フィンランド・スウェーデン視察記
令和5年7月9日晩に羽田空港を出発し、14日夕方に成田空港に帰着する日程で、フィンランドおよびスウェーデンに現地事情等視察のため衆議院から派遣されました。後日衆議院が報告書を作成しますが、とても勉強になりましたので、私個人の視点からもその主な内容にいて記します。なお、私個人のメモや記憶に頼って記しておりますので、誤りがあるかもしれないことも含めて文責は橋本がく個人にあります。公式な報告は衆議院の報告書をお待ちください。
●概要
今回の視察団は、衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会の委員長および理事5名および関係省庁職員3名、衆議院の調査員1名の計9名より構成され、委員長として私が団長を務めました。委員会の所管範囲に従って地域活性化・こども政策・デジタル関係の視察ということになりますが、かねてより、妊娠期から育児期まで一貫して相談支援を受けられるというフィンランドのネウボラを見学したいという私の希望も容れていただき、視察先はフィンランドおよび隣国のスウェーデンとなりました。
主な日程は、7月9日晩に羽田空港を出発し、翌10日早朝にフィンランドのヘルシンキに到着。午前中はカラサタマ地区のスマートシティプロジェクトを見学し、午後はODDI(ヘルシンキ中央図書館)を見学。夜は在フィンランド邦人の方々と意見交換しながら会食。翌11日はヘルシンキ市の隣のエスポー市のアアルト大学キャンパス内でベンチャーインキュベーション等のエスポー市の取組を伺い、お昼にはヘルシンキ市に戻ってヘルシンキ市若者協議会の方々と会食しながらヒアリング。午後はカンピ地区ファミリーセンター(ネウボラ)および児童養護活動NPOであるSOSこども村の事務所を訪れてそれぞれの活動についてヒアリングと見学をしました。
12日早朝からスウェーデンのストックホルムに移動し、午前中はストックホルム市オステルマルム地区オフィスを訪問してストックホルム市における児童養護についてヒアリング。お昼に在スウェーデン邦人の方々と会食して意見交換を行った後、スウェーデンの技術革新庁を訪問してMaasの実証実験を行うプロジェクトであるDrive Swedenについてヒアリングを行いました。能家正樹・駐スウェーデン日本大使にお招きをいただき、大使公邸にてスウェーデン事情などを伺いながら夕食をご一緒しました。
翌13日早朝にストックホルムを出発し、ドイツのフランクフルトで便を乗り換えて、翌14日夕方に成田空港に帰着する日程でした。なお予定と予定の間が空いてしまった時間を利用して、それぞれの街を散歩したりもしています。
所管範囲の広さのため内容が多岐にわたりますので、「地域活性化・デジタル」「こども」「その他」の分野にわけて、感じたことなどを記します。
●地域活性化・デジタル
<カラサタマ地区スマートシティ見学>
ヘルシンキ市のカラサタマ地区は、かつて工業地帯として栄えていましたが、2013年にスマートシティとして再開発されることとなりました。海沿いで石炭火力発電所(SDG対応のためこの4月に停止された由)がすぐ横にあるのは工業地帯の名残を感じさせますが、駅に隣接した商業施設、16階くらいの高層ビル4棟、公園、7~8階建ての住宅団地などが配置された地域です。住宅団地は、地震がなく冬になると短時間の日照時間を有効に取り入れるため窓が大きく、また外観もレンガ調で統一されています。しかし同じビルが並ぶことを避けるためにわざと複数のデベロッパーに参加させた結果建物の色やデザインは適度にバラバラであり、また公園や道路などの空間も広く植栽も豊かであるため、無機質さを感じさせない、ヨーロッパらしい落ち着く街並みとなっていました。住民の多様性を確保するため、賃貸住宅と持ち家住宅が混在し、学生や社会的支援対象者なども居住しています。
ガイドさんに引率していただき、スマートキー(カード)によって管理されるダストシュート、カーシェア、各診療科や検査が設けられた健康センター、食品ロス対策の店舗などを見学しました。スマートシティとしての再開発にあたっては、デジタルによる効率化により「一日にもう一時間(One more hour a day)」を住民に提供することをコンセプトとしているとのことですが、その他にも環境サステナビリティなどさまざまな意識が伺えました。
