体等の手間をおかけすることなくできていることは、誠にありがたいことです。

 今後については、調査対象の拡大、医療機関等からの人材募集と求職者のマッチングを行う取り組みの一翼を担う項目追加、支援人員の増強などを行うことを検討しています。ただ、あまり入力項目が増えると現場の負担がさらに増えるため、バランスを考えることも必要と考えています。

新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定

 新型コロナウイルス感染症対策においては、国民の皆さまの行動をどのように変容していただくか、また実際にどの程度変容があったのかが問われることとなりました。しかし、そのような調査をリアルタイムで迅速に行うのは、政府といえども容易なことではありません。一方でいくつかの企業から、さまざまな情報提供のお申し出をいただきましたが、個人情報保護や公正性、透明性の担保の観点から、きちんとした枠組みを設ける必要がありました。そのため、厚生労働省からクラスター対策に資する情報提供を呼びかけ、それに応えた企業の方々と協定を結び公表することで、そうした課題をクリアした上でデータ提供をいただくこととしました。

 3月27日にプレスリリース「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定締結の呼びかけについて」を発出して呼びかけを行ったところ、LINE株式会社、ヤフー株式会社、株式会社Agoopの三社にご協力をいただくこととなり、それぞれ協定を締結しました。ご協力いただいたそれぞれの企業に、深く感謝を申し上げます。

 これら3社からご提供いただいたデータについては、クラスター班の専門家による解析に用いられています。またLINE株式会社が4回にわたり実施した「新型コロナ対策のための全国調査」の結果は、厚生労働省からのニュースリリースとして公表されています。この調査は回答数が2,000万人規模となる、ネット調査としても空前のものでした。

 厚生労働省の取り組みに続く形で、内閣官房IT総合戦略室・内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室・総務省・厚生労働省・経済産業省の連名で同様の趣旨の要請文が出されています。この成果の一部が、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策Webサイトの統計情報として日々表示されています。

 なおLINE株式会社には、2月初旬から新型コロナウイルス感染症に関する問い合わせに対応できる厚生労働省公式アカウントを開設していただき、厚生労働省からの情報提供に迅速にご協力をいただきました。このアカウントの登録者数は140万人と、厚生労働省の取り組みとしては破格の多さです。またこちら(ブログ「ダイヤモンド・プリンセス号現地活動の概要」)に記したように、ダイヤモンド・プリンセス号内の乗客・乗員に対し、ソフトバンク株式会社と共に2,000台のiPhoneの提供および情報提供等にご協力いただきました。

帰国者健康フォローアップのLINE活用

 保健所の負荷のひとつに、海外からの帰国者のうち自宅で健康観察期間を過ごす方に関し、住所地の保健所が日々の体温確認などのフォローアップを行う業務がありました。とくに、3月下旬以降、多くの国々が入国管理法に基づく入国制限対象地域等に指定されることとなり、健康フォローアップを要する対象者の数が増えるにつれて相当な負担を保健所にかけることとなりました。

 そこで、健康フォローアップを自動化することで保健所の負担を軽減するために、厚生労働省からLINE株式会社に委託して、帰国者への健康フォローアップをLINEアプリおよび自動音声電話で行う仕組みを導入することとしました(ニュースリリース「帰国者への健康フォローアップにLINEアプリ等を活用します ~希望される方は、LINEアプリ等で健康状態の報告ができるようになります~」(令和2年4月13日))。

 帰国者が集中したため各検疫所自身も業務に忙殺されてしまい導入にいささか難渋しましたが、成田空港、羽田空港、関西国際空港等の帰国者を対象に4月14日から順次使用が開始されています。4月10日~5月19日の集計では、フォローアップ対象全体が20,415人のところ、およそ57.7%にあたる11,784人のご同意をいただいてLINEを利用したシステムが使われています。なおこのシステムは厚生労働省内ではQuaLINE(クアライン)という愛称で呼ばれています。

 将来的には、後述する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)と機能面で重複する点もあるので、こちらと一元化することも検討します。

新型コロナウイルス感染症等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)

 これまで記した通り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を直接に受け止めることとなったのは医療機関と保健所でした。しかし医療機関では感染症法に基づく発生届を手書きとFAXで保健所に届け出ていたため、医療機関も保健所もともに入力等の負担が生じ、集計や報告のミスも生じてしまいました。ダイヤモンド・プリンセス号乗船中にも、横浜検疫所の医師が毎日発生届を書くのに忙殺されている由耳にしており、課題意識はその頃から持っていました。また、感染者の報告を受けた保健所は、その方に連絡して症状や行動歴の把握を行い、濃厚接触者の方も含めて毎日電話で健康観察を行いますが、多い時にはこの業務が毎日数十人分ずつ増えていくこととなり、繁忙を極める状況もありました。結果として、厚生労働省対策本部のサーベイランス班も難渋することとなり、発表する統計に訂正等が発生することとなりました。

 そこで、発生届の入力から健康観察のフォローアップまでをクラウドベースで一貫して管理できるシステムを厚生労働省で開発することとしました。これが新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)です。医療機関、保健所、都道府県等、また健康観察においては療養場所(ホテル等)の医師看護師や自宅の場合はご本人がスマホ等で日々の状況を入力することができます。また都道府県や国においても、このクラウドから統計的なデータをリアルタイムに近い形で手間をかけずに得ることが可能となります。4月から設計・開発を開始し、開発事業者の選定を経て4月30日には事務連絡を発出して本システムの案内と先行利用保健所の募集を行いました(事務連絡「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)の導入について (システム概要、準備の御案内及び先行利用保健所の募集)」(令和2年4月30日))。

