人生100年時代における医療提供体制および医療保険制度の改革に向けた提言
私が委員長を務めている自民党政務調査会社会保障制度調査会の医療委員会において、提言をとりまとめましたので掲載します。
議論の様子は、下記の記事にて報道されていました。なおこの内容は、鴨下一郎調査会長、今枝宗一郎事務局長とともに、下村博文政調会長に申し入れを行いました。
・75歳以上の医療費2割負担 自民、強まる慎重論(産経新聞)
・窓口負担2割、対象絞り込みを 自民医療委(時事通信)
----
令和2年11月26日
人生100年時代における医療提供体制および医療保険制度の改革に向けた提言
自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会医療委員会
1.はじめに
・ 昨年12月17日、我が党の人生100年時代戦略本部は「人生100年時代戦略本部取りまとめ ~人生100年時代の全世代型社会保障改革の実現~」を取りまとめた。この提言においては、年金制度や雇用制度の改革と並び、医療・介護の提供体制改革や医療保険制度改革などが掲げられており、その方向性が示されているところである。本委員会は本年1月からこの具体化のための議論をスタートさせたが、直後に新型コロナウイルス感染症の拡大により中断を余儀なくされた。
・ 10月以降、体制を改めて議論を再開し、5回にわたり濃密な議論を行った。この内容について今般取りまとめ、以下の通り提言を行うこととした。本委員会の提言を十分踏まえ、政策の実現にあたられたい。
2.新型コロナウイルス感染症対応について
・ 本年1月以降のコロナ禍において、医療機関は常にその最前線として感染者の治療および我が国の感染拡大防止にあたられた。我が身も顧みぬ奮闘ぶりと達成された社会への貢献に、まず心から敬意と感謝を表する。
・ 一方で、新型コロナウイルス感染症が長期化し現場に疲労が蓄積する中、コロナウイルス感染症患者への対応を直接行うか後方で支援を行うかの別を問わず、受診控えや行政の事務の遅滞等の影響もあり、医療機関等への支援は今なお必ずしも十分には行き届いていない。診療科等によっては経営に困難をきたしており、場合によっては地域医療の破綻も懸念される状況である。まず足元の危機に対処しなければ、長期的視野に立った改革の検討がいかに高邁な理想に基づいていたとしても、すべて虚しいものとなるであろう。
・ まず政府には、二次補正予算の予備費や三次補正予算などあらゆる機会を探り、小児科や耳鼻咽喉科等減収割合が大きい診療科に対する追加的支援、および歯科医療機関を含む一般の医療機関や薬局等についても現下の感染急拡大状況を乗り越えるための追加的支援を、果断かつ迅速に実施するよう強く求める。これが叶わない中では、いかなる医療提供体制および医療保険制度改革の強行も、決して国民の理解を得ることはない。
3.医療提供体制の改革について
(1)新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた医療計画および地域医療構想
・ 都道府県の医療計画(5疾病・5事業)に新興感染症等への対応を位置づけ、あらかじめ地域の行政・医療関係者の間で必要な準備を行うことが望ましい。その際には、コロナ禍において都道府県等地方自治体が重要な役目を担った経験を踏まえ、都道府県知事会等地方団体との調整をより綿密に行いつつ検討すべきである。
・ 地域医療構想については、中長期の医療需要を踏まえて地域ごとに議論を行う枠組みそのものは堅持すべきであり、既に先行して協議が進んでいる地域の後押しを行うため、今年度創設した病床機能再編支援制度に消費税財源を充当するための措置を講じるなどの充実を図るべきである。
・ 一方で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下において各都道府県や各病院は病床確保や搬送調整に全力を尽くすべきタイミングである。またコロナ禍における各病院の活動実績も議論には十分に考慮されるべきである。コロナ禍が当面落ち着かない中、将来に向けた病院の再編成やダウンサイジング等の議論の結論を急がすことは避けるべきである。
(2)外来機能の明確化・連携等
