厚生労働部会長を振り返って
9月に自民党総裁選があり、10月2日に第四次安倍改造内閣が発足しました。昨年8月より党政務調査会厚生労働部会長を拝命していましたが、党の役職は新総裁選出とともに解任されますので、一年強の任期となりました。例によって、厚生労働部会長の任期中の仕事を振り返ってみたいと思います。
(過去の「振り返り」シリーズはこちら;
・厚生労働大臣政務官退任にあたり
・外交部会長を振り返って
・厚生労働副大臣退任にあたり )
◆厚生労働部会長の日常
外交部会長の振り返りにも記しましたが、自民党政務調査会の中でほぼ省庁ごとに部会が置かれています(例外的に、所管範囲が広範な内閣府に関しては内閣第一、第二部会が分担し、農林水産省関係は農林部会と水産部会に分かれています)。厚生労働部会は、厚生労働省が所管する政策分野全般を担当しますので、医療、介護、福祉(障害者福祉や生活保護・生活困窮者自立支援、児童養護などを含む)、保育・子育て支援、労働、雇用、年金、戦没者の慰霊顕彰とご遺族の援護等、幅広い分野を担うこととなります。それだけ業界団体や関係者も多く、調整も一苦労です。
また外交部会長の時は、政府提出の条約等で党内議論が揉めることはほぼありませんでしたが、今回は主戦場です。特に働き方改革関連法案や健康増進法案については、党内議論が極めて活発であり、また食品衛生法改正案や医療法改正案等もそれぞれに調整を要するもので、法案審査が毎回決戦の場のような緊張感を強いられました。そしてしばしば一回では通らず、何回かにわたりましたし、部会を通っても政調審議会、総務会など、気を抜くことはできません。
その上で、折々の課題(予算編成、税制改正、そして不祥事や社会的な事件、災害等)への対応や、衆議院における厚生労働委員会理事としての務めなどが入り、相当気を遣うこととなりました。ただ自分としては、多くの方々のご指導やお支えのおかげで、悔いなく全力で取り組めたと思っています。
部会長就任から昨年中の出来事は、「平成29年末のごあいさつ」に記しましたので、ここでは主に今年に入ってからのことについて述べていきたいと思います。
◆働き方改革関連法案
個人的に厚生労働部会長として最も力と時間を注いだのは、働き方改革関連法案の党内審議だと思います。国会でも高度プロフェッショナル制度や裁量労働制等に関してさまざまな議論がありましたが、実は自民党内でも別の観点から激しい議論がありました。しかしこの法案については、安倍政権としても今国会の目玉法案であり、丁寧な議論を心がけようと考え、その結果9回の法案審議を重ねることになりました。1回の会議にいつも2時間くらいかけて挙手がある限り会議を続けました。特に中小企業への悪影響を心配する声が強かったので、厚生労働省のみならず中小企業庁にも対策を強化するよう調整し、また岸田政務調査会長にもずっとお付き合いをいただき、総務会も2回目でようやく了承を得た時は、どっと肩の荷が下りた思いでした。
しかしもちろん国会での審議も困難を極め、ゴールデンウィーク中に委員会が開かれ空回しになったり、高鳥修一厚生労働委員長解任決議案の反対討論をしたり、最終的には野党のみなさんが抗議する中での委員会採決となり、「ヤメロー!」と怒鳴られ続けながら長大な附帯決議の読み上げをするといった一幕もありつつ、最終的には参議院でも可決されなんとか成立させることができました。厚生労働副大臣時代から取り組んでいた仕事をひとつ形にすることができて、安堵した次第です。
ただ「法律ができてよかった」ではなく、これからの政省令の決定や施行により、長時間労働の削減や同一労働同一賃金、多様な人材の就労支援など、目指した方向性が実現されるかどうかが本来問われるべきことですから、引き続きフォローは必要であろうと思います。特に、医師の働き方改革については、未だ検討途上であり来年までに方向性を出す必要があります。引き続き何らかの形でコミットしていきたいと思っています。
