17.国際平和貢献・外交・安全保障

2024年7月 9日 (火)

訪中の記(日本国際貿易促進協会第47回訪中代表団として)

●はじめに

 7月1日から6日まで中国に出張し、北京・南京・蘇州を訪問しました。4月に就任した日本国際貿易促進協会の会長代行として、河野洋平会長のもと企業の方々から構成される経済交流を目的とする90名弱の訪中団の一員として参加したものです。

 日程としては、7月1日朝に羽田空港を出発して北京に向かい、午後に人民大会堂にて何立峰・国務院副総理との会談を行いました。翌2日は中国日本商会の方々と朝食ミーティングを行って現地の状況を伺ったのち、商務部(日本でいう経済産業省)を訪れて凌激・商務部副部長と面談。午後は中国の民間シンクタンク国観智庫の方から中国経済について講演を聞きました。その後、在中国日本大使館に行き、金杉憲治・在中国日本国大使のお話を伺いました。3日は朝から北京郊外にて自動運転の開発を視察。午後は政府系シンクタンクである中国国際経済交流センターの方の講演を聞きました。4日目は午前中に航空機で江蘇省の南京に移動。午後江蘇省政府等との交流会ののち、信長星・中国共産党江蘇省委員会書記と会談を行いました。5日目は蘇州市に移動し、長江デルタ国際研究開発コミュニティ展示センター、蘇州御窯金磚博物館、蘇州高新区企画展示館を見学した後、劉小濤・中国共産党蘇州市委員会書記と会見しました。そして7月6日に上海虹橋空港より無事帰国の途に就きました。

 私にとっては、2019年に日中次世代交流委員会の一員として訪問して以来、コロナ禍を挟んで久しぶりの訪中でした。ただその間、日中関係は尖閣諸島や台湾問題、福島第一原発のALPS処理水放出に対する反応、反スパイ法による邦人拘束などさまざまな問題もあり、とてもぎくしゃくしたものとなってしまいました。調査によれば、お互いに対して「良い/どちらかと言えば良い印象を持っている」との回答は日本世論が1割を切り、中国世論でも3割程度です。

 しかしそのような中で忘れてはならないのは、そうした課題がある中でも貿易や投資などの経済活動は着実に続いており、お互いに切り離し得ない関係であるということです。日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとって日本は米国に次ぐ2番目の貿易相手国です。日系企業の海外拠点数では世界で1位であり、在留邦人は10万人を数えます。この方々の活動や存在は決して忘れてはなりませんし、むしろ適切に保護しサポートしなければなりません。現に6月に江蘇省蘇州市で日本人親子が暴漢に襲われて負傷し、かばおうとした中国人の方が亡くなる事件が発生しました。この中国人の方の勇敢な行動には敬意と感謝を表するとともに、謹んで哀悼の誠を捧げるものです。同時に、被害にあわれた方々やその周囲の方々も適切にケアを受け、保護されるべきです。だとすれば、この方々のためにも、正面から中国と向き合う必要があります。好き嫌いで外交を考えるべきではありません。

 事件以前から訪中日程は決まっていたため全くの偶然ですが、その蘇州市を訪問することとなったことを含め、今回の訪中団は日中関係にとって一定の意味を持つものだったと個人的には思います。そうした思いも含め、ここに訪中の記録を整理しご関心の方のご高覧に供します。

 なおこの訪中記は、いただいた資料および私の走り書きのメモと記憶に頼って記しています。文責は橋本がくにあります。個々の発言を全て漏らさず書いているわけではありませんし、言い回しも必ずしもそれぞれの方々の発言の通りではないと思います。大意を掴んでいただくことに眼目を置いて記していますので、その点をご了解の上お目通しいただければ幸いです。

●まず、国貿促と今回の訪中団について

 さて訪中記に入る前に、今回の訪中団の母体である国貿促という団体について記します。正式名称は日本国際貿易促進協会という民間団体で、国交正常化前の1954年に日中間の貿易を支援し促進するために設立され、今年で設立70周年を迎えました。会長を河野洋平・元衆議院議長が務めておられ、今年度から私が会長代行を務めることになりました。以前は橋本龍太郎が会長を務めており、他界した際に河野先生に後任を受けていただいた経緯があります。この二人以外の役員は民間企業の方々から構成されています。

 事業としては日本企業の中国進出の支援を行っている他、コロナ禍等事情のある場合を除き毎年訪中団を派遣しており、今回は第47回訪中代表団となります。上記のような団体の性格上、訪中団の使命は経済や貿易に関する日中間のコミュニケーションにあり、例えば領土や安全保障等に関するテーマは取り扱いません。とはいえ課題は山積みであり、個別の問題解決にむけて粘り強く取り組む必要があります。一方、中国経済も海外との貿易や外資への依存は大きいため、これらは日本のみならず中国にとっても関心事であり、対話の糸口が掴みやすいテーマともいえます。

 昨年11月に岸田文雄総理と習近平主席が会談をしており今年5月には日中韓サミットの機会に岸田総理と李強国務院総理の会談も行われ、それらを通じて両国関係の重要性が確認されている中、個別具体的な議論を行うにはよいタイミングと言えます。さらに今月15日から、中国共産党の経済政策運営を決める3中全会(第20期中央委員会第3回全体会議)と呼ばれる会議を開くことが予定されており、不動産不況や地方財政の悪化等の不安要素を抱える中国経済のかじ取りがどうなるのか注目が集るところでもありました。こうした内容についても中国のエコノミストの方々からもお話を伺うことができ、勉強になりました。

●蘇州市での事件について

 6月24日に蘇州市のバス停で日本人学校のスクールバスを迎えに来た日本人親子が刃物を持った男に襲われて負傷し、制止しようとした案内役の中国人女性も犯人に刺されその後亡くなった事件が発生しました。今回の訪中団では、結果として事件直後にその蘇州を訪問することとなりました。この件に関する対応については、最近の出来事で多くの方の関心の高い事項でもありますので、ここでまとめて記しておきます。

 まず、事件に遭われた親子のみならずそのご家族や周囲の方々はさまざまな意味で傷つけられており、ケアが必要です。在中国日本国大使館、在上海日本国総領事館は、こうした方々に寄り添いつつ医療やメンタルヘルスも含めてケアとサポートに努めているとこのことです。また蘇州市政府も総領事館と連携し、医療体制の充実や警備の強化について、事件直後から迅速な対応を行っていただいているとのことでした。亡くなった中国人女性については蘇州市から表彰されましたが、ご遺族からは義援金等は受け取らない旨および「静かにしておいてほしい」旨の談話があったことも、報道されていました。

 そこで訪中団としては、金杉大使および赤松秀一・在上海日本国総領事と相談の上、それぞれのご関係の方々の静謐を守るべきことを考慮し、中国側との面会時に要望を行う以外には特段の行動をしないこととしました。金杉大使および赤松総領事には、引き続き被害者の方々に対して丁寧に支援をいただきたい旨お願いをしました。改めて、被害を受けられた方々に心からお見舞いを申し上げ、一日も早いご快癒を祈ります。亡くなられた方にも、重ねてその勇気を称え、深く哀悼の意を表します。

 他方、経済ミッションである訪中団としては、日本人の安全確保には高い関心があります。家族も含めて安心して暮らせなければ、ビジネスどころではありません。そこで、何立峰副総理をはじめ中国側の要人と面会する際には、亡くなった中国人女性の方に弔意を表した上で、中国に滞在する日本人の安全保護の強化について、必ず要望を行いました。また何副総理や信長星党江蘇省委書記には、日本人が狙われたのか偶発的なのか、真相を明らかにしてほしい旨の申し入れも行いました。中国側からは、事件は偶発的なものであり、日中関係は影響を受けるべきではない旨の発言が概ねでしたが、その中で劉小濤党蘇州市委書記からは、中国側で唯一先方から率先してこの事件について言及があり、お見舞いや医療の確保等に努めた旨の発言がありました。事件発生現場となった地域の責任者としてこの事件について重く受け止めていただいているものと、ありがたく受け止めています。

●何立峰・国務院副総理との面談

 さて訪中記に入ります。7月1日、訪中団は北京空港に到着してホテルで荷物をほどいてから、人民大会堂に向かいました。会談は17時30分からの予定でしたが、15時45分にはホテルを出発。16時過ぎには人民大会堂に到着して待合室に通されました。なお、人民大会堂内では録音、録画、撮影は禁止されており、スマホ等は置いていくよう指示があったので、中の写真はありません。

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(写真:人民大会堂外観。あいかわらず大きな建物です)

 会談に先立って、日本国貿促の中国側のカウンターパートである中国国際貿易促進委員会の任鴻斌会長と河野会長で、会見形式であいさつが交わされました。なお、中国国貿促は来年開かれる大阪・関西万博における中国パビリオンの運営主体であり、任会長は今年2月の中国パビリオンの起工式のため来日されています。ぜひ万博が始まったら中国パビリオンにも皆さんのご来館をお待ちしています、と逆PRもありました。

 17時過ぎに何立峰副総理が人民大会堂に到着され、全員で記念撮影ののち、17時25分ごろに会見がスタートしました。

 まず、何副総理から、河野会長をはじめとする訪中団に対する歓迎、両国国貿促の交流と発展への貢献に対する評価、双方首脳の11月APECにおける会談や日中韓サミットにおける会談等についてお話がありました。

 河野会長は、歓迎に対する感謝と相互の理解と信頼を向上させるための人的交流積極化の必要性に触れた上で、コロナ禍以降、日本人の中国渡航時にビザの発給が必要になった点を改善すること、蘇州で発生した事件に関して落命された方に感謝と哀悼の意を表した上で、その事件の真相を明らかにし教示すること、反スパイ法により邦人が拘束されている件に関し、法の解釈の明確化や運用の透明化を行うこと、の三点を副総理に求めました。

 何副総理からは、蘇州の事件に関しては純粋に偶発的なものであること、犯人は法に則り処分されるため安心されたいと話されました。また過去に中日関係が悪化した際にも、勤務先の企業を守ろうとした中国人もいたことに触れられ、事件に影響されるべきではない旨のお話がありました。また、ご自身の過去の日本との経済交流の経験に触れられた上で、中国は改革開放のトレンドを堅持すること、3中全会で全面的な改革に向けた重大な決定をすること、より経済の障害を取り除くことに重点を置くことなどを述べられました。また、中国経済の状況について今後の成長の見通しを述べられた上で、日系企業に対して中国でのビジネスチャンスを掴んでほしいこと、重要な教訓として最新の技術の導入を躊躇すべきではないことなどをお話になりました。

 河野会長は、訪中団に参加されている照屋義実・沖縄県副知事を紹介し沖縄県と福建省の交流について触れたた上で、地方間の交流の促進について述べられました。また地方財政と不動産の問題について問われました。

 何副総理からは、地方政府の債務負担の問題については解決の計画を立てているところであり、解決に自信を持っていること、不動産の問題についてはモデル転換を進めており、農村部から都市に出稼ぎに来る低所得者向けの住宅を公共的に供給することを考えていること、また日本の建設業にも進出を期待している旨の話がありました。

 河野会長から、橋本が日本国貿促の会長代行に就任した旨の紹介があり、続けて私からは、ご挨拶を申し上げた上で、大阪・関西万博における7月11日の中国ナショナルデーではぜひハイレベルの方にご来日いただきたいこと、少子化・高齢化という日本と共通する課題を持つ中で医療・介護等の経済協力についても交流の機会をいただきたいこと、拘束されている邦人の方について寛大な対応を願うことの三点について発言しました。

 何副総理からは、シルバー経済にも着目しており、定年の引上げや観光、在宅養老、施設介護などを推進すること、高齢者は2億人いるためこの分野の協力も両国にとって明るい未来となること、また個別の案件については把握していないが話を聞いてみたいとのお話があり、以上で会合は終了となりました。