・ 外来については、かねてよりかかりつけ医機能の強化および外来機能の明確化等が議論されてきた。紹介患者に対する外来により注力すべき外来を類型化し、都道府県に対して報告を求める制度を創設し、この結果をもとに地域において外来機能の明確化や連携に向けてデータに基づいて必要な協議を行う枠組みを整えることは、患者の医療機関選択をより容易かつより適切なものとするため、ひいては医療資源と医療アクセスのミスマッチを解消するための改革の第一歩として、まず実現すべきである。
・ あわせて、かかりつけ医のあり方に関する議論を行いつつ、かかりつけ医機能の強化に向けて、かかりつけ医機能を発揮する実践事例等の普及、養成・研修等の支援、国民への周知等に取り組む必要がある。
(3)オンライン診療
・ 現在コロナ禍においてオンライン診療は時限的に幅広に認められている。この経験を踏まえつつ、しかし恒久化を検討する際は単なるその延長ではなく、改めて安全性・信頼性をいかにして担保するか丁寧に議論を行うべきである。
・ その際、将来の地域医療におけるオンライン診療の姿も念頭に置きながら、特に、見落とし等のリスクの大きい初診からの対応は、いわゆるかかりつけ医による実施を原則とし、その普及・定着の促進も視野に入れつつ、必要な対面診療の確保等を含めその具体的なルールを検討するべきである。
・ なお、患者側・医師側共に本人や資格の確認にはPKI技術を用いた認証の実現を目指すべきである。またオンライン化に伴い懸念される肖像権等の保護や紛争防止に係る検討も必要である。薬剤の適切な使用が維持されるよう留意するべきである。
(4)医師の働き方改革・医師偏在対策
・ 医師の働き方改革および医師偏在対策については、現在当委員会のもとに設置された「医師の働き方及びタスクシェア・タスクシフトの在り方に関するプロジェクトチーム」で議論しているところである。
・ これらについては、地域医療構想や、大学医学部、臨床研修、専門研修の養成課程を通じた地域偏在・診療科偏在対策等とも一体として議論すべきテーマであり、プロジェクトチームでの取りまとめがあり次第、改めて当委員会においても引き続き議論を行う。
・ なおいずれも地域医療提供体制に重大な影響を与えかねないテーマであり、地方団体や当事者との間で綿密な意見交換を行うこと、改革のタイミングも含めてデータに基づいた丁寧かつ注意深い議論と足取りが必要であることは、論を待たない。
4.医療保険制度の改革について
・ 医療保険制度の改革においては、これまでに記した医療提供体制の改革に加え、歯科健診、歯科口腔保健の充実を含む予防・健康づくりの強化やポリファーマシーの是正、医療提供体制の改革による医療の機能分化・連携などによる医療費適正化の推進、国保の基盤強化、さらには、オンライン資格確認等システムやマイナンバー制度等、インフラを最大限活用するとともに、健診データ提供に係る仕組みの整備による医療のデジタル化やデータヘルスの推進、医薬品の研究開発促進やセルフメディケーションの推進等も含めた、総合的なパッケージとしての改革を進める必要がある。この提言においては、特に議論が集中した後期高齢者の窓口負担割合の在り方の見直しや定額負担の拡大、不妊治療の保険適用等について紙幅を割くが、他の改革も軽んずることなく着実に実行することで、若年層から高齢者まで幅広い国民の理解と共感を求めつつ制度の持続可能性を高める努力を、たゆまなく続けなければならない。
(1)後期高齢者の窓口負担割合の在り方の見直し
・ 平成20年度にスタートした後期高齢者医療制度は、75歳以上の方の医療費を、自己負担分以外を後期高齢者からの保険料(約1割)、公費と現役世代からの支援金で約9割(公費5割、支援金4割)で賄うことで、退職して所得が下がる一方医療費は高くなる傾向の強い高齢者に対する医療を、社会全体で支える重要な仕組みである。
・ 制度開始以降、後期高齢者人口の増加、現役世代の人口減少に伴い、現役世代の保険料による支援金の負担は年々重くなっており、健保組合の解散が相次ぐなどのしわ寄せも生じている。令和4年度から団塊世代が後期高齢者入りすることで、現役世代の負担がさらに大きく上昇することが予測される。そうしたことも踏まえ本提言冒頭に記した通り、我が党においては昨年末に人生100年時代戦略本部のとりまとめを行い、単に年齢でひとくくりにするのではなく「負担能力に応じた負担」を求める方向性を既に打ち出している。
・ 一方、年金収入が主と考えられる後期高齢者の多くが、年齢を重ねるごとに収入が減少する傾向にあるほか、医療の必要性も高く、長期・頻繁な受診も必要となる。こうした高齢者の疾病、生活状況等の実態を見極めなければならない。
