外交部会長を振り返って
昨年10月末に、秋葉賢也衆議院議員の後を受けて自民党外交部会長に着任し、10か月ほどが経ちました。まだまだ道半ばの想いもありますが、内閣改造および党人事の声も聞こえています。ここで党外交部会長としてさまざまな問題に関する所感を記しておきます(なお、橋本がくWebサイトにも外交部会長としての活動をまとめています。こちらもあわせてご覧ください)。
◆自民党外交部会長の立ち位置
そもそも「部会長」という役職は世間的にはいささか馴染が薄いので、簡単におさらいしておきます。自民党において、政策は政務調査会にて検討されます。責任者は政務調査会長であり、現在稲田朋美衆議院議員が務めています。しかし、政策分野は多岐にわたるため、12の中央省庁に対応するように13の部会が設置され(農林水産省に対応する部会のみ農林部会と水産部会に分かれているので、部会の方が一つ多い)ています。外交部会は、外務省に関する自民党の政策取りまとめ役であり、その責任者が外交部会長となります。役所と密に連絡を取りながら、自民党内の要望を役所に伝え橋渡しをすることで、政府の政策判断に党側のコントロールを利かせ、もって民主的な統制をかけるということが職務となります。
ただ他の行政分野と異なり、外交交渉は政府の専権事項ですので、往々にして交渉結果を後で聞かされた上で党内の抑え役に回るということも多かった気もします。また、北朝鮮の核実験やミサイル発射、各地でのテロ多発など緊急事態への対応も多い役であり、これは外交部会長に特殊なことではないかと思います。
ただ安倍・岸田外交は、平和安全法制の成立などを行っているために妙なレッテルが張られがちですが、昨年末の日韓外相合意やオバマ大統領広島訪問など、各国首脳との信頼関係をもとにバランスがあるかつ歴史的な合意等を実現しますし、一方で中国の南シナ海での行動への非難など、全く譲らずに筋を通し続ける側面もありました。そういう意味では外交の妙を堪能できる政権であり、傍から見ていて頼もしいものでした。個人的には、横からどんどん口を挟み政府をコントロールするというよりも、党側の意見をしっかりと伝える機会を都度作りながら、政権の選択肢をできるだけ残すよう党側からサポートするような立ち位置を選んだことが多かったように思います。
◆TPPについて
今年2月、環太平洋パートナーシップ(TPP)に各国が署名しました。昨年10月アトランタでの大筋合意以降に外交部会長に着任したので、交渉そのものには全くタッチしていませんが、それでも自民党内手続きにおける条約の承認は外交部会長の責任になります(関連法案は農水部会他さまざまな部会にわたります)。主に農産物や工業製品の関税水準とその影響や対策等に議論が集中していますが、TPP全体の中では関税に関することは一部にすぎません。あれこれ役所から説明を聞くのですがあまりにも頭に入らないので、電話帳二冊半程度の日本語テキストを全部眺めてみることにしました(しかしあまりにもナナメ読みなので「読んだ」とは言えません…)。
眺めてみて感じましたが、これまでにカバーされていない分野も含むきわめて幅広い分野にわたる合意を多国間でまとめたという点で極めて野心的な協定だということです。この合意により加盟国間ではさまざまな予見可能性が高まり、経済的な交流がより一層盛んになることが期待できますし、また国際政治的にも意味のある結びつきにもなり得るものでしょう。一方でそれだけに、内容面では極めて慎重に合意形成され、各国の事情が相当汲まれているために、事前に言われていたよりはかなり常識的な内容になっているとも思いました。これを取りまとめられた甘利明・前担当相をはじめ関係者の甚大なるご努力には、心からの敬意を払います。
吉川貴盛・党TPP対策委員長らの腕力もあり、おかげさまで党内手続きはスムーズに進みましたが、衆議院の特別委員会においていささか言い掛かり的な野党の抵抗に遭い、承認が先送りになってしまったのは心残りなことです。おまけに肝心のアメリカもいったいどうなることやら…。
なお、部会長は、提出法案は読んでくるのが当たり前、とその昔先輩議員から教えていただいた覚えがありますので、それを実践しただけではあります。またそうでなければ、政調審議会、総務会といった党の意思決定機関の厳しい審査を乗り切ることは困難です。今後の部会長に就任される皆さまにもお伝えしておきたいと思います。ただしこんなにブ厚い条約・法案にめぐり合わせることもそう滅多にありませんが(涙)。
◆日韓外相会談合意について
