25.一億総活躍・働き方改革・労働・雇用

2019年6月 7日 (金)

生涯現役社会の推進に向けた提言

 先日5月30日に、雇用問題調査会・厚生労働部会合同会議においてご承認いただいた、「生涯現役社会の推進に向けた提言」をブログに掲載しましたので、ご興味の方はご覧いただければ幸いです。昨年秋より、松野博一雇用問題調査会長から、生涯現役社会推進プロジェクトチームの座長を仰せつかり、議論やヒアリングを重ねて整理したものです。政府には、この提言を受け止めて実現していただきたいと考えています。

 内容は、政府でも議論されている高齢者雇用の延長に関する議論の整理です。僕個人としては、この提言には3つのポイントがあると考えています。

  1. 高年法の雇用確保措置の延長、および選択肢の拡大に関し、「新たな選択肢の具体化の検討にあたっては、高齢者の職業の安定という高年法の目的を十分に踏まえ既存の選択肢との比較において企業が負う責務の程度が不均衡にならないよう、どのような企業の関与を求めるかなどについて、十分に検討すること」という考慮すべき要素を明示したこと。易きに流れ骨抜きにならないように釘を刺したということです。
  2. 就職氷河期世代や団塊ジュニア世代の支援に関し、「バブル崩壊時の雇用の調整弁としてこの世代が犠牲になった結果であり、第三次ベビーブームの不発を招くなど重大な禍根を残している」という背景を明記したこと。これを受けて厚生労働省が公表した「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」に同旨の記述が書かれることになりました。
  3. 在職老齢年金のあり方について検討を行い、低在老、高在老それぞれに方向性を示唆したこと。年金の検討は守備範囲をやや超えている面もあるので、具体的な時期等までの検討は控えています。しかし、見直しにあたっての考慮ポイントは示していますし、時期的なことも一つ一つの要素を検討すればまあなんとなくイメージできる程度には書いてあります。おそらく現時点では、在職老齢年金見直しに関して方向性が最もきちんと文字にしてあるものと考えます。

 下記リンク先より、ぜひご覧ください。

生涯現役社会の推進に向けた提言

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2018年9月 5日 (水)

労働分野における調査手法に関するPT提言

 いささか旧聞に属しますが、先月8月28日に、自由民主党政務調査会厚生労働部会の、労働分野における調査手法におけるPTが提言をまとめ、厚生労働省に提出し、内容を公表しました。ウエブページにもアップしていますが、スマホだと見られないため、こちらにもアップしておきます。

(提言PDFダウンロード (322.4K))

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平成30年8月28日

自由民主党政務調査会厚生労働部会
労働分野における調査手法に関するPT

提  言

はじめに

 平成30年通常国会においては、働き方改革関係法案の審議が目玉とされていたところ、平成25年度労働時間等総合実態調査(以後、「H25調査」とする)およびその結果を用いた資料等に関して様々な問題が指摘され、与党における法案審査の途中で法案の一部を撤回する事態を招いた他、国会審議に多大な影響を与えた。これは国民の政府に対する信頼を揺るがす大きな問題であり、誠に遺憾である。

 裁量労働制の実態把握をはじめ、今後も厚生労働省の政策立案の基礎として社会調査や統計の品質確保は極めて重要な問題であり、同じ過ちを二度繰り返すことは許されない。そこで厚生労働部会に「労働分野における調査手法に関するPT」を設け、厚生労働省からヒアリングを行い、H25調査における問題点および改善方針を整理して提言することとした。

 なお、本PTはH25調査を検討対象としているが、中医協に平成30年7月に報告された診療報酬の消費税補填状況調査の誤りや、2月に公表された日本年金機構におけるデータ入力誤り等の問題など、現在、厚生労働省におけるデータ処理や統計全般に対する信頼が崩れかねない危機的状況にあることは、強く指摘せざるを得ない。

 厚生労働省においては、この提言を真摯に受け止め、全省的に共有して再発防止に努めるとともに、国民の信頼を取り戻すよう全力を尽くすことを求める。

提言

(1) 前例踏襲主義からの脱却

 ヒアリングにおいては「過去の例をそのまま引き継いで行った」という回答がしばしば行われた。例えば、「調査的監督」という実施手法、調査票の質問構成やデザイン、集計表の記載内容等に関して、そのような趣旨の回答があった。

 前例を踏襲することには、作業の省力化や、過去との結果比較を容易にすること等のメリットは存在する。しかし、「公的統計の品質保証に関するガイドライン 」「統計調査における民間事業者の活用に係るガイドライン 」といった政府全体の統計改善の活動や、「厚生労働統計調査の現状と改善方策について(報告書) 」といった厚生労働省における統計改善の取り組みを無視することに繋がり、結果として統計としての品質が疑われ、政府の目玉政策の根拠に疑問を呈される事態を招いたともいえる。

 厚生労働省が今後行う調査・統計においては、政策立案の根拠として審議会や国会等で議論される材料となることに鑑み、統計法に基づく基幹統計及び一般統計に該当しない業務統計であっても政府による公的統計に位置づけられることを重く受け止め、前例にとらわれることなく都度一から見直し、「公的統計の品質保証に関するガイドライン」等を極力適用し、議論に耐え得る品質を確保すべきである。

(2)「回答者の協力を得て行うもの」という意識を持つ

 社会調査を行う上で重要なことは、「回答者の協力を得て行うもの」という謙虚な意識を持つことである。この視点に立ち、調査実施者は、回答者にかける負担を必要最小限にする、誤記入等のムダを極力減らすよう努める、個々の回答内容(記入された調査票を含む)について秘密保持も含め適切に管理する、目的外には利用しない等の努力をしなければならない。たとえ法令や権限に基づいて行われる調査であっても、同様の意識を持つことが望ましいことは、論を俟たない。

 また「To Err is human.」(だれにも過ちはあるもの)という言い回しがあるように、人間は間違えるものであり、防ぐ努力が必要である。単に通知に「記入に際しては、事前に記入要領を熟読し、記入漏れや誤記入のないようにすること」と記しただけで、ミスがなくなるわけがない。

