05.子育て・青少年・少子化

2024年6月12日 (水)

「国立こどもまんなかウェルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟

 このたび、自民党・公明党の有志議員により構成される「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター in 沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟を立ち上げ、メンバーのご同意をいただいて会長に就任しました。出生率が全国一位で、かつ米軍基地の返還が進むことにより跡地の活用が期待できるという沖縄県が有する可能性に着目し、国が主体的に関わる新しいこども・子育て支援拠点を設けることで、沖縄のこどもたちを取り巻く課題の解消を図り、かつ全国や世界の先導役となる体制を作るべきではないかという趣旨に賛同する議員の集まりです。

 この議連は、自民党・菅義偉元総裁、公明党・山口那津男代表を最高顧問にいただき、両党の議員により立ち上げられたもので、4月17日に設立準備会、5月23日に設立総会を開いて提言を決議し、6月6日に自見はなこ沖縄担当大臣を訪ねて提言を手交しました。「骨太の方針2024」への反映を皮切りに、今後具体化に向けて動きます。

240606minister_moshiire
(写真:自見沖縄担当相への申し入れの様子)

「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター in沖縄 (仮称)」の設立に向けた議員連盟 役員名簿

最高顧問 菅 義偉 山口那津男
顧  問  渡海紀三朗 山口 俊一 高木 陽介 小渕 優子 岡田 直樹 西銘恒三郎 島尻安伊子
会  長  橋本  岳
幹事長 秋野 公造
幹  事 國場幸之助 井上 貴博 河野 義博 比嘉奈津美 今井絵理子 窪田 哲也
事務局長 宮崎 政久
事務局次長 金城 泰邦

(2024年6月6日 現在)


[PDF]「国立こどもまんなかウエルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟 経済財政運営と改革の基本方針2024に向けた提言
内閣府特命担当大臣
(沖縄及び北方対策)
自 見 はなこ 様

「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター in沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟
経済財政運営と改革の基本方針2024に向けた提言
令和6年6月6日
「国立こどもまんなかウェルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟
会 長    橋 本   岳


 沖縄県は、国内でもっとも出生率が高いという可能性を有する。しかし歴史的、地理的、社会的不利性等の様々な特殊事情から県民所得や若年妊娠率などになお課題を抱えており、こどもを取り巻く状況は未だに厳しい。一方で、昨年末に閣議決定された「こども大綱」においては、こどもが身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(バイオ・サイコ・ソーシャルウェルビーイング)で生活をおくることができる「こどもまんなか社会」の実現を目指すこととされ、これは当然沖縄においても実現されなければならない。

 沖縄のこどもを取り巻くさまざまな課題を解決するという観点、またその成果を研究として全国に発信するという観点から、関係者の力を結集し、これを学術的な観点からサポートし、かつ成果を全国に発信する研究拠点を、国として整備することが必要である。 経済財政運営と改革の基本方針2024(いわゆる「骨太方針2024」)のとりまとめに向け、下記の各項目について、政府において着実に取り組むべきことを求める。

  • 沖縄のこどもを取り巻く様々な課題の根本的な解決を図るため、「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター」(以下、「センター」という。)を沖縄県内において設立することを目指し、具体的に検討を進めること
  • センターは「教育」・「保健医療」・「福祉」等が融合した取組の実現を図る観点から、関係する各分野のアカデミアによる学際的な研究拠点とするべきこと
  • センターはこどものウェルビーイングの向上に向けた取り組みについて、沖縄のこどもを取り巻く課題の解決に資することに加え、沖縄におけるアジアのハブとしての地理的特性を生かし、かつオクスフォード大学をはじめとする諸外国の研究機関とも連携して得た成果を全国に発信・普及し、政策の実施に関してEBPMの観点から後押しすることを目指すべきであること
  • 旧西普天間住宅地区において令和6年度中に整備が完了する健康医療拠点は、琉球大学医学部・病院の移転を行うものであり、既に医学的な臨床・研究の場を兼ね備えていることから、まずは健康医療拠点の中で早期にセンターを立ち上げることを有力な選択肢として考慮すること
  • センターの機能や組織の在り方については、琉球大学と関係省庁、沖縄県をはじめとする自治体、関係団体の合議のもと、合意形成を丁寧に図りながら方向性を取りまとめるべきであること
  • センターについて、「こどもまんなか」という観点からの各般の取組を推し進める観点から、関係省庁や関係研究機関が主体的に関与し、取組の後押しを行うべきこと
以上

続きを読む "「国立こどもまんなかウェルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟"

| | コメント (0)

2024年6月 5日 (水)

こどもまんなか保健医療PT「骨太2024および令和7年度予算編成に向けた提言」

 この6月4日、橋本がくが座長を務める自民党こどもまんなか保健医療の実現に関するプロジェクトチームにおいて「骨太の方針2024および令和7年度予算編成に向けた提言」を取りまとめ、政府に提言を行いました。この提言は、過去の2回PTにおける政府からの現状報告、日本産婦人科医会および日本小児科医会からのヒアリング、それらを踏まえた議員間の議論等を踏まえて作成したものです。ここにその内容を記します。

 なおこの提言の内容、特に出産(正常分娩)の保険適用については、新たな枠組みの検討も含めた検討を求めている部分については補足として「出産(正常分娩)の保険適用を巡る備忘録」に記しましたので、そちらも併せてご覧ください。

[PDF]骨太の方針2024および令和7年度予算編成に向けた提言


骨太の方針2024および令和7年度予算編成に向けた提言
令和6年6月4日
自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会
こどもまんなか保健医療の実現に関するプロジェクトチーム

 昨年末、政府においては「こども未来戦略」および「こども大綱」を閣議決定した。その中で、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入検討を含む出産等の経済的負担の軽減や、妊娠期からの切れ目のない支援の拡充、1か月児及び5歳児への健康診査ならびに新生児マススクリーニングの対象疾患拡充等の項目が示され、法律や予算に基づく事業として実施に移されつつあることは、本プロジェクトチーム(PT)が目指す「親と子の出産と育ちを一気通貫してサポートし、より安心できるものとする」という観点から、高く評価できるものである。 しかし本PTにおけるヒアリングや意見交換を通じ、なお懸念や要拡充点について議論があった。これを踏まえ、下記の通り提言を行うこととする。政府においてもこれを重く受け止め、実現に向け努められたい。

  1. 出産(正常分娩)の保険適用に関して、「出産等の経済的負担の軽減」が議論の出発点であることを十分に踏まえ、いつでも、どこに住んでいても安全かつ妊婦がアクセスできる周産期医療提供体制の確保、多様なニーズへの対応、他の医療行為や管理との関係などさまざまな論点があることも鑑み、サービスの利用者である妊娠・出産を望む方や妊産婦、サービス提供者である医療者を含む多様な関係者の意見を広く集め、現行の療養の給付のみに囚われることなく新たな政策体系の検討も含め、あらゆる政策手段の選択肢およびその組み合わせを考慮し、丁寧に検討を行うこと。
  2. 妊婦健診、周産期からのスムーズな乳幼児健診・医療、そして思春期・学校保健への接続および内容の充実を目指し、助産師等による伴走型相談支援等の推進、ペリネイタルビジットの普及や産後ケア事業への小児科の参画の推進、母子地域包括ケア病棟の実現、乳幼児健診の機会増加と実施率向上、新生児マススクリーニング対象疾患の拡充等に向けた調査研究等に取り組むとともに、そのための都道府県による広域的なサービスの調整など役割の明確化を含めた実施体制の確保等に取り組むこと。また、医療的ケア児等支援が必要な乳幼児の健診受診支援や予防のためのこどもの死亡検証(CDR)の実現、予防接種を含めた母子保健・学校保健の情報について一貫させたデジタル化等の検討を加速すること。
(以上)

続きを読む "こどもまんなか保健医療PT「骨太2024および令和7年度予算編成に向けた提言」"

| | コメント (0)

