23.雑感

2024年7月 1日 (月)

第213回国会を振り返って

●はじめに

 6月21日金曜日、第213回通常国会は事実上閉会しました。実際には23日が閉会日ですがこの日が日曜日のため、最終の平日である21日に閉会中審査の手続き等を行うための衆議院本会議が行われたものです。この国会は、昨年晩秋から明るみに出た自民党派閥の政治資金パーティに関する収支報告書未記載の問題の東京地検のよる捜査や、1月1日に発生した能登半島地震の対応等が行われる中召集され、150日間の会期を通じてそれらへの対応に終始注目が集まりましたが、実はそれだけではなくさまざまな議論が行われています。

 橋本がくは、衆議院では予算委員会理事、衆議院厚生労働委員会理事(与党筆頭)、衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会委員、自民党では社会保障制度調査会および地方制度調査会の事務局長、創薬力の強化育成に関するプロジェクトチームおよびこどもまんなか医療保健の実現に関するプロジェクトチーム座長、「国立こどもウエルビーイングセンターin沖縄(仮)」の設立にむけた議員連盟の会長ほか、さまざまな活動を今国会中に行いました。毎年恒例の振り返りを記します。この記事で10年目となりました。

<振り返りシリーズバックナンバー>
厚生労働大臣政務官退任にあたり (2015.10.8)
外交部会長を振り返って (2016.8.2)
厚生労働副大臣退任にあたり (2017.8.7)
厚生労働部会長を振り返って (2018.10.3)
この一年を振り返って (2019.9.7)
厚生労働副大臣退任にあたり(二年ぶり二回目) (2020.9.15)
第204回通常国会期間を振り返って (2021.6.16)
第208回国会閉会にあたり (2022.6.16)
第211回国会を振り返って (2023.6.27)

 なお、昨年秋から年末にかけては、「令和五年末のご挨拶」に記しておりますので、そちらもご覧ください。また文中にしばしば登場する「骨太の方針」とは、令和6年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の方針2024 」を指します。

●政治資金収支報告書未記載の問題について

 冒頭記したように、この国会は政治資金収支報告書未記載の問題で終始した感があります。この件については、このブログでも何度も取り上げてその折々に思うところを記しています。

令和五年末のご挨拶 (2023.12.31)
令和六年正月にあたり、政治資金の問題について (2024.1.18)
政治資金問題のけじめと派閥の今後について (2024.2.2)

 既に記したことを繰り返すことは控えます。ただ、これらのブログに記した思いは私自身今なお変化していません。2月以降、自民党内の調査と処分、衆参両院の政治倫理審査会における審査、そして政治資金規正法の改正がありましたが、残念ながら、この問題にけじめがついたとは正直思えませんし、多くの方が同様に感じておられるために、岸田内閣および自民党に対する支持率が低いまま推移しているものと考えています。倉敷・早島でいろいろな方にお話を伺っていても、未だに厳しいご指摘をいただくことが少なくありません。

 おそらく今現在問題になっていることの本質は、派閥パーティに関する政治資金収支報告書未記載の問題というよりも、その件の事後対応に自民党が失敗し、今なおけじめをつけたと国民の皆さまに認めていただくことができず、引きずり続けていることです。党内不祥事に関する自民党本部の自己ガバナンス能力そのものに疑問符がつけられているから、支持率は低いままなのではないでしょうか。残念ながら、「政治改革に終わりはない」という言葉は、単に党内事情を優先して改革を先送りしているだけと受け取られているのが現実でしょう。

 自民党総裁の任期が9月に切れるため、それまでには自民党総裁選挙が行われるものと思われます。もちろん政策やら国家観やらも大事ですが、上記の課題に対して立候補者がどのような見解を示されるのか、個人的にはとても注目しています。

●国会において

 先の臨時国会から、衆議院の予算委員会および厚生労働委員会の理事を兼務することとなりました。そのため国会対応に多くの時間を割くことになりました。

 予算委員会理事は二回目です(前回は「第204回通常国会を振り返って」参照)。今回は、小野寺五典委員長、加藤勝信与党筆頭理事の下、三席の理事を務めました。担当は自民党の質疑者の選定で、折々のテーマや流れに合わせ、さまざまなバランスも考慮して質疑者を調整しました。また加藤筆頭や上野賢一郎次席理事が離席した場合にはその代理も務めることになりますので、テレビ中継等で質疑者席の横の与党筆頭理事席に私が着席しているところを見かけられた方もおられるのではないかと思います。自分が質疑調整役だったため集中審議等の質疑に立つことは控えましたが、2月8日の一般質疑では質問に立ちました(議事録)。また小野寺委員長に解任決議案が提出された折には、衆議院本会議にて決議への反対討論に立ちました(「予算委員長小野寺五典君解任決議案 反対討論」。また、分科会審議においては2月27日、28日の二日間にわたり第五分科会(厚生労働省所管)の主査を務め、3月1日の委員会において審査報告を行いました。反対討論でも触れましたが、山井和則野党筆頭のご配慮により毎回日本茶がいただけたこともあり、対立的な局面はありつつも落ち着いた理事会でした。

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(画像:第213回国会予算委員会理事会メンバー)

 厚生労働委員会の理事は何回もしていますが、与党筆頭理事は二回目となります。先にリンクを貼っている「第204回通常国会を振り返って」をご覧になればおわかり通り、前回も予算委員会理事との兼務でした。ただし前回は、前任の方の降板によるショートリリーフでしたが、今回は昨年秋の臨時国会から引き続き継続して務めたものです。通常国会では野党筆頭理事が立憲民主党の中島克仁議員となりましたが、お互いにそれぞれの要望を十分に調整しながら円滑かつ充実した委員会審議を行うことができたのではないかと考えています。今国会では閣法4本(「生活困窮者自立支援法等改正案」「雇用保険法改正案」「育児介護休業法等改正案」「再生医療法等改正案」)を審議しましたが、うち三本の法案では参考人質疑を行い、法案に関する企業の視察や能登半島地震被災地の視察も行いました。また立憲民主党からは、介護・福祉従事者の処遇改善や訪問介護事業所支援のための議員立法が提出されましたが、その意を汲んで当方から委員会決議を提案し調整の上、「介護・障害福祉分野の人材の確保及び定着を促進するとともにサービス提供体制を整備するための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する件 」を全会一致で議決することができました。

 今国会では筆頭理事業に徹していたため厚生労働委員会では質疑には立ちませんでしたが、先の議決の提出者を代表して趣旨説明に立たせていただいたのは議員として誠に光栄なことでした。幸いにして先の臨時国会に続き今国会でもすべての日程を与野党合意で恙なく行うことができたことは、あまり対決的な法案が無かったことも一因ではありますが、中島克仁野党筆頭の実直誠実なお人柄によるところが大きかったと思います。新谷正義委員長(自民)のご配慮により理事会のお弁当が充実していたことに加え、井坂信彦理事(立憲)、足立康史理事(維教、途中から遠藤良太理事)、伊佐進一理事(公明)、宮本徹委員(共産)、田中健委員(国民)、そして大串正樹、大岡敏孝、三谷英弘各理事(いずれも自民)というメンバーにも恵まれ、理事会前後の雑談(というかかなり放談)もなかなか皆さん率直で楽しいという、荒れることの少なくない衆議院厚生労働委員会では珍しいくらい理事会でした。また大塚陽子さん・杉山卓生さんを始めとする委員部など衆議院スタッフの皆さまにも助けていただきました。委員会運営に対する皆さまのご協力に、篤く感謝申し上げます。

 なお特別委員会は、昨年委員長を務めていた地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会に、委員として所属しました。昨年に閣議決定された「こども未来戦略」に基づき提出された「こども子育て支援法改正案」や「児童対象性暴力防止法案(いわゆる「日本版DBS法案」)」などに加え、地方分権やデジタル関係の法案もあったため、常任委員会よりも審議がハードな特別委員会となりました。こども子育て支援法改正案の審議にあたっては私も質疑に立ち、こども政策に関しておそらく将来に向けて画期的な意味を持つことになるであろう同法案の意義について、過去の経緯を振り返りながら解説しました。資料等は「令和6年4月11日地域こどもデジタル特別委こども子育て支援法改正案の質疑資料 」に掲載しています。この資料では、こども政策の財源のみならず、将来にわたる社会保障制度一般の財源論までをカバーして現時点で私の思うところを披歴しておりますので、ご興味の方にはぜひご一読賜れば幸いです。

●党および議員連盟での活動

 座長を務めている創薬力の強化育成に関するプロジェクトチームでは、今年は科学技術イノベーション調査会医療小委員会との合同で会合を開きました。昨年12月に内閣官房に「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」が設置されたことを受け、この中間とりまとめに向けて5月21日に「創薬力強化に向けた決議」を行い、反映させました。この中間まとめは「骨太の方針2024」に反映されたことに加え、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改定版」(いわゆる「成長戦略2024」)においても、創薬力の強化やバイオ医薬品の開発促進等の記述が行われました。

 また同時に創薬力PT単独で「骨太の方針2024に向けた緊急提言」を決定し政府に示しました。その結果、骨太の方針2024においては、中間年改定である来年度薬価改定に関し「2025年度薬価改定に関しては、イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する。」記され、見直しを強く示唆するものとなりました。また懸念の多かった費用対効果分析については「引き続き迅速な保険収載の運用を維持した上で、イノベーションの推進や現役世代等の保険料負担に配慮する観点から、費用対効果評価の更なる活用の在り方について、医薬品の革新性の適切な評価も含め、検討する。」と記され、一方的に薬価が削られるばかりではない方向性が示されました。いずれも年末の予算編成までに具体的な議論が行われることになりますが、この記述は足掛かりになるのではないかと考えます。

 これらの決議および緊急提言は、「創薬力強化に向けた決議・骨太の方針2024に向けた緊急提言」に掲載しています。

 同様に座長を務めているこどもまんなか保健医療の実現に関するプロジェクトチームでは、日本産婦人科医会および日本小児科医会のヒアリングを行った上で、「骨太2024および令和7年度予算編成に向けた提言」をまとめ、政府に提出しました。出産(正常分娩)の保険適用に議論は集まりがちですし当然重要な問題なのですが、個人的には少子化によって経営が厳しくなるのは小児科も同様であり、いずれも放置することはできません。また受診する親子の立場からすると一連の流れとして受け止めるのが自然だと考えます。そうした思いも含めて、このPTの扱う課題に関して「出産(正常分娩)の保険適用を巡る備忘録」に記しています。そちらもあわせてぜひご覧ください。

 沖縄県は、出生率は日本一高いというポテンシャルがある一方、こどもの貧困や低年齢出産の多さなどの困難もあります。こうしたことに問題意識を持つ自民党・公明党の有志議員にご相談した上、4月17日に設立準備会を行い、5月23日に設立総会を開いて、菅義偉・元総理、山口那津男・公明党代表をはじめとする錚々たる発起人の皆さまにご賛同をいただいて「『国立こどもまんなかウエルビーイングセンター in沖縄(仮称)』の設立に向けた議員連盟」が設立されました。その際、橋本がくが座長に選任され、「経済財政運営と改革の基本方針2024に向けた提言」を議決しました。6月6日に自見はなこ沖縄担当大臣に提言を提出しました。その結果閣議決定された「骨太の方針」では「教育・医療・福祉が融合したこどもの貧困対策・Well-being拠点設置に向けた取組(中略)等の沖縄振興策を国家戦略として総合的に推進する。」として記載されました。今後具体化に向けて引き続き活動します。議員連盟では、歯科技工士議連やリハビリテーション議連、超党派山の日議連等の会合にも参加し、それぞれ活動しました。

 かねてからハンセン病対策議員懇談会・ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会の両方に参加していましたが、このたび両議員懇談会合同PTが設置され、橋本がくが座長に指名され、6月13日に初回の会合を開きました。令和7年度以降の定員合理化計画におけるハンセン病療養所の定員の在り方や医師等職員の確保、将来構想などの課題について、各会派の代表の方々と共に今後議論していくこととなります。簡単には結論が出せない難しい課題ではありますが、ご関係の方々のためにはできるだけ早く方向性を見出すべきであり、そのように努めてまいります。

 橋本がくは、今年度から日本国際貿易促進協会の会長代行に就任しました。この団体はいわゆる日中友好7団体の1つであり、現在は河野洋平・元衆議院議長が会長を務めておられます。以前は橋本龍太郎が会長を務めていましたが、急逝ののち後任を河野会長が引き継いでいただいた経緯があります。このたび河野会長から会長代行を務めるようお話があり、お引き受けすることとなりました。日中間では、福島第一原子力発電者の処理水放出に関する対応や邦人の拘束、尖閣諸島海域への中国船の侵入など様々な課題があり、決して関係は良好とはいえません。とはいえ貿易や企業進出など経済的な関係は依然強く、地理的にも文字通り一衣帯水であり、歴史的な経緯も含め、向き合わなければならない国であることもまた事実です。具体的な課題にひとつひとつ取り組みながら、相互に建設的な関係を築けるよう努めていきたいと考えています。早速、7月1日からの訪中団に参加しており、何立峰国務院副総理との会見が報道されています。別途、訪中の様子についてはブログでご報告します。

・報道記事「日本人母子切り付けの影響回避を 中国副首相、河野氏と会談」(共同通信)

●倉敷・早島について

 この7月で平成30年豪雨災害から6年となりますが、真備町の水害の原因となった高梁川から小田川への逆流のリスクを軽減するために工事が進められていた、小田川・高梁川合流点付替工事がこの3月に竣工しました。真備町や船穂町柳井原にお住まいの方を含め、より安心してお過ごしいただけるものと思います。一方、新たに合流点になった水江付近より下流の堤防の強化も進めており、また老朽化の指摘がある笠井堰についても改修に向けた協議が行われ、流域全体としての安全性を高めるよう、引き続いて取り組みます。

 また国際バルク戦略港湾に指定されている水島港については、玉島地区の事業については計画が完成し竣工式が行われました。引き続き水島地区についても工事を進めます。一方、慢性的な渋滞が続く国道2号線については、岡山-早島-倉敷間の交差点立体交差化事業が進められています。まだ設計段階ですが、今後工事に着手することになります。その際には一時的にご不便をおかけすることになるかもしれませんが、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。倉敷川・六間川改修やその他各地の事業についてもご要望を伺い、一層安心してお暮しいただけるよう対応に努めます。

 さる6月23日、倉敷・早島を中心とする法人・団体の皆さまにご参加をいただく新たな後援会「岳勝会」を、井上峰一会長のもとご設立いただきました。今なお自民党への逆風が厳しい中ですが、本当に励みになります。国会開会中も倉敷・早島には毎週末戻り、随時街頭活動などを行いましたが、しばしば多くのお車や通りがかりの方などから手を振ったり声をかけていただいいたり、ご激励をいただきました。こうした応援が、橋本がくのエネルギーになります。心から感謝申し上げます。

●大臣の配偶者として

 私事になりますが、昨年秋の内閣改造で妻・自見はなこが内閣府担当大臣に任命されたことにより、閣僚の配偶者という立場にもなりました。現在は在京時には、衆議院宿舎にて長男、次男とともに4人で暮らしています。担務が、大阪・関西万博、地方創生、沖縄・北方、消費者庁、公正取引委員会、アイヌ政策などとても多岐にわたり、かつ工事の遅れなどが指摘される万博や、小林製薬の栄養食品による健康被害問題、フードロス対策などの案件、またいわゆるスマートフォン新法(GoogleやAppleに対して競争の公正性確保の観点から規制を加えるもの)など新法制定もあり、横で見ていても大臣業は本当に大変そうでした。自見はなこのこれまでの専門性とは異なる分野ではありましたが、勉強しながら積極的に各分野にコミットし、以前からの仕事人ぶりを発揮してよく頑張っていました。

 配偶者としては、朝に台所でコーヒーを淹れて目玉焼きを作りながら、高校に進学した次男君に「早く起きなさーい、学校に遅れるぞー」と言い、はなこに「早くお化粧しなさーい、閣議に遅れるぞー」と言うという、なかなか貴重な体験をしています。大臣を閣議に遅刻させるのは、配偶者の恥であると思っています。こどもたちや、母久美子も、いずれもそれぞれに元気に暮らしてくれているのは、誠にありがたいことです。

●おわりに

 月日の経つのは早いもので、今年9月には2005年9月の初当選から20年目の年を迎えることになります。落選期間中も含め、倉敷・早島の方々をはじめとする多くの皆さまのお支えにより、国政での活動を続けることができています。重ねて、感謝を申し上げる次第です。衆議院議員5期目の任期も残り1年と少しとなりましたので、いつ解散総選挙があってもおかしくありませんし、今年9月には自民党総裁の任期末となることから自民党総裁選挙もあるものと思われます。先行きの見通しの立たない中ではありますが、これからもご支援いただける皆さまのために全力を尽くしますので、引き続きご指導・ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

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2024年3月 2日 (土)

予算委員長小野寺五典君解任決議案 反対討論

 令和6年3月1日、衆議院本会議において、令和6年度予算案審議に関連して立憲民主党が提出した予算委員長小野寺五典君解任決議案が議題とされ、与党を代表して反対討論に立ちました。その内容をここで記しておきます。動画は衆議院インターネット中継にてご覧いただけます。

 ちなみに、決議案の趣旨弁明において提出者山井和則議員は、しきりと「80時間がルール」と主張していましたが、あくまでも慣例的な目安であって明文ルールではありません。過去10年以内でも何回も審議時間80時間未満で予算案を採決した例はあります。また討論中触れたように野党の質疑時間は昨年と並んでおり、与党の質疑時間が昨年より少ないので76時間になっているのが実際です。ですから山井筆頭は、実質的には与党の審議時間が少ないことを与党に抗議するという、筋の通らない理由による趣旨説明を3時間にわたりされていたことになります。新記録達成おめでとうございます。

