厚生労働省における新型コロナウイルス感染症対策に関するICTの活用
はじめに
政府において新型コロナウイルス感染症の対策を行うためには、全国の感染の状況や医療提供体制や検査体制等の状況をできるだけリアルタイムに近い形で把握し、適切な対策につなげる必要があります。とくに、3月中下旬にはニューヨークやイタリアにおいて急速な爆発的感染拡大(オーバーシュート)が発生していることなどを踏まえ、その端緒をできるだけ早期に掴むことの重要性が特に明らかになりました。また、感染拡大への備えとして、新型コロナウイルス感染症の患者や無症状病原体保有者などが入院・療養する病床数、人工呼吸器やECMO等の準備状況や稼働状況、医療機関におけるPPEの保有状況の把握も必要とされました。また先日抗原検査が実用化されるまではPCR検査でしか感染を確定できなかったため、PCR検査の検体処理能力や日々の処理数も把握が求められる状況が発生しました。実際に発熱が継続したり、だるさや息苦しさを感じたりした方を適切に医療に結び付けられるよう、かつ有症状者が医療機関に殺到してそこで感染拡大してしまうことを防ぐために、帰国者・接触者相談センターに連絡した上でその指示により帰国者・接触者外来を受診しPCR検査の検体採取を行うという流れが整備されましたが、その整備状況や日々の相談件数や受診件数なども、当然、確認が求められます。
こうした情報について、疑似症を含む新型コロナウイルス感染者の報告については感染症法に規定がありますが、その他についてはおおむね厚生労働省から事務連絡により各自治体に依頼して回答をいただく形で収集をすることとなります。しかし3月下旬から4月以降にかけて感染拡大が続き、多い場所では毎日何十人にも上る陽性判明者の医療機関への搬送や積極的疫学調査などの業務が各保健所や自治体に積み重なる中で、厚生労働省への連絡が滞ったり、あとで数字が訂正されたりするケースが見られるようになりました。確認のために電話を差し上げても切られてしまう場合もあったようです。厚生労働省としても、各自治体に対して保健所の体制強化を依頼していましたが(事務連絡「保健所の業務継続のための体制整備について」(令和2年3月13日)など)、追いつきません。感染者の報告については、医師からFAXなどで送られた発生届を保健所が感染症サーベイランスシステム(NESID)というデータベースに入力する仕組みになっていましたが、その入力も滞ったり、自治体が見栄えのよいWebサイトで公表する内容とNESIDで入力されている内容が異なっていたりして、実際どうなっているのか判断に苦慮する状況もありました。一方で、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部も、サーベイランス班や医療体制班、検査班などの縦割りが生じ、めいめいに報告依頼を行う結果、自治体の手間を不要に増やしてしまうような面もありました。また、都道府県と保健所設置市区の間での壁も根強く見られました。
個人的には、1月下旬から2月頭にかけて(湖北省武漢市の状況が世界に知れわたりWHOがPHEICを出すかどうか、政令で指定感染症に指定するかどうかの頃)も、厚生労働省内での議論において、さまざまな数字の把握に難渋している気配は感じていました。2月上旬以降のダイヤモンド・プリンセス号での勤務、3月1日からは健康観察期間としてのテレワークを経て3月15日に厚生労働省勤務に復帰した際、その景色にほぼ変化がなかったことに、同行していた自見はなこ大臣政務官ともども驚いたことを覚えています。その時点で既にニューヨークやイタリアのオーバーシュートは発生しはじめており、またダイヤモンド・プリンセス号内の業務において3,711人の乗員乗客の名簿管理などの事務作業に苦労した経験からも、いずれ支障をきたすことは自明でした。そこで日本でも4月には大きく感染が拡大するものと想定し、以後、関係各方面にお願いしつつ、以下に記すひとつひとつのシステム等の整備を図ることとしました。
新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)
個々の医療機関の状況に関して厚生労働省が照会をかける場合、既存のルートであれば都道府県および保健所設置自治体に依頼し、保健所が医療機関に照会し、都道府県を通じて国に報告するということとなるため、各自治体に相当な手間が発生します。医療提供体制が課題となる中、この手間は早急に解消する必要がありました。また、有事において医療機関の情報を把握するシステムとしては、広域災害救急医療情報システム(EMIS)がありますが、このシステムは災害時用のシステムであり、新型コロナウイルス感染症の拡大を想定して改修することも検討しましたが、時間を要することがネックとなり断念しました。