住民が利用するダストシュートなどは、非接触のスマートキーにより管理されていますが、そのデータ(例えばゴミが出された時間、量など)は匿名化された上で市がオープンデータとして集計して公開され、改善その他の活動に生かしているとのこと。また建物の共有スペースや空いている駐車場などは、アプリで街の外の人にも時間貸しされ、有効活用されているそうです。
ヘルスケアセンターは、日本的に記せば市立診療所ですが、複数科の外来や検査も行えることに加えて福祉窓口もあり各種手当の申請手続きもその場で行えます。窓口は多言語対応の端末化されており非接触のカード(Kela card)を使って保険資格の確認や診察の受付ができます。医師は診察にあたり過去の診療履歴等を参照できるとのことで、このあたりは、日本がマイナンバーカードによるオンライン資格確認および医療DXで実現しようとしていることが既に先行して実現されているようです。端末操作が困難な方向けに有人窓口もありますが、見た限りでは多くの方が普通に端末で受付をしていました。
<OODI(ヘルシンキ中央図書館)見学>
OODI(ヘルシンキ中央図書館)は、3階建てで曲線や傾斜が多用されたデザイン、ガラスや木などが組み合わされた外装の巨大な施設です。図書館という名称の通り3階には分類された書籍が並べられていますが、1階はホールやカフェ、2階は誰でも使用可能な機材や空間(コンピュータやプリンタだけでなく、楽器や3Dプリンタ、ミシン、音楽スタジオ、キッチンスタジオ、ゲーム機(スイッチとかプレステとか)スペース、打ち合わせスペースや作業空間など)を有する市民メディアセンターと呼ぶべき施設です。個人的には、私の母校である慶大SFCにあるメディアセンターの巨大版といった趣でした。閲覧スペースにもカフェがありくつろぎながら読書することができることに加え、こどもの遊びスペースもあり親子連れでも普通に楽しめます。
3階の床は一部ゆるやかに傾斜して坂になっており、頂上からは3階全体を見回すことができます。誰でも必ず一度は登頂を目指したくなるのではないかと思います。もちろん私も登頂しました。また2階には階段状の、リラックスした姿勢で過ごせるスペースがあり、若い方々を中心にめいめい本を読んだりノートPCで何か作業をしたりしていました。私がこどもの頃、地元の市立図書館で床に寝転がって本を読んでいて家族に注意されたことを思い出して、自由な姿勢で過ごせるのはかなり羨ましく感じました。
またOODIは、広場を挟んでフィンランド国会議事堂と対面するように建設されており、3階のベランダからは国会議事堂を眺めることができます。これは、市民が図書館で勉強して国政を監視するという機能を意識した配置だそうです。ちなみに日本の国会図書館は国会議事堂の横に建設されており、国会議員の活動を補佐することを役割のひとつとして掲げています。いずれも健全な民主主義のために図書館があるという理想は共通していますが、国会に対する見方の違いが表れているようにも感じました。なお、通訳して頂いた方から、日本から視察に来た地方議員の方が「市民が勉強されたら困るなあ」と発言されたのを耳にしてモヤモヤした気持ちになったと伺いました。私もモヤモヤした気持ちになりました。
なおOODIについてはこちらの記事でも紹介されていますので、ご参考にしてください。
■『“世界一の公共図書館”は、なぜフィンランドから選ばれたのか? その理由を探るためヘルシンキを訪れた。』(中島良平)
<エスポー市エンターエスポー社ヒアリング>
エスポー市は、ヘルシンキ市に隣接する人口30万人でフィンランド国内第2の都市です。サスティナブル(持続可能な)都市として欧州1位と評価されており、ベンチャー起業も盛んであることが有名です。エスポー市の100%子会社であるエンターエスポー社の清水さんから、エスポー市の取組についてお話を伺いました。
エスポー市には携帯電話機器等で知られるノキアの本社やアアルト大学のキャンパス存在し、ノキアがスマホ開発で乗り遅れてしまったために技術者を解雇しなければならなくなった際に、起業を積極的に支援したこともあってベンチャー起業が盛んになったきっかけがあったようです。また市長も「City as a Service」というコンセプトを掲げ、トップダウンを排した市民やコミュニティを重視した取り組みをしています。
