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2019年1月

2019年1月11日 (金)

毎月勤労統計調査の件について

(19.1.18付記)
 この件に関し、公表資料や報道等も含めて、個人的に時系列の年表に整理してみました。ご参考まで。

毎日勤労統計に関する年表

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 厚生労働省が、「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」という、読んで字のごとくの内容のプレスリリースを発表しました。「許せない」、「あり得ない」「憤りを感じる」「早急な再発防止を」といった定型的なコメントは他の方もおっしゃるでしょうから、それ以外の僕の目から見た感想や疑問を記しておきます。報道とプレスリリース以外の情報源はありませんので、一部推測も混じえて記述していることは、どうぞご容赦ください。

1.全数調査と一部抽出調査

 この調査は、5人以上常勤労働者を雇用する事業所の雇用、給与及び労働時間を調査するものです。それを毎月調査するので、調査の手間(厚労省や都道府県等の実施者も、回答者も)は相当なものと思われます。そのため、500人未満の事業所については対象事業所を厚生労働省がサンプリング(抽出)して実施していました。母集団の数が多い場合、適正な手法によってサンプリングをして調査し、それをもとに値を推計することには何の問題もありませんし、調査コストを適正化するためにも大事なことです。

 一方、500人以上の事業所は全数調査することとなっていました。これは、おそらく地方部の県にとって、常用雇用500人以上の事業所数がそもそもあまり多くないため、業種別等の適正な抽出が不可能なことが理由だったのではないかと想像されます。

 ところがプレスリリースによれば、平成16年以降、東京都に対しては、500人以上の事業所についても厚生労働省でサンプリングをした事業所に対して調査をしていたということです。平成30年であれば、1,464事業所が全数のところ、491事業所をサンプリングしていたとのこと。この理由は、おそらくは「数が多くて手間が大変だったから」ではなかろうかと思います。傍証として、平成30年6月に、神奈川県、愛知県、大阪府に対して(すなわち大都市圏で、大規模事業所が多数立地すると思われる府県)もサンプリングによる調査とする旨の連絡をしていたことからも、そのように推測されます(このことは別の問題をはらんでいますが、後に触れます)。

 一般論として、統計調査において、調査コストの適正化の観点はとても大事です。本来、母集団の全数を調査することが最も正確な数字を知ることになるわけですが、当然そこにかかるコストもおそろしく膨大なものになります。適切なサンプリングを行うこと等により、調査コストの適正さと推計値の正確さをできるだけ両立させることに、社会調査法や統計学の意味があるのです。ですから繰り返しになりますが、抽出調査とすることそのものが問題だとは一概には言えません(ただし、同じ母集団のサンプリングの仕方を地理的区分により異なる方法で行うことに、一抹のモヤモヤ感はあります。ただ、地理的分布に大きな偏りがあれば、やむを得ないのかもしれません)。

2.復元しなかったことについて

 本当の問題は、500人以上の事業所についても実際には「一部抽出調査」なのに、「全数調査」という看板を降ろさなかった、ということにあります。

 そしてそのことは、東京都分だけ抽出調査にもかかわらず、他道府県の全数調査分のデータとそのまま合体させ、統計的な数字を計算するという操作をしていたという結果となります(「異なる抽出率の復元をしなかった」というのはそういう意味と思われます)。そりゃそうだ。建前上全数調査のはずなのに復元なんかする方がおかしいですから。

 しかしこれは、少なくとも調査担当者は、不適正な操作だと絶対に気づかなければなりません。抽出調査の結果データと全数調査の結果データを、そうと知りつつそのまま合体させて平均値を求めたりする操作をしていた人が、必ず誰かいる筈ですから。

 例えばA県で100件中30件のサンプリング調査をした結果データと、B県で30件中30件の全数調査をした結果データを、そのまま合体させて60件のデータとして扱って平均値を算出するような操作をしていたということです。当然B県の傾向に引きずられるようなバイアスがかかった結果が出るのは自明なのです。