 なお野党提出の決議案等の反対討論に立つのは人生二度目で、前回は6年前の厚生労働委員長高鳥修一君解任決議案への反対討論でした。


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 自由民主党・無所属の会の橋本岳であります。

 私は、自由民主党ならびに公明党を代表し、ただいま議題となりました、予算委員長小野寺五典君解任決議案に対しまして、断固反対の立場から、てきぱき討論を行います。

 まず冒頭、本年元日に発生した令和6年能登半島地震によって亡くなられた全ての方々のご冥福を、心からお祈り申し上げます。また、被害に見舞われ、今なお厳しい生活を送っておられる被災者の方々に、改めてお見舞いを申し上げます。

 さて、我が国経済は、昨年30年ぶりとなった高水準の賃上げの実現や、企業の意欲的な投資計画の策定など前向きな動きが見られています。さる2月23日には、日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新しました。こうした中、足元の物価高に対応しつつ、構造的な賃上げや、民需主導の持続的な成長を実現することが重要です。また少子化対策や安全保障体制の充実など、令和6年度予算案は、時代の変化に応じた先送りできない課題に挑戦し、その成果を掴み取るために必要不可欠な予算であります。

 そして何より、この予算案には、能登半島地震で被災された方々の命を守り、生活・生業の再建をはじめ被災地の復旧・復興に対応するための財政措置が講じられております。諸施策が切れ目なく一刻も早く実行できるようこれを早期に成立させることが、被災地から強く求められており、我々国会議員が国民から負託された責務であると考えます。

 一方、我々自民党の派閥パーティに関する政治資金不記載の、いわゆる“裏金”の問題で、昨年来、国民に対して政治への不信を招いてしまったことは、誠に申し訳ないことであり、自民党の一員として、私からも深くお詫びを申し上げます。国民の信頼なくして政治の安定はありません。私の父・橋本龍太郎は、行革担当大臣として公務員人事制度の改革に取り組むにあたり、「信賞必罰」という言葉を説きました。今後、自民党が国民の信頼回復に取り組むにあたり、改めてこの言葉を自らのこととして臨むべきであると、この場を借りて申し上げます。

 さてこのような中、今国会は異例の幕開けとなりました。通例では、政府四演説は国会の召集日に行い、その後各党からの代表質問という流れとなります。しかしながら今国会は四演説前に、予算委員会において「政治資金問題等」をテーマとする集中審議を行いました。この国民の期待に応え、この委員会の開会を決められたのは、まさに小野寺委員長であります。

 小野寺委員長は、昨年10月の予算委員会で、公正かつ円満な委員会運営を図る旨、述べられました。その言葉通り、令和6年度予算の委員会審査においても、各会派の意見や主張に耳を傾け、まさに公正かつ円満な委員会運営に真摯にご努力されました。野党からの資料要求や集中審議の開催についても、その実現に向けて誠心誠意尽力されました。公聴会の開催日程についても、やはり異例の対応をされました。さらに申し上げれば、本案提出者でもある山井和則野党筆頭理事のご要望とご協力により、理事会において緑茶のご提供があり、その結果とても和やかな理事会運営が行われたことには感謝を申し上げますが、これを受け入れ決定したのも小野寺委員長であります。

 さきほど審議時間が足りないというご主張がございましたけれども、本日本来は計7時間の審議を経て、計76時間の総質疑時間となり、国会召集前と後の予算委員会集中審議を加えると、81時間30分となる予定であります。そもそも、昨日の公聴会後、あるいは分科会後、与党は審議の提案をいたしましたが、それを断られたのは、山井筆頭、あなたではありませんか。野党の審議時間だけを見ても、現時点では56時間を積み上げており、解任決議案が出されずに委員会が開催されていれば、62時間となり例年と変わらない審議時間となった筈ではありませんか。これこそ小野寺委員長が如何に公平に委員会運営に取り組まれていたかの証左ではないか、このように思います。

 なによりも、審査中委員長席を一度も外すことなく、常に議論に耳を傾け公平に運営に当たられた誠実なその姿を、野党の皆さまも、ずっとご覧になってきた筈ではありませんか。その小野寺委員長になぜ解任決議案が出されるのか、私には全く理解ができません。

 昨日、残念ながら与野党の協議が整わない中、小野寺委員長は、予算成立に向けて委員長の職権により委員会の開会を決定されました。これは、自らも13年前の東日本大震災の被災者として辛い体験をされたことも踏まえ、能登半島地震の被災者の方々の声をはじめとする国民の期待に応じ、我が国喫緊の課題に対応するための予算案を預かる予算委員長として、その職責に忠実であっただけに過ぎません。にもかかわらず提出された本決議案は、単なる国民不在の日程闘争と理解する他なく、むしろ国民に一部野党のだらしなさを印象付けるのみに終わるものであります。我々は断じてこのような決議案を容認することはできません。

 以上、小野寺五典委員長への、根拠のない、不当な解任決議案には断固反対であることを重ねて表明し、議場の皆さまには、こぞって青票を投じていただくようお願い申し上げ、私の反対討論を終わります。ご清聴ありがとうございました。

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2024年2月 2日 (金)

政治資金問題のけじめと派閥の今後について

 1月26日に第213回国会が開会しました。昨年からの自民党内の派閥パーティに関する政治資金問題が尾を引き、政府四演説に先立ち衆参の予算委員会の集中審議が行われるという異例の日程となりました。30日に政府四演説(総理の施政方針演説、外務大臣の外交演説、財務大臣の財政演説、経済財政担当大臣の経済演説)が行われ、31日から2月2日まで衆参本会議で各会派からの代表質問が行われます。当然、政治資金問題についても議論が行われています。また、時を同じくして自民党の政治刷新本部の会議や中間とりまとめの公表、各派閥の動きなども日々慌ただしく、その中で私もバタバタと過ごしています。

 政治資金問題について、先に「令和六年正月にあたり、政治資金の問題について」に思うところを記しました。その際に、この問題について「けじめ」と「再発防止策」がなければ、国民の信頼を取り戻すことはできない旨記しましたが、記事は敢えて再発防止策に重点を置いて記していました。けじめについては必要であると考えるものの、まず当事者の方々や党としての考えが示されるべきであること、また私自身も自民党や派閥を構成する一員である以上、自分の考えは、ブログに書いたりメディアに向けて話す前にまず党内や派閥内に対して申し上げるべきこと、などと考えたからです。1月22日・23日の自民党政治刷新本部会議、1月30日に平成研究会意見交換会で思うところを申し上げ、また他の方々のご意見も伺いましたので、その内容を踏まえつつ現時点でけじめ等について思うことを記します。

●政治資金問題のけじめについて

 先のブログにも書きましたが、派閥パーティ券に関連する派閥から各議員の団体への寄付は、当然に収支報告書に記載すべきものです。今回の件で、東京地検特捜部は過去の例等を踏まえ、一定金額以上の不記載があった議員や、派閥の会計責任者等を起訴しましたが、共謀関係が立証できなかった議員等は不起訴となりました。しかし、本件に関して不起訴となった議員等に、不起訴であることをもって全く政治的にも責任がないという理屈は、多くの国民の納得は得られないもの考えます。年末年始に地元で多くの方にお叱りをいただいたのは、税金の取り扱いでは一円単位まで細かく調べられ、漏れがあれば追徴されるものなのに、政治資金の取り扱いは修正すれば問題ないのか?3千万円を超えなければ無罪放免なのか?というご指摘でした。

 一方で、不記載での寄付を行っていた派閥に所属する議員においても、特に歴の浅い議員からすると、派閥から不記載とするよう指示をされた場合は、逆らうこともできず従ってしまうものかも知れません。また私が耳にしたところでは、一部の派閥では、コロナ禍や選挙前等の際にはパーティ券販売目標額を下げた年があったらしく、所属議員からすると例年通りにパーティ券を販売しただけで派閥からの寄付が増えた年もあったようです。おそらく派閥からすると各所属議員への支援のつもりだったのだと思われますが、今回はそれが仇となり不記載額が出てしまったり増えてしまったりする結果になってしまいました。例年はむしろ目標額までパーティ券を販売することができず自費での購入を余儀なくされていたのに、目標額が下げられた年があったために寄付の不記載(自費購入額より少ない)が生じて裏金議員扱いされてしまったという、同情すらできる例もあるようです。こうした方々まで含めて、個々の事情を汲むこともなく一律に厳しく政治的責任を求めるのも行き過ぎではないかとも思います。不記載のあった議員は、既に政府の役職や委員会の委員長・理事を交替させられてもいます。また、委員会での質疑を打診したところ、辞退された方もおられました。今後も、厳しい目にさらされることになるものと思います。

 ただ今回、誠に残念だと感じるのは、不記載を指示したり行っていたりした派閥の責任ある立場の方々が、そのように振舞っているように見えないことです。

 かつて、平成研究会における日歯連事件の際には、団体から派閥に対する収支報告書の不記載について、会計責任者と会長代理の村岡兼造参議院議員が立件されました。その際、平成研究会の会長を務めていた橋本龍太郎は、心臓手術のため入院中で共謀には加わっていないという認定のもと不起訴となりましたが、その後自ら記者会見を開き、派閥会長を辞任し、次の衆議院選挙において選挙区から立候補しないことを表明しました。またその際、比例代表での出馬には含みを持たせていましたが、次の衆議院選挙の際、当時の自民党は名簿登載せず、そのまま引退となりました。これは、不起訴であっても、派閥の長たる者として、事件を起こして国民に不信を招いたこと、および党や所属議員にも迷惑をかけたことに対し、本人および自民党それぞれが引責の意味でけじめをつけたのだと考えます。これが派閥の幹部とされる方のとるべき道ではないのでしょうか?

 今回において、不記載のため会計責任者が立件された各派閥の幹部の方々で、同様の行動が自発的に見られないのは、自民党全体の信頼をも損ねることに繋がっています。「説明責任を果たす」とおっしゃる方もおられますが、検察により立件されていないということは「知らなかった」「関わっていない」という以外の説明ができるはずもなく、よって本件においては、「説明責任」は果たされるべきですが、それで真相が明らかになることはおそらく期待できません。しかし知らないことや関わっていないことでも、組織において不正があったならば、責任者はその管理監督責任が問われるべきです。

 また、派閥を解散したことで責任を果たしたという向きもありますが、本来周囲が期待する派閥幹部の務めは組織を健全に維持発展させることであり、むしろそれができなかったことにより解散を選ぶことになったのですから、組織に所属する方々に対して果たすべき責任はさらに重くなるのではないでしょうか。不正があった派閥の解散は、おそらくご本人たちにとっても断腸の思いであっただろうとはお察ししますが、客観的には不正の後始末の一環に過ぎません。

 メディアの記事によると、「年末年始に批判を受けて辛い思いをした」といった意見が、不記載があった派閥の会合であったようです。しかしそれこそ自民党の関係者は、国会議員も地方議員も支援者の方も、不記載があろうがなかろうが、概ね全員同様にいたたまれない年末年始を過ごしたのであって、党全体や当該派閥の若手を巻き込み迷惑をかけたという意識が微塵も感じられないのも、むしろ如何なものかと思われます。

 私は、1月22日の自民党政治刷新本部の会合において、不正のあった派閥幹部の責任の取り方として、日歯連事件における橋本龍太郎の身の処し方を紹介し、参考にされたい旨発言をいたしました。しかしその発言に対する受け止めが不十分と感じたため、より具体的かつ率直に申し上げるべきと思い、翌23日の会合では、直前に会長を辞任されているとはいえ不記載のあった派閥の幹部であった岸田文雄総裁に対して率先して議員バッジを外すよう促し、本件のけじめの先鞭をつけるよう求めました。なおこの発言については、誰とも相談したことも意見されたこともなく、素直に私個人の思いを申し上げたものです。

 もちろん、今すぐ実行に移せるものとは思っていません。政局にしたい訳でもないですし、能登半島地震対応もある中で政治的空白を作ることも避けるべきです。国会も開会していますので、まずは総理大臣として説明を行うことも求められます。当然、岸田総理は各党の議員から真っ先に厳しい追及を受けることになりますから、自民党の一員として全力でお支えします。ただ、党内からも前記のような意見があったことは胸に留めていただきつつ、真摯に今後の務めを果たしていただけるだろうと岸田総理には期待しています。

 そしてこの思いが総理以外の然るべき方々の耳にも届き、自発的な行動に繋がることを願っています。自発的な行動がなされないのであれば、党として必要な調査を行った上で党則に則り処分も検討されるべきではないかとも思います。さもなくば、自民党が国民の信頼を取り戻すことはないでしょう。

 なお、不記載の結果として各派閥や各議員が得た収入について、今回いわゆる「裏金」として存在が明らかになったわけですが、この使途についても国民の関心は強く寄せられています。収入を正しく申告していなかったら脱税として追徴課税までされるところ、政治資金は収支報告書を修正すればそのまま使えるというのは、とても納得は得にくいものと考えます。もちろん、収入が増加したことに合わせて領収書つきで支出も修正されたのであれば、政治資金としての使途は明らかにされたということになりますが、単に収入のみ修正した場合はその分の資金は手元にあるという理屈となります。本件では該当しませんが、政治資金規正法第22条の6に、規制に則らず受けた金銭は国庫に帰属し、ただちに国庫返納しなければないという条文があります。この精神を踏まえ、国庫や被災地等に不記載額の寄付をすることも考慮されるべきと考えます。

●派閥について

 1月19日、岸田文雄総理は、政治の信頼回復のために宏池会(岸田派)を解散する旨を発表しました。かねて派閥のパーティ券の不記載が問題とされていたところ突然の発表であり、大きなインパクトがありました。23日に宏池会の臨時会合で解散方針が正式に決定されるとともに、同様に会計責任者が起訴された清和政策研究会(安倍派)、志帥会(二階派)も解散を決定しました。また自民党政治刷新本部の議論においても、派閥の解消が議論されていたことを踏まえ、25日には、今回唯一刑事告訴されていない近未来政策研究会(森山派)が解散を決めました。現時点で残っているのは平成研究会(茂木派)および志公会(麻生派)ということになります。

 一方で、自民党政治刷新本部が1月25日に取りまとめた「中間とりまとめ(国民の信頼回復に向けて)」では、政策集団の政治資金パーティの禁止、夏季・冬季の所属議員への資金手当ての廃止、人事の推薦等を行いこと等が定められました。このとりまとめは自民党としての決定ですから、平成研究会にしても志公会にしても、存続するとしてもこの決定には従うこととなります。本来、解消されるべきは派閥そのものではなく、政治資金や人事などにまつわる「派閥の弊害」だと思いますが、現状の議論の中では、いずれにしても既存の派閥のあり方にはピリオドを打たなければなりません。

 1月30日に、平成研究会の意見交換会がありました。多くの所属議員の発言があり、また離脱を表明する議員もおられる中で、私からは、自民党政治刷新本部の「中間とりまとめ」を受け止めていることを対外的に明らかにするため、今の平成研究会には一旦けじめをつけるべきではないか、その上で、これまでの人間関係が突然切れたりする訳ではないので、一緒にご飯を食べて政治を語るようなところから再出発してはどうか、という意見を申し上げました。しばしばメディアでは「政治資金やポストを得るために議員は派閥に所属する」かのような解説をされますが、仮に本当にそういう方がおられるのであれば、別段無理に今後ご一緒する必要もないでしょう。一方で、落選しても歯を食いしばって頑張っている仲間もいるのに、彼らが当選してきた暁に「お帰り!」と言ってあげる場所が全くなくなるのは避けたいですし、できれば今回派閥を離脱した先生方とも、いずれまたご一緒できる場があるとありがたいとも思っています。

 個人的には、半分以上冗談交じりですが、政策集団や勉強会などと肩肘張らず、会費制出入り自由の「平成お食事会」(仮称)を立ち上げてはどうかと妄想したりしています。真に頼れる仲間とは、辛いときも楽しいときも、時間を一緒に過ごせるものではないかと思いますし、率直な意見交換や議論を通じ、政治の原点に立ち戻ることにも繋がろうとも考えます。

 なお意見交換会では、政治団体としての登録を今後どうするかという議論もありました。廃止すべきという意見も出た一方、会議費等に限られるとはいえ政治活動としてお金の出入りがある以上、収支報告書提出義務がかかる政治団体として存続させる方がより透明性が高いという意見もありました。個人的には、生まれ変わった団体がどのような規約によりどのような活動を行うこととするかの方が重要であり、それに沿って検討されればよいのではないかと思います。税金を原資とする政党交付金は入らないでしょうから、対外的にどこまで収支を公表する必要があるかは、結局は活動内容によるものと思われます。多くの議員連盟のように、定期的に会計報告をすることで済ませる場合もあるでしょう。

 いずれにせよ、平成研究会としては、「中間とりまとめ」を尊重し引き続きあり方について議論を続けることが共有されました。その方向に異存はありませんので、私は参加を続けるつもりです。

●おわりに

 今回の件において、自民党の中に、政治資金規正法の趣旨を尊重しない空気があったことは明らかであり、そのために国民の皆さまに政治への不信を招いてしまったことは、自民党の一員として誠に申し訳なく、重ねてお詫びを申し上げます。このことにつき、政治家が然るべくけじめをつけ、政治資金規正法改正を含む再発防止に取り組まなければならないことは当然です。引き続き信頼回復に努めます。

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2024年1月18日 (木)

令和六年正月にあたり、政治資金の問題について

 令和六年の正月にあたり、このブログをご覧の皆さまにはつつがなく新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。おかげさまで橋本がくも家族ともども元気に新年を迎えることができました。まずは旧年中のご指導に心から感謝申し上げます。

