第208回国会閉会にあたり
●はじめに
6月15日、第208回国会が閉会しました。この国会は2022(令和4)年1月17日に召集され、国会法に規定される常会(通常国会)の会期150日間を経て、延長されることなく閉会となりました。政府提出法案(閣法)は61本が提出され、全て成立しました。「経済安全保障法」や侮辱罪を厳罰化する「改正刑法」、そして「こども家庭庁設置法」などが含まれます。また、「こども基本法」や「困難な課題を抱える女性支援法」、「AV出演被害防止法」等の議員立法も成立しています。
報道では「べたなぎ国会」や「野党の結束の乱れ」といった否定的な表現も見受けます。しかし、中の人の一人としては、与野党が必要以上に対立することなく真摯に議論を重ね結論を出した、立法府としての機能を十全に果たした良い国会だったと感じます。このギャップは、「人が犬を噛んでもニュースにならないが、犬が人を噛んだらニュースになる」という報道の宿痾のゆえ、かもしれません。国会議員が協力して立法してもあまり報道されませんが、国会議員が乱闘したりすると大きく取り上げられるのです。しかし国会議員の仕事は立法なのです。そこが評価される世の中になっていただきたいものと、願います。
橋本がくは、今国会には衆議院厚生労働委員長として臨みました。また自民党では「こども・若者」輝く未来創造本部事務局長、社会保障制度調査会事務局長、創薬力の強化育成に関するPT座長、死因究明推進に関するPT座長といった役を預かり、それぞれの務めを果たすべく取り組みました。ここで簡単にこの国会における活動について振り返りを記します。なお毎年の振り返りは下記の通りです。
<振り返りシリーズバックナンバー>
・厚生労働大臣政務官退任にあたり(2015.10.8)
・外交部会長を振り返って(2016.8.2)
・厚生労働副大臣退任にあたり(2017.8.7)
・厚生労働部会長を振り返って(2018.10.3)
・この一年を振り返って(2019.9.7)
・厚生労働副大臣退任にあたり(二年ぶり二回目)(2020.9.15)
・第204回通常国会期間を振り返って(2021.6.16)
なお、昨年秋以降年末までについてはブログ「令和三年末のごあいさつ」に記していますので、あわせてご参照ください。
●委員長のお仕事
衆議院厚生労働委員会は、国会法第四十一条2の七により設置された、衆議院の常任委員会の一つです。また厚生労働委員長は、規定上は委員の中から選挙する(国会法第25条)こととなっていますが、慣例により、各会派が候補者を決めた上で本会議において議長が指名する形で選ばれます。また「委員長は、委員会の議事を整理し、秩序を保持する」とされています(同第48条)。
とはいえ、委員会の開会や質疑時間の配分、採決のタイミングなど具体的な議事運営は、事前に理事会にお諮りをし、与野党の筆頭理事をはじめとする各会派の理事・オブザーバーの方々の合意を得、それに従って運営することが基本となります。今回は、齊藤健・与党筆頭理事と山井和則・野党筆頭理事の協議が円滑円満に進み、おかげさまで理事会もスムーズに運ばれ、委員会も円満に運営することができました。そのため今国会では、参考人質疑や岸田文雄総理に対する質疑、野党提出法案の並行審議を含む充実した審議を行い、結果として閣法3本「雇用保険改正案」、「薬機法改正案」、「児童福祉法改正案」および参法(参議院提出議員立法)2本「困難を抱える女性支援法案」、「障害者情報アクセシビリティ法案」、衆法2本(衆議院提出議員立法)「労働者協同組合法改正法案」、「子育て世帯生活支援特別給付金差押禁止法案」の合計7法案を可決すべきもの(修正を含む)と決することができました。委員長の仕事として、本会議における委員長報告もあるため、本会議場で登壇する機会もいただきました。両筆頭をはじめ、ご協力いただいた理事・オブザーバーの皆さまに深く感謝申し上げます。また手厚くサポートいただいた中川浩史さんはじめ委員部の皆さまにも、心からお礼申し上げます。
ちなみに、幸い今国会ではそういう場面はありませんでしたが、どうしても与野党の対立が解けない法案を審議する場合、野党側は審議入りそのものにが反対したり、また「まだ十分な審議が尽くされていない」として質疑終局や採決に反対したりすることがあります。そうした場合まずは両筆頭間で電話や面談などで協議を行います。しかしこれが整わないまま理事会を開くことになると、今度は理事会で各理事・オブザーバーも参加して協議を行うこととなります。状況により、理事会は開いたものの協議が整わず、委員会が開かないということも起こります。また、与党の方針としてそれでもなお委員会を開会し採決すべしという場合には、与野党の合意がないまま、委員長の職権(職務権限)により委員会の開会を決めたり、採決を決定したりする場合もあります。こうした状況では、与野党それぞれの国会対策委員会(略して「国対」と呼ばれます)間でも協議が重ねられており、その状況も見ながら議論が行われます。そうした多層的な協議を経てなお合意に至らない場合にのみ、(一部の)野党の方々が抗議する中で採決を行う、いわゆる「強行採決」と呼ばれる光景が繰り広げられることとなります。またそうした採決を行うことを決定した委員長は、その決定を理由として解任決議案を提出されることもあります。概ね「与野党の合意を得ず、独断で与党寄りの決定をしたことは委員長として公平中立ではなく、解任に値する」という主張がされることとなります。そして多くの場合与党の反対多数で否決されます。
