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2021年6月

2021年6月16日 (水)

第204回通常国会期間を振り返って

●はじめに

 1月18日に召集された第204回通常国会は、国会法に定められた150日間という会期により6月16日に閉会されました。令和3年は年明けすぐに2回目の緊急事態宣言が発出されており、ほぼ新型コロナウイルス感染症の蔓延やその中でのワクチン接種の取組み、そして東京オリンピック・パラリンピックの準備と並行した国会となりました。当然ながら、与野党間では閉会中審査についての議論も行われており、結論が出ればそれに従いますが、とりあえず一区切りには違いありません。

 この中で、橋本がくは、衆議院においては予算委員会理事、厚生労働委員会理事、政治倫理の確立および公職選挙法に関する特別委員会委員を務め、自民党においては「こども・若者」輝く未来創造本部事務局長、社会保障制度調査会医療委員長、創薬力の向上に関するPT座長、難病対策に関するPT座長、厚生労働部会死因究明PT座長、新型コロナウイルス感染症対策本部情報戦略・システムPT座長、性的指向・性自認に関する特命委員会事務局長等を務め、また自民党総務および岡山県支部連合会会長を務めるなど、とても慌ただしく過ごしました。

 これまで、おおむね毎年秋の人事の時期に合わせて振り返りブログを書くのが常となっていましたが、今回は国会閉会のタイミングで振り返りを記します。なお、過去の振り返り記事はこちらをご覧ください。振り返りを始めて7年も経ったのかといささか感慨深いものがあります。

<振り返りシリーズバックナンバー>
厚生労働大臣政務官退任にあたり(2015.10.8)
外交部会長を振り返って(2016.8.2)
厚生労働副大臣退任にあたり(2017.8.7)
厚生労働部会長を振り返って(2018.10.3)
この一年を振り返って(2019.9.7)
厚生労働副大臣退任にあたり(二年ぶり二回目)(2020.9.15)

 なお、昨年秋以降年末までについてはブログ「令和二年末のご挨拶」 に記していますので、この記事では令和三年正月以降、ほぼ第204回通常国会の会期中のことについて記します。

●理事のお仕事

 これまでも、厚生労働大臣政務官退任以降は、副大臣在任中を除き、衆議院の厚生労働委員会の理事を務めていました。加えて昨年秋から予算委員会の理事も兼任することとなりました。質疑や採決の場である委員会の運営について与野党各会派を代表して協議するのが理事会であり、理事はそのメンバーということになります。審議日程の調整、資料の確認、参考人の確認、その他質疑中に理事会協議事項とされた事項に関する協議などを役割分担して行うのが仕事となります。

 予算委員会では、金田勝利委員長、後藤茂之与党筆頭理事の下、四席の理事を務めました。資料チェックの担当となりましたので、通常国会開会後令和二年度第三次補正予算および令和三年度本予算の審議が行われた1月下旬~2月下旬の約一か月間は、月曜日から金曜日まで毎朝、7時50分ごろには細田健一理事、藤原崇理事らと衆議院内控室に集まり、その日の質疑者が準備する資料やパネルについて、誤りの有無や形式が整っているか等の確認を行いました。たまにチェックに引っかかる資料があるので、その際は理事会において指摘し、訂正や差し替えまたは削除を依頼することとなります。また予算委員会においては、

・1月26日:令和2年度第3次補正予算総括質疑[議事録]
・2月4日:令和3年度本予算質疑[議事録]
・2月16日:令和3年度本予算参考人質疑[議事録]
・5月10日:集中審議[議事録]

 の4回にわたり質疑に立ち、手指衛生等基本的な感染対策の徹底、病床のひっ迫やワクチン確保や接種推進の方策等、折々の新型コロナウイルス感染症対策について菅義偉総理をはじめ政府を質し、また専門家のご意見を伺いました。また2月25日、26日に行われた分科会質疑では、第五分科会(厚生労働省所管)の主査を務め、3月1日の委員会にて主査としての報告[議事録]を行いました。

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写真上:予算委員会での質問 写真下:分科会主査を務める

 厚生労働委員会においては、当初はとかしきなおみ委員長および菅原一秀与党筆頭理事の下、次席の理事を務めました。こちらでは委員長の代理を折々に務めることが主な役割であり、また4月23日には、健保法改正案の対総理質疑[議事録(未掲載)]を行いました。ところが同日朝突然に菅原筆頭が理事を辞任されることとなり、急遽、与党筆頭理事を務めることとなりました。与党筆頭理事は、それぞれの委員会で公明党も含めた与党の代表として、野党の代表である野党筆頭理事と折衝し合意点を見つけて委員会を運営し、法案審議を進めて結論を得るという重責を担うこととなります。そのため委員長や閣僚の経験者が就くことが通例で、どちらも経験せずいきなり筆頭理事に指名されたのは正直かなり驚きました。