 振り返れば、日本側としては投資やビジネス等の妨げになっているテーマである蘇州事件対応や反スパイ法への要望を行い、他方で中国側は中国経済上の課題克服と成長に自信を示し、3中全会で発表される政策を含めてより改革開放を進める姿勢を表し、日本企業に一層の投資を促した、と整理することができます。ただ日本側としては、いくら投資や企業進出を促されても、要望した個別の課題の解決がなければ前向きになることは困難という意思を先に示しており、結果として先方に宿題を残した格好といえるでしょう。今後の中国側の対応に期待したいと考えています。

 その日の晩は、今回の日本国貿促訪中団をホストしていただいている中国国貿促主催の歓迎会がありました。

●中国日本商会との朝食懇談会

 翌朝7時から、ホテルにて朝食を摂りながら、中国に進出している日本企業による組織である中国日本商会の本間哲朗会長(パナソニックHD)はじめ役員の方々と、河野会長および私、国貿促の安田真人理事長とで懇談を行いました。

 中国日本商会の方々からは、それぞれの企業が中国で展開している事業やその展望等についての紹介を頂いた上で、中国経済の現状に関しB2Bが厳しくなっていることや不動産の不況が厳しく数年続くと思われること、地方レベルではまだ外資への差別が見られること、中央政府が政策を打ち出しても地方の現場レベルではいつ誰が行うのかよくわからないことがあること、消費マインドも厳しくなっていること、その一方で若者がSNS映えする写真が撮れるとして突然デジカメが人気になったこと、3中全会で打ち出される政策には期待もある一方、大規模な需要喚起策は、社会の格差を増す副作用もあるため行わないのではないかという見方もあることなどのお話がありました。

 総じて、日本企業にとって中国は巨大で重要なマーケットと捉えられている一方、以前よりビジネス上のうまみが減少している面もありかつ現在消費の冷え込み等もあるため、様子を見ているという姿勢が伺えました。また、昨年の国貿促の訪中の際に河野会長から商務部に日本商会と話をするよう求めたため、その後商務部と日本商会で話をする機会が設けられ、いろいろな要望を行うことができたとのお話があり、政治レベルでの日中間の交流がより活発になることへの期待もお話いただきました。

●凌激・商務部副部長との面談

 その後、商務部を訪問しました。王文濤・商務部長は習近平主席のカザフスタン訪問に同行しているとのことで、凌激・副部長にご対応いただきました。

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(写真:凌激・商務部副部長との面談の様子)

 冒頭、凌激副部長から歓迎の挨拶と両国関係についてお話があったあと、河野洋平団長から、昨年訪問時に王部長に日本の不安や疑問を伝えたところ速やかに日本商会に説明会を催してもらったことなど対応に感謝を表し、今後も日本商会などの団体や企業の不安や疑問の解消のために説明の機会を設けていただきたいこと、データ移転に関する法律で不明確な点等について、特に中小企業に対して説明と対応を願いたいことのお話がありました。また橋本から、3中全会における新しい政策についての教示、また中央の方針が地方に徹底されておらず未だに外資企業と中国国内企業で対応が異なるケースがあることへの対応、蘇州の事件に関し邦人の保護に商務部としても留意願いたいことの三点を要望しました。さらに、平野信行副団長(東京三菱UFJ銀行)から、日中韓のFTAについて高いレベルの内容になることへの期待、一部原材料品目の輸出管理の実施にあたり、審査の円滑化による早期の対応や基準の明確化や事前説明など企業の混乱を回避する施策を求めること、中国が述べる「新質生産力」に関連し、広範囲で公正な市場競争の促進と、内外資の差別のない統一された国内市場の構築を求めることの三点を日本経済界の声として要望しました。

 凌副部長からは、中国政府は外資誘致に関する政策を重視していることが紹介され、今後も改革開放を堅持する旨のお話がありました。また、データの越境については、データ安全法および個人情報保護法によりデータの安全と秩序ある流通を推進しているが、具体的な質問等があれば個別に対応すること、また今後も日本企業や日本商会とも意思疎通を強化し今月中に日系企業に向けた円卓会議を開催できるというお話がりました。三中全会のテーマは改革の深化にあり、中国式現代化、すなわち貧富の格差が伴う現代化ではなく、すべての国民が共同富裕に達する現代化を進める旨紹介されました。また外資系企業の不平等の対応については確かに苦情や意見もあったが随時改善しており、今後も問題があれば商務部にメールや電話、面会で話してほしい旨発言されました。また蘇州の事件については、驚きと怒りを感じており偶発的な案件と聞いているが、外国人の安全と保護に力を入れるとの発言がありました。中日韓FTAについては敬意を振り返った上で、複雑な経済貿易関係を考慮しバランスをとることの困難さを指摘した上で、3か国の指導者が政治的に支持することが重要であり、日本政府の支持を経済界から働きかけてほしい旨話がありました。輸出管理については、他国の品目数より中国の品目数が少ないことに触れた上で、経済産業省と商務部の間で中日輸出管理対話を立ち上げたこと、既に日本企業からの申請により輸出許可を行った例もあることの紹介がありました。新質生産力の革新はイノベーションであることに触れ、工業製品の改造、自動車等大口消費財の買い替えなどが新質生産力を発展させる具体的な措置である旨の紹介がありました。また8月1日から施行される公平競争審査条例[JETROによる日本語訳PDF]の目的は、政府の政策作成に制限を設け、ビジネス環境を改善し統一した大きな市場を形成することにある旨発言がありました。

 河野会長から、照屋沖縄県副知事が訪中団に参加していることについて紹介がありました。照屋副知事からは、沖縄県と福建省の交流を紹介され、観光や経済など多面的な地域間交流を促進させるためさらなるビザの緩和を期待すること、地域産業の中国市場への参入について関係機関との連携の協力について要望されました。凌副部長からは、沖縄県と中国の地方との協力の重要性を感じたこと、福建省の厦門で中国最大の投資商談会を商務部が開催するので、沖縄県をはじめ各地からの出展を期待している旨のお話がありました。

 最後に河野会長から、中国の就職難に関連して人材ミスマッチの解消についてお話があり、凌副部長から中国の人材受給のミスマッチの状況の紹介や、技能実習生の交流についてお話があり、ここで会見はお開きになりました。

 凌副部長は、こちらからの要望に対し、ひとつひとつ真剣かつ丁寧に対応いただいた印象があります。また、もちろんそれが彼らの仕事なのですが、日本からの投資を呼び込もうとする積極的な姿勢を感じました。こちらからも中国商務部に対し民間経済団体として求めることを明確に要望しましたので、今後の継続的な意思疎通と個別案件の進展に期待しています。

●国観智庫セミナー

 商務部からホテルに戻り昼食を摂りました。ひと息ついて、13時半から中国の民間シンクタンクである国観智庫のエコノミスト曹遠征氏による「中国経済は新しい段階に-志と夢」(私の意訳です)と題する講演を聴講しました。概要をざっくり紹介します。

  • 鄧小平が行った改革開放政策が「世界の工場」といわれる中国の現代化を進めた。その結果、貿易摩擦を招いたため内需拡大や所得向上、サービス業の発展等に力を入れてきた経緯があり、今後も国内に一大市場(全国統一市場)を形成することと技術開発への投資を進めることが重要。
  • 現在の足元の課題として、不動産市場の不況、地方自治体の債務リスク解消、消費低迷によるデフレの解消が挙げられる。背景として、世界銀行の基準では2025年には高所得国入りする状況になっていることと、少子高齢化に伴い2022年に人口減少が始まっていることが挙げられる。
  • 中国としては、今後は脱工業化、サービス主導の高所得社会を目指す。技術面でも新エネルギーやバッテリーなど低炭素技術では世界をリードし、世界的な協力関係を強化する。
  • 中国経済は規模が大きく、持続的な発展が世界的な課題。都市化も余力があり低所得者の所得向上による成長も期待できるため、日本のバブル崩壊のようにはならない。
  • 中国と日本との経済協力も今後の成長の重要な伸びしろであり、更なる協力と緊密な関係の構築を望む。

●在中国日本国大使館訪問

 2日夕方、訪中団で北京の在中国日本国大使館を訪問し、金杉憲治大使から中国外交の動向等についてレクチャーを受けました。概略は下記のようなお話でした。

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(写真:金杉大使によるレクチャー)
  • 中国外交の基調として、対米関係の安定を図りつつ、BRICSやGlobal Southの一員として発展途上国のリーダー的なポジショニングを強調し、多くの国々との関係構築に向け活発な外交を展開している
  • ウクライナを巡るスタンスの違い等もあり、対EU、対米、対日などでは必ずしも成果を挙げていない。小グループ(G7・NATOなど)と大家族(BRICS・上海協力機構など)の対立といった発言も見られる。
  • 昨年11月のAPECにおける岸田首相と習近平主席の会談、今年5月日中韓サミットにおける岸田首相と李強総理との会談等を経て、日中関係は底を打った感はある。ただ邦人拘束やALPS処理水、ビザの問題など具体的な懸案事項の解決には至っていない。
  • 引き続き政府のあらゆるレベルでの意思疎通を図り、また議会や経済人を含めオールジャパンで日本の意思を伝える必要もある。

 なお大使館でのレクチャー終了後、北京市内で訪中団の交流会を行いました。

●自動運転実験の見学

 翌3日は午前中、北京市郊外の自動運転実験の見学に出かけました。まず北京市の自動運転施設を訪問し、北京市における自動運転のしくみや実験の成果等についてプレゼンテーションを受けました。北京市では、首都空港-実験区-大興空港を結ぶ範囲を定めて既にその中では自動運転の車が既に走っているとのことで、例えば自動運転タクシーは456台、宅配便の無人配送車・無人販売車は合計358台、自動運転シャトルバスは6台、その他パトロールカーや無人清掃車、幹線物流なども実際の道路で運行されているとのこと。交差点にはレーダーやカメラなど各種センサーをつけた信号柱を整備し、車のセンサーからの情報とクラウドで情報を共有して自動制御する路車協調方式を採用していること、交通事故もあるが人より少ないこと、故障の復旧のため人による遠隔操縦もできること(昔ゲームセンターにあったF1ゲームの筐体のような感じでした)などの説明がありました。

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(写真: センサーをいくつもつけた信号柱の説明を受ける)

 そして実際に乗ってみましょう!ということで、実際に無人運転乗用車(レクサスの車でした)の後部座席に乗り、公道を10分ほど一回りして帰ってきました。席にモニタがついており、認識している人や車などが確認できますが、車の陰の歩行者なども認識しているのが分かります。おそらく近くの車のブレーキランプも認識していました。交差点やそれ以外でも、前に人や自転車などが横断していればきちんと停止しますし、散水車が低速で走っている後ろについたらウインカーを出して追い越しをしました。最高50km/hくらい出して安全快適に公道を走行して無事に施設に戻りました。あまりにも普通に街中を走行していましたし、その気になって外を見ると、三輪バイクのおっちゃんや普通の乗用車に交じって普通に無人運転車がそこいら辺に普通に走っている光景は、かなりSFチックでしたが、現実です。正直驚きました。ただし施設のゲートから公道に出る時に前方から別の車が来てお見合い状態になった際には、こちらはずっと停車し続け、しばらくして根負けした相手の運転手が諦めてバックして道を譲ってくれたので事なきを得ました。他車との「譲り合い」みたいなことについては、なお改善の余地があるのかもしれません。

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(写真: 無人運転レクサス。センサーがあちこちについています)
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(写真: 車内のモニタと外界が同調している様子。なお対向車線右折中の車も自動運転車)

 その後、同じ研究開発区の中にある百度(バイドゥ)の自動運転の施設も見学しました。百度では、北京市以外にも無人タクシーを展開しており、武漢市および北京市における無人タクシーの運行状況を大型スクリーンで一望しました。無人タクシーはすでに営業運転しており、近年中に黒字化を目指すとの由でした。ただ別の場所で聞くところによると、無人タクシーはちゃんと安全運転するために一時停止等のルールを守るので、中国の運転手の運転に慣れている客がかえってイライラしてしまい、そのため有人のタクシーが選ばれてしまい営業的には苦労しているとのこと。うわさ話ですが、ありそうな話ではあります。

