敗軍の中の人、兵を語ってみる-2024年自民党総裁選挙を振り返って
●はじめに
9月27日、任期満了に伴う自由民主党総裁選挙が行われ、石破茂総裁が第28代総裁に選出されました。今回の総裁選では、橋本がくは加藤勝信候補の推薦人となり、また選挙対策本部の事務局長、そして届出上の選挙責任者として活動を行いました。結果として加藤候補は1回目の投票で議員票16票、党員票6票の計22票を獲得しましたが、残念ながら候補者9名中9位という成績となりました。加藤候補は、国民所得の倍増をはじめとする「ニッポン総活躍プラン」の実現を掲げられ、立派に総裁選を戦い抜かれました。しかし結果に繋げられることができなかったことは選対の力不足という誹りは免れることはできず、誠に申し訳ないことと考えています。改めて、加藤勝信候補をご支援いただいた皆さまに、篤く感謝を申し上げます。
「敗軍の将、兵を語らず」こそがあるべき姿とも思うのですが、今回は新人9人が立候補する乱戦というかなり特殊な状況の総裁選でもあり、なかなか貴重な体験をしたとも思います。また私は「将」と呼ばれる立場でもなかろうとも思いますので、今後の参考のため、差し障りのない範囲で感じたことは記しておきたいと思います。
●2024年自民党総裁選挙の背景のおさらい
今回の総裁選挙が特殊な状況になった要因として、昨年来問題となっている自民党の派閥に関わる政治資金収支報告書不記載問題の影響が挙げられます。岸田文雄総裁および茂木敏充幹事長以下自民党執行部はこの問題に対し、東京地検の捜査終結を待った上で党内調査を行いその度合いに応じて離党勧告その他の処分を行いました。また再発防止のために党規やガバナンスコードの改正を行い、また政治への信頼回復のために政治資金規正法の改正を通常国会で成立させました。しかし、国民の政治および自民党への信頼の回復には至らず、8月14日に岸田文雄総裁は記者会見を開き、この問題のけじめをつけるために9月末の任期満了に伴うで自民党総裁選挙に立候補せず、任期満了で退任する旨を発表されました。それまで、岸田文雄総裁は総裁選に立候補して再選を果たし、政権の維持を目指すものと多くの方が考えていたので、この報せは驚きをもって受け止められました。その結果、最強の候補者と目されていた現職が不在の、新人ばかりの総裁選となりました。
また岸田文雄総裁は、1月18日にご自身が所属していた派閥である宏池会の解散を公表し、他の派閥もその流れの中で次々と解散することとなりました。また党規やガバナンスコードの改正により、派閥のパーティの禁止や人事への介入の禁止が謳われたため、存続する(あるいは今後新設される)派閥であっても、そうしたことはできないこととされました。その結果、これまでは概ね派閥単位で自民党総裁選の立候補者や投票行動が決められていた(例外は多々ありますが)ものが、推薦人20名を集めれば、気兼ねなく誰でも立候補できる状況となりました。
その結果、高市早苗、小林鷹之、林芳正、小泉進次郎、上川陽子、加藤勝信、河野太郎、石破茂、茂木敏充の各氏が立候補する乱戦となったわけです。全員新人ですが、高市、林、河野、石破各候補が過去に総裁選への立候補経験あり、小林、小泉、上川、加藤、茂木各候補は初挑戦ということになります。また、林・上川両候補は旧宏池会所属、加藤・茂木両候補は旧平成研究会所属であり、岸田総裁・茂木幹事長の率いる派閥から二人ずつ立候補者が出たため、おそらく期せずして執行部幹部率いる派閥が率先して脱派閥化した格好となりました。
こうした経緯を踏まえると、今回の構図を招いたのは、政治資金不記載問題を背景にした岸田文雄総裁の決断が大きかったものと考えます。1月に岸田文雄総裁に党責任者としてのけじめをご本人に面と向かって求めた者として、岸田文雄総裁のご決断はとても立派でかつ重いものと受け止めています。そして結果として、決選投票の開票結果が示されるまで誰も結果の予測ができない、出来レースではない純粋な選挙戦が戦われる舞台を創った功労者として、自民党の危機を救わんとするその決断は高く称えられるべきものと個人的には考えます。もちろん、総理としても数々の難題に道筋をつけた功績も高く、このたび任を退かれる岸田文雄総理・総裁には、心からご労苦をおねぎらい申し上げます。数々の非礼へのお詫びとともに…。
●議員得票数の推薦人数割れについて
一回目の投票において、加藤勝信候補への得票が16票であったことが話題になりました。本人1票+推薦人20票の合計21票は基礎票として既に確保されたものとみなされるのが通例であり、これを切ることは、少なくとも私は経験したことはありません。驚いたのは正直なところです。ただ個人的には、過去の経験上、ありうることとは思っていました。