 筆頭理事のお仕事は、なかなか大変でした。委員会日程ひとつとってみても、委員会に付託された法案の審議状況に加え、開会日が重なる参議院本会議のセット具合や参議院厚生労働委員会の進捗、場合によっては他委員会の状況などを日々確認・勘案し、長妻昭野党筆頭理事からのご要望を伺いかつ自民党国会対策委員会の方針も踏まえながら、一回一回の委員会のセットを決めていくこととなります。一般的に多数会派が仕切るといわれる地方議会と異なり、国会はできるだけ全党のコンセンサスにより運営を行っていますので、連絡調整を正直ヘトヘトになるほど重ねることとなります。カウンターパートとなる長妻昭筆頭は、ご要望は全くブレない厳しい方ですが、幸いに円滑にコミュニケーションを重ねることができました。その結果、健保法改正案のみは充実した審議を重ねつつ採決について野党にご同意をいただけずやむを得ず与党が動議を提出して採決に踏み切らざるを得ませんでしたが、それ以外の審議については全てコンセンサスによる運営となり、今国会における政府提出法案4本(医療法等改正案、健康保険法等改正案、B型肝炎特措法改正案、育児介護休業法改正案)を丁寧な審議の上で通過させることができました。また一般質疑や参考人質疑も含めて合計120時間を超える充実したとても審議を行い(おそらく衆議院の全委員会中トップ)、コロナ禍やワクチン接種が国政の重要テーマとなる中において健康や医療、雇用等を所管する委員会としての使命は、十二分に果たしたものと考えます。

 また今国会では、衆議院厚生労働委員会から4本の議員立法(ILO105号条約関係法整備法案、特定アスベスト被害労働者等給付金法案、中小事業主労災共済法案、医療的ケア児支援法案)を成立させることができました。議員立法は基本的には全党の賛成により委員長提案とするものですが、場合によっては事前に提出して質疑を行う場合や、委員会に動議を提出して議案にする場合などもあります。それぞれの法案への各党の賛否や質疑希望の有無により適切な方法を決め、提出者や各党理事と連携してそれぞれの議事を組み立てました。また中小事業者労災共済法案は、動議提出者の役も担っていたため、他党の部会に説明に行ったり、委員会決議を調整したり、衆参の厚生労働委員会で答弁にも立ちました。国会終盤の3週間ほどは、委員会運営だけで目の回るような時を過ごし、委員会が無事に開会するとやっとホッとする日々でした。質疑中に揉めることもあるので気は抜けませんが。

 日本の国会は委員会中心主義といわれます。与党筆頭理事として、ピンチヒッターとはいえその運営の一端を担う立場となり、目立つことはないですが勉強になる日々を5月6月と過ごすことができました。何かあるとまず相談に乗っていただいた頼れる存在・石川真一キャップ始め衆議院委員部のみなさま、一時グレかけた際に温かく慰留してくれた自民党国対の担当三代寛朗さん、クワガタ大好き野村知司・厚生労働省大臣官房総務課長、委員長席後ろの壁際から常に心配そうに委員会を眺める姿がやたら印象的な清野晃平・厚生労働省国会連絡室長はじめ厚生労働省のみなさまなどのお支えあって、委員会はスムーズに運営されます。また国光あやの委員および津村啓介委員の質疑におけるご指摘があり、できるだけ早く委員会をセットするようには努めましたが、きっと厚生労働省本省でも膨大な数の答弁書作成に毎回多数の方々に夜遅くまで働いていただいていたことでしょう。本当に頭が下がる思いです。とかしきなおみ委員長、長妻昭野党筆頭理事をはじめ厚生労働委員会理事・委員の皆さま、自民党国対の担当田畑裕明副委員長、委員会に出席し答弁に立たれる田村憲久厚労相はじめ政務三役各位および厚労省はじめ各省幹部の皆さま、さらには尾身茂地域医療機能推進機構理事長や脇田隆字感染症研究所長にも、長時間の審議と頻回の質疑にご協力いただきました。深く感謝申し上げます。日本の民主主義は、こうした方々のご努力によって支えられていることは、ぜひお伝えしたいことです。

●政策面での取り組み -コロナ/医薬品/こども/性的指向・性自認―

 今国会の会期中、自民党における政策面での活動は、主に新型コロナ対策や医薬品創薬力向上、そしてこども庁の関係および性的指向・性自認の多様性に関する法案審議がメインとなりました。

 新型コロナ対策については、主にコロナワクチン接種後のフォローアップについて、情報・システム戦略PTとして1月28日に提言を行ったり[提言書PDF]、政府とともに検討したりしました。ただ、既存システムとの兼ね合いや時間・人材・法制度の面でそれなりに困難に直面しつつ、取り組んでいるというのが正直なところです。また、ワクチン接種については、その確保および供給について、倉敷市伊東市長や早島町中川町長とも連絡を取りながら確認にあたり、また先述の予算委員会での質疑でも取り上げて河野太郎大臣から答弁をいただきました。接種体制はそれぞれの自治体での対応となりますが、倉敷市でも健康福祉プラザおよび川崎学園、早島町でもゆるびの舎にて集団接種が開始され、スピードアップが図られています。詳しくは倉敷市Webサイト早島町Webサイトをそれぞれご覧ください。

 また、コロナ対策に関し、ワクチン開発や医薬品の承認プロセス等が注目を集めています。しかし医薬品開発等は一朝一夕にできるものではなく、そもそもの研究開発から製品化、そして承認や薬価設定のプロセス等を一貫したエコシステムとして捉える必要があり、また医薬品について安全保障の観点も必要と思われるところ、そもそもこれまでの医薬品行政にはそのような視点に欠けていました。そこでさまざまな関係者の方々にヒアリングを行い、提言をとりまとめました。詳細はブログ「医薬品産業エコシステムと医薬安全保障の確立 ~医薬品産業ビジョンへの提言~」をご覧ください。この提言内容は、今後政府が決定する成長戦略等に反映される見通しであり、今後の行政に活かされるものと考えています。

