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2019年9月 1日 (日)

日中次世代交流委員会第七次訪中団レポート

【はじめに】
 8月18日(日)から22日(水)までの日程で、日中次世代交流委員会第7次訪中団の一員として中国(北京、福州、厦門)を訪問しました。概要をここに記します。
 日中次世代交流委員会とは、公明党の遠山清彦衆議院議員を会長とする超党派中堅・若手議員による議員連盟です。日中関係を最も重要な二国間関係と位置づけ、結成以来、関係の良し悪しに関係なく毎年欠かさず訪問すること、また訪中の際には必ず北京以外の地方都市も訪問することを旨としており、この委員会としては7回目の訪中団となっています。僕自身はこの委員会のメンバーとしては3回目の訪中団参加となるものでした。
 今回の訪中団の参加メンバーは、以下の通りです。

団長:遠山清彦 衆議院議員
副団長:小熊慎司 衆議院議員・橋本岳 衆議院議員
事務局長:濱地雅一 衆議院議員
事務局次長:伊藤俊輔 衆議院議員
メンバー:井野俊郎 衆議院議員、國場幸之助 衆議院議員、田嶋要 衆議院議員、小西洋之 参議院議員、竹谷とし子 参議院議員、伊藤孝江 参議院議員

 米中の貿易戦争が厳しく、また日韓関係も不安定な状況というタイミングですが、日中関係は昨年の安倍総理訪中、今年6月の大阪G20への習近平総書記の来日、そして来春に再び国賓として習近平総書記が日本を訪問することが原則的に合意されているという流れがあり、日本と中国の二国間関係はきわめて良好な状況です。ただし、米中貿易戦争も日本経済への影を落としつつあり、また中国国内では香港の問題を抱えているところ、この二点が主に議論のテーマになりました。また後半の福建省訪問では、空海や隠元など、中国と日本との仏教をはじめとする交流の歴史的拠点を学ぶ機会となりました。

【8月19日(月)】

●社会科学院日本研究所 楊所長らとの意見交換
 北京に到着して、早速、中国社会科学院日本研究所にて楊伯江所長始め研究員の方々と意見交換。
 まずこちらの質問に答える形で、米中摩擦に関する中国側の姿勢が示されました。曰く、中国側は望んでいないが米国に仕掛けられており責任は米国にある、互いの経済が拡大したため摩擦が生じるのは宿命的なこと、周囲の国々に影響を及ぼしていることに中国は自覚的である、交渉と対話を堅持して、譲るところは譲るが、中国の主権に関することは譲らない。とにかく対話して、世界の平和、地域の平和を守るように続けたい、等の見解が楊所長らからありました。
 また先方からは、日本の女性関係政策、環境政策、日本の憲法改正における自民党・公明党の態度の違いについて、価値創造社会、消費税引き上げの影響、第三国協力、橋本内閣六大改革の評価、日韓の諸問題などについて質問があり、各議員が回答しました。
これらのやりとりは、先方のレポート(中国語)もありますのでご覧ください。
日本研究所科研交流简报(2019年第23期)日本众参两院跨党派年轻议员代表团到访我所

●駐中国日本大使 横井大使ブリーフィングおよび夕食会
 夕方、在中国日本大使館を訪れ、横井大使に「最近の中国情勢と日中関係」に関するブリーフィングを受けました。中国にとっては今年は建国70周年の節目の年であり、他方で対米関係、経済政策、香港情勢等の問題に直面していること、経済では米中経済摩擦等の要因により緩やかな減速傾向にあること、外交的には対米関係が中国外交の最大の課題であること、日中関係は大幅に改善しており、完全に正常な発展の軌道に乗っていること、来年春の習近平国家主席の国賓としての訪日に向け、日中関係を「競争から協調」の新たな段階に押し上げるべきといった趣旨でした。
 ブリーフィング後、大使主催の夕食会にお招きをいただき、食事をしながらひきつづき様々な意見交換を行いました。