また、法案のうち裁量労働制に関する部分については、不適正な調査データ等の問題により法案から削除することとなりました。このことについては、国会でも大問題となりましたが、与党としても看過することはできず、別途「労働分野における調査手法に関するPT提言」をとりまとめ、厚生労働省に対し戒めとしてもらえるよう提出しました。思うところをしっかり汲み取っていただけると幸いです。
(10月4日追記)
働き方改革については、上記の通り厚労副大臣・厚労部会長とずっと携わりましたし、また企画型裁量労働制適用範囲拡大や高度プロフェッショナル制度創設等に関する労働基準法改正案まで含めれば、厚生労働大臣政務官の折から足掛け4年にわたり多かれ少なかれタッチしていたなあと改めてしみじみ思い返しています。その間の僕主観のMVPを挙げるとすると、労働基準局労働条件政策課の中嶋彰浩調査官、および政策統括官(総合政策)付の村山誠参事官(労働政策担当)のお二人になろうかと思います。もちろんもっと多くの皆さまも含めた地道な仕事の集積により、働き方改革関連法案はまとめられ、国会を通すことができました。改めて関係された皆さまに感謝と拍手を送りたいと思います。
◆受動喫煙対策のための健康増進法改正案
副大臣時代からの懸案宿題その2が、受動喫煙対策のための健康増進法改正案でした。こちらは、塩崎厚労相時代の案では結局自民党の部会に諮ることができずに持ち越しになっていたところ、加藤厚労相に交代し、新アイディアを盛り込んだ新しい案を厚生労働省がヒネりだしてきました。昨年末、新案の説明にきた担当の局長さんや課長さんたちを前に、5分間ほどじっくり黙って眺め、その上で「わかりました。これでやりましょう」と言いました。多分その5分間は、局長さんたちには針の筵だったのではないかと思います。つい先日まで一緒に塩崎案を担いで頑張っていた人に、別の案を呑み込めというのですから…。
とはいえ最終的に、その案で概ね党内の調整が整い、部会も2時間以上かかりましたが一回でご了承をいただき、最終的には附帯決議つきで国会も通すことができたので、これもひと安心でした。
この問題については、様々な立場から様々なご意見をたくさんいただきましたが、とにもかくにも東京オリンピック・パラリンピックに向けて(残念ながらラグビーのワールドカップには間に合いませんが…)一歩でも二歩でも前に進めたのは良かったです。昨年のとかしき部会長時代の激しい議論の積み重ねがあって、今回の結論が導き出せました。ご関係いただいたすべての皆さまに感謝申し上げます。
◆法案審査などあれこれ
今国会では、上記二本以外にも、生活困窮者自立支援法等改正案、医療法改正案、食品衛生法改正案、水道法改正案などが政府から提出され、成立しました。先に党内審査が済んでいた水道法改正案以外の党内審議も行いました。どれも気を抜くことができず、医療法改正案や食品衛生法改正案は法案審査を二回することになりました。
特に医療法改正案の二回目の部会前日深夜に、沖縄出張から戻ってきたある議員さんに無理を言ってお時間をいただいて全日空ホテルロビーで合流し、担当の局長さん課長さんとギリギリの調整にあたったのは良い思い出です(笑)。自民党内の議論はあまり報道されることはありませんが、ひとつひとつ議論をまとめて合意形成を図るのはなかなか時間と根気と知恵が要求される仕事です。しかし、これをやり遂げるからこそ国会審議に耐えうる法案になるのだと考えます。「政府・与党一体となって」という表現がありますが、丁寧なプロセスこそがそれを保障しているのです。
と思って努力しているのに、唐突に公約が上から降ってきたりするから、総(以下自粛…知りたい方はこのあたりをご覧いただきご想像ください)
◆社会保障の将来をめぐるあれこれ
…さて、昨年の総選挙を経て、消費税の使途を変更し教育無償化等に充てることとなりました。このことは、政策が充実するものではもちろんあるものの、一方で財政的には支出予定額の単なる純増であり財政再建の後退であることもまた事実です。