一方神奈川県では、新型コロナウイルス感染症の発生と拡大を受け、早期から県内医療機関の外来受付状況や病床稼働状況を調査し、Webでの公表や陽性者の搬送調整等に生かすシステムを構築していました。厚生労働省復帰直後に、自見はなこ大臣政務官の紹介でこのシステムを構築された神奈川県新型コロナウイルス感染症対策本部医療危機対策統括官の畑中洋亮さんのお話を伺い、神奈川県だけではなく全国を範囲とすべきと考えました。幸いにも畑中さんや黒岩祐治知事に神奈川県のシステムをプロトタイプとすることにご快諾をいただき、また宮下一郎・平将明両内閣府副大臣のご理解により開発に内閣官房IT総合戦略室の力を仰ぎ、日本医師会をはじめ関係する組織団体にもご理解をいただき、迅速にシステム開発を行いました。これが新型コロナウイルス感染症医療機関等情報システム(G-MIS)です。3月24日の医療関係団体との協議会、25日の全国知事会との意見交換会でご意見を頂いた上で、3月27日から都道府県ごとに順次運用が開始されました(事務連絡「新型コロナウイルス感染症対策に係る病院の医療提供状況等の状況把握について (協力依頼)」(令和2年3月26日))。
G-MISは、病院の稼働状況、スタッフの状況、医療機器や医療資材の確保状況を、日次および週次で個々の医療機関に入力していただきます。そのうち外来の状況などについては、オープンデータおよび地図に表示する形で政府CIOポータルにおいて公開されています。病床の状況や人工呼吸器、人材充足の状況について、厚生労働省のみならず都道府県においても確認でき、搬送調整等にも生かすことができます。また稼働以降も都度機能が追加されており、マスク等が不足している医療機関には国から直接マスクを配送することとしたり(事務連絡「新型コロナウイルス感染症対策に係る病院の医療提供状況等の把握等について調査項目 一部変更のお知らせ(その2)」(令和2年4月24日))、5月に新型コロナウイルス感染症の治療薬として緊急承認された医薬品レムデシビルに関し、投与したい患者数をこのシステムで入力していただき配送につなげたりする(事務連絡「新型コロナ感染症対策に係る病院の医療提供状況等の把握等について 調査項目一部変更のお知らせ(その3)」(令和2年5月7日))などの機能が追加されました。
5月15日現在で、登録医療機関は6,836病院、うち日次の報告をいただいている医療機関は4,234病院です(日本には約8,000の病院があります)。神奈川県の取り組みを見習い、内閣官房でコールセンターも設けており、入力の依頼や問い合わせへの対応なども行っています。「入力に手間がかかる」等のご意見も頂戴していますが、一方でタイムリーにさまざまな情報の把握が、中途に自治体等の手間をおかけすることなくできていることは、誠にありがたいことです。
今後については、調査対象の拡大、医療機関等からの人材募集と求職者のマッチングを行う取り組みの一翼を担う項目追加、支援人員の増強などを行うことを検討しています。ただ、あまり入力項目が増えると現場の負担がさらに増えるため、バランスを考えることも必要と考えています。
新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定
新型コロナウイルス感染症対策においては、国民の皆さまの行動をどのように変容していただくか、また実際にどの程度変容があったのかが問われることとなりました。しかし、そのような調査をリアルタイムで迅速に行うのは、政府といえども容易なことではありません。一方でいくつかの企業から、さまざまな情報提供のお申し出をいただきましたが、個人情報保護や公正性、透明性の担保の観点から、きちんとした枠組みを設ける必要がありました。そのため、厚生労働省からクラスター対策に資する情報提供を呼びかけ、それに応えた企業の方々と協定を結び公表することで、そうした課題をクリアした上でデータ提供をいただくこととしました。
3月27日にプレスリリース「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定締結の呼びかけについて」を発出して呼びかけを行ったところ、LINE株式会社、ヤフー株式会社、株式会社Agoopの三社にご協力をいただくこととなり、それぞれ協定を締結しました。ご協力いただいたそれぞれの企業に、深く感謝を申し上げます。
