マイナンバー及びマイナンバーカード、またその健康保険証としての利用を巡り、トラブルが報道されご心配をおかけしています。ただ様々なトラブルが同時に報告されており、またマイナンバーの仕組みや社会保障そのものの仕組みが複雑だったりするため、必ずしも的確に理解されているとは限らないとも思われます。また、政府において理解をもとめるために丁寧に説明することが大事ではありますが、政府任せにしておいてよいとも思いません。
そこで、私なりにマイナンバー等に関する認識をQ&Aに取りまとめてみました。私家版として公表しますので、ご理解の一助となればと思いますし、また誤りがあればご指摘いただければ幸いです。なお文責は橋本がく個人にあり、政府や所属組織の見解を表すものではありません。また、私なりに確認をしながら記し誤り等があれば随時修正はいたしますが、仮に何か損害が生じても責任は取れないことは申し添えます。
Q.マイナンバーカードはどう扱えば良いの?
A. 鍵束やクレジットカードみたいなものとして扱うといいです。
(解説)
マイナンバーカードは、例えばコンビニで住民票が取得できたりしますし、健康保険証の代わりにもなって、便利なものです。一方で、券面にマイナンバーが記載されていて、みだりに他人に見せるなとも言われます。どう扱えば良いか、迷う方もおられるでしょう。
個人的には、鍵束やクレジットカードみたいなものとして扱っていただければいいと思っています。大事にするために箪笥にしまったり神棚に祀ったりしていても、あまり役に立ちません。持ち歩かないと意味がありません。
一方で、家の鍵やクレジットカードと同様に、見ず知らずの人にホイホイ見せたり渡したりするものでもありません。そうした行動が悪用につながる恐れがあるのは、マイナンバーカードもクレジットカードも家の鍵も同様です。
とはいえ、クレジットカードであれば、基本的にはお店の人に渡さないと決済できません(最近は渡さないで決済できる場合も増えましたが)。家の鍵であれば、普通他人には鍵を渡すことはありませんが、家族や彼女ないし彼氏には、むしろ進んで合鍵を作って渡すものだったりもします。マイナンバーカードについても、行政機関や医療機関の窓口の端末やコンビニの端末などにかざすことで住民票や戸籍謄本の取得ができるサービスが受けられたり、健康保険証として使えたりします。普通に財布かカードケースにでも入れて持ち歩いて、利用してください。
Q. マイナンバーカードを落としたりなくしたりしたら、困りませんか?
A. 保険証を落としたりなくしたりした程度には困ります。なるべく落とさないようにしましょう。
(解説)
まず、マイナンバーカードは、落として他人の手に渡ったからといって、それだけでただちに何か悪用されることは、ありません。マイナンバーカードおよび券面記載のマイナンバーは、利用するためには暗証番号の入力や顔写真の確認など本人確認が必要となります。とはいえ、クレジットカード同様、カードと暗証番号は別々に管理するようにはしてください。また他人の顔写真のお面をつけて医療機関の保険資格確認システムの顔認証をクリアする実験をした方がいたようですが、まあ普通そんなことすると受付の方や周囲の方、診察する医師に怪しまれ単なる変な人として扱われかねませんので、実行はやめておいた方が無難だと思います。
また、クレジットカードのように、マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)に電話すれば機能を停止させることができます。365日24時間受付していますので、紛失したらご連絡ください。
その上でなおカードが見つからなければ、保険証やクレジットカード同様、再発行の手続きとなります。その間不便になりますので、できるだけ紛失しない方が良いでしょう。
Q.マイナンバーカードを医療保険証として使うことのメリットは何ですか?