 報道にて「こども庁の創設」という見出しで取り上げられる機会がありましたが、このテーマを取り扱っているのが自民党「こども・若者」輝く未来創造本部です。もともとは、山田太郎・自見はなこ両参議院議員が事務局として運営している「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」が菅義偉総理に提言を行い、それを踏まえ総理直轄の検討組織をつくるよう総理から指示があって本部が設置された経緯があり、その事務局長を橋本が担うこととなりました。議論の末6月にまとめた提言等はブログ「自民党:「こどもまんなか」改革の実現に向けた緊急決議」をご覧ください。なお、組織論については報道や霞が関の動きはやたら賑やかでしたが、今回踏み込むことは控えています。順番として、まずそもそもの基本的な考え方の整理をすることが必要と考えたからです。イメージとしては、今回の決議は絵を描くための「こどもまんなか」という方向を向いた真っ白なキャンパスを用意し構想イメージを膨らませたということであり、そこに今後具体的なデッサンをし、色を塗って絵を描いていくステップを踏むのだろうと個人的には思っています。これも骨太の方針等に記載される見通しであり、政府においても検討がスタートします。

 性的指向・性自認の多様性に関する問題に関し、その理解増進法案について平成28年から足掛け5年にわたり取り組んできました。東京オリンピック・パラリンピックの機会を前に、政府も野党の皆さまもご協力いただいて成立を目指す機運が高まりましたが、誠に申し訳ないことに力不足のため自民党内の了承を得ることができませんでした。経緯はブログ「自民党における性的指向・性自認の多様性に関する議論の経緯と法案の内容について」に記した通りです。反省点もありますので、機会をいただければ引き続きチャレンジを続ける所存です。ただ、平成28年当初から組織決定を経た方針を持ち、内容についてQ&Aを練り上げ、政府への申し入れとそのフォローアップも行い、そうした数年にわたる積み重ねの上での提案をしている身としては、いささか消耗感や徒労感を覚えざるを得ない結論では、あります。もちろん、当事者の方々が今なお直面している状況を考えれば、そんなこと言っていられません。がんばります。

●地元や身の回りのことなど

 今年に入ってから、東京都においては2回、岡山県においても1回、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の対象地域となりました。その間は、県境をまたいだ移動は控えるべきとされており、岡山への往復を極力控えました。そのため正月明けと、緊急事態宣言が解除された数週間の週末のみしかほぼ倉敷・早島に戻ることができず、ご支援いただく皆さまには、すっかりご無沙汰となってしまったことを、心からお詫び申し上げます。そのかわり、YouTube「ga9チャン」を始めました。まだコンテンツはあまり多くないですが、今後も地道に続けていきたいと考えています。

 平成25年から3期6年間にわたり自由民主党岡山県支部連合会の会長を務めていましたが、長期にわたったことからこの度退任することとし、6月13日からは石井正弘参議院議員に会長職をお譲りしました。長年にわたりご支援を頂いた皆様に篤く感謝申し上げますとともに、引き続き石井県連会長をお支えして党勢の拡大に力を尽くします。また、4月28日に自民党本部より党員拡大の表彰(27位)をいただきました。日ごろからご協力いただいている自民党員の皆様のおかげであり、篤く御礼申しあげます。

 東京で過ごさざるを得なかった分、現在議員宿舎で一緒に暮らしている3人の子どもたち(と、一人暮らししている長男も時々)と時間を過ごすことができたのは、貴重な経験でした。昨年からひとり親家庭ですが、おかげさまで長女は安定して勤めを続け、長男は自分の選んだ道を志し、次女も目標に向けて取り組み続けています。今年中学校に進学した次男は学級委員になったそうで、東京の学校に馴染めるかすこし心配していた親を後目に本人なりにのびのび過ごしているようです。また、おかげさまで母も元気に過ごしています。誠にありがたいことです。

●私たちが選んだことと、選ばなかったことと。

 昨年11月から12月にかけて行われた予防接種法改正案の審議の際、委員会質疑においてはワクチンの安全性について議論が重ねられ懸念が示されていました。その結果、「接種するかしないかは国民自らの意思に委ねられるものであることを周知すること」、「新型コロナウイルスワクチンを接種していない者に対して、差別、いじめ、職場や学校等における不利益取扱い等は決して許されるものではないことを広報等により周知徹底するなど必要な対応を行うこと」(以上衆議院における付帯決議)、「国内外の治験結果等を踏まえ、慎重に行うこと」(参議院における付帯決議)といった決議が国会両院厚生労働委員会で行われました[資料]。なお付帯決議は、基本的には与野党ともに賛成して行われるものですので、野党がとか与党がとかいうべきものではありません。ともに賛成したのです。

 その結果、メーカーには国内でもワクチンの治験を行うことが求められ、治験の結論が出るには一定の時間がかかりますので日本での承認がアメリカ等と比較して遅くなりました。メーカーとしては世界中から引き合いがありますから、公平性を担保するためには承認順に順序をつけて出荷するしかありません。そのため、日本でのワクチン接種開始はアメリカ等に比較して遅くなりました(なお例えばイスラエルは早期に接種が開始されましたが、承認はアメリカの承認を踏まえ同じタイミングで行ったと聞いています)。

 また衆議院厚生労働委員会では、認知症の高齢の方など本人の意志表明が困難な方については家族同意などで接種を進めるべきではないかという議論がありましたが、ワクチン接種は身体侵襲を伴う行為でありかつ「国民自らの意志に委ねられるもの」と縛られたことが足かせとなり政府としては前向きな答弁はできませんでした。政府が接種しない自由を保障する以上、仮に意思表明がそもそも困難であっても、本人の意志によらない強制が不可能であるのは当然の論理的帰結です(仮に本人の意志によらない強制が必要とされるならば、意志表明の可不可を問わず、無差別に強制しなければなりません。そうでなければ意思表明が不可能な方に対する不当な差別になります)。