- ニュースリリース「厚生労働省とLINEは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました」(令和2年3月30日)
- ニュースリリース「厚生労働省とヤフーは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました」(令和2年4月13日)
- ニュースリリース「厚生労働省とAgoopは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供等に関する協定」を締結しました」(令和2年4月30日)
これら3社からご提供いただいたデータについては、クラスター班の専門家による解析に用いられています。またLINE株式会社が4回にわたり実施した「新型コロナ対策のための全国調査」の結果は、厚生労働省からのニュースリリースとして公表されています。この調査は回答数が2,000万人規模となる、ネット調査としても空前のものでした。
- ニュースリリース「新型コロナウイルス感染症対策の調査に関連してLINE株式会社が健康状況等を尋ねる全国調査(第2回)を実施します ~多くの方が手洗いやうがい等の予防行動をしている一方で、三密は十分ではなく、テレワークも進んでいない~」(令和2年4月4日)
- ニュースリリース「第1回「新型コロナ対策のための全国調査」の結果及び第3回「新型コロナ対策のための全国調査」の実施のお知らせ」(令和2年4月10日)
- ニュースリリース「第1-3回「新型コロナ対策のための全国調査」からわかったことをお知らせします。 第4回「新型コロナ対策のための全国調査」の実施のお知らせ」(令和2年4月30日)
- ニュースリリース「第1-4回「新型コロナ対策のための全国調査」からわかったことをお知らせします」(令和2年5月11日)
厚生労働省の取り組みに続く形で、内閣官房IT総合戦略室・内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室・総務省・厚生労働省・経済産業省の連名で同様の趣旨の要請文が出されています。この成果の一部が、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策Webサイトの統計情報として日々表示されています。
- お知らせ「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に資する 統計データ等の提供の要請について」(令和2年3月31日)
なおLINE株式会社には、2月初旬から新型コロナウイルス感染症に関する問い合わせに対応できる厚生労働省公式アカウントを開設していただき、厚生労働省からの情報提供に迅速にご協力をいただきました。このアカウントの登録者数は140万人と、厚生労働省の取り組みとしては破格の多さです。またこちら(ブログ「ダイヤモンド・プリンセス号現地活動の概要」)に記したように、ダイヤモンド・プリンセス号内の乗客・乗員に対し、ソフトバンク株式会社と共に2,000台のiPhoneの提供および情報提供等にご協力いただきました。
帰国者健康フォローアップのLINE活用
保健所の負荷のひとつに、海外からの帰国者のうち自宅で健康観察期間を過ごす方に関し、住所地の保健所が日々の体温確認などのフォローアップを行う業務がありました。とくに、3月下旬以降、多くの国々が入国管理法に基づく入国制限対象地域等に指定されることとなり、健康フォローアップを要する対象者の数が増えるにつれて相当な負担を保健所にかけることとなりました。
そこで、健康フォローアップを自動化することで保健所の負担を軽減するために、厚生労働省からLINE株式会社に委託して、帰国者への健康フォローアップをLINEアプリおよび自動音声電話で行う仕組みを導入することとしました(ニュースリリース「帰国者への健康フォローアップにLINEアプリ等を活用します ~希望される方は、LINEアプリ等で健康状態の報告ができるようになります~」(令和2年4月13日))。
帰国者が集中したため各検疫所自身も業務に忙殺されてしまい導入にいささか難渋しましたが、成田空港、羽田空港、関西国際空港等の帰国者を対象に4月14日から順次使用が開始されています。4月10日~5月19日の集計では、フォローアップ対象全体が20,415人のところ、およそ57.7%にあたる11,784人のご同意をいただいてLINEを利用したシステムが使われています。なおこのシステムは厚生労働省内ではQuaLINE(クアライン)という愛称で呼ばれています。
