27.新型コロナウイルス感染症対策

2022年9月 7日 (水)

新型コロナウイルス感染症対策の今後の見通し(令和4年9月における私見)

はじめに

 今年7月頃から始まった新型コロナウイルス感染症感染拡大のいわゆる「第7波」は、8月下旬以降は新規感染者数の減少が明らかになってきています。岸田総理は9月6日に記者会見を行い、発生届の届け出対象を65歳以上の方、入院を要する方、治療薬投与等が必要な方、妊婦の4類型に限定の方針を示す等、対策の見直しを発表しました。

 ここで改めて第7波の状況を振り返り、新型コロナウイルス感染症対策の今後の見通しについて、私見を整理しておきたいと思います。なお、参考とした資料などはリンクなどでお示ししますが、文責は橋本岳個人にある、あくまでも私見として受け止めていただくよう、お願い申し上げます。

第7波について

 感染拡大の第7波の到来は、今年の7月頃から新規感染者数が徐々に増大していくことで明らかになりました。タイミングとしては国民の8割程度がワクチンの2回接種を済ませ、3回接種も一定割合が接種しており、高齢者等を対象とした4回目接種も5月末から開始された頃でした。

 この感染拡大は8月中旬に、全国1日あたりの新規感染者数が25万人を超える過去最大の感染拡大となりました。入院治療を要する者も199万人(8月11日)と過去最多を記録しています。一方で、重症者数は一年前のデルタ株による感染拡大(第5波)が最大1日あたり2,200人を超えていた日があったことと比較して、第7波では646人(8月22日)と低くなっています。今年初めの第6波でもそれ以前と比較してそのような傾向はありましたが、第7波でその傾向はより強くなりました。これは、第5波の株(デルタ株)と第6・7波の株(オミクロン株およびその亜種)の特徴かもしれませんし、またはワクチン接種の進展の影響という可能性も考えられます。後述のように、その他の要因も考えられるかも知れません。なお、1日あたり死亡者数は9月2日に347人を数えており、過去最多となっています。感染者数における死者の割合としては低く抑えられていると思われますが、重症者数とは傾向に異なりがあることには留意が必要でしょう。

 この夏に閣議決定された「骨太の方針」をはじめ、政府はたびたび「経済活動と感染対策の両立」という言葉を用い、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用をしない方針を示しており、実際に行政として行動制限をかけることはありませんでした。メディアの論調や世論的にも、7月~8月に感染者数が激増していてもなお、まん延防止等重点措置等の発令を求める声はなかったように思います。また、7月に参議院選挙が行われましたが、行動制限により感染対策をより強化するべきという主張をする候補者も政党も、私の知る限りはおらず、争点はどちらかというと物価対策等でした。その結果、一昨年夏の第2波の時以来2年ぶりに、自主的なイベントの中止等はあったものの、感染拡大期に行政的な行動制限をかけず、経済活動や社会活動等を止めないままに、感染拡大期を乗り切りました。

 第7波では、コロナ専用病床は、重症者用の病床を含め、少なくとも全国的には逼迫することはありませんでした。そういう意味では、コロナ感染症の患者で医療が必要な方に手が届かないという状況は、第5波の頃よりは少なかったものと思われます(そういう観点では、第4波(昨年のゴールデンウイーク頃)の関西、第5波(昨年夏)の東京周辺が最も厳しかったのではないかという印象があります。また沖縄県は他にも厳しい時期がありました)。

 一方で、あまりの1日あたりの新規陽性者数の多さのため、保健所や検査のための発熱外来に業務負荷がかかり、ひっ迫が発生しました。また医療従事者自身の感染や、家族が感染して濃厚接触者として自宅待機となる例も多発したこと、さらには医療機関内でのクラスター発生などにより、一般医療が制限されることがあり、救急車の受け入れが滞ってしまうことも発生しました。またそうした時期に入所系の介護施設でクラスターが発生すると、医療が必要な方でも入院させることができず、外部から医療的な支援を受けつつ、そのまま介護施設でケアを続けることも少なからずあったようです。実は定義上、入院しないと重症者にならないため、施設での看取りとなった方については統計上死者には数えられますが、重症者には数えられません。そうした事態が少なからずあったであろうことも、死者数と比較して重症者数が増えなかった一因とも思われます。

 8月半ばに、現役の保健所長さんにヒアリングする機会がありました。第7波では、特に要介護度の高い高齢者キラーとしての側面が一層強くなったと仰っていたのが印象的でした。入所系介護施設でのクラスターでは、入所者や職員の突然の感染者増に伴い、対応する医療資源の不足が発生し一時的に災害的状況となることが、なおしばしばあったようです。こうした、新型コロナウイルス感染症に対してリスクが高い方々が集まる施設等を如何に守っていくかを、今後の対策の焦点とすべきものと考えます。

 なお、私事ながら8月上旬に私自身も新型コロナウイルス感染症に感染し、8月5日にその旨衆議院から公表されました。38.5度程度の発熱が3日間程度続き、のどの痛みやしつこい咳、だるさなどがありましたが、自宅待機後4日目ごろには軽快が感じられ、自宅待機解除となる発症10日目までにはほぼ何の症状もなくなりました。医療機関にてPCR検査を受けて陽性の報せを受けた際「リスクが低いし保健所がひっ迫しているので、保健所から連絡は無いかもしれません」と伝えられていましたが、その通り保健所からの連絡は無く、自主的に自宅療養を行い、自主的に条件を判断して解除しました。cocoaの陽性者登録をしたかったのですが、そのために保健所に電話をかけるのも憚られたためできなかったのは、残念でした。

今後の見通し

 京都大学の西浦博教授のインタビュー(「新型コロナを「当たり前の感染症」として受け入れた時、何が起きるのか? 感染者はインフルの数倍から10倍に」)によると、ワクチンや感染による免疫効果があまり長持ちしない現時点の状況を前提とすると、今後も数年間にわたり、新型コロナウイルス感染症の新規感染者が2万人~4万人数発生し続けることが想定されるとしています。これはインフルエンザの数倍~10倍レベルの感染者割合となるとの由。実際に、新型コロナウイルス感染症に3回も罹患した人もおられると聞いたこともあり、現時点では「社会的免疫をつけて収束させる」というシナリオは描きにくいです。

 しかし一方で、感染者数最大を記録した第7波を行動制限なしで乗り切ってしまったため、次にまた感染が拡大する時期が訪れたとしても、よほどのことがない限り、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言等を施行することは考えにくいです。また世論も、感染対策を強化すべし!という方向には向きにくいでしょう(もっとも、舵取りをする立場の人は、正常化バイアスは常に念頭に置いて自らを戒める必要も忘れてはなりませんが)。

 また第7波の途中から、新規感染者数のあまりの多さに、保健所や外来などの業務負荷軽減が訴えられるようになりました。主に槍玉に上がったのが、医療機関における発生届の入力と、保健所における自宅療養証明書の発行です。それぞれ理由があって業務がありましたが、もともと発生届の全数届出の見直しは第7波収束後に行うことになっていましたし、民間保険の自宅療養に関する支払いも、もともと新型コロナウイルス感染症が全数入院適応だった折の名残りですので、いずれ見直されるべきものです。それらを前倒しすることとしたため混乱が生じたようにも見えましたが、いずれ順を追ってこうした負荷軽減も進められます。

 振り返ってみると、私が厚生労働副大臣を務めていた頃、すなわち一昨年に新型コロナウイルス感染症が日本に上陸して第一波や第二波の感染拡大が起こっていた頃は、検査手段は限られた数のPCR検査しかありませんでした。また治療法も手探り状態で、ワクチンに至っては影も形もありませんでした。その頃に比べれば、新型コロナウイルス感染症に関する対策手段には格段の進歩があります。したがって、初期に導入した対応をずっと継続している必要はなく、むしろ既に日本社会に継続してまん延してしまっている以上、持続可能な対策に限り継続する方針とするのは、妥当な判断といえるでしょう。実際に、ワクチン接種が一気に進んだおかげで、リスクの低い方々についてはとても低い致死率で抑えられるようになっています。したがって、社会一般に対して接触機会を減らすような対策を採る必要性はとても薄くなりました。このような方向性の下、さまざまな対応の見直しが進み、結果としていずれ感染症上の分類見直しにもつながり得るものと考えます。

 一方で、高齢者や基礎疾患をお持ちの方々等にとっては、なお脅威となる病気であることを忘れてはなりません。特に医療機関や介護施設など、感染によるリスクの高い方が集まる施設等では、引き続き感染対策を講じなければなりません。これは、感染症法上の指定をどのような類型に位置付けるかという話とは無関係に、新型コロナウイルス感染症が無くならない以上変わらずに必要なことです。むしろ、発熱外来に限らずどの診療科でも新型コロナウイルス感染症の感染者が訪れる可能性は増えますし、入所系介護施設でのクラスター発生時に災害的な状況となる状態は変わっていません。したがって、医療機関や介護施設などにおいて、一層感染対策と向き合い、普段から訓練等の対応を行っていくべきですし、そのための支援等は継続的に行わなければならないでしょう。また、介護施設などでのクラスター発生を想定して近隣の医療機関等と日頃からコミュニケーションを図り、支援が受けられる体制を整えておくことが、より重要になります。いわば、それぞれの地域において日常的に機能している地域包括ケアシステムの枠組みの中で、新型コロナウイルス感染症も取り扱われるような体制を構築する必要があるのではないでしょうか。あるいは、施設ごとに、新型コロナウイルス感染症に関する「かかりつけ医」を持つべき、という言い方もできるかもしれません。もちろん、基礎疾患がある方やご高齢の方それぞれにとっても、同様です。またそうした観点からは、政府における対応部署についても、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室や、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部から、徐々に厚生労働省医政局や保険局、老健局などに移行・集中させていくべきかも知れません。

 社会一般はどんどん日常に近づいていくことになりますが、一方で医療機関や介護施設等の現場には、それなりの負荷がかかった状態がいましばらく続くものと思われます。そのギャップに苦しむ人が出ないように、政府も引き続き対応方針を適切に説明し理解を求めることが必要です。

 社会一般に対する感染対策から、適切なワクチン接種や適切なマスク・手洗い等の感染対策等の継続を前提としつつ、よりリスクの高い方々をどう具体的に守るかに対策をシフトチェンジしていく節目にいるものと思っています。ただしそのことを社会一般の方々に理解をしてもらう必要があるし、そこが今後のチャレンジだろうと考えます。そのようなことで、新型コロナウイルス感染症およびその関連で亡くなる方をより減らし続けつつ、より効果が長く続くワクチンや特効的な抗ウイルス薬等の開発および普及を待つということを、今後の戦略方針とすべきと考えています。

 橋本がくは、引き続き以上のような視点で政府の対応方針をチェックし提言して参ります。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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2022年5月26日 (木)

「かかりつけ医」の議論をめぐる所感

●はじめに

 ここしばらく「かかりつけ医」についての議論がしばしばみられます。たとえば5月17日に政府の全世代型社会保障構築本部が取りまとめた「議論の中間整理」では、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を含め、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めるべきである。」と記されました。これを踏まえ、岸田文雄首相も5月25日衆議院本会議においてかかりつけ医について「今後その機能を明確化しつつ、患者と医療者双方にとってその機能が有効に発揮されるための具体的な方策を検討していくこととしており、コロナ禍での課題への対応という観点も含め、速やかにかつ丁寧に制度整備を進めていく」と前向きともとれる答弁を行っています。

 また立憲民主党では、中島克仁議員がかねてよりかかりつけ医の具体化に熱心であり、今国会でも「新型コロナウイルス感染症に係る健康管理等の実施体制の確保に関する法律案」(第208回国会衆法第20号)を提出し、衆議院厚生労働委員会等を中心に議論を行いました。先の総理答弁も、このことを踏まえた重徳和彦議員(立憲民主党)の質問に対するものです。
 
 一方で、公益社団法人日本医師会の中川俊男会長は、これに先立ち4月27日に文書「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」を公表しています。この中で、「『かかりつけ医』の努め」や「地域におけるかかりつけ医機能」、「地域の方々に『かかりつけ医』をもっていただくために」等の内容を記しつています。中川会長は公表時の記者会見では、財務省が求めているかかりつけ医の認定制や制度化についての質問に対して、「医療費抑制のために国民の受診の門戸を狭めるということであれば認められない。かかりつけ医機能は地域でさまざまな形で発揮され、患者さんとかかりつけ医の信頼関係を絶対的な基礎として、日本の医療を守ってきた。そうした日本の財産を『制度化』で一刀両断に切り捨てることになってはならない」と応じています。

 こうした議論を眺めていますと、正直な話、「制度」や「機能」などの文学的表現を挟んで議論がかみ合っていないような、あるいは肝心の論点が敢えて語られていないような印象があります。そこで本稿においては、中島議員らが提出した法案に対する検討を足掛かりに、自分の頭の整理を兼ねて、論点の整理を行ってみます。