 H25調査においては、さまざまな不注意やミスが積み重なり 多数のデータを削除せざるを得ず(H25調査におけるミス等の経緯は「裁量労働制データの不適切な比較等に関する関係者の処分について」(平成30年7月19日付厚生労働省プレスリリース)および付属の「裁量労働制データ問題に関する経緯について」(平成30年7月19日、厚生労働省監察チーム)参照のこと)、結果として多くの回答者の協力を水泡に帰せしめた。このことは、厳しく指弾されなければならない。今後の政府の全ての調査・統計の信頼性に関わり得る、極めて重大な問題である。このような観点に立ち、以下の諸点について是正されるべきである。

1.調査項目や設問、設問中の用語(「最長の者」「平均の者」等)は、回答するのが困難な程度に多く、複雑であり、また回答に労働法令の知識も必要である。監督官が調査を行うことで補っている面はあるが、誤記入の原因のひとつとも考えられる。調査目的を果たしつつより容易に回答できるよう、調査項目等を精査して削減し、より単純化・簡略化すべきである。

2.調査票のデザインについて、誤記入を防ぎ、あるいは入力を容易にする視点から、さまざまな工夫を施すことが一般的である。このような配慮も必要である。

3.調査実施にあたる監督官に対して事前に十分な説明を行い、調査内容の理解をより高めた上で実施できるよう努めるべきである。また実施にあたっては十分な時間的余裕を与えるべきである。

4.調査票のコピーが誤混入することを防ぐため、事前または回収時にナンバリングを行うことが望ましい。

5.データクリーニングのためのチェック項目は、調査内容を踏まえ事前に十分な検討を行い、定めるべきである。

6.入力作業が終了した後の回収済み調査票については、一定の期限を設定して適切に管理・保管するべきである。

7.集計表を作成する際には、設問内容を付記するなど、誤解を招かないよう適切な説明も記載すべきである。

8.集計データや集計表を用いて二次的に資料を作成する際にも、必要に応じて調査票まで確認を行い、また作成手順などを含めて記載し、正確性・透明性を高めるよう努めるべきである。

(3)データの価値の認識と、作業に対する十分な資源投入

 調査の実施にあたり、指示通達の起案、都道府県労働局からの照会対応、集計業者の選定や工程管理、データクリーニング項目の作成や確認等の作業を、ごく限られた少人数で行っていたことがヒアリング等で明らかになった。調査実施期間が3か月(平成25年4月~6月)とられていたことに対し、入力・確認・集計については、こうした人員規模の下でも3か月(同年7月~9月)しかかけておらず、時間的余裕が十分ではなかった。

 これらは、「正しいデータを得る」ための調査・集計プロセスを軽視し、十分な価値を認識していなかったことの現れである。これが先に述べた前例踏襲主義と相俟って、検証に耐えない調査データや適切な注や説明のない集計表を作成する原因になった。結果として比較してはならない表の作成、総理大臣や厚生労働大臣の答弁撤回および謝罪、最終的には法案内容の撤回にまで波及したのである。

 また再集計を行うにあたっても、臨時的・緊急的な作業が求められていたとはいえ、重ねてミスを含む資料を国会に提出したことにも、反省を求めざるを得ない。

 厚生労働省は、正しい調査データの価値を、適切に認識すべきである。調査実施や集計等の品質確保に対して十分な注意を払い、企画段階から実施、集計そして資料の作成に至るまで、人員や期間を含めて必要かつ十分な資源を確保し投入しなければならない。これは現場の問題ではなく、管理の問題である。

 また、調査や集計実務に必要なノウハウが必ずしも各部署に蓄積されているとは限らないことから、業務統計であっても統計担当部署(政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当))と協議を行い、品質を高めるよう努めるべきである。

 なおデータ入力集計委託業者については、一般競争入札で業者選定していた。今後は「統計調査における民間事業者の活用に係るガイドライン」の記載内容を踏まえ、業務遂行能力等に応じた適切な業者選定等を行うことが望ましい。

(4)調査としての位置づけの明確化

 H25調査に特有の問題として、労働基準監督官が監督業務の一環として行う「調査的監督」という位置づけの是非がある。

 監督の一環であることは、全国で一万件以上の調査を行う調査員として労働基準監督官のマンパワーを利用できる、労働法令を理解した者が調査を行うことができる、実際に各事業所の賃金台帳を参照して調査をすることができる、過去も同様の手法で調査を行っているため結果の比較可能性が高まる、100%の回収率が見込まれる等のメリットも存在し、一定の合理性はあるものと考えられる。

 一方で、監督官は社会調査の実務に不慣れである、予告なしの訪問となるため回答する事業所の準備が困難であり二度手間も起こり得る、監督権限を背景として調査を行うことが結果に影響を与える可能性について議論が残る、調査票が公開できないといったデメリットもある。特に、調査概要や調査票は、一般的には調査の品質保証のために公開することが基本であるが、H25調査においては一部のみ公開とせざるを得ず、国会における議論を困難なものとした。このことは、解消されるべきである。

 PTでは、そもそも指導・是正のための監督業務と実態把握のための調査業務は全く性格が異なるので、対象者が労務記録を見ながら回答できる郵送やネットによる自記式の独立したアンケート調査として実施する方がよいのではないか、もし監督官が訪問、聞き取りを行う場合でも、原則として事前に質問票を送付、記入してもらっておき、監督官が訪問回収時に記入内容をチェック、確認することをメインの業務にするという方法もあるのではないか、という意見もあった。

 こうしたことを念頭に、今後の調査実施においては、調査目的や対象等に応じて、監督官による「調査的監督」として実施するか、一般的な社会調査として実施するか適宜判断することが望ましい。また「調査的監督」として行う場合においても、可能な限り「公的統計の品質保証に関するガイドライン」等に準拠し、解釈可能性や明確性を高めるよう努めるべきである。


(参考)厚生労働部会 労働分野における調査手法に関するPT メンバー

座  長 橋本 岳 (厚生労働部会長)
顧  問 松野 博一 (雇用問題調査会長)
アドバイザー 萩原 雅之 氏 (トランスコスモス・アナリティクス株式会社取締役副社長)


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2017年12月31日 (日)

平成29年末のごあいさつ

平成29年(2017年)も暮れようとしています。今年も多くの皆さまとのご縁に恵まれ、健やかに終えることができます。心から感謝申し上げます。

後半の厚生労働部会長としての活動の中で思ったことを少し記します(今年の前半は、「厚生労働副大臣退任にあたり」に記したことと重複しますので割愛します)。

臨時国会で「働き方改革」の法案を仕上げるのが今年後半最大の仕事、と思っていました。しかし、突然の解散総選挙によって来年度通常国会に先送りになってしまいました。政治ですから、そういうこともあります。これは来年の大きな宿題です。