 5月中旬には数自治体で試行利用を開始しています。ここでいただいたご意見などを踏まえてブラッシュアップを行い、5月中の全国での利用を目指します。また各保健所にある既存のデータをこのシステムに移行させる支援や、既に別システムを利用している場合の対応などもきめ細やかに行います。

雇用調整助成金オンライン申請システム

 緊急事態宣言等の発出等により、新型コロナウイルス感染症拡大の影響は単に公衆衛生の問題ではなく、経済や雇用に大きなインパクトを与えることが明らかになりました。雇用の安定および維持、あるいは生活に困窮された方の支援も厚生労働省の責務の一つであり、小学校休業等対応助成金・支援金の創設、雇用調整助成金や緊急小口資金貸付等の制度の拡充が図られました。同時に、多くの方々が窓口に来られそこで感染が拡大することも防がなければなりません。そこでまず、雇用調整助成金についてオンラインでの申請システムを整備することとなりました。

 5月20日に運用開始となりましたが、不具合が報告され直ちに機能を停止しています(5月22日現在)。ご迷惑をおかけした皆さまに、深くお詫び申し上げます。まずは原因の調査と影響を受けた皆さまの把握と対応を急ぎます。なお、都道府県労働局やハローワーク窓口での申請受付や、その後の確認や支給決定に至る事務には影響ありません。必要な対応を行い、すみやかに再開できるよう努力いたします。

 なお、他の助成金等の申請にあたっても同様にオンライン申請を可能とするように検討しておりますが、今回の状況を踏まえつつ、できるだけすみやかに実現を目指します。また、雇調金等の申請受付だけではなく、書類の確認から支給決定にいたる事務プロセスについてもICTを導入して合理化・省力化できないかとも考え、事務処理現場の見学にも行き、企業とも相談しました。ただ、実際には書類を提出した企業ごとにバラバラな様式でまちまちな手書き書類が添付されており、この認識と照合にはディープラーニングでも使わないと問題解決は困難ではないかと思われ、結局残念ながら人海戦術での対応のままとなっています。事態の進展にあわせて柔軟に政策や制度を創設・変更することは必要なことなのですが、それをどうやって実現するかまで踏み込んで検討することも、忘れてはなりません。往々にしてこの点がおろそかな議論は少なくないようにも思われるので、自戒のため記しておきます。

接触確認アプリケーション

 新型コロナウイルス感染症の拡大対策として、シンガポールにおいて、スマホ間のBluetooth通信を利用した接触確認アプリケーションが利用されていることが話題となりました。日本においても、西村康捻担当大臣がチーム長を務める内閣官房新型コロナウイルス感染症対策テックチームの4月6日のキックオフ会合の資料において、「シンガポールのTrace Togetherアプリケーション日本版の実装検討」とされています。当初はCODE for Japanや株式会社楽天がアプリを実装し、それを内閣官房に設置された専門家による会議体が承認する形が検討されていました。

 しかし4月10日、Apple社とGoogle社が両社のOSに共通する規格をリリースする旨発表しました。それを受けてテックチーム参加各省で検討した結果、OSレベルで接触確認ができるため利便性が高い(シンガポールのアプリは、そのアプリを起動しっぱなしにしておく必要がありました)ため、この両社が提供する枠組みを利用することとなりました。一方、この両社の枠組みは公衆衛生当局のみが利用できるであろうこととされている(FAQには “Access to the technology will be granted only to public health authorities.”と記されています)ことから、各社の取り組みを参考にしつつ、また内閣官房に設置された接触確認アプリに関する有識者検討会合にご確認をいただきながら、厚生労働省においてアプリケーションを開発することとなりました。

 アプリケーションの仕様については現在テックチームのもとで作成中ですが、基本的な考え方としては下記のようなものとされています( 資料1-1:接触確認アプリの導入に向けた取組について(案) )。

  • BluetoothをOS上でコントロールすることで、他のアプリ利用中でもバックグラウンドで利用可能となることから、AppleとGoogleから提供されるAPIを利用して構築する。
  • アプリ間で交換される識別子は周期的に変更されるものであり、個人や端末を特定できない。
  • 接触の記録は全て端末で管理され、感染者の照合も各自の端末内で行う。
  • 濃厚接触を検知するための端末間の通信や、個人に紐づかない識別子の管理は、Appleと Googleが提供する機能により実現する。
  • 通知サーバーでは、陽性者のアプリの識別子のみ管理され、個人の特定はできない。

 現在もApple社・Google社に問い合わせを行いながら仕様を詰めているところであり、整い次第公表するとともに、早急に開発に取り組みます。

緊急医療人材等確保促進プラン

 新型コロナウイルス感染症の感染者の発生に対応して、都道府県が宿泊施設を準備することとなりました。また臨時の医療機関を設置することも可能です。ただ、そこで働く医療従事者等はリクルーティングしてこなければなりません。そうした状況を見越して、厚生労働省では緊急医療人材等確保促進プランを現在企画しています。

