17.国際平和貢献・外交・安全保障

2019年9月 1日 (日)

日中次世代交流委員会第七次訪中団レポート

【はじめに】
 8月18日(日)から22日(水)までの日程で、日中次世代交流委員会第7次訪中団の一員として中国(北京、福州、厦門)を訪問しました。概要をここに記します。
 日中次世代交流委員会とは、公明党の遠山清彦衆議院議員を会長とする超党派中堅・若手議員による議員連盟です。日中関係を最も重要な二国間関係と位置づけ、結成以来、関係の良し悪しに関係なく毎年欠かさず訪問すること、また訪中の際には必ず北京以外の地方都市も訪問することを旨としており、この委員会としては7回目の訪中団となっています。僕自身はこの委員会のメンバーとしては3回目の訪中団参加となるものでした。
 今回の訪中団の参加メンバーは、以下の通りです。

団長:遠山清彦 衆議院議員
副団長:小熊慎司 衆議院議員・橋本岳 衆議院議員
事務局長:濱地雅一 衆議院議員
事務局次長:伊藤俊輔 衆議院議員
メンバー:井野俊郎 衆議院議員、國場幸之助 衆議院議員、田嶋要 衆議院議員、小西洋之 参議院議員、竹谷とし子 参議院議員、伊藤孝江 参議院議員

 米中の貿易戦争が厳しく、また日韓関係も不安定な状況というタイミングですが、日中関係は昨年の安倍総理訪中、今年6月の大阪G20への習近平総書記の来日、そして来春に再び国賓として習近平総書記が日本を訪問することが原則的に合意されているという流れがあり、日本と中国の二国間関係はきわめて良好な状況です。ただし、米中貿易戦争も日本経済への影を落としつつあり、また中国国内では香港の問題を抱えているところ、この二点が主に議論のテーマになりました。また後半の福建省訪問では、空海や隠元など、中国と日本との仏教をはじめとする交流の歴史的拠点を学ぶ機会となりました。

【8月19日(月)】

●社会科学院日本研究所 楊所長らとの意見交換
 北京に到着して、早速、中国社会科学院日本研究所にて楊伯江所長始め研究員の方々と意見交換。
 まずこちらの質問に答える形で、米中摩擦に関する中国側の姿勢が示されました。曰く、中国側は望んでいないが米国に仕掛けられており責任は米国にある、互いの経済が拡大したため摩擦が生じるのは宿命的なこと、周囲の国々に影響を及ぼしていることに中国は自覚的である、交渉と対話を堅持して、譲るところは譲るが、中国の主権に関することは譲らない。とにかく対話して、世界の平和、地域の平和を守るように続けたい、等の見解が楊所長らからありました。
 また先方からは、日本の女性関係政策、環境政策、日本の憲法改正における自民党・公明党の態度の違いについて、価値創造社会、消費税引き上げの影響、第三国協力、橋本内閣六大改革の評価、日韓の諸問題などについて質問があり、各議員が回答しました。
これらのやりとりは、先方のレポート(中国語)もありますのでご覧ください。
日本研究所科研交流简报(2019年第23期)日本众参两院跨党派年轻议员代表团到访我所

●駐中国日本大使 横井大使ブリーフィングおよび夕食会
 夕方、在中国日本大使館を訪れ、横井大使に「最近の中国情勢と日中関係」に関するブリーフィングを受けました。中国にとっては今年は建国70周年の節目の年であり、他方で対米関係、経済政策、香港情勢等の問題に直面していること、経済では米中経済摩擦等の要因により緩やかな減速傾向にあること、外交的には対米関係が中国外交の最大の課題であること、日中関係は大幅に改善しており、完全に正常な発展の軌道に乗っていること、来年春の習近平国家主席の国賓としての訪日に向け、日中関係を「競争から協調」の新たな段階に押し上げるべきといった趣旨でした。
 ブリーフィング後、大使主催の夕食会にお招きをいただき、食事をしながらひきつづき様々な意見交換を行いました。

【8月20日(火)】

●商務部国際貿易経済合作研究所 兪副院長らと意見交換
 ここでも、米中摩擦が主なテーマとなりました。先方からは、中国側は自由貿易、市場開放を続けているが米側が保護主義的な政策を掲げて国際秩序への挑戦を行っている、中国経済もこの一年影響を受けたが経済構造を調整して対応してきたこと、今後も多国間貿易秩序やWTO改革の意思は変わらず、お互いを尊重しながら二国間の対話を続けることが大事、といった見解が示されました。遠山団長からも、保護主義や自国第一主義の主張への懸念や多国間自由貿易体制維持について日本が強い意志を持っていることを伝え、日米貿易摩擦をチャンスとして克服してきた経緯を紹介しました。
 質疑応答の中では、知的財産の移転やサーバの国内設置規制について「センシティブな問題」という表現があったり、人民元の為替に関する解決には否定的であったりというやりとりもありました。一方、RCEPの推進はもとよりCPTPPへの中国の参加に積極的なコメントも聞けました。

●宋濤・中国共産党中連部長との会見
 訪問団の受け入れ元である中連部の責任者である宋濤部長からは、歓迎の言葉や、習近平総書記の来年春の訪日予定を踏まえ、さらに両国関係を発展させたい旨の表明がありました。また今回の視察先である福建省について、古くから日本との交流の歴史が深いこと、与党交流会議における協力モデル地域とされており今後具体化をしてきたい旨のお話がありました。その後、中連部内で王亜軍・副部長との昼食会があり、その場でも活発な意見交換がありました。

●黄坤明・中央宣伝部長との会見
 中央政治局委員でもある黄坤明・中央宣伝部長からは、米中経済摩擦に関しては、経済構造の問題という認識が示され、自由貿易や多国間主義の重要性や民間・文化交流推進の必要性が指摘されました。またご自身が杭州に勤務していた時代に、日本企業の保護に尽力した旨のお話がありました。
 また遠山団長から香港でのデモ等に関して早期の平和的な解決への期待を述べたところ、黄部長からは情勢沈静化への自信が示されました。この点については、報道もされています。直後に河野太郎・外相や山口那津男・公明党代表もそれぞれに中国側に意見を伝えていますが、本件に関して日本の各方面から注目されていることを示す意味はあったのではないかと思っています。
香港情勢、沈静化に自信=中国高官(時事通信)

●薛剣・外交部アジア司参事官との会見
 薛剣参事官は、現在は北京の外交部(中国における外務省)に戻られていますが、最近まで在日本中国大使館に公使参事官として赴任しておられ、日本語も達者な方です。国会議員との交流も熱心で、要人会見というよりも「久闊を叙する」ような、和やかな会話でした。安全保障や文化面などの日中交流深化への意欲が示されました。

 その後、在中国日本大使館において遠山団長が記者ブリーフィングを行い、北京空港にて急いで食事をとり空路福州に向かいました。

【8月20日(火)】

●黄檗山万福寺訪問
 朝、福州のホテルからマイクロバスで一時間ほど。隣の福清市にある黄檗山万福寺を訪問しました。清の時代、このお寺の住職であった隠元禅師が日本にわたり開いたのが、京都の宇治にある同名のお寺です(その時に伝えた豆が「インゲン豆」なのだそうです)。そういう意味で、中国と日本との文化的交流の拠点の一つとなった場所です。ただ、実際にはお寺は一度荒れてしまい、実業家の寄付により11月の完成目指して現在再建工事中で、唐時代の様式の大伽藍ではありましたが建物やご本尊は真新しく、境内は工事中でショベルカーがあったりして、歴史的風情を感じるにはいささか残念だった気もします(そういう気分になるためには、宇治に行った方がよいかも…)。

●福州京東方光電技術有限公司(BOE社)見学
 続いて、最新液晶や有機ELディスプレイの生産を行っている企業の工場を見学しました。巨大な敷地の工場でしたが、ラインを見学することはできずショールームを視察でさまざまな製品を眺めました。翌日の日経新聞に、この会社の名前が「次期iPhoneに採用される方向」という記事が出ているのを見つけ、思わず納得。タイムリーな視察でした。
アップルが中国製有機ELの採用を検討、JDIへの影響は(日経ビジネス)


●福建高壹工機有限公司見学
 福州市に戻り、電動工具メーカーの工場を見学。こちらは1985年に日本の日立工機グループの合弁会社として設立されたものが、2017年に工機ホールディングス株式会社に社名を変更して今に至っている企業です。こちらは工場の製造ラインを見せていただきました。人件費も徐々に上がってきており、また米中摩擦の影響でアメリカから関税が課せられる対象にもなってしまい、ご苦労があるというお話も伺いました。

●鄭新聡・福建省委員会常務委員らと会見
 夕方、福建省の幹部の方々と会見を行いました。挨拶の交換ののち、福建省と日本との文化的交流の歴史などについてお話がありました。その後の夕食会では、小熊慎司副団長が得意のトーク等を生かして中国の福島県等への輸入規制の解除についてアピールし、鄭常務委員から「協力する」という言質を引き出す外交成果もありました。個人的には会見や夕食会の際に供されるお茶がよくある緑茶ではなく美味しい烏龍茶だったのは、さすが福建省と感心しました。