●中国国際経済交流センターセミナー

 午後から、中国国際経済交流センターの王一鳴副理事長による「中国経済の現状と全国統一市場建設」と題するセミナーを聞きました。前日の国観智庫は民間シンクタンクですが、中国国際経済交流センターは国家発展開発委員会の下にある政府系シンクタンクです。やはり政府系シンクタンクの方がややポジティブな発言が多いかなと感じました。概要は以下の通りです。

  • ポストコロナの中国経済は持ち直している。供給面では製造業、サービス業は持ち直し、需要面でもまだコロナ前の水準には戻らないが持ち直しつつある。小売業は堅調であり、固定資産投資は不動産がマイナスだが設備投資などがけん引して4%の向上。耐久品の下取り補助や設備更新の補助など消費喚起策を実施している。
  • 長期的に見て、中国経済は高度成長期から中速度成長期にさしかかったものと思われる。成長の伸び率のグラフについて、日本の1986年、韓国の1992年、中国の2010年を重ねると同様のカーブを描く。今後はTFP(全要素生産性)を高め、質の高い成長を目指す。
  • 3つのチャレンジがある。1つは需要不足。コロナ後に需要が完全には戻っていない。国内需要喚起策が必要。2つ目は不動産市場の調整。バブル崩壊時の日本ほど深刻ではないが、需要押し下げ効果はある。地方政府が不動産在庫を公的住宅として提供する解決策がある。3つ目は外需の不確実性。地政学リスクや政治的リスク(もしトラなど)がある。輸出の下振れは中国経済にダメージになる。
  • 一方、中国経済は中長期的にはまだ伸びしろは大きい。人材も豊富。さまざまな分野でイノベーションを進める。技術の囲い込みをされるので、基礎研究に投資をして自主開発を推進する。産業の高度化を図り、出稼ぎ者の定住を進めて需要を拡大する。グリーンエネルギーも推進する。
  • 3中全会では、改革の継続と中国の新たな現代化が議論される見通し。中国は世界の工場であり、世界の市場になる。今までの中国の強みはローコストであったが、今後は総合的なサプライチェーンが整っていることが競争力の源になる。また、市場基礎の強化と規則の統一として、知的財産権の制度の完全統一を図る。財産権(公的・私的)の保護、市場参入規制の統一、公平競争制度の統一(特定企業の優遇を排する)、社会信用制度の健全な統一を図る。
  • 中国と日本の間では、信頼なくして協力は不可能。紆余曲折を経たからこそ、平和と信頼の構築により美しい未来を構築すべき。

 質疑応答において、中国はもう先進国になりつつあるのではないか?という質問に対しては、まだIMFの定める基準に達していないこと、北京や上海以外、特に内陸部ではまだ立ち遅れがあることから、未だ発展国と認識しているというお返事がありました。またここ数年の「国進民退」の政策の結果、民間活力が削がれているのではないか?という質問に対しては、コロナ禍のダメージがサプライチェーンの川下側に大きかったため、川上側に多い国有企業が川下側に参入せざるを得なかったのが「国進民退」の事態であり、業種による温度差もあるが、国有資本の退出も考え得る、というお返事がありました。ここまでセミナーは時間となり終了しました。

 なおこの日の晩は、日本国貿促の主催で、中国のゆかりのある方々をご招待して祝宴を開催しました。訪中団一行と多くの中国側のゲストの方々の交流が深まり、とても有意義な会でした。

●江蘇―日本経済貿易協力交流会/信長星・中国共産党江蘇省委員会書記との面会

 4日は朝にホテルを出発し、飛行機で江蘇省の南京に移動しました。南京は、古くは秣陵、建業、金陵などと呼ばれていた歴史ある都市で、今は江蘇省の省都となっています。ちょうど梅雨が明けたとのことでとても暑く、中国三大火炉(ボイラー)と称される面目躍如といったところでした(あと二つは重慶、武漢)。河野洋平会長が北京で訪中団を離れて帰国され、南京以降帰国までは私が訪中団の団長を務めました。そのため、会見については私がメモを取る余裕がなかったため、以後については記憶にのみ頼って記しています。

 訪中団は午後に南京中心部のホテルに到着し、15時から江蘇-日本経済貿易協力交流会に出席しました。双方の挨拶が交わされた後、江蘇省および省内の3市(常州市、南通市、塩城市)の投資プロモーションを拝見しました。なお中国では省や市といった地方自治体間の競争が激しく企業誘致も自治体の実績になるため、皆さん熱心にそれぞれの都市のPRをされていました。

 終了後、同じホテル内にて17時半から信長星・党江蘇省委書記との会見がありました。冒頭、信書記から歓迎の挨拶があり、また長年にわたる江蘇省と日本との深い関係について紹介がありました。また先月信書記をはじめとする江蘇省訪日団が来日しており、その折の交流会が成功裏に終了したこと、今後青少年交流等を推進したいことなどのお話がありました。

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(写真:信長星・党江蘇省委書記との会談)

 私からは、まずご挨拶と歓迎に対する感謝を申し上げました。江蘇省には1万人の在留邦人が滞在し深い関係があることに触れ、蘇州の事件に関して亡くなった方に哀悼の意を表した上で、江蘇省で生活する日本人についての安全の確保を求め、また事件の真相を明らかにするよう要望しました。また日本からスムーズに訪中できるようビザの免除についても関係当局に伝えるよう依頼しました。来年行われる大阪・関西万博の中国パビリオンにおいて江蘇省ウィークが開催されるため、ご来日をいただきたい旨お話をしました。また、高齢化という共通課題を持つ中で、介護や医療分野など日本が中国に協力できる分野がある旨の発言をしました。最後に、日本国貿促として今後も日中交流の発展に努める旨申しました。

 信書記からは、蘇州の事件については報道官等が公表し訪中団に対して何副総理が表明した通りであること、ビザの問題については関係部署に伝える旨のお話がありました。私からは、改めて江蘇省として日本人の安全保護をいただきたい旨、重ねて要望しました。

 会見終了後、部屋を移動して江蘇省政府主催の食事会がありました。

●蘇州市見学、劉小濤・中国共産党蘇州市委員会書記との面談

 翌6日は、朝からマイクロバスで蘇州市に移動。少し寄り道して長江を眺めましたが、梅雨のため増水しており船着き場や遊歩道が水没していました。また高速道路のサービスエリアは、商業施設の中を通り抜けて一番突き当りにお手洗いがあるという商売っ気の盛んな構造をしていました。いろいろ興味深いです。

 昼過ぎに蘇州市に到着。高鉄(中国の新幹線)蘇州北駅近くのホテルにて、蘇州市政府の呉慶文市長主催の昼食会がありました。呉市長は、蘇州のことを歴史文化の残る街と、高度に発展した技術開発を行う先端的な街という二つの名刺を持っているという表現をされました。返礼のご挨拶で私から蘇州の事件について触れたところ、呉市長から蘇州市政府の対応についてお話がありました。

 昼食後、訪中団は長江デルタ国際研究開発コミュニティ展示センターを訪問し、蘇州市のプロモーションと相城区(蘇州市の行政区の一つ)のプロモーションを拝見しました。また蘇州御窯金磚博物館を訪問して見学しました。金磚とはレンガのことですが、北京の紫禁城の床に敷き詰められているレンガ(というか大きなタイルという方がイメージに近い)は全て蘇州で生産され運河で運ばれたたもので、その製造工程等について展示がありました。一般的なレンガのイメージと異なり、時間と手間をかけて焼かれた金磚はまるで石のようでした。ついで高新区(同じく蘇州市の行政区の一つ)に移動し、そちらでもプロモーションを拝見しました。なお高新区では立地産業等についての紹介の後、蘇州の特産品である美しい刺繍づくりのデモンストレーションと展示があり、特に裏表で絵柄の異なる刺繍づくりは訪中団一同の関心を集めていました。

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(写真:蘇州特産の両面刺繍のデモンストレーション。裏と表で色が異なります)

 一旦宿泊するホテルに移動して荷物を置いた後、近くの国際会議センターにて劉小濤・党蘇州市委書記と面談を行いました。劉書記からは、歓迎の挨拶と蘇州市と日本の関係の深さについて紹介された後、前述の通り蘇州の事件について蘇州市政府の対応について説明があり、そして今後も双方の協力強化を図りたい旨のお話がありました。

 私からは歓迎に対する感謝の挨拶を申し上げた上で、蘇州市の事件に関し被害者の方々への対応についても感謝を申し上げた上で、引き続き寄り添った対応を求め、日本人の安全確保について要望しました。またプロモーション等の感想を申し上げた上で、今後とも日本と蘇州市の関係発展に努める旨、お話を申し上げました。

 その後、部屋を移動して蘇州市政府主催の食事会がありました。劉書記は先の会見で率先して事件について触れてくださったことに好感を持ちましたし、年齢も近い(私の4歳上)ので話も弾みました。劉書記は早稲田大学に留学していた経験もお持ちとのことでした。また翌日には蘇州市副市長主催の朝食会も催していただき、訪中団にとても気を遣っていただいているようにも感じた次第です。

 翌日の朝食会終了後、ホテルを出発してマイクロバスで上海虹橋空港に移動し、帰国しました。帰国便が羽田空港に着陸している時に雷鳴が聞こえるなと思っていたら急に驟雨に見舞われ、空港の到着作業が中止されたため1時間ほど機内で待機になるオマケが付きましたが、無事に帰国できました。

●まとめ

 今回の訪中は民間団体である国貿促ものでしたので、要望や意見交換のテーマは主に経済に関するものに集中していましたが、それだけに中国の経済情勢等についてはとても勉強になりました。もう数年で高所得国の範囲に入りうる成長を続け、公道で営業も行われている自動運転技術や先端的なグリーン技術等を誇りながら、未だに多数の農村人口を抱え政治的にも自らを発展途上国のトップランナーと位置づけ続ける中国は、その巨大さのみならずひと括りに捉え難い幅の広さも興味深く、そもそも先進国とか発展途上国とかいう括り方自体が無意味な気すら感じました。経済的にはセミナーにて触れられたように分岐点を迎えつつ、それを自覚して乗り越えようとしています。政治的には習近平主席による指導体制が確立しており、例えば自動運転のように日本では調整が大変だろうなあと思うことが実現してしまうものの、おそらく同じ理由により一向に改善されない課題や矛盾も抱え続けているようにも見えました。何事も、百聞は一見に如かず、です。

 そうした中で、日本と中国とは地理的に一衣帯水の関係が続きますので、継続的にコミュニケーションの機会を持ち続けていることは重要だと思いますし、機会をとらえて意思疎通を図り粘り強く課題解決を求めるしかありません。蘇州の事件が起こった折から、その現場となった蘇州市を訪問し意見交換できたことは、当方にとっても、またおそらく先方にとっても幸いなことであったと感じています。「呉越同舟」とは、まさに訪問した江蘇省の故事です。日本と中国も、同じ東アジア地域に根差すものとして、この言葉をしみじみと噛みしめるべきであろうと思った訪中でした。

 最後になりましたが、今回の訪中団のホストを務めていただいた中国国際貿易促進委員会の任鴻斌会長、江蘇省分会の王善華会長、蘇州市分会の徐連全会長はじめ中国国際貿易促進委員会の皆さま、日本国際貿易促進協会の河野洋平会長、安田真人理事長はじめ参加メンバーの皆さま、泉川友樹事務長はじめ事務局の皆さまのおかげで充実した訪中スケジュールを実現していただきました。深く感謝申し上げます。

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2019年9月 1日 (日)

日中次世代交流委員会第七次訪中団レポート

【はじめに】
 8月18日(日)から22日(水)までの日程で、日中次世代交流委員会第7次訪中団の一員として中国(北京、福州、厦門)を訪問しました。概要をここに記します。
 日中次世代交流委員会とは、公明党の遠山清彦衆議院議員を会長とする超党派中堅・若手議員による議員連盟です。日中関係を最も重要な二国間関係と位置づけ、結成以来、関係の良し悪しに関係なく毎年欠かさず訪問すること、また訪中の際には必ず北京以外の地方都市も訪問することを旨としており、この委員会としては7回目の訪中団となっています。僕自身はこの委員会のメンバーとしては3回目の訪中団参加となるものでした。
 今回の訪中団の参加メンバーは、以下の通りです。

