令和5年3月27日、自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部(本部長:茂木敏充幹事長)において、「『次元の異なる少子化対策』への挑戦に向けて(論点整理)」をとりまとめ、29日に小倉將信こども政策担当大臣に提出しました。橋本がくは同本部の事務総長として、茂木本部長の指示のもと木原稔座長・田野瀬大道事務局長らとともに会議の進行や論点整理の編集作業にあたりました。
(写真:小倉こども政策担当大臣への申し入れ)
この論点整理では、これまで要望がありながら実現できずにいた出産費用の保険適用や児童手当の拡充(所得制限の撤廃や対象年齢の引き上げ等)、保育士等の処遇や配置基準の見直し、こどもの医療費に関する国民健康保険補助減額措置の撤廃など、これまでの自民党の政策から踏み出した施策を何点も方向性として示しています。まずは現在平行して政府が検討しているこども関連政策の「たたき台」に反映させるとともに、引き続き6月の骨太の方針の閣議決定に向け、党内でも施策の詳細や優先度および財源のあり方を具体的に検討する段階になります。その中で引き続き議論を重ね、ひとつひとつ実現していけるよう引き続き努めます。
自民党内の諸兄姉からすると「これまで不可能と言っていたのに急にやると言われても…」という戸惑いもあるでしょうし、他の政党の方々からは「先に我々が唱えていた政策のパクリだ!」という評価もあり得るものとも思います。いずれにせよ、自民党も少子化という現実を改めて直視し危機感を持って議論を重ね現状の変革を目指した表れであり、共感していただける施策については、共に実現に向けてご議論いただければ幸いです。
4月1日に施行される「こども基本法」の理念を実現し、少子化の流れに歯止めをかけることができるよう、今後とも引き続き努力します。
〇【PDF版】「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)
「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)
令和5年3月27日
自由民主党
「こども・若者」輝く未来創造本部
昨年の出生者数は80万人を下回り、戦後すぐのベビーブーム期の260万人や第2次ベビーブーム期の200万人の3分の1にまで減少している。少子化対策は、我が国の社会経済の存立基盤を揺るがす、待ったなしの課題である。
結婚・出産の適齢期を迎える若者は、2030年を境に大幅に減少する見込みであり、この10年間が日本の少子化を反転させられるかどうかの最後の期間である。そうした危機感をもって、若者や子育て世代が将来に希望をもって安心して子育てできるような社会の実現に向けて、大胆で前向きな施策を実行していかなければならない。
「こども・若者」輝く未来創造本部の下におかれた「こども・若者」輝く未来実現会議においては、本年2月から11回開催し、地方3団体、様々な関係団体からのヒアリングに 加え、人口学の専門家や先進的な取組を行う海外の施策についてのヒアリングや、現場視察を行うとともに、少子化対策調査会や教育・人材力強化調査会等における議論の成果を踏まえ、精力的に議論を進めてきた。
今般、党として、目指す社会や取り組むべき施策の方向性について、論点整理をまとめた。政府に提出するとともに、今後、この論点整理をベースとして、6月の骨太方針までに、政策の優先順位や財源のあり方も含めて更に議論を深め、党としての提言をまとめていく。
1.「こどもまんなか」の少子化対策が目指す社会
本年4月1日に施行されるこども基本法の趣旨にのっとり、いかなる状況や事情の中であっても、すべてのこどもが、ひとしく皆から尊重され応援される社会を目指す。すべてのこどもが愛され、教育を受けることができ、年齢および発達の程度に応じてその意見を表明でき、その意見が尊重される。その実現に向け、政府の各種施策は行われなければならない。
若者は、学びやキャリア形成と結婚・出産・育児を同じ時期に求められ、かつ現所得も低く将来の成長も見通しがない。その中でまず稼ぐことを考え、キャリア向上やさらなる学びを求め、結果として結婚・出産・育児が後回しになり、少子化に歯止めがかからないのは必然である。この状況を打開するためには、若者の所得を目に見える形で継続的に向上させ、さらに補う政策が必要である。また、若者が自力で所得を向上させた場合に、子育てに対する支援が減る仕組みでは、せっかく流した汗が報われない。こどもや子育てに対する尊重や応援は、誰にも等しくあるべきである。そうしたことにより、若い年代からでも結婚・出産がより前向きに考えられるようにする。