2008年の自民党総裁選挙にて、当時当選一回の私は、総裁選初挑戦の石破茂候補の推薦人となり、陣営に入って選挙を手伝いました。その時は、石破候補は平成研究会に所属していましたが、派閥として推されて立候補したわけではなく、小坂憲治代議士や鴨下一郎代議士、伊藤達也代議士といった面々が中心となって有志として推薦人となり、立候補しました。そのため派閥の支援は得られず、実質的には今回の加藤陣営のような手弁当での選挙戦となりました。その結果、得票は議員票21票に党員票4票の合計25票で、議員票は1票たりとも増やすことができなかったのです(その経験者として、今回の石破茂新総裁の誕生は、とても感慨深いものがあります)。
そういう意味では、自民党総裁選における1票の重みというものは、他の選挙と比較にならない重さがあるものと思っています。にわかに立候補して政策を訴えても、そう簡単に得票できるものではありません。逆に言えば本来、派閥というものは、日頃からつきあいを深めて信頼関係を築き、総裁選において推薦人や得票を確実にする手法としてあるのだろうと思うのです。今回、人事や政治資金上の繋がりとしての派閥は、現存する志公会(麻生派)を含めて解消されていますが、人と人との信頼関係が急に消滅するわけではありませんから、票や推薦人の獲得に一定の機能は果たしたものと思います。このことは、逆に言えば、しばしば派閥とはポストや政治資金の繋がりなどと言われることがありますが、必ずしもそうではないことを示しているとも言えます。具体的に言えば、林候補、茂木候補の得票は、旧派閥をベースとした信頼関係が主な源ではないかと思います。また、高市候補や小林候補、小泉候補は、派閥ではないが事前から勉強会などを通じて継続的な信頼関係構築があったのだろうと思っています。石破候補はその双方のハイブリッド型かもしれません。
上川候補、河野候補は、旧派閥の枠組みを背景にしつつ(もちろんそれだけではない)立候補した候補かなと個人的には思いますが、激戦の中で旧派閥としては他候補を支援する流れとなってしまいました。その結果として、党員票は上川候補23票、河野候補22票と、基礎票は守られつつも上積みはわずかに留まりました。これは08年総裁選時の石破候補同様のパターンであったのではないかと想像しますし、それでも票を積み増しただけ立派とも思います。
さて加藤候補です。推薦人20名はご本人が動いて集められたので、私は個々に参加の経緯を承知しているわけではありません。ただ、自発的に集まってきた方と、党内で議員グループを動かせる立場の方に依頼して推薦人を務めていただいた方がいるのではないかと想像しています。そして選挙戦の激化にあたり、何名かの方が、ご自身の信念に基づき、あるいはグループが推す候補への投票を求められ、それに従ったのでしょう。なお推薦人ではない青山繁晴参議院議員が加藤勝信候補への投票を明言されています。またもしかしたらその他にも加藤候補に投票した方がいる可能性も排除できません。よって加藤候補の推薦人を務めつつ他候補に投票した人数は、おそらく6人以上おられたということであろうと思われます。
数字が出た時はいささかショックを受けましたが、選挙戦なのですから、これを「引きはがし」「寝返り」などと称して非難すべきではありません。純粋に、得票できなかったのは陣営の責任です。票こそ入れていただけませんでしたが、推薦人が集まらず立候補を断念した方もいた中で、この方々が推薦人になってくださったおかげで加藤勝信代議士は立候補し選挙戦を戦うことが出来たわけで、私は全ての推薦人の方々にとても感謝しています。おそらくとても複雑な思いで投票をせざるを得なかった方々が誰であったのか、詮索しようとも思いません。ただ、これが自民党総裁選挙なのだ、と思うのみです。
投票の自由は極めて重要であり、推薦人といえどもルールで投票先を縛るべきとは思いません。さはさりながら、やはり国民から見て推薦人が他候補に投票することは党への信頼を高める行動とは考えにくく、極力ない方がよいこととは思います。今回は立候補のハードルを下げようというプレッシャーの下での総裁選という特殊要因が働き、直前に動き出した候補もできるだけ立候補させようという動きになったものとは思いますが、日頃からなにがしかの安定的なグループを構築し、総裁選となればそれを背景として候補者が立候補するという構造にも、こうした投票行動を防ぐためには一定の理があるようにも思われます。