ただ形式としては、仮にいわゆる「強行採決」という形となったとしても、委員長は法律や規則により委員会の開会の決定などを行う職務権限を持っておりそれを行使したに過ぎないという見方も可能です。したがって多くの場合、採決としては有効とされます。
こうしてみると、委員長の持っている権限というものは「伝家の宝刀」のようなもので、基本的には与野党の合意を尊重してそれに沿って物事を決定するのが通常であり、自分の意志で権限行使をすると解任の理由になるという存在です。この在り様は、権限を持っているからといって個人の自由で振り回すものではないという教訓を含むものとも思いますし、一方では先に記したように物事を一つ一つ合意形成して積み上げていくために、両筆頭や各理事・オブザーバーの労力が(特に与野党が対立的な局面では)相当消耗されるという面もあり、また委員会の決定に厚生労働省をはじめとする役所の方々も場合によっては振り回され同様に消耗するという結果にも繋がっているように思います。
現在もなお委員長の職務にあるものとして軽々に私見を記すことは差し控えますが、こうした国会の在り様も、引き続きさまざまな議論が行われてもよいのかも知れません。
●党での活動
党においては、「こども・若者」輝く未来創造本部事務局長としての活動に最も時間を割きました。「令和三年末のごあいさつ」に記した通り昨年末に党内の議論を経て政府の基本方針は決定しており、「こども家庭庁設置法」等の政府提出法案の自民党内での議論は比較的スムーズでした(ただし、こちらは国会で野田聖子担当大臣がかなりご苦労されました)。一方で、同時提出を目指した「こども基本法案」については、年明けの一回目の会合から厳しいご意見を多数いただくスタートとなりました。幸い、加藤勝信衆議院議員をリーダーとし、木原稔衆議院議員、丹羽秀樹衆議院議員といった同期のメンバー、そして昨年から「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」の議論を企画・リードしていた山田太郎・自見はなこ両参議院議員等々によるチームがそれぞれに機能を発揮していただき、党内議論に加えて公明党とのPTにおける調整や、民間人を含むさまざまな方々との意見調整等を行いました。衆議院法制局とともに原案を作成し議論を反映させてブラッシュアップする役目をしていましたが、対立的な意見の前で頭を抱えながらひとことずつ推敲を繰り返しました。しかしことわざ「窮すれば通ず」を地で行くような局面が何回かあり、最終的に成案を得て国会に提出できて本当に良かったと思います。その後は、委員長職があったため国会答弁等法案審議に関わることはしませんでしたが、その分、塩崎彰久衆議院議員、鈴木英敬衆議院議員、勝目康衆議院議員らの若手、公明党からは國重徹衆議院議員が答弁にあたってくださいました。そうした充実審議の末、多くの野党の方々もご賛同をいただき、「こども基本法」が成立することとなりました。全員のお名前を挙げることはとてもできませんが、お力を頂いた皆さまに、心から感謝申し上げます。
こども家庭庁の設置を含め、最初の言い出しっぺは山田太郎・自見はなこ両参議院議員の「太郎とはなこ」チームであり、周囲を動かしたは行動力は多大なものがあります。またその提案を受け止めご理解をいただき推進して下さった菅義偉・岸田文雄両総理、二階俊博・茂木敏充幹事長、そして初代の「こども・若者」輝く未来創造本部事務総長の福井照・前衆議院議員にも大きなお力をいただきました。また内閣官房をはじめとする役所や衆議院法制局、自民党政調事務局にもそれぞれにご努力いただきました。誰かひとりが欠けたらこの結果にはならなかったようなチームワークでした。
また、死因究明推進に関するPTや創薬力の強化育成に関するPTは、それぞれに3回ずつ会合を開き政府や有識者からヒアリングを行いました。それぞれに重要な課題を抱えていますので、引き続き議論を続けて参ります。
倉敷・早島においても、ゴールデンウイーク頃から徐々に新型コロナウイルス感染症への警戒レベルを下げ、観光客を受け入れる状況となり、良かったなと思っています。海外からのインバウンドも再開への方向性にもあります。道路交通では高梁川にかかる橋についてはすっかり渋滞が緩和されましたが、一方で倉敷-岡山間の渋滞の対策が急がれます。既に事業化はされていますが、予算の都合もあり徐々に実現することとなります。粘り強く完成まで努力し、中国地方一番と言われる渋滞の緩和に繋げます。
●所感
今国会は、新型コロナウイルス感染症第6波の感染拡大が始まったころに開会しました。また、ロシアのウクライナへの侵略が2月24日に開始され、世界を震撼させています。またその影響もあり原油その他の価格が上昇するなど経済的な影響も出てきています。そうした中で開かれた国会であり、あまり対立的な行動も理解されにくい状況がありました。もちろん、経済対策を始めとして各党からさまざまな提案が競われ、法案も提出され議論されました。また内閣不信任案や衆議院議長不信任案も審議されましたが、週刊誌報道に基づく理由づけはいま少し説得力が薄いものとも思われます。
そうした背景はありますが、上記の件以外にも「AV出演被害防止法」等野党が必要性を主張し、与党側もこれに応えて知恵を絞り、解決のための法律ができるなど、立法機関としての国会は機能していたと個人的には評価しています。
国会閉会に伴い、参議院通常選挙は6月22日に公示、7月10日に投開票となることが確定しました。まずは政権の安定のために、自民党・公明党の与党一丸の勝利を目指し、全力を尽くします。引き続いてのご指導・ご鞭撻を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。