【8月21日(水)】

●福州開元寺訪問
 朝、福州の開元寺というお寺を訪問しました。遣唐使船に乗って唐の都長安を目指した空海が嵐のために福州に漂着し、長安に向かう前に滞在したお寺です。街中にある現在も信仰を集めているお寺で、多くの方がお線香をあげてお参りしていました。

●厦門奥佳華知能健康設備有限公司見学
 高速鉄道で福州から厦門まで移動し、厦門奥佳華知能健康設備有限公司(OGAWAグループ)を訪問。電気マッサージ椅子を製造しており、60以上の国や地域に輸出している企業です。センサーやAIを駆使してその人の体調に応じたマッサージができるとの由。少し試してみましたが、すこぶる快適でした。

●陳秋雄・厦門市委員会副書記らと会見
 夕方、厦門市の幹部の方々と会見しました。挨拶の交換ののち、厦門市の産業や経済、観光などについて紹介がありました。また夕食会では、僕から、水島港と厦門港はコンテナ船の定期航路があり、経済的なつながりをより深めたい旨お話しました。なお、厦門市は街も綺麗で多くの観光客を集めていることもとても納得できる場所でした。また、天秤かごをぶら下げて果物を売る行商さんも、QRコードで決済していたのは流石のキャッシュレス社会と納得しました。

【8月22日(木)】

●コロンス島訪問
 世界文化遺産に登録されているコロンス島を訪ねました。アヘン戦争後に各国の租界となり、列強の領事館を建設していた歴史があり、それらの時代の建造物が現在も保存されて美しい観光地となっています。旧日本領事館もありました。全く個人的には、その時代のピアノが展示されているピアノ博物館にて「わー、ベーゼンドルファーだー!あ、スタンウェイだー!こっちはベヒシュタインだー!」と勝手に盛り上がっていました。

【まとめ】
 前半の北京滞在中は、要人や研究者の方との会見が相次ぎ、現在の東アジアを取り巻く諸情勢についての貴重な意見交換を集中的に行うことができました。二年前に同じ団で訪中した時には、北朝鮮の核実験やミサイル発射等が大きな問題となっており、議論の主要テーマとなっていました(過去のブログ「中国訪問記―北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策」「先の中国訪問における孔鉉佑氏の発言について」参照)。一方で今年は、北朝鮮はほとんど話題にならず、米中の経済摩擦が主要テーマでした。状況の変遷ぶりには改めて驚くばかりです。中国側からは強気な発言が相次ぎましたが、他方では日本との関係改善が大きく意識されており、その背景には危機感のようなものもあるのだろうと思っています。事前に水島コンビナートの各企業を訪問した際、米中摩擦の結果中国への輸出にマイナスに影響する見通しについて何社かからお話を伺っています。そうした中で、率直な意見交換の機会を持てたことは貴重なことだったと思っています。

 後半の福建省では、うってかわって日本との歴史的・文化的な交流の深さや、中国のモノづくりの現場や技術などを見学する機会となりました。帆船の時代に、難破などの苦難を乗り越えながら海を渡り教えを伝えた歴史上の偉人に思いを致し、また近代において中国が開国し近代化するプロセスの一旦を目の当たりにすることも有意義なことでした。

 こうした機会を頂けた中連部を始めとした中国側の皆さま、サポートして下さった外務省や在北京大使館、在広州総領事館の皆さま、そして遠山清彦団長、小熊慎司副団長をはじめとする日中次世代交流委員会訪問団メンバーの皆さまに感謝を申し上げます。

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(写真:黄坤明氏と訪中団メンバー)

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2017年9月 7日 (木)

先の中国訪問における孔鉉佑氏の発言について

 先日の中国訪問における孔鉉佑・朝鮮半島問題特別代表兼外務次官補との会談内容の一部がメディアで記事として取り上げられています。記事内容が誤っている訳ではありませんが、一人歩きしたり誤解も招きうる可能性も考えられるので、その場に同席して耳で発言を聞いていたものとして、補足します。

「次は東京上空越えるミサイルも」中国高官、日本の国会議員団に伝達(産経新聞)

中国高官「次は東京上空」日本に強い言葉で抑制対応要請か(共同通信)

 会談の主要な議論は先にこちらのエントリ(中国訪問記―北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策)で記した通りです。まず大前提として、双方ともに、北朝鮮のミサイル発射や核開発等の国連安保理決議違反の行動に対しては断固反対であること、外交的な解決が望ましい(すなわち、武力行使は望まない)ことの二点は両者とも一致していました。その上で、遠山団長から北朝鮮への圧力強化への中国のさらなる協力を要請したことに対し、孔氏から、中国が対話による解決を提案していることをもっと日本側も前向きに考えてほしい、というお返事があり、それに対して遠山団長から、実際にミサイルが上空通過する日本国民の危機感の中で、現時点での対話路線に対する懸念を伝える、という展開をたどりました。

 そのあとで、孔氏から、先のエントリの補足として記した「中国国境から90kmしか離れていないところでの核実験に強い危機感を持っている」云々の発言があり、その現実的な解決策として中国は対話による解決の提案をしていること、日本を含め関係国からは前向きな反応がないことなどを述べられた上で、「中国としては危機的な状況においても対話を試みる価値があると考えている。さもなければブレーキが利かず、ただエスカレーションするだけである。もしこのままの状況が続けば、次は東京の上空を超えてミサイル発射を行うシナリオも考えられる。そのようなシナリオを避けるべく、中国側としては、国際社会と連携しながら北朝鮮問題を解決することを望んでいる」云々という発言がありました。

 正直、聞いていてドキッとする言葉であったことは確かです。ただ振り返ってみれば、軍事的圧力のエスカレーションがもたらし得るシナリオの一例として述べたのであろうと受け止めていますし、核実験によって実際に国土の一部が地震に見舞われるという直接的恐怖感を踏まえた、落としどころの見えない中で続く軍事的エスカレーション的状況への危機意識から出た悲鳴のような言葉にも聞こえました。

 ちなみに、二年前に同じ訪中団で中国東北部の延吉という都市を訪問しており、その際現地の方から「北朝鮮の核実験があると、この辺でも地震を感じます」と聞いていました。テレビ報道で、今回の核実験でも延吉で地震のため大きくシャンデリアなどが揺れる映像が出ていました。隣国の影響で地震が頻発するのは、なかなか恐いことでしょうし、許し難く感じるのは想像に難くありません。

 いずれにしても、北朝鮮問題に関して軍事的解決を望まないのであれば、どこかのタイミングで対話に転じなければならないことは自明の理であり、日中の意見の相違はそのタイミングとプロセスの違いでしかありません。こうした溝を埋めつつ、沈着にかつ毅然と一致して北朝鮮に対して臨む国際社会の空気を作っていくよう外交当局には望みたいと思いますし、僕自身もそのように動いていきたいと思っています。

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2017年9月 3日 (日)

中国訪問記 ― 北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策

 さる8月27日~31日の日程で、遠山清彦衆議院議員を団長とする超党派の日中次世代交流委員会第五次訪中団の副団長として中国の重慶、西安、北京の各都市を訪問し、視察や面談等を行いました。主要なポイントについて記しておきます。

(9月3日夕方、北朝鮮の核実験を受けて一部追記しました。)

<北朝鮮ミサイル問題>

 全くの偶然なのですが、中国滞在中の8月30日に、北朝鮮が弾道ミサイルを発射し北海道上空を通過しました。この問題を受け、翌31日の北京での要人会見では、特にこの問題について中国側に日本の姿勢を伝え、意見交換をすることとなりました。特に、夕方に会談した孔鉉佑・中国外交部部長助理は朝鮮半島問題担当でもあり、前日に日程がセットされたことから、このタイミングでの直接の面談には先方にもそれなりの意図があったものと思われます。 以下にこの会談のポイントを橋本の記憶とメモに頼って記します。

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 遠山団長からは冒頭、北朝鮮のミサイル発射は日本や中国のみならず北東アジア地域の平和と安定を揺るがす暴挙であり言語道断であること、問題解決のための「対話と圧力」の方針のうち圧力を強めるべきタイミングであると日本が考えていることを伝え、、中国にもそれに協力してほしいと強く要請しました。


 孔氏からは、国連安保理決議違反の北朝鮮の行動には中国は反対の立場であることを明確に述べられた上で、圧力を保つことは大事であるものの、それだけでは解決しないのではないかと述べられた上で、エスカレートを防ぐため対話も模索すべきとし、米韓は軍の演習を一年凍結し、北朝鮮は核開発とミサイル発射を凍結し、その期間内に対話で問題解決する努力をするという中国の提案(いわゆる「ダブル・フリーズ」)について考慮されたいとのお話がありました。

