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2024年6月

2024年6月17日 (月)

創薬力強化に向けた決議・骨太の方針2024に向けた緊急提言

さる5月21日、橋本がくが座長をしている自民党社会保障制度調査会創薬力の強化育成に関するPTは、科学技術イノベーション調査会医療小委員会と合同で会議を開き、合同で「創薬力強化に向けた決議」を行い、またPT単独で「骨太の方針024に向けた緊急提言」を行いました。この決議と緊急提言は、直ちにそれぞれ政府に提出され、実現に向けて努めていただいていますが、改めてこのブログにおいて、その内容を記しておきます。ご参考にしてください。

 なお創薬力の強化育成に関するPTも、設立より3年以上が経過し累次にわたる提言等を重ねた結果、それなりに政府を動かし成果を挙げ始めています。いずれその経緯や成果等をブログにまとめたいと思っています。少々お待ちください。


[PDF]創薬力強化に向けた決議
[PDF]骨太の方針2024に向けた緊急提言

令和6年5月21日
創薬力強化に向けた決議
自由民主党政務調査会
社保調査会創薬PT・科技イノベ調査会医療小委

 昨年5月、党社会保障制度調査会「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム」の提言において、医薬品産業を基幹産業に位置づけ、司令塔を設置して創薬力強化に向けた国家戦略を策定する方針を打ち出した。その提言に基づき、首相官邸主導で「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」(以下、「創薬構想会議」という。)が設置され、本日、中間とりまとめに向けた状況報告と概要の説明がなされたが、基本的には党の提言に沿っていると評価したい。

 他方、その推進やとりまとめに当たっては、以下の点に特に留意すべきであることを、改めて当合同PTの総意として強く申し入れる。

  1. 医薬品産業を国家戦略上の「基幹産業」として位置付け、政府全体として統合的・整合的な戦略を策定し、その執行・推進を担保すること。
  2. 創薬構想会議の中間とりまとめを受けた施策の推進においては、日本医療研究開発機構(AMED)がある中で、「新しい組織」に拘泥することなく、AMED事業などの施策を最大限に活用・連携すること。また、第2期AMED中長期目標期間が終了しつつある中で、関係の施策の検証・総括を行いつつ、今までの事業の改革・改善と新たな取組を組み合わせながら効率的な事業運営を目指すこと。
  3. その際、既に内閣府に健康・医療政策の推進を司る健康医療戦略事務局が定常的な組織として設置されていることを十分に認識し、前述の党提言でも指摘したように、シーズ創出から産業化まで一気通貫で政策推進できるよう、同事務局は関係省との連携にあっては中心的な役割を果たすこと。政策推進の段階に応じて、所要の機能・体制の見直し・強化を行うこと。
  4. 併せて、日本医療研究開発機構(AMED)においても、本来のミッションである「医療分野の研究開発、環境整備の中核的な役割を担い、基礎から実用化までの一貫した医療研究開発とその成果の実用化を図る」機能を十分に果たすことに加え、本構想会議の実現に大きく寄与すべく、来年度からの第3期の中長期目標期間を契機に所要の機能・体制強化を行うこと

 右、決議するものである。なお、党としても、本構想会議を受けた政府の対応状況については、定期的に報告を求めるものである。


骨太の方針2024に向けた緊急提言
令和6年5月21日
自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会
創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム

 経済財政運営と改革の基本方針2024(いわゆる「骨太の方針2024」)の策定にあたり、革新的な医薬品創出のためのイノベーション推進の観点や、ドラッグロス・ラグ解消、医薬品供給の安定化、社会における物価や人件費の状況などを踏まえ、薬価制度等に関して下記の通り提言する。政府においては、本提言を十分に踏まえた対応を求める。

  1. 薬価の中間年改定については、近年乖離率が縮小傾向にある実態や、中間年改定そのものの廃止を求める要望が強いこと等を念頭に、その在り方について見直すこと。

  2. 費用対効果評価の拡大等、医療においても経済性を考慮することは重要であるが、国民皆保険が目指すものが「国民皆が貧富の差なく適切な医療が受けられること」であることを再確認した上で、丁寧かつ慎重に議論を行うこと。

  3. 再生医療等さまざまなモダリティ、血液製剤、外用製剤、輸液製剤、後発医薬品等さまざまな業態があることを踏まえ、それぞれの課題に応じたきめ細かな対応を検討すること。

  4. 後発医薬品の安定供給の実現については、この問題に関する厚生労働省検討会の報告書を踏まえ、支援や法的枠組みの必要性も含めて検討を加速し、早急に実行すべきこと。

    (以上)

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2024年6月14日 (金)

住民票と同性パートナーシップを巡るエトセトラ

はじめに

 今年になり、同性パートナーシップと各種制度に関していくつか話題になった報道がありました。ひとつは、令和6年3月26日、犯罪被害者遺族給付金の給付に関し「犯罪被害者と同性の者は犯給法5条1項1号括弧書きにいう『婚姻の届け出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』に該当し得ると解するのが相当」と最高裁が判示したことです。

(NHK)犯罪被害者遺族給付金で初判断「同性パートナーも対象」最高裁

 もうひとつは、令和6年5月2日長崎県大村市において、パートナーシップ宣誓制度に基づき宣誓した男性カップルに対し、当事者の要望に応じて住民票の続柄欄に「夫(未届)」と記載して写しを交付したことです。

(毎日新聞)男性カップル世帯住民票、続き柄欄に「夫」記載 長崎・大村

 いずれの件も一定の動きではあるものの、それぞれになおあいまいな点を残している現在進行形の出来事であるとも思われるので現時点で確定的に評価をすることは困難ですが、とはいえ現時点で整理できることはしておく必要があるとは思いますので、少し調べたことなどを記しておきます。