出産(正常分娩)の保険適用を巡る備忘録

 昨年末に閣議決定された「こども未来戦略」および「こども大綱」には、いずれも「出産費用(正常分娩)の保険適用」の文字があります。先日私が座長を務めている自民党社会保障制度調査会こどもまんなか保健医療の実現に関するPTにおいて議論したところ、この件について懸念や心配を含むさまざまなご意見をいただきました。それを踏まえPTでは今般骨太の方針2024および令和7年度予算平成に向けた提言を取りまとめ政府に示したところですが、あらためてこのブログに経緯や目指すところ等を記し、余計な誤解についてはこれを防ぎ、スムーズに政策目的が実現するべく、残しておきます。

1. 出産を巡る現状

 まずは出産等を巡る公的医療保険の現状についておさらいします。一般的に、病気やケガの治療のため病院等でマイナンバーカードか保険証を提示して医師の診察を受け、手術や投薬等の治療を受ければ、それぞれの人が加入している公的医療保険の適用となり、多くの人が3割の負担となります。これはすなわち、7割分が健康保険の現物給付を受けているということです。この、診察や治療に関する公的医療保険の現物給付を、健康保険法等の法律では「療養の給付」と呼びます。

 一方出産は、病気やケガではないため、療養の給付の対象とならず、診療所や病院等で分娩してかかった費用は全額自己負担となります。ただし医学上の必要により帝王切開になった場合等は病気ないしその疑い扱いとなり、これは既に療養の給付の対象となっています。現時点で療養の給付の対象ではないのは正常分娩の場合のみであり、なので上記閣議決定文書等の施策の対象は「出産(正常分娩)」という表現となるのです。

 ただし加入者が出産した時には、出産育児一時金が、それぞれが加入する公的医療保険から給付されます。出産育児一時金は昨年(令和5年)4月に42万円から50万円に引き上げられました。実はこれも健康保険法等に規定された公的医療保険の給付です。したがって、既に出産は正常分娩も含めて公的医療保険の給付対象です。実際のところ、例えば健康保険法第一条では、「この法律は、(…中略…)疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」と記してあり、「出産」も明記されています。

 この点は「出産(正常分娩)の保険適用」という言葉に引きずられて生まれる誤解が多いところで、しばしば「出産は、ケガや病気ではないから、公的医療保険の給付の対象として考えるのは違和感がある」という類の議論を行う方がおられます。しかし、違和感があろうがなかろうが、既に出産は公的医療保険の給付対象とされていますので、この発言は無意味です。厳密に言えば、公的医療保険における正常分娩の現在の取り扱いは、「保険給付の対象ではあるが、療養の給付ではなく、出産育児一時金として給付が行われる」ということなのです。

 一方このことは医療機関側からみると、正常分娩は、診療報酬という形で政府によって価格が決められている保険診療ではなく自由診療ということになりますので、医療機関が価格を自由に設定できます。また、保険診療ではないため、保険医が診療を行う必要もありません。このことにより、他の保険診療にはない二つの特徴が生じます。

 ひとつは、医療機関により、正常分娩にかかる費用がバラバラであることです。これは、それぞれの医療機関の体制、提供された医療やサービスの内容、お産の経過、コスト(賃料や人件費)等がまちまちであることに主に起因しており、結果として私的病院(50.6万円)・公的病院(46.3万円)・診療所等(47.9万円)の間(数字はすべて令和2年度における平均値。出典は厚生労働省)や、都道府県の間(最大値は東京都(56.5万円)、最小値は鳥取県(35.7万円)、数字は令和3年度における平均値。出典は厚生労働省保健局p.28 )などと差がつく結果となっています。したがって、出産育児一時金で出産の費用を支払ってお釣りが出る人も、足りなくて自己負担が生じる人もいます。また少子化の進展により出生数の減少が続いていることもあり、価格の平均値も毎年上がり続けており、かつ分娩可能な施設は減少し続けています。したがって、このままの制度を続けていると、仮に出産育児一時金を価格上昇に合わせて増額し続けても、どんどん身近な施設が減少し、分娩のハードルは上がっていくのではないかと思われます。

 なお出産育児一時金の50万円への引上げに伴い、厚生労働省はその費用の内訳を調査して「見える化」し、出産時に自分に合った医療機関等を選択することができるように情報提供することとされました。その成果として先日公開されたWebサイトが「あなたにあった出産施設を探せるサイト『出産なび』へようこそ」です。ぜひ出産を控える多くの方にご活用いただけるとよいと思います。また、経緯等については厚生労働省の広報誌「厚生労働」の記事「お産の施設、どう選ぶ? 分娩施設の情報提供Webサイト誕生! 『出産費用の見える化』が始まります」に詳しいです。

 正常分娩が保険診療ではないことによるもうひとつの特徴は、もともと分娩は人類の発生以来自然に行われてきた生理的なものであるため、そもそも必ずしも医療の対象ではなかったことから、法律的には保険医療機関でなくても助産所でも自宅でも、極端な話どこでも行うことができるものであるし、医師の診断も必要ありません(もちろん実際には安全性等は考慮されるべきですが、可能か不可能かという話です)。とにかく出産しさえすれば、出産育児一時金の給付の対象となります。この点も療養の給付として行われる一般の診療とは大きく異なる点です。

2. 自民党および政府において出産(正常分娩)の保険適用が進展した経緯

 もともと出産の保険適用は、国会では時折取り上げられるテーマではありました。野党の議員の方が国会で質問するのを何回か聞いた記憶はありますが、毎回の政府の答弁は「様々な課題があるため、慎重な検討を要する」(≒やる気ない)というものだったと思います。自由民主党においても長くそのような方針でした。この方針が変わった経緯について記します。

 大きなきっかけは、自見はなこ・山田太郎両参議院議員を共同事務局として令和3年に設立された「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」でした。この勉強会は、こども庁の創設を目指して自民党若手有志で設立されたものです。同年2月には、インターネットを利用した無記名自記式の調査紙調査として、「子ども行政への要望・必要だと思うことアンケート」を行い、3月に分析結果を公表しました 。回答人数は17,458名、意見数は48,052件の大規模なものです。

 その中で、事務局の分類によれば、妊娠・出産にかかる費用負担に関する意見が約300件、妊娠期の充実した医療と産後ケアに関する意見が約3,000件あったとされており、これらの点に、一定のニーズや課題があることが明らかになりました。先述の通り、都道府県間でも正常分娩の費用負担に差があります。ただ、実際には出産を控える年代の女性は、最も費用が高価な東京都はじめ都市部に集中して住んでいる現実があり、里帰り出産も多少はあるとも思われますが、年間の分娩のうち相当な割合が、出産育児一時金では全く足りず、何十万円もの自己負担をして出産を余儀なくされているものと想像しなければなりません。アンケートの意見を読んでいても、そうした悲鳴のようなご意見が多数見受けられました。この状況が続く限り、出産一時金を多少引き上げたところで焼け石に水ではないかと思いました。

 この勉強会の提言を踏まえ、自民党「こども・若者」輝く未来創造本部および政府において検討が進み、令和4年6月にはこども基本法およびこども家庭庁設置法が成立、令和5年4月のこども家庭庁の設置につながります。この間の政府の検討により、出産育児一時金の50万円への引上げも決定しました。

 令和5年正月には岸田文雄総理が「異次元の少子化対策」の実施を打ち出し、さらなるこども施策の検討が政府において検討されることとなりました。その中で、自民党「こども・若者」輝く未来創造本部では、ヒアリングや議員間の議論を踏まえ、令和5年3月27日に「『次元の異なる少子化対策』への挑戦に向けて(論点整理)」を公表。その中で、「出産費用の保険適用および自己負担分の支援の具体的検討」と記され、自民党として、出産費用の保険適用という方向が打ち出されました。そしてこの提言を受けて同年3月31日に小倉將信こども政策担当大臣が取りまとめた「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」において、「出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め出産に関する支援等の在り方について検討を行う」という文言が記載されました。おそらく、この文書が、政府において初めて「出産費用(正常分娩)の保険適用」という文言が書かれた例となるものと思います。この試案をベースに検討され6月13日に閣議決定された「『こども未来戦略方針』~次元の異なる少子化対策の実現のための『こども未来戦略』の策定に向けて~」、12月22日に閣議決定された「『こども未来戦略』~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」等において、政府の方針として決定づけられてきました。