A. 一般の方にとっては、財布がスッキリします。ただしそれ以外にも各方面にメリットがあります。
(解説)
マイナンバーカードは、使用開始の手続きをすると、医療機関を受診する際に医療保険証として使用できます。二枚持ち歩くカードが一枚で済み、財布がスッキリします。もしかして今後、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載させることができるようになる時が来れば、その時は一層快適になるでしょう。Android 端末では、保険証機能ではない別の機能について一部始まっていますので、個人的には今後に期待しています。
また、医療機関側がオンライン資格確認システムというシステムを運用することでこの機能が実現していますが、このシステムと連動することにより、スムーズに医師等が患者の過去の投薬情報や受診情報等を確認することができるようになります。医療機関を受診される際に、問診票等で既往歴や現在飲んでいる薬等を確認されますが、このシステムにより医師側が過去の情報を参照できるため重複投薬や飲み合わせの確認をより確実にできるようになりますし、問診がよりスムーズに行えるようになります。患者側にとっても、新しい医療機器を受診するたびに既往歴等を毎回イチから書かなくてはいけないのは煩わしいものですので、問診の改善には繋がるものと思います。また災害等緊急時、本人が意識不明で問診や同意取得が困難な際にも、医師が既往歴等を参照できます。このことが万一の際にはとても重要になるかもしれません。
転職や引越しにあたり、健康保険の移動に伴い脱退と加入の手続きが必要になります。マイナンバーカードを保険証として利用可能にしておけば、手続きそのものが必要なことに変わりはありませんが、同じカードをそのまま用いるため、新しい保険証が郵送されるのを待つ必要はなくなります。
なお、医療機関で受付をしている方の事務的な手間が、マイナンバーカードでの保険資格確認の場合すごく楽になると伺ったことがあります。医療機関によるのかもしれませんが、そうしたこともメリットと言えるでしょう。
またこれも効果として具体的に計測し難い面がありますが、保険証の不正利用(なりすまし等)がし難くなるのも、保険者にとってはメリットといえます。保険証には顔写真がありませんので、仮に違う人の保険証を使用して受診しても、初診の場合は医療機関には事実上確認の術がありません。また、保険者にとってのメリットとして、毎年保険証を被保険者に郵送するコストが省けるということも挙げられるでしょう。たかが郵便代とか封筒代とかですが、国民皆保険ですから総合すればチリも積もれば山となります。
Q.では、医療保険証をマイナンバーカード化するデメリットは?
A. コピーは難しくなるでしょうね。
(解説)
例えばこどもの遠足の際、万一の備えとして保険証のコピーを持たせることがあります。もちろん本人のマイナンバーカードを持たせればよいのですが、親としてはやはり落としたりなくしたりしないか不安でしょう。同様に、特別養護老人ホームのようなご高齢の方の入所施設などで、保険証を施設が預かり管理する場合がありますが、マイナンバーカードを預かるのは不安ということもあるかも知れません(あまりここはセンシティブに考えすぎなくてもよいのではないかとも思いますが)。
そういう場合のために、基本的には申請により資格確認証という、今の保険証と同じ内容の紙をもらうことができます。その紙を窓口に示せば、医療機関の窓口の方の作業は多分増えますが、同じ医療を受けることはできます。こどもの遠足にも、資格確認証そのものかそのコピーかどちらでも持たせれば、出先で受診が必要になった際に困らずに済みます。
先日岸田首相が記者会見を行い、この資格確認証について、マイナンバーカードを持っていない方、マイナンバーカードを健康保険証として利用する手続きをしていない方について、資格確認証を発行すると表明されました。おそらくは申請の手間を省いて自動的に発行されるという意味でしょうから、手続きしない人は当面今のままの形式が維持されることになります。
一方で私もそうですが、すでにマイナンバーカードを保険証として利用している方に新たに保険証を送ってもらう必要はありませんし、その分かかるコストは別に使っていただければ良いですので、そのような形で良いのではないかと思います。
あと、ないものねだりをするならば、国や自治体が行政施策として行っている医療費自己負担分の補助制度(こども、難病、障害など)についても、保険証とは別に紙の証明書が必要だったりします。また、各医療機関の予約カードとかもあったりして、正直にいえばそちらの方が財布を物理的に圧迫する原因になります。個人的にはそれらもマイナンバーカードやスマホのアプリにして統一してもらえると、医療アクセスが極めて便利になるんじゃないかなと思うのですが…。