ただ、総選挙時の公約により、消費税税率引上げ増収分の使途変更を行うことになりました。もちろん「人づくり革命」、すなわち幼児保育・教育の無償化や待機児童解消の前倒し、高等教育の無償化等々の必要性は理解しますし、選挙の公約ですから実現はしなければなりません。一方で、財政再建のため2020年にプライマリーバランスの黒字化をする目標は先送りになりました。ということは、将来世代へのツケ回しは今なお続いているということです。消費税増収分の使途変更は、国債発行削減をより少なくする、ということは国債発行の増発に繋がるわけですから、すなわち「未来の世代の負担をより増やす選択」でしかありません。

「高齢者偏重の社会保障を全世代型に変える」という言い方もされます。実は税・社会保障の一体改革の際の、社会保障制度改革国民会議報告書の中で、子ども・子育て新制度を社会保障の一環として消費税財源の使途に位置付ける際に、既に「全世代型の社会保障」という表現を使っていますので、何をいまさら言うのかという思いもあります。ただ、話はそれだけではなくて、これまでは「高齢者に偏った社会保障を、未来の世代の負担で実現してきた」という状態だったものが「高齢者から子育て世代まで全世代の社会保障が、未来の世代により多い負担を科すことで実現される」ということに変わっただけということを指摘せざるを得ません。まあ、教育は投資ですから、未来世代に負担をかけてもそれを上回って余りある教育効果を挙げるような結果に繋がればよいのですから、ご関係の皆さまには、そうしていただけることを切に期待しています。

ただこうした政策決定が、急な解散総選挙のため必ずしも十分な議論なく自民党の公約として掲げられたことは、個人的には実に遺憾なことだと思っています。だから、自民党の人生100年本部での第一回会合冒頭において、抗議を行いました。そしてこの話は、来年のおそらく骨太の方針とともに決定されるであろう、新たな財政再建目標再設定の議論に持ち越されます。厚生労働部会長としての立場上、今の社会保障の水準を下げるような議論にあまり与したくもありませんが、後世の負担について目を瞑るわけにもいかず、おそらく辛い議論を余儀なくされることでしょう。それでもやり抜かなければなりません。そうした勉強や議論をする場を党内どこかに設けられるといいなと思っています。


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なお、今記したような内容は書籍「シルバー民主主義の政治経済学 世代間対立克服への戦略」(島澤諭、日本経済新聞出版社)に触発されたものです。この書籍は財政論を含む社会保障制度の近年の在り方と、10月の総選挙までを含む政治・政策プロセスの変遷とを重ねあわせて論じており、客観的かつ簡潔明瞭に現状の日本が抱えている課題が記されています。ぜひ特に若手の政治家には読んでいただきたいと思い、自民党青年局役員・顧問の先生方には勝手に配らせていただきました(ちなみに僕の自腹で書籍代は支出しています。政治資金ではありません。為念)。ご興味の方は、ぜひご覧いただければ幸いです。こうした議論を積み重ね、課題を乗り越えていくことが、これから私たち自民党がなすべきことです。

とりあえず来年予算編成においては、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定を、まあ多くの方々がほっとして頂けるくらいの改定率で乗り切れたものと考えています。また障害報酬サービス報酬改定の食事提供体制加算について、自民党厚生労働部会として継続の申し入れを行い、今回は継続となりました。生活保護水準については、低所得者との比較による改定がありご批判もありますが、生活保護制度が憲法上に記される「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するためのものであり、たとえば「余裕のある生活」の権利保障をするものでない以上、生活保護を受給されていない方々の生活と比較して水準を設定することはやむをえないものと考えます。その上で、子どもの大学進学の支援や、生活困窮者自立支援等をさらに進めていきます。

来年の通常国会では、働き方改革の法案審議や受動喫煙対策、医師不足対策等の重要法案が目白押しです。そうしたものにも全力を尽くして取り組んでまいります。

今年は倉敷市が三市合併50周年を迎え、昨年12月に町制施行120周年を迎えた早島町ともども、節目の年を迎えました。「一本の綿花から始まる倉敷物語~和と洋が織りなす繊維のまち~」の日本遺産への登録や、水島港における倉敷みなと大橋の竣工など、多くの方々のお力のおかげで地元倉敷・早島が発展していることはとても嬉しく、多少お役に立てていればありがたいことだと思っています。一方で、障害者就労支援事業所の廃業により多数の方が解雇される不測の事態もあり、障害者福祉と雇用安定行政の連携による対応などにも力を注ぐことになりました。

今年は突然の解散総選挙があり、秋のお祭りや稲の収穫とも重なり、多くの皆さまにご迷惑をおかけすることになりました。しかしながら、地道に「人づくり革命」や「生産性革命」の必要性について訴え、同時に上記のことについても議論をしますとお話をし、93,172票の得票をいただき、4回目の当選を選挙区で果たさせていただきました。選挙を経ることで、多くの皆さまに支えていただいて仕事ができるんだということを再確認できます。心からの感謝を申し上げますとともに、来年もその思いを持って引き続きご期待にお応えできるよう全力を尽くします。

個人的には正月に人生初の入院をするようなこともありましたが、どうにか健康で過ごすことができました。多くの方々との出会いとサポートに恵まれたことに感謝を申し上げるとともに、自らの力不足のために多くの方々を失望させてしまったかもしれず、お詫びしなければならないとも思います。ただそう簡単にものを忘れることもできません。すべてを背負いながら前を向いて進むのみです。

重ねて、ご覧の皆さまに対し、今年一年のご厚誼への感謝と、来年のさらなるご発展をお祈り申し上げます。どうぞよい年をお迎えくださいませ。


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2017年8月22日 (火)

厚生労働部会長への就任にあたり

 本日の自民党総務会において、自民党政務調査会の厚生労働部会長に就任することとなりました。大臣政務官、副大臣と厚生労働行政に携わった上で、党の厚生労働関係の政策責任者という重任をお預かりすることとなり、改めて責任の重さを実感するところです。ちょうど今からだいたい干支一回り前に、衆議院議員として初当選をしましたが、その頃は「部会長」というのは雲の上のような存在と思っていました(ちなみに田村憲久・元厚労相や、大村秀章・現愛知県知事が当時の厚労部会長でおられたような気がします)。二年前に外交部会長も務めてはいますが、改めて感慨深く受け止めています。

