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2020年8月

2020年8月22日 (土)

新型コロナウイルス感染症のワクチンについて

 7月以降、新型コロナウイルスの感染が全国各地で続いています。その中で、やはり新型コロナウイルスワクチンについての期待をあちこちで伺います。現時点で、内閣官房および厚生労働省による資料(令和2年8月21日、新型コロナウイルス感染症対策分科会(第6回)資料3)を基に、新型コロナウイルスワクチンに関する現状について、橋本の私見として整理して記します。ぜひご参考にしてください。なお分科会がまとめられた「新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方」もぜひあわせてご参照ください。

1.ワクチンの開発状況について

 現時点(2020年8月下旬)において、主なもので、国内で5つのグループ、海外で6つのグループで開発が進められています。種類も不活性ワクチン、組み換えタンパク・ペプチドワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチン、ウイルスベクターワクチン等があり、それぞれに開発のスピードや実績等に差があります。

 進捗については、最も早いアストラゼネカ社とオックスフォード大で開発中のウイルスベクターワクチンで、イギリスにて第2/3相試験が開始しており、今夏にアメリカにて3万人規模で第3相試験を開始予定とされています。また国内においても、アンジェス社と阪大、タカラバイオ社で開発中のDNAワクチンが、既に第1/2相試験を開始しています。いずれのグループも2020年中から2021年までには臨床試験を開始することを目指しています。また供給についても、海外のグループを中心に2021年から数億人~10億人規模で開始されることを目指しています。

2.ワクチンの有効性と安全性、接種の判断について

 新たに開発されるワクチンの効果に関しては、臨床試験(治験)等で評価を行います。したがってその結果が判明するまでは確たることは言えません。また臨床試験等で評価できるのは、発症者を減少される「発症予防」と、重症患者(死亡・入院などを含む)を減少させる「重症化予防」の二つの効果です。これらは治験において、接種者と非接種者の経過を比較することで、効果を測定することができます。一方、接触した人の感染を防ぐ「感染予防」の効果については、もともと実証しにくいところ、そもそも感染しても発症しない人が多いこのウイルスに関しては、効果があるともないとも判断が困難であり、実証はほぼ不可能と思われます。また、大勢に接種することで集団免疫をつくる効果(=摂取していない人まで波及する予防効果)も考えられますが、少なくとも大規模接種前に実証することはできません。

 ちなみにインフルエンザワクチンでは、一定の発症予防効果(研究により20~60%)や、重症化を予防する効果が示されていますが、集団免疫効果はこれまで実証されていません。

 現時点で、先行する4つのワクチンの論文では、まだ症例数が少ないため確定的なことは言えませんが、有効性については、一定の液性免疫(抗体)、細胞性免疫が誘導されていることは示されています。しかし誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間についてはまだ評価されていません。また安全性については、接種後の局所部位反応の出現頻度が高いこと、重篤でない全身性の有害事象(倦怠感、不快感、筋肉痛、頭痛等)が高頻度(数十%以上)で発現することが報告されています。なおいずれも小児・妊婦・高齢者のデータが少なく、不明な点が多いです。

 一般的に、ワクチンの接種後には副反応が生じることはあり、これをなくすことは困難です。副反応には、比較的軽度だが頻度が高い副反応や、重篤だが極めてまれな副反応など、さまざまなものが含まれます。したがって、ワクチンの接種により得られる利益(有効性)と副反応などのリスク(安全性)の比較衡量により、接種の是非を判断する必要があります。同じワクチンであっても、重症化や死亡リスクが高い人は、副反応リスクが多少あっても接種することが望ましいという判断が可能ですし、重症化や死亡リスクが極めて低ければ、接種しない方が望ましい場合もあります。したがって新型コロナウイルスワクチンの接種にあたっては、ワクチンの特性に加え、接種対象者の年齢や医学的背景などを踏まえた新型コロナウイルス感染によるリスクを勘案し、総合的に判断することが必要でしょう。