 それに対し遠山団長は、北朝鮮問題に対して平和的外交的解決を望む立場は日本も同様であるとした上で、仮にモラトリアムを設けても北朝鮮がその約束を守る保障はなく、仮に裏切った場合、選択肢がむしろ軍事的オプションしかなくなってしまうという懸念について触れ、実際にミサイルが上空を通過した日本人の危機意識について共有していただきたいと反論しました。

 以上のように、双方がそれぞれの立場に立って提案や要望を率直に述べあう形で議論は終始しましたが、とにかく北朝鮮のミサイル発射翌日に日中間で率直にお互いの意見交換ができたことは、極めてタイムリーであったと考えます。遠山団長の要請は、宋濤・中国共産党対外連絡部(中連部)部長との会談、陳元・政治協商会議副主席との会談でも行われました。

 その後参加団員間でも意見交換をしましたが、私の個人的印象として、中国は北朝鮮の核問題の方を重きに捉えている(もちろんミサイル問題とは不可分ですが)ことで少し日本と問題の捉え方が違っていること、また仮に北朝鮮を対話のテーブルに乗せたとしても、中国としてもそこから先のシナリオを描き切れていないかもしれないことなどを感じました。もちろん私たちにも拉致問題等も含めさまざまな北朝鮮に関する問題に対して、即時有効な解決策を有しているわけでもなく、悩ましいテーマであることも事実です。引き続き関係諸国間でコミュニケーションを図りながら協力して毅然とした態度を保ちつつ、解決策を探り続けるべきでしょう。

(以下追記)
 9月3日昼、北朝鮮が水爆実験と称する核実験を行いました。事前に水爆の小型化に成功したと宣伝しておいてのタイミングですから、そうした能力の誇示ととらえてよいと思います。当然ながら、累次の国連決議に反する言語道断の暴挙であり、決して許容されるものではありません。安易にこれに屈してはなりませんが、一方で軍事的エスカレーションという悪夢的シナリオも望ましいものではありません。政治的・経済的な制裁による「圧力」強化に向け、関係各国の一致結束が問われる状況と言えるでしょう。

 孔氏は会談の際、「中国国境から90Kmしか離れていない場所で核実験されるのは不愉快であり、中国も強い危機感を持っている」とおっしゃりました。その核実験が強行された今になってもまだ中国が「対話」を念頭においたアプローチを保ち続けるのか、また北朝鮮とおそらくコンタクトを持っているであろうアメリカもどのように受け止めるのか、十分な関心を持って注視しなければなりません。
 
<一帯一路>

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 重慶は人口3,390万人の大都市であり、中国内陸部唯一の国直轄市とされています。指定以来毎年2桁の経済成長率を続けており、自動車やコンピュータ、プリンタ、コピー機などの大生産拠点(世界のノートPCの1/3は重慶で生産されている由)となっています。この製品のヨーロッパへの輸送路および物流拠点として喩新欧鉄道や両江新区等が整備されています。それらの拠点を視察しました。

 鉄道は重慶からドイツまで総延長11,000kmで所要は13日間だそうですが、それでも沿岸部まで運んで海路を経由するより20日は短くなったとのこと。

 正直、上海や香港など中国沿岸部は発展している認識が広いと思いますが、内陸都市である重慶がそのような存在であるという認識は行って見るまで持っていませんでした。まさに百聞は一見に如かずとはこのことです。まるで新宿かマンハッタンかのような近代的高層ビル群は、かなり事前の想像を上回っておりとても驚きました。

 なお、重慶には日本の総領事館は設置されているものの、日本人は約350人しか在住しておらず、重慶における日本の存在感は残念ながら薄いと言わざるを得ません。まだ沿岸部より地価等は安く、これからの企業の進出先等として十分検討に値するものと思います。

 西安においても、同様に欧州向け鉄道貨物ターミナル等を視察しました。貨物用コンテナは沢山見ましたが、列車そのものは「出発してしまいました」とのことで見ることが出来ず、鉄分のあるものとしてはいささか残念でした。

<貧困対策>

 重慶では市の担当者から中国における貧困対策についてもヒアリングを行いました。一日約一ドル(一昨年約二ドルになりました)以下で生活する人を絶対的な貧困生活者と国際的に定義されていますが、中国でも同水準の生活者を貧困者と定義し、2020年までに貧困者ゼロを目標として2014年からトップダウンで貧困対策を進めています。

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 重慶市では2014年には165.9万人いた貧困人口が、対策によって現在は30.3万人まで減らすことができたとのこと。市長をトップとする責任体制を組み、インフラ整備(道路やため池、農地改良)から就労支援、奨学金など教育支援や職業訓練、医療の提供、貧困対策ローン等の金融支援、ネット取引による産業づくりやグリーンツーリズム、条件不利地域からの移住、そして稼得能力のない者地域に対する最低生活保障まで、行政のみならず国有企業等も協力させる全社会的体制でとても幅広い対策メニューを揃え、約20万人がソーシャルワーカー的な仕事にあたり各世帯を訪問し、それぞれにに適した対策を組む(対象者は貧困から脱した者を含めて約170万人だそうですから、ものすごい密度です)という、極めてきめ細かい対応をとっているとのことでした。監査や評価の仕組みまで説明がありました。

 もちろん日中の経済状況の違いや「貧困」に対する政策目標の違い(日本で問題になるのは「相対的貧困」です)があるので、同列に並べて比較すべきではありませんが、それにしても貧困対策にかける習近平国家主席以下中国政府の意気込みをひしひしと感じる説明に、先日まで厚生労働副大臣として日本における生活困窮者自立支援や生活保護制度を担当していた者の一人として、軽い衝撃を受けたのもまた事実です。

 中国はまだこれから少子化・長寿化の影響が著しくなる段階ですので、単に2020年に貧困ゼロにしてもその先も息の長い取り組みが必要になるものと思われますし、トップダウンの政策ゆえにどこまで息切れせずに継続できるかは未知数の部分もあるかもしれません。ただ、このような社会政策も進めているということは、とても勉強になるものでした。

<まとめ>

 今回の訪中団は、自民党、民進党、公明党の各党から若手有志10人が集まった団でしたが、遠山清彦団長、小熊慎司副団長、伊佐進一事務局長以下メンバーに恵まれ、移動中や食事の際などに普段はなかなかできない党派を超えた意見交換(そしてしばしば小熊副団長による手品の披露)が活発に行われ、それも有意義なものでした。

 また古都・西安では、視察の合間に南城門など歴史的な史跡見学の機会も頂き、吉備真備や空海といった歴史上の人物が憧れ苦難の末訪問した同じ場所に、1,000年の時を超えて立つロマンを味わうこともできたのは個人的にもうれしいことでした。

 日本と中国は、政治体制も異なりますし、歴史的な経緯もあり、まず地理的にも接していますから、摩擦や見解の相違、控えめに表現してあまり愉快ではない事も少なからず存在するのも事実です。しかしだからといって引っ越しするわけにも行かず、付き合っていかなければならない間柄でもあることも直視すべき現実です。こうした訪問交流が、直接懸案の解決につながるとは限りませんが、それでも両国の未来にとって意味のあることだと僕は信じています。

 今回の訪中団の実現にご労苦を賜った中国・日本両国のご関係の皆さまと、衆議院議員として国会に送り出しこうした機会を恵んでいただいた地元倉敷・早島の皆さまに、深く感謝を申し上げます。


All


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2016年8月 2日 (火)

外交部会長を振り返って

 昨年10月末に、秋葉賢也衆議院議員の後を受けて自民党外交部会長に着任し、10か月ほどが経ちました。まだまだ道半ばの想いもありますが、内閣改造および党人事の声も聞こえています。ここで党外交部会長としてさまざまな問題に関する所感を記しておきます(なお、橋本がくWebサイトにも外交部会長としての活動をまとめています。こちらもあわせてご覧ください)。

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◆自民党外交部会長の立ち位置

 そもそも「部会長」という役職は世間的にはいささか馴染が薄いので、簡単におさらいしておきます。自民党において、政策は政務調査会にて検討されます。責任者は政務調査会長であり、現在稲田朋美衆議院議員が務めています。しかし、政策分野は多岐にわたるため、12の中央省庁に対応するように13の部会が設置され(農林水産省に対応する部会のみ農林部会と水産部会に分かれているので、部会の方が一つ多い)ています。外交部会は、外務省に関する自民党の政策取りまとめ役であり、その責任者が外交部会長となります。役所と密に連絡を取りながら、自民党内の要望を役所に伝え橋渡しをすることで、政府の政策判断に党側のコントロールを利かせ、もって民主的な統制をかけるということが職務となります。

 ただ他の行政分野と異なり、外交交渉は政府の専権事項ですので、往々にして交渉結果を後で聞かされた上で党内の抑え役に回るということも多かった気もします。また、北朝鮮の核実験やミサイル発射、各地でのテロ多発など緊急事態への対応も多い役であり、これは外交部会長に特殊なことではないかと思います。