 私たちは、ワクチンに対して安全性を懸念して慎重な対応をする道を選んだのです。その結果として、早い国と比較して接種の開始が遅れたり、ワクチンパスポート的なものなどいくつかの対策が難しくなったりしていますが、それも含めて選んだ道です。「慎重」と「迅速」、あるいは「任意」と「強制」が両立できるほど、世の中は都合よくできていません。またこの決定が科学的に正しかったかどうかは、後日検証されるべきですし、議員バッジを付けている身としてその責任も負わなければなりません。今は緊急事態だから、平時と同じような意思決定をしていてはいけないという議論もたまに聞きますが、緊急事態だから法律を超えて何をしても許されるのであれば、それは法治国家ではありません。平時から次の緊急時を想定して備えておくことが必要なのです。治に居て乱を忘れず、です。

 とはいえ、現場における多くの方々のご努力により、着実に接種が進んでいます。誠にありがたいことです。ワクチン接種が進めば、着実に新型コロナウイルス感染症の蔓延は抑えられることになるものと考えます。ただ、まだその効果が目に見えるようになるには今少し時間はかかるものと思います。ですので、以前のブログと同じことを改めて記します。

 マメに手をよく洗ってお過ごしください。外出時はマスクを着用してください。人とお話するときもマスクを着用し、また換気にも十分ご留意ください。大人数や長時間、しかも普段会わない方々との会食や宴会は、出席または開催について十二分にご検討ください。体調にはご注意いただき、もし何か気づいたら微熱など些細なことでも念のため活動は控え、身近な医療機関への電話をご検討ください。医療機関や介護施設など様々な現場に立っておられる方、心ならずも感染してしまった方々に、ひととき思いをお寄せください。心からのお願いです。

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2021年6月 3日 (木)

自民党:「こどもまんなか」改革の実現に向けた緊急決議

 橋本がくが事務局長を務める、自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部の会合が今日6月3日に行われ、「『こどもまんなか』改革の実現に向けた緊急決議をとりまとめました。決議の内容は下記の通りですので、ぜひご覧ください。この決議はあくまでもスタート地点であり、今後は、この内容の実現に向けて努力を続けます!

「こどもまんなか」改革の実現に向けた緊急決議【全文PDF】

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令和3年6月2日

「こどもまんなか」改革の実現に向けた緊急決議
  
自由民主党 「こども・若者」輝く未来創造本部

 こども・若者を取り巻く状況は、深刻さを増している。児童生徒の自殺者数は過去最悪となり、児童虐待やいじめの問題は益々悪化している。出生数の減少は予想を上回るペースで進行し、人口減少に歯止めがかからない。新型コロナウイルス感染症は、こうした問題をより顕在化させた。

 こうした強い危機感に基づき、自由民主党においては、「こども・若者」輝く未来創造本部を設置した。本部では、「こどもまんなか」という考え方の下、行政や事業者の立場からではなく、こどもの視点、こどもの目線で、こどもたちが生まれる前の段階から、産まれ、育ち、学ぶ、それぞれの段階ごとに光を当て、こども政策を作り直すために議論を進めてきた。

 これまでも政府は様々な少子化対策等を講じているが、残念ながらその成果が表れているとは言い難い。この点は責任与党としても真摯に反省しなければならない。少子化対策担当大臣経験者にもヒアリングを行い、これまでの取組みについての振り返りも行った。この結果も踏まえ、もはや我が国社会の存続が危機的状況にあるという認識の下、こどものための政策のあり方を、抜本的に改革しなければならない。これは政治の責任であり、役割である。

 1996年の省庁再編時には、「国家の4つの機能」として、「国家としての存続機能」「国富の拡大・確保機能」「国民生活保障機能」「教育・文化継承醸成機能」が前提とされていた。まず私たちは、現下の我が国社会の危機に際し、国家の5つ目の機能として「社会の存続支援機能」を加えるべきであると考える。

 具体的には、こどもをまんなかにおき、こどもの権利を尊重し、こどもの命や安全を守る政策を強化する。さらに、家庭、地域、保育所、幼稚園、学校、自治体、さらには親や養育者の就労環境や社会におけるジェンダーギャップ解消への取組みも含め、こどもを取り巻くあらゆる環境も視野にいれる。こうしたこどもの成育、成長過程の全体について、国としての責任の所在を明らかにし、予算や人材といった資源を思い切って投入する。

 そして行政・政治・社会全体に「こどもまんなか」という考え方を浸透させることにより、全てのこどもがすくすく健やかに育ち(愛育)、のびのび学び活動(育成)し、たくましく生きていく力を身につける(成育)ことができる社会を目指す(イメージ図参照)。

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図:「こどもまんなか」改革のイメージ

 その成果として、温かい家庭を築きたいと願う人々の想いに寄り添い、長らくの課題である待機児童問題を解消し、児童虐待やいじめはすべて隠すことなく、速やかに対応する。こどもの貧困や、その他こどもが直面するさまざまな課題も解決し、我が国に生まれくる全てのこどもたちの幸福につなげる。

 政府に対しては、「こどもまんなか」の実現に向けた強力な総合調整機能を有する行政組織としてこども庁(仮称)を創設することを含め、下記について「骨太方針2021」に盛り込み、速やかに実現することを求める。