 このように、国民や若手有志議員の声が自民党を動かし、政府を動かしたのが「出産費用(正常分娩)の保険適用」だと、考えています。

3. 出産(正常分娩)の保険適用の議論の適切な着地点を目指して

 令和4年4月から不妊治療の保険適用を行った際には、一般不妊治療や生殖補助医療について、有効性・安全性が確認された治療を療養の給付に含めることで実現されました。そのため、出産(正常分娩)の保険適用についても、出産(正常分娩)を療養の給付に含めることで実現されることが、まずは想定されます。しかしこの方法は、さまざまな懸念が関係者から示されています。

 まず大きな心配は、現在は価格が医療機関ごとに自由に設定できますが、他の診療同様に診療報酬が全国一律に設定されることが想定されることにあります。その場合、現に地域による価格差があったり、体制によるコスト差があったり、分娩そのものも要する時間や処置がマチマチだったりすることをどのように考えるかが問われます。これをバッサリと包括的に全国一律かつ不十分な価格設定にされたりすると、経営が困難になり分娩取扱いを止める医療機関が多発するのではないかという心配に当然つながります。世界に対しても安全性を誇れる日本の周産期医療提供体制が維持できなくなれば、困るの妊産婦とこどもたちです。

 正常分娩は自由診療だったため食事も自費負担ですが、別段病気でもないのですから病院食を食べる必要はなく、お祝い事ですから素敵なお食事を提供するサービスも行われたりしていました。厳密に療養の給付にあてはめると、病院食を提供しないと全額自費負担になってしまうということになります。まあこのようなアメニティについては、差額ベッド代等と同様に選定療養に含め、支払いは自費とするが保険診療との併用を認めるということも考えられます。では新生児の聴覚検査等のサービスや、無痛分娩(といっても完全に痛みがなくなる訳ではないので麻酔分娩と呼ぶべきだという意見がPTでありました)を給付の対象と考えるかどうかといった、分娩に伴う様々なサービスをどこに当てはめるかは、専門的な議論が必要な問題だろうと思われます。なお個人的には、無痛分娩も保険給付に含めた方がよいと思いますが、その場合には麻酔科医師の配置等が必要になりますのでそれに応じた報酬設定ないしは加算を考える必要があります。

 またそのままだと原則3割の一部負担金が生じるため必ずしも負担軽減にならない、場合によっては負担が増えてしまうかもしれないという問題もあります。もともと療養の給付における一部負担金は、基本的には医療サービスは現物給付するものの、本人にも疾病やケガを防ぐよう意識づけをしてもらうという意味で一部負担を求めるという趣旨のものです。しかし妊娠・出産はメデタイことであり、政策的にも後押しすべきことです。そのため本人に一部負担金を求める理由がありません。

 もうひとつ大きな問題は、助産師による助産所または自宅等でのお産をどう取り扱うかです。現在の健康保険の診療・調剤は、保険医療機関または保険薬局により、被保険者の確認を受けて給付を受ける必要があります。また健康保険の診療・調剤を行うのは、保健医(医師・歯科医師)または保険薬剤師でなければなりません。しかし助産所も助産師もいずれも上記に含まれておらず、そのままでは、助産師のみの助産所では療養の給付としての分娩を行うことは事実上できないということになります。しかし、保険適用のために現に分娩の選択肢として在るものの幅を狭めてしまうのは、本末転倒のそしりを逃れません。

 まだ他にもあるかもしれませんが、ざっと思いつくだけでも以上の懸念や心配があることに対し、ご関係の方々が安心するような着地点をこれから検討する必要があります。その中で出てきたのが、PT提言で記した、「療養の給付のみに囚われることなく新たな政策体系の検討を含め」という文言です。要は、療養の給付ではない新たな現物給付の類型を創設してしまえば、少なくとも一部負担金の考え方や助産所での分娩など上記の中のいくつかの問題は解決しやすくなるのではないかという発想です。もちろんそれだけで全てが解決するわけではなく、医療とアメニティの切り分けや適切な報酬設定の在り方、地域差に基づく地域別の報酬設定の是非など、さらに実情の把握を重ねそれに基づく多様な議論が必要な課題も、多々あるものとも思います。

 また、いずれにせよ、分娩一回あたりの出来高払いが基本となるでしょうから、分娩数の減少に伴う産科医療機関の収入減は、おそらく当面歯止めがかかりません。これに伴う産科医療機関等の経営悪化や分娩取扱いの休止等を防ぐためには、別途外来や病床維持のための補助等も検討する必要があるのではないかと、個人的には考えます。また新生児の聴覚検査等について出生時に一律に行うべきものがあれば、これも別途補助等を検討すべきでしょう。これらはおそらく保険ではなく、公費を財源とするべきものでしょう。この辺りの気持ちを、PT提言における「あらゆる政策手段の選択肢およびその組み合わせを考慮し」という一節に込めているつもりです。

  5月15日に厚生労働省は社会保障審議会利用保険部会を開催し、妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会を設置する方針を明らかにしました。医療関係者、医療保険者等、自治体関係者、妊産婦の声を伝える者、学識経験者等を構成員とし、出産に関する支援等の更なる強化策(医療保険制度における支援の在り方、周産期医療提供体制の在り方)や、妊娠期・産前産後に関する支援の更なる強化策等について議論されるとのことです(資料)。多くの関係者の知恵を結集し、ここに記したような課題を上手に解決する制度が構築されることを期待しています。

4. こどもまんなか保健医療とは

 さて、妊娠から出産、そして子育ては、親子にとっては一連のものですが、行く先がバラバラでありそのたびごとに探さないといけないというハードルがあるのではないかと、個人的にずっと考えていました。例えば妊娠したらまずは自治体に妊娠届を提出します。すると自治体は伴走型相談支援を行います。一方で、妊婦健診は産婦人科の診療所・病院や助産所に通います。場合によっては、分娩はまた別の大きな病院でということになるかもしれません。分娩が済んだら、産後ケアや乳幼児の健診、乳児家庭全戸訪問等の自治体による支援があります。しかし回数等は自治体により異なります。こどもの予防接種や病気等では、小児科の診療所や病院にかかることになります。学校に通うようになっても、場合によっては受診やさまざまな支援が必要になることは少なくありません。以上のプロセスにおいて、二人目以降のこどもであれば親も多少慣れているかもしれませんが、初産であれば親が自分で調べてあちこちに行かなければなりません。また二人目以降の場合は、その間に兄/姉をどこかに預ける必要があるかも知れず、一時的な預け先を探す必要があるかもしれません。

 そこで今回の出産(正常分娩)の保険適用の検討は折角の機会なので、周産期のみならず、妊娠から出産、乳幼児子育て期から就学期(学校保健を含む)、思春期まで、親と子のより健康な育ちを一気通貫して多機関が連携してサポートできるような、いわば「妊娠・出産・子育て版地域包括ケアシステム」のようなモデルを構築し、それを都市部や地方部それぞれに提供体制のビジョンを描くことで、どこに住んでいても安心して妊娠・出産・子育てができる国・自治体・医療機関等を通じた支援体制の構築するような議論を、先の検討会にしていただくことを期待しています。これは昨年四月に施行された成育基本法の理念の実現そのものです。

 そういう意味で、本PTは単に出産(正常分娩)の保険適用だけでなく、その前後も含め親子の立場に立った議論を行うために「こどもまんなか保健医療の実現」を掲げています。今後も引き続き、より安心して妊娠・出産・子育てができる社会を目指し、党内の議論を前進させます。

続きを読む "出産(正常分娩)の保険適用を巡る備忘録"

| | コメント (0)

2024年4月17日 (水)

令和6年4月11日地域こどもデジタル特別委こども子育て支援法改正案の質疑資料

 令和5年4月11日、橋本がくは衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会において、政府提出の子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案に関し、30分間の質疑を行いました。本法案は、昨年閣議決定されたこども未来戦略における加速化プランを具体化するためのものであり、こども・子育て施策の推進とその専用の財源確保という観点からすると画期的なものだと考えます。一方で、子ども・子育て支援金制度を創設するものであり、衆議院本会議や各委員会での質疑を聞いておりますと、負担の在り方に関してさまざまな観点からのご議論がありました。