Q. 健康保険証をマイナンバーカードにすると紐付け誤りが心配とかいわれるけど、大丈夫?
A.間違いは減らす必要がありますが、健康保険証をマイナンバーカードにすることと紐付け誤りは関係ないです。
(解説)
健康保険の資格情報をマイナンバーに紐付けるにあたり、誤った紐付けをしてしまったトラブルが報道されています。誤りはもちろんあるべきことではなく、政府において確認が行われており、
8月8日に河野デジタル大臣から中間報告が公表されました。
転職や引越しに伴って、加入していた健康保険を脱退し、新たな健康保険に加入する手続きが必要になることがあります。その際の申請書類にマイナンバーの記載が求められますが、不記載の方の場合には加入する保険者の事務担当者が申請者のマイナンバーを確認して補足する作業が必要となります。この際に、同姓同名で生年月日まで同じ人がいた場合に、違う人のマイナンバーを登録してしまっていたということがトラブルの原因です。
したがって、再発を防ぐためには、保険者の事務担当者が上記の作業をする際には住所など他の情報も確認することを徹底するとともに、そもそも申請書に申請者のマイナンバーを正しく記入していただけば、上記の作業が不用になります。ですので、このような申請書類にマイナンバーの記載を求められた際には、マイナンバーカードや住民票に記載されているマイナンバーを記入していただくと、トラブルを避けることに繋がるでしょう。マイナンバーカードを取得したくない方は、住民票の写しを一枚手元に準備しておくと、書類へのマイナンバー記入の際に便利です。もちろん、私はマイナンバーカードの取得をお勧めしますが。
なおこのトラブルは、上記の原因によるものなので、マイナンバーカードを健康保険証にすることとは全く関係ありません。紙の保険証を使っていても、マイナンバーカード保険証として使っていても、いずれも発生する可能性があります。したがってこのトラブルを解決するあるいは予防する目的でマイナンバーカードを返却しても、マイナンバーカードについて保険証としての登録をせず紙の保険証を使い続けても、意味はありません。同様に、政策的に保険証の廃止を延期しても、全く意味はありません。
むしろ、マイナンバーを書類に記入していただくことこそが、ミス防止のために大事なのです。
Q.トラブルが続いてるけど、そもそもマイナンバーって必要なの?
A.すでに行政機関内部で使われて定着しています。
(解説)
マイナンバーは、法律に基づき日本のすべての住民に一意に付された12桁の番号です。各行政機関がそれぞれに管理している情報について、個人を統一的に特定することを目的としています。マイナンバーが制度化されたことにより、行政手続きにおいて住民票の提出(による個人の特定)が相当削減され、そのためにかかる手間が減りました。
社会保障分野においては、マイナンバー導入以前には、行政機関における個人の特定は氏名、生年月日、住所等に頼っていました。しかし漢字表記や住所表記の揺らぎなどもあり十分ではありませんでした。年金分野においてその他の要因もあり結果として各個人の年金保険料支払い記録が統合できず、宙に浮いてしまった記録は5,000万件に及び、正しい年金支給ができなくなってしまう年金記録問題が平成9(2007)年に発覚し、大問題となりました。マイナンバーはその対策として、税・社会保障一体改革の一環として導入が合意されたものです。
Q. マイナンバーは個人情報の漏洩に繋がるのでは?
A. マイナンバーがあってもなくても情報漏洩は起こり得ます。いずれにせよ適切な管理が大切なのです。
(解説)
現在、税、健康保険、年金、福祉など様々な公的場面について、それぞれの機関や部署ごとに必要な方々の情報が別々に管理されています。まずはそれら個々の機関が情報セキュリティを高め、ネット等からの攻撃やミスによる情報漏洩を防げるようにならなければなりません。例えば平成27(2015)年に日本年金機構が何者かから不正アクセスを受け100万人以上の情報が漏洩した事件がありました。この事件は日本年金機構のインターネットから内部LANに直接不正アクセスがあったものであり、マイナンバーやマイナンバーカードは一切関係ありません。
一方で、例えば組織横通しで自分の情報を集めたい時には、情報が分散管理されている場合には、手間暇かけて情報を探して集めてくる必要があります。マイナンバーが存在しない時にそれをやろうとして苦労したのが、平成9(1997)年から開始された年金記録情報の基礎年金番号への統合作業であり、9年後の平成18(2016)年にまだ統合されていない記録が5000万件に上ることが発覚し年金記録問題となったのは先に記した通りです。