 これは、G-MISを利用して医療機関等から人材募集情報を募り、これをハローワークやナースセンター、また民間職業紹介事業者にもCSRとしてご協力いただいて求職者にご案内し、希望する方にはWebサイト上でマッチングを行う取り組みです。既存のシステムを改修して利用することで開発期間やコストを抑制することとしています。近々にアナウンスを行い、6月上旬には運用開始する見通しです。

学校欠席者情報収集システム

 2013年より公益財団法人日本学校保健会が学校欠席者情報収集システムを運営しています。これは、学校における感染症の集団発生を早期に探知し早期に対応するためのリアルタイムサーベイランスシステムです。学校(保育園も含む)の養護教諭などがその日の生徒や職員の欠席情報や症名を入力することで、保健所や教育委員会に共有され早期の対応を可能とするものです。もともと、発熱、頭痛、急性呼吸器症状、下痢・腹痛といった症状や、インフルエンザ、水痘、流行性耳下腺炎等の疾患が入力できるようになっています。

 今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延を踏まえ、また緊急事態宣言の解除等により学校の再開が見通される中、子どもたちが安心して通学できるように、学校でも情報を収集し共有することは大事だと考えます。そのため日本学校保健会、国立感染症研究所と相談の上、また文部科学省のご協力もいただき、新型コロナウイルス感染症への対応(川崎病を含む)を行うよう検討しています。

おわりに

 ダイヤモンド・プリンセス号における厚生労働省の活動は、医学的にはもちろん新型コロナウイルスとの戦いでもありましたが、一方で事務的には3,711人の名簿との格闘でもありました。毎日PCR検査の結果により陽性者を救急搬送します。また同室者は濃厚接触者として扱われ14日間の健康観察期間をリスタートさせます。一方、日々発熱やその他の症状が発症する方が続出するため医療チームがその対応を行い、場合によってはこちらも救急搬送となります。健康チェックを行えばその結果は記録しなければなりません。他国のチャーター便が飛ぶことになれば、国籍やご住所、またそれぞれの国の条件(PCR検査が陰性かつ濃厚接触者ではない方に限る国・地域もあれば、その時点でPCR検査が陰性であればよい国もありました)により対象者を抽出する作業が発生します。14日間の健康観察期間を経過し検疫を終了して上陸を許可する方も、いくつかの条件により対象を抽出する作業により決定されます。さらに、それぞれの乗客のご都合によりお部屋を移動している方や、救急搬送されるご家族に同行して下船される方など、さまざまな例外的な処理にも対応しました。そうした作業は、本省の支援もありましたが、船内事務チーム、さらに私および自見はなこ大臣政務官の占部・横田両秘書官まで投入して、夜を徹して行う日もありました。

 また、毎日朝晩ジェナロ・アルマ船長とミーティングを行っていましたが、毎日「何人PCR検査の検体を採取したか」「何人結果判明したか」「何人搬送したか」等の報告を求められました。乗員乗客の情報を把握するために当然必要なことでしたが、当初は名簿整理ができていなかったためすぐ応えることができず、いささか難渋しました(そのうち名簿の一元化が図られ改善しました)。

 そうした経験があったために、厚生労働省に復帰したのち、日本全体の新型コロナウイルス感染症の対応にあたる際にも同様の事態が生ずることは容易に想像ができました。そして実際に加藤勝信厚生労働大臣からの報告の求めに必ずしもタイムリーに回答できない事務方の姿を目撃することとなったため、自見はなこ大臣政務官ともども厚生労働省内を歩き回り、内閣官房IT室等も巻き込みこうした活動に取り組みました。

 正直な印象を記せば、過去の統計関係の問題等も含め、厚生労働省は数字扱いが必ずしも上手だとは思いません。これまでに情報を集めるインフラに対する投資が十分だったかというと、やはり疑問が残ります。また厚生労働省においてシステム開発のマネジメントがしっかりできる人材は、私の見る限りかなり限定的にしかおらず育成が必要です。さらに、これは感染症法上の課題ですが、地方分権が進み保健所設置自治体の事務となっている保健所事務が多く、都道府県レベルなど広域での情報共有等について法律上明確には規定されていません。そして個々の保健所も、今回の対応においては突然業務量が爆発的に増加し、現場を優先するため報告連絡等にマンパワーが割けなかったことも、今後は教訓として考えなければならないでしょう。

 日々の感染確認数等の数字について、オープンデータとして公表するよう内部的な調整にチャレンジしましたが、これまで記してきたような経緯が積み重なっていたため未だに実現できておらず、本当に残念なことだと思っています。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策のWebページは、さまざまな情報があまりにも満載になっており整理が必要です(現在、リニューアルに向けた作業に着手しています)。また本来は、新型コロナウイルス感染症拡大の3月~5月の第二波(国立感染症研究所のレポートによると、第一波は2月ごろの武漢からの帰国者等によるものですが、これは拡大せずに抑え込むことができました)に間に合うように全てできていればよかったのですが、そうなっていないことにも忸怩たる思いはあります。しかし、今後さらに第三波が来ることを想定した備えとして、引き続き準備を整えようとしているところです。