デジタルに関する取り組みとして、市民データのAIによる分析を行い児童虐待予防や移民の動態予測に活用した例や、都市開発プロジェクトにおいて5G街灯(データのやり取りができる街灯)を設置した例、”My Data Experience in Espoo”として自分のデータがどのように利用されているか可視化する取組の例などが紹介されました。
エスポー市のコミュニティを支える要素として、「トラスト(信頼)社会」というキーワードで清水さんは表現されていました。福祉や平等精神の価値観や、政府の透明性やそれに基づく信頼感(あるフィンランド人の方は”We are happy tax payer.”と発言されたとのこと。日本もそうおっしゃってもらえる政府を目指さなければなりません)、がんばらなくてもやり直せる社会であること、メディアリテラシーの高さとそれを支える質の高い学校教育、Well-Beingや労働者の権利、休息の重要性に意識が高いこと、市行政は草の根の支え役になっていること、などを感じておられるとのこと。またフィンランドは人口が少なく(面積的には日本と同程度だが、人口は北海道と同程度)市場規模が小さく、また外国からの移民もそもそも多いため、スタートアップ企業は国内で一定の成果を挙げてからGo Globalするのではなく、最初からBorn Globalであるという言葉が印象的でした。起業前後のコーチングやコンサルティング等の支援も充実しています。
なおフィンランドにおいても首都圏の人口増加に対して、その他の地方部の人口減少は問題になっているとのことで、そこは日本と同様の悩みはあるようでした。また行政データのタテ割りの問題については、今の市長がそこを排する取組をしたとのこと。また”happy tax payer”という意識の原因としては、図書館や学校教育(成人の学び直しなども無料)の充実やネウボラなど公共サービスが充実していることが肌で感じられること、また予算使途のプレゼンテーションが上手であること、などが挙げられました。
<Drive Swedenプロジェクトヒアリング>
Drive Swedenは、スウェーデンの技術開発庁(VINNOVA)、エネルギー庁等の官庁、VOLVOやSCANIA等の自動車メーカー、大学等の研究機関地方自治体等が協力して交通分野の革新を目指す研究の枠組みです。自動車産業における四つのトレンド”CASE”- Connected, Automated, Shared, Electricに対応するべく多くの具体的な研究プロジェクトが行われています。ビジョンとして、スマホアプリでカーシェア、鉄道、電動キックボードなどを組み合わせた移動がスムーズに実現できる、いわゆるMaaS(Mobirity as a Service)の実現を掲げています。
ただ、実現にはなかなか苦労しているようで、鉄道事業者の顧客囲い込みに直面をしているとか、カーシェアの場合の車への課税をどのようにするかとか、第三者による鉄道切符販売は持続可能性かといった課題があり、また特に地方部ではMaaSの実現に困難を感じているという率直なお話がありました。一方で不動産のデベロッパーがこの分野に注目していることなど新しい動きもあるとのことでした。
●こども政策
<カンピファミリーセンター見学>
フィンランドの子育て支援の施策としてネウボラは有名です。ネウボラとは、フィンランド語で「アドバイスの場所」という意味で、妊娠期から就学前にかけての妊婦・こども家族を対象として、かかりつけ保健師を中心として切れ目のない支援を行う制度および地域拠点のことです。運営主体は市町村、利用は無料であり、100%近い定着率やワンストップによる支援、産前産後を通じた同じ保健師による支援の連続性などが特徴とされています。
10年前から、ヘルシンキ市ではその他の機能も複合化したファミリーセンターとして再編されつつあるそうで、訪問したカンピファミリーセンターはヘルシンキ市のカンピ地区を担当するセンターでした。親への支援、家庭リソースの強化、心理師やソーシャルワーカーなど専門家による支援、アウトリーチなどを行っています。出産は産科医療機関で行いますが、妊婦やこどもの健診もファミリーセンターで行います。なお通常、妊婦の健診は10回、産後は0歳時10回、その後就学までの間に6回行われるそうです(日本では妊婦健診は14回が無料ですが、乳幼児・児童の健診は地方交付税措置は4回分、法定されているのは2回しかなく、地方自治体によって回数・内容とも幅があります。ここは改善したいところです)。