 今年の正月は元旦夕方に能登半島地震が発生し大きな被害が発生しました。また翌二日には羽田空港にて日航機と海上保安庁の航空機の衝突事故がありました。そういう意味ではなかなか平穏な正月とは言い難かった面があります。両件に関し、亡くなられた方々に深く哀悼の誠を捧げ、被害を受けられた方々にお見舞いを申し上げます。能登半島地震についてはなお被災者の援護や復旧・復興には時間がかかりますし、粘り強く取り組む必要があります。

 ただ年末年始にかけて、私がご挨拶に伺う先で災害等とともに必ず話題になるのが、昨年来大きな報道をされていた政治資金の問題です。先のブログ(「令和五年末のご挨拶」)にも記した通り、私および私の関係する団体では政治資金収支報告書の記載は法律に則り適切に行っております。しかし自民党の派閥や同僚等の不祥事により国民の皆さまに政治へのご不信をおかけしてしまっていることに、自民党所属議員のひとりとして、まず深くお詫びを申し上げます。

 この件については、地元の皆さまからも「私らは税務署が来たら一円まで詳らかにせにゃあおえんのに、政治家が何千万円も胡麻化すのはあまりにも世間とかけ離れすぎている」「もう自民党は信じられん」「政治家はみんな裏金とかキックバックとか貰っとるんじゃろう」といったお叱りを、直接に幾度も頂戴しています。普段からわが党をご支持いただく方ですらそのように受け止められていることを、自民党は深刻に理解しなければなりません。東京地検特捜部による捜査が行われており、その結果起訴された方は裁判を経て刑事的な責任が問われることとなりますが、それとは別に政治的にも何らかの形で党として再発防止策を講じ、けじめをつけなければ、通常国会が開会しても予算案審議を始めとする政策の議論には入れないのではないかと考えます。

 自民党本部では政治刷新本部が立ち上がっており16日には会合が行われました。多くの議員が参加し自由闊達にそれぞれの思いの丈を述べたと耳にしており、その意見が汲み取られることを期待します。ただ私は前々からの所用があり出席できませんでしたので、既出の意見と重なるものも多いとは思いますが、このブログにおいて私なりに思うところを記しておきます。

 (追記)なおこの文章を一通り書いて、見直しをしているタイミングで「岸田派と安倍派、解散を検討」(朝日新聞デジタル)という報道がありました。まだ詳細は不明ですが、それぞれの組織のけじめのつけ方として検討されているものと受け止めています。とりあえず、報道前の私の見解を遺しておくという意味で、記した文章は変更せずにそのままアップします。

 (R6.01.21再追記)政治資金規正法第二十二条の六の二に関する記載において、私の認識誤りがありましたので、記述を修正しました。

●政治資金規正法のおさらい

 そもそも、政治資金規正法の基本的な考え方は、(1)政治資金の収支の公開 (2)政治資金の授受の規制等の2点です(総務省「なるほど!政治資金 政治資金の規制」)。このうち、派閥パーティ券販売に関して、派閥がパーティ券収入を収支報告書に適切に記載していなかったこと、目標より多く売り上げた議員に対する派閥から議員への寄付が双方とも収支報告書に記載されずに行われていたこと、そもそも派閥のパーティ券を議員が販売してそのまま議員またはその団体の収入として扱いながら収支報告書に記載していなかったことなどが主に問題視されています(なお、他にもさまざまな指摘はありますが、ここでは問題を派閥パーティ券に関することに絞ります)。これらのことは、いずれも収支報告書への収入ないし支出の記載がされず結果として公表もされない資金(いわゆる「裏金」)の流れであり当然(1)の考え方に悖るため、問題視されて然るべきことです。

●凡事徹底

 まず考えなければならないことは、収支を収支報告書に記載するという法律の条文があり、与野党の多くの議員がそのルールを守って活動しているにも関わらず、自民党において守っていない議員と団体があったという問題に対する再発防止策です。したがって、よりルールを守らせるための対策がまず必要です。すなわち罰則や監査の強化、銀行振込等記録の残る形での資金移動の徹底、会計システムの導入等です。

 たとえば罰則については、収支報告書虚偽記載は一義的には会計責任者の罪となり共謀が認められた時のみ議員も処罰の対象となりますが、買収等の選挙違反と同様に連座制を導入し、議員の関与が認められなくても一定の場合は自動的に議員も処分の対象とすること、その際には公民権停止もつけることなどが考えられます。また、国会議員関係政治団体には政治資金監査が義務付けられています。派閥パーティ券に関する不記載の問題については、収入側・支出側双方の収支報告書をつけ合わせることにより初めて発覚した問題であるため、個別の団体の政治資金監査では原理的には発見しにくい問題ではありますが、単なる事務的記載ミス等も含めてより確認ポイントを増やすこと等より監査を充実徹底させることは考え得るものと思います。

 政治資金規正法第二十二条の六の二では、少額や不動産等の例外はありますが「何人も、政治資金団体の預金又は貯金の口座への振り込みによることなく、政治活動に関する寄付をしてはならない」という規定があります。これは、政党のための資金援助を目的とする政党が指定した団体について適用される条文であり、議員が関係する政治団体一般に適用される条文ではありません。今回の件では、報道によると、派閥から議員に現金が渡されていた場合もあるようですが、現金の取り扱いは、一般論として不正やミスの原因になり得ます。銀行振込の徹底は、客観的な記録が残る上確認や監査が容易になり事務的ミスも防ぎやすくなりますので、この条文を原則的に政治団体一般にも適用することとすれば、最も簡単かつ現実的に政治資金規正法違反を防ぐ対策となり得るのではないでしょうか。なおこの条文には、この規定に基づかない寄付金等は国庫に帰属する旨の規定もあることはあわせて指摘しておきます。今回、いわゆる「裏金」とされた資金を得た議員について、この条文の趣旨を踏まえて、その金額を国庫納付するのは、ひとつのけじめのつけ方と考えます。

なお事務的ミスを防ぐ意味でも、政党等で統一的に会計システムの使用を各事務所にさせることも検討されるべきでしょう。

 「凡事徹底」という言葉があります。法令に則り、当たり前にすべきことを当たり前にすることが、政治家に対して当たり前に求められていることと個人的には思います。しかしそれができていない議員や団体があったこと、自民党内にそれを許容する空気があったことが今回露呈したわけです。私たちは倉敷市立葦高小学校学校便り『笹りんどう』令和4年7月4日発行号における藤井朗校長先生の名解説を、拳拳服膺しなければなりません。

 なお政治資金規正法については、罰則以外にも改正の必要があるという指摘があります。例えば弁護士の郷原信郎氏は、今回の件については、資金の帰属先が特定できないため個別の団体に関して収支報告書不記載罪で起訴する困難ではないかと指摘しています(郷原信郎「『ザル法の真ん中に空いた大穴』で処罰を免れた“裏金受領議員”は議員辞職!民間主導で政治資金改革を!」)。政治資金規正法の基本的な考え方(1)に反する行為であるにも関わらず具体的に罪に問えないケースがあるのは立法技術的な不備ともいえますので、法改正が検討されるべきです。

●政治資金について

 「そもそも政治にお金がかかるのがおかしい」「政治資金パーティを禁止すればよい」といった議論もあります。確かに国会議員は、歳費や公設秘書、政党助成金等の公的な支援も受けています。しかし秘書さん3人では、多くの議員は東京と地元それぞれの活動はカバーしきれません。車で動くのもガソリン代や車のリース代はかかりますし、支援者に活動報告を郵送するにも印刷代や郵送費は要りますし、事務スペースを借りるにも賃料がかかります。当然、私設の秘書さんの給料も支払わなければなりません。政治資金の多くはそうした日常活動に費やされています。一部の議員が、「私はお金をかけないで活動している」という主張をされることも見受けますが、それは議員になる前からテレビに出ていた著名人だったという場合か、もう次の選挙に立候補する気がないといった場合か、いずれにせよ何か特殊事情がある方であることが多く、一般化されても正直困ります。政治活動は経済活動でもあるという厳然たる事実を等閑視した議論は、無意味です。

 自力でその資金を得る手段として、寄付をお願いすることや政治資金パーティの開催があります。政治資金パーティは、寄付文化があまり一般的ではない日本において、寄付に代わる方便として存在する手法です。ただ、普通の会費制パーティと区別するため、必ず案内等には「これは政治資金規正法における政治資金パーティです」といった文言を入れており、政治活動への支援集めであることを明示していますので、寄付にせよ政治資金パーティにせよ、その人の政治活動の自由に基づき任意にご協力いただいていることに違いはありません。政治資金パーティであれ、寄付であれ、政治資金規正法に則り適切に収支を報告する必要があることは論を俟たないのであり、それが不正に行われていたからといって、政治資金パーティそのものを禁止しなければならないという議論は筋が通りません。もちろん、今回の件のけじめとして自主的に開催を控えることは、それぞれの判断です。

 また、クラウドファンディングといった新たな寄付のあり方を模索する動きもあり、これはこれで考えられるべきことでしょう。

●派閥について

 今回の件は、自民党における派閥のパーティ券販売を巡る資金の動きが主に問題とされました。そのため、派閥そのものについても、あり方が問われます。ただ、誤解に基づく議論も少なからず見受けられます。まず、自民党における派閥は何か根拠がある存在ではなく、構成員が自発的に参加する事実上の存在でしかないということは、しっかり踏まえる必要があります。よって「派閥を禁止するべき」という主張は、成立しません。政党とは別に、個々人の政治活動の自由や結社の自由に基づき存在しているだけですので、政党が禁止する根拠もないのです。嫌なら無派閥で活動することもできますし、実際自民党の中でも無派閥で活動する議員も普通におられます。先日の自民党の会合において「派閥を解散すべきだ」という主張があったと報道されていますが、それは必要であれば各派閥のガバナンスの中で自発的に行われるべきことであり、自民党の会合で発言するのは筋違いです。特に、自らの所属派閥についての意見ならば、自らの所属派閥の会合において発言すべきことです。なお派閥パーティを禁止する検討がされているという報道がありますが、同様に自民党が派閥の行動を制限する根拠もありませんので、仮に実現するとしたら、各派閥の申し合わせという形式で実現されるものと思われます。

 ただ一方で、事実上の存在でしかない派閥が、政党の組織を飛び越えて政府の人事や政策に具体的な影響を及ぼしているとすれば、それは対外的には説明のつきにくいことです。実際には政党も根拠法がなく事実上の存在でしかありませんが、選挙により選ばれる存在であり、国会法における会派とおおむね重なって活動するものであるため、まだ正統性は見いだせます。しかし派閥にはそのような正統性はありません。一方で、人数が限られる閣僚や党幹部はともかく、何十人といる副大臣や大臣政務官、委員長や理事など衆議院の役職、部会長など党の役職が多数存在し、かつ選挙により頻繁に構成員が入れ替わる極めて動的な組織である自民党において、適切かつ納得できる人事の仕組みがなかなか見出し辛い中、派閥による調整がその機能の一翼を担っていることもまた事実であり、単純に派閥の人事への関与をなくせばよいという議論も難しい面があります。ただ少なくとも、例えば閣僚をはじめとする政府の役職者や党幹部となった議員については、派閥を離脱することにより派閥との区切りをつけることは、少なくとも必要であろうと思います。

●結語

 こうした再発防止策を徹底して講じ、事件にけじめをつけることが、まず今回の自民党には最低限必要だと考えます。私もその一員として、改めて今回の件を厳粛に受け止め、信頼回復に努めることを誓います。

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2023年12月31日 (日)

令和五年末のご挨拶

 令和五年の年末を迎えました。今年も多くの皆さまのご支援を賜り、年末を迎えることができたことに、まずもって篤く感謝申し上げます。今年後半の出来事について振り返ってみたいと思います。なお今年前半については、「第211回国会を振り返って」に記しておりますので、そちらも併せてご参照ください。

●政治資金の問題について

 やはりまず取り上げなければならないことは、自民党内における派閥のパーティ券に関する政治資金収支報告書不記載の問題についてでしょう。この問題は昨年からしんぶん赤旗で取り上げられていましたが、各派閥の事務責任者等に対して刑事告発が行われ実際に捜査が着手されて以来、メディアにも大きくクローズアップされました。特に11月下旬から12月にかけて、臨時国会の中盤以降、具体的な派閥名や議員の名前が週刊誌や大手一般紙にも取り上げられるようになり、閣僚の交代に発展することとなりました。現時点でも引き続き検察による捜査が続いており、関係者の事情聴取や派閥や議員事務所等の強制捜査もありました。

 まず、自民党の派閥や同僚等の不祥事により国会や国民の皆さまに、政治へのご不信をお与えしてしまっていることに、議員のひとりとして深くお詫び申し上げます。その上で、この件について思うことを記します。私の関係する政治団体と、所属する平成研究会(茂木派)の間での政治資金のやり取りについては、全て銀行振り込みで行われており、当然に政治資金収支報告書に記載しています。したがって今回の件でも、平成研究会については、多額パーティ券購入者の未記載等に関して告発は受けている旨の報道はあるものの、収支そのもの未記載という問題では現時点では名前は出ておりません。ただこれは決して自慢できる話ではなく、約20年前に日歯連事件により平成研究会の議員や会計責任者が刑事処分を受けた経緯を有し、その結果政治資金規正法が改正され、政治資金団体への寄付は千円以上の場合は銀行振込等で行うことが義務付けられ(第二十二条の六の二)、かつもともと政治団体の収支等は報告書に記載して選挙管理委員会等に提出しなければならず(第十二条)それらの条文に則りに運用された結果にすぎません。日歯連事件は、個人的にも父龍太郎が不出馬を決意する原因となった事件であり、改めて重く受け止めています。

 報道によれば、一部の派閥ではこれらの条文に拠らず、現金により政治資金が手渡しされており、かつ報告書にも記載されていなかったという疑いにより捜査を受けているというのが今回の件の本質です。政治資金規正法は、「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、(…中略…)政治活動の公明と公正を確保」するのが目的(第一条)と定められていますので、記録が残らない現金での金銭の授受やその報告書の不記載は、まさに政治資金規正法に違反し、或いは趣旨を逸脱する行為と指弾を受けるべきものです。したがって、こうしたことを二度と起こさないように罰則の強化やシステム化を図ることが対策の第一歩となるべきでしょう。当たり前にできることを、当たり前にすべきです。

 また、派閥の存在やその政治資金パーティのあり方についても議論は及ぶべきでしょう。平成元年に自民党は「政治改革大綱」をまとめています。この文書によって中選挙区制の抜本的な見直しが打ち出され、紆余曲折を経て現在の小選挙区制の導入などが実現されましたが、実はそれ以外にも様々な方針が打ち出されています。例えばこの中でも党幹部や閣僚は派閥を離脱すべきことが記してありますが、30年以上を経ていつの間にか等閑にされていたことは反省しなければなりません。改めてこの大綱が制定された際の危機感と志を思い出し、再び実現を目指す必要があるものと考えます。

 当然ながら司法機関による捜査の行方を見守る必要はありますが、自民党として今回の件に関するけじめを打ち出さないことには、国民の不信を払拭することは不可能であり、国会でも政策の議論に立ち入ることはできないものと考えます。早急に議論を進めて参ります。

 なお、派閥パーティ券の売り上げに応じて派閥から寄付があることを「キックバック」や「還流」と称してその有無が問題扱いされる議論や報道もありますが、このこと自体は法令に違反するものではなく、また派閥として得た政治資金を派閥所属議員の政治団体に寄付をすること自体は純粋に派閥のガバナンスの問題であり、収支報告書への記載等法令に則って行われていれば特段の問題ではないものと考えます。本当にキックバックが問題とされる公共工事の口利き等とは全く話が異なりますので、誤解を招きうる表現のように感じています。

●こども政策の進展とトリプル報酬改定の決着

 岸田総理は年初に「異次元の少子化対策」の実現を訴えました。それまでのこども基本法の制定やこども家庭庁設置の流れに加え、年初のこの発言に端を発し、「こども未来戦略方針」を6月に閣議決定したところまでは「第211回国会を振り返って」に記した通りです。この方針により、児童手当の所得制限の撤廃および高校卒業までの延長、出産費用の保険適用化、育児休業給付率の引き上げなど、これまで議論はされていても実現ができていなかったさまざまなこども政策を実施することが決められています。ただその裏付けとなる具体的な財政フレームの構築は年末の予算編成時に先送りとなっておりました。年間3兆円半ばの新規歳出をどのように予算に組み込むか、方向性として社会保障制度の改革による財政圧縮と支援金制度の創設が示されていましたが、具体的な検討が年末までに必要でした。

 一方で、社会保障支出の大きな柱となる診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の3報酬が来年度同時に改定となる年であり、この決着も年末の予算編成時となっていました。こちらはこちらで、電気代や物価、人件費の上昇により特に大きな医療機関や施設では相当経営が苦しくなっており、殊に介護職ははじめて従事者数が減となってしまう危機的な状況がありました。したがってこちらもその状況に見合った報酬改定を行わなければなりません。岸田総理は、社会保険料を支払う世代の負担増を控えることと、医療介護関係職も含む労働者の賃金アップとを両方政策として掲げておられましたが、これをどう両立させるか。私も、会合や要望活動、厚生労働省や財務省の担当者との意見交換を重ねましたが、おそらく多くの関係者がさまざまな行動をされていたものと思います。

 最終的には武見厚生労働大臣と鈴木財務大臣が岸田総理に裁定を求め、その結果が12月20日に両大臣の大臣折衝事項として公表されています。結果としては、診療報酬本体は+0.88%・薬価等は-1.0%、介護報酬は+1.59%、障害福祉サービス報酬は+1.12%という改定となり、数字のみではどの関係者も大満足ではないがまあ納得という、良く言えば三方一両損的な改定となったように感じています。

 ただ今回の改定のポイントはその数字的結果ではなく、その中に込められた幾つかの施策ではないかと考えます。例えば、三報酬とも従業者賃上げの重視は顕著であり岸田政権の方針を具体化するぞという意思は明確です。また経済情勢を踏まえ三十年ぶりに入院時の食事基準額も引き上げられました。昨今の物価・賃金の上昇を考えれば順当かつ必要な対応です。