 働き方改革の法案化、診療報酬・介護報酬・障害報酬のトリプル改定、受動喫煙防止対策など様々な懸案事項があります。また次期通常国会提出予定の法案についても調整が必要なものもあるでしょう。今回の内閣改造で茂木敏充担当相が就任された「人づくり革命」に関して、テーマの一つとして「全世代型の社会保障」が掲げられていますので、これも議論に加わらなければならないのではないかと考えています。

日本国憲法では、

第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 としています。憲法制定時ならばいざ知らず、この少子化・長寿化社会においては「社会保障の向上及び増進」というのは困難極まりない命題ですが、少なくともここに記された「思い」は汲まなければなりませんし、同時に

第二十七条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
○2  賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
○3  児童は、これを酷使してはならない。

第二十八条  勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。 

 とされていることの意味も考えながら、働き方改革等の政策を検討する必要があるのだろうと考えています。

 微力ではありますが、国会に送っていたただいている倉敷・早島の皆さまへの感謝の気持ちを胸に刻みつつ、いかなる人も安心して生活し働ける社会を目指し、同僚諸兄姉とも議論を重ねながら、ひとつひとつ努力する所存です。引き続きまして、ご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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2017年8月 7日 (月)

厚生労働副大臣退任にあたり

 昨年8月5日、第三次安倍内閣第二次改造内閣において、厚生労働副大臣に任命されました。それから約一年が経過し、3日には内閣改造が行われ、塩崎恭久大臣から加藤勝信大臣に交代となりました。副大臣および大臣政務官については、7日午前の閣議において後任が決定し、僕は退任となりました。なんとか無事に務め終えることができ、いささかホッとしています。ここで、厚生労働副大臣の一年を振り返ってみます。なお、肩書は全て当時のものです。

(過去の「振り返り」シリーズはこちら;
厚生労働大臣政務官退任にあたり
外交部会長を振り返って

◆そもそも副大臣って?
 
 個々の政策に入る前に、副大臣という役職について触れておきます。中央省庁には、大臣、副大臣、大臣政務官という役職(「政務三役」と総称されます)が置かれ、基本的には国会議員が就任します(民間登用の場合もあります)。これは、議会制民主主義制下において、行政に対して政治がコントロールを効かせることが目的です。

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 政務三役のうち、当然、大臣が最終責任者です。その下で、副大臣、大臣政務官が政策分野を分担して補佐するという形になります。ちなみに、僕の厚生労働副大臣としての担務は「労働雇用、福祉援護、年金」でした。(そして古屋範子副大臣は「医療介護、健康衛生、子供子育て支援」でした)。国会答弁や省内での決裁などは、原則的にはこの担務に沿って分担して行うことになります。

 一方、副大臣は大臣と同様に認証官(皇居で認証式が行われる)ですが、大臣政務官は内閣総理大臣に任命されるのみです。ですので対外的には副大臣は大臣並びの扱いとなる場合があります。例えば、式典等に大臣が出席できずに代理する場合は、副大臣は副大臣として挨拶しますが、大臣政務官は大臣挨拶を代理読み上げという恰好になります。企業組織でいうと、大臣をラインの部長にたとえると、副大臣が担当部長、大臣政務官は部長補佐、みたいな感じでしょうか。

 とはいえ、大臣が最高責任者には違いがありません。厚生労働省はカバーする行政分野が広範にわたるため大臣の負担が大きく、国会での質疑も大臣に集中しすぎる傾向もあります。ボスとしてお仕えした塩崎恭久大臣はとても勉強熱心で、かなり細かい点まで自分で詰めて対応しておられ、横で見ていて僕も大変勉強になりました。ただ「大臣しか答弁を認めない」という議員の方が野党におられますが、正直、あまり建設的な意図があるようには思えません。一方で細かい技術的な質疑は政府参考人(局長など)に振った方が詳しい答弁が出来たりするのも現実なので、副大臣や大臣政務官がどう国会答弁において役割分担するかは、結局ケースバイケースになっているような気もします。

 ただ、僕に答弁をあてていただいたときは、役所が書いてきた答弁案をそのまま読み上げるのではなく、できるだけ自分の言葉で答弁するようには努めました。事前レクの段階で答弁案を差し戻して変更させたり、赤入れして直したりもしました。せっかく答弁させていただくのですから、自分なりの付加価値をつけなければ意味はありません。集計によると280回の答弁機会があったようです。たぶん副大臣としては答弁は多い方だったのではないでしょうか。

◆歴史的な「働き方改革」

 今回の内閣では、「働き方改革」が最大のチャレンジと位置付けられていました。その前の内閣で「一億総活躍プラン」をまとめ、その中で長時間労働の是正や正規社員・非正規社員の待遇差を是正するための同一労働同一賃金の実現が課題とされたことを受けたものです。安倍総理を議長とする「働き方改革実行会議」では、内閣官房が事務局を務めましたが、厚生労働省も兼務等で実務を担当していました。また働き方改革実行会議には、オブザーバとして参加して、議論の流れをほぼ毎回伺うことができました。

 今回の最大の成果は、労働基準法70年、前身の工場法から100年の歴史の中で、はじめて長時間残業に対して罰則付きの規定を法律に設けることに、政労使が一致したことだと考えます。もちろん、上限が長すぎる等の批判があることは承知していますが、それでも、事実上青天井に近い現状に比べればずっと大きな進歩です。これまで労働政策審議会で議論しつつもずっと合意が出来ずにいたものが、電通過労死自殺事件などによる世論の後押しも受けつつ、安倍総理が会議の議長としてコンセンサスを求め、「もしコンセンサス(全会一致)にならければ法案は提出しない」とまで言明して背水の陣を敷いたことが決め手になりました。この総理のリーダーシップ発揮の瞬間を現場で目撃することができたことは、政治家冥利に尽きる出来事でした。

 また、同一労働同一賃金、病気治療と仕事の両立や、女性活躍、テレワーク推進などさまざまな重要な課題について、働き方改革実行計画において方向性が示されました。正直、自民党政権において、ここまで労働政策が脚光を浴びるタイミングはあまり多くないように思いますが、そのタイミングで担当者として在職できたことは、恵まれたことだったと思います。