なお9名の候補者が壇上に並ぶ様子は壮観ではありましたし、自民党の人材の厚さを見せることはできたものと思います。ただ、実務上は1名あたりの演説時間が過去の例よりも短くせざるを得なかったり、討論で公平を意識するあまりなかなか議論が深まらなかったりという気もしました。そういう観点では、20名という推薦人の人数は、増やす方向で今後検討されても良いのかも知れません。
●総裁選のルールについて
今回の選挙戦においては、通常適用される自民党総裁選のルールに加え、政治資金が問題となった経緯を踏まえ、「書籍の配布や書類の郵送をしない」「オートコールによる電話作戦をしない」といったルールが設けられました。しかしながら、告示直前に特定候補の広報紙が多くの党員に郵送され、ルール違反ではないかという指摘がありました。その陣営は、ルール決定以前に作業に着手しており中止できなかったという説明を行いました。
この件に関し、いくつかの陣営から総裁選管理委員会に対して抗議が行われたようです。加藤陣営としては、候補者本人および選対幹部で相談の上、選管に対してルールの周知を党員に徹底するべき旨の申し入れ書を提出する対応を行いました。当該陣営は先の説明を行っていた上、既に逢沢一郎選挙管理委員長から注意を受けていましたので、さらなる厳罰を求めることは一事不再議の原則に反することとなる一方、総裁選のルールは、報道はされましたが基本的には各陣営に対して伝えられたものであり、一般党員はむしろ広報紙の郵送をもって選挙への熱心さの表れと解釈してしまうことが懸念されたため、そのような対応を行ったものです。実際、今回加藤陣営では出遅れを挽回すべくリーフレットの郵送を準備していたところ、選管から注意されて取りやめた経緯があったため、実際にそのことが不利に働いたように感じることがあり、いささか公正さを欠いた感が拭えなかったのは正直なところです。
この件について今後の教訓とすべきことは、「ルールは早めに決めよう」「ルールは各陣営のみならず、有権者である党員に事前に広く知らせよう」ということではないかと思います。自民党では、総裁選ごとに総裁選挙管理委員会が組織され、そのたびごとにルールを決めることとなります。任期途中の辞任による急な総裁選ならばともかく、今回は任期満了に伴う総裁選ですので、もっと早くから準備を行うことは可能であったはずです。また、総裁選中の討論ではネット投票についても各候補者が前向きな発言をしていましたが、仮に具体化するとすれば、不意の総裁選もありうることを考えれば党員の募集・登録の時点からシステム的に本人確認等を実施しておく必要があり、常時選挙人名簿を維持し、かつ党員がその運用に慣れている必要が生じます。そういう意味でも、その主体としての総裁選挙管理委員会を常設とし、常に総裁選のルールを検討、整備することは、今後必要なのではないかと思われます。
なお、ルールについては、その意図や内容も、今後はより早期に、厳密に具体化していただきたいものと考えます。実は、選挙管理委員会から加藤陣営にも一度、ご注意をいただきました。内容は、加藤陣営が書類を郵送してきた、これはルール違反ではないかという指摘があったとのことです。確認してみると、ある自民党支援団体に対して加藤候補への支援とリーフレットの団体内で配布を依頼してご了解をいただいたため、その団体の事務局に必要部数を伺ってレターパックで送った事実が確認されました。私はこのルールは、多数の一般党員の方々に無差別にダイレクトメール的にリーフレット等を送りつけることを禁じたものと解釈していたので、お互い了解済みの事務的な書類送付についてまでそのような指摘を受けたことは誠に心外でしたし、考えようによってはその団体に騙し討ちされた感もありましたが、とはいえ読み返してみると禁止事項としてはただ「書類の郵送」としか書いていないので、禁止事項に当てはまらないとも言えません。また、該当すると判断したので選管も注意してきたのでしょう。
既に選挙戦も後半に差し掛かるタイミングで、リーフレットの配布は既に終了していましたが、一応念のため「禁止事項に鑑み、リーフレット等をどこかに届ける必要がある場合は、レターパックではなくバイク便か宅急便を利用してください」という注意を陣営内に伝え、その旨を選管に報告しました。日本郵政の皆さまにはとても心苦しいことですが、厳密に「郵送」が禁止されているのであれば、そうするしかありません。