 その中で、せっかく時間をいただいて質疑するので、事前に配布資料を準備して質疑に臨みました。委員会の現場では、加藤鮎子大臣をはじめ与野党の委員も資料を参照いただきながら充実した議論ができたと思っています。が、その結果、インターネット中継等をご覧になっている方々から、資料がないとよくわからないというご意見も何名かの方からいただきました。

 そこで、配布した資料をここに公開いたします。眺めていただきながら質疑動画をご覧ください。

 なお、資料p.13は、衆議院予算委員会において立憲民主党の井坂信彦議員が使用されたものであり、これをご本人のご了解をいただいて私なりに追記したものが資料p.14です。この資料は、4月16日の地域こどもデジタル特委における立憲民主党の岡本あきこ議員が引用の上、さらに発展させてご使用いただきました。また他の先生からも私の質疑について言及をいただきました。光栄なことであり感謝を申し上げますとともに、こういう展開があるのが、国会において「議論が深まる」ということではないかと考えます。


【令和6年4月11日地域・こども・デジタル特別委 橋本がく質疑】


【参考 子ども・子育て支援法改正案(こども家庭庁webサイト) 】


240411shitsugigaku 240411shitsugikato

続きを読む "令和6年4月11日地域こどもデジタル特別委こども子育て支援法改正案の質疑資料"

| | コメント (0)

2023年6月15日 (木)

「こども未来戦略方針」の具体化に関する提言

 13日、政府において「こども未来戦略方針」が取りまとめられました。その中で「出産費用の保険適用の導入」や「乳幼児健診等の推進」といった出産・育児に関する施策の充実が多数含まれています。一方で、関係省庁はこども家庭庁、厚生労働省などにわかれ、どのように相互の連携を図り、出産前後の親の安心や産後の子の健康を守る一気通貫したサービスとするか議論が必要と考えました。そうした観点から、田村憲久・社会保障制度調査会長のご了解をいただき、調査会の下にさる6月6日にこどもまんなか保健医療の実現に関するPTを設置していただき、座長に就きました。

 同日の会合では、公益社団法人日本産婦人科医会および公益社団法人日本小児科医会よりヒアリングを行い、さまざまなご意見を承りましたが、そのことも踏まえ、政府においても連携して諸施策の具体化に当たること、また関係する団体等の意見をよく伺って具体化の検討を行うべき必要を感じたため、14日のPT会合で提言を取りまとめて政府に申し入れを行いました。下記にその内容を記します。

 なお通常国会の会期末が近いため、とりあえずはこれでひと段落となりますが、秋以降、具体的な施策を取り上げたり関係団体のヒアリングを行うなど、より安心して出産育児ができる環境づくりに向けて検討を進めます。

230606kodomopt
(写真:第1回こどもまんなか保健医療PTの様子)


[PDF版]「こども未来戦略方針」の具体化に関する提言


令和5年6月14日

「こども未来戦略方針」の具体化に関する提言

自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会
こどもまんなか保健医療の実現に関するプロジェクトチーム

 政府において取りまとめられた「こども未来戦略方針」においては、妊娠期から出産、乳幼児期、そして就学に至るまでの間の保健および医療に関し、

  • 出産・子育て応援交付金の制度化等の検討
  • 妊娠期からの伴走型相談支援の着実な実施
  • 出産育児一時金の大幅な引き上げ、低所得の妊婦に対する初回産科受診料の費用助成の実施
  • 出産費用(正常分娩)の保険適用の導入の検討
  • こども医療費助成の減額調整措置の廃止
  • 産後ケア事業の利用者負担軽減措置の実施および提供体制の確保
  • 乳幼児健診等の推進
  • 障害児、医療的ケア児の支援体制等の強化  等の方針が定められた。これらは、出産前後の親の安心や産後の子の健全な発育をサポートするために、いずれも重要な施策である。

 一方で、当プロジェクトチームにおいて(公社)日本産婦人科医会および(公社)日本小児科医会からヒアリングを行ったところ、特に出産費用の保険適用に向けては強い懸念が示されたこと、こどもの身体・心・社会(環境)のすべての面での育ちを一体として保障するための乳幼児健診の機会の充実等、さまざまな課題が残されていること等の現状が明らかにされた。

 当プロジェクトチームにおいては、親と子の出産と育ちを一気通貫してサポートし、より安心できるものとするという視点から、こうした課題の解消に向けて引き続き取り組むものであるが、政府においては関連する施策が多数に及び、担当も厚生労働省およびこども家庭庁の各局課にわたることとなるため、縦割りを排した検討体制をとることが望まれる。そこで下記の提言を行うこととするので、政府においてもこれを重く受け止め、実現されたい。

  1. 妊娠期から出産、乳幼児期を通じ就学までの間、それぞれの親と子を一気通貫に支援する観点から、関係部局が有機的に連携するための協力体制を構築し、諸施策の具体化にあたること。
  2. 施策の検討にあたっては、こども基本法および成育基本法の趣旨を十分に踏まえつつ、出産の保険適用など上述した点を含め関連する団体や地方公共団体等の意見や懸念を丁寧に受け止め、これを解消するように努めながら行うこと。
以上

続きを読む "「こども未来戦略方針」の具体化に関する提言"

| | コメント (0)

2023年3月29日 (水)

「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)

 令和5年3月27日、自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部(本部長:茂木敏充幹事長)において、「『次元の異なる少子化対策』への挑戦に向けて(論点整理)」をとりまとめ、29日に小倉將信こども政策担当大臣に提出しました。橋本がくは同本部の事務総長として、茂木本部長の指示のもと木原稔座長・田野瀬大道事務局長らとともに会議の進行や論点整理の編集作業にあたりました。

230329ogura_moushiire1
(写真:小倉こども政策担当大臣への申し入れ)

 この論点整理では、これまで要望がありながら実現できずにいた出産費用の保険適用や児童手当の拡充(所得制限の撤廃や対象年齢の引き上げ等)、保育士等の処遇や配置基準の見直し、こどもの医療費に関する国民健康保険補助減額措置の撤廃など、これまでの自民党の政策から踏み出した施策を何点も方向性として示しています。まずは現在平行して政府が検討しているこども関連政策の「たたき台」に反映させるとともに、引き続き6月の骨太の方針の閣議決定に向け、党内でも施策の詳細や優先度および財源のあり方を具体的に検討する段階になります。その中で引き続き議論を重ね、ひとつひとつ実現していけるよう引き続き努めます。

 自民党内の諸兄姉からすると「これまで不可能と言っていたのに急にやると言われても…」という戸惑いもあるでしょうし、他の政党の方々からは「先に我々が唱えていた政策のパクリだ!」という評価もあり得るものとも思います。いずれにせよ、自民党も少子化という現実を改めて直視し危機感を持って議論を重ね現状の変革を目指した表れであり、共感していただける施策については、共に実現に向けてご議論いただければ幸いです。

 4月1日に施行される「こども基本法」の理念を実現し、少子化の流れに歯止めをかけることができるよう、今後とも引き続き努力します。


【PDF版】「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)


「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)

令和5年3月27日
自由民主党
「こども・若者」輝く未来創造本部

 昨年の出生者数は80万人を下回り、戦後すぐのベビーブーム期の260万人や第2次ベビーブーム期の200万人の3分の1にまで減少している。少子化対策は、我が国の社会経済の存立基盤を揺るがす、待ったなしの課題である。

 結婚・出産の適齢期を迎える若者は、2030年を境に大幅に減少する見込みであり、この10年間が日本の少子化を反転させられるかどうかの最後の期間である。そうした危機感をもって、若者や子育て世代が将来に希望をもって安心して子育てできるような社会の実現に向けて、大胆で前向きな施策を実行していかなければならない。

 「こども・若者」輝く未来創造本部の下におかれた「こども・若者」輝く未来実現会議においては、本年2月から11回開催し、地方3団体、様々な関係団体からのヒアリングに  加え、人口学の専門家や先進的な取組を行う海外の施策についてのヒアリングや、現場視察を行うとともに、少子化対策調査会や教育・人材力強化調査会等における議論の成果を踏まえ、精力的に議論を進めてきた。