昨年は日韓国交正常化50年の節目の年でしたが、当初は慰安婦問題に関して非難をされ続け、また中国の対日戦勝式典に朴槿恵大統領が出席するなど、両国間の空気は厳しいものでした。もとを正せば李明博大統領の竹島上陸あたりから関係が悪化しており、慰安婦問題に関しても交渉は続けていましたが見通しはできない状況が続いており、11月に安倍総理と朴槿恵大統領の会談が行われできるだけ早期の妥結を目指して協議を加速すべく合意されましたが年内にまとまるとはなかなか予想できない状況でした。
しかし年末に岸田外相が電撃的に訪韓するという報道があり「それぞれ三項目の合意を記者発表しました」という連絡を外務省からもらいました。内容は外務省のページに譲りますが、とにもかくにも非難の応酬がやむであろうことは歓迎すべきことです。もっとも10億円の拠出や在ソウル日本大使館前の慰安婦像など一筋縄ではいかない問題も残っています。また韓国国内でもさまざまな反応があったことも考慮しなければなりません。ただいずれにしても不毛なやりとりを繰り返して失うコストは相当なものであり、お互い100%の納得はできなくても、痛み分けでも、関係を好転させるための重要な合意だったと考えます。おそらくは安倍総理のリーダーシップによる決断が奏功したものと思われます。
年明けすぐに外交部会を開催し、さまざまな方のご意見をいただき一文字一文字吟味するような慎重な調整の上、自民党としての決議[日韓外相会談における慰安婦問題に係る合意に関する決議]をまとめました。その頃を思い出すと正直言って針の穴を通すような決議だったと今でも冷や汗が出る思いがしますが、おかげさまでご了承をいただくことができました。現時点でもまだ合意の実行プロセスは途上ですが、自民党の決議を党・政府とも順守しつつ前進させていただくことを切に願いますし、両国政府もともに合意を順守して問題を解決していくように願っています。
偶然か必然かわかりませんが、合意直後に北朝鮮の核実験があり、日本と韓国が迅速に連携して国連での活動等対処できたことからしても、将来に向けてこの合意の意味は決して小さくないものだと考えます。
◆北朝鮮による拉致・核実験・ミサイル問題について
日韓外相会談合意の興奮冷めやらぬ今年1月6日、北朝鮮が核実験を行いました。またその後弾道ミサイルの発射をはじめ、さまざまなミサイル発射等を繰り返しています。また拉致問題については一昨年のストックホルム合意がありますが、残念ながら全く実行されずに今に至っています。こうした累次にわたる国際社会への挑戦行為や背信的な行為に対し、自民党としても決議[ 北朝鮮による弾道ミサイル発射に対する緊急党声明 ]を行い意思表明をおこなっていますが、現時点では外交的な対策しか日本には打つ手がなく、自民党拉致対策本部の提言を踏まえ、国連決議を受けた制裁強化は行いました。なお歯がゆく忸怩たる思いの中ですが、これを積み重ねていくばかりです。焦ったら相手の思うツボです。
国連決議に基づくものや独自のものを含めて制裁を課し、かつ実効性あるものとするよう周辺国にも働きかけ、圧力をかけることにより彼らの行動変容を迫ることが当面の方策であり、地道に続けていかなければなりません。
◆沖縄での女性殺人死体遺棄事件と日米地位協定
5月に発生した沖縄における女性殺人死体遺棄事件では、在日米軍の軍属が容疑者として沖縄県警に逮捕されました。またその後も米軍人による飲酒運転事故による逮捕等が相次ぎました。沖縄県民の方々から怒りや憤りなどの声が噴出することは当然です。日本の外交の観点からするともちろん日米安保体制は重要なのですが、だからこそ米軍関係者の犯罪等に関する沖縄を始めとする立地地域の皆さまのお気持ちはとても重視しなければなりません。
事件を受け、5月31日に自民党沖縄県連から、自民党三役に対して再発防止や地位協定の抜本改定等の内容を含む申し入れを受け、私も同席しました。谷垣幹事長より、政務調査会でこの件は取り組むようにというご指示をいただき、稲田政調会長のもと担当することとなりました。まず国会終了翌日の6月2~3日に沖縄に出張し、ご遺体の発見現場において献花・黙祷を行った上、名護市および那覇市で地元の方や国の出先機関の方にヒアリングを行い、現状の把握に努めました。その上で関係者の調整を行い、6月16日の外交・国防合同部会の開催後に、稲田政調会長から1)在日アメリカ大使館を訪問して自民党本部としても直接アメリカとの対話の機会をもち、今後も定期化を目指すこと、2)日米地位協定のあるべき姿を検討するために、外交部会国防部会合同で勉強会を行うこと、3)日米で協議が進められていた軍属の在り方の件については引き続き両部会でフォローアップを行うこと、の三点を発表し、翌6月17日には稲田朋美政調会長、大塚拓国防部会長、田中和徳自民党国際局長とともにアメリカ大使館を訪問、ケネディ大使と面談して直接沖縄の方々の怒りの声を伝えました。参院選期間中6月28日~29日にも沖縄を訪問し、選挙の応援や激励をしつつ、糸満市から名護市までの自民党各地域支部を訪問させていただき様々なお話を伺いました。