団長:遠山清彦 衆議院議員
副団長:小熊慎司 衆議院議員・橋本岳 衆議院議員
事務局長:濱地雅一 衆議院議員
事務局次長:伊藤俊輔 衆議院議員
メンバー:井野俊郎 衆議院議員、國場幸之助 衆議院議員、田嶋要 衆議院議員、小西洋之 参議院議員、竹谷とし子 参議院議員、伊藤孝江 参議院議員

 米中の貿易戦争が厳しく、また日韓関係も不安定な状況というタイミングですが、日中関係は昨年の安倍総理訪中、今年6月の大阪G20への習近平総書記の来日、そして来春に再び国賓として習近平総書記が日本を訪問することが原則的に合意されているという流れがあり、日本と中国の二国間関係はきわめて良好な状況です。ただし、米中貿易戦争も日本経済への影を落としつつあり、また中国国内では香港の問題を抱えているところ、この二点が主に議論のテーマになりました。また後半の福建省訪問では、空海や隠元など、中国と日本との仏教をはじめとする交流の歴史的拠点を学ぶ機会となりました。

【8月19日(月)】

●社会科学院日本研究所 楊所長らとの意見交換
 北京に到着して、早速、中国社会科学院日本研究所にて楊伯江所長始め研究員の方々と意見交換。
 まずこちらの質問に答える形で、米中摩擦に関する中国側の姿勢が示されました。曰く、中国側は望んでいないが米国に仕掛けられており責任は米国にある、互いの経済が拡大したため摩擦が生じるのは宿命的なこと、周囲の国々に影響を及ぼしていることに中国は自覚的である、交渉と対話を堅持して、譲るところは譲るが、中国の主権に関することは譲らない。とにかく対話して、世界の平和、地域の平和を守るように続けたい、等の見解が楊所長らからありました。
 また先方からは、日本の女性関係政策、環境政策、日本の憲法改正における自民党・公明党の態度の違いについて、価値創造社会、消費税引き上げの影響、第三国協力、橋本内閣六大改革の評価、日韓の諸問題などについて質問があり、各議員が回答しました。
これらのやりとりは、先方のレポート(中国語)もありますのでご覧ください。
日本研究所科研交流简报(2019年第23期)日本众参两院跨党派年轻议员代表团到访我所

●駐中国日本大使 横井大使ブリーフィングおよび夕食会
 夕方、在中国日本大使館を訪れ、横井大使に「最近の中国情勢と日中関係」に関するブリーフィングを受けました。中国にとっては今年は建国70周年の節目の年であり、他方で対米関係、経済政策、香港情勢等の問題に直面していること、経済では米中経済摩擦等の要因により緩やかな減速傾向にあること、外交的には対米関係が中国外交の最大の課題であること、日中関係は大幅に改善しており、完全に正常な発展の軌道に乗っていること、来年春の習近平国家主席の国賓としての訪日に向け、日中関係を「競争から協調」の新たな段階に押し上げるべきといった趣旨でした。
 ブリーフィング後、大使主催の夕食会にお招きをいただき、食事をしながらひきつづき様々な意見交換を行いました。

【8月20日(火)】

●商務部国際貿易経済合作研究所 兪副院長らと意見交換
 ここでも、米中摩擦が主なテーマとなりました。先方からは、中国側は自由貿易、市場開放を続けているが米側が保護主義的な政策を掲げて国際秩序への挑戦を行っている、中国経済もこの一年影響を受けたが経済構造を調整して対応してきたこと、今後も多国間貿易秩序やWTO改革の意思は変わらず、お互いを尊重しながら二国間の対話を続けることが大事、といった見解が示されました。遠山団長からも、保護主義や自国第一主義の主張への懸念や多国間自由貿易体制維持について日本が強い意志を持っていることを伝え、日米貿易摩擦をチャンスとして克服してきた経緯を紹介しました。
 質疑応答の中では、知的財産の移転やサーバの国内設置規制について「センシティブな問題」という表現があったり、人民元の為替に関する解決には否定的であったりというやりとりもありました。一方、RCEPの推進はもとよりCPTPPへの中国の参加に積極的なコメントも聞けました。

●宋濤・中国共産党中連部長との会見
 訪問団の受け入れ元である中連部の責任者である宋濤部長からは、歓迎の言葉や、習近平総書記の来年春の訪日予定を踏まえ、さらに両国関係を発展させたい旨の表明がありました。また今回の視察先である福建省について、古くから日本との交流の歴史が深いこと、与党交流会議における協力モデル地域とされており今後具体化をしてきたい旨のお話がありました。その後、中連部内で王亜軍・副部長との昼食会があり、その場でも活発な意見交換がありました。

●黄坤明・中央宣伝部長との会見
 中央政治局委員でもある黄坤明・中央宣伝部長からは、米中経済摩擦に関しては、経済構造の問題という認識が示され、自由貿易や多国間主義の重要性や民間・文化交流推進の必要性が指摘されました。またご自身が杭州に勤務していた時代に、日本企業の保護に尽力した旨のお話がありました。
 また遠山団長から香港でのデモ等に関して早期の平和的な解決への期待を述べたところ、黄部長からは情勢沈静化への自信が示されました。この点については、報道もされています。直後に河野太郎・外相や山口那津男・公明党代表もそれぞれに中国側に意見を伝えていますが、本件に関して日本の各方面から注目されていることを示す意味はあったのではないかと思っています。
香港情勢、沈静化に自信=中国高官(時事通信)

●薛剣・外交部アジア司参事官との会見
 薛剣参事官は、現在は北京の外交部(中国における外務省)に戻られていますが、最近まで在日本中国大使館に公使参事官として赴任しておられ、日本語も達者な方です。国会議員との交流も熱心で、要人会見というよりも「久闊を叙する」ような、和やかな会話でした。安全保障や文化面などの日中交流深化への意欲が示されました。

 その後、在中国日本大使館において遠山団長が記者ブリーフィングを行い、北京空港にて急いで食事をとり空路福州に向かいました。

【8月20日(火)】

●黄檗山万福寺訪問
 朝、福州のホテルからマイクロバスで一時間ほど。隣の福清市にある黄檗山万福寺を訪問しました。清の時代、このお寺の住職であった隠元禅師が日本にわたり開いたのが、京都の宇治にある同名のお寺です(その時に伝えた豆が「インゲン豆」なのだそうです)。そういう意味で、中国と日本との文化的交流の拠点の一つとなった場所です。ただ、実際にはお寺は一度荒れてしまい、実業家の寄付により11月の完成目指して現在再建工事中で、唐時代の様式の大伽藍ではありましたが建物やご本尊は真新しく、境内は工事中でショベルカーがあったりして、歴史的風情を感じるにはいささか残念だった気もします(そういう気分になるためには、宇治に行った方がよいかも…)。

●福州京東方光電技術有限公司(BOE社)見学
 続いて、最新液晶や有機ELディスプレイの生産を行っている企業の工場を見学しました。巨大な敷地の工場でしたが、ラインを見学することはできずショールームを視察でさまざまな製品を眺めました。翌日の日経新聞に、この会社の名前が「次期iPhoneに採用される方向」という記事が出ているのを見つけ、思わず納得。タイムリーな視察でした。
アップルが中国製有機ELの採用を検討、JDIへの影響は(日経ビジネス)


●福建高壹工機有限公司見学
 福州市に戻り、電動工具メーカーの工場を見学。こちらは1985年に日本の日立工機グループの合弁会社として設立されたものが、2017年に工機ホールディングス株式会社に社名を変更して今に至っている企業です。こちらは工場の製造ラインを見せていただきました。人件費も徐々に上がってきており、また米中摩擦の影響でアメリカから関税が課せられる対象にもなってしまい、ご苦労があるというお話も伺いました。

●鄭新聡・福建省委員会常務委員らと会見
 夕方、福建省の幹部の方々と会見を行いました。挨拶の交換ののち、福建省と日本との文化的交流の歴史などについてお話がありました。その後の夕食会では、小熊慎司副団長が得意のトーク等を生かして中国の福島県等への輸入規制の解除についてアピールし、鄭常務委員から「協力する」という言質を引き出す外交成果もありました。個人的には会見や夕食会の際に供されるお茶がよくある緑茶ではなく美味しい烏龍茶だったのは、さすが福建省と感心しました。

【8月21日(水)】

●福州開元寺訪問
 朝、福州の開元寺というお寺を訪問しました。遣唐使船に乗って唐の都長安を目指した空海が嵐のために福州に漂着し、長安に向かう前に滞在したお寺です。街中にある現在も信仰を集めているお寺で、多くの方がお線香をあげてお参りしていました。

●厦門奥佳華知能健康設備有限公司見学
 高速鉄道で福州から厦門まで移動し、厦門奥佳華知能健康設備有限公司(OGAWAグループ)を訪問。電気マッサージ椅子を製造しており、60以上の国や地域に輸出している企業です。センサーやAIを駆使してその人の体調に応じたマッサージができるとの由。少し試してみましたが、すこぶる快適でした。

●陳秋雄・厦門市委員会副書記らと会見
 夕方、厦門市の幹部の方々と会見しました。挨拶の交換ののち、厦門市の産業や経済、観光などについて紹介がありました。また夕食会では、僕から、水島港と厦門港はコンテナ船の定期航路があり、経済的なつながりをより深めたい旨お話しました。なお、厦門市は街も綺麗で多くの観光客を集めていることもとても納得できる場所でした。また、天秤かごをぶら下げて果物を売る行商さんも、QRコードで決済していたのは流石のキャッシュレス社会と納得しました。

【8月22日(木)】

●コロンス島訪問
 世界文化遺産に登録されているコロンス島を訪ねました。アヘン戦争後に各国の租界となり、列強の領事館を建設していた歴史があり、それらの時代の建造物が現在も保存されて美しい観光地となっています。旧日本領事館もありました。全く個人的には、その時代のピアノが展示されているピアノ博物館にて「わー、ベーゼンドルファーだー!あ、スタンウェイだー!こっちはベヒシュタインだー!」と勝手に盛り上がっていました。

【まとめ】
 前半の北京滞在中は、要人や研究者の方との会見が相次ぎ、現在の東アジアを取り巻く諸情勢についての貴重な意見交換を集中的に行うことができました。二年前に同じ団で訪中した時には、北朝鮮の核実験やミサイル発射等が大きな問題となっており、議論の主要テーマとなっていました(過去のブログ「中国訪問記―北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策」「先の中国訪問における孔鉉佑氏の発言について」参照)。一方で今年は、北朝鮮はほとんど話題にならず、米中の経済摩擦が主要テーマでした。状況の変遷ぶりには改めて驚くばかりです。中国側からは強気な発言が相次ぎましたが、他方では日本との関係改善が大きく意識されており、その背景には危機感のようなものもあるのだろうと思っています。事前に水島コンビナートの各企業を訪問した際、米中摩擦の結果中国への輸出にマイナスに影響する見通しについて何社かからお話を伺っています。そうした中で、率直な意見交換の機会を持てたことは貴重なことだったと思っています。

 後半の福建省では、うってかわって日本との歴史的・文化的な交流の深さや、中国のモノづくりの現場や技術などを見学する機会となりました。帆船の時代に、難破などの苦難を乗り越えながら海を渡り教えを伝えた歴史上の偉人に思いを致し、また近代において中国が開国し近代化するプロセスの一旦を目の当たりにすることも有意義なことでした。

 こうした機会を頂けた中連部を始めとした中国側の皆さま、サポートして下さった外務省や在北京大使館、在広州総領事館の皆さま、そして遠山清彦団長、小熊慎司副団長をはじめとする日中次世代交流委員会訪問団メンバーの皆さまに感謝を申し上げます。

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(写真:黄坤明氏と訪中団メンバー)