 なお、本稿はあくまでも橋本がくが記した個人的な覚え書きであり、所属組織・団体等の見解を表すものではありません。また誰の働きかけもなく橋本がくが本人の意志で記したものであり、極力公平かつ中立的に記すよう努力しますが、他方橋本がくは自由民主党所属の衆議院議員であり、選挙においては日本医師会をはじめ多数の団体の支援を受けており、かつ身内にも日本医師会の推薦を受けている者がいることは、明記しておきます。

●「新型コロナウイルス感染症に係る健康管理等の実施体制の確保に関する法律案」についての議論

 立憲民主党は3月29日「新型コロナウイルス感染症に係る健康管理等の実施体制の確保に関する法律案」(通称:コロナかかりつけ医法案)を衆議院に提出しました。筆頭提出者である中島克仁衆議院議員は、議員としての活動を行いつつ現役で診療所の院長も務め診察に携わる医師であり、国会ではこれまでも幾度となくかかりつけ医に関する質疑を行っておられます。質疑内容等からは、党内における法案作成プロセスにおいても主導的立場であたられてものと想像されます。その粘り強い姿勢と努力には、ひとりの同僚議員として敬意を表するものです。

 法案を筆者なりにざっくり要約すると、希望する地域住民が、あらかじめ申し出た医師から選んで、自分の新型コロナウイルス感染症に係る健康管理(相談対応、検査、健康観察、医療の提供、連絡調整などを含む)等を行う医師として登録できる制度を「新型コロナウイルス感染症登録かかりつけ医制度」と定義した上で、政府に対してその制度導入や協力金等の支援を義務付ける、というものです。仮にこの法律が成立し施行されれば、住民としては気心の知れた特定の医師にコロナに関する対応を一任できることに加え、保健所が行っている業務の一部を医師が担当することとなるため、保健所の負荷軽減の効果も期待できるかもしれません。

 しかしこの法案では、いくつか明らかになっていない点があります。

 まずこの法案においては、登録されたかかりつけ医はその住民に対して何の義務も新たには課されません。したがって仮にこの法律が施行されても、登録されたかかりつけ医であってもこれのみでは医師法上の義務が課せられるだけであり、それ以上の法的拘束力はありません。かかりつけ医から、感染対策の不備や患者多数により応需困難などの理由により診察等を断られたりしても、地域住民には何の対抗措置も規定されておらず、現状と実は何も変わることがないのです。

 それでは意味がないので、おそらくは登録されたかかりつけ医と登録した住民の間に、別途なんらかの契約を結ぶことを想定しなければならないのではないかと考えます。いわば、本法が規定するのは、かかりつけ医契約のための地域住民と医師のマッチングを国が行い、その契約を登録する制度と理解するのです。地域住民と医師の間で「24時間必ず応需する」等の契約を別途締結すれば、まさに多くの方のイメージに叶うかかりつけ医を誕生させるということになります。

 さてその際、医師に対して誰が対価を支払うのでしょうか。そもそも「希望する」地域住民と「申し出た」医師のマッチングですから、全ての国民の避けがたいリスクを相互に負担し合うことを目的とする公的保険に馴染むものではありません。そして契約により医師に義務を課せば、その対価はもう片方の当事者である住民が負担するのが自然です。法的には、個人と弁護士が顧問契約を結ぶのと同等なのです。そこになぜ政府が補助金の支出等を含む措置を講ずる義務が必要なのか、法案や説明資料では明らかにされていません。これはあくまでも想像ですが、少なくとも立法過程で公的保険に馴染む考え方ではないことは意識されていたのではないかと思います。だから第三条4項は「協力金、補助金の支給」が例示されているのでしょう。もしかしたら保健所負担軽減等の理屈をつけることは可能かも知れませんね。

 また、そもそもかかりつけ医師が負う義務の内容や、医師ひとりが何人の住民と契約を結ぶことが想定されるかが明らかにされていないため確たる議論ができませんが、弁護士における顧問料を参考にすると、このかかりつけ医を維持するためには月々それなりの費用がかかるのではないかと思われます。おそらくはひとりあたり月額数万円といった金額となり、先に記したように公的保険の範囲外のため全額自己負担となり、現実的に少なからぬ数の国民にとって容易に受け入れられるものではない金額になるものと思われます。

 この契約に基づいてかかりつけ医が地域住民を診察した場合、混合診療にはならないのでしょうか。仮に全額自費になっても新型コロナウイルス感染症に関する医療は現時点では公費負担ですから実質的に差し支えはありませんが、だとすれば一般化はできません。選定療養という考え方も可能かもしれませんが、議論は簡単にはまとまらない気がします。

 なお一般的に、かかりつけ医に関する議論では、医療のフリーアクセスをどう考えるかも議論のテーマとなり得ますが、本法案では「政府は、(…中略…)病院又は診療所の自主的な選択を阻害することのないよう配慮するものとする」とされており、当然に上記かかりつけ医契約においても同様の規定が含まれるものと思われますので、住民側の医療へのフリーアクセスを制限することにはならないものと思われます。

 以上のようなことを考慮し、本案では、説明されている範囲だけでは必ずしも期待された効果は実現されず、むしろ実効性がいささか乏しいのではないかと思料されるため、衆議院本会議場では賛成しませんでした。とはいえ、この法案があったればこそこうした具体的な議論が可能なのであり、自らの理想とするものを具体的に法案の形で取りまとめようと努力された中島克仁議員には、重ねて深く敬意と感謝を表する次第です。

●かかりつけ医の制度化を考える上で

 さてこのように考えてきた時に、改めて冒頭の議論を見返してみると、かかりつけ医をめぐる議論で誰からも意図的に触れられていないのは、

  • その制度により、かかりつけ医とされた医師に何の義務を課すのか
  • その義務を果たす対価はどの程度の価格となり、誰がどうやって負担するのか
  • (それに付随して)公的保険給付との関係はどうなるのか
  • 患者側には他医療機関への受診制限など、何らかの規制はかかるのか

 といった点だと考えられます。敢えて記せば、どの立場の人も「機能」という言葉を遣うことでこうした議論を避けているのではないでしょうか。しかし、これらの点をクリアにしないで漫然とかかりつけ医の制度化が是か非かといった議論をしていても、平行線と感情論以上にはならずとても不毛です。情報提供や登録制度といった言葉で肝心の部分を曖昧にした意見を主張されても、正直判断不能としか言いようがありません。後出しで費用負担の話をされても困るのです。

 仮に、新型コロナウイルス感染症という限定的な状況を想定せず、一般的に地域住民がいつでも特定の医師に相談したり受診したりすることができるような制度を作るとすると、それはすなわちその医師にいつでも相談や診察に対応できるよう待機しておいてもらわねばならず、おのずと対応可能な人数が限られます。またその拘束には当然対価が支払わなければならず、仮に保険で賄われることとしても、出来高払いを基本とする現在の報酬体系と比較して効率的なものとなるか、個人的にはとても疑問です。そもそも病気やケガ、あるいはそれらにまつわる不安や相談は24時間いつでも発生し得るので、それに対応する義務を医師個人に課すことは、労働契約に基づくものではないとはいえ、働き方改革等の観点から如何なものかと考えざるをえません。そして現在の外来診療体制で、本当にかかりつけ医という考え方で国民全員をカバー可能なのかどうかも、考えなければなりません(なお基礎疾患を持っている方や高齢者のみを対象にするという考え方もあり得ますが、こうした方は事実上かかりつけ医機能を果たす医師ないし医療機関を、多くの場合既に持っているはずです。制度化するということは、そうした方ではない、若い方や健康な人もかかりつけ医を持つということでなければ意味がありません)。

 現在の医療提供体制が持続可能なものであるかどうかには十分議論の余地がありますので、どのようなテーマの議論も考慮しなければなりませんが、肝心なポイントをハッキリさせない議論をただのイメージで行っても誰にも良いことはないのではないかと個人的には思います。何らかのメリットを得ようとするのであれば、多くの場合何らかのデメリットが伴います。かかりつけ医に関する提案をされる場合には、そこまでを含めた議論が行われることを期待しますし、その上で制度化の必要性や是非から論じられるべきだと考えます。

●コロナ禍とフリーアクセスについて

 なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大期に、入院困難例や受診困難例が続出してしまったことを踏まえて「フリーアクセスが機能しなかった」という認識を示し、だからかかりつけ医の制度化が必要だ、という論旨の議論も見かけますが、これは誤りです。

 そもそも日本の医療保険制度におけるフリーアクセスとは、一般的には、保険証さえ持っていれば、平等に患者が自由かつ窓口負担のみで医療機関を受診することができることを指します。一方で、新型コロナウイルス感染症をはじめとする指定感染症等に対する医療は、感染者を保健所が措置として強制力をもって感染症指定病院等に入院させるものであるため、そもそもフリーアクセスではなく、保険医療ですらありません。また外来診療についても、感染拡大を防ぐために発熱外来を特定しています。感染症医療は、その目的のために当然にフリーアクセスの制限を伴うものなのです。

 コロナ禍において入院困難例や受診困難例が生じた理由は、そのキャパシティを超えて感染者が一気に急増して対応が間に合わなくなったためなのであり、医療保険制度ではなく感染症法およびインフルエンザ特措法による感染対策上の課題です。これを新型コロナウイルスの感染力の強さとして諦めるのではなくそこまでも余裕をもってカバーできる対策を打つべきとするのであれば、普段からの抜本的な医療従事者や保健所職員数の拡充が必要とされるものと考えます。量の問題を手段(または気合い)で解決させようとするのは日本人の悪い癖であり、量の問題は量で解決するべきです。

 一般の方ならともかく、職業政治家や職業官僚が感染症医療と一般の保険診療とを同列に並べ、フリーアクセスの限界として制度論に結び付けるのは、制度を理解せず半可通な知識を振り回しているか、または意図して異なるものを同じように並べて議論をすり替えているか、のいずれかです。政府の資料にもこれに類する表現があるのは残念なことです。もしこうした議論を見かけたら、「間違っているよ」と優しく注意してあげてください。そこで逆ギレされたら、おそらく後者の人なのだろうと認識してよいと思いますよ。

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2021年12月16日 (木)

イタリア共和国の星勲章コメンダトーレ章の叙勲を受けました

 このたび、イタリア共和国の星勲章コメンダトーレ章(Commendatore dell'Ordine della Stella d'Italia) 叙勲の栄に浴することとなり、在京イタリア大使館にてジャンルイジ・ベネディッティ大使より12月15日に伝達を受けました。理由は、昨年のダイヤモンド・プリンセス号対応においてイタリア人のジェンナーロ・アルマ船長と協力し、イタリアをはじめとするEU国民の帰国に功労をあげたことであり、共に船内で対応にあたった自見はなこ参議院議員と同時の叙勲でした。

 同号の対応は船内外における多くの方々の働きにより成し遂げられたものであり、その代表としての叙勲と受け止めています。また世界的にまだコロナ禍中であり、国際的な連帯によりいつか打ち勝つ証となるよう、今後も努めます。

 なお昨年には倉敷市在住の美術家、高橋秀先生が同章を受けられています。誠に光栄なことであり、関係の皆さまに深く感謝申し上げます。

イタリア大使館のツイート

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(写真:ベネディッティ・イタリア大使より受章)

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(写真:イタリアの星勲章コマンダーレ章の勲記と勲章)

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2021年10月14日 (木)

書籍『新型コロナウイルス感染症と対峙したダイヤモンド・プリンセス号の四週間 -現場責任者による検疫対応の記録-』ご案内

 このたび、一般財団法人日本公衆衛生協会様より、単著『新型コロナウイルス感染症と対峙したダイヤモンド・プリンセス号の四週間 -現場責任者による検疫対応の記録-』を刊行する運びとなりました。当時厚生労働副大臣として船内で対応にあたった橋本が、その経緯などを整理し現時点における提言をまとめることで、多くの方々のご協力により同号の対応が成し遂げられたことを明らかにしつつ、今後の検疫行政および公衆衛生行政の向上に貢献することを願い執筆したものです。ぜひ多くの皆さまにご高覧賜りますようお願いいたします。

 なお、実際には10月末から11月頃に世に出ることになります。ご注文は、以下の申込書にて日本公衆衛生協会に直接お願いします。また、amazonでの購入もできます

(表紙イメージ)
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(ご案内・申込書)
発刊案内・注文書(PDF版)

発行案内・注文書(JPEG画像版)

(日本公衆衛生協会様による巻頭の辞)


 本書は、新型コロナウイルス感染症が国内ではまだ散発的な発生に止まっていた頃に、世界的に注目された「ダイヤモンド・プリンセス号」での対応の記録を、当時、厚生労働副大臣として一貫して陣頭指揮に当たっておられた橋本岳 衆議院議員が、今後の施策への参考とすべくまとめられたものです。