さまざまな機能をひとつの施設に集めたことにより、妊婦のいる世帯が今後どのようなサービスが関わるのか見通しを持つことができるようになったとのこと。絶えずQRコードなどからアクセスできる利用者アンケートをとっており、満足度は100%と回答されるがもっとその理由を深堀したいとのこと。また相談や支援のリモート化やデータベースの活用による家庭および職員双方の負担軽減を図っているというお話もありました。
保健師さんによる概要説明の後質疑応答になりました。日本においては、様々な背景により母親がこどもを自宅等で生み落として殺してしまうことは後を絶ちません。日本の児童虐待の統計では、0歳0か月0日で亡くなる子が最も多いのです。またその対策として内密出産の取り組みも行われています。そうした背景のもと日本側から、望まない妊娠についてどのように取り組んでいるのか、そもそも相談に来ないまたは来られない親をどうやってキャッチしているか?という質問がありました。ネウボラの保健師さんいわく、望まない妊娠についての相談ももちろんネウボラで受けていること、そもそもフィンランド人にとってネウボラへの連絡のハードルが低く、相談に来ないことは考えにくいこと、もちろん相談ハードルを下げる努力は行っており、たとえば最初の相談時には背景がわからないためいきなり「おめでとう」とは言わないことなどを心がけている、といったお話がありました。日本では行政の相談窓口というのは「しきいが高い」というイメージがどうしても拭えませんが、なかなかギャップを感じる回答でした。
施設内の見学もさせてもらいましたが、妊婦の健診室に、きょうだいを連れて来れるようにこども用の机と椅子もあったのが印象的でした。おそらく日本では、第二子以降の妊婦健診ではこどもの預け場所を探すところから始まるのではないかと思うのですが…。そのあたりから意識と設備の変革が必要です。
<SOS子どもの村ヒアリング>
SOS子どもの村は、児童養護の活動や施設運営を行うNPO団体です。日本でもSOS子どもの村JAPANとして活動が行われています。今回はヘルシンキ市のオフィスを訪ねて、フィンランドにおける児童養護の活動などについてお話を伺いました。
SOS子どもの村の仕事は、虐待など何か困難な事情が発生してからの仕事と、そうした事態の発生を予防するための仕事の両方を行っています。まず困難発生後に関しては、フィンランドの20地域で、行政から委託を受けその決定内容に従って児童を支援または養護する取り組みを行っています。支援の内容も幅があり、サポートファミリー(ボランティアの一般家庭)にこどもが週末など定期的に遊びに行くことで親がリフレッシュするような支援、ペアのソーシャルワーカーや専門家が定期的に家庭訪問をして話し相手やアドバイス、行政手続きの支援などを行う訪問支援、家族ごとファミリーリハビリセンターに一定期間移って職員とともに生活させ、生活リズムを整えるを行う支援、さらになお困難な場合はこどもを親から分離して里親や児童養護施設に引き取るもの支援などがあります。こどもを引き取る場合は里親が第一の選択肢としますが、こどもが障害など困難を抱えている場合は施設の場合もあります。里親が3/4、施設が1/4程度とのことで、日本とは概ね逆です(とはいえ日本は、以前は里親は1/10とかだったので、改善は進んでいます)。
日本における児童相談所の対応と同様にも思いますが、家族ごとリハビリセンターに入所する支援は、私が知らないだけかもしれませんが、あまり耳にしたことがありませんでした。児童福祉法第38条に基づく母子生活支援施設という類型はありますが、「配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童」が対象とされており、日本では困難を抱えていても父親がいる家庭は入所支援の対象になりません。ここは大きな違いがあるものと思われ、興味深かったです。リハビリにより生活リズムが戻り、結構良い効果があるそうです。数か月で退所することになりますが、その後も訪問支援等でフォローするとのことです。