戸籍と住民基本台帳の関係

 まずそもそも論を抑えておきます。何かの手続の際に個人の特定等のために求められる書類には、戸籍抄本や住民票の写しがあります。それぞれ戸籍法に基づく戸籍、住民基本台帳法に基づく住民基本台帳の一部を抜粋したものです。総務省の資料[資料PDF]では、それぞれの役割について、戸籍については「日本の国籍を有する者にあっては、身分関係を公証する唯一の公簿」、住民票については「居住関係を公証する唯一の公簿」とされており、それぞれに役割が異なっています。なお身分関係とは、今日的には夫婦や親子、きょうだいなどの親族関係という意味です(おそらく戦前には「平民」「華族」といった別も記載され、そのため「身分関係」という表現が現時点でも残っているものと思われます)。従って本来、婚姻関係の公証は戸籍によって行われるべきものということになります。

 一方現実的に、本籍地以外の場所に引っ越すことが別段珍しくなく、また家族等と離れて暮らしたり一緒に暮らしたりも多様であり、かつ各種の行政事務処理上その証明が必要なことが多いため、実際にどこにどういう世帯で住んでいるか等を公証するのが住民票ということになります。またあわせて住所地においても住民個人の同一性を明らかにするため、氏名、出生の年月日、男女の別等も戸籍と一致する内容を記すことになります。ただし続柄については、民法上の親族関係のある世帯員については、戸籍由来の続柄を記載することとされていますが、逆にいえば民法上の親族関係ではない世帯員については、それ以外の表記もあり得るということになります。住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日自治振第150号自治省行政局長等から各都道府県知事あて通知)[抜粋版PDF]では、例示的に「妻(未届)」、「妻の子」、「縁故者」、「同居人」等も示されています。こうした記載が許されているのは、住民票における続柄は、法律上の親族以外とひとつの世帯で暮らす場合についても、現実に沿って配慮されるべきという発想に基づいているといえるものと思います。

 ただ一方で、「夫婦同様に生活している場合でも、法律上の妻あるときには『妻(未届)』と記載すべきではない」という記載もあり、これは例えば既に法律上の夫婦関係が存在する場合には、別の人といかに仲良く生活していても婚姻届を出すことは重婚になるため不可能であるという法律上の制限に関し、住民票の記載においても配慮が求められている記述です。そういう意味では、住民票の続柄の記載については、実質と法律との両面にわたる考慮が求められているということも可能だと思われます。

犯罪被害者給付金訴訟最高裁判決が示したものとその射程

 さて令和6年3月26日、最高裁判所は、犯罪被害者給付金不支給裁定取消請求事件について、原判決の破棄、名古屋高裁への差し戻しという判決を下しました[判決文PDF] 。この訴訟は、約20年にわたり同性の方と同居して生活していた相手の方が第三者の犯罪行為により亡くなってしまったことを受け、原告人が犯給法に基づく遺族給付金の支給を申請したところ、愛知県公安委員会から対象にあたらないため遺族給付金の支給をしない旨の裁定を受けたことについて、この裁定の取り消しを求めて提訴されたものです。

 具体的には、遺族給付金の支給対象として示されている犯給法第5条1項1号の「犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)」という規定について争われたものであり、高裁ではこの規定の括弧書きについては「婚姻の届出ができる関係であることが前提であると解するのが自然であって、上記の者に犯罪被害者と同性の者が該当し得るものと解することはできない」としていました。

 その点について、最高裁判決は、犯罪被害者等給付金の目的等を踏まえると、犯罪被害による精神的、経済的打撃を受け、「その軽減等を図る必要性が高いと考える場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない」と述べ、「犯罪被害者と同性の者は、犯給法5条1項1号括弧書きにいう『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係の同様の事情にあつた者』に該当し得ると解するのが相当」と示しました。ただし、原告と被害者の関係が実際に「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当するか否かについては、原審に差し戻して審理させることとしています。なお、今崎裁判官による反対意見、林裁判官による補足意見がついています。

 この判決は、私の理解では、法文上の表現として「配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係の同様の事情にあった者)」と記してあった際、内縁関係や事実婚など、事情や意図があって婚姻届を出していないけど、同居している、生計を一にしている、挙式している、周囲にそのように表明し扱われているなど実質的に婚姻関係を結んでいる者であり、すなわち条件が整えば法律上は婚姻届を出すことが許されている異性間に限定される(高裁判決はそのような発想によるものと思われます)、と固定的に結び付けて考えてならない、ということを言っているのだと考えます。

 言い換えれば、婚姻に準ずるものとしての内縁関係等に関する法的保護のきっかけが大正4年の大審院判決(大正四年一月二六日大審院民事連合部判決)に求められており、これが婚約関係(当時の言葉では「婚姻予約」)についてのものであっため、当然に男女間の法律的婚姻を前提として考えられていたことを今なお実務上引きずり続けていたことについて、現代的視点に立脚し直し、民法上婚姻が男女間に限定されていることに必ずしも囚われることなく、同性間でも「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得る場合があると明示したものと受け取ることが可能であり、そういう意味では画期的といえます。

 一方でこの判決は、犯給法の趣旨目的に注目したものであり、よって林裁判官による補足意見で記されている通り「あくまでも犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等への支援という特有の目的で支給される遺族給付金の受給権者に係る解釈を示したもの」です。同様の表現は他にも多数の法令で見受けられますが、それぞれについて異性間に限られるのか、同性間も許されるのかはそれぞれの法令や制度の目的等に沿って個別に検討される必要があるものであり、この判決をもって他制度の同様の表現について一律に「同性も許されるべきだ!」というのは、いささか早とちりだと思われます。一方で、異性間に限定されると判断する場合には、「(日本国憲法が同性婚を想定しておらず、)民法上同性同士の婚姻届は不受理」という現状であっても、そのように限定する他の合理的な理由が求められることとなりますので、それもまた難儀するかもしれません。