1. こども政策に関するデータ収集分析能力を向上させ、EIPPを確立すること

 深刻化しているこどもの貧困や児童虐待、重大ないじめ、こどもや産後の母親の自殺といった課題に対する行政の対応は、必ずしも成果に繋がっていない。その原因として、こどもに関する施策の立案や実施において、厚生労働省・文部科学省・内閣府などのタテ割りの壁、各省庁・各都道府県・各市町村のヨコ割りの壁、さらには妊娠・出産・産後や、就学前後、成人前後に見られる年代割りの壁があり、こどもや家庭の目線に立った相互の連携や情報共有、評価などを困難にしていることが指摘されている。

 こどもを取り巻く喫緊の課題に迅速かつ適切に対応するためには、そうした課題に関するデータの収集、分析能力を飛躍的に向上させ、統計を充実させるとともに、これをPDCAに確実に活かし、エビデンスに基づく政策立案と実践(EIPP: Evidence Informed Policy and Practice)を確立することが必要である。政府の施策の改善に活用するのみならず、こどもに身近な自治体や施設のレベルにまで適切にフィードバックする体制を構築しなければならない。この実現に向けては、イギリスにおける教育水準監査局(Ofsted: Office for Standards in Education) の取組み等を研究すべきである。

 また、「こどもまんなか」実現に向け、こどもの視点からの施策の展開および評価ができるよう、こどもやケアリーバー(社会的養護経験者)など当事者から直接意見を聴くため、こども会議やこどもヒアリング、こどもコミッショナー等といった手法を含めて検討すべきである。また、子育て中の保護者をはじめこどもの周囲の方々の意見を聴き施策に活かす方策も検討する。

2. こどもや子育て世代が抱える様々な課題(注) に早急に対応すること

 女性の健康、結婚、妊娠・出産、産後ケア、そしてこどもの成育過程までを含むすべての段階において、こども、女性、男性、子育て世帯への包括的な支援を充実させる。不妊治療の保険収載や支援拡充を図る。産後ケア事業の全国展開や普及啓発等を通じ、こどもとその保護者等(里親を含む)との間の愛着の形成を促進する。男女が望むだけのこどもを持ち、女性が安心してこどもを産めるよう、家事育児の分担や仕事と家庭との両立など、あらゆる障害を取り除くための政策を強化する。母親に限らず、父親を含め身近な養育者への支援も必要であることについて、社会全体で理解を深めていく。

 外あそびの環境整備やさまざまな体験活動の推進を通じ、こどもがのびのびと遊び、学ぶことができる環境を充実させる。待機児童問題を解消する。幼稚園、保育所、認定こども園の施設類型や、それらに通っていないこどもも含め、就学時の学力や育ちの格差を生じさせず、全体として底上げする方策を検討する。

 こどもの貧困、児童虐待、重大ないじめ、自殺、孤独・孤立などこどもが抱える課題は早急に解決を目指すべきである。さらにこれらの課題が結果的に教育格差につながるとともに、教育格差が新たな問題を生む負のスパイラルの要因ともなる。これを断ち切るためには、全てのこどもに教育および福祉の政策の効果を行き渡らせなければならない。

 まず学校現場において、課題を抱える児童に対するチームアプローチ、アウトリーチ、ICTやAIを活用したアプローチを導入するほか、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの育成と配置を急ぎ、予防、早期発見、相談・支援の充実などにより、より実効的にこどもの悩みなどの解決につながるような取組みを促進する。それらにより、学校の教員が教育そのものにより専念できるようにする。同時に、児童相談所を含めたこどもや家庭等の福祉的な支援体制を抜本的に充実強化すべきであり、自治体や現場を含めた人員・体制を強化する。現場におけるさまざまな相談窓口を連携させ、ワンストップで必要な支援に繋げられる体制を目指す。また、不登校やひきこもりへの支援の拡充、放課後児童クラブおよび放課後子供教室の一層の連携と充実等の「小一の壁」対策の推進、こどもの安全を守るためのスクールバスの導入促進、包括的な家族政策の充実、こども食堂・こども宅食への支援の充実やあらゆる場や機会に応じた食育の充実、ヤングケアラーの支援のため相談や支援体制の充実、当事者やこどもの意見を専門的な見地から聞くアドボケイトの導入など一時保護の見直し等を図るべきである。

 こうした課題の解決に向けては、NPOをはじめ民間法人の工夫を活かすことも考慮すべきである。

 欧米の先進事例を踏まえ、こどもを性犯罪から守るための府省庁横断的な日本版DBS(無犯罪証明書:Disclosure and Barring Service)等の導入や、こどもの死因の究明を行い事故等の予防につなげるためのCDR(Child Death Review)の導入、ネウボラ等について早急に検討する。

 また出産前から妊婦に寄り添うLMC(Lead Maternity Carer)の導入、小児のホスピス、包括的性教育(CSE: Comprehensive Sexuality Education)といった事例についても参考にすべきである。

(注:詳細は、Children Firstの子ども行政のあり方勉強会「こども庁創設に向けた第二次提言 ~Children First社会の実現に向けて~(令和3年5月28日)」中、「Ⅲ.『こども庁』が対象とすべき課題」も参照のこと。)

3. こども政策を実現するために十分な予算を確保すること

 こどもに関する困難な課題に直面する現場の方々を勇気づけ、こども政策を着実かつ機動的に進めるためには、そのための予算を十分に確保する必要がある。こどもへの支出は未来への投資であり、社会を健全に維持するために必要であることを広く国民に理解を求め、安定的な財源を確保しつつ、こども政策への支出を欧州並みに大幅に拡充すべきである。