 一方で、生活習慣病を中心とした管理料等について適正化を図ることで-0.25%がついており、かねてから財務省より効果が疑問視されてきた報酬についてメスが入れられました。今後こうした方向性もより加速するでしょう。個人的には、かかりつけ医やオンライン診療、往診などのあり方等も含む将来の外来医療のあり方のビジョンをむしろ医療界から主体的に示すような対応が必要なものと感じています。

 また薬価については、かねて自民党創薬力の強化育成に関するPTで主張していた通り、革新的新薬の薬価維持や不採算品再算定の対応等のメリハリ付けが明記されました。また、長期収載品の保険給付について選定療養の仕組みも導入する改革が実行されることとなりました。敢えて厳しい言い方をすれば、保険給付の範囲を狭め自己負担を増やす改革であり、ひと昔前の自民党では絶対に認められることのない政策だったかもしれませんが、今回対象幅の議論はありましたが導入絶対反対の立場の議員がいなかったのは、議員に「全世代型社会保障の実現」という意識が浸透した成果かもしれません。

 「こども未来戦略」において、「社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築する」とされており、この両立はどうなるかと心配をしていましたが、結果として賃上げに確実に資する追加的社会保険負担および全世代型社会保障改革の結果生じる追加的社会保険負担についてはその例外とするという、私の眼から見るとウルトラCのような知恵が案出され、なんとか収めることとなりました。これらの支出は、一方的に若者世代の負担となるものではないという意味では、確かに例外扱いは順当と言えるでしょう。

 今回の報酬改定に向けて、財務省は機動的調査といういわば人海戦術で医療機関の経営実態を洗い出す対応を行いました。結果からすれば、厚生労働省が行う医療経営実態調査とあまり差がなく、むしろ医療経営実態調査の正確性が確認される結果となったのは、双方にとって良かったかもしれません。

 自民党の社会保障制度調査会事務局長と「こども・若者」輝く未来創造本部幹事長を兼務する身としては、防衛予算の増額もある中でどのように社会保障予算とこども予算を両立させるかかなり心配していましたが、多くの方々のご努力の結果として然るべきところに落ち着いたものと考えています。ご関係の皆さまのご努力に深く敬意を表します。

●衆議院厚生労働委員会与党筆頭理事として

 衆議院では、この臨時国会から厚生労働員会理事、予算委員会委員、地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会委員を務めました。特に厚生労働委員会では与党筆頭理事となり、野党筆頭理事である小川淳也議員と丁寧に協議と合意を重ね、充実した審議の上、大麻取締法等改正案を成立させることができました。与党筆頭理事は二回目(一回目については「第204回通常国会期間を振り返って」ご参照)になりますが、とりあえず無事にひと国会を乗り越えることができたことに安堵しています。なお委員長職を2年務めていたためその間質疑に立つことは控えていましたが、11月8日に10分間の時間をいただき、武見敬三厚生労働大臣に対して医薬品行政に関して質問を行いました。やっぱり質疑は国会議員の本懐と言うべきことです。予算委員会や地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会では、委員として着席して質疑を見守るにとどまりました。ただ、他党の議員のものも含め、他の議員の質問およびその答弁を聞いていることは大変勉強になりました。

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(写真:11月8日の質疑の様子。白髪が増えました…)

●創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム座長として

 自民党創薬力の強化育成に関するプロジェクトチームでは、この臨時国会期間では関係者のヒアリングを行うにとどまりましたが、累次にわたる提言を政府が受け止め、今回の診療報酬改定においてイノベーションの更なる評価が打ち出されたことはありがたいことです。また、創薬に関する政府全体の司令塔を構築すべきという以前からの提言を具体化するため、座長として大野敬太郎事務局長とともに水面下で政府と打ち合わせを続けていましたが、その結果として鴨下一郎元衆議院議員の内閣官房参与への就任があり、そのご指導のもと12月27日には、村井英樹官房副長官を座長とする「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」の開催に漕ぎつけることができました。来年の骨太の方針に向けて会合を重ねるとのことですが、実りある結論が出され実現することを期待しています。

●倉敷・早島について

 昨年末の公職選挙法改正による選挙区の見直しと、自民党における支部長の再選任により、私は引き続き岡山県第四選挙区をお預りすることとなりました。拡大した真備町・船穂町にも秋祭りなどの機会には極力伺うようにしており、温かく受け入れていただいていることに深く感謝申し上げます。7月に平成30年豪雨災害における洪水から5周年を迎えましたが、その対策として実施されていた小田川・高梁川合流点の付け替え工事について、10月29日に通水式が挙行され年度内の完工に向けてラストスパートとなっています。同時に、高梁川下流の堤防強化工事も順次施行されており、洪水災害に対してより安心していただけるようになります。災害により深い傷を負った真備町に寄り添い、本来10年かかる予定の工事を5年で実施する突貫工事に尽力された国土交通省高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所濱田靖彦所長をはじめご関係の皆さまに、心から感謝を申し上げます。

 また、慢性的な渋滞に悩まされている国道二号線岡山・倉敷間の改良、船舶の大型化に対応するための水島港の航路浚渫、六間川の改修など、引き続きそれぞれの地域で必要とされている事業の推進に取り組みます。

 今年は春に岡山県議会議員選挙、夏には早島町長選挙がありました。来年は春に倉敷市長選挙および市議会議員補欠選挙、秋に岡山県知事選挙が予定されています。いずれの選挙も未だに構図は決まっていませんが、それぞれに適切な判断をしたいと考えています。

●私事について

 個人的には今年後半の最大のサプライズは、妻・自見はなこの内閣府特命担当大臣就任でした。担当の大阪関西万博の建設費用増等とタイミングが重なり国会で苦労をしましたが、地方創生や沖縄北方対策、食品ロス削減等消費者庁の担当も含め前向きに頑張っていますので、私同様に応援してやっていただければ幸いです。おかげさまで母・久美子やこどもたちも含めて家族皆元気で過ごしており、誠にありがたいことです。

 昨年「令和四年末のご挨拶」にて、シーバスを狙ったルアー釣りを始めたことを記しましたが、現在でも続いています。あれこれ試行錯誤をしつつごくたまに釣れる程度という腕の方にはあまり変化はありませんが、夏にチヌキューブを使ったチヌ釣りを経験したことをきっかけに、少しずつ他魚種へのターゲットの拡大を目論んでいます。釣具屋さんにもだんだん顔を覚えられてきた気がします…。なお、現在遊漁船への救命いかだ搭載義務化を巡り、国土交通省と関係者の間で議論が行われています(詳細はこちらの記事「船釣り関係者に激震「救命いかだ搭載義務化問題」とは? 遊漁船に不安と負担を強いる本末転倒な改正省令案」(月刊つり人ブログ)をご覧ください)が、どうにか解決に向けて知恵が出せないかと考えています。

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(写真:今年魚を釣ってくれたルアー君たち。季節により反応が異なり奥深いです。)

●謝辞

 今年も本当にさまざまなことがありました。特に自民党としては地検特捜部の捜査を受けている議員等が少なからず存在しており、穏やかな年末とはとても記せる状況ではありません。ただその中でも、どうにか年末を迎えられているのは、倉敷・早島をはじめとする本当に多くの皆さまのご支援があってのことと、深い感謝の想いでいっぱいです。まずはできるだけ早くこの事件に一定のけじめをつけ、落ち着いて政策の議論を行えるよう政治への信頼を回復することが急務です。令和六年におきましても、引き続き変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますよう、心からお願い申し上げます。

 どうぞ皆さま、よいお年をお迎えください。

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2023年8月21日 (月)

週刊新潮より海外派遣に関し取材依頼があり回答しました

 『週刊新潮』誌から、今年7月のフィンランド、スウェーデン派遣に関して取材依頼のファックスがあり、回答をいたしました。当該派遣に関しては、既にに私のブログでも「フィンランド・スウェーデン視察記」をアップしておりますが、メディアからのお問い合わせですので対応することとし、下記の通りに回答いたしましたので、公表いたします。

 8月23日発売号の誌面に掲載する記事に関し、8月20日の日曜日にファックスを送信され、翌日午後5時までに回答を求めるという日程感については、回答に要する負荷に配慮がなく、また回答が記事にどの程度役立てられるのか疑問を感じ得る日程設定という印象は免れません。実際、この回答の準備のために私は21日の日程を急遽一部変更して対応に充てました。そうしたこともご賢察の上、この回答が編集部において適切に取り扱われ、意義のある記事に資するものとなることを心から期待しています。


【取材のお願い】(「取材のお願い」画像)

衆議院議員 橋本 岳 様
取材のお願い
2023年8月20日(日曜日)

拝啓

 時下益々、ご清祥のこととお慶び申し上げます。新潮社『週刊新潮』編集部の(記者名)と申します。小誌では、国会議員が海外視察に際して在外公館から便宜を供与されている件に関する記事を8月23日発売号にて掲載すべく取材を進めております。つきましては下記質問がございます。

  1. 弊誌の取材では、衆議院の海外派遣にて7月9日~14日にフィンランド、スウェーデンに行かれたと伺っております。その目的はフィンランド及びスウェーデンにおける地域活性化、こども政策、デジタル社会形成の事情等に関する調査と伺っております。現地においての具体的な日程を、ご教示ください。
  2. 国会議員は海外視察に際して、在外公館から便宜供与を受けることがあると伺っております。具体的には、ホテルの予約、訪問先のアポイントメントの取り付け、現地の事情説明、空港送迎、訪問先への動向・案内、車の手配、通訳などです。今回の視察に際して、具体的にどのような便宜供与を受けられたのか、ご教示ください。
  3. フィンランド、スウェーデンにおいて観光名所に行かれたか、ご教示ください。その際に、在外公館から便宜供与を受けられたのか、ご教示ください。
  4. 在外公館の便宜供与はどのようなものであるべきか、ご見解をお聞かせください。
  5. 国会議員と地方議員や民間人では外務省から受けられる便宜供与の内容が異なります。この点についてご見解をお聞かせください。
  6. 当該外遊は公金(税金)で賄われているものと理解しておりますが、この理解に相違はございませんでしょうか。

 質問は以上です。お忙しいところ誠に恐縮ではございますが、締め切りの関係上、明日8月21日(月曜日)午後5時までにご回答いただきたく存じます。以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具
((株)新潮社「週刊新潮」編集部住所、記者氏名、連絡先)


【橋本からの回答】(回答画像)

令和5年8月21日
(株)新潮社「週刊新潮」編集部 (記者名)様
衆議院議員  橋本 岳

拝啓

 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。2023年8月20日付「取材のお願い」におけるご下問につきまして、下記の通り回答申し上げますので、ご査収ください。

 なお当方は、貴誌の発売日および締切について一切関知する立場にはございません。ご下問への回答を充実させるためにも、今後はよりお早めに、また事務所営業日にご依頼いただけますと幸甚です。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。

敬具
問1,3関係)

 今年7月に衆議院の派遣によりフィンランド、スウェーデンに参りました。その日程や内容等につきましては、現在衆議院が報告書を公表する準備をしておりますので、そちらをお待ちください。なお個人的な記録として「フィンランド・スウェーデン視察記」(http://ga9.cocolog-nifty.com/blog/2023/07/post-a3c1f3.html)をブログにて既に公表しております。そちらもご参照願います。

問2,3,4,5関係)

 今回の派遣にあたり、衆議院の依頼により外務省をはじめとする関係政府機関にご協力いただいているものと存じます。詳細は衆議院事務局国際部総務課にお尋ねください。なお一般的に、外務省の便宜供与については、公共性・公益性を有する用務で海外渡航する者に対して行われるものと承知しています。

問6関係)

 今回の派遣に関する旅費等は、衆議院の予算から支弁されているものと承知しています。

以上

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2023年8月10日 (木)

マイナンバーおよびマイナンバーカードなどを巡る私家版Q&A

 マイナンバー及びマイナンバーカード、またその健康保険証としての利用を巡り、トラブルが報道されご心配をおかけしています。ただ様々なトラブルが同時に報告されており、またマイナンバーの仕組みや社会保障そのものの仕組みが複雑だったりするため、必ずしも的確に理解されているとは限らないとも思われます。また、政府において理解をもとめるために丁寧に説明することが大事ではありますが、政府任せにしておいてよいとも思いません。

 そこで、私なりにマイナンバー等に関する認識をQ&Aに取りまとめてみました。私家版として公表しますので、ご理解の一助となればと思いますし、また誤りがあればご指摘いただければ幸いです。なお文責は橋本がく個人にあり、政府や所属組織の見解を表すものではありません。また、私なりに確認をしながら記し誤り等があれば随時修正はいたしますが、仮に何か損害が生じても責任は取れないことは申し添えます。


Q.マイナンバーカードはどう扱えば良いの?
A. 鍵束やクレジットカードみたいなものとして扱うといいです。
(解説)  マイナンバーカードは、例えばコンビニで住民票が取得できたりしますし、健康保険証の代わりにもなって、便利なものです。一方で、券面にマイナンバーが記載されていて、みだりに他人に見せるなとも言われます。どう扱えば良いか、迷う方もおられるでしょう。

 個人的には、鍵束やクレジットカードみたいなものとして扱っていただければいいと思っています。大事にするために箪笥にしまったり神棚に祀ったりしていても、あまり役に立ちません。持ち歩かないと意味がありません。

 一方で、家の鍵やクレジットカードと同様に、見ず知らずの人にホイホイ見せたり渡したりするものでもありません。そうした行動が悪用につながる恐れがあるのは、マイナンバーカードもクレジットカードも家の鍵も同様です。

 とはいえ、クレジットカードであれば、基本的にはお店の人に渡さないと決済できません(最近は渡さないで決済できる場合も増えましたが)。家の鍵であれば、普通他人には鍵を渡すことはありませんが、家族や彼女ないし彼氏には、むしろ進んで合鍵を作って渡すものだったりもします。マイナンバーカードについても、行政機関や医療機関の窓口の端末やコンビニの端末などにかざすことで住民票や戸籍謄本の取得ができるサービスが受けられたり、健康保険証として使えたりします。普通に財布かカードケースにでも入れて持ち歩いて、利用してください。


Q. マイナンバーカードを落としたりなくしたりしたら、困りませんか?
A. 保険証を落としたりなくしたりした程度には困ります。なるべく落とさないようにしましょう。
(解説)  まず、マイナンバーカードは、落として他人の手に渡ったからといって、それだけでただちに何か悪用されることは、ありません。マイナンバーカードおよび券面記載のマイナンバーは、利用するためには暗証番号の入力や顔写真の確認など本人確認が必要となります。とはいえ、クレジットカード同様、カードと暗証番号は別々に管理するようにはしてください。また他人の顔写真のお面をつけて医療機関の保険資格確認システムの顔認証をクリアする実験をした方がいたようですが、まあ普通そんなことすると受付の方や周囲の方、診察する医師に怪しまれ単なる変な人として扱われかねませんので、実行はやめておいた方が無難だと思います。

 また、クレジットカードのように、マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)に電話すれば機能を停止させることができます。365日24時間受付していますので、紛失したらご連絡ください。

 その上でなおカードが見つからなければ、保険証やクレジットカード同様、再発行の手続きとなります。その間不便になりますので、できるだけ紛失しない方が良いでしょう。


Q.マイナンバーカードを医療保険証として使うことのメリットは何ですか?
A. 一般の方にとっては、財布がスッキリします。ただしそれ以外にも各方面にメリットがあります。
(解説)  マイナンバーカードは、使用開始の手続きをすると、医療機関を受診する際に医療保険証として使用できます。二枚持ち歩くカードが一枚で済み、財布がスッキリします。もしかして今後、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載させることができるようになる時が来れば、その時は一層快適になるでしょう。Android 端末では、保険証機能ではない別の機能について一部始まっていますので、個人的には今後に期待しています。

 また、医療機関側がオンライン資格確認システムというシステムを運用することでこの機能が実現していますが、このシステムと連動することにより、スムーズに医師等が患者の過去の投薬情報や受診情報等を確認することができるようになります。医療機関を受診される際に、問診票等で既往歴や現在飲んでいる薬等を確認されますが、このシステムにより医師側が過去の情報を参照できるため重複投薬や飲み合わせの確認をより確実にできるようになりますし、問診がよりスムーズに行えるようになります。患者側にとっても、新しい医療機器を受診するたびに既往歴等を毎回イチから書かなくてはいけないのは煩わしいものですので、問診の改善には繋がるものと思います。また災害等緊急時、本人が意識不明で問診や同意取得が困難な際にも、医師が既往歴等を参照できます。このことが万一の際にはとても重要になるかもしれません。

 転職や引越しにあたり、健康保険の移動に伴い脱退と加入の手続きが必要になります。マイナンバーカードを保険証として利用可能にしておけば、手続きそのものが必要なことに変わりはありませんが、同じカードをそのまま用いるため、新しい保険証が郵送されるのを待つ必要はなくなります。

なお、医療機関で受付をしている方の事務的な手間が、マイナンバーカードでの保険資格確認の場合すごく楽になると伺ったことがあります。医療機関によるのかもしれませんが、そうしたこともメリットと言えるでしょう。

 またこれも効果として具体的に計測し難い面がありますが、保険証の不正利用(なりすまし等)がし難くなるのも、保険者にとってはメリットといえます。保険証には顔写真がありませんので、仮に違う人の保険証を使用して受診しても、初診の場合は医療機関には事実上確認の術がありません。また、保険者にとってのメリットとして、毎年保険証を被保険者に郵送するコストが省けるということも挙げられるでしょう。たかが郵便代とか封筒代とかですが、国民皆保険ですから総合すればチリも積もれば山となります。