 また同性間において「実質上婚姻関係と同様の事情にあった者」がどのように判断されるべきかについては本判決には記述がなく、本件の原告と被害者の関係の具体的な判断についても高裁に委ねてしまっているので、最高裁がどう考えているかは、よくわかりません。ですから本件については高裁が判断することになりますし、他のケースについてはまずは申請等をうけた行政庁が判断するということになります。かなり悩ましい問題が残されているように思います。なお最高裁による判決文には、本件原告(ないし被害者)の住民票の続柄がどうなっていたかは記述がなく、不明です。

大村市の住民票の記載について

 さて報道によると、今年5月に、長崎県大村市は、市内在住の同性カップルについて、世帯合併の手続きを行う際、その希望を踏まえ、世帯主以外の方について「夫(見届)」と記載しました。なお同市はパートナーシップ宣誓制度を導入しており、この2人は宣誓の受領証を取得していました。住民票の記載は市町村長の責任で行われるものであり、それに則って判断したこととされていますので、ここではその当否を問うことは控えます。ただ、裁量において行った事務であっても、いくつかの点についてその判断の理由等について説明はあってもよいかとは思うのです。

 総務省は、平成30年6月8日の衆議院法務委員会において、「住民票の続柄の今の記載について、同性パートナーについてはどのようになっていますか」という質問に対し、「委員お尋ねの同性パートナーにつきましては、戸籍制度では同性結婚は認められておりませんで、親族関係があると言えないため、世帯主との続き柄につきましては同居人と記載することとしております」と答弁しています[同委員会議事録]。冒頭に記したように、戸籍が身分を公証する唯一のものであることを踏まえ、住民票の記載もそれに準ずるべきという立場を取っているものと思われます。こうした前例があるにもかかわらず、より踏み込んで、一定の法的保護があると一般的に期待される「夫(未届)」に該当すると判断した理由は、大村市長の説明が待たれると思われます。

 もちろん、大村市のパートナーシップ宣誓制度の存在およびその受領証の取得は一つの理由であろうと想像します。だとすればその制度の実務上、どの程度法的保護を与えるべき根拠を担保しているのかが問われるのではないかと思われます。総務省の記載要領には「内縁の夫婦は、法律上の夫婦ではないが準婚として各種の社会保障の面では法律上の夫婦と同じ取り扱いを受けているので『夫(未届)、妻(未届)』と記載する」という記載があります。大村市長はこれに則ったということでしょうが、ならば大村市長は「各種の社会保障の面では法律上の夫婦と同じ取り扱いを受けている」ものと認めた理由について、このカップルに該当する根拠を示す必要があります。しかし一方で大村市長は、「一般的な事実婚と同様という認識はない」とも明言しており、ならばなぜ一般的な事実婚ないし内縁関係と同様の記載をしたのかが不明で、やはり説明が尽くされていないという印象が拭えません。

 個人的には、現在の制度上届出受理の可能性が無い方に対して、「夫(未届)」と記載するのはいささか齟齬を感じざるを得ません。市町村長の裁量をいうのであれば、あくまでも総務省記載要領における続柄の記載事項は例示(同居人の後に「等」の文字がありますから)なので「大村市パートナーシップ宣誓制度によるパートナー」といった記載を検討しても、良かったかもしれません。なお、同様にパートナーシップ宣誓制度を有する大阪府大阪市の大阪市住民基本台帳事務処理要領(p.16-17) [PDF]では、確認の上「縁故者」とする旨記されています。総務省の要領に範囲において、法律と現実と双方に配慮した記載法とも考えられます。

現時点でのまとめ

 こうして並べて述べてくると、最高裁および大村市両者のロジックの差を感じます。最高裁判決の方は、法律の趣旨目的に照らして「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」という言葉を素直に読んだ結論として、異性か同性かに関わらずごく近しい関係であれば犯罪被害による経済的・精神的打撃は同様に受けるであろうことを直視して結論を導くべきと観念しているように思われます。これは、同様の法文について「事実婚」や「内縁関係」という概念を無意識に経由していたものをショートカットしたことにより導かれた結論であると思われます。結果として、同様の記載がある法令について、同性間でも該当し得るか所管省庁が一つずつ判断していく作業が求められることとなりますが、これは最高裁判決ですから致し方ありません。

 一方で大村市長の判断は、同性間においても内縁関係同様の続柄の表現に踏み込んだ割には「一般的な事実婚と同様という認識はない」と述べ、「じゃあいったい何なんだ」というツッコミをしたくなるような消化不良感を残します。結局のところ、事実婚や内縁関係という明確な定義のない概念を経由して同性パートナーシップの社会におけるあり方に一石を投じたものの、結局自らの行動について説明しきれず、「記載例が追い付いていない」と最終的に国に責任を負わせる発言をせざるを得なかったのではないかとも思います。

(NHK)同性カップルの住民票に「夫」記載 大村市長「できると判断」

 結局、婚姻に準ずる関係とも捉えられる事実婚や内縁関係という概念を経由する限り、大前提として法律上の婚姻は現時点では異性間に限られること、そもそも身分関係(親族関係)の公証は戸籍が唯一のものであり、住民票の続柄は事務効率化と利便性のために便宜的にあるものに過ぎないことなどの影響は避けることができず、したがってこれらを同性間パートナーシップに無限定に当てはめ、さらに法律上の保護等の効果を期待するのは、筋違いなのです。だからこそ、大村市長ですら「事実婚と同様である」と言い切れなかったのだと考えます。