 今般、党として、目指す社会や取り組むべき施策の方向性について、論点整理をまとめた。政府に提出するとともに、今後、この論点整理をベースとして、6月の骨太方針までに、政策の優先順位や財源のあり方も含めて更に議論を深め、党としての提言をまとめていく。

1.「こどもまんなか」の少子化対策が目指す社会

 本年4月1日に施行されるこども基本法の趣旨にのっとり、いかなる状況や事情の中であっても、すべてのこどもが、ひとしく皆から尊重され応援される社会を目指す。すべてのこどもが愛され、教育を受けることができ、年齢および発達の程度に応じてその意見を表明でき、その意見が尊重される。その実現に向け、政府の各種施策は行われなければならない。

 若者は、学びやキャリア形成と結婚・出産・育児を同じ時期に求められ、かつ現所得も低く将来の成長も見通しがない。その中でまず稼ぐことを考え、キャリア向上やさらなる学びを求め、結果として結婚・出産・育児が後回しになり、少子化に歯止めがかからないのは必然である。この状況を打開するためには、若者の所得を目に見える形で継続的に向上させ、さらに補う政策が必要である。また、若者が自力で所得を向上させた場合に、子育てに対する支援が減る仕組みでは、せっかく流した汗が報われない。こどもや子育てに対する尊重や応援は、誰にも等しくあるべきである。そうしたことにより、若い年代からでも結婚・出産がより前向きに考えられるようにする。

 すべてのこどもが安心できる暮らしを、保護者のみならず保護者同士や地域全体、そして国まで、社会の皆で守り支えることが大事である。親が働いていても、家にいても、学びの中であっても、同じように支援されるべきである。

 家庭の中で、父親と母親が相互に補い合いながら、二人でこどもを育てることができるよう、社会が支援する。二人で担っても大変な子育てを一人で担っている保護者、双子やきょうだいが多い家庭、困難を抱えているこどもとその保護者には、より一層の支援を行う。

 経済界も、出産・子育てを単なる労働力の損失と捉えるのではなく、次世代への投資と捉えて、応援の一端を担う。子育てが済んだ年代層も、子を持たない選択をする者も、やはり応援の一端を担う。

 日本社会の皆で、若者の人生の選択を支え、すべてのこどもと子育てを尊重しかつ応援し、困難をサポートする社会を実現する。このことを通じ、すべてのこどもがそれぞれに健やかで幸福な生活を送ることができ、かつ子を産み育てる親もそのやりがいやよろこびを感じることができるようにする。それが「こどもまんなか」の少子化対策である。

2.施策の方向性

 どのライフコースを選んでも結婚・妊娠・出産・子育ての各場面での希望がかなえられる社会の実現が必要であり、「次元の異なる少子化対策」に相応しい施策を講じ、ライフステージごとの支援を総合的・抜本的に充実し、優先順位をつけて実施していく。現金給付・現物給付のバランスを図りつつそれぞれ一層の充実と普遍化を図っていく。

(1)ライフプランニング支援

 個人がライフプランを設計する上で、正確な情報を提供する支援が重要である。少子化が進む中で、人生の中で乳幼児とのふれあいの機会自体が少なくなっている。学校段階での乳幼児とのふれあい体験など実際の体験を通じて、こどもを持つことを実感し命の尊さやこどもを持つことについてのイメージ、喜びが感じられるライフプランニング支援が必要である。

①小中高等学校段階での赤ちゃんとの触れ合い教育(育児インターン)
②性や妊娠、命の尊さ、母乳の大事さに関する正しい知識の啓発、よりよい人間関係を築くための適切な発達段階に応じた包括的性教育の議論、安心・安全で健やかな妊娠・出産、産後の健康管理を促すプレコンセプションケアの普及

(2)若者のキャリア形成支援・キャリアコース柔軟化、賃金向上

 少子化の主要因の一つは「非婚化・晩婚化」である。そして、「非婚化・晩婚化」の要因は、結婚資金の不足、不安定な所得・雇用環境である。若者が経済的基盤を確保するための環境づくりが必要である。

①若年層が結婚できる経済環境づくり(正規雇用化の推進、若年層を重視した賃上げ、最低賃金の引上げ)
②国・地方自治体・企業が連携した給付型奨学金およびいわゆる「出世払い奨学金」の拡充
③自営業・フリーランスの保護者の育児時の負担軽減
④女性の補助職的な働き方から総合職への転換、地方における新たな女性雇用の創出

(3)結婚への希望をかなえるための支援

 若い世代が結婚しない理由として、「適当な相手にめぐりあわない」ことや、「結婚資金が足りない」ことが上位に挙げられている。若者の地方からの流出に加え、かつては結婚に向けた社会システムであった「お見合い」や「社内結婚」の社会的機能が最近は失われてきているため、これらの機能を補うための施策が極めて重要である。

①新婚世帯への住宅支援、三世代同居・近居・隣居への支援、多子世帯への住宅支援、祖父母世代の育児サポートへの配慮
②出会いサポートの拡充強化
③結婚、妊娠・出産、子育てに温かい社会づくり・機運醸成(結婚祝い金等)

(4)妊娠・出産・育児の環境に投資

 理想のこども数を持たない主要因は、経済的理由であり、経済的支援が重要である。また核家族化の進行により、産前産後の母親や父親への私的な支えがぜい弱になっている。産後うつ対策や母乳ケアをはじめ、産後ケア事業の充実やこども支援センターの整備・充実など産前・出産・産後を通じたサポートの充実を図り、安心してお産できる環境を再構築するべきである。こども施設について、これまで重視されていた量の拡充に加え、質の拡充についてもより重点を置くべきである。

【4-1 妊娠・出産支援】
①出産費用等の保険適用および自己負担分の支援の具体的検討、分娩および産前産後ケアについてかかりつけ助産師も活用した充実および地域ネットワーク化
②妊娠段階からの伴走型相談支援の回数および期間の拡充、アウトリーチ充実
③不妊治療の推進、ハイリスク出産への支援、健康上の理由で妊娠抑制している方への相談支援、望まない出産へのフォロー

【4-2 育児・就学前支援】
①児童手当の拡充(給付額の検討、所得制限の撤廃、対象年齢の引き上げ、多子世帯をより手厚く)、在宅保育家庭への経済的支援
②保育士等の処遇改善・配置基準改善、幼児教育・保育の無償化の拡充、副食費のあり方の検討
③保育園・認定こども園・幼稚園について、誰でも子育てについて相談できる体制や、親の就労の有無に関わらず短時間から預けられる体制の整備
④病児・病後児保育の制度化検討および拡充、障害児保育の拡充
⑤こども施設の「質の向上」を促すためのモニタリングと評価の仕組みの検討
⑥乳幼児・児童の健診回数および項目の拡充
⑦こどもの医療費の無償化、国民健康保険補助減額措置の撤廃
⑧今後設置されるこども家庭センターの一層の充実、専門性向上
⑨ベビーカーや子連れを前提としたインフラ・施設・通学路等整備の推進

【4-3 就学後支援】
①小中学校の給食費の無償化
②学童保育・放課後子ども教室等の拡充
③働く親や学ぶ親に対する地域でのファミリーサポートサービスの拡充、家事援助・ベビーシッター等への支援
④こども食堂の支援、こどもの居場所・遊び場の整備及び維持への投資
⑤こどもを犯罪から守るための日本版DBSの制度化

(5)共に育児する環境整備

 女性の就業率が 80%に達しつつある中で、また、子育てや家事などについて家庭内で男性が一定の役割を果たすことが必要不可欠となっている現状において、仕事と子育ての両立実現は、少子化を克服するための必要条件である。

①両親ともに、育児休業の拡充および育児休業給付の充実(育児休業給付の手取り10割確保)
②高い目標値を設定した男性の育児休業促進と分割取得の拡充、そのための企業規模に配慮した支援策の検討
③非正規労働者が育児休業を取得しやすい環境整備
④育児休業の対象年齢の拡大と対象外の自営業者などへの経済的支援
⑤育児休業後の職場復帰支援、育児休業を取得した者も昇進を目指せるキャリアパスの実現
⑥育児期の者の長時間労働の是正
⑦勤務間インターバルの制度の導入促進、選択的週休3日制の検討、短時間勤務への助成
⑧税や社会保険加入要件等に関する「壁」の解消