Q.では、医療保険証をマイナンバーカード化するデメリットは?
A. コピーは難しくなるでしょうね。
(解説)  例えばこどもの遠足の際、万一の備えとして保険証のコピーを持たせることがあります。もちろん本人のマイナンバーカードを持たせればよいのですが、親としてはやはり落としたりなくしたりしないか不安でしょう。同様に、特別養護老人ホームのようなご高齢の方の入所施設などで、保険証を施設が預かり管理する場合がありますが、マイナンバーカードを預かるのは不安ということもあるかも知れません(あまりここはセンシティブに考えすぎなくてもよいのではないかとも思いますが)。

 そういう場合のために、基本的には申請により資格確認証という、今の保険証と同じ内容の紙をもらうことができます。その紙を窓口に示せば、医療機関の窓口の方の作業は多分増えますが、同じ医療を受けることはできます。こどもの遠足にも、資格確認証そのものかそのコピーかどちらでも持たせれば、出先で受診が必要になった際に困らずに済みます。

 先日岸田首相が記者会見を行い、この資格確認証について、マイナンバーカードを持っていない方、マイナンバーカードを健康保険証として利用する手続きをしていない方について、資格確認証を発行すると表明されました。おそらくは申請の手間を省いて自動的に発行されるという意味でしょうから、手続きしない人は当面今のままの形式が維持されることになります。

 一方で私もそうですが、すでにマイナンバーカードを保険証として利用している方に新たに保険証を送ってもらう必要はありませんし、その分かかるコストは別に使っていただければ良いですので、そのような形で良いのではないかと思います。

 あと、ないものねだりをするならば、国や自治体が行政施策として行っている医療費自己負担分の補助制度(こども、難病、障害など)についても、保険証とは別に紙の証明書が必要だったりします。また、各医療機関の予約カードとかもあったりして、正直にいえばそちらの方が財布を物理的に圧迫する原因になります。個人的にはそれらもマイナンバーカードやスマホのアプリにして統一してもらえると、医療アクセスが極めて便利になるんじゃないかなと思うのですが…。


Q. 健康保険証をマイナンバーカードにすると紐付け誤りが心配とかいわれるけど、大丈夫?
A.間違いは減らす必要がありますが、健康保険証をマイナンバーカードにすることと紐付け誤りは関係ないです。
(解説)  健康保険の資格情報をマイナンバーに紐付けるにあたり、誤った紐付けをしてしまったトラブルが報道されています。誤りはもちろんあるべきことではなく、政府において確認が行われており、8月8日に河野デジタル大臣から中間報告が公表されました

 転職や引越しに伴って、加入していた健康保険を脱退し、新たな健康保険に加入する手続きが必要になることがあります。その際の申請書類にマイナンバーの記載が求められますが、不記載の方の場合には加入する保険者の事務担当者が申請者のマイナンバーを確認して補足する作業が必要となります。この際に、同姓同名で生年月日まで同じ人がいた場合に、違う人のマイナンバーを登録してしまっていたということがトラブルの原因です。

 したがって、再発を防ぐためには、保険者の事務担当者が上記の作業をする際には住所など他の情報も確認することを徹底するとともに、そもそも申請書に申請者のマイナンバーを正しく記入していただけば、上記の作業が不用になります。ですので、このような申請書類にマイナンバーの記載を求められた際には、マイナンバーカードや住民票に記載されているマイナンバーを記入していただくと、トラブルを避けることに繋がるでしょう。マイナンバーカードを取得したくない方は、住民票の写しを一枚手元に準備しておくと、書類へのマイナンバー記入の際に便利です。もちろん、私はマイナンバーカードの取得をお勧めしますが。

 なおこのトラブルは、上記の原因によるものなので、マイナンバーカードを健康保険証にすることとは全く関係ありません。紙の保険証を使っていても、マイナンバーカード保険証として使っていても、いずれも発生する可能性があります。したがってこのトラブルを解決するあるいは予防する目的でマイナンバーカードを返却しても、マイナンバーカードについて保険証としての登録をせず紙の保険証を使い続けても、意味はありません。同様に、政策的に保険証の廃止を延期しても、全く意味はありません。

 むしろ、マイナンバーを書類に記入していただくことこそが、ミス防止のために大事なのです。


Q.トラブルが続いてるけど、そもそもマイナンバーって必要なの?
A.すでに行政機関内部で使われて定着しています。
(解説)  マイナンバーは、法律に基づき日本のすべての住民に一意に付された12桁の番号です。各行政機関がそれぞれに管理している情報について、個人を統一的に特定することを目的としています。マイナンバーが制度化されたことにより、行政手続きにおいて住民票の提出(による個人の特定)が相当削減され、そのためにかかる手間が減りました。

 社会保障分野においては、マイナンバー導入以前には、行政機関における個人の特定は氏名、生年月日、住所等に頼っていました。しかし漢字表記や住所表記の揺らぎなどもあり十分ではありませんでした。年金分野においてその他の要因もあり結果として各個人の年金保険料支払い記録が統合できず、宙に浮いてしまった記録は5,000万件に及び、正しい年金支給ができなくなってしまう年金記録問題が平成9(2007)年に発覚し、大問題となりました。マイナンバーはその対策として、税・社会保障一体改革の一環として導入が合意されたものです。


Q. マイナンバーは個人情報の漏洩に繋がるのでは?
A. マイナンバーがあってもなくても情報漏洩は起こり得ます。いずれにせよ適切な管理が大切なのです。
(解説)  現在、税、健康保険、年金、福祉など様々な公的場面について、それぞれの機関や部署ごとに必要な方々の情報が別々に管理されています。まずはそれら個々の機関が情報セキュリティを高め、ネット等からの攻撃やミスによる情報漏洩を防げるようにならなければなりません。例えば平成27(2015)年に日本年金機構が何者かから不正アクセスを受け100万人以上の情報が漏洩した事件がありました。この事件は日本年金機構のインターネットから内部LANに直接不正アクセスがあったものであり、マイナンバーやマイナンバーカードは一切関係ありません。

 一方で、例えば組織横通しで自分の情報を集めたい時には、情報が分散管理されている場合には、手間暇かけて情報を探して集めてくる必要があります。マイナンバーが存在しない時にそれをやろうとして苦労したのが、平成9(1997)年から開始された年金記録情報の基礎年金番号への統合作業であり、9年後の平成18(2016)年にまだ統合されていない記録が5000万件に上ることが発覚し年金記録問題となったのは先に記した通りです。

 こうした反省を踏まえ、本人の情報を集める場合により正しく迅速に検索できるようにする目的で整備されたのがマイナンバーなのです。情報量としては、「住所・氏名・生年月日」とマイナンバーはほぼ等価ですので、各種行政届出書類に氏名住所等を記すのと同じようにマイナンバーを取り扱っていただいて差し支えありません。ただ、安全性をより高めるために、むやみに他人に見せてはならないことと決められています。また、マイナンバーの仕組みでは、マイナンバーそのものではなく機関別符号に変換して各行政機関の本人の情報にアクセスする仕組みとなっており、暗号化やアクセス制限などの仕組みとあいまって、安全性を確保しています。

 以降、少し詳し目にマイナンバーの情報アクセスおよびセキュリティの仕組みを記します。各行政機関が保有するデータベースを貸し金庫、個人情報を札束のような資産に例えると、わかりやすいかもしれません。ある人が、A銀行、B銀行、C銀行に貸金庫を借りて、自分の所有する現金を分散して管理しているとします。

 この場合に、貸金庫の鍵をそれぞれ3本持っていても良いのですが、鍵束がジャラついて持ち歩きに不便ですし、どの鍵がどの銀行のものか覚えておく必要があります。鍵ごとに別々の暗証番号がついていたりすると、あっという間に混乱します。もちろん、鍵に「A銀行」と書いたラベルを貼っておいても良いのですが、それを落としてしまった時には拾った人がA銀行の資産を持って行ってしまいます。

 管理の煩雑さを減らすため3つの銀行の貸金庫を、すべて1本の鍵で開けられるようにすることも考えられます。ただしその場合、その1本を紛失して誰かに拾われてしまったら、3つの貸金庫ともすべて開けられてしまうリスクも増えます。

 そこで、マスターキーを1本用意して、あと「総合受付」を用意してそこにも3つの貸金庫を置き、その中に3つの銀行の貸金庫の鍵を分けて入れて預けておくことにしました。「総合受付」には係の人を置き、免許証などで本人であることを示ないと、マスターキーを各銀行の貸金庫の鍵に交換してくれない仕組み付きです。そうすることで、本人が持つ鍵は1本で済み、しかしその1本を誰か別の人が悪用しようとしても、「総合受付」では相手にしてもらえないし、各銀行の貸金庫も開けられない仕組みができます。また仮にA銀行の鍵を落として誰かに拾われても、B銀行およびC銀行の貸金庫の安全性には影響せず被害を限局化できます。ここでいうマスターキーの役割を果たすのが、マイナンバーなのです。そうすることで、マイナンバーを利用することで各行政機関が保有する個人情報を一意に管理できるようになるとともに、マイナンバーそのもので各行政機関が管理する個人情報に直接にアクセスしない仕組みになっているのです。

 ただし、実際には各行政機関は、法律に基づいて、それぞれの目的のために別の行政機関の個人情報を参照します。上記の例え話でいうならば、「総合受付」は、本人のみならず、特定の行政機関からマイナンバーでの照会を受けると、別の行政機関の貸金庫の鍵を利用してその人の個人情報を取得し、参照元に返す仕組みになっています。税や社会保障、災害対策等に関してその人の情報を参照し合うためにマイナンバーがあるので、むしろそういう利用のされ方の方が通常業務かも知れません。情報を参照できる機関やその目的は、法律によって限定的に定められています。

 また、銀行の貸金庫に資産を預ける場合では、銀行は貸金庫の中身を覗いたり盗んだりはしませんが、当然ながら各行政機関は自らの業務のために保有する個人情報を自らの業務のために利用します。

 こうした中で、マイナンバーのシステムにおいて情報漏洩のリスクは、当然ながら上記の例え話における「総合受付」が確実にアクセス管理を行うことに依存する要素が高いため、ここは特に厳重に守る必要がありますし、実際にそのようになっています。一方で、結局各行政機関の内部ミスやネットからの不正侵入により情報漏洩されることの方が実際に多々発生しており、そちらの対策が急務です。この場合、マイナンバーの仕組みは情報漏洩には関係ありません。

 貸金庫の例え話で言えば、鍵をいくら厳重に管理しても、銀行強盗かルパン三世、或いは内部者などに銀行から物理的に貸金庫ごと盗まれるリスクがありますが、それは貸金庫の鍵の管理の問題ではないのと同じです。

 したがって、個人的には、マイナンバーによる情報アクセスが個人情報漏洩リスクを上げるということは理論的には言えるとは思いますが相当厳格な仕組みになっており、マイナンバーに関係しない情報漏洩リスクの方が依然高いのではないかと思います。


Q. ではマイナンバーカードやマイナポータルって何なの?
A. 貸金庫の例え話でいうところの「総合窓口」における本人確認の手段と、総合窓口の透明性確保用のwebサイトです。
(解説)  先ほどのマイナンバーの仕組みについての解説で、銀行の貸金庫や「総合窓口」という話を記しました。実際には情報ネットワークを通じてこうした作業が行われます。当然、本人が自分に関する情報を参照することもできるのですが、その際に、マイナンバーの本人であることを、ネットワークを通じて証明する必要がありますが、これを行う仕組み(公的個人認証サービス)がマイナンバーカードに組み込まれているのです。これは、従来の行政では実印および印鑑証明が担っていた機能です。

 ですので、マイナンバーカードそのものに様々な個人情報が格納されているのではなく、あくまでも印鑑同様のものと考えていただいて差し支えありません。ただし実印と印鑑証明をセットで他人の手に渡すと悪用の恐れがあるのと同様に、マイナンバーカードとパスワードが一緒に他人の手に渡ってしまうと悪用される恐れがあります。その場合は速やかに利用を停止してください。

 また、先ほどの例え話において「総合窓口」が重要な役割を果たしていることがご理解頂けると思うのですが、本人が自分の情報がどのように管理されたりアクセスされたりしているのか透明にしておくことが、システムへの信頼の基礎となります。そのために用意されたものがマイナポータルであり、同名のスマホアプリやwebサイト(https://myna.go.jp )などの形で実装されています。スマホアプリであれば、マイナンバーカードをスマホで読み取ることにより、マイナポータルにアクセスして自分でマイナンバーにより参照できる情報を参照したり、どの行政機関がマイナンバーを用いて自分の情報を参照したりしたかを見ることができるのです。マイナンバーの仕組みにおける自己情報コントロール権の実装という表現も可能でしょう。

 なおマイナンバーカードの発行には上記のような本人認証の機能を持つため、発行の際には窓口での写真の確認など手間がかかります。なので、ついでに券面に住所氏名顔写真を記載することで、物理的な本人確認手段としても活用できるようになっています。


Q. マイナンバーを銀行口座と紐づけると、預金額が政府に筒抜けになるってホント?
A. なりません。振込みに必要な情報を登録するだけです。
(解説)  マイナンバーを銀行口座と紐づけるというのは、具体的には、個人の銀行口座の銀行名・支店名、種別(普通か当座か)、口座番号、口座名義の各情報を登録してもらい、行政機関がマイナンバーを通じて参照できるようにすることです。これらの情報により、行政機関からその口座への送金が可能となりますが、銀行口座の残高照会や引き落としは銀行による本人確認その他の手続が必要であり、不可能です。できたら銀行の信用問題です。

 ネット通販などを利用して、請求書によって銀行振り込みをする手続きをされる場合に、相手の預金残高が見えたりすることはないと思いますし、振り込みができるからといって引き落としができるわけではありません。行政も公金給付の際に、同様に振り込み手続きを銀行に対して行っているだけです。

 この仕組みは、コロナ禍において政府から給付金を国民に支給する際に、銀行口座の確認等に手間取り批判を受けたことを反省し、事前に銀行口座を政府に登録しておいてもらおうというものです。この手続きを行っておけば、今後、政府から給付金を受け取る際には、改めて銀行口座等を登録したりする手間を省いてスムーズに受給することができます。

 例えば年金受給者が、銀行振り込みで年金を受け取ることができるために銀行口座を日本年金機構に登録するのと同様に、政府にも事前に登録しておいてくださいということです。ですので、先の通常国会においては、日本年金機構が保有する口座情報を政府に移管できる法改正を行い、登録手続きを省く対応を行いました。


Q.あれこれ書いているけど、政府のマイナンバーカード普及への対応は適切だと思っているの?強引ではない?
A. トラブルそのものは問題ですが、健康保険証の廃止含め普及策が問題だとは特には思いません。ただ、感想はいくつかあります。
(解説)  マイナンバーやその関連システムに限らず、そもそもイノベーションの普及はそんなに簡単なことではありません。例えば携帯情報端末一つとってみても、ポケベルからPHS、携帯電話、そしてスマホと進化していますが、そのたびごとに「使いにくい」「わかりにくい」「自分には必要ない」という声があったことをご記憶の方は少なくないのではないかと思います。また実際に初期トラブルもシステム導入にはつきものですし、存在が社会問題扱いされることもあります。過去を辿れば、鉄道敷設の際にわざわざ町から離して駅を作った実例とか、カメラを向けられると魂を吸われるといった噂とか、後から考えると一体何だったのかと思うような言説や行動が飛び交うこともそう珍しいことではなく、初めての、よくわからないものに対する人々の不安というものは、仮に後から考えれば不合理なものであっても、一定あるものとして考えなければなりません。そういう意味で、マイナンバーやマイナンバーカード等に対しても、さまざまな評価やトラブルがあることは別段驚くようなことでも、おかしいことでもありません。ごく一般的なイノベーション普及のプロセスだなあと感じています。一方で、年金記録問題を再び起こすことも避けなければなりませんし、このデジタル化の時代において後戻りしても仕方ありませんので、一旦導入したマイナンバーをやめるという選択肢は、少なくとも私の中では考えられません。

 国の税金を使ってマイナポイントを付与してマイナンバーカードの普及を図ったことについても、無駄遣い等の批判はあります。ただイノベーションの普及という観点では、その昔Yahoo!BBという企業がADSLモデムを駅前で無料配布していたことがブロードバンド普及のひとつのきっかけになったこととか、さまざまなキャッシュレスサービスがポイント付与などを行って普及を図っていることとかを思い出すと、そんなに珍しいことでもありません。またマイナポイント付与も、結果として国民への金銭価値の給付なわけですから、他の給付施策への態度とあわせて考える必要があるでしょう。

 健康保険証のマイナンバーカード化については、必要なことだと思いますし立ち止まる必要はあるとは思いませんが、ただカード普及の手段としては挑戦的な選択だったかもしれないという感想は持ちます。「イノベーション普及学」という有名な本がありますが、この中で、新たなイノベーションを早期に採用するイノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる方々は比較的年齢が若いということが記されています。一方で、健康保険証のヘビーユーザーは高齢者の方が多く、もちろん人にはよりますが、必ずしも新しい技術やその成果の採用に熱心ではない方が、他の年齢階層に比べて多い可能性があります。マイナンバーカードも、スマホで読み込むことで便利に活用したり、マイナポータルアプリを使って手続きをしたりすることが可能になるところ、そもそもスマホの普及や使いこなしもなかなか困難な方も少なくありません。また、オンライン資格確認のために端末の導入を急がされた医療機関側についても、特に診療所は高齢な医師による経営も少なくなく、ここに時限的なシステム導入をさせたことは、結果論ですが、すべての人にとってストレスが大きかったかもしれないとも思います。普及学という観点からすると、教育や子育て関係など比較的若い方を対象とした施策でマイナンバーカードを活かして利便性を高めることも、今後は考えられるべきかもしれません。