 なお個人的には、私なりに当事者の方々のお話を伺った経験から、同性パートナーにおいても、一定の法的保護が認められ得るし、認めた方が良いと考えます。実際にさまざまなご苦労を抱えておられるからです。ただしその範囲については、例えば異性間でも内縁関係では相続権は認められない等の限定があることに鑑み、適切に設定される必要があるものと思います。また、婚姻については同居、協力、扶助の義務、婚姻費用の分担等が民法上明記され、また不貞や悪意による遺棄等は離婚事由とされることからこれらも行ってはなりません。これは、内縁関係についても同様であり、だから未届でも法的保護があるのだと考えます。したがって、同性パートナーにおいても、当然に一定の義務について課した上での保護でなければなりません(なお、現在いくつかの自治体で行われているパートナーシップ宣誓制度において、どのような義務が両人に課されているのかは、興味深い気がします)。

 民法で同性婚を認めてしまえばフルにそのようになりますが、日本国憲法第二十四条が「両性の」と書いている以上同性婚は想定していないと解するのが妥当であると私は考えており、その立場からすると憲法改正しない限り困難です(とはいえいくつかの地裁・高裁で、現行民法の規定が違憲であるという判決も出ており、この見解は絶対ではありません)。別案として民法を改正し、婚姻、養子縁組以外に親族関係を結ぶ制度(もちろんそれをパートナーシップ制度と呼称してもよいでしょう)を設ける方法は検討し得るとは思います。いずれにしても、日本は民主主義の国ですから、議論とコンセンサスが要ります。

 判例に拠らず事前に同性パートナーに法的保護を与えようとすると、このような議論をするのがスジであろうと思われるところです。とはいえ、一応法律を扱う職業に就いてはいますが、弁護士の方や学者の方ほど専門的に勉強したわけでもない素人の議論であろうとも自覚しています。ぜひともご多くの方々のご高見も拝見できれば、ありがたいことと思っています。

 なお法的な効果を抜きにして、単に続柄の表現を気にするのであれば、総務省の記載要領を改訂して例えば「同性パートナー」も例示に加えてもよいのかもしれません。いずれにしても、最高裁判決によってこの関係性が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当てはまるかどうかは個別に判断されることになるため、そのような続柄を定めても、両人の関係を第三者に伝えやすくなる以上には、特に差し支えはないはずです。

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2024年6月12日 (水)

「国立こどもまんなかウェルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟

 このたび、自民党・公明党の有志議員により構成される「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター in 沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟を立ち上げ、メンバーのご同意をいただいて会長に就任しました。出生率が全国一位で、かつ米軍基地の返還が進むことにより跡地の活用が期待できるという沖縄県が有する可能性に着目し、国が主体的に関わる新しいこども・子育て支援拠点を設けることで、沖縄のこどもたちを取り巻く課題の解消を図り、かつ全国や世界の先導役となる体制を作るべきではないかという趣旨に賛同する議員の集まりです。

 この議連は、自民党・菅義偉元総裁、公明党・山口那津男代表を最高顧問にいただき、両党の議員により立ち上げられたもので、4月17日に設立準備会、5月23日に設立総会を開いて提言を決議し、6月6日に自見はなこ沖縄担当大臣を訪ねて提言を手交しました。「骨太の方針2024」への反映を皮切りに、今後具体化に向けて動きます。

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(写真:自見沖縄担当相への申し入れの様子)

「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター in沖縄 (仮称)」の設立に向けた議員連盟 役員名簿

最高顧問 菅 義偉 山口那津男
顧  問  渡海紀三朗 山口 俊一 高木 陽介 小渕 優子 岡田 直樹 西銘恒三郎 島尻安伊子
会  長  橋本  岳
幹事長 秋野 公造
幹  事 國場幸之助 井上 貴博 河野 義博 比嘉奈津美 今井絵理子 窪田 哲也
事務局長 宮崎 政久
事務局次長 金城 泰邦

(2024年6月6日 現在)


[PDF]「国立こどもまんなかウエルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟 経済財政運営と改革の基本方針2024に向けた提言
内閣府特命担当大臣
(沖縄及び北方対策)
自 見 はなこ 様

「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター in沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟
経済財政運営と改革の基本方針2024に向けた提言
令和6年6月6日
「国立こどもまんなかウェルビーイングセンターin沖縄(仮称)」の設立に向けた議員連盟
会 長    橋 本   岳


 沖縄県は、国内でもっとも出生率が高いという可能性を有する。しかし歴史的、地理的、社会的不利性等の様々な特殊事情から県民所得や若年妊娠率などになお課題を抱えており、こどもを取り巻く状況は未だに厳しい。一方で、昨年末に閣議決定された「こども大綱」においては、こどもが身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(バイオ・サイコ・ソーシャルウェルビーイング)で生活をおくることができる「こどもまんなか社会」の実現を目指すこととされ、これは当然沖縄においても実現されなければならない。

 沖縄のこどもを取り巻くさまざまな課題を解決するという観点、またその成果を研究として全国に発信するという観点から、関係者の力を結集し、これを学術的な観点からサポートし、かつ成果を全国に発信する研究拠点を、国として整備することが必要である。 経済財政運営と改革の基本方針2024(いわゆる「骨太方針2024」)のとりまとめに向け、下記の各項目について、政府において着実に取り組むべきことを求める。