 その際には、「こどもまんなか」の考え方の下、こどもの貧困や、ジェンダー対策、障害がある児童や医療的ケアが必要な児童の支援、教育に要する費用を含めた子育て中の家庭の負担の軽減といった点にも幅広く目配りをし、これらを支援する十分な予算を確保することが必要である。

 また、住んでいる地域や自治体によって、格差が生じたり、取り残されたりすることのないよう、国と地方自治体が一体となって現場の取組みを積極的に支援する方策についても検討すべきである。

 国、都道府県、市町村の連携、自治体間の連携の強化を図り、こども政策に関するデジタル化を進めることも重要である。

 なお、安定的な財源のあり方については、かつてわが党で議論された企業も含め社会・経済の参加者全員が連帯し公平な立場で広く拠出する枠組みの検証や、その他の手法も含め、幅広く検討を行うことは重要である。

4. 「こどもまんなか」の実現に向けた強力な総合調整機能を有する行政組織として、こども庁(仮称)を創設すること

 以上に記したような政策について、「こどもまんなか」の実現に向けて効果的に推進するためには、現在、各府省が個別に実施している政策、予算、法令について、網羅的・一元的に整理・把握する必要がある。医療・保健・療育・福祉・教育・警察・司法等の各分野における子ども政策について、タテ割りを打破し、省庁横断で推進すべきであり、妊娠前から、妊娠・出産・新生児期・乳幼児期・学童期および思春期の各段階を経て、おとなになるまでの一連の成長過程を通じ、こどもの視点に立って、困難を抱えるこどもや、家庭をはじめとするその環境への支援が抜け落ちることなく実施され、子どもの権利条約を基盤とし、かつ責任の所在が明らかにされる体制を構築すべきである。「小一の壁」等の年齢による切れ目や、自治体間または地域間の格差等の解消や是正についても取り組みが必要である。

 このため、「こどもまんなか」の実現に向けた強力な総合調整機能を有する行政組織として、こども庁(仮称)を創設する(イメージ図参照)。こども庁には、その責任の所在を明確にするための担当大臣を置くことを前提とし、地方自治体の意見にも留意しつつ、政府において実現のための検討体制を早急に設け、ただちに検討を開始すべきである。

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図:こども庁(仮称)イメージ
以上

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2021年6月 1日 (火)

自民党における性的指向・性自認の多様性に関する議論の経緯と法案の内容について

 さる5月28日の自由民主党総務会において、「性的指向・性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」が議題とされ、その時点で想定される国会日程上成立が困難であるとの森山裕国会対策委員長・末松信介参議院国会対策委員長の見通しを踏まえ、取り扱いは党三役(二階俊博幹事長、下村博文政務調査会長、佐藤勉総務会長)の協議に委ねられることとなりました。

 筆者は、自民党において性的指向・性自認に関する特命委員会が設置された平成28年から、政務官・副大臣を務めていた時期を除いて事務局長を務め、一貫して議論に携わってきました。その間さまざまな議論と経緯を経てここに至っていますが、ここにきて残念ながら必ずしも正確とは言い難い認識に基づく意見や記事も見かけるようになりました。さまざまな視点に立った議論が存分に交わされるのはわが党の良い点ではありますが、願わくは、過去に積み重ねてきた議論を十分に踏まえたものであってほしいものと思います。

 そこでこの機会にあらためて、自民党における性的指向・性自認の問題に関する議論の経緯を整理しておきます。

●特命委員会の設置

 特命委員会は平成28年2月に設置されました。当時の稲田朋美政務調査会長の指示により、古屋圭司衆議院議員が委員長となり、私が事務局長を拝命してスタートしました。なお稲田朋美議員は委員会設置当初から、いわゆるLGBTの当事者の方々が直面する問題を人権問題として捉えており、委員長に就任した現時点に至るまでその姿勢は一貫しています。

 当時は党内においても今よりもなお一層この問題に関する認識の薄さがありましたが、当事者や有識者の方々からのヒアリングや、政府や企業の取り組み状況のヒアリングなどを重ね、理解と議論を深めました。その成果として「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」等をとりまとめ、同年5月24日に総務会で了承を得ました。その中では、

  1. 性的指向・性自認に関する広く正しい理解の増進を目的に、今後、議員立法の制定を目指す
  2. 委員会で取りまとめた「政府への要望」に掲げる措置を速やかに講じることを政府に要望する

 という二つの目標が「目指す方向性」として記され、これが自民党として正式決定された方針となりました。

 また、性的指向・性自認に関する広く正しい理解の増進を目指すとしても、何が「広く正しい理解」なのかについて、自民党としての案を持っている必要があると考え、この問題に関するQ&Aを編集し、公表することとしました(下記)。なおその頃、橋本自身もこの議論に関する個人的な整理を自分のブログに「自民党性的指向・性自認に関する特命委員会「議論のとりまとめ」等について」として記していますので、あわせて参考にしていただければよいかと思います。

●性的指向・性同一性(性自認)に関するQ&Aの編纂

 特命員会では、上記「わが党の基本的な考え方」の決定後、ただちに「性的指向・性同一性(性自認)に関するQ&A」の編集作業にとりかかり、6月に公表しました。この平成28年6月公表版は、24問のQ&Aおよび付録「困った時の相談先一覧」から構成される34ページの文書でした。

