令和六年正月にあたり、政治資金の問題について
令和六年の正月にあたり、このブログをご覧の皆さまにはつつがなく新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。おかげさまで橋本がくも家族ともども元気に新年を迎えることができました。まずは旧年中のご指導に心から感謝申し上げます。
今年の正月は元旦夕方に能登半島地震が発生し大きな被害が発生しました。また翌二日には羽田空港にて日航機と海上保安庁の航空機の衝突事故がありました。そういう意味ではなかなか平穏な正月とは言い難かった面があります。両件に関し、亡くなられた方々に深く哀悼の誠を捧げ、被害を受けられた方々にお見舞いを申し上げます。能登半島地震についてはなお被災者の援護や復旧・復興には時間がかかりますし、粘り強く取り組む必要があります。
ただ年末年始にかけて、私がご挨拶に伺う先で災害等とともに必ず話題になるのが、昨年来大きな報道をされていた政治資金の問題です。先のブログ(「令和五年末のご挨拶」)にも記した通り、私および私の関係する団体では政治資金収支報告書の記載は法律に則り適切に行っております。しかし自民党の派閥や同僚等の不祥事により国民の皆さまに政治へのご不信をおかけしてしまっていることに、自民党所属議員のひとりとして、まず深くお詫びを申し上げます。
この件については、地元の皆さまからも「私らは税務署が来たら一円まで詳らかにせにゃあおえんのに、政治家が何千万円も胡麻化すのはあまりにも世間とかけ離れすぎている」「もう自民党は信じられん」「政治家はみんな裏金とかキックバックとか貰っとるんじゃろう」といったお叱りを、直接に幾度も頂戴しています。普段からわが党をご支持いただく方ですらそのように受け止められていることを、自民党は深刻に理解しなければなりません。東京地検特捜部による捜査が行われており、その結果起訴された方は裁判を経て刑事的な責任が問われることとなりますが、それとは別に政治的にも何らかの形で党として再発防止策を講じ、けじめをつけなければ、通常国会が開会しても予算案審議を始めとする政策の議論には入れないのではないかと考えます。
自民党本部では政治刷新本部が立ち上がっており16日には会合が行われました。多くの議員が参加し自由闊達にそれぞれの思いの丈を述べたと耳にしており、その意見が汲み取られることを期待します。ただ私は前々からの所用があり出席できませんでしたので、既出の意見と重なるものも多いとは思いますが、このブログにおいて私なりに思うところを記しておきます。
(追記)なおこの文章を一通り書いて、見直しをしているタイミングで「岸田派と安倍派、解散を検討」(朝日新聞デジタル)という報道がありました。まだ詳細は不明ですが、それぞれの組織のけじめのつけ方として検討されているものと受け止めています。とりあえず、報道前の私の見解を遺しておくという意味で、記した文章は変更せずにそのままアップします。
(R6.01.21再追記)政治資金規正法第二十二条の六の二に関する記載において、私の認識誤りがありましたので、記述を修正しました。
●政治資金規正法のおさらい
そもそも、政治資金規正法の基本的な考え方は、(1)政治資金の収支の公開 (2)政治資金の授受の規制等の2点です(総務省「なるほど!政治資金 政治資金の規制」)。このうち、派閥パーティ券販売に関して、派閥がパーティ券収入を収支報告書に適切に記載していなかったこと、目標より多く売り上げた議員に対する派閥から議員への寄付が双方とも収支報告書に記載されずに行われていたこと、そもそも派閥のパーティ券を議員が販売してそのまま議員またはその団体の収入として扱いながら収支報告書に記載していなかったことなどが主に問題視されています(なお、他にもさまざまな指摘はありますが、ここでは問題を派閥パーティ券に関することに絞ります)。これらのことは、いずれも収支報告書への収入ないし支出の記載がされず結果として公表もされない資金(いわゆる「裏金」)の流れであり当然(1)の考え方に悖るため、問題視されて然るべきことです。
●凡事徹底