 ただ安倍・岸田外交は、平和安全法制の成立などを行っているために妙なレッテルが張られがちですが、昨年末の日韓外相合意やオバマ大統領広島訪問など、各国首脳との信頼関係をもとにバランスがあるかつ歴史的な合意等を実現しますし、一方で中国の南シナ海での行動への非難など、全く譲らずに筋を通し続ける側面もありました。そういう意味では外交の妙を堪能できる政権であり、傍から見ていて頼もしいものでした。個人的には、横からどんどん口を挟み政府をコントロールするというよりも、党側の意見をしっかりと伝える機会を都度作りながら、政権の選択肢をできるだけ残すよう党側からサポートするような立ち位置を選んだことが多かったように思います。

◆TPPについて

 今年2月、環太平洋パートナーシップ(TPP)に各国が署名しました。昨年10月アトランタでの大筋合意以降に外交部会長に着任したので、交渉そのものには全くタッチしていませんが、それでも自民党内手続きにおける条約の承認は外交部会長の責任になります(関連法案は農水部会他さまざまな部会にわたります)。主に農産物や工業製品の関税水準とその影響や対策等に議論が集中していますが、TPP全体の中では関税に関することは一部にすぎません。あれこれ役所から説明を聞くのですがあまりにも頭に入らないので、電話帳二冊半程度の日本語テキストを全部眺めてみることにしました(しかしあまりにもナナメ読みなので「読んだ」とは言えません…)。

 眺めてみて感じましたが、これまでにカバーされていない分野も含むきわめて幅広い分野にわたる合意を多国間でまとめたという点で極めて野心的な協定だということです。この合意により加盟国間ではさまざまな予見可能性が高まり、経済的な交流がより一層盛んになることが期待できますし、また国際政治的にも意味のある結びつきにもなり得るものでしょう。一方でそれだけに、内容面では極めて慎重に合意形成され、各国の事情が相当汲まれているために、事前に言われていたよりはかなり常識的な内容になっているとも思いました。これを取りまとめられた甘利明・前担当相をはじめ関係者の甚大なるご努力には、心からの敬意を払います。

 吉川貴盛・党TPP対策委員長らの腕力もあり、おかげさまで党内手続きはスムーズに進みましたが、衆議院の特別委員会においていささか言い掛かり的な野党の抵抗に遭い、承認が先送りになってしまったのは心残りなことです。おまけに肝心のアメリカもいったいどうなることやら…。

 なお、部会長は、提出法案は読んでくるのが当たり前、とその昔先輩議員から教えていただいた覚えがありますので、それを実践しただけではあります。またそうでなければ、政調審議会、総務会といった党の意思決定機関の厳しい審査を乗り切ることは困難です。今後の部会長に就任される皆さまにもお伝えしておきたいと思います。ただしこんなにブ厚い条約・法案にめぐり合わせることもそう滅多にありませんが(涙)。

◆日韓外相会談合意について

 昨年は日韓国交正常化50年の節目の年でしたが、当初は慰安婦問題に関して非難をされ続け、また中国の対日戦勝式典に朴槿恵大統領が出席するなど、両国間の空気は厳しいものでした。もとを正せば李明博大統領の竹島上陸あたりから関係が悪化しており、慰安婦問題に関しても交渉は続けていましたが見通しはできない状況が続いており、11月に安倍総理と朴槿恵大統領の会談が行われできるだけ早期の妥結を目指して協議を加速すべく合意されましたが年内にまとまるとはなかなか予想できない状況でした。

 しかし年末に岸田外相が電撃的に訪韓するという報道があり「それぞれ三項目の合意を記者発表しました」という連絡を外務省からもらいました。内容は外務省のページに譲りますが、とにもかくにも非難の応酬がやむであろうことは歓迎すべきことです。もっとも10億円の拠出や在ソウル日本大使館前の慰安婦像など一筋縄ではいかない問題も残っています。また韓国国内でもさまざまな反応があったことも考慮しなければなりません。ただいずれにしても不毛なやりとりを繰り返して失うコストは相当なものであり、お互い100%の納得はできなくても、痛み分けでも、関係を好転させるための重要な合意だったと考えます。おそらくは安倍総理のリーダーシップによる決断が奏功したものと思われます。

 年明けすぐに外交部会を開催し、さまざまな方のご意見をいただき一文字一文字吟味するような慎重な調整の上、自民党としての決議[日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議]をまとめました。その頃を思い出すと正直言って針の穴を通すような決議だったと今でも冷や汗が出る思いがしますが、おかげさまでご了承をいただくことができました。現時点でもまだ合意の実行プロセスは途上ですが、自民党の決議を党・政府とも順守しつつ前進させていただくことを切に願いますし、両国政府もともに合意を順守して問題を解決していくように願っています。

 偶然か必然かわかりませんが、合意直後に北朝鮮の核実験があり、日本と韓国が迅速に連携して国連での活動等対処できたことからしても、将来に向けてこの合意の意味は決して小さくないものだと考えます。

◆北朝鮮による拉致・核実験・ミサイル問題について

 日韓外相会談合意の興奮冷めやらぬ今年1月6日、北朝鮮が核実験を行いました。またその後弾道ミサイルの発射をはじめ、さまざまなミサイル発射等を繰り返しています。また拉致問題については一昨年のストックホルム合意がありますが、残念ながら全く実行されずに今に至っています。こうした累次にわたる国際社会への挑戦行為や背信的な行為に対し、自民党としても決議[ 北朝鮮による弾道ミサイル発射に対する緊急党声明 ]を行い意思表明をおこなっていますが、現時点では外交的な対策しか日本には打つ手がなく、自民党拉致対策本部の提言を踏まえ、国連決議を受けた制裁強化は行いました。なお歯がゆく忸怩たる思いの中ですが、これを積み重ねていくばかりです。焦ったら相手の思うツボです。

 国連決議に基づくものや独自のものを含めて制裁を課し、かつ実効性あるものとするよう周辺国にも働きかけ、圧力をかけることにより彼らの行動変容を迫ることが当面の方策であり、地道に続けていかなければなりません。

◆沖縄での女性殺人死体遺棄事件と日米地位協定

 5月に発生した沖縄における女性殺人死体遺棄事件では、在日米軍の軍属が容疑者として沖縄県警に逮捕されました。またその後も米軍人による飲酒運転事故による逮捕等が相次ぎました。沖縄県民の方々から怒りや憤りなどの声が噴出することは当然です。日本の外交の観点からするともちろん日米安保体制は重要なのですが、だからこそ米軍関係者の犯罪等に関する沖縄を始めとする立地地域の皆さまのお気持ちはとても重視しなければなりません。

 事件を受け、5月31日に自民党沖縄県連から、自民党三役に対して再発防止や地位協定の抜本改定等の内容を含む申し入れを受け、私も同席しました。谷垣幹事長より、政務調査会でこの件は取り組むようにというご指示をいただき、稲田政調会長のもと担当することとなりました。まず国会終了翌日の6月2~3日に沖縄に出張し、ご遺体の発見現場において献花・黙祷を行った上、名護市および那覇市で地元の方や国の出先機関の方にヒアリングを行い、現状の把握に努めました。その上で関係者の調整を行い、6月16日の外交・国防合同部会の開催後に、稲田政調会長から1)在日アメリカ大使館を訪問して自民党本部としても直接アメリカとの対話の機会をもち、今後も定期化を目指すこと、2)日米地位協定のあるべき姿を検討するために、外交部会国防部会合同で勉強会を行うこと、3)日米で協議が進められていた軍属の在り方の件については引き続き両部会でフォローアップを行うこと、の三点を発表し、翌6月17日には稲田朋美政調会長、大塚拓国防部会長、田中和徳自民党国際局長とともにアメリカ大使館を訪問、ケネディ大使と面談して直接沖縄の方々の怒りの声を伝えました。参院選期間中6月28日~29日にも沖縄を訪問し、選挙の応援や激励をしつつ、糸満市から名護市までの自民党各地域支部を訪問させていただき様々なお話を伺いました。

 そして参院選終了後、改めて7月24日~25日に稲田朋美政務調査会長、大塚拓国防部会長と同行して沖縄を訪問し、自民党沖縄県連の先生方と懇談会を行い、翌日には普天間飛行場の視察、佐喜眞淳宜野湾市長やエレンライク在沖縄アメリカ総領事との会談等を行いました。また再びご遺体発見現場を訪れ、稲田政調会長らとともに献花・黙祷をささげました。なお懇談会の際沖縄県連の皆さまから、党本部において沖縄問題に関する常設機関を設置してほしいというご要望を頂き、稲田政調会長が持ち帰っています。新しい体制の下で具合化の方向で検討されるべきでしょう。