すべてのこどもが安心できる暮らしを、保護者のみならず保護者同士や地域全体、そして国まで、社会の皆で守り支えることが大事である。親が働いていても、家にいても、学びの中であっても、同じように支援されるべきである。
家庭の中で、父親と母親が相互に補い合いながら、二人でこどもを育てることができるよう、社会が支援する。二人で担っても大変な子育てを一人で担っている保護者、双子やきょうだいが多い家庭、困難を抱えているこどもとその保護者には、より一層の支援を行う。
経済界も、出産・子育てを単なる労働力の損失と捉えるのではなく、次世代への投資と捉えて、応援の一端を担う。子育てが済んだ年代層も、子を持たない選択をする者も、やはり応援の一端を担う。
日本社会の皆で、若者の人生の選択を支え、すべてのこどもと子育てを尊重しかつ応援し、困難をサポートする社会を実現する。このことを通じ、すべてのこどもがそれぞれに健やかで幸福な生活を送ることができ、かつ子を産み育てる親もそのやりがいやよろこびを感じることができるようにする。それが「こどもまんなか」の少子化対策である。
2.施策の方向性
どのライフコースを選んでも結婚・妊娠・出産・子育ての各場面での希望がかなえられる社会の実現が必要であり、「次元の異なる少子化対策」に相応しい施策を講じ、ライフステージごとの支援を総合的・抜本的に充実し、優先順位をつけて実施していく。現金給付・現物給付のバランスを図りつつそれぞれ一層の充実と普遍化を図っていく。
(1)ライフプランニング支援
個人がライフプランを設計する上で、正確な情報を提供する支援が重要である。少子化が進む中で、人生の中で乳幼児とのふれあいの機会自体が少なくなっている。学校段階での乳幼児とのふれあい体験など実際の体験を通じて、こどもを持つことを実感し命の尊さやこどもを持つことについてのイメージ、喜びが感じられるライフプランニング支援が必要である。
①小中高等学校段階での赤ちゃんとの触れ合い教育(育児インターン)
②性や妊娠、命の尊さ、母乳の大事さに関する正しい知識の啓発、よりよい人間関係を築くための適切な発達段階に応じた包括的性教育の議論、安心・安全で健やかな妊娠・出産、産後の健康管理を促すプレコンセプションケアの普及
(2)若者のキャリア形成支援・キャリアコース柔軟化、賃金向上
少子化の主要因の一つは「非婚化・晩婚化」である。そして、「非婚化・晩婚化」の要因は、結婚資金の不足、不安定な所得・雇用環境である。若者が経済的基盤を確保するための環境づくりが必要である。
①若年層が結婚できる経済環境づくり(正規雇用化の推進、若年層を重視した賃上げ、最低賃金の引上げ)
②国・地方自治体・企業が連携した給付型奨学金およびいわゆる「出世払い奨学金」の拡充
③自営業・フリーランスの保護者の育児時の負担軽減
④女性の補助職的な働き方から総合職への転換、地方における新たな女性雇用の創出
(3)結婚への希望をかなえるための支援
若い世代が結婚しない理由として、「適当な相手にめぐりあわない」ことや、「結婚資金が足りない」ことが上位に挙げられている。若者の地方からの流出に加え、かつては結婚に向けた社会システムであった「お見合い」や「社内結婚」の社会的機能が最近は失われてきているため、これらの機能を補うための施策が極めて重要である。
①新婚世帯への住宅支援、三世代同居・近居・隣居への支援、多子世帯への住宅支援、祖父母世代の育児サポートへの配慮
②出会いサポートの拡充強化
③結婚、妊娠・出産、子育てに温かい社会づくり・機運醸成(結婚祝い金等)
(4)妊娠・出産・育児の環境に投資
理想のこども数を持たない主要因は、経済的理由であり、経済的支援が重要である。また核家族化の進行により、産前産後の母親や父親への私的な支えがぜい弱になっている。産後うつ対策や母乳ケアをはじめ、産後ケア事業の充実やこども支援センターの整備・充実など産前・出産・産後を通じたサポートの充実を図り、安心してお産できる環境を再構築するべきである。こども施設について、これまで重視されていた量の拡充に加え、質の拡充についてもより重点を置くべきである。
【4-1 妊娠・出産支援】
①出産費用等の保険適用および自己負担分の支援の具体的検討、分娩および産前産後ケアについてかかりつけ助産師も活用した充実および地域ネットワーク化
②妊娠段階からの伴走型相談支援の回数および期間の拡充、アウトリーチ充実
③不妊治療の推進、ハイリスク出産への支援、健康上の理由で妊娠抑制している方への相談支援、望まない出産へのフォロー
【4-2 育児・就学前支援】
①児童手当の拡充(給付額の検討、所得制限の撤廃、対象年齢の引き上げ、多子世帯をより手厚く)、在宅保育家庭への経済的支援
②保育士等の処遇改善・配置基準改善、幼児教育・保育の無償化の拡充、副食費のあり方の検討