(6)教育費の負担軽減

 少子化の要因の一つとして、子育てや教育にお金がかかりすぎることが指摘されており、国の役割を踏まえ、教育の機会均等を図る観点から、その負担軽減を図ることが必要である。特に、高等教育について費用負担が大きく、全ての意欲のある者が支援を受けられるようその負担軽減が喫緊の課題である。

①小中学生の就学援助の拡充(対象経費や費目の充実)
②高校等の授業料の実質無償化の拡大(段階的な対象拡大)、高校生等の奨学給付金の拡充(給付額の増額、段階的な対象拡大)
③高等教育費の支援の大幅拡充、貸与型奨学金の子育て世帯への配慮、出世払い型奨学金制度の導入
④職業キャリア教育における施設費や実習費の支援

(7)公教育の再生

 公教育にはこれからの社会を生き抜く力を保障してくれる新たな姿が求められている。「一律に与える教育」から「個々の学びを引き出し、ウェルビーイングを重視する教育」への転換を更に進め、社会に開き、このような教育を展開する学校を再構築していくこと、そのような変革の先に、「こどもを安心して任せることができる質の高い公教育」が実現する。

①幼児教育の質の向上
②教職員の働き方改革や処遇および定数の改善、質の向上
③教員業務支援員、学習指導員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、医療的ケア看護職員、栄養教諭、養護教諭等の配置拡充
④こどもデータ連携の基盤でもあるGIGAスクール構想の継続と更なる充実
⑤不登校特例校の更なる拡充
⑥コミュニティ・スクール・地域学校協働活動推進員の配置拡充、部活動の在り方の見直し
⑦命の尊さを学ぶための地域人材を活かした学校動物飼育の充実のための工夫

(8)貧困や障害など困難がある子への支援を一層厚くする

 障害・発達障害のあるこども、医療的ケア児、社会的養護経験者、ヤングケアラー、外国にルーツを持つこどもなど、様々な困難を抱えるこどもや家庭を支えていくことは、そうしたこどもや家庭自身にとって重要であることはもちろん、どのような状況等にあっても社会全体でこどもや子育てを支えるという社会意識の変革にも繋がる。

①児童発達支援センターの機能強化とインクルージョンの推進、教育関係機関との連携の強化
②児童相談所や一時保護所等の一層の充実
③特別児童扶養手当、障害児への福祉的給付(例:補装具費支給制度)の所得制限の見直し
④障害があるこどもの保護者への支援の検討、訪問支援の対象拡大の検討
⑤社会的養護経験者の伴走・自立支援の強化、大学受験時の負担軽減の検討
⑥医療的ケア児等、専門支援が必要なこどもへの対応強化
⑦児童扶養手当の充実および所得制限の見直し、低所得子育て世帯生活支援特別給付金の柔軟な実施、ひとり親家庭の自立支援の強化や養育費の確保支援、等価可処分所得の考え方による施策の再検討
⑧不登校・ひきこもりのこどもおよびその家庭へのフォローアップ拡充
⑨こどもホスピスの実現、CDRの制度化
⑩孤立解消やピアサポート等のヤングケアラーの支援拡充
⑪外国にルーツを持つこどもの学習・生活等の支援拡充

(9) 申請主義からの脱却、事務負担軽減、こどもDX

 妊娠・出産・子育てにわたるデジタル化を進め、子育て世帯の負担を軽減するとともに、情報・データを活用したプッシュ型の情報発信・支援を充実させることが必要である。  詳細は、こどもDX小委員会が纏めた「こどもDX推進に向けた提言」を参照されたい。

①こども家庭庁内に、こどもDXを検討・推進する常設の組織(部局)設置。デジタル庁においてもこどもDXを準公共分野の重点領域としチームを維持。
②政府レベルで、以下の3つのこどもDXのコアシステムを検討し、実現。

  • 困難を抱えるこどもの見守りシステム(こどもの見守りデータ連携実証事業の成果を全国の自治体に展開。こどもや親がアクセスしやすいようにSOS相談はSNSやチャットボットに移行。個人情報保護法の関係を更に整理し検討)
  • 子育て家庭への行政手続きの利便性向上(行政手続きをオンラインで完結させるために、国と都道府県、市区町村の個別制度や根拠法、根拠条例を整理。申請によらずとも手当や補助金を自動的に公金口座に振り込まれるよう推進)
  • 電子母子手帳システムの検討と実現(電子母子手帳システムを起点として、こどもの成長や状態を記録し活用するシステムを構築。妊娠期から出産、育児、小中学校・高校等の学校検診等の情報の接続を実現。予防接種について、任意接種についてもデジタル化を実施)
  • ③自治体レベルで、こどもに関わる担い手や組織がこどもを支援するDXの仕組みを検討し実現する。

  • こどもの支援に関わる様々な担い手や関係各所(SSW、SC、学校担任、児童相談所職員、こども家庭支援センター相談員等)の役割や責任の所在、在り方を整理する。一人ひとりのケースワークに対応するよう情報の連携強化を行う。こども家庭センターを、児童等への支援に関する連携や自治体DXの中心的な役割を担うものと位置づける。
  •  

     もとより結婚は個人の自由な意思決定に基づくものであるが、若い世代の結婚・子育てに関する希望がかなえられていない現状を変えていく必要がある。今後、国民みなが危機感を共有しながらこども・子育てを社会全体で応援すべく、総理の下で国民的な議論を喚起し、施策の周知方策も含めた検討をするための会議を設けることが考えられる。

     また、上記のほか、教育と福祉・地域の連携、家族形態が多様になる中でのこどもの最善の利益の実現を図るための家族制度の在り方(共同親権、養育費、親子交流など)、各種控除などの税制の在り方についても、取り組んでいくべきである。 


    (参考)開催実績

    【「こども・若者」輝く未来創造本部】
    令和5年 1月19日(木)15:30~
    議題:関係省庁会議(第1回)の議論について【報告】

    【「こども・若者」輝く未来実現会議】
    第 1 回 令和5年 2月 6日(月)16:30~
    議題:団体ヒアリング①(自治関係)

    第 2 回 令和5年 2月 8日(水)15:00~
    議題:関係省庁会議(第2回)の議論(経済的支援の強化)について【報告】

    第 3 回 令和5年 2月13日(月)15:00~
    議題:団体ヒアリング②(厚生関係①)

    第 4 回 令和5年 2月16日(木)13:00~
    議題:ハンガリーにおける少子化対策について
    パラノビチ・ノルバート ハンガリー駐日特命全権大使

    第 5 回 令和5年 2月20日(月)14:30~
    議題:団体ヒアリング③(教育関係・建設関係)

    第 6 回 令和5年 2月21日(火)13:00~
    議題:関係省庁会議(第3回)の議論(幼児教育・保育サービスの強化、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充)について【報告】

    第 7 回 令和5年 2月27日(月)15:00~
    議題:団体ヒアリング④(厚生関係②・NPO関係)

    第 8 回 令和5年 3月 6日(月)15:30~
    議題:有識者ヒアリング 安藏 伸治 明治大学政治経済学部 教授(明治大学付属明治高等学校・明治中学校 校長)

    第 9 回 令和5年 3月13日(月)15:30~
    議題:関係会議等からの報告
    ・少子化対策調査会
    ・教育・人材力強化調査会
    ・Children First 勉強会

    (視 察) 令和5年 3月20日(月)
    福島県二本松市 学校法人まゆみ学園

    第10回 令和5年 3月22日(水)15:15~
    議題:論点整理の骨子案について

    第11回 令和5年 3月23日(木)15:30~
    議題:関係省庁会議(第4回)の議論(働き方改革の推進と育児休業制度の強化)について【報告】

    【「こども・若者」輝く未来創造本部】
    令和5年 3月27日(月)15:30~
    議題:論点整理(案)について

    (以上)

    続きを読む "「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)"

    | | コメント (0)

    2023年2月 7日 (火)