そして参院選終了後、改めて7月24日~25日に稲田朋美政務調査会長、大塚拓国防部会長と同行して沖縄を訪問し、自民党沖縄県連の先生方と懇談会を行い、翌日には普天間飛行場の視察、佐喜眞淳宜野湾市長やエレンライク在沖縄アメリカ総領事との会談等を行いました。また再びご遺体発見現場を訪れ、稲田政調会長らとともに献花・黙祷をささげました。なお懇談会の際沖縄県連の皆さまから、党本部において沖縄問題に関する常設機関を設置してほしいというご要望を頂き、稲田政調会長が持ち帰っています。新しい体制の下で具合化の方向で検討されるべきでしょう。
そもそも地位協定は、別段日本とアメリカのみに存在する協定ではなく、ある国の軍が他国に駐留する場合に一般的に結ばれるものです。したがってさまざまな地域や歴史的経緯等を勘案しなければ単純な比較はできません。もちろん現在自衛隊が海賊対処のためにジブチに駐留するためにも、地位協定は結ばれています。また日米地位協定は、締結以降改定が行われたことはありませんが、一方で運用改善等が積み重ねられていることも事実です。そうした中で「米軍関係者による犯罪をいかにして無くすか」という視点、あるいは在日米軍と基地立地地域の方々との共存関係をより改善するといった視点に立って、まさに何ができるのか不断に検討し実行し続ける必要があります。
ある先輩代議士いわく「日米地位協定改定は憲法改正くらい難しい」とのこと。ただ自民党はその憲法改正を綱領に掲げ続けて今に至っているわけですし、アメリカも大統領選の結果次第では日米関係全体の見直しを迫られる可能性もないわけではないでしょう。そうしたことを念頭に置きながら、地道に沖縄やアメリカとの関係の維持構築や研究等の取り組みを継続しつつ、機を図ることが大事であろうと考えます。
振り返ってみると、父・龍太郎が総理時代、当時のモンデール駐日米大使と普天間飛行場の返還で合意してから、20年が経過してしまいました。その他の沖縄負担軽減策等は順次実行されていますし、現在も北部訓練場の約4,000haにわたる地域の返還に向けたヘリパットの移設工事や、普天間飛行場移転先としての辺野古への移設をめぐる政府と沖縄県の和解合意に基づく直接協議と司法との両面での取り組みなどが現在進められています。
返還合意の翌朝の父の「ドヤ顔」は今でも脳裏に焼き付いています。その心は沖縄の方々にかかっている負担をできるだけ取り除きたいという一事に尽きていたと思います。残念ながら道半ばですが、今回党本部でスタートさせた取り組みは後進に引き継ぎを行いたいと考えますし、自分も今後どのような立場にあっても、沖縄のことには関心を持ち続けたいと思っています。
◆日中関係について
尖閣諸島国有化等をきっかけに、日中関係はやや冷却した状態が続いていましたが、昨年11月のAPECや日中韓サミット等を契機とした首脳間の会談は持たれています。一方で北朝鮮核実験後、岸田外相の電話会談に王毅外交部長がなかなか応じなかったなど、ぎくしゃくした面もあることも事実です。
中国はAIIBの設立や「一帯一路」構想の推進など、対外的に積極的に進出し支援を行う姿勢を強めています。地域の発展に寄与するものであれば文句をいう筋合いはありませんが、かねて南シナ海において独自の考えに基づく領海の主張を行っていたところ、その中にある岩礁を埋め立てて軍事基地とする工事を次々と完成させているなど、軍事面でも拡張的であることは看過しがたいものがあります。もちろん我が国との間でも尖閣諸島に対して独自の主張を行い、また航空自衛隊による対中機スクランブルが年々増加し、軍艦による尖閣諸島の接続海域への進入等行動を徐々にエスカレートさせていることも決して無視できるものではありません。
そうした中で、フィリピンが提起した訴えに対し、国際海洋法条約に基づく仲裁裁判所が、中国の主張が相当覆される内容の判断を7月に行いました。中国は判断が出る前からこれを無視する構えでいましたが、実際にはそのことで、むしろ中国が国際法を軽んずる姿勢であるようにかえって印象づけられてしまった感があります。中国外交にも焦りが見受けられるように思いました。
もちろん中国とは隣国として友好を深めることが望ましいことは言うまでもないことであり、引き続き微力を尽くしたいと考えています。同時に、国際社会の中でその存在感にふさわしい、周囲の尊敬を自然と勝ち取ることのできる振る舞いを、中国には期待したいものと考えます。