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2017年9月 7日 (木)

先の中国訪問における孔鉉佑氏の発言について

 先日の中国訪問における孔鉉佑・朝鮮半島問題特別代表兼外務次官補との会談内容の一部がメディアで記事として取り上げられています。記事内容が誤っている訳ではありませんが、一人歩きしたり誤解も招きうる可能性も考えられるので、その場に同席して耳で発言を聞いていたものとして、補足します。

「次は東京上空越えるミサイルも」中国高官、日本の国会議員団に伝達(産経新聞)

中国高官「次は東京上空」日本に強い言葉で抑制対応要請か(共同通信)

 会談の主要な議論は先にこちらのエントリ(中国訪問記―北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策)で記した通りです。まず大前提として、双方ともに、北朝鮮のミサイル発射や核開発等の国連安保理決議違反の行動に対しては断固反対であること、外交的な解決が望ましい(すなわち、武力行使は望まない)ことの二点は両者とも一致していました。その上で、遠山団長から北朝鮮への圧力強化への中国のさらなる協力を要請したことに対し、孔氏から、中国が対話による解決を提案していることをもっと日本側も前向きに考えてほしい、というお返事があり、それに対して遠山団長から、実際にミサイルが上空通過する日本国民の危機感の中で、現時点での対話路線に対する懸念を伝える、という展開をたどりました。

 そのあとで、孔氏から、先のエントリの補足として記した「中国国境から90kmしか離れていないところでの核実験に強い危機感を持っている」云々の発言があり、その現実的な解決策として中国は対話による解決の提案をしていること、日本を含め関係国からは前向きな反応がないことなどを述べられた上で、「中国としては危機的な状況においても対話を試みる価値があると考えている。さもなければブレーキが利かず、ただエスカレーションするだけである。もしこのままの状況が続けば、次は東京の上空を超えてミサイル発射を行うシナリオも考えられる。そのようなシナリオを避けるべく、中国側としては、国際社会と連携しながら北朝鮮問題を解決することを望んでいる」云々という発言がありました。

 正直、聞いていてドキッとする言葉であったことは確かです。ただ振り返ってみれば、軍事的圧力のエスカレーションがもたらし得るシナリオの一例として述べたのであろうと受け止めていますし、核実験によって実際に国土の一部が地震に見舞われるという直接的恐怖感を踏まえた、落としどころの見えない中で続く軍事的エスカレーション的状況への危機意識から出た悲鳴のような言葉にも聞こえました。

 ちなみに、二年前に同じ訪中団で中国東北部の延吉という都市を訪問しており、その際現地の方から「北朝鮮の核実験があると、この辺でも地震を感じます」と聞いていました。テレビ報道で、今回の核実験でも延吉で地震のため大きくシャンデリアなどが揺れる映像が出ていました。隣国の影響で地震が頻発するのは、なかなか恐いことでしょうし、許し難く感じるのは想像に難くありません。

 いずれにしても、北朝鮮問題に関して軍事的解決を望まないのであれば、どこかのタイミングで対話に転じなければならないことは自明の理であり、日中の意見の相違はそのタイミングとプロセスの違いでしかありません。こうした溝を埋めつつ、沈着にかつ毅然と一致して北朝鮮に対して臨む国際社会の空気を作っていくよう外交当局には望みたいと思いますし、僕自身もそのように動いていきたいと思っています。

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2017年9月 3日 (日)

中国訪問記 ― 北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策

 さる8月27日~31日の日程で、遠山清彦衆議院議員を団長とする超党派の日中次世代交流委員会第五次訪中団の副団長として中国の重慶、西安、北京の各都市を訪問し、視察や面談等を行いました。主要なポイントについて記しておきます。

(9月3日夕方、北朝鮮の核実験を受けて一部追記しました。)

<北朝鮮ミサイル問題>

 全くの偶然なのですが、中国滞在中の8月30日に、北朝鮮が弾道ミサイルを発射し北海道上空を通過しました。この問題を受け、翌31日の北京での要人会見では、特にこの問題について中国側に日本の姿勢を伝え、意見交換をすることとなりました。特に、夕方に会談した孔鉉佑・中国外交部部長助理は朝鮮半島問題担当でもあり、前日に日程がセットされたことから、このタイミングでの直接の面談には先方にもそれなりの意図があったものと思われます。 以下にこの会談のポイントを橋本の記憶とメモに頼って記します。

Thoyama_kou_meeting

 遠山団長からは冒頭、北朝鮮のミサイル発射は日本や中国のみならず北東アジア地域の平和と安定を揺るがす暴挙であり言語道断であること、問題解決のための「対話と圧力」の方針のうち圧力を強めるべきタイミングであると日本が考えていることを伝え、、中国にもそれに協力してほしいと強く要請しました。


 孔氏からは、国連安保理決議違反の北朝鮮の行動には中国は反対の立場であることを明確に述べられた上で、圧力を保つことは大事であるものの、それだけでは解決しないのではないかと述べられた上で、エスカレートを防ぐため対話も模索すべきとし、米韓は軍の演習を一年凍結し、北朝鮮は核開発とミサイル発射を凍結し、その期間内に対話で問題解決する努力をするという中国の提案(いわゆる「ダブル・フリーズ」)について考慮されたいとのお話がありました。

 それに対し遠山団長は、北朝鮮問題に対して平和的外交的解決を望む立場は日本も同様であるとした上で、仮にモラトリアムを設けても北朝鮮がその約束を守る保障はなく、仮に裏切った場合、選択肢がむしろ軍事的オプションしかなくなってしまうという懸念について触れ、実際にミサイルが上空を通過した日本人の危機意識について共有していただきたいと反論しました。

 以上のように、双方がそれぞれの立場に立って提案や要望を率直に述べあう形で議論は終始しましたが、とにかく北朝鮮のミサイル発射翌日に日中間で率直にお互いの意見交換ができたことは、極めてタイムリーであったと考えます。遠山団長の要請は、宋濤・中国共産党対外連絡部(中連部)部長との会談、陳元・政治協商会議副主席との会談でも行われました。

 その後参加団員間でも意見交換をしましたが、私の個人的印象として、中国は北朝鮮の核問題の方を重きに捉えている(もちろんミサイル問題とは不可分ですが)ことで少し日本と問題の捉え方が違っていること、また仮に北朝鮮を対話のテーブルに乗せたとしても、中国としてもそこから先のシナリオを描き切れていないかもしれないことなどを感じました。もちろん私たちにも拉致問題等も含めさまざまな北朝鮮に関する問題に対して、即時有効な解決策を有しているわけでもなく、悩ましいテーマであることも事実です。引き続き関係諸国間でコミュニケーションを図りながら協力して毅然とした態度を保ちつつ、解決策を探り続けるべきでしょう。

(以下追記)
 9月3日昼、北朝鮮が水爆実験と称する核実験を行いました。事前に水爆の小型化に成功したと宣伝しておいてのタイミングですから、そうした能力の誇示ととらえてよいと思います。当然ながら、累次の国連決議に反する言語道断の暴挙であり、決して許容されるものではありません。安易にこれに屈してはなりませんが、一方で軍事的エスカレーションという悪夢的シナリオも望ましいものではありません。政治的・経済的な制裁による「圧力」強化に向け、関係各国の一致結束が問われる状況と言えるでしょう。

 孔氏は会談の際、「中国国境から90Kmしか離れていない場所で核実験されるのは不愉快であり、中国も強い危機感を持っている」とおっしゃりました。その核実験が強行された今になってもまだ中国が「対話」を念頭においたアプローチを保ち続けるのか、また北朝鮮とおそらくコンタクトを持っているであろうアメリカもどのように受け止めるのか、十分な関心を持って注視しなければなりません。
 
<一帯一路>

Chongqing_night_2

 重慶は人口3,390万人の大都市であり、中国内陸部唯一の国直轄市とされています。指定以来毎年2桁の経済成長率を続けており、自動車やコンピュータ、プリンタ、コピー機などの大生産拠点(世界のノートPCの1/3は重慶で生産されている由)となっています。この製品のヨーロッパへの輸送路および物流拠点として喩新欧鉄道や両江新区等が整備されています。それらの拠点を視察しました。

 鉄道は重慶からドイツまで総延長11,000kmで所要は13日間だそうですが、それでも沿岸部まで運んで海路を経由するより20日は短くなったとのこと。

 正直、上海や香港など中国沿岸部は発展している認識が広いと思いますが、内陸都市である重慶がそのような存在であるという認識は行って見るまで持っていませんでした。まさに百聞は一見に如かずとはこのことです。まるで新宿かマンハッタンかのような近代的高層ビル群は、かなり事前の想像を上回っておりとても驚きました。

 なお、重慶には日本の総領事館は設置されているものの、日本人は約350人しか在住しておらず、重慶における日本の存在感は残念ながら薄いと言わざるを得ません。まだ沿岸部より地価等は安く、これからの企業の進出先等として十分検討に値するものと思います。

 西安においても、同様に欧州向け鉄道貨物ターミナル等を視察しました。貨物用コンテナは沢山見ましたが、列車そのものは「出発してしまいました」とのことで見ることが出来ず、鉄分のあるものとしてはいささか残念でした。

<貧困対策>

 重慶では市の担当者から中国における貧困対策についてもヒアリングを行いました。一日約一ドル(一昨年約二ドルになりました)以下で生活する人を絶対的な貧困生活者と国際的に定義されていますが、中国でも同水準の生活者を貧困者と定義し、2020年までに貧困者ゼロを目標として2014年からトップダウンで貧困対策を進めています。

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 重慶市では2014年には165.9万人いた貧困人口が、対策によって現在は30.3万人まで減らすことができたとのこと。市長をトップとする責任体制を組み、インフラ整備(道路やため池、農地改良)から就労支援、奨学金など教育支援や職業訓練、医療の提供、貧困対策ローン等の金融支援、ネット取引による産業づくりやグリーンツーリズム、条件不利地域からの移住、そして稼得能力のない者地域に対する最低生活保障まで、行政のみならず国有企業等も協力させる全社会的体制でとても幅広い対策メニューを揃え、約20万人がソーシャルワーカー的な仕事にあたり各世帯を訪問し、それぞれにに適した対策を組む(対象者は貧困から脱した者を含めて約170万人だそうですから、ものすごい密度です)という、極めてきめ細かい対応をとっているとのことでした。監査や評価の仕組みまで説明がありました。

 もちろん日中の経済状況の違いや「貧困」に対する政策目標の違い(日本で問題になるのは「相対的貧困」です)があるので、同列に並べて比較すべきではありませんが、それにしても貧困対策にかける習近平国家主席以下中国政府の意気込みをひしひしと感じる説明に、先日まで厚生労働副大臣として日本における生活困窮者自立支援や生活保護制度を担当していた者の一人として、軽い衝撃を受けたのもまた事実です。

 中国はまだこれから少子化・長寿化の影響が著しくなる段階ですので、単に2020年に貧困ゼロにしてもその先も息の長い取り組みが必要になるものと思われますし、トップダウンの政策ゆえにどこまで息切れせずに継続できるかは未知数の部分もあるかもしれません。ただ、このような社会政策も進めているということは、とても勉強になるものでした。

<まとめ>

 今回の訪中団は、自民党、民進党、公明党の各党から若手有志10人が集まった団でしたが、遠山清彦団長、小熊慎司副団長、伊佐進一事務局長以下メンバーに恵まれ、移動中や食事の際などに普段はなかなかできない党派を超えた意見交換(そしてしばしば小熊副団長による手品の披露)が活発に行われ、それも有意義なものでした。

 また古都・西安では、視察の合間に南城門など歴史的な史跡見学の機会も頂き、吉備真備や空海といった歴史上の人物が憧れ苦難の末訪問した同じ場所に、1,000年の時を超えて立つロマンを味わうこともできたのは個人的にもうれしいことでした。