  • 沖縄のこどもを取り巻く様々な課題の根本的な解決を図るため、「国立こどもまんなかウェルビーイングセンター」(以下、「センター」という。)を沖縄県内において設立することを目指し、具体的に検討を進めること
  • センターは「教育」・「保健医療」・「福祉」等が融合した取組の実現を図る観点から、関係する各分野のアカデミアによる学際的な研究拠点とするべきこと
  • センターはこどものウェルビーイングの向上に向けた取り組みについて、沖縄のこどもを取り巻く課題の解決に資することに加え、沖縄におけるアジアのハブとしての地理的特性を生かし、かつオクスフォード大学をはじめとする諸外国の研究機関とも連携して得た成果を全国に発信・普及し、政策の実施に関してEBPMの観点から後押しすることを目指すべきであること
  • 旧西普天間住宅地区において令和6年度中に整備が完了する健康医療拠点は、琉球大学医学部・病院の移転を行うものであり、既に医学的な臨床・研究の場を兼ね備えていることから、まずは健康医療拠点の中で早期にセンターを立ち上げることを有力な選択肢として考慮すること
  • センターの機能や組織の在り方については、琉球大学と関係省庁、沖縄県をはじめとする自治体、関係団体の合議のもと、合意形成を丁寧に図りながら方向性を取りまとめるべきであること
  • センターについて、「こどもまんなか」という観点からの各般の取組を推し進める観点から、関係省庁や関係研究機関が主体的に関与し、取組の後押しを行うべきこと
以上

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2024年6月 7日 (金)

介護・障害福祉分野の人材の確保及び定着を促進するとともにサービス提供体制を整備するための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する件

 6月5日、衆議院厚生労働委員会において、「介護・障害福祉分野の人材の確保および定着を促進するとともにサービス提供体制を整備するための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する件」が議題とされ、全会一致で委員会の決議とすることに決しました。これは、もともと野党から議員立法として介護・障害福祉分野従事者の処遇改善等について議員立法が提出されていたことを受け、与野党ともに受け入れられるアクションとして与党筆頭理事として提案したもので、中島克仁・野党筆頭理事はじめに全会派の議員各位にご賛同いただき、議決することになったものです。当日、提出者を代表して橋本がくが趣旨説明を務めさせていただくことになり、誠に光栄なことでした。

 政府においては、全会派で議決した本決議の趣旨をしっかりと受け止め、対応したいただくことを期待します。また、ご協力いただいた新谷正義委員長、中島克仁野党筆頭理事はじめ理事・委員のみなさまに篤く感謝申し上げます。

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(写真:趣旨説明の様子)


介護・障害福祉分野の人材の確保及び定着を促進するとともにサービス提供体制を整備するための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する件

政府は、高齢者等並びに障害者及び障害児が安心して暮らすことが出来る社会を実現するためにこれらの者に対する介護又は障害福祉に関するサービスに従事する者(以下「介護・障害福祉従事者」という。)が重要な職責を担っていること、介護・障害福祉従事者の給与水準が他産業の給与水準と比較して低い状況にあること、我が国における賃金や物価が上昇傾向にあること等に鑑み、これらのサービスを担う優れた人材の確保及び定着をより一層促すとともにサービス提供体制を整備するため、令和六年度に行われた介護報酬及び障害福祉サービス等報酬の改定の影響について、訪問介護を始めとする介護事業者等の意見も聴きながら速やかにかつ十分に検証を行い、介護・障害福祉従事者の賃金を始めとする処遇の改善に資するための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるべきである。

右決議する。

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2024年6月 5日 (水)

こどもまんなか保健医療PT「骨太2024および令和7年度予算編成に向けた提言」

 この6月4日、橋本がくが座長を務める自民党こどもまんなか保健医療の実現に関するプロジェクトチームにおいて「骨太の方針2024および令和7年度予算編成に向けた提言」を取りまとめ、政府に提言を行いました。この提言は、過去の2回PTにおける政府からの現状報告、日本産婦人科医会および日本小児科医会からのヒアリング、それらを踏まえた議員間の議論等を踏まえて作成したものです。ここにその内容を記します。

 なおこの提言の内容、特に出産(正常分娩)の保険適用については、新たな枠組みの検討も含めた検討を求めている部分については補足として「出産(正常分娩)の保険適用を巡る備忘録」に記しましたので、そちらも併せてご覧ください。

[PDF]骨太の方針2024および令和7年度予算編成に向けた提言


骨太の方針2024および令和7年度予算編成に向けた提言
令和6年6月4日
自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会
こどもまんなか保健医療の実現に関するプロジェクトチーム

 昨年末、政府においては「こども未来戦略」および「こども大綱」を閣議決定した。その中で、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入検討を含む出産等の経済的負担の軽減や、妊娠期からの切れ目のない支援の拡充、1か月児及び5歳児への健康診査ならびに新生児マススクリーニングの対象疾患拡充等の項目が示され、法律や予算に基づく事業として実施に移されつつあることは、本プロジェクトチーム(PT)が目指す「親と子の出産と育ちを一気通貫してサポートし、より安心できるものとする」という観点から、高く評価できるものである。 しかし本PTにおけるヒアリングや意見交換を通じ、なお懸念や要拡充点について議論があった。これを踏まえ、下記の通り提言を行うこととする。政府においてもこれを重く受け止め、実現に向け努められたい。