 この当時から、Gender Identity を意味する日本語として「性自認」とするか「性同一性」とするかはかなり迷いました。既に「性自認」という言葉の方が、政府や一般での使用例は多かったと思われますが、「性同一性」という言葉は「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」として既に法律用語になっている(もっとも、実は「性同一性障害者」という言葉しか法律上の定義はされていない)ため、その点との整合を図る意味で、最終的には「性同一性」という表記となった経緯がありました。しかしこのQ&Aのタイトルでわかるように、両方の言葉が同義で存在しているものと認識されており、内容にも「両者の意味は同じであり、今後も『性自認』を用いることにも差し支えはないものと考えます」と記されています。

 このQ&Aは、令和元年6月に内容を更新しました。現在の自由民主党のWebサイトに掲載されているものは、この時点の版です。この版では「実際にはあまり厳密な区別なく『性自認』『性同一性』が使用されている状況です」と但し書きをつけつつ、「『性同一性』は、ある性別に対する社会的かつ持続的なまとまりの感覚に関することを意味するため、自分の性別の認識という意味である『性自認(gender self-recognition)』とはニュアンスがやや異なります」と、二つの言葉のニュアンスの差に留意しました。こうした議論の積み重ねが、今回の法案における言葉の定義に繋がっています。

 令和元年度版Q&Aは、28問のQ&Aおよび付録「困った時の相談窓口一覧」から構成される41ページの文書です。今回の法案をめぐる議論を踏まえ、今後さらに内容の更新を図る必要があるものと考えています。

●政府への要望申し入れとフォローアップ

 先述の文書「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」には、別紙として「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すための政府への要望」が添付されています。これは平成28年の特命委員会における議論等をもとに、現行の法制度の範囲において取り組むべきさまざまな施策について、「教育・研究」「雇用・労働環境」など7分野33項目にわたって抽出したものであり、5月の総務会決定を経て政府に申し入れを行いました。この活動は、自民党が与党である利点を生かした独自のものであり、現実的に政府のさまざまな取り組みを促す効果があったものと自負しています。

 特命委員会では、この申し入れに基づき実際に政府がどのようにこの問題に取り組んだのかフォローアップを行っており、令和元年には先ほどの令和元年版Q&Aの付録として「『性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すための政府への要望』(平成28年5月)に関する政府の対応状況」として整理しました(自民党「性的指向・性同一性(性自認)に関するQ&A」ページに【性的指向・性同一性(性自認)に関するQ&A(令和元年版)付録】として掲載されています)。

 平成28年の最初の申し入れから既に5年を経過しており、フォローアップの継続に加え、そろそろ要望の内容にもブラッシュアップが必要なようにも思われます。今後の宿題と考えています。

●「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」の検討経緯

 自民党の方針として、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案の成立を目指す旨は平成28年5月に総務会決定されましたが、その進捗は難航しました。実はその直後に現行案と概ね同旨の法案要綱まで作成し、内閣部会と特命委員会の合同会議に諮りましたが、さまざまな意見があり了承を得るに至りませんでした。

 その後も特命委員会の役員が中心となって検討を続けましたが、政府においてどの省が主管するか決着がつかず、数年間の足踏みを余儀なくされました。法務省、内閣府、文部科学省などと粘り強く交渉を続けましたが、どの省も「協力はするが自分が主管する政策ではない」といういわゆる消極的権限争いを展開し、いたずらに貴重な時間を浪費しました。政府内ではしばしば見かける光景ではありますし、理由のないことでもないことは理解しますが、現実にさまざまな困難に日々直面している当事者の方々のことを全く眼中に置かず、とにかく自省の仕事を増やさないことに躍起になる各省の活動は、正直見苦しいものでした。当然これは特命委員会に力が無かった結果でもあるため、深く反省しています。

 風向きが変わったのは、菅義偉政権が誕生してからです。令和3年3月に稲田朋美特命委員長や谷合正明参議院議員らとともに加藤勝信官房長官に面会し主管省庁について調整を依頼したところ、後日「法案成立後の担当大臣は坂本哲志内閣府特命担当大臣とする」旨の返答をいただきました。それも踏まえ、橋本が5月10日に衆議院予算委員会でこの問題に関する政府の憲法解釈を質した際には坂本大臣が答弁を行い、公知の事実となりました。

 ここから法案の検討は一気に加速します。4月8日の特命委員会会合において、稲田委員長から議員立法の状況について報告を行い、4月26日には内閣第一部会と特命委員会との合同部会を開き、「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案(仮称)要綱」を示して野党との協議に入る了承を得ます。ここで舞台は超党派のLGBTに関する課題を考える議員連盟(馳浩会長)に場所を移し、稲田朋美議員と西村智奈美議員に与野党間の調整を一任。両議員による精力的な交渉を経て、5月14日に取りまとめられた案が超党派の法案として了承され、各党の党内手続きに付されることとなりました。そして5月20日および24日の内閣第一部会・特命委員会合同会議で法案審査が行われ、国会で質疑を行うことを国対委員長や議運委員長に要望することを条件として了解を得ました。そして5月27日に政調審議会を経て28日の総務会に諮られ、冒頭記述の結論となりました。

●法案の内容について

 自民党の内閣第一部会・特命委員会合同部会で了解され総務会に諮られた法案の概要および法案をこちらに掲載しておきます。法案は条文14条附則3条の短いものであり、さっと目を通していただけるシンプルな内容です。

【性的指向および性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案】(概要・法案)