 なおしばしば、「政府はもっと説明を尽くして国民に理解を求める努力をすべき」といった言説を見かけます。もちろん政府はそうあるべきです。また、政府による個人情報収集を警戒視する見方もあります。これも、政府はそういう目があることを意識して、透明化に努める必要があることは言を俟ちません。ただ一方で、普及学という観点では、アップル社のiPhoneが、指紋認証や顔認証のために生体情報という個人情報ズバリそのものを全世界から収集しまくっているにも関わらず、おそらく大多数のiPhoneユーザーが別段アップル社のセキュリティ対策や情報管理などにロクに関心がなく、説明も見ずに購入し使用しているであろうということにも、注意を払う必要があるとは考えます。

報道等でマイナンバーカードを巡って何かコメントをされるみなさまにおいても、説明や理解促進といった当然のことのみならず、上記を踏まえ、どうやったらよりスムーズに普及させられるかという観点でもご示唆をいただけると、私も政府ももっと勉強になってありがたいことだと思いますし、社会に裨益するところ大とは考えるところです。

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2023年7月17日 (月)

フィンランド・スウェーデン視察記

 令和5年7月9日晩に羽田空港を出発し、14日夕方に成田空港に帰着する日程で、フィンランドおよびスウェーデンに現地事情等視察のため衆議院から派遣されました。後日衆議院が報告書を作成しますが、とても勉強になりましたので、私個人の視点からもその主な内容にいて記します。なお、私個人のメモや記憶に頼って記しておりますので、誤りがあるかもしれないことも含めて文責は橋本がく個人にあります。公式な報告は衆議院の報告書をお待ちください。

●概要

 今回の視察団は、衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会の委員長および理事5名および関係省庁職員3名、衆議院の調査員1名の計9名より構成され、委員長として私が団長を務めました。委員会の所管範囲に従って地域活性化・こども政策・デジタル関係の視察ということになりますが、かねてより、妊娠期から育児期まで一貫して相談支援を受けられるというフィンランドのネウボラを見学したいという私の希望も容れていただき、視察先はフィンランドおよび隣国のスウェーデンとなりました。

 主な日程は、7月9日晩に羽田空港を出発し、翌10日早朝にフィンランドのヘルシンキに到着。午前中はカラサタマ地区のスマートシティプロジェクトを見学し、午後はODDI(ヘルシンキ中央図書館)を見学。夜は在フィンランド邦人の方々と意見交換しながら会食。翌11日はヘルシンキ市の隣のエスポー市のアアルト大学キャンパス内でベンチャーインキュベーション等のエスポー市の取組を伺い、お昼にはヘルシンキ市に戻ってヘルシンキ市若者協議会の方々と会食しながらヒアリング。午後はカンピ地区ファミリーセンター(ネウボラ)および児童養護活動NPOであるSOSこども村の事務所を訪れてそれぞれの活動についてヒアリングと見学をしました。

 12日早朝からスウェーデンのストックホルムに移動し、午前中はストックホルム市オステルマルム地区オフィスを訪問してストックホルム市における児童養護についてヒアリング。お昼に在スウェーデン邦人の方々と会食して意見交換を行った後、スウェーデンの技術革新庁を訪問してMaasの実証実験を行うプロジェクトであるDrive Swedenについてヒアリングを行いました。能家正樹・駐スウェーデン日本大使にお招きをいただき、大使公邸にてスウェーデン事情などを伺いながら夕食をご一緒しました。

 翌13日早朝にストックホルムを出発し、ドイツのフランクフルトで便を乗り換えて、翌14日夕方に成田空港に帰着する日程でした。なお予定と予定の間が空いてしまった時間を利用して、それぞれの街を散歩したりもしています。

 所管範囲の広さのため内容が多岐にわたりますので、「地域活性化・デジタル」「こども」「その他」の分野にわけて、感じたことなどを記します。

●地域活性化・デジタル

<カラサタマ地区スマートシティ見学>

 ヘルシンキ市のカラサタマ地区は、かつて工業地帯として栄えていましたが、2013年にスマートシティとして再開発されることとなりました。海沿いで石炭火力発電所(SDG対応のためこの4月に停止された由)がすぐ横にあるのは工業地帯の名残を感じさせますが、駅に隣接した商業施設、16階くらいの高層ビル4棟、公園、7~8階建ての住宅団地などが配置された地域です。住宅団地は、地震がなく冬になると短時間の日照時間を有効に取り入れるため窓が大きく、また外観もレンガ調で統一されています。しかし同じビルが並ぶことを避けるためにわざと複数のデベロッパーに参加させた結果建物の色やデザインは適度にバラバラであり、また公園や道路などの空間も広く植栽も豊かであるため、無機質さを感じさせない、ヨーロッパらしい落ち着く街並みとなっていました。住民の多様性を確保するため、賃貸住宅と持ち家住宅が混在し、学生や社会的支援対象者なども居住しています。

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(写真:いずれもカラタサマ地区の街並み)

 ガイドさんに引率していただき、スマートキー(カード)によって管理されるダストシュート、カーシェア、各診療科や検査が設けられた健康センター、食品ロス対策の店舗などを見学しました。スマートシティとしての再開発にあたっては、デジタルによる効率化により「一日にもう一時間(One more hour a day)」を住民に提供することをコンセプトとしているとのことですが、その他にも環境サステナビリティなどさまざまな意識が伺えました。

 住民が利用するダストシュートなどは、非接触のスマートキーにより管理されていますが、そのデータ(例えばゴミが出された時間、量など)は匿名化された上で市がオープンデータとして集計して公開され、改善その他の活動に生かしているとのこと。また建物の共有スペースや空いている駐車場などは、アプリで街の外の人にも時間貸しされ、有効活用されているそうです。

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(写真:ダストシュート。ちょうど住民の方が使用しておられました)

 ヘルスケアセンターは、日本的に記せば市立診療所ですが、複数科の外来や検査も行えることに加えて福祉窓口もあり各種手当の申請手続きもその場で行えます。窓口は多言語対応の端末化されており非接触のカード(Kela card)を使って保険資格の確認や診察の受付ができます。医師は診察にあたり過去の診療履歴等を参照できるとのことで、このあたりは、日本がマイナンバーカードによるオンライン資格確認および医療DXで実現しようとしていることが既に先行して実現されているようです。端末操作が困難な方向けに有人窓口もありますが、見た限りでは多くの方が普通に端末で受付をしていました。

<OODI(ヘルシンキ中央図書館)見学>

 OODI(ヘルシンキ中央図書館)は、3階建てで曲線や傾斜が多用されたデザイン、ガラスや木などが組み合わされた外装の巨大な施設です。図書館という名称の通り3階には分類された書籍が並べられていますが、1階はホールやカフェ、2階は誰でも使用可能な機材や空間(コンピュータやプリンタだけでなく、楽器や3Dプリンタ、ミシン、音楽スタジオ、キッチンスタジオ、ゲーム機(スイッチとかプレステとか)スペース、打ち合わせスペースや作業空間など)を有する市民メディアセンターと呼ぶべき施設です。個人的には、私の母校である慶大SFCにあるメディアセンターの巨大版といった趣でした。閲覧スペースにもカフェがありくつろぎながら読書することができることに加え、こどもの遊びスペースもあり親子連れでも普通に楽しめます。

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(写真:OODIの外観。遠景と近景)

 3階の床は一部ゆるやかに傾斜して坂になっており、頂上からは3階全体を見回すことができます。誰でも必ず一度は登頂を目指したくなるのではないかと思います。もちろん私も登頂しました。また2階には階段状の、リラックスした姿勢で過ごせるスペースがあり、若い方々を中心にめいめい本を読んだりノートPCで何か作業をしたりしていました。私がこどもの頃、地元の市立図書館で床に寝転がって本を読んでいて家族に注意されたことを思い出して、自由な姿勢で過ごせるのはかなり羨ましく感じました。

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(写真:OODIの3階、最も標高が高い地点からの眺め)

 またOODIは、広場を挟んでフィンランド国会議事堂と対面するように建設されており、3階のベランダからは国会議事堂を眺めることができます。これは、市民が図書館で勉強して国政を監視するという機能を意識した配置だそうです。ちなみに日本の国会図書館は国会議事堂の横に建設されており、国会議員の活動を補佐することを役割のひとつとして掲げています。いずれも健全な民主主義のために図書館があるという理想は共通していますが、国会に対する見方の違いが表れているようにも感じました。なお、通訳して頂いた方から、日本から視察に来た地方議員の方が「市民が勉強されたら困るなあ」と発言されたのを耳にしてモヤモヤした気持ちになったと伺いました。私もモヤモヤした気持ちになりました。

 なおOODIについてはこちらの記事でも紹介されていますので、ご参考にしてください。

■『“世界一の公共図書館”は、なぜフィンランドから選ばれたのか? その理由を探るためヘルシンキを訪れた。』(中島良平)

<エスポー市エンターエスポー社ヒアリング>

 エスポー市は、ヘルシンキ市に隣接する人口30万人でフィンランド国内第2の都市です。サスティナブル(持続可能な)都市として欧州1位と評価されており、ベンチャー起業も盛んであることが有名です。エスポー市の100%子会社であるエンターエスポー社の清水さんから、エスポー市の取組についてお話を伺いました。

 エスポー市には携帯電話機器等で知られるノキアの本社やアアルト大学のキャンパス存在し、ノキアがスマホ開発で乗り遅れてしまったために技術者を解雇しなければならなくなった際に、起業を積極的に支援したこともあってベンチャー起業が盛んになったきっかけがあったようです。また市長も「City as a Service」というコンセプトを掲げ、トップダウンを排した市民やコミュニティを重視した取り組みをしています。

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(写真:エスポー市についてのプレゼンテーション)

 デジタルに関する取り組みとして、市民データのAIによる分析を行い児童虐待予防や移民の動態予測に活用した例や、都市開発プロジェクトにおいて5G街灯(データのやり取りができる街灯)を設置した例、”My Data Experience in Espoo”として自分のデータがどのように利用されているか可視化する取組の例などが紹介されました。

 エスポー市のコミュニティを支える要素として、「トラスト(信頼)社会」というキーワードで清水さんは表現されていました。福祉や平等精神の価値観や、政府の透明性やそれに基づく信頼感(あるフィンランド人の方は”We are happy tax payer.”と発言されたとのこと。日本もそうおっしゃってもらえる政府を目指さなければなりません)、がんばらなくてもやり直せる社会であること、メディアリテラシーの高さとそれを支える質の高い学校教育、Well-Beingや労働者の権利、休息の重要性に意識が高いこと、市行政は草の根の支え役になっていること、などを感じておられるとのこと。またフィンランドは人口が少なく(面積的には日本と同程度だが、人口は北海道と同程度)市場規模が小さく、また外国からの移民もそもそも多いため、スタートアップ企業は国内で一定の成果を挙げてからGo Globalするのではなく、最初からBorn Globalであるという言葉が印象的でした。起業前後のコーチングやコンサルティング等の支援も充実しています。

 なおフィンランドにおいても首都圏の人口増加に対して、その他の地方部の人口減少は問題になっているとのことで、そこは日本と同様の悩みはあるようでした。また行政データのタテ割りの問題については、今の市長がそこを排する取組をしたとのこと。また”happy tax payer”という意識の原因としては、図書館や学校教育(成人の学び直しなども無料)の充実やネウボラなど公共サービスが充実していることが肌で感じられること、また予算使途のプレゼンテーションが上手であること、などが挙げられました。

<Drive Swedenプロジェクトヒアリング>

 Drive Swedenは、スウェーデンの技術開発庁(VINNOVA)、エネルギー庁等の官庁、VOLVOやSCANIA等の自動車メーカー、大学等の研究機関地方自治体等が協力して交通分野の革新を目指す研究の枠組みです。自動車産業における四つのトレンド”CASE”- Connected, Automated, Shared, Electricに対応するべく多くの具体的な研究プロジェクトが行われています。ビジョンとして、スマホアプリでカーシェア、鉄道、電動キックボードなどを組み合わせた移動がスムーズに実現できる、いわゆるMaaS(Mobirity as a Service)の実現を掲げています。

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(写真:Drive Swedenプレゼンテーション)

 ただ、実現にはなかなか苦労しているようで、鉄道事業者の顧客囲い込みに直面をしているとか、カーシェアの場合の車への課税をどのようにするかとか、第三者による鉄道切符販売は持続可能性かといった課題があり、また特に地方部ではMaaSの実現に困難を感じているという率直なお話がありました。一方で不動産のデベロッパーがこの分野に注目していることなど新しい動きもあるとのことでした。

●こども政策

<カンピファミリーセンター見学>

 フィンランドの子育て支援の施策としてネウボラは有名です。ネウボラとは、フィンランド語で「アドバイスの場所」という意味で、妊娠期から就学前にかけての妊婦・こども家族を対象として、かかりつけ保健師を中心として切れ目のない支援を行う制度および地域拠点のことです。運営主体は市町村、利用は無料であり、100%近い定着率やワンストップによる支援、産前産後を通じた同じ保健師による支援の連続性などが特徴とされています。

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(写真:カンピファミリーセンターでのプレゼンテーション)

 10年前から、ヘルシンキ市ではその他の機能も複合化したファミリーセンターとして再編されつつあるそうで、訪問したカンピファミリーセンターはヘルシンキ市のカンピ地区を担当するセンターでした。親への支援、家庭リソースの強化、心理師やソーシャルワーカーなど専門家による支援、アウトリーチなどを行っています。出産は産科医療機関で行いますが、妊婦やこどもの健診もファミリーセンターで行います。なお通常、妊婦の健診は10回、産後は0歳時10回、その後就学までの間に6回行われるそうです(日本では妊婦健診は14回が無料ですが、乳幼児・児童の健診は地方交付税措置は4回分、法定されているのは2回しかなく、地方自治体によって回数・内容とも幅があります。ここは改善したいところです)。

 さまざまな機能をひとつの施設に集めたことにより、妊婦のいる世帯が今後どのようなサービスが関わるのか見通しを持つことができるようになったとのこと。絶えずQRコードなどからアクセスできる利用者アンケートをとっており、満足度は100%と回答されるがもっとその理由を深堀したいとのこと。また相談や支援のリモート化やデータベースの活用による家庭および職員双方の負担軽減を図っているというお話もありました。

 保健師さんによる概要説明の後質疑応答になりました。日本においては、様々な背景により母親がこどもを自宅等で生み落として殺してしまうことは後を絶ちません。日本の児童虐待の統計では、0歳0か月0日で亡くなる子が最も多いのです。またその対策として内密出産の取り組みも行われています。そうした背景のもと日本側から、望まない妊娠についてどのように取り組んでいるのか、そもそも相談に来ないまたは来られない親をどうやってキャッチしているか?という質問がありました。ネウボラの保健師さんいわく、望まない妊娠についての相談ももちろんネウボラで受けていること、そもそもフィンランド人にとってネウボラへの連絡のハードルが低く、相談に来ないことは考えにくいこと、もちろん相談ハードルを下げる努力は行っており、たとえば最初の相談時には背景がわからないためいきなり「おめでとう」とは言わないことなどを心がけている、といったお話がありました。日本では行政の相談窓口というのは「しきいが高い」というイメージがどうしても拭えませんが、なかなかギャップを感じる回答でした。

 施設内の見学もさせてもらいましたが、妊婦の健診室に、きょうだいを連れて来れるようにこども用の机と椅子もあったのが印象的でした。おそらく日本では、第二子以降の妊婦健診ではこどもの預け場所を探すところから始まるのではないかと思うのですが…。そのあたりから意識と設備の変革が必要です。

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(写真:ファミリーセンター内の健診室。こども用の机椅子に注目)

<SOS子どもの村ヒアリング>

 SOS子どもの村は、児童養護の活動や施設運営を行うNPO団体です。日本でもSOS子どもの村JAPANとして活動が行われています。今回はヘルシンキ市のオフィスを訪ねて、フィンランドにおける児童養護の活動などについてお話を伺いました。

 SOS子どもの村の仕事は、虐待など何か困難な事情が発生してからの仕事と、そうした事態の発生を予防するための仕事の両方を行っています。まず困難発生後に関しては、フィンランドの20地域で、行政から委託を受けその決定内容に従って児童を支援または養護する取り組みを行っています。支援の内容も幅があり、サポートファミリー(ボランティアの一般家庭)にこどもが週末など定期的に遊びに行くことで親がリフレッシュするような支援、ペアのソーシャルワーカーや専門家が定期的に家庭訪問をして話し相手やアドバイス、行政手続きの支援などを行う訪問支援、家族ごとファミリーリハビリセンターに一定期間移って職員とともに生活させ、生活リズムを整えるを行う支援、さらになお困難な場合はこどもを親から分離して里親や児童養護施設に引き取るもの支援などがあります。こどもを引き取る場合は里親が第一の選択肢としますが、こどもが障害など困難を抱えている場合は施設の場合もあります。里親が3/4、施設が1/4程度とのことで、日本とは概ね逆です(とはいえ日本は、以前は里親は1/10とかだったので、改善は進んでいます)。

 日本における児童相談所の対応と同様にも思いますが、家族ごとリハビリセンターに入所する支援は、私が知らないだけかもしれませんが、あまり耳にしたことがありませんでした。児童福祉法第38条に基づく母子生活支援施設という類型はありますが、「配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童」が対象とされており、日本では困難を抱えていても父親がいる家庭は入所支援の対象になりません。ここは大きな違いがあるものと思われ、興味深かったです。リハビリにより生活リズムが戻り、結構良い効果があるそうです。数か月で退所することになりますが、その後も訪問支援等でフォローするとのことです。

 事前の予防対策としては、フィンランド全国で4,500名の未成年の子がいる家庭とやり取りをしています。92%の利用者が「話を聞いてくれた」と回答し、32%が「自信がついた」と回答しているとのこと。まずこういう形で数字が出せる調査をしていることから参考になります。また経済的格差を生まないために、企業からスポンサーを募り、こどもに習い事をさせる取り組みなども行っているとのことでした。