事前の予防対策としては、フィンランド全国で4,500名の未成年の子がいる家庭とやり取りをしています。92%の利用者が「話を聞いてくれた」と回答し、32%が「自信がついた」と回答しているとのこと。まずこういう形で数字が出せる調査をしていることから参考になります。また経済的格差を生まないために、企業からスポンサーを募り、こどもに習い事をさせる取り組みなども行っているとのことでした。
<ストックホルム市オステルマルム事務所>
スウェーデンのストックホルム市のオステルマルム地区の事務所を訪ね、児童養護に関するご担当の方々から児童養護の仕組みなどによってヒアリングを行いました。基本的な仕組みや制度は日本の児童相談所や上記のフィンランドの仕組みと同様のように思われました。フィンランドで伺ったように、親子一緒に入所する施設もあるようです。
ストックホルム市におけるヒアリングで興味深かったのは、里親やファミリーホーム(家族的な小規模施設)の支援者の教育や養成を行うにあたり、家庭の安定性などとともに、犯罪歴の確認もされるというお話でした。当然日本においても、本人の申し出ベースで確認はされるものと思いますが、仮に嘘をつかれたら児童相談所では確認のしようがありません。スウェーデンでは法律に基づき市役所が警察に照会をして回答を得ることになっているとのことでした。日本では保育士や教員などに関するDBS(性犯罪歴がないことを証明する仕組み)の実現に向けて現在こども家庭庁で会議が行われていますが、職業選択の自由やプライバシー権にも関わるという議論もあります。そこをアッサリとクリアしてしまっているのは、注目に値するものと思われました。また個別ケースの措置については、最終的には市議会の委員会が決定する手続きがあるとのことで、議会が最終責任を負うこととなっているのも日本とは異なる点です(エスポー市では、市長は市議会が任命するシティマネージャー制というお話も伺ったので、地方自治制度そのものが異なっているのかもしれません)。
<ヘルシンキ市若者評議会メンバー面談>
7月11日のお昼に、ヘルシンキ市の若者評議会(衆議院の資料ではYouth Councilを青年評議会と訳していますが、対象年齢から私には若者とした方がしっくりくるので、ここでは「若者」とします)のアイシャ・マフムード議長、ネラ・サルミン第一副議長、ローザ・クマール・サーリネン第二副議長と会食しながら面談しました。若者評議会は、フィンランドの法律に基づき自治体ごとに設置されている組織で、13歳から17歳までの者から選挙で選ばれた30名(ヘルシンキ市の場合)で構成されています。よって当然ながら議長、副議長といっても高校生や中学生なのですが、3名とも堂々と受け応えをされていました。任期は2年で、マフムード議長とサルミン副議長は当選2回、サーリネン副議長は当選1回とのこと。私たち視察団同様に法律に基づく選挙で選ばれた方々であることに敬意を表し、公式の行事同様、冒頭に委員長である私からご挨拶と趣旨説明、メンバー紹介を行い、意見交換をスタートさせました。
若者評議会は、月に1回全体ミーティングを行い、また分野別に委員会があり必要に応じて会っているとのこと。ヘルシンキ市の市長および分野ごとの4名の副市長には、自分たちの権利として年2回面会するとともに、少グループで話して市長や市議会に対して要望活動を行っているとのことでした。内容としては、例えば学校でのいじめに関して、コロナやウクライナ侵攻に関する影響を減らす取り組みを求めること、ヘルシンキ市内の都心部と周辺部で、学校間で科目の有無などの差がある不平等について改善を求めること、通学路の安全確保について改善を求めることなどがこれまであったそうです。「実際に改善されましたか?」と尋ねたら即座に「It depends on politicians!」と返されました。実際、親身になって要望を聞いてくれる議員もいるが、意見が異なることもあるとのこと。最近、市行政の打ち合わせに同席をする要望をしていたことに対し、許可が出たそうです。