 多くの関係者が危険を顧みず、現場での検疫等の業務に奮闘されたことを伝えるとともに、新たな感染症への備えとして、貴重な記録を広く公衆衛生関係者で共有するために本書を発行することといたしました。

令和3年9月
一般財団法人 日本公衆衛生協会

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2020年11月27日 (金)

人生100年時代における医療提供体制および医療保険制度の改革に向けた提言

 私が委員長を務めている自民党政務調査会社会保障制度調査会の医療委員会において、提言をとりまとめましたので掲載します。
議論の様子は、下記の記事にて報道されていました。なおこの内容は、鴨下一郎調査会長、今枝宗一郎事務局長とともに、下村博文政調会長に申し入れを行いました。

75歳以上の医療費2割負担 自民、強まる慎重論(産経新聞)
窓口負担2割、対象絞り込みを 自民医療委(時事通信)

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令和2年11月26日

人生100年時代における医療提供体制および医療保険制度の改革に向けた提言

自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会医療委員会


1.はじめに
・ 昨年12月17日、我が党の人生100年時代戦略本部は「人生100年時代戦略本部取りまとめ ~人生100年時代の全世代型社会保障改革の実現~」を取りまとめた。この提言においては、年金制度や雇用制度の改革と並び、医療・介護の提供体制改革や医療保険制度改革などが掲げられており、その方向性が示されているところである。本委員会は本年1月からこの具体化のための議論をスタートさせたが、直後に新型コロナウイルス感染症の拡大により中断を余儀なくされた。
・ 10月以降、体制を改めて議論を再開し、5回にわたり濃密な議論を行った。この内容について今般取りまとめ、以下の通り提言を行うこととした。本委員会の提言を十分踏まえ、政策の実現にあたられたい。

2.新型コロナウイルス感染症対応について
・ 本年1月以降のコロナ禍において、医療機関は常にその最前線として感染者の治療および我が国の感染拡大防止にあたられた。我が身も顧みぬ奮闘ぶりと達成された社会への貢献に、まず心から敬意と感謝を表する。
・ 一方で、新型コロナウイルス感染症が長期化し現場に疲労が蓄積する中、コロナウイルス感染症患者への対応を直接行うか後方で支援を行うかの別を問わず、受診控えや行政の事務の遅滞等の影響もあり、医療機関等への支援は今なお必ずしも十分には行き届いていない。診療科等によっては経営に困難をきたしており、場合によっては地域医療の破綻も懸念される状況である。まず足元の危機に対処しなければ、長期的視野に立った改革の検討がいかに高邁な理想に基づいていたとしても、すべて虚しいものとなるであろう。
・ まず政府には、二次補正予算の予備費や三次補正予算などあらゆる機会を探り、小児科や耳鼻咽喉科等減収割合が大きい診療科に対する追加的支援、および歯科医療機関を含む一般の医療機関や薬局等についても現下の感染急拡大状況を乗り越えるための追加的支援を、果断かつ迅速に実施するよう強く求める。これが叶わない中では、いかなる医療提供体制および医療保険制度改革の強行も、決して国民の理解を得ることはない。

3.医療提供体制の改革について
(1)新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた医療計画および地域医療構想
・ 都道府県の医療計画(5疾病・5事業)に新興感染症等への対応を位置づけ、あらかじめ地域の行政・医療関係者の間で必要な準備を行うことが望ましい。その際には、コロナ禍において都道府県等地方自治体が重要な役目を担った経験を踏まえ、都道府県知事会等地方団体との調整をより綿密に行いつつ検討すべきである。
・ 地域医療構想については、中長期の医療需要を踏まえて地域ごとに議論を行う枠組みそのものは堅持すべきであり、既に先行して協議が進んでいる地域の後押しを行うため、今年度創設した病床機能再編支援制度に消費税財源を充当するための措置を講じるなどの充実を図るべきである。
・ 一方で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下において各都道府県や各病院は病床確保や搬送調整に全力を尽くすべきタイミングである。またコロナ禍における各病院の活動実績も議論には十分に考慮されるべきである。コロナ禍が当面落ち着かない中、将来に向けた病院の再編成やダウンサイジング等の議論の結論を急がすことは避けるべきである。

(2)外来機能の明確化・連携等
・ 外来については、かねてよりかかりつけ医機能の強化および外来機能の明確化等が議論されてきた。紹介患者に対する外来により注力すべき外来を類型化し、都道府県に対して報告を求める制度を創設し、この結果をもとに地域において外来機能の明確化や連携に向けてデータに基づいて必要な協議を行う枠組みを整えることは、患者の医療機関選択をより容易かつより適切なものとするため、ひいては医療資源と医療アクセスのミスマッチを解消するための改革の第一歩として、まず実現すべきである。
・ あわせて、かかりつけ医のあり方に関する議論を行いつつ、かかりつけ医機能の強化に向けて、かかりつけ医機能を発揮する実践事例等の普及、養成・研修等の支援、国民への周知等に取り組む必要がある。

(3)オンライン診療
・ 現在コロナ禍においてオンライン診療は時限的に幅広に認められている。この経験を踏まえつつ、しかし恒久化を検討する際は単なるその延長ではなく、改めて安全性・信頼性をいかにして担保するか丁寧に議論を行うべきである。
・ その際、将来の地域医療におけるオンライン診療の姿も念頭に置きながら、特に、見落とし等のリスクの大きい初診からの対応は、いわゆるかかりつけ医による実施を原則とし、その普及・定着の促進も視野に入れつつ、必要な対面診療の確保等を含めその具体的なルールを検討するべきである。
・ なお、患者側・医師側共に本人や資格の確認にはPKI技術を用いた認証の実現を目指すべきである。またオンライン化に伴い懸念される肖像権等の保護や紛争防止に係る検討も必要である。薬剤の適切な使用が維持されるよう留意するべきである。

(4)医師の働き方改革・医師偏在対策
・ 医師の働き方改革および医師偏在対策については、現在当委員会のもとに設置された「医師の働き方及びタスクシェア・タスクシフトの在り方に関するプロジェクトチーム」で議論しているところである。
・ これらについては、地域医療構想や、大学医学部、臨床研修、専門研修の養成課程を通じた地域偏在・診療科偏在対策等とも一体として議論すべきテーマであり、プロジェクトチームでの取りまとめがあり次第、改めて当委員会においても引き続き議論を行う。
・ なおいずれも地域医療提供体制に重大な影響を与えかねないテーマであり、地方団体や当事者との間で綿密な意見交換を行うこと、改革のタイミングも含めてデータに基づいた丁寧かつ注意深い議論と足取りが必要であることは、論を待たない。

4.医療保険制度の改革について
・ 医療保険制度の改革においては、これまでに記した医療提供体制の改革に加え、歯科健診、歯科口腔保健の充実を含む予防・健康づくりの強化やポリファーマシーの是正、医療提供体制の改革による医療の機能分化・連携などによる医療費適正化の推進、国保の基盤強化、さらには、オンライン資格確認等システムやマイナンバー制度等、インフラを最大限活用するとともに、健診データ提供に係る仕組みの整備による医療のデジタル化やデータヘルスの推進、医薬品の研究開発促進やセルフメディケーションの推進等も含めた、総合的なパッケージとしての改革を進める必要がある。この提言においては、特に議論が集中した後期高齢者の窓口負担割合の在り方の見直しや定額負担の拡大、不妊治療の保険適用等について紙幅を割くが、他の改革も軽んずることなく着実に実行することで、若年層から高齢者まで幅広い国民の理解と共感を求めつつ制度の持続可能性を高める努力を、たゆまなく続けなければならない。

(1)後期高齢者の窓口負担割合の在り方の見直し
・ 平成20年度にスタートした後期高齢者医療制度は、75歳以上の方の医療費を、自己負担分以外を後期高齢者からの保険料(約1割)、公費と現役世代からの支援金で約9割(公費5割、支援金4割)で賄うことで、退職して所得が下がる一方医療費は高くなる傾向の強い高齢者に対する医療を、社会全体で支える重要な仕組みである。
・ 制度開始以降、後期高齢者人口の増加、現役世代の人口減少に伴い、現役世代の保険料による支援金の負担は年々重くなっており、健保組合の解散が相次ぐなどのしわ寄せも生じている。令和4年度から団塊世代が後期高齢者入りすることで、現役世代の負担がさらに大きく上昇することが予測される。そうしたことも踏まえ本提言冒頭に記した通り、我が党においては昨年末に人生100年時代戦略本部のとりまとめを行い、単に年齢でひとくくりにするのではなく「負担能力に応じた負担」を求める方向性を既に打ち出している。
・ 一方、年金収入が主と考えられる後期高齢者の多くが、年齢を重ねるごとに収入が減少する傾向にあるほか、医療の必要性も高く、長期・頻繁な受診も必要となる。こうした高齢者の疾病、生活状況等の実態を見極めなければならない。
・ 本委員会における議論では、今年に入り新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で、現役世代から高齢者まで、国民それぞれに痛みをこうむり不自由に耐えてきたことを踏まえ、その中で本件について結論を得るべきタイミングではないという意見が強く述べられた。また令和4年度初とされている施行時期についても、新型コロナウイルス感染症の状況等を勘案し、柔軟に設定すべきという意見もあった。
・ さらなる負担を高齢者世代と現役世代で分かち合う改革を断行することとしても、窓口負担を2割とする範囲は、高齢者が必要とする医療の特性を勘案した上で、抑制的であるべきであり、同じ高齢者を対象とする介護保険制度が自己負担割合2割とされるのが被保険者の上位20%としていることを参考とし、この範囲を上限と設定すべきとする意見が大勢を占めた。
・ なお後期高齢者の特性としてほぼ全員が外来受診をしており、2割負担を求める場合窓口負担が倍になる方も多い。そこで外来診療に対しては、長期・頻回の受診による急激な負担増を抑える措置も検討すべきである。
・ 現役世代の負担軽減はこの改革のみによるべきものではなく、健保組合の財政状況などを念頭に置きながら、医療保険制度の持続可能性の向上のため、公費による被用者保険支援の拡充についても検討を進めるべきである。

(2)定額負担の拡大
・ 大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るため、3.(2)で記した外来機能の報告制度を活用し、紹介患者への外来を基本とする医療機関として自ら報告した医療機関のうち一般病床数200床以上の病院を、紹介状なし受診時定額負担の徴収を求める対象に追加するべきである。
・ また、より機能分化の実効性が上がるよう、定額負担の増額をすべきである。その際敢えて紹介状なしで大病院の外来を受診する患者の初診、再診について保険給付を行う必要は高くないことから、一定額を報酬から控除することも考えられる。
・ なおその際、総合内科専門医など紹介状なしでも行けるアクセスを残すべき部分もあること、外来機能を明確化することによりかえって患者の過度な集中を招くことがないようにすべきこと、再診における定額負担の徴収率が低い現状を踏まえ、特定機能病院等からの逆紹介の円滑化等別の議論もあること等に留意が必要である。

(3)不妊治療の保険適用に向けた検討
・ 不妊治療(体外受精、顕微授精等)については、現在行われている実態調査を踏まえ、診療報酬改定による保険適用を目指して検討を進めるべきである。その際、現在自由診療の下で多様な治療が行われている実態を踏まえ、不妊治療に取り組む医療現場及び治療を受ける当事者の方々にとって現在よりも不都合を被ることがないよう、助成制度や保険外併用療養等の制度も組み合わせた実施も視野にいれつつ検討を行うべきである。
・ また「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供する」という成育基本法の理念に沿った、子育て支援全体の中における一施策であることを常に意識し他施策との連携を図りながら検討を進めるべきであり、かつそのように説明を行うべきである。

(4)その他
・ 傷病手当金の見直し、「現役並み所得」の見直し、薬剤自己負担の引上げ、任意継続被保険者制度の見直し、育児休業保険料免除の見直し、負担への金融資産等の保有状況の反映の在り方、医療費についての見える化等については、現在の政府の検討状況に関し特に異論はなかった。これらに関し、必要な改革については積極的に検討を重ね、推進されたい。

以上

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2020年11月23日 (月)

「橋本がく前進の集い2020」における感染対策の概要および講演配布資料

 令和2年11月23日(月・祝)、倉敷アイビースクエアにおいて、「橋本がく前進の集い2020」を開催いたしました。多くの方にご参集をいただき、また倉敷市・早島町から多くのご来賓のご来場を賜って開催できたこと、篤く御礼を申し上げます。

 毎年「前進の集い」は、立食パーティーの形式で行っておりましたが、今年は新型コロナウイルス感染症の流行下かつ拡大中であるため、形式を改め、感染対策を行いセミナーとして開催しました。対策の概要について、お越しいただいた皆さまには開会前にアナウンスでお知らせしましたが、念のためこちらにも記録を残し公表いたします。主催者なりに工夫を重ねしましたが、なお改善の余地もあるかもしれません。ご参考にしていただければ幸いです。そしてどうぞ引き続きおひとりお一人が手指衛生と三密回避に努めていただきますよう、お願い申し上げます。