 日本と中国は、政治体制も異なりますし、歴史的な経緯もあり、まず地理的にも接していますから、摩擦や見解の相違、控えめに表現してあまり愉快ではない事も少なからず存在するのも事実です。しかしだからといって引っ越しするわけにも行かず、付き合っていかなければならない間柄でもあることも直視すべき現実です。こうした訪問交流が、直接懸案の解決につながるとは限りませんが、それでも両国の未来にとって意味のあることだと僕は信じています。

 今回の訪中団の実現にご労苦を賜った中国・日本両国のご関係の皆さまと、衆議院議員として国会に送り出しこうした機会を恵んでいただいた地元倉敷・早島の皆さまに、深く感謝を申し上げます。


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2016年8月 2日 (火)

外交部会長を振り返って

 昨年10月末に、秋葉賢也衆議院議員の後を受けて自民党外交部会長に着任し、10か月ほどが経ちました。まだまだ道半ばの想いもありますが、内閣改造および党人事の声も聞こえています。ここで党外交部会長としてさまざまな問題に関する所感を記しておきます(なお、橋本がくWebサイトにも外交部会長としての活動をまとめています。こちらもあわせてご覧ください)。

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◆自民党外交部会長の立ち位置

 そもそも「部会長」という役職は世間的にはいささか馴染が薄いので、簡単におさらいしておきます。自民党において、政策は政務調査会にて検討されます。責任者は政務調査会長であり、現在稲田朋美衆議院議員が務めています。しかし、政策分野は多岐にわたるため、12の中央省庁に対応するように13の部会が設置され(農林水産省に対応する部会のみ農林部会と水産部会に分かれているので、部会の方が一つ多い)ています。外交部会は、外務省に関する自民党の政策取りまとめ役であり、その責任者が外交部会長となります。役所と密に連絡を取りながら、自民党内の要望を役所に伝え橋渡しをすることで、政府の政策判断に党側のコントロールを利かせ、もって民主的な統制をかけるということが職務となります。

 ただ他の行政分野と異なり、外交交渉は政府の専権事項ですので、往々にして交渉結果を後で聞かされた上で党内の抑え役に回るということも多かった気もします。また、北朝鮮の核実験やミサイル発射、各地でのテロ多発など緊急事態への対応も多い役であり、これは外交部会長に特殊なことではないかと思います。

 ただ安倍・岸田外交は、平和安全法制の成立などを行っているために妙なレッテルが張られがちですが、昨年末の日韓外相合意やオバマ大統領広島訪問など、各国首脳との信頼関係をもとにバランスがあるかつ歴史的な合意等を実現しますし、一方で中国の南シナ海での行動への非難など、全く譲らずに筋を通し続ける側面もありました。そういう意味では外交の妙を堪能できる政権であり、傍から見ていて頼もしいものでした。個人的には、横からどんどん口を挟み政府をコントロールするというよりも、党側の意見をしっかりと伝える機会を都度作りながら、政権の選択肢をできるだけ残すよう党側からサポートするような立ち位置を選んだことが多かったように思います。

◆TPPについて

 今年2月、環太平洋パートナーシップ(TPP)に各国が署名しました。昨年10月アトランタでの大筋合意以降に外交部会長に着任したので、交渉そのものには全くタッチしていませんが、それでも自民党内手続きにおける条約の承認は外交部会長の責任になります(関連法案は農水部会他さまざまな部会にわたります)。主に農産物や工業製品の関税水準とその影響や対策等に議論が集中していますが、TPP全体の中では関税に関することは一部にすぎません。あれこれ役所から説明を聞くのですがあまりにも頭に入らないので、電話帳二冊半程度の日本語テキストを全部眺めてみることにしました(しかしあまりにもナナメ読みなので「読んだ」とは言えません…)。

 眺めてみて感じましたが、これまでにカバーされていない分野も含むきわめて幅広い分野にわたる合意を多国間でまとめたという点で極めて野心的な協定だということです。この合意により加盟国間ではさまざまな予見可能性が高まり、経済的な交流がより一層盛んになることが期待できますし、また国際政治的にも意味のある結びつきにもなり得るものでしょう。一方でそれだけに、内容面では極めて慎重に合意形成され、各国の事情が相当汲まれているために、事前に言われていたよりはかなり常識的な内容になっているとも思いました。これを取りまとめられた甘利明・前担当相をはじめ関係者の甚大なるご努力には、心からの敬意を払います。

 吉川貴盛・党TPP対策委員長らの腕力もあり、おかげさまで党内手続きはスムーズに進みましたが、衆議院の特別委員会においていささか言い掛かり的な野党の抵抗に遭い、承認が先送りになってしまったのは心残りなことです。おまけに肝心のアメリカもいったいどうなることやら…。

 なお、部会長は、提出法案は読んでくるのが当たり前、とその昔先輩議員から教えていただいた覚えがありますので、それを実践しただけではあります。またそうでなければ、政調審議会、総務会といった党の意思決定機関の厳しい審査を乗り切ることは困難です。今後の部会長に就任される皆さまにもお伝えしておきたいと思います。ただしこんなにブ厚い条約・法案にめぐり合わせることもそう滅多にありませんが(涙)。

◆日韓外相会談合意について

 昨年は日韓国交正常化50年の節目の年でしたが、当初は慰安婦問題に関して非難をされ続け、また中国の対日戦勝式典に朴槿恵大統領が出席するなど、両国間の空気は厳しいものでした。もとを正せば李明博大統領の竹島上陸あたりから関係が悪化しており、慰安婦問題に関しても交渉は続けていましたが見通しはできない状況が続いており、11月に安倍総理と朴槿恵大統領の会談が行われできるだけ早期の妥結を目指して協議を加速すべく合意されましたが年内にまとまるとはなかなか予想できない状況でした。

 しかし年末に岸田外相が電撃的に訪韓するという報道があり「それぞれ三項目の合意を記者発表しました」という連絡を外務省からもらいました。内容は外務省のページに譲りますが、とにもかくにも非難の応酬がやむであろうことは歓迎すべきことです。もっとも10億円の拠出や在ソウル日本大使館前の慰安婦像など一筋縄ではいかない問題も残っています。また韓国国内でもさまざまな反応があったことも考慮しなければなりません。ただいずれにしても不毛なやりとりを繰り返して失うコストは相当なものであり、お互い100%の納得はできなくても、痛み分けでも、関係を好転させるための重要な合意だったと考えます。おそらくは安倍総理のリーダーシップによる決断が奏功したものと思われます。

 年明けすぐに外交部会を開催し、さまざまな方のご意見をいただき一文字一文字吟味するような慎重な調整の上、自民党としての決議[日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議]をまとめました。その頃を思い出すと正直言って針の穴を通すような決議だったと今でも冷や汗が出る思いがしますが、おかげさまでご了承をいただくことができました。現時点でもまだ合意の実行プロセスは途上ですが、自民党の決議を党・政府とも順守しつつ前進させていただくことを切に願いますし、両国政府もともに合意を順守して問題を解決していくように願っています。

 偶然か必然かわかりませんが、合意直後に北朝鮮の核実験があり、日本と韓国が迅速に連携して国連での活動等対処できたことからしても、将来に向けてこの合意の意味は決して小さくないものだと考えます。

◆北朝鮮による拉致・核実験・ミサイル問題について

 日韓外相会談合意の興奮冷めやらぬ今年1月6日、北朝鮮が核実験を行いました。またその後弾道ミサイルの発射をはじめ、さまざまなミサイル発射等を繰り返しています。また拉致問題については一昨年のストックホルム合意がありますが、残念ながら全く実行されずに今に至っています。こうした累次にわたる国際社会への挑戦行為や背信的な行為に対し、自民党としても決議[ 北朝鮮による弾道ミサイル発射に対する緊急党声明 ]を行い意思表明をおこなっていますが、現時点では外交的な対策しか日本には打つ手がなく、自民党拉致対策本部の提言を踏まえ、国連決議を受けた制裁強化は行いました。なお歯がゆく忸怩たる思いの中ですが、これを積み重ねていくばかりです。焦ったら相手の思うツボです。

 国連決議に基づくものや独自のものを含めて制裁を課し、かつ実効性あるものとするよう周辺国にも働きかけ、圧力をかけることにより彼らの行動変容を迫ることが当面の方策であり、地道に続けていかなければなりません。

◆沖縄での女性殺人死体遺棄事件と日米地位協定

 5月に発生した沖縄における女性殺人死体遺棄事件では、在日米軍の軍属が容疑者として沖縄県警に逮捕されました。またその後も米軍人による飲酒運転事故による逮捕等が相次ぎました。沖縄県民の方々から怒りや憤りなどの声が噴出することは当然です。日本の外交の観点からするともちろん日米安保体制は重要なのですが、だからこそ米軍関係者の犯罪等に関する沖縄を始めとする立地地域の皆さまのお気持ちはとても重視しなければなりません。

 事件を受け、5月31日に自民党沖縄県連から、自民党三役に対して再発防止や地位協定の抜本改定等の内容を含む申し入れを受け、私も同席しました。谷垣幹事長より、政務調査会でこの件は取り組むようにというご指示をいただき、稲田政調会長のもと担当することとなりました。まず国会終了翌日の6月2~3日に沖縄に出張し、ご遺体の発見現場において献花・黙祷を行った上、名護市および那覇市で地元の方や国の出先機関の方にヒアリングを行い、現状の把握に努めました。その上で関係者の調整を行い、6月16日の外交・国防合同部会の開催後に、稲田政調会長から1)在日アメリカ大使館を訪問して自民党本部としても直接アメリカとの対話の機会をもち、今後も定期化を目指すこと、2)日米地位協定のあるべき姿を検討するために、外交部会国防部会合同で勉強会を行うこと、3)日米で協議が進められていた軍属の在り方の件については引き続き両部会でフォローアップを行うこと、の三点を発表し、翌6月17日には稲田朋美政調会長、大塚拓国防部会長、田中和徳自民党国際局長とともにアメリカ大使館を訪問、ケネディ大使と面談して直接沖縄の方々の怒りの声を伝えました。参院選期間中6月28日~29日にも沖縄を訪問し、選挙の応援や激励をしつつ、糸満市から名護市までの自民党各地域支部を訪問させていただき様々なお話を伺いました。

 そして参院選終了後、改めて7月24日~25日に稲田朋美政務調査会長、大塚拓国防部会長と同行して沖縄を訪問し、自民党沖縄県連の先生方と懇談会を行い、翌日には普天間飛行場の視察、佐喜眞淳宜野湾市長やエレンライク在沖縄アメリカ総領事との会談等を行いました。また再びご遺体発見現場を訪れ、稲田政調会長らとともに献花・黙祷をささげました。なお懇談会の際沖縄県連の皆さまから、党本部において沖縄問題に関する常設機関を設置してほしいというご要望を頂き、稲田政調会長が持ち帰っています。新しい体制の下で具合化の方向で検討されるべきでしょう。

 そもそも地位協定は、別段日本とアメリカのみに存在する協定ではなく、ある国の軍が他国に駐留する場合に一般的に結ばれるものです。したがってさまざまな地域や歴史的経緯等を勘案しなければ単純な比較はできません。もちろん現在自衛隊が海賊対処のためにジブチに駐留するためにも、地位協定は結ばれています。また日米地位協定は、締結以降改定が行われたことはありませんが、一方で運用改善等が積み重ねられていることも事実です。そうした中で「米軍関係者による犯罪をいかにして無くすか」という視点、あるいは在日米軍と基地立地地域の方々との共存関係をより改善するといった視点に立って、まさに何ができるのか不断に検討し実行し続ける必要があります。

 ある先輩代議士いわく「日米地位協定改定は憲法改正くらい難しい」とのこと。ただ自民党はその憲法改正を綱領に掲げ続けて今に至っているわけですし、アメリカも大統領選の結果次第では日米関係全体の見直しを迫られる可能性もないわけではないでしょう。そうしたことを念頭に置きながら、地道に沖縄やアメリカとの関係の維持構築や研究等の取り組みを継続しつつ、機を図ることが大事であろうと考えます。