③保育園・認定こども園・幼稚園について、誰でも子育てについて相談できる体制や、親の就労の有無に関わらず短時間から預けられる体制の整備
④病児・病後児保育の制度化検討および拡充、障害児保育の拡充
⑤こども施設の「質の向上」を促すためのモニタリングと評価の仕組みの検討
⑥乳幼児・児童の健診回数および項目の拡充
⑦こどもの医療費の無償化、国民健康保険補助減額措置の撤廃
⑧今後設置されるこども家庭センターの一層の充実、専門性向上
⑨ベビーカーや子連れを前提としたインフラ・施設・通学路等整備の推進
【4-3 就学後支援】
①小中学校の給食費の無償化
②学童保育・放課後子ども教室等の拡充
③働く親や学ぶ親に対する地域でのファミリーサポートサービスの拡充、家事援助・ベビーシッター等への支援
④こども食堂の支援、こどもの居場所・遊び場の整備及び維持への投資
⑤こどもを犯罪から守るための日本版DBSの制度化
(5)共に育児する環境整備
女性の就業率が 80%に達しつつある中で、また、子育てや家事などについて家庭内で男性が一定の役割を果たすことが必要不可欠となっている現状において、仕事と子育ての両立実現は、少子化を克服するための必要条件である。
①両親ともに、育児休業の拡充および育児休業給付の充実(育児休業給付の手取り10割確保)
②高い目標値を設定した男性の育児休業促進と分割取得の拡充、そのための企業規模に配慮した支援策の検討
③非正規労働者が育児休業を取得しやすい環境整備
④育児休業の対象年齢の拡大と対象外の自営業者などへの経済的支援
⑤育児休業後の職場復帰支援、育児休業を取得した者も昇進を目指せるキャリアパスの実現
⑥育児期の者の長時間労働の是正
⑦勤務間インターバルの制度の導入促進、選択的週休3日制の検討、短時間勤務への助成
⑧税や社会保険加入要件等に関する「壁」の解消
(6)教育費の負担軽減
少子化の要因の一つとして、子育てや教育にお金がかかりすぎることが指摘されており、国の役割を踏まえ、教育の機会均等を図る観点から、その負担軽減を図ることが必要である。特に、高等教育について費用負担が大きく、全ての意欲のある者が支援を受けられるようその負担軽減が喫緊の課題である。
①小中学生の就学援助の拡充(対象経費や費目の充実)
②高校等の授業料の実質無償化の拡大(段階的な対象拡大)、高校生等の奨学給付金の拡充(給付額の増額、段階的な対象拡大)
③高等教育費の支援の大幅拡充、貸与型奨学金の子育て世帯への配慮、出世払い型奨学金制度の導入
④職業キャリア教育における施設費や実習費の支援
(7)公教育の再生
公教育にはこれからの社会を生き抜く力を保障してくれる新たな姿が求められている。「一律に与える教育」から「個々の学びを引き出し、ウェルビーイングを重視する教育」への転換を更に進め、社会に開き、このような教育を展開する学校を再構築していくこと、そのような変革の先に、「こどもを安心して任せることができる質の高い公教育」が実現する。
①幼児教育の質の向上
②教職員の働き方改革や処遇および定数の改善、質の向上
③教員業務支援員、学習指導員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、医療的ケア看護職員、栄養教諭、養護教諭等の配置拡充
④こどもデータ連携の基盤でもあるGIGAスクール構想の継続と更なる充実
⑤不登校特例校の更なる拡充
⑥コミュニティ・スクール・地域学校協働活動推進員の配置拡充、部活動の在り方の見直し
⑦命の尊さを学ぶための地域人材を活かした学校動物飼育の充実のための工夫
(8)貧困や障害など困難がある子への支援を一層厚くする
障害・発達障害のあるこども、医療的ケア児、社会的養護経験者、ヤングケアラー、外国にルーツを持つこどもなど、様々な困難を抱えるこどもや家庭を支えていくことは、そうしたこどもや家庭自身にとって重要であることはもちろん、どのような状況等にあっても社会全体でこどもや子育てを支えるという社会意識の変革にも繋がる。
①児童発達支援センターの機能強化とインクルージョンの推進、教育関係機関との連携の強化
②児童相談所や一時保護所等の一層の充実
③特別児童扶養手当、障害児への福祉的給付(例:補装具費支給制度)の所得制限の見直し
④障害があるこどもの保護者への支援の検討、訪問支援の対象拡大の検討
⑤社会的養護経験者の伴走・自立支援の強化、大学受験時の負担軽減の検討
⑥医療的ケア児等、専門支援が必要なこどもへの対応強化
⑦児童扶養手当の充実および所得制限の見直し、低所得子育て世帯生活支援特別給付金の柔軟な実施、ひとり親家庭の自立支援の強化や養育費の確保支援、等価可処分所得の考え方による施策の再検討
⑧不登校・ひきこもりのこどもおよびその家庭へのフォローアップ拡充
⑨こどもホスピスの実現、CDRの制度化