    子ども手当法案に自民党が反対した理由について

     今国会冒頭、1月25日の衆議院における代表質問において、自由民主党の茂木敏充幹事長が、児童手当について「所得制限を撤廃するべきと考えます」と発言されました。このことに関し、平成22年の自民党野党時代に当時の民主党政権が提出した「平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律案」に反対したことを指摘した批判が見られました。そこで、自民党が当時なぜ当該法案に反対したのか、その理由を衆議院本会議における討論をもとに下記に整理しました。ご覧いただければおわかりの通り、単純に、当時提案された子ども手当が所得制限を設けていないことをもって反対したものではありません。13年が経過し、自民党の議員でも当時の経緯を知らない方も増えていますので、ご参考にしていただければ幸いです。

     この議論の当時から考えると、子ども・子育て支援新制度や待機児童対策、保育・教育の無償化などの実現、こども基本法やこども家庭庁の設置など、こども・子育てを取り巻く政策はさまざまに進捗しています。一方で、なお少子化に歯止めがかかっていない現状は、率直に反省しなければなりません。こうしたことを踏まえつつ、未来志向で議論が行われることを期待しています。

    1. 児童手当法から「家庭における生活の安定に寄与する」という文言を削除しており、家族、家庭の役割を否定する考え方が看過できない。
    2. マニフェストに示された満額26,000円の算出根拠が示されず、あいまいな答弁に終始した。
    3. 「こどもの貧困をなくす」「格差の是正」と言いながら、所得制限を設けていない。
    4. 第一子、第二子、第三子とすべて同額である。傾斜配分すべきである。
    5. 現金給付のみが突出している。現物給付にもバランスよく配分すべき。
    6. 児童養護施設入所児童のうち、措置入所の子とそれ以外の子で支給有無が異なる。
    7. こどものために使われることの担保がない。
    8. マニフェストでは全額国庫負担とされていたが、地方負担と事業主負担を残した。
    9. 無理なスケジュールで強行しようとしているため、市町村に過剰な事務負担となる。
    10. 在日外国人の母国在住のこどもや養子他支給基準を満たしていれば支給対象となる一方、日本にこどもを置いたまま外国で働いている日本人に支給されない。また、そのことを認識したにも関わらず是正せず法案採決を強行している。
    11. 恒久財源が明らかでない。

    ※上記は、第174回国会衆議院本会議における田村憲久衆議院議員による討論(平成22年3月16日)(議事録)を要約したものです。

    | | コメント (0)

    2022年12月14日 (水)

    こども関係予算の拡充に関する決議

     さる11月8日に、橋本がくが事務総長を務めている自由民主党「こども・若者」輝く未来実現会議(木原稔座長)において、「こども関係予算の拡充に関する決議」をとりまとめ、政調審議会にてご了承を得た上で、11月小倉将信・こども政策担当大臣に申し入れを行いました。また12月14日に、岸田文雄総理大臣にも同様の申し入れを行いました。

     11月時点ではまだすこし漠然としていましたが、現在は予算編成も徐々に大詰めが近づき、今年度補正予算で来年前半の手当てがされた出産子育て応援交付金の後半部分や、さまざまなこども子育て関係補助等の対象拡大(所得制限の緩和)などの実現に焦点をあて、役所と調整をおこなっています。「こどもまんなか」社会の実現に向け、引き続き努力します。

    221210ogura_moushiire

    221214kishida_moushiire

    (図:小倉將信こども政策担当大臣・岸田文雄総理大臣申し入れ)



    令和4年11月8日

    こども関係予算の拡充に関する決議

    自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部
    「こども・若者」輝く未来実現会議

     令和5年4月のこども家庭庁設立を控え、令和5年度のこども関連予算は、単に既存関連予算を集約するだけに留まってはならない。こども基本法の目的として掲げられている「全てのこどもが、将来にわたって幸福な生活が送ることができる社会の実現」を目指すこども家庭庁として、期待される船出にふさわしい内容とする必要がある。

     また現在、将来的な「こども予算の倍増」を掲げる岸田政権として、来年度の骨太の方針において財源も含めたその道筋を示すべく、全世代型社会保障構築会議において検討が進められているところである。令和5年度当初予算において、より充実した額を積み、より前倒しして必要な事業を実施することは、議論を積極的に後押ししまた国民にそのメリットを示すことに繋がるため、極めて重要である。

     仮に、こども関連予算の規模が既存関連予算の範囲に収まるようなことがあれば、「仏作って魂入れず」という非難にさらされることは免れ得ず、期待を込めてこども家庭庁の出発を見守る国民の失望や落胆を買うこととなる。そうした事態は避けなければならない。
    以上を踏まえ、令和5年度本予算の編成にあたり、下記の課題を踏まえつつ、政府においてこども関係予算の拡充に向けて全力を尽くすよう求める。

    1. 1.こどもの居場所づくり支援、地域におけるいじめ防止対策の推進等、こども家庭庁新設に係る事項要求事項の充実
    2. 2.結婚支援、妊娠・出産に伴う経済的負担の軽減、未就園児を含む就学前のこどもの育ちを支援する取組等、結婚・妊娠・出産・子育て期にわたる切れ目ない支援の充実
    3. 3.こどもの貧困、ひとり親家庭、障害児、若年妊婦、ヤングケアラー、社会的養護経験者等、多様できめ細かい支援ニーズへの対応
    4. 4.保育の質の向上など「0.3兆円超メニュー」への対応
    以上

    | | コメント (0)

    2019年11月24日 (日)

    児童手当に関する財務省資料について

     先般、厚生労働省は、一般の方からのお問い合わせにより「平成24年児童手当の使途等に係る調査報告書」についてミスを修正し、正誤表を発表しました。またそのことに関連し、財務省資料も修正されています。これらのことは、問い合わせを受けた厚生労働省、内閣府、財務省の担当者レベルにてしっかり対応してもらえたものと思っています。そもそもミスはないに越したことはありませんが、速やかに対応できたことはナイスリカバリーといえるでしょう。また改めて、誤りのご指摘をいただいたことに、感謝申し上げます。

     このことに関し、その方のブログ「おたまの日記」にて、「橋本厚生労働省副大臣への私信:児童手当について」としてご指名をいただきましたので、そちらも拝見しました。私個人の責任において、財務省資料について以下のとおりの感想を記します。ただし現在、児童手当は現在内閣府の所管であり、また財政制度等審議会も財務省の所管ですので、同旨のペーパーを厚生労働省内に伝えてはいますが、あくまでも一個人の感想文と受け止めていただければ幸いです。

     なお、財政制度等審議会は、毎年の予算編成にあたり各省庁が出してくる要求に対して、厳しいお目付け役アドバイザーとしての機能を果たしているものと思っています。この件に限らず、いかに予算を効率化するかという投げかけをするのがお仕事であり、それに対して要求側省庁も予算の必要性を訴えて、折衝を重ねた上で、最終的な政府予算案となります。したがって財政制度等審議会の資料は「財務省はこう考えてるんだ」と受け止めていただくのはよいですが、政府全体として方針が決定されたものではありません。財政制度等審議会の資料は、個人的にも見解が相違することが少なくありませんが、しかし政府の中では必要かつ重要な機能の一つだと理解しています。

    ----
    ※こちらが元の財務省資料「社会保障について①(総論、年金、介護、子ども・子育て支援)」10月9日、財政制度等審議会提出資料です。

    <財務省資料p.48について>

     ページ上部説明文一行目にて「世帯収入が高いほど、『使う必要がなく残っている』等の回答が多い」とされ、左下の収入別児童手当使途のグラフでも、「使う必要がなく残っている」とされている。

     一方、厚生労働省報告書では、p.23において、この項目は「「児童手当等」の支給から回答時点までに特に使う必要がなかったので、全部又は一部が残っている(将来的に使う予定がある場合を含む)」とされており、期間(10月の児童手当等の支給後から1月末日まで)内に費消していないということを意味しているのみである。そして残額の使い道については、同報告書p.52の「(2)残った「児童手当等」の使い道(使途予定)」の項目にて調査結果が記されており、その中で「大人のおこづかいや遊興費」という児童手当に明白にふさわしくない使途予定はわずか0.3%にすぎない。また、p.57のグラフにて世帯年収階級別の使途予定を確認しても、いかなる世帯年収階級においても「大人のおこづかいや遊興費」の回答は1%未満である。