◆ISIL等によるテロの多発
昨年11月13日にパリにおいて同時多発テロ事件があり、死者130名、負傷者300名以上の被害が出ました。その前日には、ベイルート(レバノン)にて43人が死亡、負傷者200人以上のテロが起こっています。今年3月にはフリュッセル(ベルギー)にて空港と駅でやはり爆発テロがあり、死者35名、負傷者約200名がでました。そして7月1日にはダッカ(バングラディシュ)にて武装グループが飲食店を襲撃し、28人が死亡、58名が負傷したとされています。7月14日はニース(フランス)において84人が死亡し202人が負傷する事件がありました。他にも複数の事件があります。これまでにも日本人の犠牲者は累次にわたり出ていますが、ダッカの事件では国際協力機構関係者7名が犠牲となってしまいました。こうして数え挙げているだけでも、辛い思いのする項目です。
実は今年、ラマダン月のテロを勧奨する声明をISILが発していたことを踏まえ、外務省は全世界向けにテロに関する情報提供を行い警告していました。しかし残念ながら日本人犠牲者の発生を阻止するに至りませんでした。ここは改善の余地があると考えるべきでしょう。外務大臣の下で経済協力関係者の安全確保のための検討会が行われていますが、その結果を待つところです。
ISILそのものはイラクやシラクといった地域では徐々に劣勢となっていますし、だからこそ中東・欧州・アジア・アメリカ等でのテロに走っている面もあります。難民の発生などさまざまな問題を引き起こしており、日本は世界各国と協力してテロ組織の根絶に然るべき役割を果たすべきです。であるからこそ在外邦人の安全確保にも、さらに力を入れる必要がある局面であろうと考えます。
なおダッカ事件の際、外務省は政府専用機をいち早く飛ばし、ご遺体を羽田空港で迎えるにあたり萩生田官房副長官、岸田外相が献花を行うなど極めて丁重な出迎えを行いました。このことは、日の丸を背負って海外の発展協力のために活動していた方々の非業の死にあたり、故人の霊を弔い、ご家族を慰め、そして後進を勇気づける適切な対応でした。生放送を見ましたが、正直涙が零れました。このような事件があっても、世界の平和発展のための日本人の海外外協力への情熱は、より一層深まることを願ってやみません。
◆国際連帯税について
毎年晩秋になると、税制改正の議論が自民党本部で行われます。外交部会では唯一の税制改正要望が「国際連帯税の創設」でした。ただ残念ながら、これまで外務省として本気で検討や調整を行ってきていないままに要望だけ行っていた経緯があり、主張はしましたが力及ばず(というか当然の帰結として)、昨年も実現は見送られました。
その反省に立ち、今年度の税制改正要望での実現を目指し、外務省が主体的に検討や調整に動くよう指示をしています。議論が前に進んでいることを願っています。
◆外交力強化・外交勉強会
自民党には高村副総裁を議長とする外交再生戦略会議という組織があり、外交部会長はその会議の事務局長を兼務することとなります。秋の予算編成前の時期、および春の概算要求前の時期にそれぞれ決議をまとめ、政府への申し入れを行いました。これまで縷々述べてきたように外交案件はそれこそ世界中にたくさんありますが、外務省の人員は限られています。また在外公館も建物が古くなったりしているものもあります。人員体制はイギリス並みを目指そう!という目標を掲げて徐々に強化されていますが、まだ達成には至っていません。引き続き粘り強く取り組む必要があります。
また、外交部会には3人の部会長代理と13人の副部会長がおり、非力な部会長を支えていただいていますが、小田原潔筆頭部会長代理にお願いして地域ごとに戦後史を振り返る勉強会を開催してもらいました。日々に発生する出来事に振り回されるのみならず、きちんと歴史を学び長期的な視点を持つことは大事なことです。改めて勉強になりました。
◆できなかったこと
部会長としてさまざまな案件を取り扱ってきましたが、残念ながら手が回らなかったこともあります。一つは、衆議院外務委員会理事を務めましたが、質疑に立つ機会がなかったことです。ただ、関係各位のご努力とご協力により、衆議院外務委員会では提出法案・条約をすべて通過させ、充実した議論を持つことができたことは与党理事の一人としてはよかったと思っています。なお衆院TPP特別委員会でも、マニアックな質問を行うべく準備をしていましたが、これも審議が中断したことにより日の目を見ませんでした。いささか残念です。