  1. 出産(正常分娩)の保険適用に関して、「出産等の経済的負担の軽減」が議論の出発点であることを十分に踏まえ、いつでも、どこに住んでいても安全かつ妊婦がアクセスできる周産期医療提供体制の確保、多様なニーズへの対応、他の医療行為や管理との関係などさまざまな論点があることも鑑み、サービスの利用者である妊娠・出産を望む方や妊産婦、サービス提供者である医療者を含む多様な関係者の意見を広く集め、現行の療養の給付のみに囚われることなく新たな政策体系の検討も含め、あらゆる政策手段の選択肢およびその組み合わせを考慮し、丁寧に検討を行うこと。
  2. 妊婦健診、周産期からのスムーズな乳幼児健診・医療、そして思春期・学校保健への接続および内容の充実を目指し、助産師等による伴走型相談支援等の推進、ペリネイタルビジットの普及や産後ケア事業への小児科の参画の推進、母子地域包括ケア病棟の実現、乳幼児健診の機会増加と実施率向上、新生児マススクリーニング対象疾患の拡充等に向けた調査研究等に取り組むとともに、そのための都道府県による広域的なサービスの調整など役割の明確化を含めた実施体制の確保等に取り組むこと。また、医療的ケア児等支援が必要な乳幼児の健診受診支援や予防のためのこどもの死亡検証(CDR)の実現、予防接種を含めた母子保健・学校保健の情報について一貫させたデジタル化等の検討を加速すること。
(以上)

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出産(正常分娩)の保険適用を巡る備忘録

 昨年末に閣議決定された「こども未来戦略」および「こども大綱」には、いずれも「出産費用(正常分娩)の保険適用」の文字があります。先日私が座長を務めている自民党社会保障制度調査会こどもまんなか保健医療の実現に関するPTにおいて議論したところ、この件について懸念や心配を含むさまざまなご意見をいただきました。それを踏まえPTでは今般骨太の方針2024および令和7年度予算平成に向けた提言を取りまとめ政府に示したところですが、あらためてこのブログに経緯や目指すところ等を記し、余計な誤解についてはこれを防ぎ、スムーズに政策目的が実現するべく、残しておきます。

1. 出産を巡る現状

 まずは出産等を巡る公的医療保険の現状についておさらいします。一般的に、病気やケガの治療のため病院等でマイナンバーカードか保険証を提示して医師の診察を受け、手術や投薬等の治療を受ければ、それぞれの人が加入している公的医療保険の適用となり、多くの人が3割の負担となります。これはすなわち、7割分が健康保険の現物給付を受けているということです。この、診察や治療に関する公的医療保険の現物給付を、健康保険法等の法律では「療養の給付」と呼びます。

 一方出産は、病気やケガではないため、療養の給付の対象とならず、診療所や病院等で分娩してかかった費用は全額自己負担となります。ただし医学上の必要により帝王切開になった場合等は病気ないしその疑い扱いとなり、これは既に療養の給付の対象となっています。現時点で療養の給付の対象ではないのは正常分娩の場合のみであり、なので上記閣議決定文書等の施策の対象は「出産(正常分娩)」という表現となるのです。

 ただし加入者が出産した時には、出産育児一時金が、それぞれが加入する公的医療保険から給付されます。出産育児一時金は昨年(令和5年)4月に42万円から50万円に引き上げられました。実はこれも健康保険法等に規定された公的医療保険の給付です。したがって、既に出産は正常分娩も含めて公的医療保険の給付対象です。実際のところ、例えば健康保険法第一条では、「この法律は、(…中略…)疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」と記してあり、「出産」も明記されています。

 この点は「出産(正常分娩)の保険適用」という言葉に引きずられて生まれる誤解が多いところで、しばしば「出産は、ケガや病気ではないから、公的医療保険の給付の対象として考えるのは違和感がある」という類の議論を行う方がおられます。しかし、違和感があろうがなかろうが、既に出産は公的医療保険の給付対象とされていますので、この発言は無意味です。厳密に言えば、公的医療保険における正常分娩の現在の取り扱いは、「保険給付の対象ではあるが、療養の給付ではなく、出産育児一時金として給付が行われる」ということなのです。

 一方このことは医療機関側からみると、正常分娩は、診療報酬という形で政府によって価格が決められている保険診療ではなく自由診療ということになりますので、医療機関が価格を自由に設定できます。また、保険診療ではないため、保険医が診療を行う必要もありません。このことにより、他の保険診療にはない二つの特徴が生じます。

 ひとつは、医療機関により、正常分娩にかかる費用がバラバラであることです。これは、それぞれの医療機関の体制、提供された医療やサービスの内容、お産の経過、コスト(賃料や人件費)等がまちまちであることに主に起因しており、結果として私的病院(50.6万円)・公的病院(46.3万円)・診療所等(47.9万円)の間(数字はすべて令和2年度における平均値。出典は厚生労働省)や、都道府県の間(最大値は東京都(56.5万円)、最小値は鳥取県(35.7万円)、数字は令和3年度における平均値。出典は厚生労働省保健局p.28 )などと差がつく結果となっています。したがって、出産育児一時金で出産の費用を支払ってお釣りが出る人も、足りなくて自己負担が生じる人もいます。また少子化の進展により出生数の減少が続いていることもあり、価格の平均値も毎年上がり続けており、かつ分娩可能な施設は減少し続けています。したがって、このままの制度を続けていると、仮に出産育児一時金を価格上昇に合わせて増額し続けても、どんどん身近な施設が減少し、分娩のハードルは上がっていくのではないかと思われます。

 なお出産育児一時金の50万円への引上げに伴い、厚生労働省はその費用の内訳を調査して「見える化」し、出産時に自分に合った医療機関等を選択することができるように情報提供することとされました。その成果として先日公開されたWebサイトが「あなたにあった出産施設を探せるサイト『出産なび』へようこそ」です。ぜひ出産を控える多くの方にご活用いただけるとよいと思います。また、経緯等については厚生労働省の広報誌「厚生労働」の記事「お産の施設、どう選ぶ? 分娩施設の情報提供Webサイト誕生! 『出産費用の見える化』が始まります」に詳しいです。