【8月20日(火)】

●商務部国際貿易経済合作研究所 兪副院長らと意見交換
 ここでも、米中摩擦が主なテーマとなりました。先方からは、中国側は自由貿易、市場開放を続けているが米側が保護主義的な政策を掲げて国際秩序への挑戦を行っている、中国経済もこの一年影響を受けたが経済構造を調整して対応してきたこと、今後も多国間貿易秩序やWTO改革の意思は変わらず、お互いを尊重しながら二国間の対話を続けることが大事、といった見解が示されました。遠山団長からも、保護主義や自国第一主義の主張への懸念や多国間自由貿易体制維持について日本が強い意志を持っていることを伝え、日米貿易摩擦をチャンスとして克服してきた経緯を紹介しました。
 質疑応答の中では、知的財産の移転やサーバの国内設置規制について「センシティブな問題」という表現があったり、人民元の為替に関する解決には否定的であったりというやりとりもありました。一方、RCEPの推進はもとよりCPTPPへの中国の参加に積極的なコメントも聞けました。

●宋濤・中国共産党中連部長との会見
 訪問団の受け入れ元である中連部の責任者である宋濤部長からは、歓迎の言葉や、習近平総書記の来年春の訪日予定を踏まえ、さらに両国関係を発展させたい旨の表明がありました。また今回の視察先である福建省について、古くから日本との交流の歴史が深いこと、与党交流会議における協力モデル地域とされており今後具体化をしてきたい旨のお話がありました。その後、中連部内で王亜軍・副部長との昼食会があり、その場でも活発な意見交換がありました。

●黄坤明・中央宣伝部長との会見
 中央政治局委員でもある黄坤明・中央宣伝部長からは、米中経済摩擦に関しては、経済構造の問題という認識が示され、自由貿易や多国間主義の重要性や民間・文化交流推進の必要性が指摘されました。またご自身が杭州に勤務していた時代に、日本企業の保護に尽力した旨のお話がありました。
 また遠山団長から香港でのデモ等に関して早期の平和的な解決への期待を述べたところ、黄部長からは情勢沈静化への自信が示されました。この点については、報道もされています。直後に河野太郎・外相や山口那津男・公明党代表もそれぞれに中国側に意見を伝えていますが、本件に関して日本の各方面から注目されていることを示す意味はあったのではないかと思っています。
香港情勢、沈静化に自信=中国高官(時事通信)

●薛剣・外交部アジア司参事官との会見
 薛剣参事官は、現在は北京の外交部(中国における外務省)に戻られていますが、最近まで在日本中国大使館に公使参事官として赴任しておられ、日本語も達者な方です。国会議員との交流も熱心で、要人会見というよりも「久闊を叙する」ような、和やかな会話でした。安全保障や文化面などの日中交流深化への意欲が示されました。

 その後、在中国日本大使館において遠山団長が記者ブリーフィングを行い、北京空港にて急いで食事をとり空路福州に向かいました。

【8月20日(火)】

●黄檗山万福寺訪問
 朝、福州のホテルからマイクロバスで一時間ほど。隣の福清市にある黄檗山万福寺を訪問しました。清の時代、このお寺の住職であった隠元禅師が日本にわたり開いたのが、京都の宇治にある同名のお寺です(その時に伝えた豆が「インゲン豆」なのだそうです)。そういう意味で、中国と日本との文化的交流の拠点の一つとなった場所です。ただ、実際にはお寺は一度荒れてしまい、実業家の寄付により11月の完成目指して現在再建工事中で、唐時代の様式の大伽藍ではありましたが建物やご本尊は真新しく、境内は工事中でショベルカーがあったりして、歴史的風情を感じるにはいささか残念だった気もします(そういう気分になるためには、宇治に行った方がよいかも…)。

●福州京東方光電技術有限公司(BOE社)見学
 続いて、最新液晶や有機ELディスプレイの生産を行っている企業の工場を見学しました。巨大な敷地の工場でしたが、ラインを見学することはできずショールームを視察でさまざまな製品を眺めました。翌日の日経新聞に、この会社の名前が「次期iPhoneに採用される方向」という記事が出ているのを見つけ、思わず納得。タイムリーな視察でした。
アップルが中国製有機ELの採用を検討、JDIへの影響は(日経ビジネス)


●福建高壹工機有限公司見学
 福州市に戻り、電動工具メーカーの工場を見学。こちらは1985年に日本の日立工機グループの合弁会社として設立されたものが、2017年に工機ホールディングス株式会社に社名を変更して今に至っている企業です。こちらは工場の製造ラインを見せていただきました。人件費も徐々に上がってきており、また米中摩擦の影響でアメリカから関税が課せられる対象にもなってしまい、ご苦労があるというお話も伺いました。