 そもそも地位協定は、別段日本とアメリカのみに存在する協定ではなく、ある国の軍が他国に駐留する場合に一般的に結ばれるものです。したがってさまざまな地域や歴史的経緯等を勘案しなければ単純な比較はできません。もちろん現在自衛隊が海賊対処のためにジブチに駐留するためにも、地位協定は結ばれています。また日米地位協定は、締結以降改定が行われたことはありませんが、一方で運用改善等が積み重ねられていることも事実です。そうした中で「米軍関係者による犯罪をいかにして無くすか」という視点、あるいは在日米軍と基地立地地域の方々との共存関係をより改善するといった視点に立って、まさに何ができるのか不断に検討し実行し続ける必要があります。

 ある先輩代議士いわく「日米地位協定改定は憲法改正くらい難しい」とのこと。ただ自民党はその憲法改正を綱領に掲げ続けて今に至っているわけですし、アメリカも大統領選の結果次第では日米関係全体の見直しを迫られる可能性もないわけではないでしょう。そうしたことを念頭に置きながら、地道に沖縄やアメリカとの関係の維持構築や研究等の取り組みを継続しつつ、機を図ることが大事であろうと考えます。

 振り返ってみると、父・龍太郎が総理時代、当時のモンデール駐日米大使と普天間飛行場の返還で合意してから、20年が経過してしまいました。その他の沖縄負担軽減策等は順次実行されていますし、現在も北部訓練場の約4,000haにわたる地域の返還に向けたヘリパットの移設工事や、普天間飛行場移転先としての辺野古への移設をめぐる政府と沖縄県の和解合意に基づく直接協議と司法との両面での取り組みなどが現在進められています。

返還合意の翌朝の父の「ドヤ顔」は今でも脳裏に焼き付いています。その心は沖縄の方々にかかっている負担をできるだけ取り除きたいという一事に尽きていたと思います。残念ながら道半ばですが、今回党本部でスタートさせた取り組みは後進に引き継ぎを行いたいと考えますし、自分も今後どのような立場にあっても、沖縄のことには関心を持ち続けたいと思っています。

◆日中関係について

 尖閣諸島国有化等をきっかけに、日中関係はやや冷却した状態が続いていましたが、昨年11月のAPECや日中韓サミット等を契機とした首脳間の会談は持たれています。一方で北朝鮮核実験後、岸田外相の電話会談に王毅外交部長がなかなか応じなかったなど、ぎくしゃくした面もあることも事実です。

 中国はAIIBの設立や「一帯一路」構想の推進など、対外的に積極的に進出し支援を行う姿勢を強めています。地域の発展に寄与するものであれば文句をいう筋合いはありませんが、かねて南シナ海において独自の考えに基づく領海の主張を行っていたところ、その中にある岩礁を埋め立てて軍事基地とする工事を次々と完成させているなど、軍事面でも拡張的であることは看過しがたいものがあります。もちろん我が国との間でも尖閣諸島に対して独自の主張を行い、また航空自衛隊による対中機スクランブルが年々増加し、軍艦による尖閣諸島の接続海域への進入等行動を徐々にエスカレートさせていることも決して無視できるものではありません。

 そうした中で、フィリピンが提起した訴えに対し、国際海洋法条約に基づく仲裁裁判所が、中国の主張が相当覆される内容の判断を7月に行いました。中国は判断が出る前からこれを無視する構えでいましたが、実際にはそのことで、むしろ中国が国際法を軽んずる姿勢であるようにかえって印象づけられてしまった感があります。中国外交にも焦りが見受けられるように思いました。

 もちろん中国とは隣国として友好を深めることが望ましいことは言うまでもないことであり、引き続き微力を尽くしたいと考えています。同時に、国際社会の中でその存在感にふさわしい、周囲の尊敬を自然と勝ち取ることのできる振る舞いを、中国には期待したいものと考えます。

◆ISIL等によるテロの多発

 昨年11月13日にパリにおいて同時多発テロ事件があり、死者130名、負傷者300名以上の被害が出ました。その前日には、ベイルート(レバノン)にて43人が死亡、負傷者200人以上のテロが起こっています。今年3月にはフリュッセル(ベルギー)にて空港と駅でやはり爆発テロがあり、死者35名、負傷者約200名がでました。そして7月1日にはダッカ(バングラディシュ)にて武装グループが飲食店を襲撃し、28人が死亡、58名が負傷したとされています。7月14日はニース(フランス)において84人が死亡し202人が負傷する事件がありました。他にも複数の事件があります。これまでにも日本人の犠牲者は累次にわたり出ていますが、ダッカの事件では国際協力機構関係者7名が犠牲となってしまいました。こうして数え挙げているだけでも、辛い思いのする項目です。

 実は今年、ラマダン月のテロを勧奨する声明をISILが発していたことを踏まえ、外務省は全世界向けにテロに関する情報提供を行い警告していました。しかし残念ながら日本人犠牲者の発生を阻止するに至りませんでした。ここは改善の余地があると考えるべきでしょう。外務大臣の下で経済協力関係者の安全確保のための検討会が行われていますが、その結果を待つところです。

 ISILそのものはイラクやシラクといった地域では徐々に劣勢となっていますし、だからこそ中東・欧州・アジア・アメリカ等でのテロに走っている面もあります。難民の発生などさまざまな問題を引き起こしており、日本は世界各国と協力してテロ組織の根絶に然るべき役割を果たすべきです。であるからこそ在外邦人の安全確保にも、さらに力を入れる必要がある局面であろうと考えます。

 なおダッカ事件の際、外務省は政府専用機をいち早く飛ばし、ご遺体を羽田空港で迎えるにあたり萩生田官房副長官、岸田外相が献花を行うなど極めて丁重な出迎えを行いました。このことは、日の丸を背負って海外の発展協力のために活動していた方々の非業の死にあたり、故人の霊を弔い、ご家族を慰め、そして後進を勇気づける適切な対応でした。生放送を見ましたが、正直涙が零れました。このような事件があっても、世界の平和発展のための日本人の海外外協力への情熱は、より一層深まることを願ってやみません。

◆国際連帯税について

 毎年晩秋になると、税制改正の議論が自民党本部で行われます。外交部会では唯一の税制改正要望が「国際連帯税の創設」でした。ただ残念ながら、これまで外務省として本気で検討や調整を行ってきていないままに要望だけ行っていた経緯があり、主張はしましたが力及ばず(というか当然の帰結として)、昨年も実現は見送られました。

 その反省に立ち、今年度の税制改正要望での実現を目指し、外務省が主体的に検討や調整に動くよう指示をしています。議論が前に進んでいることを願っています。

◆外交力強化・外交勉強会

 自民党には高村副総裁を議長とする外交再生戦略会議という組織があり、外交部会長はその会議の事務局長を兼務することとなります。秋の予算編成前の時期、および春の概算要求前の時期にそれぞれ決議をまとめ、政府への申し入れを行いました。これまで縷々述べてきたように外交案件はそれこそ世界中にたくさんありますが、外務省の人員は限られています。また在外公館も建物が古くなったりしているものもあります。人員体制はイギリス並みを目指そう!という目標を掲げて徐々に強化されていますが、まだ達成には至っていません。引き続き粘り強く取り組む必要があります。

 また、外交部会には3人の部会長代理と13人の副部会長がおり、非力な部会長を支えていただいていますが、小田原潔筆頭部会長代理にお願いして地域ごとに戦後史を振り返る勉強会を開催してもらいました。日々に発生する出来事に振り回されるのみならず、きちんと歴史を学び長期的な視点を持つことは大事なことです。改めて勉強になりました。

◆できなかったこと

 部会長としてさまざまな案件を取り扱ってきましたが、残念ながら手が回らなかったこともあります。一つは、衆議院外務委員会理事を務めましたが、質疑に立つ機会がなかったことです。ただ、関係各位のご努力とご協力により、衆議院外務委員会では提出法案・条約をすべて通過させ、充実した議論を持つことができたことは与党理事の一人としてはよかったと思っています。なお衆院TPP特別委員会でも、マニアックな質問を行うべく準備をしていましたが、これも審議が中断したことにより日の目を見ませんでした。いささか残念です。

 またもう一つは、前職の厚生労働大臣政務官の時に、日本年金機構の情報流出事案に遭遇した苦い経験を活かし、サイバーセキュリティに関し外交面で何かできないかという志を持っていましたが、具体的に動かすことができませんでした。いまやサイバーセキュリティが、アメリカ大統領と中国主席の会談の議題になる時代です。外交面でもう少し主体的に動けないかと思っていたのですが…。まあ、隴を得て蜀を望んではいけないのかもしれませんね。

◆改めて外交部会長としての活動を振り返って

 今年はG7伊勢志摩サミットが開催され、また8月末には第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)がケニアで開催される予定です。また国連安保理の非常任理事国にもなりました。安倍総理はオバマ大統領の広島訪問を実現させ、ロシアとの長年の懸案をも解決すべく、努力を重ねておられます。こうした時期に外交部会長を務めさせていただいたことは、大変勉強になるものでした。