とはいえそのルールができた意図が「カネのかからない選挙を目指す」ということにあるのならば、一律に「書類の郵送を禁止」というルールを設け厳密に運用するのはそもそも合理的ではありません。たぶんバイク便の方が高価ですから。また、日頃から後援会の方々に国政報告等を郵送している議員からすれば、何が悪いのかという話でもあります。ダイレクトメールを禁止したいのであれば、より早期にルールを設定して周知し、また対象を限定して規定し、趣旨に則って運用されるべきでしょう。
さらにいえば、直接議員や党員に金銭を支払って票を買ういわゆる買収に当たる行為そのものは、公職選挙法の適用がないため違法ではないとはいえ、非倫理的なので控えるべきだと考えるものの、他方、有権者の注意を喚起し、適切に各候補の政策を伝えることは公正な選挙のためにも重要であることを鑑みれば、ここに適切に費用を支出することが一方的に悪であるとは思いません。陣営によってはPR会社等がバックアップしていたと言われていたし、確かにいろいろな設えが上手だなと思いました。とはいえアメリカの大統領選挙の大キャンペーンに比べれば、まことにささやかなものです。
自民党総裁選挙は、事実上日本の総理大臣を決める選挙でもありますので、もちろん国民に対して公正公平を疑われないように行われる必要がありますが、同時にひとつの政党の代表を決める選挙でもあり、もっとショーアップしたり盛り上げたりしても差し支えはないのではないでしょうか(もちろん他党においてもそうあってよいと思います)。ただその上で、きちんと守られるべきルールは適切に設定していただきたいと切に願うところです。
●政策上の論戦について
今回は、過去最長の15日間に及ぶ選挙期間が設定され、その間に地方遊説(名古屋、福島、金沢、那覇、松山、大阪、松江)や全候補揃っての記者会見やテレビ討論、自民党本部で3日間にわたるネット討論会などの論戦が繰り広げられました。私も加藤候補に同行して現場でそれを見る機会がありました。個人的には、こうした機会はとても有意義なものであったと思います。街頭における熱情溢れる演説を聞いて、私の個人的なイメージを改めるきっかけとなった候補もおられました。また政策に関する議論を重ねることで、候補者同士がお互いの主張を理解し、深めていく様子もあり、石破総裁下の今後の自民党の政策形成にも重要な役割を果たすのではないかと考えます。準備も含めて本当に大変だったと思いますが、全候補それぞれ立派に務めを果たしておられたことは、心を込めて称賛されるべきことと思います。
そして、討論の内容がおそらく選挙の結果にも影響した点もあったと思われ、そういう意味でも有意義であったものと思います。私が見ていて、各候補者が主張された政策の内容などについて、見ていて気になった点がいくつかありましたので、個人を攻撃する意図はありませんが、今後の参考にしていただくために、具体的に記しておきたいと思います。
小泉進次郎候補が、当初「正社員を雇いやすくするための解雇規制の見直し」に言及されたのは、一つのチャレンジだったと思います。途中で「緩和ではない」という補足をされていましたが、文脈上、正社員を解雇しやすくする方向での見直しと理解するのが素直です。そして、解雇とは、自分の意志ではなくむしろ不本意に会社の都合で雇用契約を解消されるものである以上、その不本意さをどう補うかという話以上にはならず、かつそれでも主張するからには、その時は不本意であっても結果としてはその本人や社会全体も報われるような解雇規制を目指すのだということを、周りから何を言われても言い続けなければなりませんでした。それが途中でトーンダウンしてしまったように見えたのは、いささか残念なことでした。また小泉候補は、たまに質問に正面から答えないこと(「中国に行ったことはあるか」と問われた時とか)や、「一つ答えてください」という問いに二つや三つ答えてしまうこと、時間をオーバーして話し続けることなど、それぞれは些細ではありますが、主催者が設定したルールを軽く見ているようにも感じられる態度も、他の候補よりやや多いかなと個人的には気になりました。
小林鷹之候補は、立候補にあたり周到な準備の上で臨まれたなものと感じましたし、討論での受け応えも真っすぐで、好感度は高かったと思います。あるテレビ討論において、社会保障費負担増をどうするかという議論になった際、終末期や移植医療の推進に触れたのは、勇気ある発言だったと思いました。ただこの分野は、費用面からのみではなく倫理面や実務面での検討も十分に必要な分野でもあります。腎移植ひとつとってみても、そもそも腎臓の提供を誰から受けるのかということに加え、移植により透析は回避できるかもしれませんがその後一生免疫抑制剤の服用が必要となることも十分に考慮されるべきです。せっかく触れられたので、ぜひしっかり勉強して、より考えを深めていただけるといいなと期待しています。