 内容は、性的指向や性自認の多様性について、未だ国民の理解が十分に進んでいないことが、いじめや差別などの原因となりやすい現実があることを踏まえ、性的指向や性自認の多様性に関する国民の理解の増進を図ろうとするものです。法案の目的や基本理念、言葉の定義を定めた上で、国や地方公共団体、事業主、学校等の役割や努力を記した上で、毎年1回政府による施策の実施状況の公表(上記の要望フォローアップのようなものを想定)すること、政府が基本計画を策定すること、調査研究や知識の着実な普及、相談体制の整備、民間団体等の活動の促進を行うべきことを定め、また各省横断的な連絡会議を設けることを定めています。

 この法案にはいくつかのポイントがあります。

 ひとつは、この法案で理解の増進をする内容は「性的指向・性自認の多様性」で一貫していることです。そもそも性別という概念は、単に男性か女性かを二分するだけのものではなく、戸籍上の性別、身体的特徴による性別、性的指向、性自認、場合によっては服装など外見上の性別など、複数の要素により構成されるものです。その中で、特に誤解が少なくない「性的指向」および「性自認」の二つの要素について、それが多様である(単に「男性」か「女性」のみに二分されるものではなく、グラデーション的であったり他のカテゴリがあったり不明あるいは謎であるとする人もいる)という「知識」を普及させよう、というのが本法案の趣旨です。仮にこの法案が成立したら、当事者の方々の「意見」や「主張」を全て正しいものと理解しなければならないのではないか、などと受け止めておられる方がいるとすれば、これは全くの誤りです。一方で、この法案は当事者の困難の解消に繋がらないのではないかという懸念も聞かれますが、正しい知識の普及はいたずらな偏見を防ぎ、当事者の方々もそうでない方々も共に暮らすことのできる社会の実現に、必ず結びつくものと考えます。

 また、「性自認」という言葉の定義を行ったことも、ポイントの一つといえるでしょう。4月の法案要綱時点では、先述の議論を踏まえてGender Identityを表現する日本語として「性同一性」という言葉を遣っていましたが、与野党での協議を経て「性自認」という言葉をつかうこととなりました。これは他党からの要請があった経緯はありますが、同時に既に政府を含め幅広く「性自認」という言葉が一般的につかわれている現状を踏まえた判断でもあります。一方で、「性自認」という言葉そのものが独り歩きして、Gender Identityは本人が自覚的にコントロールできるもの、という誤解を招くことも懸念されました。そこで、定義について「自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に係る意識」と記しました。ここでいう性同一性は、「自分は男性である」「自分は女性である」「自分はXである」「自分は男性か女性か問うている」といったアイデンティティそれぞれを指します。アイデンティティですから基本的には一貫するものですが、人によっては思春期に揺らぐこともあると言われていますし、無い場合もあるし、程度や割合として認識される場合もあります。それを「有無または程度に係る意識」として表現しています。そうした状況をも包含する広い概念として、この法律において「性自認」という言葉を定義しました(わかりにくくて申し訳ないのですが、そもそもアイデンティティという言葉に対応する日本語が無いことを、どうにかして日本語にしようとしている努力の現れと思っていただければ、ありがたいです。ジェンダーアイデンティティと書ければ良いのですが、日本の法律は日本語で書かなければならないのです)。もとより、法律における言葉の定義はその法律内のみ効力を持つものであり、一般に広く効果を与えるものではありません。しかし参照される対象とはなり得るものであり、むしろ法律で定義することにより「性自認」という言葉を自由勝手に使用されることを防ぐことになるものと期待しています。

 与野党協議の中で第一条(目的)および第三条(基本理念)に、「すべての国民が、その性的指向又は性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向および性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」という表現が追加されました。このことは、日本国憲法第十四条に「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と記されていることを踏まえたものであり、実際の適用場面において具体的な法規範性を持つものではありません。憲法において「差別されない」と書いてある以上、差別はあってはならないし、許されてもならないことを確認したに過ぎません。なお、5月10日の衆議院予算委員会における橋本の質疑で、坂本大臣は「委員御指摘のとおり、憲法第十四条の趣旨に照らしましても、性的指向、性自認を理由といたします不当な差別や偏見は決してあってはならないというふうに認識をしております。政府といたしましては、このような認識の下、多様性が尊重され、そしてお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現に向けて、しっかりと取り組んでまいります。」と答弁しており(議事録)、この答弁内容とも整合的です。なお、「あってはならない」と「許されない」という表現については、令和2年11月13日衆議院法務委員会において上川陽子法務大臣が「新型コロナウイルス感染症に関連して、感染者あるいはそのご家族に対しまして、誤解や偏見に基づきましての差別は許されないことであると思っております。また、性的指向、性自認に関する理解の欠如に基づく偏見、差別についても、決してあってはならないと考えております」と並べて答弁しており(議事録)、また他にも用例があり、政府はこの二つの表現を意識して使い分けているわけではないものと考えています。また、「部落差別の解消の推進に関する法律」(平成二十八年法律第百九号)の第一条(目的)において、「部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題であることに鑑み」という表現が既に存在することも、参照されるべきでしょう。なおいずれにせよ、目的や基本理念に立法の背景を詳しく記したとしても、法律の内容は依然「知識の普及」に過ぎず、差別解消を直接に図る規定が存在しないことには変化はありません。

●最後に

冒頭記したように、現時点において今国会での法案の成立の見通しが立っているわけではありません。とはいえ国会も生き物であり、明日には何が起こるかわからない世界でもあります。自民党でも総務会に議案がかかり続けている状態ですから、国会情勢が変化すれば即座に提出が可能です。性的指向・性自認に関する特命委員会としては、多くの方々のご協力をいただき、引き続き法案の成立に向けて努力を続けたいと考えています。引き続き、ご指導・ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。


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