 これはもう、看板を書き換えるための行政的ないし政治的コストが大変だったのでサボった、バレなきゃよかろう、まあ数字のズレも1%もなくて誤差の範囲だし、これまで毎月こういう操作してきたし、いまさら間違っていましたと言い出せないよね、という発想だったとしか考えようがありません。少なくとも、ここ十数年の代々の厚生労働省の調査実施担当者(およびもしかしたら東京都の実施担当者)はこのことを知っていた筈ですが、誰も内部告発したりもしなかった。あるいはしようとした人もいたかもしれないけど、上司にとめられたようなこともあったかもしれません(ただの想像ですが)。いずれにしても、このあたりの「数字に対する認識の甘さ」加減は、裁量労働制等に関する労働実態調査の件や各省庁の障害者雇用率の件にかいま見えた、数字への無頓着さや思考停止ぶりと共通するものを感じざるを得ません。

 結局、昨年12月に統計委員会委員長から指摘されてやっと公表することとなり、また雇用保険や労災保険の給付額計算の根拠となっていたことから、塵も積もれば山となり、延べ数千万人に対し、合計数百億円規模の追加給付をしなければならない大惨事となったわけです。

 国民が本来受けるべき給付額よりも少なくしか給付を受けられなかったわけですから、この責任は極めて重大です。またGDP等他の推計値への影響も少なからずあるでしょう。

3.繰り返される厚生労働省の体質

 上記の通り、平成16年以降不適正な操作をしていたことは、現場担当者はおそらく知っていた筈です。ここで気になるのがリリースの中の次の一行です。

「(注)なお、平成30年1月以降の調査分の集計については、復元されています。」

 そう、平成30年1月以降は、数字がバイアスがかかっていることに気が咎めたか、全数調査の看板をかけたまま、数字はコッソリ直しているのです。そして6月には、上記の通り、神奈川県、愛知県、大阪府に対しても抽出調査を行う予定という連絡までしている。看板を直すことはなく、でももう抽出調査でいいや!もっと拡大しよう!と開き直ったような、或いは中途半端な対応を一度は決めた模様です。これは、現場担当者の一存ではないかもしれません。

 この件については、「一部の職員は総務省から指摘を受ける前に認識」していたが、「組織全体では共有していませんでした」とされています。要は、おそらく大臣や官房までは報告してはいなかったけど、現場以上どこかまでは認識を共有していたということです。どうしてこの時に、大臣まで上げられなかったのか。違う対応が出来なかったのか?僕は本当に、このことを悔しく、残念に思います。

 正直、厚生労働省と付き合っていると、さまざまな信じがたいトラブルの噴出に、結構な頻度で直面します。そして、僕はそのたびに何度も、「悪い情報ほど迅速にトップまで上げて共有してほしい」と言ってきました。大臣政務官の時に遭遇した年金機構の情報漏洩事案の時も、副大臣退任後に明るみに出た付加給付の支給漏れ事案の時も、再発防止策の提言なり、衆議院厚生労働委員会の質疑なりの場で、そのことを強く伝えてきました。このことは、厚生労働省にとっては、そもそもは薬害エイズ事件で多数の被害者を出した反省点でもあります。

 そしてまた今回も、歴史は繰り返され、おそらく現場レベルで糊塗しようとしていたずらに時間が経過し、他省から指摘を受けて公表するという恥をさらす事態となりました。このことが、個人的には最も残念なことです。

 また、敢えて野党的なうがった見方をすれば、昨年1月に直したということは、遅くとも一昨年後半にはどうしようか考えていた訳ですが、そういえばその頃には解散総選挙してたよねとか、働き方改革関連法案の骨格が固まり国会でも議論が始まってたよねとか、タイミング的なことも考えていたのかもしれないとも思えてしまいます。ため息しか出ません。

 厚生労働省には、この時の対応について、真摯に反省してほしいと切に願いますし、また統計調査というものが政策形成の礎となっている意味の重さを改めて認識し、必要な人員予算の確保を含め、しっかり対応されることを望みます。昨年の労働実態調査に対してのPT提言に続き、二年連続二回目の同旨の要望なのですが。。。

 そしてこの際、厚生労働省のみならず政府全体として、正直に過ちを正し、膿を出し切ってほしいと切に願います。

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