こうした反省を踏まえ、本人の情報を集める場合により正しく迅速に検索できるようにする目的で整備されたのがマイナンバーなのです。情報量としては、「住所・氏名・生年月日」とマイナンバーはほぼ等価ですので、各種行政届出書類に氏名住所等を記すのと同じようにマイナンバーを取り扱っていただいて差し支えありません。ただ、安全性をより高めるために、むやみに他人に見せてはならないことと決められています。また、マイナンバーの仕組みでは、マイナンバーそのものではなく機関別符号に変換して各行政機関の本人の情報にアクセスする仕組みとなっており、暗号化やアクセス制限などの仕組みとあいまって、安全性を確保しています。
以降、少し詳し目にマイナンバーの情報アクセスおよびセキュリティの仕組みを記します。各行政機関が保有するデータベースを貸し金庫、個人情報を札束のような資産に例えると、わかりやすいかもしれません。ある人が、A銀行、B銀行、C銀行に貸金庫を借りて、自分の所有する現金を分散して管理しているとします。
この場合に、貸金庫の鍵をそれぞれ3本持っていても良いのですが、鍵束がジャラついて持ち歩きに不便ですし、どの鍵がどの銀行のものか覚えておく必要があります。鍵ごとに別々の暗証番号がついていたりすると、あっという間に混乱します。もちろん、鍵に「A銀行」と書いたラベルを貼っておいても良いのですが、それを落としてしまった時には拾った人がA銀行の資産を持って行ってしまいます。
管理の煩雑さを減らすため3つの銀行の貸金庫を、すべて1本の鍵で開けられるようにすることも考えられます。ただしその場合、その1本を紛失して誰かに拾われてしまったら、3つの貸金庫ともすべて開けられてしまうリスクも増えます。
そこで、マスターキーを1本用意して、あと「総合受付」を用意してそこにも3つの貸金庫を置き、その中に3つの銀行の貸金庫の鍵を分けて入れて預けておくことにしました。「総合受付」には係の人を置き、免許証などで本人であることを示ないと、マスターキーを各銀行の貸金庫の鍵に交換してくれない仕組み付きです。そうすることで、本人が持つ鍵は1本で済み、しかしその1本を誰か別の人が悪用しようとしても、「総合受付」では相手にしてもらえないし、各銀行の貸金庫も開けられない仕組みができます。また仮にA銀行の鍵を落として誰かに拾われても、B銀行およびC銀行の貸金庫の安全性には影響せず被害を限局化できます。ここでいうマスターキーの役割を果たすのが、マイナンバーなのです。そうすることで、マイナンバーを利用することで各行政機関が保有する個人情報を一意に管理できるようになるとともに、マイナンバーそのもので各行政機関が管理する個人情報に直接にアクセスしない仕組みになっているのです。
ただし、実際には各行政機関は、法律に基づいて、それぞれの目的のために別の行政機関の個人情報を参照します。上記の例え話でいうならば、「総合受付」は、本人のみならず、特定の行政機関からマイナンバーでの照会を受けると、別の行政機関の貸金庫の鍵を利用してその人の個人情報を取得し、参照元に返す仕組みになっています。税や社会保障、災害対策等に関してその人の情報を参照し合うためにマイナンバーがあるので、むしろそういう利用のされ方の方が通常業務かも知れません。情報を参照できる機関やその目的は、法律によって限定的に定められています。
また、銀行の貸金庫に資産を預ける場合では、銀行は貸金庫の中身を覗いたり盗んだりはしませんが、当然ながら各行政機関は自らの業務のために保有する個人情報を自らの業務のために利用します。
こうした中で、マイナンバーのシステムにおいて情報漏洩のリスクは、当然ながら上記の例え話における「総合受付」が確実にアクセス管理を行うことに依存する要素が高いため、ここは特に厳重に守る必要がありますし、実際にそのようになっています。一方で、結局各行政機関の内部ミスやネットからの不正侵入により情報漏洩されることの方が実際に多々発生しており、そちらの対策が急務です。この場合、マイナンバーの仕組みは情報漏洩には関係ありません。
貸金庫の例え話で言えば、鍵をいくら厳重に管理しても、銀行強盗かルパン三世、或いは内部者などに銀行から物理的に貸金庫ごと盗まれるリスクがありますが、それは貸金庫の鍵の管理の問題ではないのと同じです。
したがって、個人的には、マイナンバーによる情報アクセスが個人情報漏洩リスクを上げるということは理論的には言えるとは思いますが相当厳格な仕組みになっており、マイナンバーに関係しない情報漏洩リスクの方が依然高いのではないかと思います。