なぜ立候補しようと考えたかを尋ねたところ、それぞれ「学校間の不平等が目についたが何も改善されないのでどうにかしたかった」「1期目は環境問題に関心があった。2期目はコロナ禍におけるレイシズム(人種差別主義)に衝撃を受けたから」「1期目は学校保健の充実を求めていた。具体的には、学校の心理師(日本でいうところのスクールカウンセラーか)が少なくアポを入れても会うのに2ヶ月かかるのを改善させたかったから。2期目は、学校間の格差があり若いうちからプレッシャーを感じることに改善したかったから」とのこと。将来政治家を目指したいかという質問に対しては、過去にそういう進路を選んだ人はいるとのことで、「ひとつの選択肢だが、現政権は中道右派に傾いているところはよく注視していきたい」とのお返事。なおフィンランドでは学校教育で政党やその政策について学ぶそうです。ただし若者評議会としては、政党色はないとのこと。むしろ評議会での活動を通して、行政や政治家の意思決定の重要さを切実に感じるようになったとのこと。
評議会の中での意見集約などについては、会議に加えてSNSでオープンに意見を求めることも活用しています。また、会議の日当や交通費が市から支給される他、選挙の際にはチラシ代とキャンディー代も市から支給されるとのこと。キャンディーを何に使うのか(まあおそらくチラシと一緒に配るのでしょうが)、選挙制度や選挙運動についてももうちょっと突っ込んで聞いてみたかったのですが、時間がなく確認できませんでした。
また現在日本のこども家庭庁では、対面やネットなどを通じてこどもや若者の意見を募集する取組をしているが、その紹介をして感想や改善点を求めたところ「国が何かやるのは時間がかかるので、地方自治体でやった方がよいのではないか」「オンラインは増えたが交流は減ってしまったので、対面がよいのではないか」「対面して議論することで友情が育まれる面もある」といった指摘がありました。
ただやはり同世代の中ではこの活動にあまり関心がない人も、またメンバーの中でもフェイドアウトする人もいるということでした。
食事しながら、また通訳を挟んでの会話だったこともあり、予定時間をオーバーしてしまうほどの充実した面談となりましたが、視察団一同、自分たちのこども世代である3名の若者が、それぞれにとてもしっかりしていることに舌を巻きました。とはいえ帰り際に視察団のメンバーが地元の飴を配ったら、3名ともとても嬉しそうな顔をして、やっと中学生・高校生らしい顔を見ることができました。こちらがフォーマルに対応したので、緊張しておられたのかもしれませんね。
日本においても、昨年こども基本法が成立し、施策決定にあたりこどもの意見も聞くことが定められましたが、その具体策は定まっていません。個人的には、若者評議会のような取り組みも十分に意義があるものと感じました。むしろ彼らにチェックされたり打ち合わせに同席されたりする分、より大人の政治家が緊張感を持って仕事に臨むようになるかもしれません。
●その他の印象や感想
北欧のスカンジナビア半島に位置するフィンランドおよびスウェーデンは、7月でも気温が30度を越さず、湿度も低く、かつ日照時間もとても長く(朝3時くらいに日が昇り、23時くらいに日没する)、街中の緑も綺麗でとても快適な季節でした。ただしそれは夏の間の話で、冬になるとマイナス18℃くらいになりますし、かつ日照時間は逆にごく短くなります。夏休み期間であることもあり、あまり長くない快適な気候の時期を楽しむように、自転車に乗ったり釣りを楽しんだりする方々を多数見かけました。ちなみにフィンランドは魚釣りのルアー発祥の地であり、自由時間にスポーツ用品店に行ってラパラのCD-7というルアーを個人的に記念のため購入してきました(当然輸入されて日本の釣具店でも売っているのですが…)。一方で、街中各地で道路工事などが行われていました。というのも冬になると積雪や日照時間の短さのため工事できなくなるからです。なかなか切実な事情です。
道路には自転車レーンが設けられており、自転車や電動キックボードが多数行き来していました。政策的に自動車を減らす取り組みがされているようです。ただし電動キックボードはスマホアプリを利用して自由にかつ便利に乗れるようになっていますが、夜の酔っ払い運転による事故も多発しており、曜日や時間により速度や利用そのものの規制が検討されているようです。またそこかしこに電動キックボードが乗り捨ててあったりするので、あまり景観上も良くないかもしれません。