 ここまで取り組んできた中で、省内外の多数の皆さまに多大なお力添えをいただいたことに心から感謝を申し上げます。「遅い」「今更」「また厚労省が…」「真面目にやっているのか」といったさまざまなご批判があることは承知しておりは甘んじて承りますが、厚生労働省の職員も、それぞれに寝食を忘れて懸命に業務にあたっています。引き続き、タイムリーな政策決定に資する迅速で手間のかからない情報収集や、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止のための行動変容や、各種助成金等のより手軽な申請・受給が実現できるよう、全力を尽くします。

Amabie

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2020年4月19日 (日)

ダイヤモンド・プリンセス号現地活動の概要

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は1月20日に横浜港を出港しました。1月25日に香港に寄港し、2月1日に那覇港に寄港、約3,700名の乗客乗員を載せて横浜港に向けて出発しました。ところが、香港で下船した乗客がCOVID-19(当時まだこの名前はありませんでしたが)に感染していたことが2月1日に判明、香港政府から連絡を受けた日本政府は、まず那覇検疫所が仮上陸許可証を取り消します。2月3日に横浜港沖に到着後、横浜検疫所は他検疫所の応援を得てただちに臨船検疫を開始しました。検疫官らは医師による確認や質問票による健康チェック、有症者およびその同室者、また香港で下船した乗客に関する検体採取およびPCR検査を徹夜で行いましたが、4日深夜に相当程度のCOVID-19陽性者の存在が確認され、一気に重大事案となりました。

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 この件に関し、私は2月10日に加藤勝信厚生労働大臣から自見はなこ厚生労働大臣政務官とともに現地対応責任者を命じられ、その日の午後に現地に下見に赴き、翌11日朝以降横浜に滞在してほぼ3週間にわたり毎日船内で対応にあたりました。3月1日、最後まで船に残っていたジェナロ・アルマ船長らの下船をもって、私も現場での務めを終了し、その後2週間の自己検疫期間に入りました。

 詳細は追って政府において検証されることとなると思いますが、現場にいた立場から、簡単に船内の状況やチームの活動について整理したいと思います。


人員体制

 ダイヤモンド・プリンセス号には、2月3日の臨船検疫開始から横浜検疫所の検疫官が他検疫所の応援も得て乗船し検疫にあたりました。その結果相当程度の感染者の存在が明らかとなり、5日早朝に正林督章審議官が乗船してジェナロ・アルマ船長に面会して感染症防止策を開始しました。上記の通り11日から私と自見大臣政務官が乗船。また14日から大坪寛子審議官も乗船して任務にあたりました。おおむね、正林審議官が現地支援チームや厚労省スタッフなどを統括し、大坪審議官が本省や防衛省、国土交通省、外務省など他の関係省庁等との現地での連絡調整など、自見大臣政務官は医療関係者との幅広いネットワークを駆使した調整や医師の視点からの提言などを行い、私は全体を統括しながら加藤大臣や本省と方針を詰め、それを船長や船内の方々にお伝えをするといった分担で、相談しつつ任務にあたりました。厚生労働省本省リエゾンや横浜検疫所等の職員が船内や大黒埠頭に詰め、支えていただきました。

 また全国から、DMAT、JMAT、DPAT、AMAT、JCHO、薬事チーム、日本赤十字社、日本環境感染学会や国立感染症研究所、岩手医科大学、東京慈恵会医科大学、東京医療保健大学、長崎大学、国際医療福祉大学、国立国際医療研究センターなどの感染対策の専門家の先生方、国立長寿医療研究センターの先生などに乗船いただき、さまざまな支援を行っていただきました。また物資の積み込みや人員輸送および救急搬送支援、医療的な支援などのために自衛隊の皆さまにも活動いただきました。毎日朝晩リーダーミーティングを行い、各チーム間の情報共有を密に行いました。さらに神奈川県、横浜市、防衛省、国土交通省、外務省、警察庁、内閣官房などが現地や本省で活動しサポートいただきました。

 また、船内は船長の指揮下にあるため、緊密に連携して取り組む必要があります。そのため毎日朝9時と晩21時に船長と定例ミーティングを行った他、細かく連絡を行いました。

ミッションと基本方針

 私は、11日に最初に船長にお目にかかった際、「私のミッションは、各人14日間の個室隔離による検疫を行うことで日本国内への新型コロナウイルス感染症の蔓延を防ぐこと、その範囲の中で乗客乗員の皆さんができるだけ健康に過ごし、帰宅していただけるよう支援することです」とお伝えしました。前者は検疫の目的そのものです。しかしそもそも検疫という仕組みは、公衆衛生という公共の福祉のために移動の自由その他の各個人の基本的人権を制限することに他なりません。法律上、一義的には検疫中の船舶の乗客乗員の生活の確保は船会社および船長の責任ですが、日本の法律に基づき自由を制限している以上、できるだけ健康を維持してお過ごしいただくようサポートする必要がありました。

 ただ、その実現には、3,700人という規模や感染症への恐怖の壁に阻まれて相当な困難がありました。特に私が乗船した時点では、当初問題となった医薬品の不足が徐々に解消されつつあったものの、発熱者や健康不調の方が毎日数十人発生し、船内フロントの電話は鳴りやむことがありませんでした。船内には医師・看護師が配置され外来や病床を備えたメディカルセンターがありましたが追いつかず、DMAT診察チームによる診察も容態の重い人を優先せざるを得ず、救急搬送も毎日数十件という状況でした。また同時にこれらの方々に対して行ったPCR検査の結果陽性が判明した方も順次医療機関に搬送する必要がありました。その頃は船の運用上3日ごとに外洋まで出航する必要があり(途中で解消されました)、またギャングウエイ(上陸用の可動式連絡橋)も人ひとりが通れる程度の狭さで当初一本しか開設されずスムーズな搬送に困難があるという事情もありました。また12日に検疫官の感染者があったことが発表されて以来、DMAT等の増援要請に対し医療機関からの派遣に影響があったことも事実です。