<ストックホルム市オステルマルム事務所>

 スウェーデンのストックホルム市のオステルマルム地区の事務所を訪ね、児童養護に関するご担当の方々から児童養護の仕組みなどによってヒアリングを行いました。基本的な仕組みや制度は日本の児童相談所や上記のフィンランドの仕組みと同様のように思われました。フィンランドで伺ったように、親子一緒に入所する施設もあるようです。

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(写真:オステルマルム事務所のプレゼンテーション)

 ストックホルム市におけるヒアリングで興味深かったのは、里親やファミリーホーム(家族的な小規模施設)の支援者の教育や養成を行うにあたり、家庭の安定性などとともに、犯罪歴の確認もされるというお話でした。当然日本においても、本人の申し出ベースで確認はされるものと思いますが、仮に嘘をつかれたら児童相談所では確認のしようがありません。スウェーデンでは法律に基づき市役所が警察に照会をして回答を得ることになっているとのことでした。日本では保育士や教員などに関するDBS(性犯罪歴がないことを証明する仕組み)の実現に向けて現在こども家庭庁で会議が行われていますが、職業選択の自由やプライバシー権にも関わるという議論もあります。そこをアッサリとクリアしてしまっているのは、注目に値するものと思われました。また個別ケースの措置については、最終的には市議会の委員会が決定する手続きがあるとのことで、議会が最終責任を負うこととなっているのも日本とは異なる点です(エスポー市では、市長は市議会が任命するシティマネージャー制というお話も伺ったので、地方自治制度そのものが異なっているのかもしれません)。

<ヘルシンキ市若者評議会メンバー面談>

 7月11日のお昼に、ヘルシンキ市の若者評議会(衆議院の資料ではYouth Councilを青年評議会と訳していますが、対象年齢から私には若者とした方がしっくりくるので、ここでは「若者」とします)のアイシャ・マフムード議長、ネラ・サルミン第一副議長、ローザ・クマール・サーリネン第二副議長と会食しながら面談しました。若者評議会は、フィンランドの法律に基づき自治体ごとに設置されている組織で、13歳から17歳までの者から選挙で選ばれた30名(ヘルシンキ市の場合)で構成されています。よって当然ながら議長、副議長といっても高校生や中学生なのですが、3名とも堂々と受け応えをされていました。任期は2年で、マフムード議長とサルミン副議長は当選2回、サーリネン副議長は当選1回とのこと。私たち視察団同様に法律に基づく選挙で選ばれた方々であることに敬意を表し、公式の行事同様、冒頭に委員長である私からご挨拶と趣旨説明、メンバー紹介を行い、意見交換をスタートさせました。

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(写真:若者評議会の皆さま(向かって左手)との面談)

 若者評議会は、月に1回全体ミーティングを行い、また分野別に委員会があり必要に応じて会っているとのこと。ヘルシンキ市の市長および分野ごとの4名の副市長には、自分たちの権利として年2回面会するとともに、少グループで話して市長や市議会に対して要望活動を行っているとのことでした。内容としては、例えば学校でのいじめに関して、コロナやウクライナ侵攻に関する影響を減らす取り組みを求めること、ヘルシンキ市内の都心部と周辺部で、学校間で科目の有無などの差がある不平等について改善を求めること、通学路の安全確保について改善を求めることなどがこれまであったそうです。「実際に改善されましたか?」と尋ねたら即座に「It depends on politicians!」と返されました。実際、親身になって要望を聞いてくれる議員もいるが、意見が異なることもあるとのこと。最近、市行政の打ち合わせに同席をする要望をしていたことに対し、許可が出たそうです。

 なぜ立候補しようと考えたかを尋ねたところ、それぞれ「学校間の不平等が目についたが何も改善されないのでどうにかしたかった」「1期目は環境問題に関心があった。2期目はコロナ禍におけるレイシズム(人種差別主義)に衝撃を受けたから」「1期目は学校保健の充実を求めていた。具体的には、学校の心理師(日本でいうところのスクールカウンセラーか)が少なくアポを入れても会うのに2ヶ月かかるのを改善させたかったから。2期目は、学校間の格差があり若いうちからプレッシャーを感じることに改善したかったから」とのこと。将来政治家を目指したいかという質問に対しては、過去にそういう進路を選んだ人はいるとのことで、「ひとつの選択肢だが、現政権は中道右派に傾いているところはよく注視していきたい」とのお返事。なおフィンランドでは学校教育で政党やその政策について学ぶそうです。ただし若者評議会としては、政党色はないとのこと。むしろ評議会での活動を通して、行政や政治家の意思決定の重要さを切実に感じるようになったとのこと。

 評議会の中での意見集約などについては、会議に加えてSNSでオープンに意見を求めることも活用しています。また、会議の日当や交通費が市から支給される他、選挙の際にはチラシ代とキャンディー代も市から支給されるとのこと。キャンディーを何に使うのか(まあおそらくチラシと一緒に配るのでしょうが)、選挙制度や選挙運動についてももうちょっと突っ込んで聞いてみたかったのですが、時間がなく確認できませんでした。

 また現在日本のこども家庭庁では、対面やネットなどを通じてこどもや若者の意見を募集する取組をしているが、その紹介をして感想や改善点を求めたところ「国が何かやるのは時間がかかるので、地方自治体でやった方がよいのではないか」「オンラインは増えたが交流は減ってしまったので、対面がよいのではないか」「対面して議論することで友情が育まれる面もある」といった指摘がありました。

 ただやはり同世代の中ではこの活動にあまり関心がない人も、またメンバーの中でもフェイドアウトする人もいるということでした。

 食事しながら、また通訳を挟んでの会話だったこともあり、予定時間をオーバーしてしまうほどの充実した面談となりましたが、視察団一同、自分たちのこども世代である3名の若者が、それぞれにとてもしっかりしていることに舌を巻きました。とはいえ帰り際に視察団のメンバーが地元の飴を配ったら、3名ともとても嬉しそうな顔をして、やっと中学生・高校生らしい顔を見ることができました。こちらがフォーマルに対応したので、緊張しておられたのかもしれませんね。

 日本においても、昨年こども基本法が成立し、施策決定にあたりこどもの意見も聞くことが定められましたが、その具体策は定まっていません。個人的には、若者評議会のような取り組みも十分に意義があるものと感じました。むしろ彼らにチェックされたり打ち合わせに同席されたりする分、より大人の政治家が緊張感を持って仕事に臨むようになるかもしれません。

●その他の印象や感想

 北欧のスカンジナビア半島に位置するフィンランドおよびスウェーデンは、7月でも気温が30度を越さず、湿度も低く、かつ日照時間もとても長く(朝3時くらいに日が昇り、23時くらいに日没する)、街中の緑も綺麗でとても快適な季節でした。ただしそれは夏の間の話で、冬になるとマイナス18℃くらいになりますし、かつ日照時間は逆にごく短くなります。夏休み期間であることもあり、あまり長くない快適な気候の時期を楽しむように、自転車に乗ったり釣りを楽しんだりする方々を多数見かけました。ちなみにフィンランドは魚釣りのルアー発祥の地であり、自由時間にスポーツ用品店に行ってラパラのCD-7というルアーを個人的に記念のため購入してきました(当然輸入されて日本の釣具店でも売っているのですが…)。一方で、街中各地で道路工事などが行われていました。というのも冬になると積雪や日照時間の短さのため工事できなくなるからです。なかなか切実な事情です。

 道路には自転車レーンが設けられており、自転車や電動キックボードが多数行き来していました。政策的に自動車を減らす取り組みがされているようです。ただし電動キックボードはスマホアプリを利用して自由にかつ便利に乗れるようになっていますが、夜の酔っ払い運転による事故も多発しており、曜日や時間により速度や利用そのものの規制が検討されているようです。またそこかしこに電動キックボードが乗り捨ててあったりするので、あまり景観上も良くないかもしれません。

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(写真:街角の電動キックボード群)

 またフィンランドはサウナ発祥の地としても有名です。街中にある観覧車にはサウナゴンドラがあり、熱さを堪能しながら景観を楽しめるようになっているそうです。これはちょっと驚きました。

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(写真:遠くに見える観覧車のゴンドラのうち、茶色のものがサウナになっているとのこと)

 少し話は変わりますが、前記した通りフィンランドでもスウェーデンでも、社会保障番号およびカードで税や医療保険から銀行口座まで紐づけられ、さまざまなサービスが受けられるようになっています。ただ、例えばフィンランドでは国民に番号が振られたのは第二次大戦後のことで、そこから徐々にデジタル化・ネットワーク化されてきた歴史があり、定着度合いが日本の比ではないことは致し方ないのかもしれません。

 スウェーデンでは、社会保障番号の一部は生年月日そのままであり、実質的に個人に振られる番号は数ケタです。最近移民が増え、誕生日が良くわからない人はとりあえず1月1日扱いになるため、たまたま誕生日が1月1日の方が番号を申請したら1月2日生まれの番号が振られ、カードを見せると1月2日生まれと必ず認識されてしまう事態が発生したそうで、桁数を増やす議論も行われているようです。また日本からスウェーデンに赴任した方が、附番を申請して行われるまで6か月くらいかかった上、社会保障番号があまりにも便利なため、その間は買い物も住宅を借りるのもままならなかったとおっしゃっていました。附番に時間がかかるのは、移民の増加に附番事務が追い付いていないことが原因のようです。附番を待っている間は生活が困窮しても支援サービスも受けられませんから、その結果移民がギャング化して抗争がおこり、そこに市民が巻き込まれる事件も起こっていると伺いました。日本でも、マイナンバー関連のトラブルが報道されており、多くが紐づけや発行事務における人為的なミスが原因とされています。トラブルの質は全く異なるものの、デジタル化によって事務効率化を期待するあまり、人手による事務処理の手間をすべて軽視してもならないのであろうとも思います。

 ロシアのウクライナ侵攻による影響も深刻です。日本もそうですが、物価やエネルギー価格の上昇、さらには円安の影響もあり邦人の方も大変そうでした。フィンランドやスウェーデンでは再生エネルギーの利用も進んでいますが原子力発電所も稼働しており、原子力発電所を排したドイツにスウェーデンは電力を供給しているため、スウェーデン国内の電気代も上昇しているとのお話もありました。ロシアと1,300km以上の国境を接するフィンランドでは徴兵制(ただしボランティア活動で代替可能。最短6か月)があり、会食した邦人の方のご子息が現在兵役に就かれているとか、街中のビルの地下室や地下鉄等、シェルターになる施設の整備は進んでいるが、そこで食べる食糧3日分は各自で準備する必要があるといったお話も伺いました。

 駐スウェーデン日本大使の能家正樹大使は、数年前に私が自民党外交部会長を務めていた際に外務省領事局長を務めておられ、いろいろお世話になりました。その後異動して駐エジプト大使を経て現職に就かれておりますが、久しぶりにお目にかかることができて個人的には嬉しかったです。スウェーデンではザリガニを食べるそうで、夕食会のメニューにもザリガニの味噌汁仕立てがありました。普通に美味しかったです。少し体調を崩されたりしてご苦労もあったようですが、その際にスウェーデンにて医療機関を受診するための手続きやアポ入れにかかる時間が長く大変だったようで、日本の医療アクセスの良さを痛感されたそうです。

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(写真:能家正樹駐スウェーデン大使と。すっかり学者風の風貌になっておられました)

●最後に

 冒頭に記したように、今回の出張は衆議院による派遣でした。私たちに貴重な機会をいただいた衆議院議院運営委員会や、各党の国会対策委員会の皆さまに深く感謝申し上げます。もちろん、倉敷市・早島町の皆さまに国会に送っていただいているおかげですので、地元の皆さまにも篤く感謝申し上げます。衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会の理事・委員各位、また各省庁から同行いただいた各氏にもそれぞれ御礼申し上げます。特に衆議院調査局の坂本峰利調査員はじめ調査局の皆さま、現地で受け入れていただいた在フィンランド日本大使館、在スウェーデン日本大使館、在フランクフルト日本総領事館の皆さまには、短い準備期間になってしまったにもかかわらず充実した内容のご準備をいただきました。篤く感謝申し上げます。

 学んだことは今後の議員活動に必ず生かして参ります。誠にありがとうございました。

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2023年6月27日 (火)

第211回国会を振り返って

●はじめに

 令和5年1月23日に召集された第211回通常国会は、150日間の会期通りに6月21日に閉会されました。この国会では終盤に「すわ解散か」というタイミングもありましたが、終わってみればまあ概ね順調だったと言えるものとなりました。令和5年度予算は年度内に成立した上、法案としては、防衛財源確保法や送還忌諱問題等に対応するための入管法改正案、コロナ禍の反省を踏まえて感染症危機管理統括庁を創設する新型インフルエンザ等特措法改正案、日本版CDCを創設する国立健康危機管理機構法案、不同意性交罪の新設や性交同意年齢の引き上げなどを柱とした刑法改正案等の重要法案が審議され、成立しました。議員立法でもゲノム医療推進法や戦没者遺骨収集推進法の延長、認知症基本法などが成立しています。最終盤に内閣不信任案も提出されましたが、賛成は立憲民主党と共産党のみで、与党は当然ながら他の野党も反対に回る中、粛々と否決されました。

 橋本がくは、この国会から新設された衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会の委員長に指名されその職務に努めました。また自民党においては「こども・若者」輝く未来創造本部事務総長、社会保障制度調査会事務局長、地方行政調査会事務局長、創薬力の強化育成に関するPT座長、こどもまんなか保健医療の実現に関するPT座長、死因究明推進に関するPT座長等の役目をお預かりし、それぞれに取り組みました。ここで、今国会における活動について振り返りを記します。なお毎年の振り返りは下記の通りです。振り返りシリーズもだんだん積み重なってきました。

<振り返りシリーズバックナンバー>
厚生労働大臣政務官退任にあたり(2015.10.8)
外交部会長を振り返って(2016.8.2)
厚生労働副大臣退任にあたり(2017.8.7)
厚生労働部会長を振り返って(2018.10.3)
この一年を振り返って(2019.9.7)
厚生労働副大臣退任にあたり(二年ぶり二回目)(2020.9.15)
第204回通常国会期間を振り返って(2021.6.16)
第208回国会閉会にあたり(2022.6.16)

 なお昨年秋以降年末までは、「令和四年末のご挨拶」に記していますので、そちらもご参照ください。

●衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員長として

 昨年秋の臨時国会において、衆議院地方創生に関する特別委員長を務めていましたが、この通常国会を控えた政党間協議において衆議院の特別委員会の再編成が合意され、科学技術に関する特別委員会および地方創生に関する特別委員会が廃止され、地方創生特別委員会が所管していた範囲にデジタル庁関係分野・こども家庭庁関係分野を加えた地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会が新設されることとなりました。そして通常国会招集日の1月23日の衆議院本会議において委員会の設置が議決された後、初回の委員会において互選により初代の委員長に就任しました。岸田内閣において地方創生はデジタル田園都市国家構想と改められた上、2021年に設置されたデジタル庁に関する施策、そして今年4月に設置されたこども家庭庁に関する施策を取り扱うこととなり、外交・安全保障以外の岸田内閣におけるホットイシューを集めたような委員会となりました。委員会の名称がいささか長いのが玉に瑕ですが、「地こデジ特委」という5歳児のNHKキャラクターを連想させるかわいい略称が永田町・霞が関周辺の人口に膾炙しつつあり、それはそれで良かったのかなと思っています。

 今国会では、政府提出法案4本(「国家戦略特区法等改正案」、「マイナンバー法等改正案」、「デジタル規制改革推進一括法案」、「地方分権一括法案(第13次)」 )、委員長提案法案2本(「子育て関連給付金差押禁止法案」、「低所得者世帯給付金差押禁止法案」)の審議および採決を行い、また通常の一般質疑に加え、政府の「こども・子育て政策の強化について(試案)」公表を受けたこども政策に関する小倉將信こども政策大臣に対する質疑の開催(4月11日)、マイナンバー制度やマイナンバーカードに関する諸問題の発生を受けた、河野太郎デジタル大臣および加藤勝信厚生労働大臣に対する衆議院厚生労働委員会との連合審査会の開催(6月2日)など、時期に応じた充実した審議を行いました。常任委員会並みの審議を特別委員会が行ったということで、今般の特別委員会改革は成功と評してよいものと思います。

 一昨年秋より務めた衆議院厚生労働委員長、昨年の臨時国会における衆議院地方創生に関する特別委員長、そして今国会の地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員長と、連続ほぼ丸二年にわたり委員長を務めましたが、ここまでとてもありがたいことに与野党の合意による委員会建てに終始し、委員長職権による委員会の開会や採決を未だに一度も経験せずにいることは、僥倖と言わざるを得ません。地方創生特別委員会の折よりご協力をいただいた坂本哲志・与党筆頭理事及び坂本祐之輔・野党筆頭理事をはじめとする理事・オブザーバーの皆さま、真摯に質疑を重ねてくださった委員の皆さま、対応いただいた岡田直樹地方創生担当相・河野太郎デジタル相・小倉將信こども相はじめとする政府の皆さま、そして運営のサポートをいただいた北村英隆さんをはじめとする委員部の皆さまや調査室の皆さま、二年間にわたり委員長車を担当していただいた和田憲明さんに、篤く御礼申し上げます。

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(写真:衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会理事会メンバー。理事会開会前にお許しをいただいて撮影しました)

 委員長は衆議院の役員を構成する重要な職務であり、これを二年近くも務めることができたことは議員として誠に名誉であり、とてもありがたいことだと思っておりますが、一方で、質疑に立てない(厳密にはできないわけではないのですが、委員長としての公平性を保つため基本的には避けるべきこととされている)ため、いささかフラストレーションが溜まる面もないわけではありません。そろそろ委員席に戻らせていただいてもいいかなという気もします。なお常任委員会は衆議院厚生労働委員会に所属し、こちらは委員席から議論を拝聴していました。