 なお今回は、橋本がく自身がセミナー講師となり、「新型コロナウイルス感染症の今」[配布資料PDFダウンロード]と題して講演を行いました。こちらの資料もどうぞご参考にしてください。

【感染対策の概要】

●開催形態

・アイビースクエア本館のすべての会場を貸し切り(未チェックの来場者を防ぐため)
・懇親会の中止、お土産としてお弁当を用意(会食時の感染リスクを避けるため)
・web配信の実施(来場を控える方のために)
・会場の定員1/3以下に限定(政府の指針は講演会については100%ですが、念のため約1/3に限定)
・椅子の配置の工夫(前後左右1mの間隔をあけ、前後の列はずらして配置)
・換気の徹底(エアコンおよび換気扇の使用、扉はすべて全開、ロビーも扉開放)
・開催時間の短縮(来賓の方を選挙区内のみに限定、国会議員にはメッセージのみ依頼)

●運営上の対策

・サーモグラフィーによる来場者全員体温チェック、マスク着用の依頼
・パネルによる案内誘導(係員も極力発声しないですむように、必要な場合はマイク・スピーカーを使う)
・当日現金受付、来賓受付以外の受付廃止(受付時の渋滞を防ぐため)
・当日現金受付・来賓受付における透明アクリルボード設置
・来場者チェックシートの記入依頼、座席でのチェックシートおよび受付票の回収、回収後の座席移動禁止(当日誰がどこに座ったかを記録に残すため。保健所から照会を受けた場合には、情報提供いたします)
・演台、司会台への透明アクリルボード設置
・発言者ごとのマイクの交換および消毒
・無声で勝つぞー!コール(先導者と司会がマイクで発声、他の人はアクションのみ)
・高さ180cmのアクリルボード越しの立礼見送り(握手代わりにグータッチする場合は、消毒して行う)

●写真記録

(パネルでの案内その1)
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(パネルでの案内その2)
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(透明ボードを設置した現金受付)
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(高さ180cmの立礼用透明ボード)
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(サーモグラフィーによる体温測定)
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(スタッフによる手指消毒の依頼)
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(間隔を空けた座席配置)
201123syomen_zaseki

(透明ボードを設置した司会台)
201123shikaidai

(透明ボードを設置した演台)
201123endai

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2020年9月15日 (火)

厚生労働副大臣退任にあたり(二年ぶり二回目)

●はじめに
 8月28日に安倍晋三総理が体調を理由に辞意を表明され、昨日9月14日に新たな自民党総裁として菅義偉官房長官が選ばれました。明日16日に安倍内閣が総辞職し、直ちに衆参両院で首班指名が行われ、組閣ののち菅内閣が誕生します。私は昨年9月13日に厚生労働副大臣に就任しましたが、安倍内閣総辞職に伴い、明日退任することとなります。

 厚生労働大臣政務官退任時以来、それぞれのタイミングで振り返りをしてブログを書いています。今回も記してみます。

<振り返りシリーズバックナンバー>
厚生労働大臣政務官退任にあたり(2015.10.8)
外交部会長を振り返って (2016.8.2)
厚生労働副大臣退任にあたり(2017.8.7)
厚生労働部会長を振り返って(2018.10.3)
この一年を振り返って(2019.9.7)

●新型コロナウイルス感染症対策における副大臣の役割

 この間の最大の出来事は、やはり新型コロナウイルス感染症の蔓延です。厚生労働省在職三回目でこれまでもさまざまなトラブル等に直面しましたが、世界レベルの危機に直面したのは今回が初めてです。大臣政務官在職時にエボラ出血熱疑い患者発生の対応経験はありましたが国内での感染や蔓延という事態には至りませんでした。普段から厚生労働省健康局結核感染症対策課は感染症の突然の発生に備える体制を持っていますが、このレベルになると全庁的対応が必要となります。そこで、新型コロナウイルス感染症対策推進本部が一月下旬に立ち上げられました。加藤勝信厚生労働大臣のご英断により、副大臣・大臣政務官も担務に関わらず全員が新型コロナウイルス感染症対策を担当すべきこととされたため、稲津久副大臣、小島敏文・自見はなこ大臣政務官とともに、皆で対応にあたることとなりました。こうした中でしたので、副大臣としても、意識して普段とは異なる活動をしました。どのようなことを意識していたか、以下に記しておきます。

1) 指示命令系統の一本化と円滑化
 危機にあって組織に必要なことは、指示命令系統が乱れないことです。「船頭多くして船山に上がる」のことわざ通り、いろいろな人が別々の指示を組織に出す状態は混乱のもとであり、避けなければなりません。またトップの指示が末端まで浸透するように留意も必要です。組織における伝言ゲームは事故のもとです。「副大臣は役人ではなく政治家なのだから、政治的意思決定をしてほしい」というコメントをいただいたことはありますが、厚生労働省において意思決定権者は唯一加藤厚生労働大臣なのであって、ナンバー2たる私以下の全ての職員は加藤大臣の意思決定を支え、あるいは決定されたことを実現するために動くべきものです。特に非常時においてはなおさら意識しなければなりません。

 そのため、大臣室で行われる新型コロナウイルス感染症対策関係の打ち合わせに極力毎回同席するとともに、対策本部の班長会議も予定がなければ毎回出席し、大臣指示が省内に浸透しているかどうか、進捗しているかどうかを確認することとしました。また、専門家の先生方による会議、すなわち厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの会議や、政府新型コロナウイルス感染症対策本部分科会などの会議、また全国知事会や医療関係団体との協議にも極力出席し、議論を聞きました。3月~5月頃が最も厚生労働省が忙しかった時期だと思いますが、例えばその頃の日程は早朝から予算委員会や厚生労働委員会の答弁の予習、昼間は委員会質疑対応、夕方から数時間にわたる大臣室での打ち合わせ、23時頃から対策本部班長会議、その後また打ち合わせや省内ラウンド(後述)といった日程になることが普通でした。もちろん対策本部の皆さんも昼夜を分かたぬ仕事ぶりでした。新型コロナウイルス感染症対策では厚生労働省から事務連絡が多数発出されていますが、ひとつひとつがそうした協議の積み重ねの上に作成されたものです。

 なお決してすべての会議に出席していたわけではありません。総理官邸での打ち合わせや省庁横断的な連絡会議、またWHOやILOといった国際機関、G7など他国とのミーティングは、加藤大臣や事務次官、医務技監などにお任せしていました。また国会対応も、大臣の代わりに予算委員会での答弁を稲津副大臣とともに担当していた時期は一時ありましたが、予算委員会や厚生労働委員会での答弁はおおむね大臣が対応し、他委員会での答弁は副大臣または大臣政務官という一般的な分担で対応しました。

2) 万一の際のバックアップ
 同時にそうした場合に考えなければならないのは、加藤大臣に急病等万一の事態があっても厚生労働省の動きを止めてはならないということです。当然ながらその際には別の方が大臣に任命されることとなりますが、支障なく引き継ぐために経緯等を新大臣にお伝えしなければなりません。場合によっては臨時に代理を務めなければならないかもしれません。前述の会議等の同席にあたっては、内心ではそういう想定も行っていました。幸いにしてそのような事態は発生することなく退任を迎えられそうなのでホッとしています。野球の試合中に控え選手がベンチ裏で素振りをするようなものですから出番がなければめでたいことですが、それも緊急時における副大臣の仕事だと考えます。なお大臣室での打ち合わせにおいて垣間見た、激務の最中における加藤大臣の明晰さ、カツンとした決断力、忍耐強さとタフさには深く感服しましたし、本当に勉強になりました。

3) 省内ラウンド
 省内の対策本部は、大部分の班が2Fの講堂に集まっていますが、一部別の会議室などにいる班もあります。また時期により班構成の変更もありましたし、人の入れ替わりも少なからずありました。そうした中で班長会議だけでは把握できない各班の課題や職員の方々の状況を把握するため、省内の各班を歩いて巡りました。これは病院勤務経験のある自見はなこ大臣政務官の発案で、しばしばセットで省内を歩き回りいろんな方に声をかけてはあれこれお話を伺っていました。これもその時々で大変勉強になりました。

4) 現場対応の責任者
 横浜港におけるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の支援にあたっては、現地対策責任者として3週間にわたり主に船内で対応にあたりました。現地対応が必要な場合、中央と出先でいかに意見交換を重ねてもどうしても温度差ができてしまいます。その際に私が現地にいることで、事務的に話が通じにくいことでも直接加藤大臣や各局長に判断を交えて意見具申を行い、大臣の的確な意思決定につなげてもらうことができたものと考えます。また8月中旬に沖縄県から看護師等派遣の要請があった際も、沖縄県庁において玉城知事や謝花副知事らとご相談しながら、全国知事会や防衛省といった支援側、沖縄県医師会や沖縄県看護協会さらには現地の医療機関など受援側を結び、スムーズな応援体制の構築の道筋をつける役割を果たせたと考えています。最高指揮官である大臣が本省を離れることは基本的にはできませんから、こうしたことも副大臣の仕事でしょう。

 また直接現地に赴いてはいませんが、長崎県でのクルーズ船対応や6月初旬の北九州市での感染拡大対応などにおいて現地と本省の間で行われた遠隔会議などにも極力出席し、状況の把握と適切な支援の実施に努めました。

5) ICT関係の統括
 ブログ「厚生労働省における新型コロナウイルス感染症対策に関するICTの活用」で記したように、新型コロナウイルス感染症の蔓延という危機への直面にあたり、厚生労働省は電話やファックスせいぜい電子メールといった情報ツールで臨んでおり、そのためさまざまなシステムを構築することとなりました。ただ、突貫工事で作ったシステムですから、現場への普及を進めるとともに改良も続ける必要があります。また法律や制度との整合も問われますし、変更にも対応しなければなりません。さらに各システム間で重複や縦割りに伴う無駄なども生じかねなかったため、そうした調整も行わなければなりません。これらはもともとICT人材に乏しい厚生労働省には非常に荷の重い仕事でした。そこで内閣官房IT室の力を借り、また6月からは神奈川県で医療危機対策統括官を務められていた畑中洋亮さんに健康局参与として厚生労働省の対策本部に入っていただき、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部のCIO体制を整備して私が対策本部CIOとして各システムの作業進捗を管理し部署間やシステム間の連携を行う体制を設けました。今後も東京オリンピック・パラリンピックを控えた水際対策および入国者の支援、さらには新型コロナウイルスのワクチンの接種支援といった大規模ミッションが控える中、これらを支援するシステム整備も早急に具体化しなければなりません。引き続きこうした体制が継続することを期待します。

6) 情報発信
 新型コロナウイルス感染症およびその対策については、時々刻々と状況は変化しますしまた国民の権利の制限に関わることもあり、まずそれ以前に健康は最大の関心事ですから、政府からの情報発信は大事なものです。公式には、安倍総理による折々の記者会見や西村大臣・加藤大臣の定期的な記者会見、また専門家会議や分科会後の専門家の方々による記者ブリーフィング、事務方による個別事業に関する記者ブリーフィング、そしてWebサイトやtwitterなどによる情報発信などが、随時行われてきました。ただ、それだけではマスメディア経由となり必ずしも全体像が伝わりきらないこともあること、特に当初は厚生労働省の情報発信自身もタイムリーさに欠けることもあったこと、あるいは手指消毒徹底や三密回避、偏見差別対策などとにかくしつこく繰り返してできるだけ多くの方々にお伝えするべきことを繰り返しにくいことなど、工夫の余地もあるように思われました。

 そこで、私のブログやFacebookを通じて、折々に新型コロナウイルス感染症やその対策に関するさまざまな内容を記すことに取り組みました。そのため今年の2月以降8月くらいまでは、ほぼそれ以外の内容を記すことを控えました。ご参考までに、関係するブログのリストを以下に記しておきます。振り返って過去の記事を読むと今から思えばいろいろ感じることはありますが、その当時の認識として保存しておくべきことなのでしょう。

<新型コロナウイルス感染症対策全般>
新型コロナウイルス感染症の現状と見通しについて(2/6晩現在)(2020.2.7)
個人的メモ:新型コロナウイルス感染症対策の今後について(2020.7.10)
秋以降の新型コロナウイルス感染症対策について(2020.9.6)

<個別の取り組みや状況について>
新型コロナウイルス感染症に関するニューヨーク市、州の現状(2020.3.20)
厚生労働省における新型コロナウイルス感染症対策に関するICTの活用(2020.5.22)
新型コロナウイルス感染症のワクチンについて(2020.8.22)

<クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」関係>
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」について(2020.2.9)
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」について(その2)(2020.2.16)
ダイヤモンド・プリンセス号の対応を終えて(2020.3.15)
ダイヤモンド・プリンセス号現地活動の概要(2020.4.19)