 なお一般的に、いくつかの業種を除き、中小企業・零細事業者も、働き方改革の各種規制等の適用対象となります。しかし各業種における取引慣行等も含め、大企業のツケがそうした企業に押しつけられるのではないかといった懸念が自民党内からありました。それを受け、厚生労働省と中小企業庁が共同で「中小企業・小規模事業者の働き方改革・人手不足対応に関する検討会」を設けて検討を進めることとなりました。今後、都道府県レベルでの取り組みを検討し具体化する方針です。

 また、以前から国会に提出されていた労働基準法改正案に含まれる「高度プロフェッショナル制度」に関し、連合から政府に対して要望をお預かりしましたが、後に撤回されるということがありました。これはいささか残念なことでした。まさに、「働いた時間に単純比例して売り上げや利益が上がる」時代にできた労働基準法(ないしは工場法)の時間給制の概念は、コンサルタントや為替ディーラーといった職種にそのまま当てはめ続けても、必ずしも適切ではない場合があります。例えば、短時間で大きな成果を上げる人よりも、長時間勤務しつつもなかなか成果が上がらない人の方が月給が高くなるのは、誰にとっても不合理です。また、長時間労働を削減する方向に社会が向かおうとしている中で、残業代制度がむしろ労働者にとって残業をするインセンティブとして働いている場合もありうることに対し、労働者側も使用者側も真剣に向き合うべき時期ではないかと、個人的には思います。他方、仮にこの制度を安易に労働者を自己責任で時間無制限に働かせる制度だと使用者側が捉えるようであれば、厳しいチェックも必要だろうとも思います。

 働き方改革に関する法案は現在準備中であり、国会での本格的な審議は秋の次期臨時国会になるものと思われます。日本の将来がかかった課題です。建設的な議論が交わされることを期待します。

◆年金制度改革

 昨年秋の臨時国会では、年金制度改革について議論が集中しました。受給資格期間の短縮と、賃金スライドの徹底の二本柱が主な内容です(その他にもGPIF改革など、さまざまな内容が含まれていますが)。

 年金制度は、平成16年の小泉政権時代の改正により、保険料率の上限設定、基礎年金国庫負担割合の引き上げ、マクロ経済スライドの導入など現行制度の骨格が導入されました。ただその後、リーマンショックや東日本大震災等の想定不能の出来事が発生したため十分に機能しなかったため、そうした点を見直したというのが趣旨です。

(詳細はこちらの記事がわかりやすくまとまっています。
年金制度にまつわる数々の誤解と今後必要な制度改革案(1)
年金制度にまつわる数々の誤解と今後必要な制度改革案(2)ー基礎年金の税財源化・積立方式という幻想 )


 残念ながら一部野党議員が「年金カット法案」という、木を見て森を見ないレッテルを張り議論を呼びましたが、衆参両院の厚生労働委員会等で丁寧に議論を重ね、どうにか成立にこぎつけることができました。審議中は、早朝から登庁して答弁レクを受け、長時間の審議に緊張感を持って対応し、毎日クタクタになりましたが、とても勉強にもなりました。

 また年金の仕組みは長期間にわたるものであり複雑多岐にわたります。粘り強く状態を国民にお知らせし続ける取り組みの必要性も痛感しました。地元などでは「これだけ年金制度は改正ばかり、カットばかりしているのだから、将来は年金制度はなくなるのではないか?」といった質問をしばしば受けます。お返事は「経済情勢等に応じて制度改正および額改定をしているからこそ、将来まで年金制度は持続するのです」となります。ただ、こういう質問をしたくなる気持ちは、おそらく多くの方が共有されていることであり、きちんと受け止めなければなりません。息の長い課題です。

 また質疑において貧困の問題にも議論が及びましたが、これについては生活保護制度および生活困窮者自立支援制度の見直しにおける議論に加え、塩崎大臣のイニシアティブにより新たに「新たな支えあい・分かち合いの仕組みの構築に向けた研究会」を設置し、政策テーマとして議論を続けることとしています。

◆津久井やまゆり園事件と精神保健福祉法改正案審議

 厚生労働副大臣に就任する直前、障害者施設である津久井やまゆり園で入所者など19名が殺害され、26名が傷害を受ける事件が発生しました。その事件の重大さ、痛ましさとともに、現被告が衆議院議長に宛てて書いたとされる手紙の内容が大きな波紋を呼びました。事件の一報に接し、個人的にもショックを受けたことをよく覚えています。

 障害の有無にかかわらず、人の命の重さは同じです。そうであるからこそ福祉行政というものがあるのです。手紙に書いてあった言葉は、そうした理念を真向から否定し、傷つけるものであり、決して容認することはできません。この点については塩崎大臣も僕も、累次にわたり答弁を繰り返しており、些かもぶれるものではありません。ちょっと感情的になってしまった一幕もありましたが…。

 また、その事件の検証において、自傷他害の恐れがあると認められて措置入院となった人に対して、退院後に必要であろう就労や各種相談等の支援に十分に繋げることができていない現状が明らかになりました。このことは、社会的孤立を招き、場合によっては犯罪を含むさまざまな不幸な行動にも繋がり兼ねないものと考えられます。そこで、措置入院退院後の支援計画を自治体が作り、必要な支援につなげるための法改正を行うこととし、その他の課題への対応と合わせて今年の通常国会に精神保健福祉法改正案を提出しました。参議院先議となりましたが、事前説明用資料に不適当な部分があり訂正を行うこととなるなど審議を混乱させてしまい、残念ながら成立させることができず、継続審議となりました。

 この審議においても、相当議論を重ねて対応を行うこととなりました。紆余曲折はありましたが、多岐にわたる質疑をいただいたため、むしろ論点は相当整理されたものと思います。次期臨時国会での成立を期待しています。

 なお、担当した法案には他に外国人技能実習法案、雇用保険法等改正案がありましたが、いずれも順調に質疑をいただいて成立させることができました。また、大臣政務官時代に言い出して取りまとめた「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」が、後に塩崎大臣の下で「我がごと・丸ごと地域共生社会」づくりとして発展され、そのひとつの成果として社会福祉法や介護保険法の改正に繋がったことも、個人的にはうれしいことでした。