またフィンランドはサウナ発祥の地としても有名です。街中にある観覧車にはサウナゴンドラがあり、熱さを堪能しながら景観を楽しめるようになっているそうです。これはちょっと驚きました。
少し話は変わりますが、前記した通りフィンランドでもスウェーデンでも、社会保障番号およびカードで税や医療保険から銀行口座まで紐づけられ、さまざまなサービスが受けられるようになっています。ただ、例えばフィンランドでは国民に番号が振られたのは第二次大戦後のことで、そこから徐々にデジタル化・ネットワーク化されてきた歴史があり、定着度合いが日本の比ではないことは致し方ないのかもしれません。
スウェーデンでは、社会保障番号の一部は生年月日そのままであり、実質的に個人に振られる番号は数ケタです。最近移民が増え、誕生日が良くわからない人はとりあえず1月1日扱いになるため、たまたま誕生日が1月1日の方が番号を申請したら1月2日生まれの番号が振られ、カードを見せると1月2日生まれと必ず認識されてしまう事態が発生したそうで、桁数を増やす議論も行われているようです。また日本からスウェーデンに赴任した方が、附番を申請して行われるまで6か月くらいかかった上、社会保障番号があまりにも便利なため、その間は買い物も住宅を借りるのもままならなかったとおっしゃっていました。附番に時間がかかるのは、移民の増加に附番事務が追い付いていないことが原因のようです。附番を待っている間は生活が困窮しても支援サービスも受けられませんから、その結果移民がギャング化して抗争がおこり、そこに市民が巻き込まれる事件も起こっていると伺いました。日本でも、マイナンバー関連のトラブルが報道されており、多くが紐づけや発行事務における人為的なミスが原因とされています。トラブルの質は全く異なるものの、デジタル化によって事務効率化を期待するあまり、人手による事務処理の手間をすべて軽視してもならないのであろうとも思います。
ロシアのウクライナ侵攻による影響も深刻です。日本もそうですが、物価やエネルギー価格の上昇、さらには円安の影響もあり邦人の方も大変そうでした。フィンランドやスウェーデンでは再生エネルギーの利用も進んでいますが原子力発電所も稼働しており、原子力発電所を排したドイツにスウェーデンは電力を供給しているため、スウェーデン国内の電気代も上昇しているとのお話もありました。ロシアと1,300km以上の国境を接するフィンランドでは徴兵制(ただしボランティア活動で代替可能。最短6か月)があり、会食した邦人の方のご子息が現在兵役に就かれているとか、街中のビルの地下室や地下鉄等、シェルターになる施設の整備は進んでいるが、そこで食べる食糧3日分は各自で準備する必要があるといったお話も伺いました。
駐スウェーデン日本大使の能家正樹大使は、数年前に私が自民党外交部会長を務めていた際に外務省領事局長を務めておられ、いろいろお世話になりました。その後異動して駐エジプト大使を経て現職に就かれておりますが、久しぶりにお目にかかることができて個人的には嬉しかったです。スウェーデンではザリガニを食べるそうで、夕食会のメニューにもザリガニの味噌汁仕立てがありました。普通に美味しかったです。少し体調を崩されたりしてご苦労もあったようですが、その際にスウェーデンにて医療機関を受診するための手続きやアポ入れにかかる時間が長く大変だったようで、日本の医療アクセスの良さを痛感されたそうです。
●最後に
冒頭に記したように、今回の出張は衆議院による派遣でした。私たちに貴重な機会をいただいた衆議院議院運営委員会や、各党の国会対策委員会の皆さまに深く感謝申し上げます。もちろん、倉敷市・早島町の皆さまに国会に送っていただいているおかげですので、地元の皆さまにも篤く感謝申し上げます。衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会の理事・委員各位、また各省庁から同行いただいた各氏にもそれぞれ御礼申し上げます。特に衆議院調査局の坂本峰利調査員はじめ調査局の皆さま、現地で受け入れていただいた在フィンランド日本大使館、在スウェーデン日本大使館、在フランクフルト日本総領事館の皆さまには、短い準備期間になってしまったにもかかわらず充実した内容のご準備をいただきました。篤く感謝申し上げます。
学んだことは今後の議員活動に必ず生かして参ります。誠にありがとうございました。