またもう一つは、前職の厚生労働大臣政務官の時に、日本年金機構の情報流出事案に遭遇した苦い経験を活かし、サイバーセキュリティに関し外交面で何かできないかという志を持っていましたが、具体的に動かすことができませんでした。いまやサイバーセキュリティが、アメリカ大統領と中国主席の会談の議題になる時代です。外交面でもう少し主体的に動けないかと思っていたのですが…。まあ、隴を得て蜀を望んではいけないのかもしれませんね。
◆改めて外交部会長としての活動を振り返って
今年はG7伊勢志摩サミットが開催され、また8月末には第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)がケニアで開催される予定です。また国連安保理の非常任理事国にもなりました。安倍総理はオバマ大統領の広島訪問を実現させ、ロシアとの長年の懸案をも解決すべく、努力を重ねておられます。こうした時期に外交部会長を務めさせていただいたことは、大変勉強になるものでした。
一方世界に目を転じると、なんとなくこれまで「常識」と思いこんでいたことが覆される事態がたびたび発生しています。そもそも2014年のロシアにおけるクリミア併合と、国際社会が未だにそれを阻止できていないでいることは、第二次世界大戦後の世界の秩序維持の枠組みのほころびを露わにしました。見方によっては同様のことが静かに南シナ海で起こっているとも言えます。そして東シナ海で今後起こらないとは、残念ながら誰にも保証できないでしょう。同様にやはり第二次世界大戦後、秩序維持のための先駆的な知恵だと思われていたEUから、メインプレーヤーであったイギリスが脱退を決めるいわゆるBrexitも、「世界はいずれ統合に向かう」という理想主義的な見方が、いささか楽観的に過ぎたものであったことを再認識させられました。犯罪テロ集団であるISILは決して許されるべき存在ではありませんが、現に実力を有して一定地域を支配していることも、遠い世界のこととして片づけるわけにはいきません。アメリカ大統領選挙においても、かなり凄まじい主張の多いトランプ氏が共和党候補になると予想した人は、昨年時点でどれくらいいたでしょうか?しかしそれが現実です。日米安保体制も場合によっては議論のテーブルに乗り得るわけです。
戦後70年が経過し、平和秩序維持のためのさまざまな理念やメカニズムを支えていた人々が世代交代し、当初の在り方から変わってきていること、そして変わらざるを得ないことを、私たちは必然のこととして正面から受け止めなければならないのでしょう。歴史から先人の意志を学び、未来に向けて新たな平和秩序維持の仕組みを構想し、現在を改革する取り組みが絶えず求められているのです。残念ながら国連改革一つとってみても遅々として進みませんが、投げ出すわけにもいきません。
そうしたことを感じながら、自民党外交部会長という役目をいただいて、日々目の前の課題に対してもがき続けてきました。わずかなことしかできませんでしたが、学ばせていただいたことは、今後の政治生活の糧にしたいと考えています。
自民党政調事務局の田村さん、橘さん、田中さんには、緊急の案件やらなかなか片付かない懸案やらが日々発生する中で、円滑に物事が進むように絶大なるサポートを頂きました。心から感謝申し上げます。また今回、外務省には多くの優秀な官僚の方が日々世界各地で日本を代表して頑張っておられることを認識することができました。深く敬意と感謝を申し上げます。中でも小野啓一・前官房総務課長にはカウンターパートナーとして日々あれこれ相談させていただき大変助かりました。ありがとうございました。先日北米局参事官に転出されましたが、日米地位協定の件を担当されることになりましたが、しっかり取り組んでいただけるものと期待しています(追記:そんなことを書いていたら、稲田朋美政調会長が防衛大臣に起用されるという報道に接しました。沖縄を巡る事柄はずっとご相談しながら取り組んでいましたので、まさに担当閣僚として経験を生かしていただきたいと切に願います)。またその他にも多くの方々、あるいは各国の大使館の方々ともお話しすることができました。こうした経験は僕にとって貴重な財産です。深く感謝を申し上げます。
地元の倉敷・早島の皆さまには、あんまり地元と関係のない役職だったのですが、快く部会長としての活動をお許しいただきました。おかげさまで心置きなくお役目に全力を尽くすことができました。心から御礼申し上げます。引き続きましてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
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