 また、本来乗客も乗員も検疫対象でありともに個室管理を行うのが理想でしたが、毎日3,700食の弁当を3回調達し、かつ約1,300の客室や約1,000人の乗員に感染症のリスクがある中で配膳サービスを引き受けてくれる組織など全く見当たらない中、乗客のロジスティクスは乗員によるサービス継続に頼らざるを得ませんでした。これをやり遂げてくださったダイヤモンド・プリンセス号の船長はじめ乗員の皆さんの勇気とホスピタリティには敬意と感謝しかありません。しかし検疫の観点からは乗員と乗客の対応のアンバランスは不健全であり、また感染拡大のリスクも念頭に置かなければならず、現実的な課題を整理した上で一刻も早く解消すべき課題でした。乗客が乗船している限り、乗員の検疫は始まらないということは、早々に理解されました。さらには乗員だけになっても約1,000人の規模を船内において隔離することは実行可能性上不可能と考えられました。

 そこで、検疫の実施を大前提としつつ、まず乗客をできるだけ早く分散して下船させ、次いで乗員も下船させて検疫期間を過ごさせる、ということが基本方針となりました。当初は、大規模な宿泊施設に一括で乗客の方々を移動させるようなことも考えましたが、約2,600名の収容可能な施設および移動手段は現実的にはありませんでした。

具体的な取り組み

 この方針を具体化するにあたり、下記のような取り組みを組み合わせて行いました。

1) 医療機関への搬送

 COVID-19と関わりなく船外での医療提供が必要とされるニーズが発生した方や、COVID-19のPCR検査(以下「PCR検査」とのみ記します)で陽性になった方は、医療機関に搬送しました。搬送先の調整はDMATや神奈川県庁対策本部、厚生労働省医政局などが協力して行い、症状の重い方は神奈川県内や都内など比較的近隣の医療機関、PCR検査陽性でも無症状の方などは遠方(概ね関東から関西までの広範囲にわたりました。多くの方を引き受けてくださった愛知県岡崎市の藤田医科大学岡崎医療センターもこの分類です)といった形で状況に応じて搬送先を調整しました(それでもなお病院到着後ただちに症状が悪化してしまう方がおられるなど、この感染症のわかりにくさによる苦労もありました)。移動には、横浜市消防局の救急車に加えて民間救急車や自衛隊の救急車にもご協力をいただき、2月3日以降同行家族を含む約800人を医療機関に搬送しました。

2) 希望者の宿泊施設への早期の移送

 新型コロナウイルス感染症は、高齢者や基礎疾患のある方について特に重篤化しやすいことが専門家により示唆されています。また窓のない船室の存在など、個室管理の環境そのものが健康リスクとなる可能性もありました。そのため乗客のうちPCR検査が陰性でかつご高齢の方等に希望者を募り、政府が用意した宿泊施設での検疫を継続していただく取り組みも行いました。2月14日~17日にかけて実施し、合計約70名の方に移動していただきました。

3) 海外への退避

 2月16日にアメリカがチャーター便を飛ばして約300名の乗客乗員を帰国させ、現地にて検疫を継続することになりました。これを皮切りに、3月1日のインドネシアまで合計13の国・地域がチャーター便を日本に送り、乗客乗員約1,600人近くを船から直接国外に送り出しました。

4) 検疫終了による下船

 ダイヤモンド・プリンセス号の検疫においては、(1)健康観察期間14日間(多くの乗客は感染防止策がとられた2月5日が起算日、陽性判明者の同室の方はその方が部屋から退去してから24時間後が起算日)を隔離されて過ごすこと、(2)健康観察期間中のPCR検査が陰性であること、(3)医師による健康チェックおよび下船時のサーモグラフィーによる検温を受けて問題がないこと、の3つの条件をクリアすることで、検疫所の上陸許可を行うこととしました。その結果、2月19日~22日にかけて乗客約1,000人が下船しました。

 これらの方々の検疫法に基づく上陸許可のためには、自衛隊医官の方々やJMATの方々をはじめ多くの医療スタッフにご協力いただき、乗船していた乗客全員のPCR検査用の検体採取や、健康チェックをしていただきました。それらの要件を無事にクリアして、スーツケースを押して歩いて下船していかれる乗客の方々を船内から見送っていると、いささか涙ぐみそうになりました。また、この実現により、乗員による乗客向けサービスは23日正午をもって停止されました。

 残念ながら、下船された方々から陽性者が発生しています。新型コロナウイルスのPCR検査の感度と特異度の正式なデータが公表されていない現状においては正確なことはいえませんが、いずれにしても感度と特異度がそれぞれにおいて100%ではないという前提に立てば、これはPCR検査の限界による可能性も考えられます。またネット等で、「なぜ14日間で下船させたのか。他の国は帰国後もさらに隔離しているのに。」といったご意見もあるようですが、そもそも14日間という健康観察期間はWHOが公表しているCOVID-19の潜伏期間を上回るものです。また国外退避にあたり各国はそれぞれの基準を設けており、例えばアメリカは、日本基準では検疫終了とはならないPCR検査の結果が出ていない人も含んで帰国させましたので、飛行機等で移動中の相互の感染の可能性をはじめから想定していたものとも思われます。