3.ワクチンの確保について

 現在厚生労働省をはじめ政府では、国内での新型コロナウイルスワクチン開発の基礎研究、薬事承認、生産、接種体制のすべての過程について迅速化の取り組みや支援を行いつつ、海外のワクチンの確保にも取り組み、できるだけ早くワクチンが多くの国民のみなさまに接種可能な状況をつくるよう、努めています。ただそうした努力をもってしても、大量のワクチンを供給するには生産開始後半年~1年程度かかり得ますし、順次の供給となります。

 海外のワクチン確保については、米国のファイザー社と、ワクチン開発に成功した場合、来年6月末までに6000万人分のワクチンの供給を受けることで、7月31日に基本合意しました。また、イギリスのアストラゼネカ社とは、ワクチン開発に成功した場合、来年初頭から1億2000万回分の供給を受けることで合意しました。またアメリカのノババックス社および武田薬品工業が提携して日本国内でワクチン生産を予定していることが公表されています。さらに国内開発のワクチンもありますので、日本の人口と比しても相当な量のワクチン確保が期待できる状況ではあります。もちろん、ワクチン開発そのものが不首尾に終わる可能性も、依然頭に置いておかなければなりません。

 また、新型インフルエンザ予防接種については、「新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法」を平成21年に成立させました。今回の新型コロナウイルスワクチンに関しても救済措置が検討される必要があるものと思われます。

4.ワクチンの接種について

 2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の際には、予算事業として接種が実施され、ワクチンの生産量に限りがある中で、①インフルエンザ患者の診療に直接従事する医療従事者・救急隊員、②妊婦・基礎疾患を有する者、③1歳~小学校3年生に相当する年齢の小児、④1歳未満の小児の保護者、優先接種対象者のうち、身体上の理由により予防接種が受けられない者の保護者など、が優先接種対象者とされ、さらに小学校高学年から高校生に相当する年齢の者および65歳以上の高齢者についても優先的に接種することとされました。

 今回の新型コロナウイルスワクチンについては、上記の新型インフルエンの際の経験を参考にしつつ、新型コロナウイルス感染症の特徴を踏まえて検討されることになります。

 例えば、


  • 発症前から感染性があり、発症から間もない時期の感染性が高い
  • 重症化率は、全体として季節性インフルエンザよりは高く、特に高齢者や基礎疾患を有する者で高い
  • 若年から中年世代の重症者や死亡者は、比較的少ない
  • 入院期間が季節性インフルエンザより長く、入院医療に与える負荷が大きい
といった特徴が考慮され、予防接種の枠組みや接種対象者や接種順位について検討されることになるものと思われます。

 現時点では医療従事者や有症者に直接対応する救急隊員・保健師、高齢者・基礎疾患を有する者、妊婦、高齢者および基礎疾患を有する者が集団で居住する施設で従事する者等が検討の俎上にありますが、引き続き新型コロナウイルス感染症対策分科会などでご議論をいただき、また国民のみなさまからも丁寧にご意見を伺い、さらに検討を重ねます。

5.おわりに

 現時点では、新型コロナウイルスワクチンに関して記せることは以上のようなところです。多くの皆さまの期待は高いですし、私も期待はしていますが、一方でまだ開発中でありどこまでの効果が期待できるのか、副反応はどの程度なのか、またどのような時期にどのくらいの量が供給され得るのか、未確定の部分は多いです。こうした中で、政府としても、引き続きさまざまな情報収集を続けつつ、数量確保や接種体制整備の努力を行わなければなりません。さまざまな方々のご意見を伺いながら、全力を尽くします。

 一方で、今すぐできるわけでなく、接種開始はおそらく来年になってしまうものと思われます。新型コロナウイルス感染症は、年齢によって重症化しやすさなどが異なるとはいえ、高齢者でなくても重篤になる例もありますし、後遺症の可能性についても考慮すると、引き続き感染者は一人でも少ない方が望ましいです。

 どうぞ、こまめに石鹸による手洗いを行い、密閉場所・密集空間・密接発声を避け、換気の良いところでお過ごしください。接触確認アプリCOCOAのインストールもお願いします。また、医療機関など現場に従事される方々のご労苦にもぜひ思いを致し、また感染された方やクラスターが発生した施設等には温かい治療や支援が受けられるようご配慮いただけますよう、心からお願い申し上げます。

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