Q. ではマイナンバーカードやマイナポータルって何なの?
A. 貸金庫の例え話でいうところの「総合窓口」における本人確認の手段と、総合窓口の透明性確保用のwebサイトです。
(解説)
先ほどのマイナンバーの仕組みについての解説で、銀行の貸金庫や「総合窓口」という話を記しました。実際には情報ネットワークを通じてこうした作業が行われます。当然、本人が自分に関する情報を参照することもできるのですが、その際に、マイナンバーの本人であることを、ネットワークを通じて証明する必要がありますが、これを行う仕組み(公的個人認証サービス)がマイナンバーカードに組み込まれているのです。これは、従来の行政では実印および印鑑証明が担っていた機能です。
ですので、マイナンバーカードそのものに様々な個人情報が格納されているのではなく、あくまでも印鑑同様のものと考えていただいて差し支えありません。ただし実印と印鑑証明をセットで他人の手に渡すと悪用の恐れがあるのと同様に、マイナンバーカードとパスワードが一緒に他人の手に渡ってしまうと悪用される恐れがあります。その場合は速やかに利用を停止してください。
また、先ほどの例え話において「総合窓口」が重要な役割を果たしていることがご理解頂けると思うのですが、本人が自分の情報がどのように管理されたりアクセスされたりしているのか透明にしておくことが、システムへの信頼の基礎となります。そのために用意されたものがマイナポータルであり、同名のスマホアプリやwebサイト(https://myna.go.jp )などの形で実装されています。スマホアプリであれば、マイナンバーカードをスマホで読み取ることにより、マイナポータルにアクセスして自分でマイナンバーにより参照できる情報を参照したり、どの行政機関がマイナンバーを用いて自分の情報を参照したりしたかを見ることができるのです。マイナンバーの仕組みにおける自己情報コントロール権の実装という表現も可能でしょう。
なおマイナンバーカードの発行には上記のような本人認証の機能を持つため、発行の際には窓口での写真の確認など手間がかかります。なので、ついでに券面に住所氏名顔写真を記載することで、物理的な本人確認手段としても活用できるようになっています。
Q. マイナンバーを銀行口座と紐づけると、預金額が政府に筒抜けになるってホント?
A. なりません。振込みに必要な情報を登録するだけです。
(解説)
マイナンバーを銀行口座と紐づけるというのは、具体的には、個人の銀行口座の銀行名・支店名、種別(普通か当座か)、口座番号、口座名義の各情報を登録してもらい、行政機関がマイナンバーを通じて参照できるようにすることです。これらの情報により、行政機関からその口座への送金が可能となりますが、銀行口座の残高照会や引き落としは銀行による本人確認その他の手続が必要であり、不可能です。できたら銀行の信用問題です。
ネット通販などを利用して、請求書によって銀行振り込みをする手続きをされる場合に、相手の預金残高が見えたりすることはないと思いますし、振り込みができるからといって引き落としができるわけではありません。行政も公金給付の際に、同様に振り込み手続きを銀行に対して行っているだけです。
この仕組みは、コロナ禍において政府から給付金を国民に支給する際に、銀行口座の確認等に手間取り批判を受けたことを反省し、事前に銀行口座を政府に登録しておいてもらおうというものです。この手続きを行っておけば、今後、政府から給付金を受け取る際には、改めて銀行口座等を登録したりする手間を省いてスムーズに受給することができます。
例えば年金受給者が、銀行振り込みで年金を受け取ることができるために銀行口座を日本年金機構に登録するのと同様に、政府にも事前に登録しておいてくださいということです。ですので、先の通常国会においては、日本年金機構が保有する口座情報を政府に移管できる法改正を行い、登録手続きを省く対応を行いました。
Q.あれこれ書いているけど、政府のマイナンバーカード普及への対応は適切だと思っているの?強引ではない?
