政府による著作権侵害サイトのブロッキング要請に反対します。
政府がネット接続事業者(ISP)に対して著作権侵害サイトのブロッキングを要請するとの報道があります。このことについて、JILIS(一般社団法人情報法制研究所)が「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する提言」を発表して、反対の意思を表明しています。橋本岳は、この緊急提言に賛同し、政府のブロッキング要請に対し反対の意思を持っていることをここに表明します。以下に自分なりの理解と理由を記します。
まず当然ながら、漫画や雑誌を著作権者に無断で掲載し、無料で閲覧できる状態にしているいわゆる海賊版サイトの存在そのものは認め難いものがあり、その対策は検討され実施されるべきです。しかし、「政府が特定Webサイトへの接続をしないことをISPに要請する」ことは様々な問題をはらみます。目的は手段を正当化しません。
何よりも、政府が特定内容の情報通信を根拠なく制限できると思うこと自体が大問題です。憲法第21条2項には「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これ侵してはならない」となっています。それを受けて電気通信事業法第3条には検閲の禁止、第4条には秘密の保護が事業者に対して義務化されています。これは憲法の裏打ちがありますから、一般の法令よりも重く受け止めなければなりません。
だからこそ、たとえ犯罪捜査というまさに緊急かつ公益性の高い理由であっても、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」という法律を設け、検察官又は司法警察員に限り、裁判所の令状をとるという手続きを踏んで、同意のない通信傍受が認められるのです。
今回、政府は「要請」しかしないようです。もちろんお願いに何の拘束力もないし、責任はISPがとることになります(これは、私に説明に来た政府の担当者が明言しました)。一方で、サイトブロッキングは、電気通信事業者はアクセス先を「確認して」、特定サイトの場合に特定の挙動をさせることをさせるわけですから、これが検閲や秘密の保護を義務付ける電気通信事業法に違反することは明らかではないかと思われます。だとすれば、政府の要請に従ったISPは、電気通信事業法第179条により二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処されることになります。ISPも大変ですね。
もし仮に今回この条項の適用をしないということを政府が表明すれば、そのことによる逆の強制力がISPにかかることになり(だって、政府の気が変わったらすぐ処罰されるんですから)、結果として「政府による検閲」が完成します。むしろ明白に憲法第21条2項違反が成立してしまいかねません。もちろん、そもそもそんなに恣意的に罰則規定が取り扱われること自体がおかしなことです。
今回しようとしていることを政府が実施しようとするのであれば、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」のように、新規立法を行う手順を踏むべきです。報道等によると、新規立法を検討することは表明するものの、それまでの当面の間、刑法37条に定める緊急避難を理由とするようです。児童ポルノに関する自主的な取り組みは前例としてありますが、児童の人格に対する侵害と、著作権法に基づく財産権の侵害は、同列に扱うべきではありません。それを許せば、今後さらに拡大し得る前例となりかねません。
そしてさらに言えば、政府が提出した法律が、全部スケジュール通りに、提出した内容通りに、成立すると思っているとしたら大間違いです。政府が「立法をするからそれまでは緊急避難で」などという表明をすること自体が、立法府たる国会の軽視も甚だしいと言わざるを得ず、その議席を預かるものとして、決して賛同できるものではないのです。
なお、自民党の情報通信関係の議員数名に確認しましたが、今日の段階で「え、そんな話知らないよ?」という反応が大半でした(ある1名のみご存知でした。「おとといISPから聞いて知ったんだよね」との由)。もちろんごく限られたサンプリングの範囲にすぎませんが、今の政府は、残念ながら与党に対しても本当に軽く考えておられるのだなあと嘆息を禁じえません(ちなみに僕は報道とFacebookで知りました)。与党対策ひとつを取ってみてもロクにできていない中で、新規立法の前途はきっと多難だろうなあと想像します。そんな状況で「新規立法を前提に緊急避難」などという理屈は、通用しません。
一応僕も与党の一員ですので、先に政府の担当の方とお話をし、僕の考えは伝えました。また、別の省の幹部の方にも懸念をお伝えしています。JILISの緊急提言は、何名かの議員の方々にも政府担当部署にも届けたり渡したり送ったりしました。ただ、本日19時時点で特段のリアクションもありませんので、本意ではありませんが、改めて意思を公にし、世論に対して政府の非を訴えたいと思います。
願わくば、この小文が誰かの手によって然るべき方の目に留まり、然るべく対応されんことを。
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(2018.4.13 朝追記)
以下は、ブロッキングに関し児童ポルノへの適用について法的な問題を整理した報告書です。著作権侵害に対する見解も記されています。ご参考まで。
●安心ネットづくり促進協議会 児童ポルノ対策作業部会 2009年度法的問題検討サブワーキング 報告書
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2018.4.12
衆議院議員
自由民主党厚生労働部会長
橋本 岳
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コメント
感心しました。ありがとうございます。
最近の自民党政治家は、道理が全く通じない人たちがほとんどで、政権への批判など、政権がどんなにメチャクチャやっても全くできない人たちばかりです。以前の自民党には、それなりの見識を持った人がいたけど、今はほぼ壊滅しています。それでもあなたのような人がいたことは大変うれしいです。ぜひ次世代の自民党を率いてください。いずれにせよ、今の安倍政権はすぐにでも潰さないと自民党どころか日本が壊滅すると思っていますが、あなたのことは支持します。頑張ってください。
投稿: 福島三郎 | 2018年4月12日 (木) 23時34分
違うと思います。
あるヲタクが、漫画村のアニメをダウンロードしようとしてクリックします。
・すると漫画村に「データ送ってくれ」ってリクエストとアドレス等が送られます。
・漫画村のサーバーはリクエスト内容を理解し、漫画データにあて先の情報をくっ付けて返送します。
・ISPは漫画村固有のアドレスが付いたパケットを弾きます。
これは検閲ではないし通信の保護に違反もしないです。
これは郵便法7条-8条と同じ解釈であるべきで、小包(パケット)の中に麻薬があった場合と同じ話です。
有る国の特定の会社から送られてくる小包の中に毎回違法薬物が入っていたら、郵便事業者でない税関が検査して取り除いたり、そのまま配達させて検挙したりしますから、これは郵便法違反か?と言われればそうではないという事です。
http://33765910.at.webry.info/201102/article_21.html
投稿: Fuji | 2018年4月13日 (金) 00時38分