◆厚生労働省働き方改革・業務改革加速化チーム

 厚生労働省は、働き方改革の旗振り役ですが、一方でかなり残業が多いという紺屋の白袴状態でもありました。そうした中、大臣特命による若手チーム「厚生労働ジョカツ部」が活動していましたが、その提言を踏まえて働き方改革を推進する「厚生労働省業務改革・働き方改革加速化チーム」が今年一月に設置され、塩崎大臣よりチームリーダーを命じられました。メンバーとともに鋭意議論を重ね、六月に「中間とりまとめ」を公表しました。


 過去の業務改善の過去の取り組みをレビューした上で、ただのコスト・残業削減ではなく、生産性向上を図ることを主眼において具体策を取りまとめました。実際に、厚生労働次官以下幹部に対して生産性向上とは、というお話をするところからすでに取り組んでいます(その時に使用した自作スライドを参考に掲載します)。また、7月28日に環境省や記者クラブの皆さんにもご協力いただいて、中央合同庁舎五号館の一斉消灯を行いました。あくまでも象徴的なイベントにすぎませんが、毎晩煌々と明かりがついているビルが本当に真っ暗になっている姿は、個人的には思い出に残る光景した。もちろん、電気を消すことが目的なわけではなく、職員の皆さんがその時間を豊かに過ごしておられたことを願っているわけですが。

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 ただし、まだまだ絵に描いた餅の部分が多く、具体化はこれからです。引き続き中間とりまとめに基づく取り組みが進み、厚生労働省がより働きやすい職場になるよう願ってやみません。また、しばしば、霞が関の長時間残業は国会対応のためと言われ、たしかにその面は大きいのですが、一方で国会対応は行政の義務であり、安易
にこれを削減するよう国会に求めることは慎重に考えなければならず、少なくともまず行政側で可能な努力を行ってからにしなければならない考えました。そのため中間とりまとめでは、答弁作成等に対して「見える化」の取り組みを試行しましたが、国会や国会議員に対して要望等を行うことは控えています。しかし当然ながら、質問通告は早期にしていただいた方が余計な残業はせずに済みますし、より効率的かつ意味のある答弁を行うことができます。今後、そうした検討も継続し、必要に応じて衆議院・参議院に対して要望を行うような取り組みに発展させてほしいなと願っています。

 なお、この中間とりまとめにあたり樽見英樹官房長、宮川晃総括審議官はじめメンバー各位に多大なご協力をいただきました。また事務局を務めた飯田剛調査官、吉田啓企画調整専門官には、数々のムチャ振りに対してとても精力的に取り組み、ひとつひとつ実現・具体化していただきました。心から感謝申し上げます。

 また厚生労働省ジョカツ部の呼びかけに応じ、僕もイクボス宣言を行いました。またこれを副大臣会議で呼びかけたところ、多くの各省副大臣が応じてくださり、イクボス宣言を行っていただきました。それも含め、「日本総イクボス宣言動画」にまとめられています。かなり手作り感溢れる6分弱の動画です。ぜひご覧ください。ジョカツ部の活動も、新大臣の下でも継続されることを願っています。

◆受動喫煙防止対策

 先の通常国会で、提出予定でありながら提出できなかったのが、受動喫煙対策にかかる健康増進法改正案でした。学校・オフィス・店舗など多くの人が出入りする場について原則屋内禁煙とすること等を厚生労働省の基本的な考え方としていましたが、自民党との調整がつかず最終的には塩崎厚労相と茂木党政調会長の直接会談まで行われましたが、最終的に提出に至りませんでした。もちろん次の臨時国会に向けて厚生労働省としては引き続きトライすることとなります。

 僕も、本来は所管ではありませんでしたが、自民党内との調整に途中から加わることになりました。多くの方のお話を伺う中で感じたことは、受動喫煙防止対策そのものには賛意を示す方はそれなりに多数でありほぼコンセンサスだったと言っても良いのですが、一方で「臭いから嫌い」「がんや心臓疾患等の原因になる」「歩きたばこは子供に危険」「ポイ捨てに繋がる」「喫煙スペースや学校等の敷地外で多くの人が集まって喫煙する姿が見苦しい」等々、規制すべきとする理由が人によって千差万別であり、身近な存在過ぎてこれほど議論が拡散しやすいテーマはないくらいの問題でもあったということです。その点をかみ合わせることができず、議論が収束しなかったように感じています。

 個人的には、現実にタバコの煙により息苦しくなる、喘息等の発作が起きる方の存在をどう考えるかが、最大のポイントだと考えています。その方々は、今の社会で生活するためにタバコの煙がある場所をはじめから避けて生活されているため、問題としてなかなか表面化しません。しかし、ちょっと立ち止まって考えれば、あくまでも個人の嗜好にすぎない喫煙の権利と、不本意な健康上の理由によりタバコの煙が吸えない人の行動や就労の自由の権利を同列に並べて論じることはおかしなことです。喫煙の権利の方が優先されがちな現実こそ正すべきではないでしょうか。また、喫煙者がマナーとして気を付ければよいという意見もありますが、本人のプライバシーとして本来デリケートに扱わなければならない喘息持ちであることを、当事者が言って歩かなければ回りの喫煙者が気づくはずもないわけで、全く現実的ではありません。要は、受動喫煙防止対策は、喘息など内部疾患患者のノーマライゼーションの問題として社会の在り方を考えなければならないということです。

 ある喫煙者の先輩議員が「岳ちゃんさ、夕方仕事が済んで、飲み屋で一杯飲みながらタバコを吸う、ほっと一息する自由を奪うのかい?」と丁寧にお話くださいました。しかしながら、自分の自由にならない健康上の理由によりそんなひと時がはじめから存在しない人もいるし、その人にとってそんな自由は全くの空論にすぎないということに、私たちはもう少し目を向けなけるべきだと思います。また、店先に表示すれば、タバコの煙が吸えない方が店に入ってくることがないからいいというご意見もありますが、例えば車いすの人に対して、段差があることを店先に表示してるのだから店に来るな、と言っているのと同じことだということに、今少し敏感になるべきです。

 東京オリンピックがひとつのきっかけとして今回の議論が始まっていますし、国際的に日本がどのように評価されるかということにも関わっていますが、それにとどまることなく本質的な議論が今後さらに続けられることを願っています。