  ダイヤモンド・プリンセス号対応については、自見大臣政務官と連名の英語論文をGlobal Health & Medicine誌に投稿しています。
Challenges of COVID-19 outbreak on the cruise ship Diamond Princess docked at Yokohama, Japan: a real-world story

なお、ブログやFacebookは個人的な活動として行っていますので、全て自分で記しています。またBSフジ「プライムニュース」において、厚生労働省の取り組み等についてお話する機会を何度も頂けたことは誠にありがたいことでした。一方、twitterに予断を与えうる投稿をして削除することとなったこともあり、危機時における情報発信の難しさも痛切に感じました。

 以上のようなことを考えながら、日々を過ごしていました。1月下旬以降はほぼ新型コロナウイルス感染症対策のみに勤務時間を費やす状況が続きました。9月14日時点において累積の陽性者数は75,217人、亡くなった方が1,439人です。亡くなられた皆さまのご冥福をお祈り申し上げますとともに、感染された方やそのご家族のみなさまに、心からのお見舞いを申し上げます。この状況について現時点でのこの結果を軽々に評価をすることはまだ困難です。台湾や韓国など、より死者数等の少ない国々もありますが、欧米のような爆発的な感染者増加を起こさないで済んでいるとも言えます。何はともあれ、まずはご協力をいただいた全ての皆さまに、心からの感謝を申し上げます。

●地域医療構想と新型コロナウイルス感染症対策
 ブログ「令和元年末のご挨拶」で記した通り、昨年は地域医療構想の関係で地方自治体代表の皆さまといろいろご相談を申し上げる機会が多くありました。とりわけ鳥取県の平井伸治知事とは何度もお目にかかっていましたが、今回の新型コロナウイルス感染症対策においても全国知事会の担当となられたため幾度も緊密に意見交換し、都道府県レベルでの対策の実態などをご教示いただきました。全国知事会としても会長の飯泉嘉門徳島県知事、黒岩祐治神奈川県知事、西脇隆俊京都府知事とは幾度もネット会議でお話を伺いました。

 今回の新型コロナウイルス感染症対策では、新型インフルエンザ特措法の施策体系からしても、各都道府県知事の責任と権限が強いものであり、実際に都道府県独自の取り組みや緊急事態宣言、各知事の発言などがこれほど注目された機会もなかったと思います。また実際に、医療提供体制の整備などは都道府県が主体となって行っていただいたため、上記のように厚生労働省としても緊密な連携を行いました。

 昨年は、地域医療構想・医師偏在是正対策・医師の働き方改革で「三位一体の改革」と称して取り組んでいましたが、専門医制度や地域枠のあり方なども含め、引き続き地域医療の提供体制については議論が続いています。新型コロナウイルス感染症対策が仮にひと段落したとしても、今後も各都道府県知事や全国知事会の存在は、厚生労働省にとって一層重視しなければならないものとなったのではないかと考えます。

●ハンセン病元患者・家族への偏見差別対策と新型コロナウイルス感染症対策
 もう一点、やはり「令和元年末のご挨拶」において記していた内容で、ハンセン病元患者およびご家族に対する偏見差別の解消の問題があります。こちらについて今年も引き続き協議などが行われる予定でしたが、残念ながら中断しており進展をさせることができませんでした。

 一方で新型コロナウイルス感染症の関係でも、感染者やクラスターが発生した施設、さらには対応にあたる医療機関やその従事者にいたるまで、不当な偏見差別にさらされることとなりました。目に見えない未知ウイルスへの恐怖という感情は誰にでもあるものですが、だからといって思いがけず感染してしまった方やましてや対策に従事している方そしてその家族までいたずらに忌諱しても、社会にとっても本人にとっても辛い中に鞭を打たれるような感覚になるだけで、何も良いことはありません。こうしたことがまた繰り返されてしまった状況は、本当に残念としか言いようがありません。私たちは改めて、ハンセン病の歴史から正視しなおす必要があるものと考えます。私自身も今後どのような立場にあっても、引き続き何らかの形で取り組みたいと考えています。

●その他
 そもそも昨年9月の厚生労働副大臣就任は、台風で千葉県等に大きな被害が出た直後でした。続けてさらに別の台風にも襲われ、長野県や埼玉県、福島県、宮城県などで洪水も発生しました。今年も7月に熊本県や鹿児島県で豪雨災害が発生し、先日も大型台風の通過がありました。災害被害からの復旧復興を行わなければなりませんが、さらにコロナ禍の中ということで災害ボランティア等の活動が制約されるという新たな状況も発生しました。平成30年豪雨災害以来取り組んでいる避難所の環境改善について、昨年の災害でも福島県伊達市などの避難所に出張しダンボールベッドなどが導入されている様子を拝見しました。また先日、災害ボランティアセンターに関する自治体の人件費等について国費が支出される方針になったと聞いています。引き続き平成30年7月豪雨の際の教訓を具体化しなければなりません。

 国際的には、昨年10月にマニラで行われたWHO西太平洋地域委員会会合 、岡山市で行われたG20保健大臣会合(レセプション・視察)、11月にビエンチャンで行われたASEAN+3社会福祉大臣会合 、今年2月にバンコクで行われたPMAC2020/UHCフォーラム2020 に出張しました。それぞれの会にて、各国の保健衛生や医療福祉の状況を学びまた日本の状況をお伝えすることに努めました。なお2月中旬以降はこうした国際会議はすべてオンラインとなり、加藤大臣が対応されています。これまで国会対応等で大臣がなかなか出張できず、副大臣対応となることが多かったので、日本のプレゼンスを高める意味では良かったかもしれません。

 なお私ごとになりますが、家族についても触れます。進学の関係で、今年の4月から倉敷にいた次女次男を上京させ、社会人になった長女とともに衆議院宿舎で同居しています(大学生の長男は都内で一人暮らし)。2月から3月にかけて、ちょうどダイヤモンド・プリンセス号の対応をしていたり健康観察期間として宿泊施設で過ごしていたりしたため、準備には知人友人や事務所スタッフの助力や長女長男の働きによるしかなく、いろいろご迷惑をおかけしました。しかし結果として4月以降の緊急事態宣言下の時期を宿舎にて子どもたちと一緒に過ごすことができたのは、父親としての私にとっても子供たちにとっても、タイミングがよかったなと思っています。倉敷で子どもたちがお世話になった方々に深くお礼を申し上げるとともに、ありがたいことに皆で仲良く元気にそれぞれ会社や学校に通って過ごしていることをご報告申し上げる次第です。

●謝辞

 今回のコロナ禍において、厚生労働省は全力で対応にあたりました。その結果を評価するにはまだ早いですし、少なくとも全てが上手くいったわけでもないとも思いますが、それでも持てる力を結集し一丸となって対応にあたっていたことは紛れもない事実です。こうした中で、加藤勝信厚生労働大臣を筆頭に、稲津久厚生労働副大臣、小島敏文厚生労働大臣政務官、自見はなこ厚生労働大臣政務官それぞれが持ち味を生かして対応に当たられました。この難局にあたりご一緒できたこと、さまざまご指導いただいたことに、深く感謝申し上げます。

 また、厚生労働省職員の方々(出向先などから臨時復帰された方々、他省からの派遣の方々も含めて)には、本当に昼夜を分かたぬ激務を通し、新型コロナウイルス感染症対策推進本部の内外を問わず今回の対応にあたっていただいたことに、心から敬意と感謝を申し上げます。映画「シン・ゴジラ」の巨災対のようにドラマティックな展開を遂げるわけでもないし、ひと握りのヒーローヒロインが何かをきっかけに解決策をひらめくような美しいものでもありません。現実はとても泥臭く電話かけや書類作成をひたすらし続けていたようだったかもしれません。しかしその一つ一つの仕事の積み重ねこそが、この日本を新種のウイルス蔓延から防ぎ続けているのだと私は信じています。幹部から若手まで、それぞれの場面でそれぞれの個性を発揮して、各方面の対策を同時並行的に進めるさまは、さながら群像活劇を見るが如きものでした。すべての方々の名前を記して活躍を残したいところですが、紙幅の都合上お二人の名前を代表として挙げます。水谷忠由さんは毎日の大臣室打ち合わせおよび班長会議を粘り強く仕切り、ありとあらゆる案件をバランス良く捌き続けられました。寺谷俊康さんは対策本部地域支援班の一員として、北九州市、新宿区、そして沖縄県庁と感染が深刻化している自治体に率先して派遣され、各地での受援体制構築に汗をかいていただきました。お二人をはじめすべての方に拍手喝采を送ります。もちろん、内閣官房コロナ室やIT室、防衛省、総務省など、さまざまな形で他省庁の方々にもお力をいただきました。篤く御礼申し上げます。
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 今回の対応で、感染症対策の専門家の先生方のお話を直接伺う機会をたくさんいただいたことは、本当に勉強になりました。ダイヤモンド・プリンセス号内の現場にて、また厚生労働省アドバイザリーボードや新型コロナウイルス感染症対策分科会など会議の場にて、素人の私にもわかりやすくしかし重要な議論を伺うことができたことは、今後の大きな糧になるものと思います。DMATの先生方にも、それぞれの現場で熱意をもってお力をいただき本当に心強く感じました。ありがとうございました。日本医師会をはじめとする医療関係団体の皆さまにも、さまざまな場面で相談させていただき、お世話になりました。もちろん民間企業の皆さまにもお世話になりました。特に今回は、水害対応からダイヤモンド・プリンセス号でのスマホ配布、さらには大規模調査まで、LINEさんには大きくお力をいただきました。

 そうしたあれこれができたのも、副大臣室のスタッフの皆さんあってのことです。大坪審議官から「占部さんはクールぶってるよね」と指摘され「”ぶってる”ってなんですか!」と目をむいていたクールに見えて本当は熱い男・占部秘書官を筆頭に、石川主任秘書、小澤さん、運転手の山賀さんの温かいお支えあって、なんとか副大臣としての任期を全うすることができました。深く感謝申し上げます。
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 またもちろん、こうした仕事をすることができるのも、地元倉敷・早島の皆さまが私を国会に送っていただいているおかげです。とくに今回は半年近くも地元に戻ることができず、大変ご心配をおかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした。そして変わらずご支援をいただいていることに、心から御礼申し上げます。ありがとうございました。

 二回目の副大臣として厚生労働省に戻った際には、このような一年を過ごすとは全く予想だにしていませんでした。しかし国の危機に際してチーム厚生労働省の一員として対応の一端を担う経験をでき、人生においても間違いなく忘れ難い任期となりました。この先どのような立場をいただくかわかりませんが、いただいた経験とご縁を大事にして引き続き努力して参ります。
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2020年9月 6日 (日)

秋以降の新型コロナウイルス感染症対策について

 8月28日、安倍総理が健康上の問題により辞意を表明されました。かねて検査のため病院に通う姿が報道されており心配しておりました。これまで長年にわたり持病と付き合いながら総理の重責を担ってこられたことに、心から敬意を表します。

 同じ日に新型コロナウイルス感染症対策本部において、「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取り組み」が決定されました。安倍総理の記者会見でも触れられていましたが、今後の政府の取組みの方針となる重要なものであり、後継の総理が誰になろうとも踏襲されるべきものです。

 この後に公表された内容も含め、これまでの対策から転換をする部分もあります。改めて自分なりに整理してここに記しておきます。基本的に公表資料によって記述しますが、私見も含まれており、政府や所属組織団体等を代表するものではありません。文責は橋本がく個人に帰属します。

1.新型コロナウイルス感染症に関する基本的な認識

 感染事例の蓄積から、いわゆる3密環境や大声を出す環境での感染が多いこと、感染者のうち8割の者は他の人に感染をさせていないこと、といった認識は引き続き維持されています。そのため、やはりクラスターの制御が感染拡大防止のカギです。各業種における感染拡大予防ガイドラインの遵守や、3密の回避、マスク着用、フィジカル・ディスタンスの徹底、手指消毒や換気の徹底、さらには接触確認アプリの活用などにより、社会全体での感染リスクがかなり下がることが期待されます。

 感染者のうち8割は軽症または無症状のまま治癒しますが、2割で肺炎症状が増悪し、人工呼吸器管理などが必要になるのは5%程度といわれています。65歳以上の高齢者や慢性呼吸器疾患、糖尿病、肥満などを有する者で重症化のリスクが高くなります。唾液を用いた検査手法の確立等により検査に要する日数は2月~4月ごろより短縮されました。また医療現場も徐々に経験を積んでおり、治療においてもレムデシビル、デキサメタゾンといった医薬品の標準的な活用、人工呼吸器装着時における腹臥位の励行なども行われるようになりました。

