生活保護世帯におけるジェネリック医薬品の原則化について
昨日4月25日、衆議院厚生労働委員会において、生活困窮者等の自立支援法等の一部改正案が、出席していた自民党・公明党・維新の会の賛成多数により可決されました。近日中に衆議院本会議で採決され、参議院に送付されるものと思われます。
今回の改正内容の中で、第34条3項の改正により、医療扶助において、現行では「被保護者に対し、可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努めるものとする」と後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用が努力義務とされているところ、改正案では「原則として、後発医薬品によりその給付を行うこととする」と改正されることとなっています。ただし、改正前後ともに、「医療を担当する医師又は歯科医師が医学的知見に基づき後発医薬品を使用できることができると認めたものについては、」という前提条件が付いています。従っていずれも処方に関する医師・歯科医師の裁量を制約するものではありません。
医療扶助におけるジェネリック医薬品原則化に関し、野党の議員から異論が呈されています。たとえば「国民全体でなく、生活保護受給者に対してのみ後発医薬品を原則化することは、明らかな差別であり、人権侵害であります。」(中谷一馬議員(立民)、3月30日衆議院本会議)、「医療扶助におけるジェネリック医薬品の使用の原則化も問題です。一般の患者に対するジェネリック医薬品の使用の原則化は行われていない中で、医療扶助に限って原則化する合理性や必要性はないと考えております。」(池田真紀議員(立民)、3月30日衆議院本会議)等です。
さらに4月4日の衆議院厚生労働委員会では、この点について橋本が議員立法提案者に意図を訊ねたところ、初鹿明博議員(立民)から「生活保護の受給者のみに安価な薬を原則化する、劣等処遇を強いるということが問題であって、これが平等の観点から明らかに差別に当たるのではないか」というなかなかドギツイ表現での答弁がありました(なお初鹿議員は、同時に「有効性、安全性について問題はないと認識をしております」という答弁もしているので、ジェネリック医薬品そのものが劣等であるとおっしゃる意図は全くなかったのだろうと思っています)。
ただ橋本は、今回のジェネリック医薬品原則化には合理性と必要性があると考えています。
その理由の一つは、生活保護法第八条二項との関係です。「基準は、(…中略…)保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすもので十分でなものであって、且つ、これをこえないものでなければならない」という規定があります。制度の要請上、最低限度の生活需要を満たすのに十分でなければならないのは当然なのですが、一方で、保護に必要な経費は国民の納める税金により賄われるものであることを考慮すると、最低限度の生活需要を満たしてもそれ以上に余分に支給するようなものであることも避けなければならないということです。従って、効能・効果が同様で価格が異なる医薬品の選択肢がある場合に安価な方を原則化することは、生活保護基準の基本的な考え方に則っているのです。
また、一般世帯との比較において考える場合、被保護世帯のみにジェネリック医薬品の原則化することが差別的ないし劣等処遇なのだという主張もあるようです。しかし一般世帯には医療費の窓口負担があります。同様の見方で一般世帯側の視点から見ると、医療扶助のため窓口負担がない被保護世帯の方こそが優等処遇なのである、という議論も可能となります。これを突き詰めると、被保護世帯も窓口において医療費を一部自己負担すべき(で後で清算する)という議論に繋がるということも考えなければならなくなるのです。今回の見直しにおいては、参考人質疑において大阪市の吉村市長が主張されたように、その議論もありましたが最終的には見送られました。その代償措置としてのジェネリック医薬品原則化という面もあるのです(なおこの論点に立つと、窓口負担のない小児医療等におけるジェネリック医薬品の普及促進についてどう考えるか、という論点が派生することは付記します)。
ちなみに、そもそも医療用医薬品は患者が自由に選んで服用できるものではなく、医師や歯科医師に処方されなければなりませんので、人権侵害という主張はあたりません。
なお、先に記したように、医師や歯科医師が先発薬でなければならないと判断すればその通りになりますし、また一旦ジェネリック医薬品を処方して、何等かの不都合が生じてやはり先発品でなければならないということになれば、柔軟に見直しができるように運用には留意されるべきであろうとは思います。
本来であれば、こうした議論を衆議院厚生労働委員会において交わすべきところではありますが、その機会のないまま委員会採決を迎えてしまいましたので、ここに意見を記しておきます。
なお、実はこの法案審議においては、被保護世帯において大学進学の際には世帯分離を求めている扱いについてどう考えるかといった点も野党法案にて問題提起されており、議論が深められるチャンスでした(個人的には、ジェネリック医薬品の原則化よりこちらの方がご関係の方々には切実なのではないかと思います)。そうした論点を残しつつ、諸般の事情により、衆議院厚生労働委員会において議論を深めることができなかったことは、誠に残念でした。誰かに責任を負わせる意図はありません。ただ純粋な感想として、与野党を問わず、少なからぬ数の議員の方々がそう感じているのではないかと思います。
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