●鄭新聡・福建省委員会常務委員らと会見
 夕方、福建省の幹部の方々と会見を行いました。挨拶の交換ののち、福建省と日本との文化的交流の歴史などについてお話がありました。その後の夕食会では、小熊慎司副団長が得意のトーク等を生かして中国の福島県等への輸入規制の解除についてアピールし、鄭常務委員から「協力する」という言質を引き出す外交成果もありました。個人的には会見や夕食会の際に供されるお茶がよくある緑茶ではなく美味しい烏龍茶だったのは、さすが福建省と感心しました。

【8月21日(水)】

●福州開元寺訪問
 朝、福州の開元寺というお寺を訪問しました。遣唐使船に乗って唐の都長安を目指した空海が嵐のために福州に漂着し、長安に向かう前に滞在したお寺です。街中にある現在も信仰を集めているお寺で、多くの方がお線香をあげてお参りしていました。

●厦門奥佳華知能健康設備有限公司見学
 高速鉄道で福州から厦門まで移動し、厦門奥佳華知能健康設備有限公司(OGAWAグループ)を訪問。電気マッサージ椅子を製造しており、60以上の国や地域に輸出している企業です。センサーやAIを駆使してその人の体調に応じたマッサージができるとの由。少し試してみましたが、すこぶる快適でした。

●陳秋雄・厦門市委員会副書記らと会見
 夕方、厦門市の幹部の方々と会見しました。挨拶の交換ののち、厦門市の産業や経済、観光などについて紹介がありました。また夕食会では、僕から、水島港と厦門港はコンテナ船の定期航路があり、経済的なつながりをより深めたい旨お話しました。なお、厦門市は街も綺麗で多くの観光客を集めていることもとても納得できる場所でした。また、天秤かごをぶら下げて果物を売る行商さんも、QRコードで決済していたのは流石のキャッシュレス社会と納得しました。

【8月22日(木)】

●コロンス島訪問
 世界文化遺産に登録されているコロンス島を訪ねました。アヘン戦争後に各国の租界となり、列強の領事館を建設していた歴史があり、それらの時代の建造物が現在も保存されて美しい観光地となっています。旧日本領事館もありました。全く個人的には、その時代のピアノが展示されているピアノ博物館にて「わー、ベーゼンドルファーだー!あ、スタンウェイだー!こっちはベヒシュタインだー!」と勝手に盛り上がっていました。

【まとめ】
 前半の北京滞在中は、要人や研究者の方との会見が相次ぎ、現在の東アジアを取り巻く諸情勢についての貴重な意見交換を集中的に行うことができました。二年前に同じ団で訪中した時には、北朝鮮の核実験やミサイル発射等が大きな問題となっており、議論の主要テーマとなっていました(過去のブログ「中国訪問記―北朝鮮ミサイル問題、一帯一路、貧困対策」「先の中国訪問における孔鉉佑氏の発言について」参照)。一方で今年は、北朝鮮はほとんど話題にならず、米中の経済摩擦が主要テーマでした。状況の変遷ぶりには改めて驚くばかりです。中国側からは強気な発言が相次ぎましたが、他方では日本との関係改善が大きく意識されており、その背景には危機感のようなものもあるのだろうと思っています。事前に水島コンビナートの各企業を訪問した際、米中摩擦の結果中国への輸出にマイナスに影響する見通しについて何社かからお話を伺っています。そうした中で、率直な意見交換の機会を持てたことは貴重なことだったと思っています。

 後半の福建省では、うってかわって日本との歴史的・文化的な交流の深さや、中国のモノづくりの現場や技術などを見学する機会となりました。帆船の時代に、難破などの苦難を乗り越えながら海を渡り教えを伝えた歴史上の偉人に思いを致し、また近代において中国が開国し近代化するプロセスの一旦を目の当たりにすることも有意義なことでした。

 こうした機会を頂けた中連部を始めとした中国側の皆さま、サポートして下さった外務省や在北京大使館、在広州総領事館の皆さま、そして遠山清彦団長、小熊慎司副団長をはじめとする日中次世代交流委員会訪問団メンバーの皆さまに感謝を申し上げます。

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(写真:黄坤明氏と訪中団メンバー)

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