 なお、検疫を終了して下船された方々は、さらにご自宅にて14日間健康監視下におかれ、厚生労働省から定期的に電話で確認が行われました。正しい健康カードが配布できなかったミスはあったものの、下船後に陽性が判明した方も含め、下船者から国内に感染が拡大した例は確認されていません。

5) 検疫継続者の宿泊施設への移動

 乗客の船室は個室ではなく、2人~4人部屋でした。検疫上は個室での管理が始まった日を起算点としますが、限られた空間のもと、そのお部屋で過ごしていただかざるを得ません。そのため、ある船室でPCR検査が陽性の方が出ると、その同室の方はご本人のPCR検査の結果が陰性であっても、濃厚接触者とされることとなり健康観察期間の起算が陽性の方が搬出された24時間後から健康観察期間が再スタートすることになります。こうした濃厚接触者とされた乗客約90人には、22日に宿泊施設に移動していただき、そこで検疫を継続していただくこととしました。以上により、乗客の下船はおおむね終了しました。

6) 船室の消毒・清掃

 乗客下船がおおむね終了した頃に船長から、乗員について陽性判明者の同室者を乗客下船後の船室に移したいが消毒清掃する人員がいないため作業してほしい旨、依頼がありました。そこで乗員間での感染拡大を防ぐ観点から、厚生労働省、検疫所、日本赤十字社でチームを組んで、23日~24日に検疫終了者の船室について合計約140室について消毒・清掃作業を行い、乗員に提供しました。

7) 乗員の宿泊施設への移動

 乗員の方々への医療的な対応は、発熱した方などに個々に対応していたのみとなっていました。そこで14日から乗員全員の健康チェック、20日からほぼ全員のPCR検査の検体採取を行いました。乗員の多数を占めるフィリピンやインド、インドネシアなどは、PCR検査の結果を見てチャーター便の帰国者リストを作成したので、この際の取り組みが生かされることとなりました。

 残っている乗員の多くは、27日~28日の二日間で順次宿泊施設に移動していただき、そこで個室で健康観察期間を開始しています。

 なお、引継ぎなどのため最後まで船に残った船長はじめ船の維持に必要な方(約60名)、およびインドネシアへ帰国する方々(約70名)は3月1日に下船し、それぞれ宿泊施設や故国に移動されました。

さまざまな支援の取り組み

医療的な対応について

 乗客の平均年齢は高く、80代~90代の方も多数乗船しておられました。その中での新興感染症の発生と個室管理ですから、この感染症に限らず医療ニーズは急速に増加しました。基本的には船内メディカルセンターが対応しますが、途中から別途発熱ラインを設けて発熱者に対する電話での問診や客室への往診(個室管理中ですから来ていただくわけにはいきません)をDMATに対応いただきました。また乗客への医療サービス提供と乗員の産業医という二つの機能を担うメディカルセンター自体にも日本赤十字社のチームが交代で支援に入っていただきました。それでも、最も医療ニーズの高かった入港後2週間程度は、診察が追いついていない状態が続きました。

 また、同時に基礎疾患のある方や高齢者のスクリーニングや、乗客や乗員の検疫終了の要件としてPCR検査の検体採取や医師による健康チェックも行わなければなりませんでした。検体採取については、当初は検疫所が担当しのちに主として自衛隊医官の方々にお願いしました。健康チェックについては日本医師会のJMATのチームに応援いただき、最終的には乗客乗員も含めて全員の問診を行うことができました。

 また、未知の感染症におびえながら2週間にわたる個室滞在を余儀なくされれば、不眠など精神面での不調をきたす方も出てきます。DPATの皆さまには、そうした乗客乗員の方々に寄り添い、不安を和らげる大事な働きをしていただきました。また国立長寿医療研究センターの医師には、高齢者のニーズをくみ取り食事などに関するご提言をいただきました。

感染症対策について

 乗客については、2月5日以降個室管理とし、また運動機能の低下を防ぐための1日に1時間のデッキ散歩時間は、エレベーターを使用せずマスクを着用し間隔をあけて歩いていただくことで、相互に感染を防ぐこととしました。また5日から空気の循環を止める対応を船の空調担当エンジニアが自主的に開始しており、船を製造した三菱重工の技術担当者により適切な対応と後ほど確認されました。さらに配布したiPhoneで正しい手指消毒の仕方等についての動画をくり返し学習していただけるようにしました。乗員については、マスクの着用を行ったことに加え、感染症の専門家に手指消毒の方法を講習していただき、間隔をあけて食事を摂る、居室にアルコール消毒液を設置するなどの対策を行いました。