将来的には、後述する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)と機能面で重複する点もあるので、こちらと一元化することも検討します。
新型コロナウイルス感染症等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)
これまで記した通り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を直接に受け止めることとなったのは医療機関と保健所でした。しかし医療機関では感染症法に基づく発生届を手書きとFAXで保健所に届け出ていたため、医療機関も保健所もともに入力等の負担が生じ、集計や報告のミスも生じてしまいました。ダイヤモンド・プリンセス号乗船中にも、横浜検疫所の医師が毎日発生届を書くのに忙殺されている由耳にしており、課題意識はその頃から持っていました。また、感染者の報告を受けた保健所は、その方に連絡して症状や行動歴の把握を行い、濃厚接触者の方も含めて毎日電話で健康観察を行いますが、多い時にはこの業務が毎日数十人分ずつ増えていくこととなり、繁忙を極める状況もありました。結果として、厚生労働省対策本部のサーベイランス班も難渋することとなり、発表する統計に訂正等が発生することとなりました。
そこで、発生届の入力から健康観察のフォローアップまでをクラウドベースで一貫して管理できるシステムを厚生労働省で開発することとしました。これが新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)です。医療機関、保健所、都道府県等、また健康観察においては療養場所(ホテル等)の医師看護師や自宅の場合はご本人がスマホ等で日々の状況を入力することができます。また都道府県や国においても、このクラウドから統計的なデータをリアルタイムに近い形で手間をかけずに得ることが可能となります。4月から設計・開発を開始し、開発事業者の選定を経て4月30日には事務連絡を発出して本システムの案内と先行利用保健所の募集を行いました(事務連絡「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)の導入について (システム概要、準備の御案内及び先行利用保健所の募集)」(令和2年4月30日))。
5月中旬には数自治体で試行利用を開始しています。ここでいただいたご意見などを踏まえてブラッシュアップを行い、5月中の全国での利用を目指します。また各保健所にある既存のデータをこのシステムに移行させる支援や、既に別システムを利用している場合の対応などもきめ細やかに行います。
雇用調整助成金オンライン申請システム
緊急事態宣言等の発出等により、新型コロナウイルス感染症拡大の影響は単に公衆衛生の問題ではなく、経済や雇用に大きなインパクトを与えることが明らかになりました。雇用の安定および維持、あるいは生活に困窮された方の支援も厚生労働省の責務の一つであり、小学校休業等対応助成金・支援金の創設、雇用調整助成金や緊急小口資金貸付等の制度の拡充が図られました。同時に、多くの方々が窓口に来られそこで感染が拡大することも防がなければなりません。そこでまず、雇用調整助成金についてオンラインでの申請システムを整備することとなりました。
5月20日に運用開始となりましたが、不具合が報告され直ちに機能を停止しています(5月22日現在)。ご迷惑をおかけした皆さまに、深くお詫び申し上げます。まずは原因の調査と影響を受けた皆さまの把握と対応を急ぎます。なお、都道府県労働局やハローワーク窓口での申請受付や、その後の確認や支給決定に至る事務には影響ありません。必要な対応を行い、すみやかに再開できるよう努力いたします。
なお、他の助成金等の申請にあたっても同様にオンライン申請を可能とするように検討しておりますが、今回の状況を踏まえつつ、できるだけすみやかに実現を目指します。また、雇調金等の申請受付だけではなく、書類の確認から支給決定にいたる事務プロセスについてもICTを導入して合理化・省力化できないかとも考え、事務処理現場の見学にも行き、企業とも相談しました。ただ、実際には書類を提出した企業ごとにバラバラな様式でまちまちな手書き書類が添付されており、この認識と照合にはディープラーニングでも使わないと問題解決は困難ではないかと思われ、結局残念ながら人海戦術での対応のままとなっています。事態の進展にあわせて柔軟に政策や制度を創設・変更することは必要なことなのですが、それをどうやって実現するかまで踏み込んで検討することも、忘れてはなりません。往々にしてこの点がおろそかな議論は少なくないようにも思われるので、自戒のため記しておきます。