まず考えなければならないことは、収支を収支報告書に記載するという法律の条文があり、与野党の多くの議員がそのルールを守って活動しているにも関わらず、自民党において守っていない議員と団体があったという問題に対する再発防止策です。したがって、よりルールを守らせるための対策がまず必要です。すなわち罰則や監査の強化、銀行振込等記録の残る形での資金移動の徹底、会計システムの導入等です。
たとえば罰則については、収支報告書虚偽記載は一義的には会計責任者の罪となり共謀が認められた時のみ議員も処罰の対象となりますが、買収等の選挙違反と同様に連座制を導入し、議員の関与が認められなくても一定の場合は自動的に議員も処分の対象とすること、その際には公民権停止もつけることなどが考えられます。また、国会議員関係政治団体には政治資金監査が義務付けられています。派閥パーティ券に関する不記載の問題については、収入側・支出側双方の収支報告書をつけ合わせることにより初めて発覚した問題であるため、個別の団体の政治資金監査では原理的には発見しにくい問題ではありますが、単なる事務的記載ミス等も含めてより確認ポイントを増やすこと等より監査を充実徹底させることは考え得るものと思います。
政治資金規正法第二十二条の六の二では、少額や不動産等の例外はありますが「何人も、政治資金団体の預金又は貯金の口座への振り込みによることなく、政治活動に関する寄付をしてはならない」という規定があります。これは、政党のための資金援助を目的とする政党が指定した団体について適用される条文であり、議員が関係する政治団体一般に適用される条文ではありません。今回の件では、報道によると、派閥から議員に現金が渡されていた場合もあるようですが、現金の取り扱いは、一般論として不正やミスの原因になり得ます。銀行振込の徹底は、客観的な記録が残る上確認や監査が容易になり事務的ミスも防ぎやすくなりますので、この条文を原則的に政治団体一般にも適用することとすれば、最も簡単かつ現実的に政治資金規正法違反を防ぐ対策となり得るのではないでしょうか。なおこの条文には、この規定に基づかない寄付金等は国庫に帰属する旨の規定もあることはあわせて指摘しておきます。今回、いわゆる「裏金」とされた資金を得た議員について、この条文の趣旨を踏まえて、その金額を国庫納付するのは、ひとつのけじめのつけ方と考えます。
なお事務的ミスを防ぐ意味でも、政党等で統一的に会計システムの使用を各事務所にさせることも検討されるべきでしょう。
「凡事徹底」という言葉があります。法令に則り、当たり前にすべきことを当たり前にすることが、政治家に対して当たり前に求められていることと個人的には思います。しかしそれができていない議員や団体があったこと、自民党内にそれを許容する空気があったことが今回露呈したわけです。私たちは倉敷市立葦高小学校学校便り『笹りんどう』令和4年7月4日発行号における藤井朗校長先生の名解説を、拳拳服膺しなければなりません。
なお政治資金規正法については、罰則以外にも改正の必要があるという指摘があります。例えば弁護士の郷原信郎氏は、今回の件については、資金の帰属先が特定できないため個別の団体に関して収支報告書不記載罪で起訴する困難ではないかと指摘しています(郷原信郎「『ザル法の真ん中に空いた大穴』で処罰を免れた“裏金受領議員”は議員辞職!民間主導で政治資金改革を!」)。政治資金規正法の基本的な考え方(1)に反する行為であるにも関わらず具体的に罪に問えないケースがあるのは立法技術的な不備ともいえますので、法改正が検討されるべきです。
●政治資金について
「そもそも政治にお金がかかるのがおかしい」「政治資金パーティを禁止すればよい」といった議論もあります。確かに国会議員は、歳費や公設秘書、政党助成金等の公的な支援も受けています。しかし秘書さん3人では、多くの議員は東京と地元それぞれの活動はカバーしきれません。車で動くのもガソリン代や車のリース代はかかりますし、支援者に活動報告を郵送するにも印刷代や郵送費は要りますし、事務スペースを借りるにも賃料がかかります。当然、私設の秘書さんの給料も支払わなければなりません。政治資金の多くはそうした日常活動に費やされています。一部の議員が、「私はお金をかけないで活動している」という主張をされることも見受けますが、それは議員になる前からテレビに出ていた著名人だったという場合か、もう次の選挙に立候補する気がないといった場合か、いずれにせよ何か特殊事情がある方であることが多く、一般化されても正直困ります。政治活動は経済活動でもあるという厳然たる事実を等閑視した議論は、無意味です。