 こうした基本的な認識は、これまでと大きく変わるものではなく、現時点ではウイルスや病気そのものが年初の発生時から大きく変化したとは考えていません。ただ個人的には、春先と比較して夏以降は保育園や小学校といった子どもの感染例が増えたような印象はあります。また夏以降の感染拡大について、感染者数の多さの割に重症者数や死亡者数がまだ春先ほどには増えていないことは、積極的な検査により早めに感染者を発見できるようになった結果であろうと思います。

2.感染症法における運用の見直し

 現在、新型コロナウイルス感染症は指定感染症として、普通の二類感染症以上の権限行使ができることとなっています。感染症法は予期していなかった自宅やホテルでの療養を行っているなど、事務連絡による運用で現実にフィットさせている部分などもあります。そうした面について整理するべく、9月2日に開催された厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの第7回会合において、「指定感染症としての措置・運用のあり方に関するWG」が設置されました(資料)。速やかに結論を得て、必要な対応を行うことが期待されます。

 なお、新型コロナウイルス感染症を、保健所や医療機関の負荷軽減のために季節性インフルエンザ並びの五類感染症にすべし、という議論もあるようです。仮にそうすると、措置入院や就業制限もできなくなり、医師の報告義務もなくなり、検査はすべて費用負担が発生し、入院にも費用負担が発生するという普通の病気扱いとなります。行政的には蔓延を放置することとなり、未だワクチンもない中で、おそらくは相当な数の高齢者や基礎疾患がある方が入院・重症化することになるのではないかと個人的には思うのですが、いかがでしょうか。

 また感染症法や新型インフルエンザ特措法そのものの改正の議論も、自民党などで行われています。政府においてもいずれ検証の上対応が必要なものと考えます。ただ、当面は目前の対策で厚生労働省のマンパワーが手一杯な中、法改正には相当に緻密な検討や作業が必要なため悩ましいところです。

3.秋冬の季節性インフルエンザ流行期に向けた検査および医療提供体制について

 秋以降、季節性インフルエンザの流行と新型コロナウイルス感染症が同時に感染拡大する状況が想定されることとなります。この両者は臨床的に鑑別することは困難なことから、現在の体制のままで臨むと相当な混乱が起こることが予想されます。そこで、これまでの「帰国者・接触者相談センター」から「帰国者・接触者外来」へという受診の流れを改め、かかりつけ医など最寄りの診療所などに電話等で相談して、より多くの地域の医療機関(仮称「検査・診療医療機関」)や外来・検査センター等で検査を行える体制を、10月中をめどに整えるよう各都道府県に対して事務連絡「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」を9月4日に発出しました。今後各自治体において具体化されるものと思われます。

 また発熱等の症状により受診をした際、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの検査を両方迅速に行えるようにしなければなりません。そこで季節性インフルエンザの検査件数を踏まえて1日20万件程度の新型コロナウイルス抗原簡易キットによる検査を行えるようメーカーに対し増産や精査の前倒しを働きかけるとともに、引き続きPCR検査や抗原定量検査の機器の整備も引き続き進めます。

 なお季節性インフルエンザのワクチンについては、成人量で6,356万回分のワクチン今冬に供給される見通しです。可能な限り増産しており、昨年の使用量を12%上回ります。重症化予防の効果があるとされることから65歳以上の高齢者には予防接種法上の定期接種となっています。また日本感染症学会は、医療関係者、高齢者、ハイリスク群(妊婦等)に強く接種が推奨しており、また小児へのワクチン接種も強く推奨しています。こうした方々を含めスムーズに接種していただけるよう、製造から出荷までの期間短縮などに努めています(参考資料:「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備」)。

 医療機関や関係団体からは、医療機関の経営が困難であるという声をたくさんいただいています。「地域の医療提供体制を維持・確保するための取り組み・支援を進める」という記載は「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取り組み」にあり関係省庁と折衝中ですが、残念ながら未だ成案を得ておりません。今後に向けた体制整備を進める上でも、安心して取り組んでいただけるように速やかに具体化すべく取り組みます。また、病床や宿泊療養施設の確保についても10月分以降の予算の確保を行い、体制整備を進めます。

4.感染拡大防止のための検査対象の拡大

 行政検査の対象について、体制の整備に伴って徐々に拡大させています。8月からは、多数の感染者やクラスターが発生している地域においては、医療機関、高齢者施設等に勤務する方、入院・入所者全員を対象に、一斉・定期的な検査の実施を可能としました。また、特定の地域や集団、組織等において、関連性が明らかでない患者が少なくとも複数発生しているなど、検査前確率が高いと考えられ、かつ、濃厚接触を生じやすいなど、クラスター連鎖が生じやすいと考えられる状況にあると認められる場合における、当該地域や集団、組織等に属する者も行政検査の対象になります。とてもわかりにくいですが、要するに特定の飲食店エリアなどに勤める方を対象に集中的に検査を行った例等が行政検査に該当しうることを示したものです。なお、行政検査の場合に自治体に1/2の負担があることが問題視される場合がありますが、国の負担金が予算上手当される場合には地方創生臨時交付金も同額手当されることとされており、実質的に自治体負担が生じない扱いとなっています。

 それに加え、市区町村において、一定の高齢者や基礎疾患を有する者について本人の希望により検査を行う場合に国が支援する仕組みを設けることとともに、自費の検査についても行政検査に支障が生じない範囲で行える環境を整備することも示されました。今後具体化されるでしょう。

4.医薬品およびワクチンについて

 レムデシビル、デキサメタゾンといった治療薬について必要な患者への供給の確保を図るとともに、臨床研究や治験などについて手続き簡素化や優先的な審査などを引き続き行います。また積み重ねられた治療に関する知見を整理した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」は9月4日に第3版が公表されました。

 新型コロナウイルス感染症のワクチンについては「新型コロナウイルス感染症のワクチンについて」で概ね記した通りですのでご参照ください。また8月31日にGaviワクチンアライアンスに対し、COVAXファシリティへの参加の意思の表明を行いました。これはGaviワクチンアライアンス、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)及びWHOが中心となり、新型コロナウイルス感染症のワクチンを共同購入する国際的な仕組みであり、日本にとってはワクチン確保ルートをもう一つ確保することを意味します。こうした取り組みを通じ、必要な量のワクチン確保をさらに進めます(参考:9月1日加藤厚生労働大臣記者会見)。

5.来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて

 「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取り組み」では、国際的な人の往来を部分的・段階的に再開することとし、成田・羽田・関西空港において1万人をこえる検査能力を確保すること、ビジネス目的の出国者が検査証明を取得するためにネットで予約できる仕組みを構築することが記されています。

 ただこの点については、来年に東京オリンピック・パラリンピックを控える日本としては抜本的に体制を強化する必要があるものと考えています。あくまでも私案ですが、多くの国々から観光客などを安心してお迎えできるためには、例えば下記のような準備を整える必要があるものと思います。多省庁にまたがるテーマとなるため難渋していますが、今後の検討と実現に期待します。


  • 多国間の入国管理・検疫の枠組み(検査精度の国際的な管理と相互認証を含む)
  • 検疫と連動した、入国者が国内での健康観察を行うための情報基盤
  • 発熱等があった際、安心して自国語で連絡できる電話・アプリによるサポートセンターによる、保健所・医療機関対応まで含めた寄り添い支援
  • 査証における民間旅行保険加入や一定期間の健康観察への同意の要件化、公費医療のうち一部は民間保険による支払いを優先する制度、医療機関の請求事務サポート…など

6.雇用・経済的な支援策の延長

 厚生労働省で行っている新型コロナ関連の雇用や生活に関する支援策の一部については、9月末で終了することとなっていましたが、8月28日に12月末までの延長が決定しました。具体的には、


  • 雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症特例措置
  • 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金
  • 小学校休業等対応助成金・支援金
  • 新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金
  • 働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)
  • 小学校の臨時休校に伴う病院内保育所等の対応に係る財政支援事業

が延長されています。

 また、緊急小口資金等の特例貸付、働き方改革推進支援助成金(職場意識改善特例コース)については、期限延長を行う方向で引き続き検討中です。

7.その他

 加藤厚生労働大臣よりご指示があり、8月15日夕方から急遽沖縄県に出張し、翌16日に玉城デニー知事とお目にかかりました。当時沖縄県では感染拡大が続き医療提供体制がひっ迫していたため看護師等派遣の要請が沖縄県から政府および全国知事会にあり、その対応の一環として菅官房長官に指名を受け派遣されたものです。現地の状況を踏まえ政府(防衛省・厚生労働省)および全国知事会、関係団体が協力し、医療機関を支援するための看護師や保健所を支援するための保健師を、全国から募り沖縄県に派遣しました。ご協力いただいた皆さまに、深く感謝申し上げます。過去二回の感染拡大の新型コロナウイルス感染症の経験から考えるに、必ずしも全国一律に蔓延するのではないようです。したがって、非蔓延地域から蔓延地域に不足人材の派遣を行うスキームは今後も有効に機能し得るものと思います。

 ITの活用も引き続き必要です。「厚生労働省における新型コロナウイルス感染症対策に関するICTの活用」で記した各システム・アプリは、正直に記せば突貫工事で構築したものばかりですので、必ずしもいきなり使い勝手の良い申し分のないシステムではないことは、十分に理解しています。使いながら引き続き改良を重ねていく必要があります。HER-SYSについては、国立感染症研究所の鈴木感染症疫学センター長を座長とする「感染者情報の活用のあり方に関するWG」において現場の保健所や地方衛生研究所のご意見も伺いながら、改修を進めます。また同時に、新型コロナウイルス感染症ワクチン接種やオリンピック・パラリンピック開催など、多くの人が関わる大規模な行政事務を的確に遂行するためには大支援システムの構築は必須であり、そうした新たなシステムの企画・開発も引き続き必要です。厚生労働省は否応なくDX(デジタル・トランスフォーメーション)の波の中にたたきこまれています。引き続き、さまざまな方の力をお借りして、努力しなければなりません。

 残念ながら、新型コロナウイルス感染症の感染者やクラスター発生施設、そして治療の最前線に立つ医療従事者の方々等に対する不当な偏見・差別・プライバシーの暴露などが、未だ根強く存在するようです。例えばインフルエンザで学級閉鎖になっても、誰もインフルエンザ感染者を悪く言う人はいません。新型コロナウイルス感染症についても、同様の受け止めになることが望ましいですし、必ずできるはずです。ただ、単に禁止をすればよいという単純な話だとは思いません。正しい知識の普及や、人の立場に立ってみることや、一部自治体で行われているようなネットでの不当な発言を等を保存する取り組みなど、多面的なアプローチが必要と思われます。8月20日に、新型コロナウイルス感染症対策分科会に「偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」が設置されました。今後の議論や取り組みに期待を寄せています。

おわりに

 4月5月の感染拡大期では、政府として緊急事態宣言を全国に発出する事態となり経済にも大きな影響を及ぼしました。一方、7月8月の感染拡大期では、知事による限定的な営業自粛等の発出などで拡大を止めることができました。これは様々な要因があるでしょうが、手指衛生の徹底や三密回避等の行動様式が国民に一定程度定着し、業種別ガイドラインの整備および実践が進んだことが大きいのではないかと個人的には思っています。

 もちろんまだ気を緩めてはならず、全国の一日あたり感染者数が一桁や二桁になる程度にまで抑え込み続ける必要はあると思われます。また、仮にそこまで抑えることができたとしても、クラスターが散発的に発生することは続くでしょうし、6月ごろの北九州市のように都市単位での感染拡大も起こるでしょう。そしてまた数か月後には、対策の取りづらいところを突いて全国的な感染拡大が三たび始まることも想定しておく必要はあるものと思います。

 しかし少なくとも、日本は再び全国的な緊急事態宣言を発することなく二度目の全国的な感染拡大を抑えることに成功しつつあるとは評価しうるわけで、対策は間違いなく進歩しているのです。そうやって感染対策と経済との両立を図り、社会の精神的な疲労や経済的ダメージを最小化し癒しつつ(そのために文化芸術やエンターテイメントも大事なのです!)粘り強く時間を稼ぎ、対策や治療法・医薬品のさらなる改良、ワクチン接種等によりこの病気を十分に抑えられるようになることを目指すのが、日本のとるべき戦略であると考えています。

 これから自民党総裁選挙が行われ誰が総理大臣になろうとも、また橋本がくも今後どのような立場になろうとも、置かれた立場で全力を尽くします。

 末尾に、毎回記すお願いを今回も記します。どうぞ、こまめに石鹸による手洗いを行い、密閉場所・密集空間・密接発声を避け、換気の良いところでお過ごしください。接触確認アプリCOCOAのインストールもお願いします。また、医療機関など現場に従事される方々のご労苦にもぜひ思いを致し、また感染された方やクラスターが発生した施設等には温かい治療や支援が受けられるようご配慮ください。心からお願い申し上げます。


Amabie

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2020年8月22日 (土)