 なお、今回の経緯上、塩崎恭久大臣を悪者扱いする向きがあります。しかし最終的には折り合いませんでしたが妥協も探っていましたし、決して頑固一辺倒ではありませんでした。同時に、各方面からさまざまに説得をされつつも、ある一線以上は「哲学、理念の問題」として全くブレずに譲らなかったことは、評価が分かれるかもしれませんが、僕は政治家として一つの思いを貫く立派な姿勢だったと感じています。むしろこのような結果となり、補佐役の力不足につきいささか忸怩たる思いでおります。

◆出張・視察など

 副大臣として二度の海外出張をしました。インドネシアのジャカルタで行われた第5回ASEAN+3社会福祉大臣会合では、人生二度目(一度目は会社勤めの時代にAPNICの会合にて)の英語でのプレゼンを行いました。汗をかきかき読み上げたツタナイ英語でしたが、途中で拍手をいただいて、ちゃんと理解していただいているんだと思ってホッとしました。また今年6月には、スイスのジュネーブで行われた第106回ILO(国際労働機構)総会に出席し、日本の気候変動や「働き方改革」等の取り組みについて政府を代表して演説を行いました(ただし日本語で)。政労使の三者構成により熱心に討議されている委員会の様子もしっかり拝見してきました。

 就任早々、岩手県および北海道で豪雨災害があり、岩手県岩泉市でグループホームが水害に遭い入所者が亡くなる事故がありました。弔問および現場状況把握のため、僕も現地に赴きました。しかし厚生労働省も長靴を用意していなかったのは後で反省点となりました。実は現地に住んでいる友人から、長靴を用意すべしというアドバイスはあったのですが、役所側は「不要です」と言い張るのでそのまま行ったらまだ水や泥ががじゃぶじゃぶ道を流れている状況でした。必ずしも役所の言うことが正しいとは限らず、自分で判断することも大事ということを学んだ次第です。なお、今年の福岡県・大分県での災害では、馬場大臣政務官の視察の際にはちゃんと用意されました。

 一般の方や障害者の方の職業訓練や就労支援、施設建設やトンネル建設工事現場、そして福島第一原子力発電所の廃炉作業のにおける労働者の安全衛生の確保、ハローワークや労働局、麻薬取締部など、各地の現場の視察にも足を運びました。さまざまな現場で多くの方がご努力をいただいて、生活する方や働く方の安全衛生など、厚生労働行政が円滑に進んでいることを痛感しました。また、千鳥ヶ淵墓苑にて開催される、戦没者のご遺骨の帰還の式典も何度も主催者として出席させていただき、平和の尊さに思いを深めました。

 BSフジ「プライムニュース」には、年金改革、働き方改革、受動喫煙防止対策、労働力需給のひっ迫といったテーマで出演する機会をたびたび頂戴しました。厚生労働行政の理解に多少なりとも繋がれば幸いです。

◆改めて振り返って

 国会において労働行政はむしろ野党のお家芸で、自民党内では必ずしも日のあたる分野ではなかったように思います(熱心に取り組んでおられる議員はおられます)。しかし「働き方改革」の動きの中で、俄然脚光を浴びる機会に労働行政担当の副大臣を務めることとなったのは、改めて幸運だったと思っています。

 また、大臣政務官時代に医療介護等の分野を担当し、障害者等の社会福祉は二度とも担当していたため、医療・介護・福祉・年金と労働・雇用の問題の連携に最も意を注いだような気がします。厚生省と労働省が合併してそれなりの年月が経っていますが、まだ時折連携が十分でなく「だって、『厚生』『労働』省、なんでしょ?」と注意する場面が幾度もありました。治療や介護・子育てと労働の両立、障害者や難病の方の就労支援などの分野は、まだまだ取り組みが十分とは言えません。おりしも、地元倉敷市にて、障害者就労支援施設が経営悪化のため障害者の方を大量解雇するという出来事が最近発生し、倉敷市の福祉部局と岡山労働局やハローワーク等が連携して対応に追われる事態も先日発生しました。厚生労働省分離の議論も以前はありましたが、個人的には「もっともっとくっつけ」と思います。厚生労働省は、いわばほぼ機能的には「国民生活省」とでも呼ぶべき状態であり、より一体化すべきです。

 また労働人口減少の局面が長引き、好景気もあって人手不足感が強いからこそ、「働き方改革」のチャンスなわけです。一方で、ハローワークをはじめとする職業安定行政は、もちろん景気の波への対応が必要ですからその存在意義は依然として強いものの、しかし失業対策の面も強く、意識転換が迫られているようにも感じます。職業能力開発にういて「ハロートレーニング」という名称も決まりましたし(残念ながらまだあまり普及定着していませんが…)、おりしも次の安倍政権の課題として「人づくり革命」担当大臣がおかれたことに、厚生労働省も向き合うべきだろうと思います。

 なお労働行政は政労使の三者構成が原則のため、連合をはじめとする労働組合の方々と接する様々な機会をいただきましたし、議論もさせていただきました。働く方々を守るという立場において、共感をするところも数多くありました。今後もコミュニケーションを続けさせていただければありがたいことです。

◆謝辞

 厚生労働省業務改革・働き方改革加速化チーム中間とりまとめで記載した通り、他の主要省庁と比較して、厚生労働省は職員一人当たりの答弁数や委員会開会時間等は最長です。また、地方の出先機関においても、様々に重要な役割を果たしていただいています。国民の生活に直結する仕事を日々果たしていただいている厚労省職員の皆さまの働きには日々敬意を表さなければなりませんし、たくさん支えていただいておおむね無事に一年を過ごすことができました。皆さんに心から感謝申し上げますし、これからもそれぞれにご活躍を期待しています。

 塩崎恭久大臣には大臣政務官に続いて二度目のお仕えとなりましたが、深くご信頼をいただきポイントポイントで使っていただきました。必ずしもご期待に応えきれたとは思いませんが、誠にありがたいことです。また、古屋範子副大臣、堀内詔子、馬場成志大臣政務官にも様々ご協力をいただきました。ありがとうございました。

 副大臣在任中、副大臣室の鈴井秘書官、小川主任秘書、藤澤さん、運転手の田中さんには、日々あれこれとお世話をいただき、快適に副大臣生活を過ごすことができました。誠にありがとうございました。特に鈴井秘書官には毎日お昼に付き合ってもらってあれこれ楽しくおしゃべりや愚痴を、、もとい率直に意見交換してもらって、密接に連携できてよかったと思っています。