今年四月の診療報酬・介護報酬・障害サービス報酬の改定は昨年末の予算編成時に決着させまたが、今後の財政再建に向けて6月の「骨太の方針」での中期的な目標設定が議論となりました。最終的には落ち着くべきところに落ち着いた感はありますが、社会保障の効率化努力も毎年求められます。社会保障の維持に必要な予算確保とのバランスを含め、絶えずチェックが必要です。
また「税と社会保障の一体改革」の行程表のうち、消費税率引き上げ以外の項目はおおむね実施済みとなりました。その先の社会保障をどういう枠組みで考えるか検討が必要な時期です。今回の内閣改造において茂木敏充大臣に「全世代型社会保障改革担当」がついているのはその布石だと思われますが、党側でも受け止めが必要でしょう。既に人生百年時代本部がその任を負っているいるものと思いますが、本番はこれから。要注目ポイントです。
さらに、来年10月に消費税率引き上げが予定されていますが、それに伴う医療にかかる消費税問題(診療報酬による補填不足問題を含む)、薬価改定の時期問題などが、前述の医師の働き方改革対策等と合わせ、年末の予算編成までの間に決めなければならない足元の課題もなかなか難物です。ということで、後任の方にはぜひ頑張っていただきたいなと思っています。
◆厚生労働省分割論
8月に入り、日経新聞に突如掲載された厚生労働省分割論。僕はブログ等で反対論をぶちました。結果、行革本部の提言からは分割という言葉こそ削られましたが、まだ話はくすぶっているような気もします。橋本行革のアフターフォローそのものに反対はしませんが、どうか「大きすぎる」とか「非効率」とかいう印象論(職員1人あたりの法案数や答弁数や予算額は他省と比較して多いので、むしろ厚労省は最も効率が良い役所であるともいえます)ではなく、今後の政策の在り方を見据えた骨太な議論が展開されることを期待します。
◆その他さまざま
個人的に今年最もインパクトの大きかった出来事は、西日本豪雨災害の被災でした。地元議員の一人としてさまざまな活動を行いましたが、印象等はこちらに記しましたのでご覧いただきたいと思います。
なお衆倫選特理事を務めていたため、参議院選挙制度改革法案の賛成討論を行いました。あわせて全国の皆さまに災害支援への謝意を表す機会としました。
また児童虐待の事件が大きく報道されクローズアップされた年でもありました。党でも議論され、政府の緊急対策等に繋がっています。事件の発生は防がねばならず、引き離し等の介入を躊躇してはならないのですが、ただ個人的には、支援によって虐待等が防がれていて事件にならない例も(報道等されませんが)多いであろう中、現場はそのバランスに苦慮されているのではないかなと思います。継続的に考えていきたい課題です。またこれに関連して、夏にはイギリス・イタリアに衆議院派遣視察団の一員として出張し、各地の児童養護や精神保健福祉の現状を確認する貴重な機会をいただきました。高鳥委員長はじめ、ご関係の皆さまに深く御礼申し上げます。
旧優生保護法の問題についても、与党PTメンバーとして携わってきました。何らかの救済が必要ということについては、与野党ともに概ねコンセンサスができています。しかし裁判の判決が出る前に国の政策について救済をした前例がなく、手探り状態での検討となっています。しかし、だからこそ、司法に責任を判断される前に、立法府の意思を示し動く意味があるのだと思います。引き続き関われるかはわかりませんが、そうであればいいなと思っています。
就任から一年が経過し、そろそろ店じまいだなあと思っていたころに飛び込んできたニュースが、中央省庁での障害者法定雇用率の水増し問題でした。現時点で未だ調査中ですから、部会長として関わる機会は最初の報告を受けるだけにとどまりましたが、各省庁にはきちんとした反省と改善を求めます。一部報道によると「説明があいまいでわかりにくかった」といった理由が述べられているようですが、それであなたたちは税金をまけてくれるのか!ふざけるな!と怒鳴りたくなる言い分であり、国民が納得する理由には到底なりません。これを機会に、障害やいろんな事情がある方も、気持ちよく一緒に働ける職場環境を率先して一から作り直すくらいの気持ちでやり直して頂きたいと願います。