 振り返ってみると、父・龍太郎が総理時代、当時のモンデール駐日米大使と普天間飛行場の返還で合意してから、20年が経過してしまいました。その他の沖縄負担軽減策等は順次実行されていますし、現在も北部訓練場の約4,000haにわたる地域の返還に向けたヘリパットの移設工事や、普天間飛行場移転先としての辺野古への移設をめぐる政府と沖縄県の和解合意に基づく直接協議と司法との両面での取り組みなどが現在進められています。

返還合意の翌朝の父の「ドヤ顔」は今でも脳裏に焼き付いています。その心は沖縄の方々にかかっている負担をできるだけ取り除きたいという一事に尽きていたと思います。残念ながら道半ばですが、今回党本部でスタートさせた取り組みは後進に引き継ぎを行いたいと考えますし、自分も今後どのような立場にあっても、沖縄のことには関心を持ち続けたいと思っています。

◆日中関係について

 尖閣諸島国有化等をきっかけに、日中関係はやや冷却した状態が続いていましたが、昨年11月のAPECや日中韓サミット等を契機とした首脳間の会談は持たれています。一方で北朝鮮核実験後、岸田外相の電話会談に王毅外交部長がなかなか応じなかったなど、ぎくしゃくした面もあることも事実です。

 中国はAIIBの設立や「一帯一路」構想の推進など、対外的に積極的に進出し支援を行う姿勢を強めています。地域の発展に寄与するものであれば文句をいう筋合いはありませんが、かねて南シナ海において独自の考えに基づく領海の主張を行っていたところ、その中にある岩礁を埋め立てて軍事基地とする工事を次々と完成させているなど、軍事面でも拡張的であることは看過しがたいものがあります。もちろん我が国との間でも尖閣諸島に対して独自の主張を行い、また航空自衛隊による対中機スクランブルが年々増加し、軍艦による尖閣諸島の接続海域への進入等行動を徐々にエスカレートさせていることも決して無視できるものではありません。

 そうした中で、フィリピンが提起した訴えに対し、国際海洋法条約に基づく仲裁裁判所が、中国の主張が相当覆される内容の判断を7月に行いました。中国は判断が出る前からこれを無視する構えでいましたが、実際にはそのことで、むしろ中国が国際法を軽んずる姿勢であるようにかえって印象づけられてしまった感があります。中国外交にも焦りが見受けられるように思いました。

 もちろん中国とは隣国として友好を深めることが望ましいことは言うまでもないことであり、引き続き微力を尽くしたいと考えています。同時に、国際社会の中でその存在感にふさわしい、周囲の尊敬を自然と勝ち取ることのできる振る舞いを、中国には期待したいものと考えます。

◆ISIL等によるテロの多発

 昨年11月13日にパリにおいて同時多発テロ事件があり、死者130名、負傷者300名以上の被害が出ました。その前日には、ベイルート(レバノン)にて43人が死亡、負傷者200人以上のテロが起こっています。今年3月にはフリュッセル(ベルギー)にて空港と駅でやはり爆発テロがあり、死者35名、負傷者約200名がでました。そして7月1日にはダッカ(バングラディシュ)にて武装グループが飲食店を襲撃し、28人が死亡、58名が負傷したとされています。7月14日はニース(フランス)において84人が死亡し202人が負傷する事件がありました。他にも複数の事件があります。これまでにも日本人の犠牲者は累次にわたり出ていますが、ダッカの事件では国際協力機構関係者7名が犠牲となってしまいました。こうして数え挙げているだけでも、辛い思いのする項目です。

 実は今年、ラマダン月のテロを勧奨する声明をISILが発していたことを踏まえ、外務省は全世界向けにテロに関する情報提供を行い警告していました。しかし残念ながら日本人犠牲者の発生を阻止するに至りませんでした。ここは改善の余地があると考えるべきでしょう。外務大臣の下で経済協力関係者の安全確保のための検討会が行われていますが、その結果を待つところです。

 ISILそのものはイラクやシラクといった地域では徐々に劣勢となっていますし、だからこそ中東・欧州・アジア・アメリカ等でのテロに走っている面もあります。難民の発生などさまざまな問題を引き起こしており、日本は世界各国と協力してテロ組織の根絶に然るべき役割を果たすべきです。であるからこそ在外邦人の安全確保にも、さらに力を入れる必要がある局面であろうと考えます。

 なおダッカ事件の際、外務省は政府専用機をいち早く飛ばし、ご遺体を羽田空港で迎えるにあたり萩生田官房副長官、岸田外相が献花を行うなど極めて丁重な出迎えを行いました。このことは、日の丸を背負って海外の発展協力のために活動していた方々の非業の死にあたり、故人の霊を弔い、ご家族を慰め、そして後進を勇気づける適切な対応でした。生放送を見ましたが、正直涙が零れました。このような事件があっても、世界の平和発展のための日本人の海外外協力への情熱は、より一層深まることを願ってやみません。

◆国際連帯税について

 毎年晩秋になると、税制改正の議論が自民党本部で行われます。外交部会では唯一の税制改正要望が「国際連帯税の創設」でした。ただ残念ながら、これまで外務省として本気で検討や調整を行ってきていないままに要望だけ行っていた経緯があり、主張はしましたが力及ばず(というか当然の帰結として)、昨年も実現は見送られました。

 その反省に立ち、今年度の税制改正要望での実現を目指し、外務省が主体的に検討や調整に動くよう指示をしています。議論が前に進んでいることを願っています。

◆外交力強化・外交勉強会

 自民党には高村副総裁を議長とする外交再生戦略会議という組織があり、外交部会長はその会議の事務局長を兼務することとなります。秋の予算編成前の時期、および春の概算要求前の時期にそれぞれ決議をまとめ、政府への申し入れを行いました。これまで縷々述べてきたように外交案件はそれこそ世界中にたくさんありますが、外務省の人員は限られています。また在外公館も建物が古くなったりしているものもあります。人員体制はイギリス並みを目指そう!という目標を掲げて徐々に強化されていますが、まだ達成には至っていません。引き続き粘り強く取り組む必要があります。

 また、外交部会には3人の部会長代理と13人の副部会長がおり、非力な部会長を支えていただいていますが、小田原潔筆頭部会長代理にお願いして地域ごとに戦後史を振り返る勉強会を開催してもらいました。日々に発生する出来事に振り回されるのみならず、きちんと歴史を学び長期的な視点を持つことは大事なことです。改めて勉強になりました。

◆できなかったこと

 部会長としてさまざまな案件を取り扱ってきましたが、残念ながら手が回らなかったこともあります。一つは、衆議院外務委員会理事を務めましたが、質疑に立つ機会がなかったことです。ただ、関係各位のご努力とご協力により、衆議院外務委員会では提出法案・条約をすべて通過させ、充実した議論を持つことができたことは与党理事の一人としてはよかったと思っています。なお衆院TPP特別委員会でも、マニアックな質問を行うべく準備をしていましたが、これも審議が中断したことにより日の目を見ませんでした。いささか残念です。

 またもう一つは、前職の厚生労働大臣政務官の時に、日本年金機構の情報流出事案に遭遇した苦い経験を活かし、サイバーセキュリティに関し外交面で何かできないかという志を持っていましたが、具体的に動かすことができませんでした。いまやサイバーセキュリティが、アメリカ大統領と中国主席の会談の議題になる時代です。外交面でもう少し主体的に動けないかと思っていたのですが…。まあ、隴を得て蜀を望んではいけないのかもしれませんね。

◆改めて外交部会長としての活動を振り返って

 今年はG7伊勢志摩サミットが開催され、また8月末には第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)がケニアで開催される予定です。また国連安保理の非常任理事国にもなりました。安倍総理はオバマ大統領の広島訪問を実現させ、ロシアとの長年の懸案をも解決すべく、努力を重ねておられます。こうした時期に外交部会長を務めさせていただいたことは、大変勉強になるものでした。

 一方世界に目を転じると、なんとなくこれまで「常識」と思いこんでいたことが覆される事態がたびたび発生しています。そもそも2014年のロシアにおけるクリミア併合と、国際社会が未だにそれを阻止できていないでいることは、第二次世界大戦後の世界の秩序維持の枠組みのほころびを露わにしました。見方によっては同様のことが静かに南シナ海で起こっているとも言えます。そして東シナ海で今後起こらないとは、残念ながら誰にも保証できないでしょう。同様にやはり第二次世界大戦後、秩序維持のための先駆的な知恵だと思われていたEUから、メインプレーヤーであったイギリスが脱退を決めるいわゆるBrexitも、「世界はいずれ統合に向かう」という理想主義的な見方が、いささか楽観的に過ぎたものであったことを再認識させられました。犯罪テロ集団であるISILは決して許されるべき存在ではありませんが、現に実力を有して一定地域を支配していることも、遠い世界のこととして片づけるわけにはいきません。アメリカ大統領選挙においても、かなり凄まじい主張の多いトランプ氏が共和党候補になると予想した人は、昨年時点でどれくらいいたでしょうか?しかしそれが現実です。日米安保体制も場合によっては議論のテーブルに乗り得るわけです。

 戦後70年が経過し、平和秩序維持のためのさまざまな理念やメカニズムを支えていた人々が世代交代し、当初の在り方から変わってきていること、そして変わらざるを得ないことを、私たちは必然のこととして正面から受け止めなければならないのでしょう。歴史から先人の意志を学び、未来に向けて新たな平和秩序維持の仕組みを構想し、現在を改革する取り組みが絶えず求められているのです。残念ながら国連改革一つとってみても遅々として進みませんが、投げ出すわけにもいきません。

 そうしたことを感じながら、自民党外交部会長という役目をいただいて、日々目の前の課題に対してもがき続けてきました。わずかなことしかできませんでしたが、学ばせていただいたことは、今後の政治生活の糧にしたいと考えています。

 自民党政調事務局の田村さん、橘さん、田中さんには、緊急の案件やらなかなか片付かない懸案やらが日々発生する中で、円滑に物事が進むように絶大なるサポートを頂きました。心から感謝申し上げます。また今回、外務省には多くの優秀な官僚の方が日々世界各地で日本を代表して頑張っておられることを認識することができました。深く敬意と感謝を申し上げます。中でも小野啓一・前官房総務課長にはカウンターパートナーとして日々あれこれ相談させていただき大変助かりました。ありがとうございました。先日北米局参事官に転出されましたが、日米地位協定の件を担当されることになりましたが、しっかり取り組んでいただけるものと期待しています(追記:そんなことを書いていたら、稲田朋美政調会長が防衛大臣に起用されるという報道に接しました。沖縄を巡る事柄はずっとご相談しながら取り組んでいましたので、まさに担当閣僚として経験を生かしていただきたいと切に願います)。またその他にも多くの方々、あるいは各国の大使館の方々ともお話しすることができました。こうした経験は僕にとって貴重な財産です。深く感謝を申し上げます。

地元の倉敷・早島の皆さまには、あんまり地元と関係のない役職だったのですが、快く部会長としての活動をお許しいただきました。おかげさまで心置きなくお役目に全力を尽くすことができました。心から御礼申し上げます。引き続きましてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。


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2016年1月26日 (火)

日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議

 本日、自民党の外交部会、外交・経済連携本部、日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会の合同会議 において、「日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議」を報告させていただきました。この決議は、文中にも触れてある通り、1月6日の合同会議において多くの出席議員からのご意見等があったことを踏まえ、稲田朋美・政務調査会長、衛藤征士郎・外交・経済連携本部長、および外交部会長である橋本に内容・時期に関しご一任を頂いていたものです。中曽根弘文・日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会委員長も含め四者で協議の上合意した内容について決議とし、本日合同会議での報告を行いました。今後党内での報告手続きを経た上で、首相官邸および外務省に申し入れを行う予定です。

 既に報道が出ていますが、どうしても一部のみに留まりますので、ここにテキスト全文を掲載します。

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日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議

平成28年1月26日
自由民主党
外交部会
外交・経済連携本部
日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会

 平成27年12月28日の日韓外相会談後に両国外相が発表した日本と韓国の合意事項について、平成28年1月6日、自由民主党外交部会・外交・経済連携本部・日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会合同会議において、政府の報告を求め議論を行った。