 一方世界に目を転じると、なんとなくこれまで「常識」と思いこんでいたことが覆される事態がたびたび発生しています。そもそも2014年のロシアにおけるクリミア併合と、国際社会が未だにそれを阻止できていないでいることは、第二次世界大戦後の世界の秩序維持の枠組みのほころびを露わにしました。見方によっては同様のことが静かに南シナ海で起こっているとも言えます。そして東シナ海で今後起こらないとは、残念ながら誰にも保証できないでしょう。同様にやはり第二次世界大戦後、秩序維持のための先駆的な知恵だと思われていたEUから、メインプレーヤーであったイギリスが脱退を決めるいわゆるBrexitも、「世界はいずれ統合に向かう」という理想主義的な見方が、いささか楽観的に過ぎたものであったことを再認識させられました。犯罪テロ集団であるISILは決して許されるべき存在ではありませんが、現に実力を有して一定地域を支配していることも、遠い世界のこととして片づけるわけにはいきません。アメリカ大統領選挙においても、かなり凄まじい主張の多いトランプ氏が共和党候補になると予想した人は、昨年時点でどれくらいいたでしょうか?しかしそれが現実です。日米安保体制も場合によっては議論のテーブルに乗り得るわけです。

 戦後70年が経過し、平和秩序維持のためのさまざまな理念やメカニズムを支えていた人々が世代交代し、当初の在り方から変わってきていること、そして変わらざるを得ないことを、私たちは必然のこととして正面から受け止めなければならないのでしょう。歴史から先人の意志を学び、未来に向けて新たな平和秩序維持の仕組みを構想し、現在を改革する取り組みが絶えず求められているのです。残念ながら国連改革一つとってみても遅々として進みませんが、投げ出すわけにもいきません。

 そうしたことを感じながら、自民党外交部会長という役目をいただいて、日々目の前の課題に対してもがき続けてきました。わずかなことしかできませんでしたが、学ばせていただいたことは、今後の政治生活の糧にしたいと考えています。

 自民党政調事務局の田村さん、橘さん、田中さんには、緊急の案件やらなかなか片付かない懸案やらが日々発生する中で、円滑に物事が進むように絶大なるサポートを頂きました。心から感謝申し上げます。また今回、外務省には多くの優秀な官僚の方が日々世界各地で日本を代表して頑張っておられることを認識することができました。深く敬意と感謝を申し上げます。中でも小野啓一・前官房総務課長にはカウンターパートナーとして日々あれこれ相談させていただき大変助かりました。ありがとうございました。先日北米局参事官に転出されましたが、日米地位協定の件を担当されることになりましたが、しっかり取り組んでいただけるものと期待しています(追記:そんなことを書いていたら、稲田朋美政調会長が防衛大臣に起用されるという報道に接しました。沖縄を巡る事柄はずっとご相談しながら取り組んでいましたので、まさに担当閣僚として経験を生かしていただきたいと切に願います)。またその他にも多くの方々、あるいは各国の大使館の方々ともお話しすることができました。こうした経験は僕にとって貴重な財産です。深く感謝を申し上げます。

地元の倉敷・早島の皆さまには、あんまり地元と関係のない役職だったのですが、快く部会長としての活動をお許しいただきました。おかげさまで心置きなくお役目に全力を尽くすことができました。心から御礼申し上げます。引き続きましてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。


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2016年1月26日 (火)

日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議

 本日、自民党の外交部会、外交・経済連携本部、日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会の合同会議 において、「日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議」を報告させていただきました。この決議は、文中にも触れてある通り、1月6日の合同会議において多くの出席議員からのご意見等があったことを踏まえ、稲田朋美・政務調査会長、衛藤征士郎・外交・経済連携本部長、および外交部会長である橋本に内容・時期に関しご一任を頂いていたものです。中曽根弘文・日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会委員長も含め四者で協議の上合意した内容について決議とし、本日合同会議での報告を行いました。今後党内での報告手続きを経た上で、首相官邸および外務省に申し入れを行う予定です。

 既に報道が出ていますが、どうしても一部のみに留まりますので、ここにテキスト全文を掲載します。

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日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議

平成28年1月26日
自由民主党
外交部会
外交・経済連携本部
日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会

 平成27年12月28日の日韓外相会談後に両国外相が発表した日本と韓国の合意事項について、平成28年1月6日、自由民主党外交部会・外交・経済連携本部・日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会合同会議において、政府の報告を求め議論を行った。

 合同会議では、両国間で懸案となっていた慰安婦問題について、最終的かつ不可逆的に解決するという安倍首相および朴大統領の政治的決断は極めて重要であり、日本と韓国を含む北東アジアの現下の情勢を勘案し評価すべきであるという意見が出された。

 一方で、慰安婦問題に関する誤った認識が定着しかねないこと、旧民間人徴用工をめぐる問題等日韓請求権協定において解決済みとされている課題への影響、被災地等の一部地域からの水産物の輸入を韓国が停止していることについて懸念する意見等もあった。

 こうした議論を踏まえ、わが党としては、今般の日韓両国の合意を強く支持し、今後の日本政府の対応を最大限支えつつ、わが国の名誉と信頼を回復するための検討を引き続き進めることを表明するとともに、政府に対し下記の点について的確に対策を講じられることを要望する。

1.今回の合意を着実に実施することで、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決し、未来志向の日韓新時代を切り拓くとともに、日韓両国が北東アジア地域の平和と繁栄のため、積極的に協力して共に役割を果たすこと。

2.国際社会の中で発表された今回の合意について、双方による合意の着実な履行が肝要であり、日本政府が合意した内容について、責任をもって誠実かつ着実に実施すること。また韓国政府が合意した内容について、同様に実施されるよう継続的なフォローアップを続けること。


3.在韓国日本大使館前の慰安婦像は、わが国在外公館の安寧と威厳を傷つけるものであり、外交関係に関するウィーン条約上問題があるものである。早期に撤去されるよう、韓国側への働きかけをさらに強化すること。

4.日本が予算を拠出し、日韓両国政府が協力して実施する「元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業」が、真にその目的に沿ったものとなるよう、韓国政府と真摯に協議を行うこと。また事業の実施にあたっては、日本国民に対する説明責任を果たすこと。

5.慰安婦問題に関し、平成26年8月5日、朝日新聞は「日本が韓国において慰安婦を強制連行した」等とする記事の取り消しと謝罪を行った。しかし、これらの記事に依拠したと思われる認識が、米国の一部教科書の記述等、世界中に流布されている。
 引き続き、客観的事実に基づく認識が各国で形成されるよう、官民連携した対外発信を一層強化し、事実と異なる場合に訂正を求める等必要な対応を行うこと。また、韓国国民の対日認識改善に資するよう、青少年交流を一層促進すること。

6.慰安婦問題を含め、日韓間の財産権・請求権の問題は昭和40年の日韓請求権・経済協力協定で最終的に解決済みというわが国の立場に変化がないことを確認し、旧民間徴用工問題等の他の問題についても、引き続き主張を続けること。

7.被災地等の一部地域から水産物の輸入を規制している問題等、その他の両国間の課題についても、引き続き韓国と粘り強く協議を行うこと。

8.「女性が輝く社会」の実現に向け、紛争下における女性の権利侵害の防止・権利保護の分野を含め、女性の能力強化、権利の保護・促進の分野で国際的に指導的役割を果たすこと。

9.韓国以外の国・地域については、個別の状況を踏まえつつ、引き続き誠実に対応を行うこと。

以上

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2015年12月28日 (月)

日韓両外相共同記者発表

 2015年12月28日に、岸田外務大臣・尹(ユン)外交部長官の会談後に行われた共同記者発表の内容を掲載します。解釈や意味する内容等については、通常国会開会後すみやかに自民党外交部会を開き、政府から聴取したいと考えています。

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日韓両外相共同記者発表

1.岸田外務大臣

日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。

①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。

②日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

③日本政府は上記を表明するとともに、上記②の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題において互いに非難・批判することは控える。

2.尹(ユン)外交部長官

 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。

①韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記1.②で表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。

②韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。

③韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

(了)

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2015年12月17日 (木)

外務省の平成27年度補正予算について

 12月16日(水)、自民党外交部会・外交・経済連携本部合同会議が自民党本部で開催されました。その席上、平成27年度補正予算が議論されました。外務省の補正予算は人道・テロ対策・社会安定化支援(難民問題を含む)、自然災害や広域感染症等の地球規模課題への対応支援、テロ・情報セキュリティ対策等の追加財政需要、及びTPPに関する国内対策のため、概ね2,000億円規模となっています。今週中には閣議決定され、来年の通常国会冒頭において審議される見通しです。

 この中で、日中植林・植樹国際連帯事業について、これまでの外交部会等で様々な議論がありました。1999年に小渕総理の提案により始まった事業ですが、その頃と異なり中国は既に日本以上の経済大国であり、海洋問題や歴史認識等で対中感情が良くない中で、今更そのような支援を追加する必要はないというご意見もありました。一方でそのような現状があるとはいえ、日中間の関係が冷え込んでいた時でもほぼ唯一継続されてきた基金事業であり、民間交流の基礎となる事業を打ち切ってしまうべきではないというご意見もありました。