接触確認アプリケーション
新型コロナウイルス感染症の拡大対策として、シンガポールにおいて、スマホ間のBluetooth通信を利用した接触確認アプリケーションが利用されていることが話題となりました。日本においても、西村康捻担当大臣がチーム長を務める内閣官房新型コロナウイルス感染症対策テックチームの4月6日のキックオフ会合の資料において、「シンガポールのTrace Togetherアプリケーション日本版の実装検討」とされています。当初はCODE for Japanや株式会社楽天がアプリを実装し、それを内閣官房に設置された専門家による会議体が承認する形が検討されていました。
しかし4月10日、Apple社とGoogle社が両社のOSに共通する規格をリリースする旨発表しました。それを受けてテックチーム参加各省で検討した結果、OSレベルで接触確認ができるため利便性が高い(シンガポールのアプリは、そのアプリを起動しっぱなしにしておく必要がありました)ため、この両社が提供する枠組みを利用することとなりました。一方、この両社の枠組みは公衆衛生当局のみが利用できるであろうこととされている(FAQには “Access to the technology will be granted only to public health authorities.”と記されています)ことから、各社の取り組みを参考にしつつ、また内閣官房に設置された接触確認アプリに関する有識者検討会合にご確認をいただきながら、厚生労働省においてアプリケーションを開発することとなりました。
アプリケーションの仕様については現在テックチームのもとで作成中ですが、基本的な考え方としては下記のようなものとされています( 資料1-1:接触確認アプリの導入に向けた取組について(案) )。
- BluetoothをOS上でコントロールすることで、他のアプリ利用中でもバックグラウンドで利用可能となることから、AppleとGoogleから提供されるAPIを利用して構築する。
- アプリ間で交換される識別子は周期的に変更されるものであり、個人や端末を特定できない。
- 接触の記録は全て端末で管理され、感染者の照合も各自の端末内で行う。
- 濃厚接触を検知するための端末間の通信や、個人に紐づかない識別子の管理は、Appleと Googleが提供する機能により実現する。
- 通知サーバーでは、陽性者のアプリの識別子のみ管理され、個人の特定はできない。
現在もApple社・Google社に問い合わせを行いながら仕様を詰めているところであり、整い次第公表するとともに、早急に開発に取り組みます。
緊急医療人材等確保促進プラン
新型コロナウイルス感染症の感染者の発生に対応して、都道府県が宿泊施設を準備することとなりました。また臨時の医療機関を設置することも可能です。ただ、そこで働く医療従事者等はリクルーティングしてこなければなりません。そうした状況を見越して、厚生労働省では緊急医療人材等確保促進プランを現在企画しています。
これは、G-MISを利用して医療機関等から人材募集情報を募り、これをハローワークやナースセンター、また民間職業紹介事業者にもCSRとしてご協力いただいて求職者にご案内し、希望する方にはWebサイト上でマッチングを行う取り組みです。既存のシステムを改修して利用することで開発期間やコストを抑制することとしています。近々にアナウンスを行い、6月上旬には運用開始する見通しです。
学校欠席者情報収集システム
2013年より公益財団法人日本学校保健会が学校欠席者情報収集システムを運営しています。これは、学校における感染症の集団発生を早期に探知し早期に対応するためのリアルタイムサーベイランスシステムです。学校(保育園も含む)の養護教諭などがその日の生徒や職員の欠席情報や症名を入力することで、保健所や教育委員会に共有され早期の対応を可能とするものです。もともと、発熱、頭痛、急性呼吸器症状、下痢・腹痛といった症状や、インフルエンザ、水痘、流行性耳下腺炎等の疾患が入力できるようになっています。
今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延を踏まえ、また緊急事態宣言の解除等により学校の再開が見通される中、子どもたちが安心して通学できるように、学校でも情報を収集し共有することは大事だと考えます。そのため日本学校保健会、国立感染症研究所と相談の上、また文部科学省のご協力もいただき、新型コロナウイルス感染症への対応(川崎病を含む)を行うよう検討しています。
おわりに