 正常分娩が保険診療ではないことによるもうひとつの特徴は、もともと分娩は人類の発生以来自然に行われてきた生理的なものであるため、そもそも必ずしも医療の対象ではなかったことから、法律的には保険医療機関でなくても助産所でも自宅でも、極端な話どこでも行うことができるものであるし、医師の診断も必要ありません(もちろん実際には安全性等は考慮されるべきですが、可能か不可能かという話です)。とにかく出産しさえすれば、出産育児一時金の給付の対象となります。この点も療養の給付として行われる一般の診療とは大きく異なる点です。

2. 自民党および政府において出産(正常分娩)の保険適用が進展した経緯

 もともと出産の保険適用は、国会では時折取り上げられるテーマではありました。野党の議員の方が国会で質問するのを何回か聞いた記憶はありますが、毎回の政府の答弁は「様々な課題があるため、慎重な検討を要する」(≒やる気ない)というものだったと思います。自由民主党においても長くそのような方針でした。この方針が変わった経緯について記します。

 大きなきっかけは、自見はなこ・山田太郎両参議院議員を共同事務局として令和3年に設立された「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」でした。この勉強会は、こども庁の創設を目指して自民党若手有志で設立されたものです。同年2月には、インターネットを利用した無記名自記式の調査紙調査として、「子ども行政への要望・必要だと思うことアンケート」を行い、3月に分析結果を公表しました 。回答人数は17,458名、意見数は48,052件の大規模なものです。

 その中で、事務局の分類によれば、妊娠・出産にかかる費用負担に関する意見が約300件、妊娠期の充実した医療と産後ケアに関する意見が約3,000件あったとされており、これらの点に、一定のニーズや課題があることが明らかになりました。先述の通り、都道府県間でも正常分娩の費用負担に差があります。ただ、実際には出産を控える年代の女性は、最も費用が高価な東京都はじめ都市部に集中して住んでいる現実があり、里帰り出産も多少はあるとも思われますが、年間の分娩のうち相当な割合が、出産育児一時金では全く足りず、何十万円もの自己負担をして出産を余儀なくされているものと想像しなければなりません。アンケートの意見を読んでいても、そうした悲鳴のようなご意見が多数見受けられました。この状況が続く限り、出産一時金を多少引き上げたところで焼け石に水ではないかと思いました。

 この勉強会の提言を踏まえ、自民党「こども・若者」輝く未来創造本部および政府において検討が進み、令和4年6月にはこども基本法およびこども家庭庁設置法が成立、令和5年4月のこども家庭庁の設置につながります。この間の政府の検討により、出産育児一時金の50万円への引上げも決定しました。

 令和5年正月には岸田文雄総理が「異次元の少子化対策」の実施を打ち出し、さらなるこども施策の検討が政府において検討されることとなりました。その中で、自民党「こども・若者」輝く未来創造本部では、ヒアリングや議員間の議論を踏まえ、令和5年3月27日に「『次元の異なる少子化対策』への挑戦に向けて(論点整理)」を公表。その中で、「出産費用の保険適用および自己負担分の支援の具体的検討」と記され、自民党として、出産費用の保険適用という方向が打ち出されました。そしてこの提言を受けて同年3月31日に小倉將信こども政策担当大臣が取りまとめた「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」において、「出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め出産に関する支援等の在り方について検討を行う」という文言が記載されました。おそらく、この文書が、政府において初めて「出産費用(正常分娩)の保険適用」という文言が書かれた例となるものと思います。この試案をベースに検討され6月13日に閣議決定された「『こども未来戦略方針』~次元の異なる少子化対策の実現のための『こども未来戦略』の策定に向けて~」、12月22日に閣議決定された「『こども未来戦略』~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」等において、政府の方針として決定づけられてきました。

 このように、国民や若手有志議員の声が自民党を動かし、政府を動かしたのが「出産費用(正常分娩)の保険適用」だと、考えています。

3. 出産(正常分娩)の保険適用の議論の適切な着地点を目指して

 令和4年4月から不妊治療の保険適用を行った際には、一般不妊治療や生殖補助医療について、有効性・安全性が確認された治療を療養の給付に含めることで実現されました。そのため、出産(正常分娩)の保険適用についても、出産(正常分娩)を療養の給付に含めることで実現されることが、まずは想定されます。しかしこの方法は、さまざまな懸念が関係者から示されています。

 まず大きな心配は、現在は価格が医療機関ごとに自由に設定できますが、他の診療同様に診療報酬が全国一律に設定されることが想定されることにあります。その場合、現に地域による価格差があったり、体制によるコスト差があったり、分娩そのものも要する時間や処置がマチマチだったりすることをどのように考えるかが問われます。これをバッサリと包括的に全国一律かつ不十分な価格設定にされたりすると、経営が困難になり分娩取扱いを止める医療機関が多発するのではないかという心配に当然つながります。世界に対しても安全性を誇れる日本の周産期医療提供体制が維持できなくなれば、困るの妊産婦とこどもたちです。

 正常分娩は自由診療だったため食事も自費負担ですが、別段病気でもないのですから病院食を食べる必要はなく、お祝い事ですから素敵なお食事を提供するサービスも行われたりしていました。厳密に療養の給付にあてはめると、病院食を提供しないと全額自費負担になってしまうということになります。まあこのようなアメニティについては、差額ベッド代等と同様に選定療養に含め、支払いは自費とするが保険診療との併用を認めるということも考えられます。では新生児の聴覚検査等のサービスや、無痛分娩(といっても完全に痛みがなくなる訳ではないので麻酔分娩と呼ぶべきだという意見がPTでありました)を給付の対象と考えるかどうかといった、分娩に伴う様々なサービスをどこに当てはめるかは、専門的な議論が必要な問題だろうと思われます。なお個人的には、無痛分娩も保険給付に含めた方がよいと思いますが、その場合には麻酔科医師の配置等が必要になりますのでそれに応じた報酬設定ないしは加算を考える必要があります。