高市早苗候補のご主張について、例えば中国のブイの撤去問題など、中国に対して毅然とした態度を取るという姿勢は多くの方の共感を呼ぶものでした。ただ両国間で既にさまざまな事案や問題を抱えている中で、仮にその態度により関係が悪化し他の問題に影響が波及しエスカレーションする事態を招いた際に、どのように状況をコントロールするのかというアイディアまであれば、より説得力をもってお話が伺えたように思います。そうした視点からは、茂木敏充候補がある討論で語っておられた「外交交渉はお互い6対4で勝ったと思う線でまとめるもの」というご発言は、現場のリアルな感覚に裏付けられた、まさに説得力のあるものだったように思われました。トランプ大統領をしてタフネゴシエイターと評させただけのことは、あります。
加藤勝信候補は、「国民所得倍増」を掲げ、その具体策を訴え続けて選挙戦を戦い抜きました。過去の予算委員会での質疑などでも同様の主張をされており、一貫してずっとお考えになっていたことを今回整理して打ち出されたものと思っています。が、まさにデフレマインドが払拭されていない中では、なかなか受け止めていただけ難いテーマでもあったなとも感じました。名古屋の街頭演説会においても、「所得倍増を実現します!」と言った瞬間に「できるわけないだろー!」というヤジがすかさず飛び、加藤候補は上手にそれを受けて「今、できるわけがないという声をいただきましたが、私にはこれを実現する具体策があります!」と切り返して次の話に繋げていて、これはお上手なやりとりだなと思いましたが、まあ多くの方が同様に、ヤジは飛ばさないにしても内心の受け止めをしていたのではないかとも感じ、なかなか難しいものだなと感じました。なお、討論会などでどのような分野の質問があっても的確に受け止めて議論を整理して安定して回答する能力は、林芳正候補とともに双璧とも思われ、毎日二回の記者会見をこなす官房長官経験者の強みは遺憾なく発揮されていたものと思います。
上川陽子候補の犯罪被害者など弱い立場の方々に目を向ける必要性のご主張、河野太郎候補の施策実施にあたり財源を直視する必要性のご主張はそれぞれ印象に残っており、いずれもご自身のキャラクターを活かしたご主張であったと思います。上川陽子候補は、松江市の演説会ではピカ一の熱の入り方だったと思います。河野候補は、刷新や変革のイメージが小泉候補と被ってしまったこと、また実際にさまざまな変革に取り組まれた実行力は疑いのないところですが、一方で改革というものは未来について語る時は期待が膨らむものではあるものの、済んでしまえば以前からそうだったように受け止められてしまうものでもあり、そのギャップに苦しまれていたようにも感じました。
石破茂候補は、最多の五回目の挑戦ということもあり、演説にせよ討論にせよ安定の石破節ともいうべきものが確立されていました。一回目の投票後、決選投票前の5分間の演説は、まずはご自身のお詫びから入り、簡潔に目指すものを述べ支持を訴える、ご自身のスピーチ能力の真骨頂とも思われる素晴らしいものでした。ただ、この演説では、高市早苗候補が、もう頭が真っ白になってしまったのかしらというご様子だったのが、本当に惜しまれるところです。
●まとめ
ということで、さまざまなことがありましたが、まずは当選を果たし自民党総裁に就任された石破茂候補に心からお祝いを申し上げます。また長きにわたる選挙戦を戦い抜かれた候補者やその陣営の方々や選挙管理委員会の先生方、さらにそれを支えた秘書さんや職員の皆さますべての方々に、ご慰労と感謝を申し上げます。
加藤勝信選対は、当選という結果が伴わなかったことだけは誠に残念だったのですが、とはいえ暖かい雰囲気で選挙戦を戦うことができ、また西銘恒三郎選対本部長を筆頭に、陣営としてご活動いただいた議員の皆さまや秘書の皆さま、そしてご家族まで含めて皆で候補者を支えることができました。加藤勝信代議士はこれまでお堅い官房長官というイメージが強かったですが、実際にはお嬢さんたちにイジられる家庭的なお父さんであり、たわし状の剛毛を毎朝整え、かつ熱意をもって未来を語る政治家加藤勝信という姿を世の中に知っていただくことができたのは、本当に良かったです。結果として石破内閣において財務大臣への就任となり、今後のさらなるご活躍が期待されるところです。私自身も多くの経験をさせていただいたことは、きっと今後に生きてくるものと思います。
石破総裁が今年10月27日投開票での総選挙の実施を言明されましたので、休む間もなく次は自分の選挙に突入することになります。この経験も生かして引き続き努力する所存です。がんばります!