ダイヤモンド・プリンセス号における厚生労働省の活動は、医学的にはもちろん新型コロナウイルスとの戦いでもありましたが、一方で事務的には3,711人の名簿との格闘でもありました。毎日PCR検査の結果により陽性者を救急搬送します。また同室者は濃厚接触者として扱われ14日間の健康観察期間をリスタートさせます。一方、日々発熱やその他の症状が発症する方が続出するため医療チームがその対応を行い、場合によってはこちらも救急搬送となります。健康チェックを行えばその結果は記録しなければなりません。他国のチャーター便が飛ぶことになれば、国籍やご住所、またそれぞれの国の条件(PCR検査が陰性かつ濃厚接触者ではない方に限る国・地域もあれば、その時点でPCR検査が陰性であればよい国もありました)により対象者を抽出する作業が発生します。14日間の健康観察期間を経過し検疫を終了して上陸を許可する方も、いくつかの条件により対象を抽出する作業により決定されます。さらに、それぞれの乗客のご都合によりお部屋を移動している方や、救急搬送されるご家族に同行して下船される方など、さまざまな例外的な処理にも対応しました。そうした作業は、本省の支援もありましたが、船内事務チーム、さらに私および自見はなこ大臣政務官の占部・横田両秘書官まで投入して、夜を徹して行う日もありました。
また、毎日朝晩ジェナロ・アルマ船長とミーティングを行っていましたが、毎日「何人PCR検査の検体を採取したか」「何人結果判明したか」「何人搬送したか」等の報告を求められました。乗員乗客の情報を把握するために当然必要なことでしたが、当初は名簿整理ができていなかったためすぐ応えることができず、いささか難渋しました(そのうち名簿の一元化が図られ改善しました)。
そうした経験があったために、厚生労働省に復帰したのち、日本全体の新型コロナウイルス感染症の対応にあたる際にも同様の事態が生ずることは容易に想像ができました。そして実際に加藤勝信厚生労働大臣からの報告の求めに必ずしもタイムリーに回答できない事務方の姿を目撃することとなったため、自見はなこ大臣政務官ともども厚生労働省内を歩き回り、内閣官房IT室等も巻き込みこうした活動に取り組みました。
正直な印象を記せば、過去の統計関係の問題等も含め、厚生労働省は数字扱いが必ずしも上手だとは思いません。これまでに情報を集めるインフラに対する投資が十分だったかというと、やはり疑問が残ります。また厚生労働省においてシステム開発のマネジメントがしっかりできる人材は、私の見る限りかなり限定的にしかおらず育成が必要です。さらに、これは感染症法上の課題ですが、地方分権が進み保健所設置自治体の事務となっている保健所事務が多く、都道府県レベルなど広域での情報共有等について法律上明確には規定されていません。そして個々の保健所も、今回の対応においては突然業務量が爆発的に増加し、現場を優先するため報告連絡等にマンパワーが割けなかったことも、今後は教訓として考えなければならないでしょう。
日々の感染確認数等の数字について、オープンデータとして公表するよう内部的な調整にチャレンジしましたが、これまで記してきたような経緯が積み重なっていたため未だに実現できておらず、本当に残念なことだと思っています。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策のWebページは、さまざまな情報があまりにも満載になっており整理が必要です(現在、リニューアルに向けた作業に着手しています)。また本来は、新型コロナウイルス感染症拡大の3月~5月の第二波(国立感染症研究所のレポートによると、第一波は2月ごろの武漢からの帰国者等によるものですが、これは拡大せずに抑え込むことができました)に間に合うように全てできていればよかったのですが、そうなっていないことにも忸怩たる思いはあります。しかし、今後さらに第三波が来ることを想定した備えとして、引き続き準備を整えようとしているところです。
ここまで取り組んできた中で、省内外の多数の皆さまに多大なお力添えをいただいたことに心から感謝を申し上げます。「遅い」「今更」「また厚労省が…」「真面目にやっているのか」といったさまざまなご批判があることは承知しておりは甘んじて承りますが、厚生労働省の職員も、それぞれに寝食を忘れて懸命に業務にあたっています。引き続き、タイムリーな政策決定に資する迅速で手間のかからない情報収集や、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止のための行動変容や、各種助成金等のより手軽な申請・受給が実現できるよう、全力を尽くします。