新型コロナウイルス感染症のワクチンについて

 7月以降、新型コロナウイルスの感染が全国各地で続いています。その中で、やはり新型コロナウイルスワクチンについての期待をあちこちで伺います。現時点で、内閣官房および厚生労働省による資料(令和2年8月21日、新型コロナウイルス感染症対策分科会(第6回)資料3)を基に、新型コロナウイルスワクチンに関する現状について、橋本の私見として整理して記します。ぜひご参考にしてください。なお分科会がまとめられた「新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方」もぜひあわせてご参照ください。

1.ワクチンの開発状況について

 現時点(2020年8月下旬)において、主なもので、国内で5つのグループ、海外で6つのグループで開発が進められています。種類も不活性ワクチン、組み換えタンパク・ペプチドワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチン、ウイルスベクターワクチン等があり、それぞれに開発のスピードや実績等に差があります。

 進捗については、最も早いアストラゼネカ社とオックスフォード大で開発中のウイルスベクターワクチンで、イギリスにて第2/3相試験が開始しており、今夏にアメリカにて3万人規模で第3相試験を開始予定とされています。また国内においても、アンジェス社と阪大、タカラバイオ社で開発中のDNAワクチンが、既に第1/2相試験を開始しています。いずれのグループも2020年中から2021年までには臨床試験を開始することを目指しています。また供給についても、海外のグループを中心に2021年から数億人~10億人規模で開始されることを目指しています。

2.ワクチンの有効性と安全性、接種の判断について

 新たに開発されるワクチンの効果に関しては、臨床試験(治験)等で評価を行います。したがってその結果が判明するまでは確たることは言えません。また臨床試験等で評価できるのは、発症者を減少される「発症予防」と、重症患者(死亡・入院などを含む)を減少させる「重症化予防」の二つの効果です。これらは治験において、接種者と非接種者の経過を比較することで、効果を測定することができます。一方、接触した人の感染を防ぐ「感染予防」の効果については、もともと実証しにくいところ、そもそも感染しても発症しない人が多いこのウイルスに関しては、効果があるともないとも判断が困難であり、実証はほぼ不可能と思われます。また、大勢に接種することで集団免疫をつくる効果(=摂取していない人まで波及する予防効果)も考えられますが、少なくとも大規模接種前に実証することはできません。

 ちなみにインフルエンザワクチンでは、一定の発症予防効果(研究により20~60%)や、重症化を予防する効果が示されていますが、集団免疫効果はこれまで実証されていません。

 現時点で、先行する4つのワクチンの論文では、まだ症例数が少ないため確定的なことは言えませんが、有効性については、一定の液性免疫(抗体)、細胞性免疫が誘導されていることは示されています。しかし誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間についてはまだ評価されていません。また安全性については、接種後の局所部位反応の出現頻度が高いこと、重篤でない全身性の有害事象(倦怠感、不快感、筋肉痛、頭痛等)が高頻度(数十%以上)で発現することが報告されています。なおいずれも小児・妊婦・高齢者のデータが少なく、不明な点が多いです。

 一般的に、ワクチンの接種後には副反応が生じることはあり、これをなくすことは困難です。副反応には、比較的軽度だが頻度が高い副反応や、重篤だが極めてまれな副反応など、さまざまなものが含まれます。したがって、ワクチンの接種により得られる利益(有効性)と副反応などのリスク(安全性)の比較衡量により、接種の是非を判断する必要があります。同じワクチンであっても、重症化や死亡リスクが高い人は、副反応リスクが多少あっても接種することが望ましいという判断が可能ですし、重症化や死亡リスクが極めて低ければ、接種しない方が望ましい場合もあります。したがって新型コロナウイルスワクチンの接種にあたっては、ワクチンの特性に加え、接種対象者の年齢や医学的背景などを踏まえた新型コロナウイルス感染によるリスクを勘案し、総合的に判断することが必要でしょう。

3.ワクチンの確保について

 現在厚生労働省をはじめ政府では、国内での新型コロナウイルスワクチン開発の基礎研究、薬事承認、生産、接種体制のすべての過程について迅速化の取り組みや支援を行いつつ、海外のワクチンの確保にも取り組み、できるだけ早くワクチンが多くの国民のみなさまに接種可能な状況をつくるよう、努めています。ただそうした努力をもってしても、大量のワクチンを供給するには生産開始後半年~1年程度かかり得ますし、順次の供給となります。

 海外のワクチン確保については、米国のファイザー社と、ワクチン開発に成功した場合、来年6月末までに6000万人分のワクチンの供給を受けることで、7月31日に基本合意しました。また、イギリスのアストラゼネカ社とは、ワクチン開発に成功した場合、来年初頭から1億2000万回分の供給を受けることで合意しました。またアメリカのノババックス社および武田薬品工業が提携して日本国内でワクチン生産を予定していることが公表されています。さらに国内開発のワクチンもありますので、日本の人口と比しても相当な量のワクチン確保が期待できる状況ではあります。もちろん、ワクチン開発そのものが不首尾に終わる可能性も、依然頭に置いておかなければなりません。

 また、新型インフルエンザ予防接種については、「新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法」を平成21年に成立させました。今回の新型コロナウイルスワクチンに関しても救済措置が検討される必要があるものと思われます。

4.ワクチンの接種について

 2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の際には、予算事業として接種が実施され、ワクチンの生産量に限りがある中で、①インフルエンザ患者の診療に直接従事する医療従事者・救急隊員、②妊婦・基礎疾患を有する者、③1歳~小学校3年生に相当する年齢の小児、④1歳未満の小児の保護者、優先接種対象者のうち、身体上の理由により予防接種が受けられない者の保護者など、が優先接種対象者とされ、さらに小学校高学年から高校生に相当する年齢の者および65歳以上の高齢者についても優先的に接種することとされました。

 今回の新型コロナウイルスワクチンについては、上記の新型インフルエンの際の経験を参考にしつつ、新型コロナウイルス感染症の特徴を踏まえて検討されることになります。

 例えば、


  • 発症前から感染性があり、発症から間もない時期の感染性が高い
  • 重症化率は、全体として季節性インフルエンザよりは高く、特に高齢者や基礎疾患を有する者で高い
  • 若年から中年世代の重症者や死亡者は、比較的少ない
  • 入院期間が季節性インフルエンザより長く、入院医療に与える負荷が大きい
といった特徴が考慮され、予防接種の枠組みや接種対象者や接種順位について検討されることになるものと思われます。

 現時点では医療従事者や有症者に直接対応する救急隊員・保健師、高齢者・基礎疾患を有する者、妊婦、高齢者および基礎疾患を有する者が集団で居住する施設で従事する者等が検討の俎上にありますが、引き続き新型コロナウイルス感染症対策分科会などでご議論をいただき、また国民のみなさまからも丁寧にご意見を伺い、さらに検討を重ねます。

5.おわりに

 現時点では、新型コロナウイルスワクチンに関して記せることは以上のようなところです。多くの皆さまの期待は高いですし、私も期待はしていますが、一方でまだ開発中でありどこまでの効果が期待できるのか、副反応はどの程度なのか、またどのような時期にどのくらいの量が供給され得るのか、未確定の部分は多いです。こうした中で、政府としても、引き続きさまざまな情報収集を続けつつ、数量確保や接種体制整備の努力を行わなければなりません。さまざまな方々のご意見を伺いながら、全力を尽くします。

 一方で、今すぐできるわけでなく、接種開始はおそらく来年になってしまうものと思われます。新型コロナウイルス感染症は、年齢によって重症化しやすさなどが異なるとはいえ、高齢者でなくても重篤になる例もありますし、後遺症の可能性についても考慮すると、引き続き感染者は一人でも少ない方が望ましいです。

 どうぞ、こまめに石鹸による手洗いを行い、密閉場所・密集空間・密接発声を避け、換気の良いところでお過ごしください。接触確認アプリCOCOAのインストールもお願いします。また、医療機関など現場に従事される方々のご労苦にもぜひ思いを致し、また感染された方やクラスターが発生した施設等には温かい治療や支援が受けられるようご配慮いただけますよう、心からお願い申し上げます。

Amabie_20200710175201

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2020年7月10日 (金)

個人的メモ:新型コロナウイルス感染症対策の今後について

1. はじめに

 令和2年1月に中国湖北省武漢市において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が爆発的な感染拡大を起こしました。その後、日本も含め世界中に感染が拡大している状態となっています。私は、1月より厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長代理として、加藤勝信厚生労働大臣を支えて取り組んでいました。そのため2月冒頭以降ほぼ地元の倉敷・早島に帰ることもできず、多くのご支援いただいている皆さまにご無沙汰していることを、まずは深くお詫び申し上げます。

 通常国会も閉会し、緊急事態宣言も解除されてはいますが、徐々に感染者数が再び増加する傾向があり、なお予断を許すことはできません。改めて、日本政府の新型コロナウイルス感染症対策の方針や今後について私なりに整理をしてお伝えをし、その間のご報告に代えます。ご参考にしていただければ幸いです。なおこの記事は7月上旬に執筆しており、その時点における橋本がく個人の見解であることにご留意ください。政府や所属組織を代表するものではありません。厚生労働省の公式な情報は、最近見やすくなった厚生労働省webサイト「新型コロナウイルス感染症について」 をご覧ください。

2. 新型コロナウイルス感染症の特徴

(1)新型コロナウイルスの感染方法

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、飛沫による感染伝播が主体と考えられます。また換気が悪い環境では、咳やくしゃみなどが無くても、発声や荒い息などから生じる小飛沫によっても感染が起こることがあります(参考:NHKスペシャル動画 )。これは感染者に対する積極的疫学調査の結果、ライブハウス、コーラスグループ、スポーツジム、宴会やカラオケなどでのクラスター感染があったこと等から推測されたものです。また、接触感染もあると考えられており、例えばドアノブやエレベーターのスイッチ、手すりなどからウイルスが付いてしまった手で目をこするなどの動作をすることで、粘膜から感染します。

 有症者が感染伝播の主体ですが、発症前の有症者(その時点では無症候)や、発症間もない感染者からの感染性があることがこのウイルスの特徴であり、このわかりにくさが市中感染を増やすやっかいな要因とも思われます。

(2)新型コロナウイルス感染症の症状

 新型コロナウイルス感染症の症状としては、発熱、呼吸器症状(せき、のどの痛み、鼻水鼻づまり)、頭痛、強いだるさなどが見られます。初期症状はインフルエンザやかぜに似ており、これらの時期に区別するのは困難であるとされています。8割程度の患者は発症から1週間程度で軽症のまま治癒しますが、2割程度がその後呼吸困難となり重症化し、5%程度が10日目以降に集中治療室に入る傾向があり、2~3%で致命的とされています。

 致死率は年齢で異なり、60歳未満では0.5%未満ですが、60歳代で1.5%、70歳代で5.6%、80歳代で11.9%と、高齢者でとても高くなります。基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患)などのある患者では致死率が高いといわれており、また若年であっても脳梗塞を起こすことや、軽症患者として経過観察中に突然死を起こすこともあり、血栓症との関連が考えられています。最近では、治癒した患者でも後遺症が残るという報告があり、実態調査が行われています。決してあなどることのできない病気だと考えます。

(3)新型コロナウイルス感染症の検査と治療法

 最近までは、新型コロナウイルス感染症の検査について、医師等が対象者の鼻に綿棒を突っ込んでのどの奥をぐりぐりして採取する鼻咽頭拭い液からウイルスのRNAを検出するPCR検査による方法しかありませんでした。しかしこの方法は、検体採取の際にどうしてもせきやくしゃみが出やすいため検体採取者の感染防護を厳密にしなければならず手間暇がかかること、PCR検査も研究室で行わなければならないことが多く搬送の手間がかかる場合が多いこと、そして検査そのものも時間と手間がかかること、といったいくつかのボトルネックがありました。最近さまざまな研究開発が進んでおり、唾液を検体とすることが可能になり、抗原検査による迅速な結果判明も可能になってきており、こうした方法が普及すれば、よりスムーズな検査が可能になります。

 なお抗体検査キットがあちこちで出回っています。新型コロナウイルスに関する抗体の性質は現在研究が進められていますがなお不明な点が多いです。また国内で医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)上の体外診断用医薬品として承認を得た抗体検査はありません。ご留意ください。また厚生労働省が行った調査(資料:抗体保有調査 )によると、6月時点では東京でも1%未満の方しか抗体を保有していないことが明らかになっています。なお日本人は既に何らかの免疫を獲得しているのではないかとする言説も時折見かけますが、立証されていない限り頼りにすることも困難です。

 現時点では、この感染症に特別に効果のある治療法はありません。軽症の場合は、経過観察のみで自然に軽快することが多いとされています。症状により、発熱や呼吸器症状、基礎疾患に対する対症的な治療が行われます。重症になると人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)が使用されます。治療薬としては5月7日にレムデシビルが特例承認されており、ファビピラビル(アビガン)、シクレソニド、ナファモスタット、イベルメクチン等の臨床研究や治験などが実施ないし検討されています。しかし現時点で、インフルエンザにおけるタミフル、イナビル、リレンザのような効果的な薬剤は確認/開発されていません。サイトカインストームや血栓症との関連の指摘もあり、それらの対策のための治療薬も使われるようになっています。