・ 本委員会における議論では、今年に入り新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で、現役世代から高齢者まで、国民それぞれに痛みをこうむり不自由に耐えてきたことを踏まえ、その中で本件について結論を得るべきタイミングではないという意見が強く述べられた。また令和4年度初とされている施行時期についても、新型コロナウイルス感染症の状況等を勘案し、柔軟に設定すべきという意見もあった。
・ さらなる負担を高齢者世代と現役世代で分かち合う改革を断行することとしても、窓口負担を2割とする範囲は、高齢者が必要とする医療の特性を勘案した上で、抑制的であるべきであり、同じ高齢者を対象とする介護保険制度が自己負担割合2割とされるのが被保険者の上位20%としていることを参考とし、この範囲を上限と設定すべきとする意見が大勢を占めた。
・ なお後期高齢者の特性としてほぼ全員が外来受診をしており、2割負担を求める場合窓口負担が倍になる方も多い。そこで外来診療に対しては、長期・頻回の受診による急激な負担増を抑える措置も検討すべきである。
・ 現役世代の負担軽減はこの改革のみによるべきものではなく、健保組合の財政状況などを念頭に置きながら、医療保険制度の持続可能性の向上のため、公費による被用者保険支援の拡充についても検討を進めるべきである。
(2)定額負担の拡大
・ 大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るため、3.(2)で記した外来機能の報告制度を活用し、紹介患者への外来を基本とする医療機関として自ら報告した医療機関のうち一般病床数200床以上の病院を、紹介状なし受診時定額負担の徴収を求める対象に追加するべきである。
・ また、より機能分化の実効性が上がるよう、定額負担の増額をすべきである。その際敢えて紹介状なしで大病院の外来を受診する患者の初診、再診について保険給付を行う必要は高くないことから、一定額を報酬から控除することも考えられる。
・ なおその際、総合内科専門医など紹介状なしでも行けるアクセスを残すべき部分もあること、外来機能を明確化することによりかえって患者の過度な集中を招くことがないようにすべきこと、再診における定額負担の徴収率が低い現状を踏まえ、特定機能病院等からの逆紹介の円滑化等別の議論もあること等に留意が必要である。
(3)不妊治療の保険適用に向けた検討
・ 不妊治療(体外受精、顕微授精等)については、現在行われている実態調査を踏まえ、診療報酬改定による保険適用を目指して検討を進めるべきである。その際、現在自由診療の下で多様な治療が行われている実態を踏まえ、不妊治療に取り組む医療現場及び治療を受ける当事者の方々にとって現在よりも不都合を被ることがないよう、助成制度や保険外併用療養等の制度も組み合わせた実施も視野にいれつつ検討を行うべきである。
・ また「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供する」という成育基本法の理念に沿った、子育て支援全体の中における一施策であることを常に意識し他施策との連携を図りながら検討を進めるべきであり、かつそのように説明を行うべきである。
(4)その他
・ 傷病手当金の見直し、「現役並み所得」の見直し、薬剤自己負担の引上げ、任意継続被保険者制度の見直し、育児休業保険料免除の見直し、負担への金融資産等の保有状況の反映の在り方、医療費についての見える化等については、現在の政府の検討状況に関し特に異論はなかった。これらに関し、必要な改革については積極的に検討を重ね、推進されたい。
以上
| 固定リンク
「27.新型コロナウイルス感染症対策」カテゴリの記事
- 新型コロナウイルス感染症対策の今後の見通し(令和4年9月における私見)(2022.09.07)
- 「かかりつけ医」の議論をめぐる所感(2022.05.26)
- イタリア共和国の星勲章コメンダトーレ章の叙勲を受けました(2021.12.16)
- 書籍『新型コロナウイルス感染症と対峙したダイヤモンド・プリンセス号の四週間 -現場責任者による検疫対応の記録-』ご案内(2021.10.14)
- 人生100年時代における医療提供体制および医療保険制度の改革に向けた提言(2020.11.27)
コメント