 合同会議では、両国間で懸案となっていた慰安婦問題について、最終的かつ不可逆的に解決するという安倍首相および朴大統領の政治的決断は極めて重要であり、日本と韓国を含む北東アジアの現下の情勢を勘案し評価すべきであるという意見が出された。

 一方で、慰安婦問題に関する誤った認識が定着しかねないこと、旧民間人徴用工をめぐる問題等日韓請求権協定において解決済みとされている課題への影響、被災地等の一部地域からの水産物の輸入を韓国が停止していることについて懸念する意見等もあった。

 こうした議論を踏まえ、わが党としては、今般の日韓両国の合意を強く支持し、今後の日本政府の対応を最大限支えつつ、わが国の名誉と信頼を回復するための検討を引き続き進めることを表明するとともに、政府に対し下記の点について的確に対策を講じられることを要望する。

1.今回の合意を着実に実施することで、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決し、未来志向の日韓新時代を切り拓くとともに、日韓両国が北東アジア地域の平和と繁栄のため、積極的に協力して共に役割を果たすこと。

2.国際社会の中で発表された今回の合意について、双方による合意の着実な履行が肝要であり、日本政府が合意した内容について、責任をもって誠実かつ着実に実施すること。また韓国政府が合意した内容について、同様に実施されるよう継続的なフォローアップを続けること。


3.在韓国日本大使館前の慰安婦像は、わが国在外公館の安寧と威厳を傷つけるものであり、外交関係に関するウィーン条約上問題があるものである。早期に撤去されるよう、韓国側への働きかけをさらに強化すること。

4.日本が予算を拠出し、日韓両国政府が協力して実施する「元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業」が、真にその目的に沿ったものとなるよう、韓国政府と真摯に協議を行うこと。また事業の実施にあたっては、日本国民に対する説明責任を果たすこと。

5.慰安婦問題に関し、平成26年8月5日、朝日新聞は「日本が韓国において慰安婦を強制連行した」等とする記事の取り消しと謝罪を行った。しかし、これらの記事に依拠したと思われる認識が、米国の一部教科書の記述等、世界中に流布されている。
 引き続き、客観的事実に基づく認識が各国で形成されるよう、官民連携した対外発信を一層強化し、事実と異なる場合に訂正を求める等必要な対応を行うこと。また、韓国国民の対日認識改善に資するよう、青少年交流を一層促進すること。

6.慰安婦問題を含め、日韓間の財産権・請求権の問題は昭和40年の日韓請求権・経済協力協定で最終的に解決済みというわが国の立場に変化がないことを確認し、旧民間徴用工問題等の他の問題についても、引き続き主張を続けること。

7.被災地等の一部地域から水産物の輸入を規制している問題等、その他の両国間の課題についても、引き続き韓国と粘り強く協議を行うこと。

8.「女性が輝く社会」の実現に向け、紛争下における女性の権利侵害の防止・権利保護の分野を含め、女性の能力強化、権利の保護・促進の分野で国際的に指導的役割を果たすこと。

9.韓国以外の国・地域については、個別の状況を踏まえつつ、引き続き誠実に対応を行うこと。

以上

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2015年12月28日 (月)

日韓両外相共同記者発表

 2015年12月28日に、岸田外務大臣・尹(ユン)外交部長官の会談後に行われた共同記者発表の内容を掲載します。解釈や意味する内容等については、通常国会開会後すみやかに自民党外交部会を開き、政府から聴取したいと考えています。

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日韓両外相共同記者発表

1.岸田外務大臣

日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。

①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。

②日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

③日本政府は上記を表明するとともに、上記②の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題において互いに非難・批判することは控える。

2.尹(ユン)外交部長官

 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。

①韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記1.②で表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。

②韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。

③韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

(了)

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2015年12月17日 (木)

外務省の平成27年度補正予算について

 12月16日(水)、自民党外交部会・外交・経済連携本部合同会議が自民党本部で開催されました。その席上、平成27年度補正予算が議論されました。外務省の補正予算は人道・テロ対策・社会安定化支援(難民問題を含む)、自然災害や広域感染症等の地球規模課題への対応支援、テロ・情報セキュリティ対策等の追加財政需要、及びTPPに関する国内対策のため、概ね2,000億円規模となっています。今週中には閣議決定され、来年の通常国会冒頭において審議される見通しです。

 この中で、日中植林・植樹国際連帯事業について、これまでの外交部会等で様々な議論がありました。1999年に小渕総理の提案により始まった事業ですが、その頃と異なり中国は既に日本以上の経済大国であり、海洋問題や歴史認識等で対中感情が良くない中で、今更そのような支援を追加する必要はないというご意見もありました。一方でそのような現状があるとはいえ、日中間の関係が冷え込んでいた時でもほぼ唯一継続されてきた基金事業であり、民間交流の基礎となる事業を打ち切ってしまうべきではないというご意見もありました。

 結論として、今回の補正予算で約90億円の計上をさせていただくこととしました。ただし、これまでは単に中国での植樹に対し日本側が出資した資金を基に苗木購入等の支援を行うだけでしたが、より共同事業の性格を持たせることや、具体的な青少年交流等に繋がるものとすること等、中国と協議して事業の見直しを発展的に行うべきこととしました。なお単純に援助を行うものではないため、ODAにはあたりません。また予算計上は認めるものの、執行にあたっては改めて部会に諮るよう、外務省に要望しました。

 国民の皆さまから頂いた税を使って行う事業ですから、ご理解を頂ける事業であるべきです。一方で、中国に日本と立場を異にする行動があるからといって、これまでの外交は失敗だった、新たな拠出は必要ないと言い切ってしまうのも、外交の選択肢を自ら狭めることに繋がり、適切ではない場合もあると個人的には考えます。効果とバランスを考え、多くの方々のご意見を伺いながら取り組んで参ります。

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2015年12月 1日 (火)

党税調における外交部会長発言

 11月30日における自民党税制調査会において、橋本が外交部会長として発言した内容をご紹介します。なお、その後他の方々から賛成・反対のご意見があった結果、「長期検討」という扱いにしていただきました。ご関係の方々や、納税者の皆さまにご納得いただけるように進めなければなりません。外務省にはそのように指示しました。

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 いわゆる国際連帯税について、先日の部会長ヒアリングにおいて、国土交通部会長から三点の理由を挙げて反対といわれました。まずその三点について申し上げます。

 一点目は、「受益者と負担者の関係が不明確」ということでした。これは全くおかしな議論です。今回は、政府開発援助、すなわちODAの財源として要望していますが、そもそもODAの直接の受益者は途上国の国民であり、それを先進国が負担して行うから意味があるものです。直接的な負担者と受益者が違うのは当然のことです。

 ODAは、直接的な負担と受益の関係で考えるものではありません。我が国が途上国の開発を支援し、その国の社会が安定したり、豊かになったりすることが、まわりまわって我が国の利益にも繋がるという発想によるものです。結果として国際的な人・もの・金の移動も促進されるという効果も持つでしょう。その点に着目して、国際的なやりとりに広く薄くODAの財源を求めようとするのがこの税の発想であるということを、どうかご理解頂きたいと思います。

 二点目は、「航空券への課税はインバウンドに悪影響をもたらし観光立国に反する」という点でした。まず事実から申し上げれば、2006年7月からフランスで、2007年9月に韓国で航空券連帯税が導入されましたが、両国ともその前後で観光客数や観光収入は、むしろ増加しています。仮に国際線の航空券に課税をするとしても、旅客の行動にほぼ影響を与えない広く薄い形での金額設定で課税を行い、効果をあげることは十分可能であると考えます。

 三点目は、「導入している国は少数で、世界的な潮流になっていない」という点でした。確かに、アメリカやイギリス、ドイツ等は国際連帯税を導入していません。しかしこれらの国々は日本を上回るODA供与実績をあげています。日本もそこまでODA財源が豊富であれば、そもそも新税など検討する必要はありません。

 残念ながら近年ODA予算は減額されています。来年度概算要求において増額要求をしておりますが、円安による目減り分も含めて極めて厳しい感触が財務当局から伝わっています。さる25日には高村副総裁を議長とする自民党外交再生戦略会議は「外交力の一層の強化を求める決議」を行い、総理に申し入れを行いました。また同日、武見敬三先生が委員長を務められる自民党国際保健医療戦略特命委員会も「国際保健に係る対策の推進に関する決議」を行って頂きました。そうした中で、財務当局を頼るばかりではなく、自分たちでも独自の財源確保の努力をしなければならないという想いから、今回の要望が上がっているのです。

 AIIBを擁する中国が我々のライバルなのです。そして我が国は、来年、先進主要7か国のサミットの議長を務めるのです。世界のリーダーとしての誇りを持って、いかに外交上の重要な武器であるODAを充実させるかという観点で真摯に検討すべきものです。

 以前は、世界においてODA拠出額第一位を我が国が占めておりました。今は第五位であります。本当にこのままでよいのでしょうか?むしろ我が国が先進国としてODAを通じて世界に貢献しているという事実を、もっと広く国民の皆さまに共有するべきです。それこそが安倍総理が行っている「地球儀を俯瞰する外交」への国民的理解に繋がり、民間も含めた日本の外交力の強化に繋がるのです。

 途上国も含めた、他の国がやっているとかやってないとか横並びのような議論をされるような意識の低さは誠に残念であります。むしろ我が国はこんな取り組みまでしているのだ、と他国に積極的に発信できるような制度を整えることが大事であると考えます。

 ただ、正直、これまで外務省の動きは極めて鈍かったと言わざるを得ません。その責任は政治にもあるでしょう。外務省には、法律に基づき主体的かつ前向きに検討や調整をしっかりと行わせる必要があります。そういう意味で、今回の税制改正では「お断りする」となっていますが「検討する」として頂きたく、ご要望申し上げます。

 どうぞお聞き届け頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

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2015年10月23日 (金)

外交部会長への就任にあたり

 このたび橋本がくは自由民主党政務調査会の外交部会長を拝命しました。

 部会長とは自民党の政務調査会に概ね省庁ごとに13設けられている会の責任者であり、外交部会長はその名の通り外交政策全般を所掌します。

 これまで総務部会長代理、厚生労働大臣政務官という役職をお預かりしており、外交というイメージは薄いかもしれません。しかし平成17年から衆議院テロ対策・イラク人道支援特別委員会に所属し、第二次安倍政権時にはその後を継いだ衆議院海賊・テロ特別委員会の理事を務めました。世界の平和維持や人道支援のために日本が海外において貢献してきた活動に関し、国会において見守ってきたというささやかな自負はあります。

 現在、安倍政権は積極的平和主義を唱え、安倍総理自ら各国を訪問しアベノミクスや安全保障面での理解や協力を得るいわゆる「地球儀を俯瞰する外交」を強力に展開しています。

 日米安保を基軸とした東アジア地域の安定の維持、TPPや各国とのEPA/FTAなどの経済連携、そして「人間の安全保障」と呼ばれる世界の貧困対策、感染症対策、災害救援など多方面にわたる国際協力など、世界の中で日本の果たすべき役割は極めて大きいものがあります。

 また近隣の国々との領土や歴史認識をめぐる諸課題にも、十分留意をしなければなりません。

 日本国憲法前文に以下の一節があります。憲法そのものにはいろいろ議論はありますが、この一節については日本の外交かくあらねばならぬという理想を示しており尊重すべきものと個人的には考えています。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

 もちろん現実はなかなか理想通りにはいきません。

 日本年金機構に対するサイバー攻撃事案では、目に見えない分野では平和どころか実際に熾烈な攻撃を受けている現実に改めて直面しました。ユネスコ記憶遺産の問題など私たちの想いが世界に通じていない面もあると認識せざるを得ない状況もあります。それぞれ適切な対応が必要です。

 しかしなお「世界の平和に貢献する日本外交こそ日本の国益に資する」という理想の旗は掲げ続けながら、職務に臨みたいと考えています。引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

Johnkey

<写真:5月に訪問したニュージーランドにて、ジョン・キー首相と>

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