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2020年2月16日 (日)

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」について(その2)

 前回のブログでクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号について記しました。その後2月10日に、加藤勝信厚生労働大臣より横浜に駐在して本件の現地責任者を務めるよう、自見はな子厚生労働大臣政務官とともに命じられました。その後は、打ち合わせのために一度本省に戻った以外は、大黒ふ頭にいます。百聞は一見に如かずといいますが、やはり公表資料や報道だけではわからない状況が多々ありました。改めて現時点(2月16日夕方)の状況を整理します。数字等は公表資料に基づき記しますが、コメントなどはあくまでも私見を記すものであり、政府ないし厚生労働省の見解ではありません。また新たな事態の発生により、変化し得るものです。ご留意ください。

【検査結果などについて】

 ダイヤモンド・プリンセス号は、乗客2,666名および乗員1,045名、合計3,711名が乗船して2月3日に横浜港に到着、臨船検疫を続けています。発熱や呼吸器症状のある方や高齢者からPCR検査を行っています。16日0時現在で、のべ1,219名のPCR検査結果が判明しており、陽性が355名、陰性が864名です。潜伏期間があるため、いつ感染したかはわかりませんが、これは相当に高い感染率と言わざるを得ません。陽性が判明した方は医療機関に搬送し入院していただいています。なおこの結果は乗員・乗客ともに含みます。また入院した方の中には、重症の方もおられます。

 ひとつの課題は乗員の方々です。アルコール消毒薬を配布し、専門家の方に手指消毒の仕方を指導していただき、マスクや手袋着用をしていただいています。当然、発熱したりPCR検査陽性が判明した場合は、休業したり入院したりしていますが、そのためにサービスに支障が出はじめています。代替可能な業務については、自衛隊にご協力をいただいています。

 また、乗客にはご高齢の方が多いため、もともとの持病(基礎疾患)や、部屋での生活による影響があり、新型コロナウイルスによる感染症ではない症状で救急搬送になる方も日々発生しています。調査によると、乗客の最年長の方は90歳代で、70歳代の方が約1,000人、60歳代の方が約900人を数えており、とても高齢化した町ひとつを預かっている状況に近いです。

 ただ幸いなことに、新規の発熱患者の数は日々減少してきており、各種防疫対策が着実に効果をあげているかもしれません。

【検疫の終了について】

 さて、2月5日から検疫による14日間の健康管理機関が開始しており、2月19日朝にこの期間が終了することとなります。昨15日夕方に加藤厚労相が基本方針を発表しましたので、具体的に検疫の終了までのプロセスについてお報せできるようになりました。

 現在、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の皆さまに、順次PCR検査の検体採取を行っています。おそらく今日明日中には乗客全員の採取が終了するものと見積もっています。この結果が陽性の方や陽性の方の同室者を除く方については、健康確認を行い問題のない方について、更なるPCR検査は行わずに、順次下船していただきます。今の計画では、条件が整った方は19日から下船が開始でき、21日まで順次下船いただけるものと予定しています(PCR検査の検体採取および結果判明までそれぞれに時間と人手を要すること等から、どうしても順次の下船となってしまいます)。この方針については、さきほど(16日夕方)、船内放送で私から日本語で、ジェナロ・アルマ船長から英語で、アナウンスいたしました。

 陽性だった方は、結果判明次第順次医療機関に搬送となります。また、本人が陰性であっても同室の方が陽性であった場合は、感染防止対策がとられた時点から14日間の健康観察期間が始まることになります。この方々は引き続き船内で過ごすのか、別の施設に移っていただくのかは、現在検討中です。なお、報道では相変わらず「新たに70人の感染が確認」といった報道となっています。上記の通り検疫終了に向けて全員のPCR検査を行っているため、その結果が日々更新されていくのでそのような報道となるのは理解しますが、個人的には、現在のPCR検査は、もちろん陽性の方について必要な対応は行いつつ、陰性の方を確認することに意味があると思っています。

 また乗員の方々の多くは、乗客へのサーブや船の運航に従事しており、個室管理をしているとは言い難い状況があります。個室に移り業務を控えていただいてから健康観察期間が開始されることとなりますが、そのためには大多数の乗客が下船する必要があるものと考えます。また、乗員の方々の健康観察期間中の食事提供等については、船会社と政府で協議と検討を行う必要があります。