 なお、政府はマイナンバー制度およびマイナンバーカード、マイナポータル等を通じて政府DXを進めていますが、さまざまなミス等が多数発覚しており物議をかもしています。もちろん誤りは無い方がよいのですから、デジタル庁に設置されたマイナンバー情報総点検本部においてしっかり確認をして再発防止策を講ずるべきです。ただ、だからといって例えばマイナンバー廃止しろとか中止しろとか紙の保険証でいいじゃないかというのも如何なものかとも感じます。ミスの原因をひとつひとつ確認すると、紙の保険証時代でも発生していたミスもありますし、書類にマイナンバーを記載してもらえなかったことにより手作業による紐づけ事務が発生してその誤りによるミスもありますし、純粋にプログラムのロジックのミスもあります。こうしたことを一つ一つ確認の上、着実に解決することが大切です。本件に関しては、与野党国対間の合意により7月に当委員会にて閉会中審査を行う見通しとなりました。引き続き委員長としての務めを誠実に果たしたいと考えます。

●異次元のこども政策を自民党側からみると

 今年年頭の岸田首相による記者会見で、異次元の少子化対策を行うことが表明されました。出生率が上がらないことに加え、出生数の減少も加速しており、これに2020年代中に歯止めをかけるのがラストチャンスと言われています。そのため政府においては小倉將信少子化担当相のもとで検討を行った上で3月末に「こども・子育て政策の強化について(試案) ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」を公表し、これをもとに総理の下にこども未来戦略会議が設置され、6月13日に「『こども未来戦略方針』案~次元が異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~」が公表されました。

 これらの検討の過程において、自民党「こども・若者」輝く未来創造本部で議論を重ね、3月27日に「『次元の異なる少子化対策』への挑戦に向けて(論点整理)」をとりまとめ、29日に小倉將信こども相に提出をしました。政府内の検討に加え、自民党の提言も踏まえて、政府の少子化対策は具体化されたわけです。私はこの本部の事務総長として、茂木敏充本部長・木原稔座長を支え、議論の進行や論点整理のとりまとめを行いました。また、こども・子育て政策をテーマとするNHKの「日曜討論」に自民党代表で出演させていただき、各党代表の方々と議論しました。これは私にとっては党の代表として地上波テレビに出演する初めての体験であり、とても勉強になりました。申し上げるべきことは言えたと思いましたが、愛想良くした方がいいかと思っていたら、視聴していた長女から「他の方の話を聞くときにニコニコしていると、あまり印象良くない」という指摘があり、今後は傾聴態度にも注意したいと思っています。難しいものです…。

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(写真:NHK「日曜討論」開始前の一コマ。隣は公明党の中野洋昌衆議院議員。撮影は国民民主党の伊藤たかえ参議院議員)

 今回の方針においては具体的な施策として、児童手当の所得制限の撤廃および高校卒業までの延長、出産・子育て応援交付金の制度化検討、出産育児一時金の増額実施と出産費用の保険適用の検討、地方自治体の負担軽減のためのこども医療費助成の国民健康保険の減額調整措置の廃止、高等教育費の負担軽減、「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設、男性育休取得率の引上げに向けた育児休業給付率の引き上げ、育児休業期間中の社会保険料の免除措置や周囲の社員への応援手当等に使える中小企業への助成強化、国民年金の1号被保険者の育児期間に係る保険料免除措置の創設の検討、こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革などが挙げられています。

 個人的には、これまでの少子化対策では、やはりどうしても「基本的には結婚・育児は親が手間とお金を負担するもの」という前提のもと、所得が高くない世帯や共働き世帯で子育てをするのは大変だから、そういう人を対象にした制度を強化するという発想があったように感じています。だから児童手当に所得制限があったし、保育園は専業主婦(または主夫)の世帯では基本的に利用できませんでした。また自治体がこどもの医療費の無償化をすると補助金を減額してきたのです。しかし社会情勢は、例えば私が小学生や中学生だった1980年代や90年代と今では大きく変化しています。そもそも高齢化が進み医療介護の負担が国民負担率として現在の生産年齢人口にはかかっているため手取りはなかなか増えないし、ほぼ大学全入時代となった中で約8割が私立大学に進学することとなるため各世帯にかかる教育費負担は重くのしかかります。仮に専業主婦(または主夫)が家庭にいたとしても、昔なら同居の祖父母や近所の人に子どもを預けて買い物その他の用事をすることは珍しくなかった(ちなみに、私も幼稚園に通う前には、母が外出する際は隣のお家に預けられていた経験があります)ですが、今は隣の家に子どもを預けるなどということはなかなか困難でしょう。

 今回の「こども未来戦略方針」ではそうした変化を直視し、すべてのこどもと子育て世帯がユニバーサルに支援を受けられるようにしようという発想から立脚していることが、いわば「異次元」なのだと考えます。もちろん、早々とそうした観点に立って問題提起していた方々からすると「いまさら」とか「遅すぎる」といった批判があることは理解をしますが、とはいえ経済界や自民党内でも所得制限撤廃に納得していないような声もないわけではないことを知る身としては、岸田政権がこども家庭庁の設置やこども基本法の制定といった最近のこども政策の歩みを着実に踏襲し、そうした声を押し切って前に進めていることは、立派なことだと感じています。

 一方で、こども政策にしても社会保障政策にしても、基本的には政府の歳出はすなわち支援が必要な国民への給付であることを等閑視し、見かけ上の国民負担増を単純に避けるような記述があることは、個人的には残念な思いもあります。社会保障分野の歳出削減は、サービスの削減か自己負担増でしかありません。新たな施策を実現するために正直に国民に負担を広く求めることを避けるあまり、結果として病気やケガの患者さんや介護保険の受給者に少子化対策の負担を求めることになり得る危うい構造は、仮に私の想定が正しいのであれば、如何なものかとも思うところもあります。

 また、金銭的な支援のみならず、妊娠・出産から乳幼児期の子育て支援の充実に関する施策も含まれていますが、出産の保険適用は産婦人科医療機関の経営についての懸念の声がありますし、乳幼児健診は自治体間の差があります。また厚生労働省・こども家庭庁の複数の局にまたがるものとなり、しかし各家庭にとってはこれらをストレスなく一気通貫してサービスを受給できる必要があります。そうした問題意識から、田村憲久社会保障制度調査会長に相談の上、同調査会に「こどもまんなか保健医療の実現に関するPT」を設置していただくこととし、私が座長に就任しました。産婦人科医会および小児科医会にヒアリングの上、6月14日に「『こども未来戦略方針』の具体化に関する提言」をとりまとめ、政府に提出しました。引き続き、そうした観点からも、よりこどもがすくすく育つ「こどもまんなか社会」を目指して取り組みます。

●社会保障制度調査会と創薬力の強化育成に関するPT

 また党においては、社会保障制度調査会および全世代型社会保障に関する特命委員会(ともに田村憲久元厚労相が会長・委員長)の事務局長、および創薬力の強化育成に関するPT座長を務めました。全世代型社会保障に関する特命委員会では、昨年12月15日に取りまとめを行っており、今年はこの提言に則って法改正が行われました。また社会保障制度調査会では、今年年末に控える診療報酬・介護報酬・障害サービス報酬のトリプル改定を念頭に、昨今の物価やエネルギー価格の高騰、賃上げ方針による人件費の上昇等を適切に各報酬等に反映させるべく、関係団体の要望を受け、政府に対して申し入れを行いました。

 創薬力の強化育成に関するPTでは、ドラックロス(日本に新薬の承認申請がされないこと)やジェネリック医薬品の供給混乱等の現状を受け、これに対して精力的に検討を行い、政府に対して医薬品開発から上市・流通までを一貫して見渡して適切な対応を行う司令塔機能を設置することや、薬価制度の見直しなどを柱とする提言を岸田首相に提出しました。今後政府において、司令塔機能の実現に向け具体的な検討が行われるものと考えています。

 なおこの分野については、政府の「こども未来戦略方針」において、こども政策充実の財源に関する文脈で「全世代社会保障を構築するとの観点から歳出削減の取り組みを徹底する」と記載されています。こども政策の財源は重要ですし、全世代型社会保障の構築も必要ですから、記された内容に異存はありません。ただ同時に、先ほども記した通り、社会保障分野においては歳出削減すなわち給付減または自己負担増なので、具体的にどのような歳出削減を行うか、どのように国民の納得が得られるものとするか、十分な注目が必要だと考えています。個人的には、NHKの番組で発言しましたが、全世代型社会保障の趣旨は、これまでの社会保障がどうしても高齢者重視となっていたことを改め、世代を問わず(もちろん高齢者も含めて)支援が必要な方に対し、できるだけ幅広い方の負担により給付を届けるようにバランスを改めることが趣旨のはずであり、給付の充実を考慮せずに単純に国民負担増のみを問題視するような目先の声に迷わされることなく、きちんと議論を重ねていくことが重要だと考えます。

●その他さまざま

 自民党地方行政調査会(佐藤信秋会長)事務局長も務めています。今年は、政府の地方制度調査会の議論をフォローする形で活動しました。政府の調査会は昨年末に、地方議会に多様な人材が参画できるために、議会の位置づけの明確化等を含む提言を政府に提出しました。今国会では、党内での議論も踏まえ、その内容を含む地方自治法改正案が提出され、成立しました。なお「こども未来戦略方針」こども政策の予算規模に関して3兆円半ばとされていますが、これは公費ベースと説明されています。社会保障の歳出削減等は国費ベースで考えられるためその半分ぐらいという説明がされることがありますが、一方で残り半分は地方財源であるため、地方交付税交付金の追加的な手当についても考える必要があります。たまたまではありますが、こども政策についても、社会保障制度について、地方行政制度についても、党内組織の事務局長を務めていて全部に関わる立場であり、すべてを予算案としてまとめあげる必要があるため、本当に今年の年末の予算編成は頭が痛い問題となるものと思われます。

 6月に、口唇口蓋裂議員連盟の初会合を開きました。もともと細野豪志衆議院議員が長年にわたり取り組んでいた問題ですが、児童福祉法における育成医療の制度と治療の実際とが嚙み合っていないことについてその解決策を検討するために、自民党・公明党の枠組みで立ち上げたものであり、ご推薦をいただいて議連の会長を務めることとなりました。当事者の方々のお話をしっかり伺い、解決策を考えていきたいと考えています。

 今国会では、性的指向・ジェンダーアイデンティティの理解増進に関する法律が成立しました。この法律そのものに関しては、既にこのブログに思うところは何件も書いていますし、一方でほとんど今国会では関与していませんので特に追記することもありません。ただこれを巡るさまざまな方々の言動に関し、「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいていることを忘れてはいけない」という最近の某アイドルアニメにも引用されたセリフ(元はニーチェ「善悪の彼岸」の言葉)が思い出され、自らへの戒めとしてずっと頭の中を巡っていることは記しておきます。

●倉敷市・早島町に関して

 昨年12月に改正公職選挙法が施行され、岡山県の衆議院小選挙区の定数が1減となり、選挙区の区割りが変更になりました。私は引き続き自民党の新岡山第4選挙区支部長に選任されました。岡山県第4選挙区は、これまでの地域に加えて真備町・船穂町が含まれることとなり、シンプルに倉敷市および早島町が選挙区ということとなりました。4月に県議会議員選挙があったため、その終了を待ってから、真備町や船穂町での街頭演説や挨拶まわりなどを始めています。お見かけくださったら、お気軽にお声がけいただければ幸いです。

 特に真備町は平成30年豪雨災害における水害被災からもうすぐ5年を迎えるところ、7月には仮設住宅入居者がいなくなる見通しであることが発表され、また高梁川・小田川合流点の付替え工事も今年度中の完成を目指して急ピッチで進められています。ただ生活の再興はなお続ける必要があることに加え、5月には歩行者・自転車用として使われていた川辺橋の橋脚が傾き通行不能となる災害にも見舞われてしまいました。この件については、国土交通省などを後押しして、早期に自転車・歩行者がより安全に通行できる状態を目指すべく支援します。

 4月22日・23日には、倉敷アイビースクエアにてG7倉敷労働雇用大臣会合が開催され、その成果として「人への投資 G7倉敷労働雇用大臣宣言」が公表されました。誘致の段階から伊東香織倉敷市長らとともに厚生労働省などに働きかけておりましたので、無事に開催できてほっとしています。G7各国の方々に倉敷をPRする良い機会となりました。

 また水島港の整備促進、国道2号線の渋滞緩和、六間川・倉敷川の改修、早島駅の整備など、国が関与すべきインフラ整備についても、引き続き強力に進め、皆さまの暮らしと雇用を守ります。

●まとめ

 私ごとですが、妻はなこと4人のこども達も、それぞれ元気で仕事や学校などに励んでくれているのは、本当にありがたいことです。次女は音大に進学して声楽を学んでいますし、次男は中学校の吹奏楽部でトランペットを吹いています。ゴールデンウィークには、長男、次男、はなこと4人で尾瀬散策にでかけました。また母久美子も元気で過ごしてくれています。趣味として昨年から始めたシーバス釣りも、日程の隙間を見て、たまに夜中に岸壁に出かけています。まれに釣れると、うれしいものです。

 こうして仕事や家族に恵まれ、元気で過ごすことができているのも、ご縁がありご支援いただく皆さまのおかげであり、心から感謝申し上げます。もうしばらくして梅雨が明けると、夏祭りの季節。コロナ禍が過ぎて、今年はかなりの地域で再開されるものと思われます。多くの皆さまとお目にかかれることを、心から楽しみにしています。

 引き続き、ご指導ご鞭撻を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

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2023年1月23日 (月)

令和5年正月および第211回通常国会召集にあたり

 まず、遅くなりましたが、改めまして新年明けましておめでとうございます。このブログをご覧の皆さま方におかれましては、つつがなく令和5年の正月をお迎えのこととお慶び申し上げます。おかげさまで橋本がくも家族ともども元気に新年を迎えることができました。旧年中のご指導に心から感謝申し上げます。

 そして1月23日、第211回国会が召集されました。通常国会は会期150日となっていますので、会期延長がなければ6月21日までの会期となります。先の臨時国会では衆議院地方創生に関する特別委員長を拝命しておりましたが、今国会からこの特別委員会は「衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会」に発展的に改組され、改めて委員長に選任されました。故鳩山邦夫代議士が初代委員長を務められた衆議院地方創生に関する特別委員長職が私限りで廃止されるというのはいささか申し訳ない想いもありますが、一方で、新たな委員会の初代委員長を仰せつかるというのも議会人としては誠に光栄なことで、また拡大された所管範囲もいずれも日本社会の帰趨を担う重要なテーマであり、心を込めて職務にあたる所存です。特に一昨年来、こども家庭庁の設置やこども基本法の党内議論に関わっていた身としては、衆議院における議論も仕切る役を担うこととなったことも、個人的には誠に嬉しい限りです(なお、特別委員会の略称はどうなるんだろうかと思っていましたが、開会式後に衛視さんに車を呼び出してもらったら「地域こどもデジタル特別委員長のお車」と呼び出していました。初めて口に出したためか若干噛んでおられました)。

 今国会では、防衛力の強化やこども政策の充実およびそれらの財源のあり方や、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけのあり方や、今回の教訓を踏まえた次のパンデミックへの備え、金融政策を含めた円安やエネルギー・食料価格上昇への対策といった課題が議論されることとなるでしょう。特に社会保障の分野においては、現場は新型コロナウイルス感染症と対峙し続けている中で、かかりつけ医機能のあり方や医師の働き方改革の実現、世代内および世代間の負担の見直し、創薬力の強化育成と薬価制度の見直し、そして診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定といった課題への取り組みが待ったなしです。党の社会保障制度調査会および全世代型社会保障制度に関する特命委員会の事務局長、創薬力の強化育成に関するPT座長として、こうした分野の議論を活発に行い、また様々な方々のお話も伺いながら、党としての意見のとりまとめに尽力します。こども政策については、岸田文雄総理年初の記者会見や国会における施政方針演説においても、これまで以上の気合いを入れて取り組む方針が示されたところであり、これを追い風に党「こども・若者」輝く未来創造本部/実現会議事務総長として、その内容の充実に努めます。

 昨年末に、自民党岡山県第四選挙区支部長に再び選任され、選挙区割り変更後の新第四選挙区にて活動することが決定しました。今回の変更により、新たに旧真備町・旧船穂町が選挙区に追加され、倉敷市および早島町の全体が選挙区となることになりした。これまで旧真備町・旧船穂町を選挙区とされていた加藤勝信代議士や県議会・市議会の先生方にもご相談しながら、地道に地元での活動を進めて参ります。令和5年度には、平成30年豪雨災害における真備町の洪水を受けて行われた小田川・高梁川合流点改修事業等が完成する予定であり、災害に強く安心して生活できる街を目指します。またこの春に倉敷で行われるG7雇用労働大臣会合の支援や、倉敷市・早島町から岡山市の間の国道2号線の改良、水島港の整備推進、早島駅の整備など地域の事業推進にも努めます。

 一昨年末に自見はなこ参議院議員と入籍し、昨年末に挙式することができました。4人のこどもたちもそれぞれ元気にすごしています。年明けには2日間のお休みをいただき、家族6人で仲良くUSJなどに出かけました。昨年2期目の当選を果たさせていただいた自見はなこともどもに力を合わせ、国会に送っていただいた皆さまへの感謝を胸に、議員としての務めを果たしご期待にお応えするべく努力して参りますので、本年においても引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう、心からお願い申し上げます。

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(写真:院内第一理事会室にて、父龍太郎の肖像画の下で)

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