 結論として、今回の補正予算で約90億円の計上をさせていただくこととしました。ただし、これまでは単に中国での植樹に対し日本側が出資した資金を基に苗木購入等の支援を行うだけでしたが、より共同事業の性格を持たせることや、具体的な青少年交流等に繋がるものとすること等、中国と協議して事業の見直しを発展的に行うべきこととしました。なお単純に援助を行うものではないため、ODAにはあたりません。また予算計上は認めるものの、執行にあたっては改めて部会に諮るよう、外務省に要望しました。

 国民の皆さまから頂いた税を使って行う事業ですから、ご理解を頂ける事業であるべきです。一方で、中国に日本と立場を異にする行動があるからといって、これまでの外交は失敗だった、新たな拠出は必要ないと言い切ってしまうのも、外交の選択肢を自ら狭めることに繋がり、適切ではない場合もあると個人的には考えます。効果とバランスを考え、多くの方々のご意見を伺いながら取り組んで参ります。

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2015年12月 1日 (火)

党税調における外交部会長発言

 11月30日における自民党税制調査会において、橋本が外交部会長として発言した内容をご紹介します。なお、その後他の方々から賛成・反対のご意見があった結果、「長期検討」という扱いにしていただきました。ご関係の方々や、納税者の皆さまにご納得いただけるように進めなければなりません。外務省にはそのように指示しました。

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 いわゆる国際連帯税について、先日の部会長ヒアリングにおいて、国土交通部会長から三点の理由を挙げて反対といわれました。まずその三点について申し上げます。

 一点目は、「受益者と負担者の関係が不明確」ということでした。これは全くおかしな議論です。今回は、政府開発援助、すなわちODAの財源として要望していますが、そもそもODAの直接の受益者は途上国の国民であり、それを先進国が負担して行うから意味があるものです。直接的な負担者と受益者が違うのは当然のことです。

 ODAは、直接的な負担と受益の関係で考えるものではありません。我が国が途上国の開発を支援し、その国の社会が安定したり、豊かになったりすることが、まわりまわって我が国の利益にも繋がるという発想によるものです。結果として国際的な人・もの・金の移動も促進されるという効果も持つでしょう。その点に着目して、国際的なやりとりに広く薄くODAの財源を求めようとするのがこの税の発想であるということを、どうかご理解頂きたいと思います。

 二点目は、「航空券への課税はインバウンドに悪影響をもたらし観光立国に反する」という点でした。まず事実から申し上げれば、2006年7月からフランスで、2007年9月に韓国で航空券連帯税が導入されましたが、両国ともその前後で観光客数や観光収入は、むしろ増加しています。仮に国際線の航空券に課税をするとしても、旅客の行動にほぼ影響を与えない広く薄い形での金額設定で課税を行い、効果をあげることは十分可能であると考えます。

 三点目は、「導入している国は少数で、世界的な潮流になっていない」という点でした。確かに、アメリカやイギリス、ドイツ等は国際連帯税を導入していません。しかしこれらの国々は日本を上回るODA供与実績をあげています。日本もそこまでODA財源が豊富であれば、そもそも新税など検討する必要はありません。

 残念ながら近年ODA予算は減額されています。来年度概算要求において増額要求をしておりますが、円安による目減り分も含めて極めて厳しい感触が財務当局から伝わっています。さる25日には高村副総裁を議長とする自民党外交再生戦略会議は「外交力の一層の強化を求める決議」を行い、総理に申し入れを行いました。また同日、武見敬三先生が委員長を務められる自民党国際保健医療戦略特命委員会も「国際保健に係る対策の推進に関する決議」を行って頂きました。そうした中で、財務当局を頼るばかりではなく、自分たちでも独自の財源確保の努力をしなければならないという想いから、今回の要望が上がっているのです。

 AIIBを擁する中国が我々のライバルなのです。そして我が国は、来年、先進主要7か国のサミットの議長を務めるのです。世界のリーダーとしての誇りを持って、いかに外交上の重要な武器であるODAを充実させるかという観点で真摯に検討すべきものです。

 以前は、世界においてODA拠出額第一位を我が国が占めておりました。今は第五位であります。本当にこのままでよいのでしょうか?むしろ我が国が先進国としてODAを通じて世界に貢献しているという事実を、もっと広く国民の皆さまに共有するべきです。それこそが安倍総理が行っている「地球儀を俯瞰する外交」への国民的理解に繋がり、民間も含めた日本の外交力の強化に繋がるのです。

 途上国も含めた、他の国がやっているとかやってないとか横並びのような議論をされるような意識の低さは誠に残念であります。むしろ我が国はこんな取り組みまでしているのだ、と他国に積極的に発信できるような制度を整えることが大事であると考えます。

 ただ、正直、これまで外務省の動きは極めて鈍かったと言わざるを得ません。その責任は政治にもあるでしょう。外務省には、法律に基づき主体的かつ前向きに検討や調整をしっかりと行わせる必要があります。そういう意味で、今回の税制改正では「お断りする」となっていますが「検討する」として頂きたく、ご要望申し上げます。

 どうぞお聞き届け頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

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2015年10月23日 (金)

外交部会長への就任にあたり

 このたび橋本がくは自由民主党政務調査会の外交部会長を拝命しました。

 部会長とは自民党の政務調査会に概ね省庁ごとに13設けられている会の責任者であり、外交部会長はその名の通り外交政策全般を所掌します。

 これまで総務部会長代理、厚生労働大臣政務官という役職をお預かりしており、外交というイメージは薄いかもしれません。しかし平成17年から衆議院テロ対策・イラク人道支援特別委員会に所属し、第二次安倍政権時にはその後を継いだ衆議院海賊・テロ特別委員会の理事を務めました。世界の平和維持や人道支援のために日本が海外において貢献してきた活動に関し、国会において見守ってきたというささやかな自負はあります。

 現在、安倍政権は積極的平和主義を唱え、安倍総理自ら各国を訪問しアベノミクスや安全保障面での理解や協力を得るいわゆる「地球儀を俯瞰する外交」を強力に展開しています。

 日米安保を基軸とした東アジア地域の安定の維持、TPPや各国とのEPA/FTAなどの経済連携、そして「人間の安全保障」と呼ばれる世界の貧困対策、感染症対策、災害救援など多方面にわたる国際協力など、世界の中で日本の果たすべき役割は極めて大きいものがあります。

 また近隣の国々との領土や歴史認識をめぐる諸課題にも、十分留意をしなければなりません。

 日本国憲法前文に以下の一節があります。憲法そのものにはいろいろ議論はありますが、この一節については日本の外交かくあらねばならぬという理想を示しており尊重すべきものと個人的には考えています。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

 もちろん現実はなかなか理想通りにはいきません。

 日本年金機構に対するサイバー攻撃事案では、目に見えない分野では平和どころか実際に熾烈な攻撃を受けている現実に改めて直面しました。ユネスコ記憶遺産の問題など私たちの想いが世界に通じていない面もあると認識せざるを得ない状況もあります。それぞれ適切な対応が必要です。

 しかしなお「世界の平和に貢献する日本外交こそ日本の国益に資する」という理想の旗は掲げ続けながら、職務に臨みたいと考えています。引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

Johnkey

<写真:5月に訪問したニュージーランドにて、ジョン・キー首相と>

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2015年10月12日 (月)

平和安全法制について

 さる9月19日に成立した平和安全法制について、なおさまざまなご議論があります。賛成した与党の一員として、今後も私なりに思うところを引き続き申し上げなければならないと考えています。むしろ、10月9日の内閣改造に伴い厚生労働大臣政務官の職を解かれ政府の中の人ではなくなりましたので、一衆議院議員として思うところを述べることができるようになりました。ご議論の多い点二点に絞って、思うところを記します。ご参考にしていただければ幸いです。

◆平和安全法制の必要性について

 今回の法制にて改正した点は多岐にわたりますが、最大の論点は自衛隊法における防衛出動の要件として「存立危機事態」を追加した点と思われますので、そこに話を絞ります。この追加により、従来から存在する「日本への直接的な武力攻撃またはその明白な危険が切迫している」際に加え、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」においても自衛隊の防衛出動が可能となり、必要な武力を行使することができるようになりました。この点が、従来は「個別的自衛権しか行使しない」としていた政府見解を転換し「集団的自衛権の行使にあたる場合がある」とすることに基づく部分です。