 対策本部を設置した拠点と、診療や検体採取を担当するチームの拠点は明確に区分した上で、後者の拠点においてDMATや自衛官医官や検疫官など乗客に直接接する支援チームは、N95マスク、フェイスシールド、ガウン、手袋、キャップなどの装着を、定められた方法で、定められた場所で行うことを徹底し、また業務が終了した際には、定められた場所において定められた方法で脱衣し、医療現場でいうところの「清潔」と「不潔」についても感染症の専門家の助言により区分して運用しました。また対策本部を設置した拠点で事務などを行う者も、食事の時以外はサージカルマスクを常に着用し、またアルコール消毒液を各人が医療現場で使用する携帯用ポシェットを用いて各人が携帯して手指消毒を徹底する等の取り組みを行いました。

 なお、これらの取り組みは学会や大学病院等に所属される感染症専門家の方に2月28日まで随時ご指導をいただき、都度改善を重ねました。
詳細は「クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』内の感染制御策について」および「クルーズ船内で医療救護活動に従事されている皆様へ」をご覧ください。

 乗員に乗客の配膳サービスを行わせることが感染拡大のリスクとなり得ることはもちろん承知しています。しかし発熱や呼吸器症状のある乗員についてはメディカルセンターの指示で出勤を取りやめ乗員室に隔離されていました。加えて専門家による手指消毒の徹底などの教育が行われ、またそれらが例えば食事の際にも守られているよう監視する人員を配置してまで感染コントロールに最大限の対応をしていました。正確には後日の検証を待ちますが、私たちの手元の数字による簡単な計算では、乗員の感染率は乗客の感染率と比べて低く抑えられていたようでもあり、船長をはじめとする乗員のご努力の甲斐はあったものと思っています。また、そもそも支援チームの拠点が、感染症が蔓延している船内にあることにもご意見はあるものとも思います。しかし当初3日ごとに外洋まで出航しなければならなかったため拠点は船内に置かざるを得ませんでした。それらの所与の要素の中で最善を尽くす努力を重ねました。

 なお20日に、厚生労働省が船内における感染制御策を公表した際、私がtwitterに船内の写真を投稿したことは、ここで記したような事情をご説明することのない端的な一面であり、予断を与えてしまうものだったため削除いたしました。改めて、多くの方々にご不安やご心配をおかけしたことを、深くお詫び申し上げます。

医薬品の対応について

 今回の乗客は高齢の方が多く、基礎疾患を持ち日常的に処方薬を飲まなければならない方が多数おられました。もともと2週間の船旅でしたから、その分の医薬品は持参しておられたでしょう。しかし検疫となりさらに2週間の船内滞在となったため医薬品の不足が緊急に課題となり、多数の要望が集中する事態となりました。

 これに対し、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、日本医薬品卸業連合会、NHO、JCHO、医薬品卸など企業・団体の方々から薬剤師のチームにご対応いただき、まずプッシュ的に必要不可欠な薬剤を船に乗せ、続いて個々の要望に対応する形で調剤を行っていただきました。日本で入手できない薬の代替薬を探すなどのご苦労もありました。6日から順次対応を行い、11日頃までに一通りの対応を行いました。以降も船内およびターミナルでご要望に応じて調剤を行ってニーズに対応いただきました。

iPhoneの配布と通信環境の改善

 乗船前から自見はなこ大臣政務官とともに準備していたのが、iPhoneの配布でした。もともとは、昨年の台風による豪雨災害の際にLINE株式会社にご協力をいただいた経緯を踏まえ、「新型コロナウイルス感染症情報 厚生労働省」LINE公式アカウントを開設していただいたことがこの話のきっかけ(ニュースリリース)です。

 その流れで、ダイヤモンド・プリンセス号の中で個室管理されている乗客の方々から情報や相談手段の不足が問題になっていることを相談したところ、それなら端末ごと配布したらどうかという話になり、LINEの方から相談したソフトバンク株式会社のご協力によりiPhoneを2,000台準備し、LINEアプリを設定して乗客・乗員に配布することとなりました(両社の即断即決ぶりには舌を巻きました。感謝の言葉もありません)。メニューとしては厚生労働省FAQ、薬に対する要望受付、心のケア相談、医師への相談予約を日本語および英語で用意しました。ただちに端末が大黒埠頭に運びこまれ、厚生労働省およびLINE社の人海戦術で一台ずつ設定を行い、自衛隊員の皆さまの手を借りて船内に搬入、14日に乗員・乗客に配布されました。

 結果として、例えば薬剤相談については100件以上の相談があったほか、DPATの方がスクリーニングのための質問票として利用するなどの使い方がありました。また乗客下船後のある部屋に、iPhoneの提供についてお礼の書置きがあったとのこともあり、総じて一定の利用があったものと思っています。

 なお、客船は鉄の塊であるため、船内は電波環境としては必ずしも良くありません。当初は厚生労働省本省と船内リエゾンの連絡にも困難をきたす状況がありました。iPhoneの利用によりさらに逼迫する恐れもあったことから、総務省および通信キャリア各社のご協力をいただき、船内wi-fi環境の充実や車載基地局による通信環境の改善も行っていただきました。また支援チーム向けのトランシーバー等の貸与も、大変助かりました。