 またそのままだと原則3割の一部負担金が生じるため必ずしも負担軽減にならない、場合によっては負担が増えてしまうかもしれないという問題もあります。もともと療養の給付における一部負担金は、基本的には医療サービスは現物給付するものの、本人にも疾病やケガを防ぐよう意識づけをしてもらうという意味で一部負担を求めるという趣旨のものです。しかし妊娠・出産はメデタイことであり、政策的にも後押しすべきことです。そのため本人に一部負担金を求める理由がありません。

 もうひとつ大きな問題は、助産師による助産所または自宅等でのお産をどう取り扱うかです。現在の健康保険の診療・調剤は、保険医療機関または保険薬局により、被保険者の確認を受けて給付を受ける必要があります。また健康保険の診療・調剤を行うのは、保健医(医師・歯科医師)または保険薬剤師でなければなりません。しかし助産所も助産師もいずれも上記に含まれておらず、そのままでは、助産師のみの助産所では療養の給付としての分娩を行うことは事実上できないということになります。しかし、保険適用のために現に分娩の選択肢として在るものの幅を狭めてしまうのは、本末転倒のそしりを逃れません。

 まだ他にもあるかもしれませんが、ざっと思いつくだけでも以上の懸念や心配があることに対し、ご関係の方々が安心するような着地点をこれから検討する必要があります。その中で出てきたのが、PT提言で記した、「療養の給付のみに囚われることなく新たな政策体系の検討を含め」という文言です。要は、療養の給付ではない新たな現物給付の類型を創設してしまえば、少なくとも一部負担金の考え方や助産所での分娩など上記の中のいくつかの問題は解決しやすくなるのではないかという発想です。もちろんそれだけで全てが解決するわけではなく、医療とアメニティの切り分けや適切な報酬設定の在り方、地域差に基づく地域別の報酬設定の是非など、さらに実情の把握を重ねそれに基づく多様な議論が必要な課題も、多々あるものとも思います。

 また、いずれにせよ、分娩一回あたりの出来高払いが基本となるでしょうから、分娩数の減少に伴う産科医療機関の収入減は、おそらく当面歯止めがかかりません。これに伴う産科医療機関等の経営悪化や分娩取扱いの休止等を防ぐためには、別途外来や病床維持のための補助等も検討する必要があるのではないかと、個人的には考えます。また新生児の聴覚検査等について出生時に一律に行うべきものがあれば、これも別途補助等を検討すべきでしょう。これらはおそらく保険ではなく、公費を財源とするべきものでしょう。この辺りの気持ちを、PT提言における「あらゆる政策手段の選択肢およびその組み合わせを考慮し」という一節に込めているつもりです。

  5月15日に厚生労働省は社会保障審議会利用保険部会を開催し、妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会を設置する方針を明らかにしました。医療関係者、医療保険者等、自治体関係者、妊産婦の声を伝える者、学識経験者等を構成員とし、出産に関する支援等の更なる強化策(医療保険制度における支援の在り方、周産期医療提供体制の在り方)や、妊娠期・産前産後に関する支援の更なる強化策等について議論されるとのことです(資料)。多くの関係者の知恵を結集し、ここに記したような課題を上手に解決する制度が構築されることを期待しています。

4. こどもまんなか保健医療とは

 さて、妊娠から出産、そして子育ては、親子にとっては一連のものですが、行く先がバラバラでありそのたびごとに探さないといけないというハードルがあるのではないかと、個人的にずっと考えていました。例えば妊娠したらまずは自治体に妊娠届を提出します。すると自治体は伴走型相談支援を行います。一方で、妊婦健診は産婦人科の診療所・病院や助産所に通います。場合によっては、分娩はまた別の大きな病院でということになるかもしれません。分娩が済んだら、産後ケアや乳幼児の健診、乳児家庭全戸訪問等の自治体による支援があります。しかし回数等は自治体により異なります。こどもの予防接種や病気等では、小児科の診療所や病院にかかることになります。学校に通うようになっても、場合によっては受診やさまざまな支援が必要になることは少なくありません。以上のプロセスにおいて、二人目以降のこどもであれば親も多少慣れているかもしれませんが、初産であれば親が自分で調べてあちこちに行かなければなりません。また二人目以降の場合は、その間に兄/姉をどこかに預ける必要があるかも知れず、一時的な預け先を探す必要があるかもしれません。

 そこで今回の出産(正常分娩)の保険適用の検討は折角の機会なので、周産期のみならず、妊娠から出産、乳幼児子育て期から就学期(学校保健を含む)、思春期まで、親と子のより健康な育ちを一気通貫して多機関が連携してサポートできるような、いわば「妊娠・出産・子育て版地域包括ケアシステム」のようなモデルを構築し、それを都市部や地方部それぞれに提供体制のビジョンを描くことで、どこに住んでいても安心して妊娠・出産・子育てができる国・自治体・医療機関等を通じた支援体制の構築するような議論を、先の検討会にしていただくことを期待しています。これは昨年四月に施行された成育基本法の理念の実現そのものです。

 そういう意味で、本PTは単に出産(正常分娩)の保険適用だけでなく、その前後も含め親子の立場に立った議論を行うために「こどもまんなか保健医療の実現」を掲げています。今後も引き続き、より安心して妊娠・出産・子育てができる社会を目指し、党内の議論を前進させます。

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