A. トラブルそのものは問題ですが、健康保険証の廃止含め普及策が問題だとは特には思いません。ただ、感想はいくつかあります。
(解説)
マイナンバーやその関連システムに限らず、そもそもイノベーションの普及はそんなに簡単なことではありません。例えば携帯情報端末一つとってみても、ポケベルからPHS、携帯電話、そしてスマホと進化していますが、そのたびごとに「使いにくい」「わかりにくい」「自分には必要ない」という声があったことをご記憶の方は少なくないのではないかと思います。また実際に初期トラブルもシステム導入にはつきものですし、存在が社会問題扱いされることもあります。過去を辿れば、鉄道敷設の際にわざわざ町から離して駅を作った実例とか、カメラを向けられると魂を吸われるといった噂とか、後から考えると一体何だったのかと思うような言説や行動が飛び交うこともそう珍しいことではなく、初めての、よくわからないものに対する人々の不安というものは、仮に後から考えれば不合理なものであっても、一定あるものとして考えなければなりません。そういう意味で、マイナンバーやマイナンバーカード等に対しても、さまざまな評価やトラブルがあることは別段驚くようなことでも、おかしいことでもありません。ごく一般的なイノベーション普及のプロセスだなあと感じています。一方で、年金記録問題を再び起こすことも避けなければなりませんし、このデジタル化の時代において後戻りしても仕方ありませんので、一旦導入したマイナンバーをやめるという選択肢は、少なくとも私の中では考えられません。
国の税金を使ってマイナポイントを付与してマイナンバーカードの普及を図ったことについても、無駄遣い等の批判はあります。ただイノベーションの普及という観点では、その昔Yahoo!BBという企業がADSLモデムを駅前で無料配布していたことがブロードバンド普及のひとつのきっかけになったこととか、さまざまなキャッシュレスサービスがポイント付与などを行って普及を図っていることとかを思い出すと、そんなに珍しいことでもありません。またマイナポイント付与も、結果として国民への金銭価値の給付なわけですから、他の給付施策への態度とあわせて考える必要があるでしょう。
健康保険証のマイナンバーカード化については、必要なことだと思いますし立ち止まる必要はあるとは思いませんが、ただカード普及の手段としては挑戦的な選択だったかもしれないという感想は持ちます。「イノベーション普及学」という有名な本がありますが、この中で、新たなイノベーションを早期に採用するイノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる方々は比較的年齢が若いということが記されています。一方で、健康保険証のヘビーユーザーは高齢者の方が多く、もちろん人にはよりますが、必ずしも新しい技術やその成果の採用に熱心ではない方が、他の年齢階層に比べて多い可能性があります。マイナンバーカードも、スマホで読み込むことで便利に活用したり、マイナポータルアプリを使って手続きをしたりすることが可能になるところ、そもそもスマホの普及や使いこなしもなかなか困難な方も少なくありません。また、オンライン資格確認のために端末の導入を急がされた医療機関側についても、特に診療所は高齢な医師による経営も少なくなく、ここに時限的なシステム導入をさせたことは、結果論ですが、すべての人にとってストレスが大きかったかもしれないとも思います。普及学という観点からすると、教育や子育て関係など比較的若い方を対象とした施策でマイナンバーカードを活かして利便性を高めることも、今後は考えられるべきかもしれません。
なおしばしば、「政府はもっと説明を尽くして国民に理解を求める努力をすべき」といった言説を見かけます。もちろん政府はそうあるべきです。また、政府による個人情報収集を警戒視する見方もあります。これも、政府はそういう目があることを意識して、透明化に努める必要があることは言を俟ちません。ただ一方で、普及学という観点では、アップル社のiPhoneが、指紋認証や顔認証のために生体情報という個人情報ズバリそのものを全世界から収集しまくっているにも関わらず、おそらく大多数のiPhoneユーザーが別段アップル社のセキュリティ対策や情報管理などにロクに関心がなく、説明も見ずに購入し使用しているであろうということにも、注意を払う必要があるとは考えます。
報道等でマイナンバーカードを巡って何かコメントをされるみなさまにおいても、説明や理解促進といった当然のことのみならず、上記を踏まえ、どうやったらよりスムーズに普及させられるかという観点でもご示唆をいただけると、私も政府ももっと勉強になってありがたいことだと思いますし、社会に裨益するところ大とは考えるところです。