乗客・乗員の安心のために

 今回のミッションは、14日間の検疫という大方針は定まっていましたが、基本方針やその具体策、実施スケジュールなどは「走りながら考える」という状況でした。そのため、乗客・乗員の方々から先の見通しなどについてのご不安の声がさまざまな方法で寄せられる状態がありました。その中で、私から2回にわたり、船内放送で政府の取組みや今後の見通しについて船内にてアナウンスしました(同時に、同じ内容を英語で船長がアナウンスしました)。また特に検疫終了プロセスや支援体制などについては、別途お手紙を用意して、全客室に配布をしました。
なお、ジェナロ・アルマ船長は毎日朝夕および必要に応じて、頻繁にブリッジからアナウンスを行って乗客・乗員に語りかけていました。現状や今後の見通しといった新しい情報に加え、その日の出来事や激励を常に発信し続けていました。また船長の英語のアナウンスに続けて行われる、通訳のタクジさんによる日本語アナウンスもあり、いずれも乗客・乗員の心を和らげることに大変効果があったものと思います。この姿勢は本当に立派なものであり、安心安全の情報発信という観点から私たちももう少しできることはなかったかと思っています。

評価について

 本件については、後日政府において検証されることとされているため、当事者である私が評価をすることは差し控えます。その上で、現時点で思うところを記しておきます。

 そもそも船舶における検疫の目的は、船内で感染症の発生した船舶を留め置くことで、国内への感染症の流入を阻止することです。水際で完璧に阻止することには限界がありますが、国内での感染流行の時期を遅らせ感染者の数を減らすことで、国内への影響を和らげることが期待されているものと考えます。そういう観点に立てば、乗客の方々には短くて二週間、乗員の方々には四週間以上にわたり上陸を許さず、自由を拘束する不便をおかけすることにより、市中に感染を蔓延させることを遅らせました。その間に検査体制の充実や、さまざまな国内対策の整備が図られています。

 感染者の数については、現時点で13人の死者を出し、複数の重症患者を出していることは、重く受け止めなければなりません。亡くなられた方々に心からご冥福をお祈りするとともに、加療中の皆さまの一日も早い快癒を祈っています。また約800人を医療機関に搬送することにより、関東から関西に至る広範囲の医療資源をダイヤモンド・プリンセス号から下船した方に投入しています。また、検疫期間を終了して市中に戻られた方から、陽性の方が出ていることも事実です。

 ただ、国立感染症研究所のレポート(「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例」 、「感染症発生動向調査及び積極的疫学調査により報告された新型コロナウイルス感染症確定症例516例の記述疫学(2020年3月23日現在)」 )や、新型コロナウイルス感染症専門家会議(第3回)の資料1などは、乗客の個室管理をはじめとした船内の取り組みが感染を抑制したことを示唆しているものと考えます。これらの資料は、船内で過ごしていた私たちの肌感覚にも適合するものです。一時期は本当に難しい状態でしたが、徐々に状態は落ち着いていきました。またチャーター便により1,600人近くを他国に送り出したことも、日本国内への負担を減らす効果は大きかったとも考えます。前述した乗員の感染率の低さについても、後の評価を待ちたいと思っています。

 高山義浩医師によると、COVID-19の臨床像として2つのパターンに分けられるといいます。一つは風邪症状が1週間ぐらい続いて、そのまま軽快するというもの。大半がその経過をたどるといいます。もう一つは、風邪症状が1週間ぐらい続いて、倦怠感と息苦しさが出てくるもの。この場合、感染してから発症するまでの潜伏期間は5日(1-11日)くらいで、入院を要するほどに重症化するのは、さらに10日(9.1-12.5日)経ったころだと見積もられるとの由。感染力が強いのは発症から3~4日目くらいとのこと。

 振り返ってみれば、本船は1月20日に横浜港を出港しました。その際に、乗客の誰かがCOVID-19を船内に持ち込んだのであろうと想像するのが妥当ではないかと考えます。先に掲げた国立感染症研究所のレポートによると、香港で下船されのちにCOVID-19の感染が判明した方は、1月23日からから咳をみとめていたとのことです。おそらく横浜港出航以降2月3日に戻ってくるまでの2週間で、たまたま重症化した人がいなかっただけで、感染対策に無防備な乗客、後に乗員も含め、風邪程度の症状や無症候の感染者が増えていたのではないかとは想像しています。ただし確定的なことは検証の結果を待ちたいと思います。

 そこから臨船検疫が始まったのだとすれば、もとより相当困難なタスクを日本は引き受けたものといえます。その中で様々な対策を行ったにも関わらず検疫官や厚生労働省および内閣官房職員、そして支援チームの方まで感染が広がってしまったたことは痛恨の出来事であり、今後に教訓を残すことでもありました。ただ、そのような厳しい局面においてもなお、本件に関して多くの方々の力を結集して活動をすることができたことは大きな希望ですし、またさまざまな教訓を得て今後に生かしてゆかなければならないことだと考えます。

 たとえば神奈川県の黒岩祐治知事は、ダイヤモンド・プリンセス号の対応を生かして医療崩壊を食い止めるために「神奈川モデル」を立案された旨記しておられます(「ダイヤモンド・プリンセスで培った医療崩壊防ぐ方法 症状に合わせて医療機関を選ぶ『神奈川モデル』の効果」)。ダイヤモンド・プリンセス号のオペレーション終了から1か月以上が経過し、ついに全都道府県に緊急事態宣言が発令される状況となりましたが、その時の経験を活かし引き続き感染拡大防止に努めます。 

末尾になりましたが、本件に関してご支援を頂いたすべての皆様に、心からの感謝を申し上げます。

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(写真:船内の医療支援チームの皆さま、メディカルセンターの皆さまとともに)

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