 そして、こうして厚生労働副大臣としての務めを全うできたのは、何よりも国会に送っていただいている地元倉敷・早島の皆さまのおかげです。在京番などのために地元に帰る機会はどうしても少なくなってしまいましたが、快くお励ましいただきました。深く感謝申し上げます。地域と国政の橋渡し役として努力いたしましたが、これは引き続き努めなければなりません。

 二度にわたり、のべ750日以上厚生労働省に勤めました。おかげで厚生労働行政について相当専門的に勉強することができました。このことは、今後の政治家としての人生にも大きなプラスになるものと信じています。今後どのような役をいただけるかわかりませんが、経験を生かして全力を尽くす所存です。今後とも、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

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2016年8月18日 (木)

相模原市障害者施設殺傷事件と一億総活躍社会・働き方改革

 ブログでのご報告が遅れましたが、先般の内閣改造に伴い、厚生労働副大臣を拝命しました。昨年10月に厚生労働大臣政務官を退任して、おおむね10ヶ月で厚生労働省に復帰し、再び塩崎恭久厚生労働大臣にお仕えすることとなりました。初登庁の際「おかえりなさい」と言って迎えていただけた時は少しウルッとしました。このような重責を担わせていただけるのは、まずは国会に送り出していただいた倉敷・早島の皆さま、そしてご縁を頂いた多くの皆さまのご支援の賜物であり、心から感謝を胸に、与えられた任務に全力を尽くす所存です。

 今回は主に労働・年金・福祉の分野を担当することとなります。大臣政務官の折には医療・介護・福祉等の担当でしたので、同じ省内でもポジションチェンジ。今回の内閣では、6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に記された「働き方改革」が重要課題として位置づけられており、そのために加藤勝信担当大臣が任命されているわけですが、関わってくる法律は厚生労働省所管のものばかりですので、この重要課題の実現を側方から支援をするということになります。

 ところで、着任直前に相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」において、きわめて多数の入所者の方が元職員に殺傷されるというとてもいたましい事件が発生しました。被害者の方々やそのご家族には、心からのお悔やみとお見舞いを申し上げるものです。この犯人が記して衆議院議長公邸に届けたという手紙が報道され、物議を醸しました。「障害者は不幸を作ることしかできません」という一節をはじめ、障害を持つ方々の尊厳を著しく損なう文言が並んでおり、報道されることにより結果として多くの当事者やその周りの方々を同時に傷つけることとなったのではないかと思います。こうした考えは、障害者福祉も所管する立場の者として、断じて認められるものではありません。

 実は、先に記した「ニッポン一億総活躍プラン」では、以下のような一節があります。

 人生は十人十色であり、価値観は人それぞれである。すべての人が包摂される社会が実現できれば、安心感が醸成され、将来の見通しが確かになり、消費の底上げ、投資の拡大にもつながる。一億総活躍社会は、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、障害や難病のある方も、家庭で、職場で、地域で、あらゆる場で、誰もが活躍できる、いわば全員参加型の社会である。

 これは単なる社会政策ではなく、究極の成長戦略である。全ての人が包摂される社会が実現できれば、安心感が醸成され、将来の見通しが確かになり、消費の底上げ、投資の拡大にもつながる。また、多様な個人の能力の発揮による労働参加率向上やイノベーションの創出が図られることを通じて、経済成長が加速することが期待される(包摂と多様性による持続的成長と分配の好循環)。

 政府は明確に、かの犯人とは全く立場が異なることを既に宣言しているのです。むしろいかなる人も社会的存在として活躍できる社会を目指すこと、そしてそのことが経済成長に資することを明確に謳っているのです。理想主義的すぎるとか現状とかけなれてるとか安倍政権は本当にそこまでやる気があるのか言われるかもしれませんが、だからこそ声を大にして掲げ続けていきたい大事な旗印だと考えます。

 ですから、いわゆる「働き方改革」についても、この視点を貫徹させることが極めて重要だと考えます。なぜ長時間労働を是正しなければならないのか。また、なぜ同一労働同一賃金に踏み込まなければならないのか。それは、単に「過労は身体に悪いから」とか「正社員とパート・派遣労働者の待遇に格差があるから」という観点にとどまるものではなく、まさに高齢者、障害者や難病の方、がんサバイバーの方や若年性認知症の方、あるいは家庭でそうした方々を介護・サポートする必要のある家族ケアラーの方、もちろん妊婦さんや子育て中のお父さんお母さんも当然含め、生活上、全ての時間を仕事に捧げることにハードルがある方、さらにはLGBTの方のように現在必ずしも一般的ではないアイデンティティを持つ方も、普通かつ自然にそれぞれの事情が許す範囲における働き方で仕事をすることができ、正当な評価と賃金を得てそれで生活することができる社会を作らなければならないからではないでしょうか。今後、生産年齢人口がますます減少する中、そうした様々な事情がある方にも社会で働いていただかなければならないという社会的要請もこれを支持するでしょう。

 要は、「24時間戦えますか」という某ドリンクの宣伝でバッチリ人々の認識に固定化されてしまった、「労働者=とにかく毎日ひたすらハードに仕事することが当然」というイメージをいかに転換するか、ということが問われているのだと思います。敢えて言えば、こうした認識こそ、かの犯人の発想と極めて親和性が高い。ですから厳に戒めなければなりません。

 そうした理念に基づく「働き方改革」を目指したいものだと考えています。だとすれば、単に法規制の見直しにとどまらない作業が必要なのではないかとも思う今日この頃です。

 現実化のカギは「生産性の向上」、言い換えれば「一人当たり付加価値の向上」です。それも、単に個々人が頑張れという話ではなく、経営者の課題として相当深刻にとらえていただくべきテーマです。近々厚労省や総務省が発表する白書類において、他国と比較した日本における人材の研修にかかる投資、前向きなICTへの投資に関し、愕然とするような状況が掲載される見通しです。しかし気を取り直してこれを逆手にとれば、まだまだできることはあるのだろうということでもあるのでしょう。経営者の意識改革をどう行うかが課題です。

 いずれにしても、せっかくの「厚生」「労働」省なのです。厚生労働副大臣在任中、こうしたことを念頭に、職務に励む所存です。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。


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(写真:副大臣の認証式後、総理官邸で集合写真。ほぼ一番後ろの方にいます。)

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