【直面している課題】

 乗員乗客あわせて3,700名の方々が乗船する客船における新発見のウイルス感染症の発生とその検疫という事態は、対処するにはさまざまな困難に直面することになります。たとえば、規模の大きさ、客船特有年齢構成、乗客乗員の存在、指揮命令系統、そして新発見ウイルスであるための情報量の少なさ、感染力の高さ、検疫特有の不自由さといったことが課題です。

 特に規模感は想像を絶しています。これが一桁小さければ(それでも大きな存在ですが)、乗客・乗員全員を、チャーター便の帰国者のように宿泊施設に移してしまうことも可能です。また、もっと迅速にPCR検査の検体採取を行うことも可能だったでしょう。しかし3,700人が一気に今すぐ宿泊可能な政府施設は陸上にはありませんし、かき集めてもその規模にはなりません。正直に言えば、協力を渋る省庁もあるようなことも耳にしたような気も…。国ですらそうなのですから、民間施設の借り上げも、協力を得るのはさらに困難でしょう(その中でご協力いただいた千葉県のホテルには、心から感謝申し上げます)。移動の交通手段の確保も、感染防護も考えねばならず、なかなか難渋します。PCR検査の検体採取も、そのためにチームを多数組んで取り組んでいただいていますが、朝から晩までフル稼働で約500検体/日の採取にとどまっており、それだけで単純に考えて一週間かかります。

 同時に、ご高齢の方が多く、その中で基礎疾患をお持ちの方も少なくありません。すでにクルーズ旅行を楽しんでいただいたあと、さらに二週間の船内滞在となっていますので、体力的には相当お辛いものと思います。実際に救急搬送も相次いでいます。健康確認などにさまざまな医療チームが活動していますが、とても手が足りているとは言えません。地元の人しかわからない例示ですが、倉敷中央病院は1,400床であれだけの規模の施設やスタッフを抱えているのです。高度医療を担う病院と比較するのは不適切だとも思いますが。また検疫で個室管理中なので、すべて往診せざるを得ず、医療アクセスの条件も良くありません。しかしいずれにしても、乗客の皆さまには、検疫のためとはいえ不自由をおかけしているわけです。ご協力に感謝を申し上げるとともに、私たちとしても引き続きできるだけストレスを軽減し、健康を保ち、仮に病変があれば早急に対応できるように努めます。

 その上で、必要な防護を行っているとはいえ(船内における防護の仕方は厚生労働省webサイトに掲載されています)、感染のリスクとは常に隣り合わせです。一般の災害と異なり、目に見えないことは厄介です。しかしその中で、多くの支援活動が勇気をもって行われていただいていることは本当に感謝の一語しかありません。DMAT(災害派遣医療チーム)、JMAT(日本医師会災害医療チーム)、AMAT(全日本病院医療支援班)、DPAT(災害精神医療チーム)、環境感染学会DICT(災害感染制御チーム)、日本赤十字社、自衛隊などが毎日稼働しています。国土交通省や神奈川県、横浜市の方々もお力をいただいています。もちろん厚生労働省および横浜検疫所も活動しています。

 困難に直面する中にも関わらず、ジェナロ・アルマ船長をはじめダイヤモンド・プリンセス号の乗員の方々が、責任感と乗客へのホスピタリティを維持し続けていることは、本当に頭が下がる思いです。できるだけ早く、乗員の方々の検疫が行える状況を作ることが、次の私たちのミッションだと思っています。今回は新型コロナウイルスによる感染症の発生という不幸な状況で私もこの船に関わることになりましたが、もし将来クルーズ旅行に出る機会があれば、この船長とクルーの皆さんと、この美しい船で楽しめるといいなと個人的には思っています。貯金が必要ですが。

 引き続き、国内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を食い止めつつ、船内の乗員・乗客の方々が安心して下船していただけられるよう、自見大臣政務官および現地厚生労働省スタッフとともに、全力を尽くします。

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03.医療・介護」カテゴリの記事

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