 ワクチンについては、国内外で多様な方法での開発が試みられています。国内でも臨床試験が開始されており期待を持っていますが、他方でまだ有効性/安全性が十分かどうかは不明であり、仮に完成しても生産能力やワクチン確保競争の中で国民に行きわたる見通しが立っているわけではありません。当面は引き続き、「極力感染しない」ことを目標とした対策を進める必要があります。

3. 新型コロナウイルス感染症対策の考え方とこれまでの経緯

(1)当面の目標

 新型コロナウイルス対策は、引き続き当面は持久戦であると個人的には考えています。時間を稼げば、手軽な検査法や治療薬、ワクチン等の目途が立つ。そうすればインフルエンザのような扱いが可能になる。それまで極力、感染を制御(コントロール)して重症化や死亡を防ぎ続け、時間を稼ぐことが戦略的な目標であると考えます。

(2)感染制御方法の分類

 ではどうやって感染を制御するか。あくまでも私見ですが、感染の制御には、1)個人的な制御、2)施設やグループ単位での制御、3)社会的な制御、の3つの階層に分類して考えるとわかりやすいのではないかと思っています。

 1)個人的な制御とは、一人ひとりがウイルスを体内に入れることを防ぐ取り組みです。具体的には、石鹸やアルコール消毒薬等による手指衛生の徹底(動画:正しい手洗いの方法 )、環境や必要に応じたPPE(個人防護具:マスク、フェイスシールド、手袋、ガウン等)の装着、三密な環境に近づくことを避けること、接触確認アプリCOCOAをインストールすること、他の人との距離を意識すること、握手やハグを控えること(そもそも日本人はあまりしませんが)、等です。微熱であれ症状があったら会社や学校を休み家で過ごすこと、必要に応じて相談センターに連絡したり受診したりすることも、とても大事なことです。

 2)施設やグループ単位の制御とは、例えば建物の換気をすること、手すりやドアノブやエレベーターのボタンなど、多数の者が触れる場所を消毒液(といっても家庭用のバスマジックリンとか薄めたハイターとかで構いません。参考:新型コロナウイルスに有効な界面活性剤が含まれた家庭用洗剤のリスト)などで清拭すること、人と人との距離が適切に開くようベンチの場所などを配慮すること、窓口等に仕切りを設けることやゾーニングを行うことなど物理的な対策も考えられます。また、あまり大人数の人が一度に集まらないように間引いたり分散させたりすること、テレワークやテレカンファレンス(遠隔会議)を普及させることや、感染者が判明した際に濃厚接触者に連絡や把握ができるように名簿を整えておくことなども挙げられます。また学級閉鎖や個々の学校ごとの学校閉鎖などもこのレベルの制御といえるでしょう。こうした内容は、主に業種別のガイドラインとして整理されていますので、このガイドラインを遵守することが大事といえます。このレベルの対策は、新型コロナウイルスが特定の環境(三密環境)で多数の感染者を生ずるという特徴を持つことから、クラスター対策として特に重要です。

 3)社会的な制御とは、陽性者が判明した際に保健所が積極的疫学調査を行い、濃厚接触者を探して対応を必要な対応を行うことや、陽性判明者に対して感染症法に基づき病院への入院や宿泊施設での療養を措置すること行われています。さらに感染が拡大した際には緊急事態宣言の発出や外出や営業の自粛要請、またそれらを裏打ちするための各種の経済対策や医療機関等に対するPPEの供給等も行われましたが、この分類に含まれるものでしょう。また見落とされがちですが、入国制限や検疫強化など水際での規制も社会的な制御の重要な要素だと考えます。

 この3つの分類による感染制御はそれぞれ排他的なものではなく、状況に応じて相互補完的に組み合わせて最終的に感染を抑制する関係にあります。それぞれに基本的人権を侵害する面があることや、個人情報や個人の尊厳の保護に留意が必要です。さらに個人個人の生活や社会における経済とのバランスも考慮しなければなりません。

(3)これまでの対策の経緯

 日本においては、当初は中国湖北省武漢市を中心に感染拡大していたため、まずは指定感染症の指定および湖北省等に対する水際対策の強化が行われました。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の検疫対応も、日本国内に対する社会的な制御の一環と考えられます(参考:ダイヤモンド・プリンセス号現地対策本部報告書 )。そうした対応により時間を稼ぎながら、医療提供体制や検査体制を整えることが当初取り組まれました。また積極的疫学調査によりクラスター対策の重要性が見いだされ2月25日に政府新型コロナウイルス対策本部の基本方針 に明記されました。また、3月9日の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の見解」 において、感染しやすい環境の3つの条件として、「①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた」が重なった時と示されています(ちなみに、専門家会議の提言で同じ条件について「3つの密」という表現が出てくるのは4月1日の提言です。その間に「3密」という表現が発明されたものと思われます)。

 しかし感染判明者の増加は4月に入っても続き、政府は新型コロナウイルス感染症の全国的な拡大状況を踏まえ、4月7日に7都府県を対象に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を発出、16日に全国に対象を拡大し、接触機会の8割削減など徹底した行動変容を呼びかけました。そして新規感染者数が減少傾向に転じ、医療提供体制の整備が進み余裕が出てきたことを踏まえつつ5月14日から順次解除を行い、5月25日に全国で解除となりました。また2次にわたる緊急対応策(2月13日3月10日)、そして2次にわたる補正予算(第1次補正予算厚生労働省概要第2次補正予算厚生労働省概要)を組み、経済対策や医療提供体制等の対応にあたりました。幸いにして、多くの方々のご協力とご負担により、一度は感染が下火となりました。また5月4日の提言 では、「新しい生活様式」の提案や業種別ガイドライン作成の方針が示され、取り組みがスタートしています。接触確認アプリCOCOAも、6月19日にダウンロードが可能になりました。

4. 現状および今後の対策の見通し

(1)現状について

 7月に入って東京都などを中心に感染者数増など不穏な兆候があります。今回は3月下旬からの拡大状況と比較して、PCR等検査を積極的に行っており陽性者の年齢層が低いといった差はあります。「夜の街」という表現があり、確かに各地でのホストクラブやナイトクラブなどでの陽性者判明が報道されていますが、むしろ積極的に検査にご協力いただいている(ご関係の皆さまのご協力に、深く御礼申し上げます)ために陽性者が見つかっているのは、感染対策上とてもありがたいことです。そうした結果、感染者数のわりには重症者数等はまだ低く抑えられています。したがって、感染者数が同数程度でも、3月下旬の状況とは異なっていると考えられます(その頃は、「発熱して4日してから相談」という受診の目安が生きていましたので、無症状の方がPCR検査を受けることは現在よりも少なかったのではないかと思っています)。

 しかし首都圏や関西の都市部を中心に「感染が拡大している」という方向性そのものはおそらく間違いありませんし、現時点では若者が中心だから重症化しにくいといっても、例えば医療機関や介護施設の従業員やお元気な高齢者の活動などを通じ、いずれ高齢者を中心とするクラスター感染が発生し重症者や死者がぐっと増えていく展開に再び進む可能性もあります。孤発例も増えており、市中感染は徐々に拡大しているものと思われます。また、違う地域から移動してきて確認される感染者も見られるようになっていることも気にかかります。現場の診療所の医師からは、ここ数日で受診者が若者に限らなくなっており、人数も増えているというお話も伺いました。今見えている状況は、約一~二週間前の感染状況にしか過ぎないことを頭におきつつ、十分な警戒と対策を行うことが必要です。

(2)当面の対策の見通し

 一方で、3月ごろと比較すると、感染制御の手段が相当整備されました。とくに大きく異なっているのは、業種別ガイドラインが整備されてきたことです。既存の医療機関や社会福祉施設等既存のガイドラインに加え、7月1日現在で155の業種別ガイドラインが整備されました(参考:一覧表)。この実施がどこまで徹底しているかが問題にはなりますが、施設・グループ単位での制御は3月時点からは一定進んでいると考えられます。また個人単位での制御についても、3月ごろに指摘されていたマスクやアルコール等の不足感は解消されており、あとは徹底されることが重要という状況です。個人単位での制御および施設・グループ単位での制御が徹底されていれば、社会や経済に大きな影響を与えうる都道府県規模の営業自粛要請や緊急事態宣言といった大規模な社会的な制御まで至らずに済むかもしれません。3月~4月の段階では、3密回避等の呼びかけ以外にはもうそれしか手段がない状況でした。

 そういう意味では、現時点で必要なことは、改めて手指衛生の徹底や三密の回避といった感染対策の基本について改めて呼びかけ、一人ひとりが意識して実行すること、認証制度やシステム(参考:神奈川県「感染防止対策取組書・LINEコロナお知らせシステム」)等により業種別ガイドラインの徹底をはかり、客側も安全なお店を選ぶように行動すること、テレワークやテレカンなどを引き続き企業が行い続けることなどが急務といえます。4月~5月で取り組んでいたことを、再び思い出してください。

 もちろん自治体や政府においても、地域ごとに丁寧に対策をとりつつ今後も状況を注意深く追っていく必要はあり、爆発的な感染拡大の兆候があればさらに強力な介入を行えるよう最大限の警戒をしつつ準備を進めるべきであろうと考えます。また、出入国者の考え方すなわち水際対策については、国内の感染対策でもそれなりの影響を持つ要素です。都道府県との意見交換の場でも、かなりの数の知事から直接懸念がありました。きちんと国民の皆さまに説明できる形でかじ取りを行うことが大事だと思います。

(3)感染症対策は全員が主役

 感染制御について、個人的な制御/施設やグループでの制御/社会的な制御という3つの分類をしました。このうち社会的な制御、すなわち緊急事態宣言や大規模な営業自粛要請などについては、行政による実質的な私権の制限を伴うことも少なくなく、経済的な影響も免れない(仮に休業補償を行ったとしても、そのために国債を発行すれば後世にツケを残します)ため、行わないで済むなら行わないのがベストです。そのためには、できるだけ多くの方が個人的な制御を日ごろから当たり前に心がけていただくこと、そして責任者の方々が施設やグループでの制御に取り組み、行政もその支援を行うことが必要でしょう。

 感染症への対策、特に手指衛生や3密回避などは、誰かがやればよいというのではなく、できるだけ多くの方が、可能であれば全ての方が取り組めばより一層効果的です。そういう意味で「全員が主役」であると考えます。ラグビーで言われる”One for All, All for One”という言葉も、感染症対策にも当てはまるのではないでしょうか。

 一方で、自分の近くに感染症の陽性者はいないし、いるわけがない、いてはならない、などと思い込むことは、むしろ発熱等の症状が出てきたときに受診を躊躇することに繋がります。あるいはいわれのない偏見や差別により他人を傷つけることにもなりかねません。ダイヤモンド・プリンセス号に乗っていた時期も、その後の感染拡大時期も、聞いてもっとも悲しかったことは、各地の最前線で新型コロナウイルス対応にあたっている医療従事者やそのご家族が、地域で不当な言説を浴びせられてしまうという報せでした。もちろん、感染された方々への非難や中傷の話を聞くにつけても、同様の思いをします。いずれも人の心を折り、ただでさえ辛い人にさらに鞭を打ちこそすれ、感染対策のためには百害あって一利なしです。結局、恐怖や不安のあまり他人事だと思いたいという心理が、そのような行動を招くのではないかと推測します。

 おそらく人間だれしも、未知の感染症に恐怖や不安はあると思います。だからこそ、正しく石鹸や消毒液で手指衛生をする(再掲/動画:正しい手洗いの方法)ことで手軽に感染を防ぐことができる、身を守ることができるということを、身に着け実践しつづけることがとても大事なのです。ウイルスがどこにいるかは見えないけれども、自分の身を守る手段さえ身に着けていれば、周りの方にも自信を持って接することができるようになるものと思います。

 末尾に、Facebookにて、1~2週間に1回くらいの頻度で、何度も繰り返し書いているお願いを改めて記します。

  • 石鹸での手洗いをマメにしてください。換気を行ってください。三密(密閉空間・密集場所・密接会話)を避けてください。
  • 医療機関や介護施設など、感染リスクがありながらさまざまな現場に立っておられる方々に社会は支えられています。その方々のことに思いを致してください。
  • 誰も、感染したくてする人はいません。警戒していても、誰であってもわずかな隙も逃さないのがウイルスのウイルスたる所以なのであり、その人に非があるわけではありません。心ならずも感染してしまった方や、感染者を出してしまった組織・施設に対して必要なことは治療や支援であり、非難や差別ではありません。どうぞ温かい気持ちで接して差し上げてください。

心からのお願いです。

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