     したがって、調査時点のみならず将来の使途予定まで勘案すれば、いかなる世帯年収階級においても、明白に児童手当の使途として不適切と思われる使途の回答は極めて少なく、財務省資料同ページにおける【改革の方向性】(案)にて示されている「使途等の実態を踏まえた所得基準や給付額見直しを検討」や「所得基準を超える者への特例給付については、廃止を含めた見直し」を行う根拠は、厚生労働省報告書の範囲では、存在しないのではないか。

    なお、「子どもに限定しない家庭の日常生活費」や「子どものためとは限定しない貯蓄・保険料」については、子どもや子育てをしている家庭全体として利益は及び得る、児童手当にふさわしい使途と考えるべきではないか。

    また、厚生労働省報告書の調査は平成24年に実施されており、すでに7年が経過している。制度見直しにおいてはできるだけ最新のデータに基づいて行うことが望ましく、必要に応じて、まず調査を再び行うことも検討されるべきではないか。

    <財務省資料p.49について>

     p.49のグラフは政府における「家族関係社会支出(現物給付・現金給付)」を見ているのみである。しかし単純に、政府からの支出が増えたので子育てがたやすくなったと結論づけるのは早計である。子ども・子育て政策が「真に子どもや子育て世代のためになっている支援となっているかどうか」を検証するためには、子育て世代各家庭における負担増についても合わせて確認をする必要もあるのではないか。

    具体的には、少なくとも年少扶養控除の廃止(2011年)、消費税3%引上げ(2014年)、消費税2%引上げ(2019年)などは子育て家庭への影響は見込まれ、また医療や介護などの保険料の推移についても目配りが必要であろうと思われる。あわせて検討さるべきではないか。

    | | コメント (0)

    2017年12月31日 (日)

    平成29年末のごあいさつ

    平成29年(2017年)も暮れようとしています。今年も多くの皆さまとのご縁に恵まれ、健やかに終えることができます。心から感謝申し上げます。

    後半の厚生労働部会長としての活動の中で思ったことを少し記します(今年の前半は、「厚生労働副大臣退任にあたり」に記したことと重複しますので割愛します)。

    臨時国会で「働き方改革」の法案を仕上げるのが今年後半最大の仕事、と思っていました。しかし、突然の解散総選挙によって来年度通常国会に先送りになってしまいました。政治ですから、そういうこともあります。これは来年の大きな宿題です。

    ただ、総選挙時の公約により、消費税税率引上げ増収分の使途変更を行うことになりました。もちろん「人づくり革命」、すなわち幼児保育・教育の無償化や待機児童解消の前倒し、高等教育の無償化等々の必要性は理解しますし、選挙の公約ですから実現はしなければなりません。一方で、財政再建のため2020年にプライマリーバランスの黒字化をする目標は先送りになりました。ということは、将来世代へのツケ回しは今なお続いているということです。消費税増収分の使途変更は、国債発行削減をより少なくする、ということは国債発行の増発に繋がるわけですから、すなわち「未来の世代の負担をより増やす選択」でしかありません。

    「高齢者偏重の社会保障を全世代型に変える」という言い方もされます。実は税・社会保障の一体改革の際の、社会保障制度改革国民会議報告書の中で、子ども・子育て新制度を社会保障の一環として消費税財源の使途に位置付ける際に、既に「全世代型の社会保障」という表現を使っていますので、何をいまさら言うのかという思いもあります。ただ、話はそれだけではなくて、これまでは「高齢者に偏った社会保障を、未来の世代の負担で実現してきた」という状態だったものが「高齢者から子育て世代まで全世代の社会保障が、未来の世代により多い負担を科すことで実現される」ということに変わっただけということを指摘せざるを得ません。まあ、教育は投資ですから、未来世代に負担をかけてもそれを上回って余りある教育効果を挙げるような結果に繋がればよいのですから、ご関係の皆さまには、そうしていただけることを切に期待しています。

    ただこうした政策決定が、急な解散総選挙のため必ずしも十分な議論なく自民党の公約として掲げられたことは、個人的には実に遺憾なことだと思っています。だから、自民党の人生100年本部での第一回会合冒頭において、抗議を行いました。そしてこの話は、来年のおそらく骨太の方針とともに決定されるであろう、新たな財政再建目標再設定の議論に持ち越されます。厚生労働部会長としての立場上、今の社会保障の水準を下げるような議論にあまり与したくもありませんが、後世の負担について目を瞑るわけにもいかず、おそらく辛い議論を余儀なくされることでしょう。それでもやり抜かなければなりません。そうした勉強や議論をする場を党内どこかに設けられるといいなと思っています。


    171231book_2


    なお、今記したような内容は書籍「シルバー民主主義の政治経済学 世代間対立克服への戦略」(島澤諭、日本経済新聞出版社)に触発されたものです。この書籍は財政論を含む社会保障制度の近年の在り方と、10月の総選挙までを含む政治・政策プロセスの変遷とを重ねあわせて論じており、客観的かつ簡潔明瞭に現状の日本が抱えている課題が記されています。ぜひ特に若手の政治家には読んでいただきたいと思い、自民党青年局役員・顧問の先生方には勝手に配らせていただきました(ちなみに僕の自腹で書籍代は支出しています。政治資金ではありません。為念)。ご興味の方は、ぜひご覧いただければ幸いです。こうした議論を積み重ね、課題を乗り越えていくことが、これから私たち自民党がなすべきことです。

    とりあえず来年予算編成においては、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定を、まあ多くの方々がほっとして頂けるくらいの改定率で乗り切れたものと考えています。また障害報酬サービス報酬改定の食事提供体制加算について、自民党厚生労働部会として継続の申し入れを行い、今回は継続となりました。生活保護水準については、低所得者との比較による改定がありご批判もありますが、生活保護制度が憲法上に記される「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するためのものであり、たとえば「余裕のある生活」の権利保障をするものでない以上、生活保護を受給されていない方々の生活と比較して水準を設定することはやむをえないものと考えます。その上で、子どもの大学進学の支援や、生活困窮者自立支援等をさらに進めていきます。

    来年の通常国会では、働き方改革の法案審議や受動喫煙対策、医師不足対策等の重要法案が目白押しです。そうしたものにも全力を尽くして取り組んでまいります。

    今年は倉敷市が三市合併50周年を迎え、昨年12月に町制施行120周年を迎えた早島町ともども、節目の年を迎えました。「一本の綿花から始まる倉敷物語~和と洋が織りなす繊維のまち~」の日本遺産への登録や、水島港における倉敷みなと大橋の竣工など、多くの方々のお力のおかげで地元倉敷・早島が発展していることはとても嬉しく、多少お役に立てていればありがたいことだと思っています。一方で、障害者就労支援事業所の廃業により多数の方が解雇される不測の事態もあり、障害者福祉と雇用安定行政の連携による対応などにも力を注ぐことになりました。

    今年は突然の解散総選挙があり、秋のお祭りや稲の収穫とも重なり、多くの皆さまにご迷惑をおかけすることになりました。しかしながら、地道に「人づくり革命」や「生産性革命」の必要性について訴え、同時に上記のことについても議論をしますとお話をし、93,172票の得票をいただき、4回目の当選を選挙区で果たさせていただきました。選挙を経ることで、多くの皆さまに支えていただいて仕事ができるんだということを再確認できます。心からの感謝を申し上げますとともに、来年もその思いを持って引き続きご期待にお応えできるよう全力を尽くします。

    個人的には正月に人生初の入院をするようなこともありましたが、どうにか健康で過ごすことができました。多くの方々との出会いとサポートに恵まれたことに感謝を申し上げるとともに、自らの力不足のために多くの方々を失望させてしまったかもしれず、お詫びしなければならないとも思います。ただそう簡単にものを忘れることもできません。すべてを背負いながら前を向いて進むのみです。

    重ねて、ご覧の皆さまに対し、今年一年のご厚誼への感謝と、来年のさらなるご発展をお祈り申し上げます。どうぞよい年をお迎えくださいませ。


    | | コメント (0) | トラックバック (0)