⑩孤立解消やピアサポート等のヤングケアラーの支援拡充
⑪外国にルーツを持つこどもの学習・生活等の支援拡充
(9) 申請主義からの脱却、事務負担軽減、こどもDX
妊娠・出産・子育てにわたるデジタル化を進め、子育て世帯の負担を軽減するとともに、情報・データを活用したプッシュ型の情報発信・支援を充実させることが必要である。
詳細は、こどもDX小委員会が纏めた「こどもDX推進に向けた提言」を参照されたい。
①こども家庭庁内に、こどもDXを検討・推進する常設の組織(部局)設置。デジタル庁においてもこどもDXを準公共分野の重点領域としチームを維持。
②政府レベルで、以下の3つのこどもDXのコアシステムを検討し、実現。
困難を抱えるこどもの見守りシステム(こどもの見守りデータ連携実証事業の成果を全国の自治体に展開。こどもや親がアクセスしやすいようにSOS相談はSNSやチャットボットに移行。個人情報保護法の関係を更に整理し検討)
子育て家庭への行政手続きの利便性向上(行政手続きをオンラインで完結させるために、国と都道府県、市区町村の個別制度や根拠法、根拠条例を整理。申請によらずとも手当や補助金を自動的に公金口座に振り込まれるよう推進)
電子母子手帳システムの検討と実現(電子母子手帳システムを起点として、こどもの成長や状態を記録し活用するシステムを構築。妊娠期から出産、育児、小中学校・高校等の学校検診等の情報の接続を実現。予防接種について、任意接種についてもデジタル化を実施)
③自治体レベルで、こどもに関わる担い手や組織がこどもを支援するDXの仕組みを検討し実現する。
こどもの支援に関わる様々な担い手や関係各所(SSW、SC、学校担任、児童相談所職員、こども家庭支援センター相談員等)の役割や責任の所在、在り方を整理する。一人ひとりのケースワークに対応するよう情報の連携強化を行う。こども家庭センターを、児童等への支援に関する連携や自治体DXの中心的な役割を担うものと位置づける。
もとより結婚は個人の自由な意思決定に基づくものであるが、若い世代の結婚・子育てに関する希望がかなえられていない現状を変えていく必要がある。今後、国民みなが危機感を共有しながらこども・子育てを社会全体で応援すべく、総理の下で国民的な議論を喚起し、施策の周知方策も含めた検討をするための会議を設けることが考えられる。
また、上記のほか、教育と福祉・地域の連携、家族形態が多様になる中でのこどもの最善の利益の実現を図るための家族制度の在り方(共同親権、養育費、親子交流など)、各種控除などの税制の在り方についても、取り組んでいくべきである。
(参考)開催実績
【「こども・若者」輝く未来創造本部】
令和5年 1月19日(木)15:30~
議題:関係省庁会議(第1回)の議論について【報告】
【「こども・若者」輝く未来実現会議】
第 1 回 令和5年 2月 6日(月)16:30~
議題:団体ヒアリング①(自治関係)
第 2 回 令和5年 2月 8日(水)15:00~
議題:関係省庁会議(第2回)の議論(経済的支援の強化)について【報告】
第 3 回 令和5年 2月13日(月)15:00~
議題:団体ヒアリング②(厚生関係①)
第 4 回 令和5年 2月16日(木)13:00~
議題:ハンガリーにおける少子化対策について
パラノビチ・ノルバート ハンガリー駐日特命全権大使
第 5 回 令和5年 2月20日(月)14:30~
議題:団体ヒアリング③(教育関係・建設関係)
第 6 回 令和5年 2月21日(火)13:00~
議題:関係省庁会議(第3回)の議論(幼児教育・保育サービスの強化、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充)について【報告】
第 7 回 令和5年 2月27日(月)15:00~
議題:団体ヒアリング④(厚生関係②・NPO関係)
第 8 回 令和5年 3月 6日(月)15:30~
議題:有識者ヒアリング 安藏 伸治 明治大学政治経済学部 教授(明治大学付属明治高等学校・明治中学校 校長)
第 9 回 令和5年 3月13日(月)15:30~
議題:関係会議等からの報告
・少子化対策調査会
・教育・人材力強化調査会
・Children First 勉強会
(視 察) 令和5年 3月20日(月)
福島県二本松市 学校法人まゆみ学園
第10回 令和5年 3月22日(水)15:15~
議題:論点整理の骨子案について
第11回 令和5年 3月23日(木)15:30~
議題:関係省庁会議(第4回)の議論(働き方改革の推進と育児休業制度の強化)について【報告】
【「こども・若者」輝く未来創造本部】
令和5年 3月27日(月)15:30~
議題:論点整理(案)について
(以上)