自力でその資金を得る手段として、寄付をお願いすることや政治資金パーティの開催があります。政治資金パーティは、寄付文化があまり一般的ではない日本において、寄付に代わる方便として存在する手法です。ただ、普通の会費制パーティと区別するため、必ず案内等には「これは政治資金規正法における政治資金パーティです」といった文言を入れており、政治活動への支援集めであることを明示していますので、寄付にせよ政治資金パーティにせよ、その人の政治活動の自由に基づき任意にご協力いただいていることに違いはありません。政治資金パーティであれ、寄付であれ、政治資金規正法に則り適切に収支を報告する必要があることは論を俟たないのであり、それが不正に行われていたからといって、政治資金パーティそのものを禁止しなければならないという議論は筋が通りません。もちろん、今回の件のけじめとして自主的に開催を控えることは、それぞれの判断です。
また、クラウドファンディングといった新たな寄付のあり方を模索する動きもあり、これはこれで考えられるべきことでしょう。
●派閥について
今回の件は、自民党における派閥のパーティ券販売を巡る資金の動きが主に問題とされました。そのため、派閥そのものについても、あり方が問われます。ただ、誤解に基づく議論も少なからず見受けられます。まず、自民党における派閥は何か根拠がある存在ではなく、構成員が自発的に参加する事実上の存在でしかないということは、しっかり踏まえる必要があります。よって「派閥を禁止するべき」という主張は、成立しません。政党とは別に、個々人の政治活動の自由や結社の自由に基づき存在しているだけですので、政党が禁止する根拠もないのです。嫌なら無派閥で活動することもできますし、実際自民党の中でも無派閥で活動する議員も普通におられます。先日の自民党の会合において「派閥を解散すべきだ」という主張があったと報道されていますが、それは必要であれば各派閥のガバナンスの中で自発的に行われるべきことであり、自民党の会合で発言するのは筋違いです。特に、自らの所属派閥についての意見ならば、自らの所属派閥の会合において発言すべきことです。なお派閥パーティを禁止する検討がされているという報道がありますが、同様に自民党が派閥の行動を制限する根拠もありませんので、仮に実現するとしたら、各派閥の申し合わせという形式で実現されるものと思われます。
ただ一方で、事実上の存在でしかない派閥が、政党の組織を飛び越えて政府の人事や政策に具体的な影響を及ぼしているとすれば、それは対外的には説明のつきにくいことです。実際には政党も根拠法がなく事実上の存在でしかありませんが、選挙により選ばれる存在であり、国会法における会派とおおむね重なって活動するものであるため、まだ正統性は見いだせます。しかし派閥にはそのような正統性はありません。一方で、人数が限られる閣僚や党幹部はともかく、何十人といる副大臣や大臣政務官、委員長や理事など衆議院の役職、部会長など党の役職が多数存在し、かつ選挙により頻繁に構成員が入れ替わる極めて動的な組織である自民党において、適切かつ納得できる人事の仕組みがなかなか見出し辛い中、派閥による調整がその機能の一翼を担っていることもまた事実であり、単純に派閥の人事への関与をなくせばよいという議論も難しい面があります。ただ少なくとも、例えば閣僚をはじめとする政府の役職者や党幹部となった議員については、派閥を離脱することにより派閥との区切りをつけることは、少なくとも必要であろうと思います。
●結語
こうした再発防止策を徹底して講じ、事件にけじめをつけることが、まず今回の自民党には最低限必要だと考えます。私もその一員として、改めて今回の件を厳粛に受け止め、信頼回復に努めることを誓います。