部会長職にあったため他の党の役職はほぼ辞退していましたが、ひとつだけお引き受けしていたのが、性的指向・性自認に関する特命委員会(古屋圭司委員長)の事務局長でした。今年前半は地道にヒアリングや勉強会を重ねましたが、臨時国会には理解増進法の国会提出および成立を目指すことになるものと思います。党所属議員が雑誌に発表した文章等が原因ではからずも注目を集めるテーマとなりましたが、個人的には、やはりまだまだ地道な理解増進活動が必要な分野なのだなあという感想をより強めるものでした。また、死因究明の推進に関する議員立法の提出も足踏みしてしまいました。これも今後リスタートさせたいと思っています。
全く厚生労働部会長職とは関係ないのですが、インターネットのブロッキング問題も関心を寄せています。著作権侵害の海賊版サイト対策の手段として語られていますが、憲法第21条3項に保障されている「通信の秘密」に触れるものである以上、単に「海賊版サイトが問題だから」という理由で許されるべきものではありません。ブロッキングは、最悪のケースでは、政治的な表現の自由を封じる手段になり得る(そして実際にそのように使われている国も存在する)、という認識をもって、極めて注意深く取り扱われなければなりません。ただ著作権の問題なのではなく、民主主義の根幹に関わるテーマなのです。
◆謝辞
厚生労働副大臣という政府の立場から、続いて厚生労働部会長という党の立場に移り、働き方改革や受動喫煙対策等の難題を引き続いて担当できたことは誠に幸せなことでした。特に「税と社会保障一体改革」の総仕上げ、一億総活躍と働き方改革、そして人生100年時代など、厚生労働行政が日本社会の大きな方向性のかじ取りをしなければならない時期に、その一角を担う機会をいただけたことは、政治家として極めて貴重な経験だったと思います
それらを含め、多くの政策を前進させることができたのは、諸先輩方のご指導や、多くの同僚議員諸兄姉の真摯な議論の賜物でした。特に岸田文雄政務調査会長、田村憲久政調会長代理、後藤茂之政調副会長には、ラインの上司としてさまざまにアドバイスをいただきました。心から感謝申し上げます。白須賀貴樹、鬼木誠、石井みどり各部会長代理、そして副部会長の皆さんには、それぞれに部会に参加して議論を盛り上げていただきました。この部会での経験をステップしにして、さらに活躍していただけることを願っています。
また政調事務局の福島さん、小山さん、山中さんには、担当として諸事万端ご準備いただき、円滑に部会を進めるサポートをいただきました。厚生労働省では、国会連絡室の田中義高調整官(当時、現室長)、その後任の和田幸典調整官には、各局から殺到するレクの仕切りなどをしっかり果たしていただきました。ありがとうございました。
各メディア担当記者の皆さんにも、長大な部会後のさらに長大なブリーフィングやあれこれとした雑談にお付き合いいただき、また折々にお取り上げいただき、ありがとうございました。また気軽に部屋にお立ち寄りくださいね!お顔が見えなくなると寂しいので(笑)
最後になりましたが、こうした仕事ができるのも、国会に送り出していただいている地元、倉敷市・早島町の皆さまのおかげです。お隣の選挙区の加藤勝信厚生労働大臣と両輪となって厚生労働政策を進めることができたのは、個人的にはとても嬉しいことでした。心から御礼申し上げます。そして今後とも、ご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
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コメント
ご苦労様でした。真摯に政治に取り組み格闘しているお姿、プロセスがよくわかりました。身体がいくつあっても足りない、政治家は聖徳太子のようにならなければ務まりませんね。ご立派です。頭が下がります。
いろいろな役職につき人柄、実力が認められた議員だけが落選せず、やがて御お父様のように幹事長、大臣、総理と出世なさるんですね。
投稿: 栗栖 靖近 | 2018年10月 4日 (木) 16時33分