 さて、ここで日本の現況を眺めてみると、今の日本は、日本の国土および国民だけを守っていれば平和と言えるわけではありません。産業もエネルギーも食糧も、海外との輸出入に頼るところ大であり、日本に暮らす人々が今の生活と安全を続けようとすれば、世界が平和でなければならないということは多くの方が認めるところでしょう。同時に、近隣に邦人の拉致やミサイル発射等の不穏な動きをする国や、近隣国と領土紛争を抱える島を勝手に埋め立てて基地をつくってしまう国を抱えながらも、日米安保条約の下で米軍と自衛隊で日本の周囲の防衛を行っていることも、一つの現実です。

 例えばミサイル防衛を例にとりましょう。日本海の先のどこかの国が日本領土に対しミサイルを発射する構えを示しているとします。日米安全保障条約に基づき、米軍のイージス艦と自衛隊のイージス艦が連携しつつ分担してミサイル防衛にあたることは考えられます。もちろん、その周囲に双方の艦艇や航空機が展開して護衛にあたることになるでしょう。そうした状況下で、仮に第三国の艦艇または航空機が自衛隊の艦艇を魚雷やミサイル等で攻撃してきた場合、米軍艦艇等は日米安保条約等に基づき、彼らが持っている集団的自衛権を行使して、第三国の艦艇等に反撃をすることができます。しかし、これまでの自衛隊法では、同様の状況下で米軍の艦艇等に対して第三国の艦艇等が攻撃をしてきた場合、自衛隊の艦艇等は反撃をすることができたでしょうか。米軍艦艇への攻撃を、「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生」または「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫」と見做すことは困難です。だとすれば、共同して日本の防衛の任にあたっている米軍艦艇が攻撃されても見捨て、或いは指をくわえて眺めなければならないことになります。これは国家間の信義上許されることではないと考えます。幸いなことに過去このような緊迫した状況に至ることはありませんでした。しかし今後もあり得ないと言いきることもできないと考えます。

 なお、いま現に発生していない事態だからあり得ない、必要はないというご意見もありますが、発生した事態に応じて法制度考えるのを「泥棒を見て縄をなう」すなわちドロナワと表現するのであって、安全保障は今発生しないことまでを想定するものでなければ間に合わないことを、改めて申し添えます。

 このように、一国の防衛を複数の国で協力して行うような事態に備えて、「自国と密接な関係にある他国への武力攻撃」云々という事態も想定しておく必要があると考えます。ですから、法整備を行うに至ったものです。もちろん、こうした不備の指摘は以前からありました。ミサイル防衛も今に始まった話ではありません。今回行った理由は、政権が安定した議席をお預かりしているタイミングでなければ政治的に実現することができなかったから、という現実的な理由だと僕は思います。第一次安倍政権以降、ねじれ国会や政権交代が続いたため、このような法改正は不可能でした。

 なお、PKO法における駆け付け警護や、在外邦人等の保護措置など、これまでの法制では穴が開いていた部分について今回法制化されました。このこともとても大事で必要な改正だと考えますが、本稿では割愛します。

◆平和安全法制の合憲性について

 そもそも日本国憲法9条は、以下の通りの規定です。

1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 そして1946年6月26日衆議院本会議において、この憲法草案に関する質疑において吉田茂総理は、

 次に自衞權に付ての御尋ねであります、戰爭抛棄に關する本案の規定は、直接には自衞權を否定はして居りませぬが、第九條第二項に於て一切の軍備と國の交戰權を認めない結果、自衞權の發動としての戰爭も、又交戰權も抛棄したものであります、從來近年の戰爭は多く自衞權の名に於て戰はれたのであります、滿洲事變然り、大東亜戰爭亦然りであります、

 云々と答弁しています。要するに、自衛権の発動としての戦争も、憲法草案提案時の政府は否定しているのです。あえて記しますが、ここでは集団的とか個別的とかは何も言っていません。吉田総理は、その区別を問わず満州事変も大東亜戦争も自衛権に基づいて戦われたと明言しており、集団的自衛権が特に危険なのだなどとは発言していないことにもご留意ください。

 しかし自衛隊の創設にあたり、専守防衛の名の下に個別的自衛権なら行使できるとか、湾岸戦争後の掃海部隊派遣やPKO法制定の際に自衛隊の海外派遣をできるようにするとか、個々のケースは割愛しますが政府の憲法解釈は変遷を重ねて今に至っているのです。個別的自衛権は合憲だが集団的自衛権は違憲という見解も、ある一時のものに過ぎません。しばしば「憲法9条が戦後70年の日本の平和を守った」という表現が見られます。そういう見方をするのであれば、このような経緯も考慮すれば同時に「憲法9条の政府解釈を時宜にかなうように都度変更して戦後70年の日本の平和を守った」と表現することも差支えないのだと僕は思っています。

 そのような観点に立った場合、今回、上記の必要に応じ、昨年の閣議決定および今回の平和安全法制により憲法解釈の変更を行ったことが、過去に類を見ないほどの変更とは思いませんし、政府による閣議決定と国会の議決を経ているわけで、これ以上の手続きはありません。もちろん、今後最高裁で違憲判決が出た場合は、政府は速やかにそれに従うことになりますが。

 振り返ってみれば、憲法制定時と現在と、70年も経ていれば全く世界情勢は変化しています。大戦が終わり連合国(=United Nations、すなわち国連)が世界の秩序を守ることが期待されていた時代から、米ソの冷戦期を経て、そのバランスの崩れからテロやイスラム国のようなものが国家の脅威となる時代になりました。国連は機能していないとは言いませんが、必ずしも理想通りにも機能してもいません。核も拡散し、ミサイル等の兵器も長足の進歩を遂げました。人海戦術の時代はとうに過ぎ去っています(だから徴兵制などナンセンスです)。自衛隊も、PKO活動やイラク人道復興支援、テロ特措法に基づく補給・輸送支援、ソマリア沖海賊対策など、平和維持活動に従事して高い評価を得るに至っています。そうした経験を踏まえ、今回の憲法解釈の変更と法改正があるのです。

 なお前文等を含め、日本国憲法は、1946年当時の時代背景を色濃く残していると僕は感じます。これを時代に合わせて改正するのが本来の筋だという議論には僕は賛成します。しかしながら憲法改正は過去一度も発議可能な状況になったことがない程度にハードルが高く、また憲法9条を書き換えようとした場合、両院の2/3のみならず国民の過半数の賛同を得られる改正案は、現実的予見可能な時間の中で実現できる状況にあるとは思いません。そのため憲法解釈の変更を積み上げて今日に至っているし、今回もその手法を取らざるを得なかったものと思います。

 今回の法制度が憲法違反だ!と断じる向きもあります。ご意見はご意見として尊重しますが、その方々は、平和安全法制成立以前の自衛隊法等の法制度は、合憲だと思っておられたのでしょうか?何故、今回の法案審議に際して突然違憲と論じられることになったのでしょうか?集団的自衛権の行使はダメだが個別的自衛権の行使はよい、という主張をされるのであれば、個別的自衛権の合憲性と集団的自衛権の違憲性を、政府見解に依らずに(政府は信用できないという前提でしょうから)、どのように論じられるのでしょうか。自衛権を認めた砂川事件最高裁判決には個別とも集団とも書いてありませんし、個別的および集団的自衛権を定めた国連憲章よりも後ですから、否定する根拠にもなりません。個人的には、吉田茂総理の答弁通りに、自衛隊から個別的自衛権から全部違憲なのだというご意見は、現実的かどうかはさておき、それはそれで筋だけは通った議論だと思います。あるいは、先ほど述べた通り、政府の憲法解釈の変更は現実的にありえることとする立場をとれば、今回の法制度だけが違憲という根拠は無くなります。中途半端にこれはよくてあれはダメ、という議論を現実を離れて行うことは、結局のところ水掛け論でしかない印象が僕にはあります。なぜならば、結局のところ憲法9条には上記のこと以外は書いていないのですから。

◆おわりに

 以上、平和安全法制について思うところを二点記しました。ただ、本当に大多数の方が感じているのは、もっと漠然とした「大丈夫なのかなあ…」という不安なのではないかと個人的には思います。これは、最終的にはその時々の内閣およびその長たる内閣総理大臣が、どのように事態を判断するのかという、今後の法制度の運用に係る問題だと思います。どんなに良い包丁でも、使い方によって美味しい料理も作れますし、人を害することもできます。法律も同様です。今後の運用が、本当のポイントなのです。

 その点は、国会や政党の機能にもよることにもなりますし、最終的には、有権者たる国民の皆さまが、本当に信頼できる方を選んで頂けるかどうかにかかっています。民主主義の国なのですから。もちろん選ばれる立場の者は、そうした信託を頂くに足るように常に研鑽を積まねばなりません。

 先の通常国会末、衆議院における内閣不信任案の趣旨説明において、民主党の枝野幸男幹事長は、ヒトラーは選挙によって選ばれたのだ、という趣旨のお話をされました。歴史的事実としてはその通りです。しかし、当時のドイツの有権者と現在の日本の有権者を同列に扱うことは、現在の日本の有権者の皆さまにとても失礼なことだと感じました。歴史は学ばれているものと、僕は強く信じています。

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