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2016年5月 4日 (水)

自民党性的指向・性自認に関する特命委員会「議論のとりまとめ」等について

 先日4月27日、自民党政務調査会性的指向・性自認に関する特命委員会として、「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」等を決定し、公表しました。なお「議論のとりまとめ」の末尾に記されている法案ですが、現在条文化の作業中であり、連休が明けて改めて党内手続きを経、公表されることとなる見通しです。ただし内容としては、国として性的指向・性自認の理解増進を目指すべきことを目的とした理念法に近いものになります。

 このことについて、さっそくネット等で様々なリアクションを頂いています。いかなる内容のご意見であれ、まずはご注目を頂きお目通しくださったことに深く感謝申し上げます。その上で、特命委員会事務局長として本件に深く関わった者の個人的な見解として、いくつか補足したいと思います。

◆え、あの自民党が?本気?信じられない!!という件

 自民党には、2012年の解散総選挙にあたりレインボープライド愛媛が行った政策アンケートにて、「人権問題として同性愛者や性同一性障害者らの性的少数者について取り組んでいくことをどう思われますか?」という設問に、堂々と「人権問題として取り組まなくてよい」という回答を寄せていたという事実があります。また、国会、地方議会を問わず、問題発言として非難されるような発言が注目されてしまう自民党議員もしばしば見られます。日本における政党の中では、性的指向・性自認の多様性とそれにまつわる諸課題について、自民党は正直関心が薄く、消極的な取り組み方しかしてこなかった政党であったと思います。そのことを否定するつもりは全くありません。

 党内では2013年4月から、馳浩座長、牧島かれん事務局長、ふくだ峰之代議士、橋本といった面々で勉強会や当事者の方々と交流会を行う動きがありました。この時にいろんな方々のお話を伺えたことは個人的にはとても勉強になりましたが、自民党内では非公式の有志の勉強会という位置づけに留まっていました。

 しかし、今年に入ってから稲田朋美政調会長からこの特命委員会を作り検討するようご指示がありました。自民党の政策責任者が指示を出したことはとても重く、ただちに古屋圭司代議士が委員長に任命され、組織として対応することになりました。そして約3か月の突貫工事ではありますが、稲田政調会長にも折々にご出席を頂きながら、古屋委員長のリーダーシップのもとメンバーの方々に熱心なご議論を賜り、今回のとりまとめ等ができたわけです。今回の成果物は今後の自民党の正式な政策方針となるものであり、これに従って今後具体化の作業に取り掛かることとなります。

 単に恰好をつけただけのアリバイ作りでは?と疑う向きもあるようですが、今後これらに記した通りに自民党や政府が動いていないようであれば、それこそ非難の対象となることは当然のことです。また、政府への要望(案)については、各省庁と事前に調整の上作成しています。手続き上、政府への申し入れの実行は連休明けになりますが、概ね実現可能であることは確認済みです。私たちとしても、申し入れ後のフォローアップまで行うことは当然に必要なことだと思っていますし、政府が動いていなければさらにネジを巻くこととなります。

 なお今回の議論にあたり、特命委員会でのヒアリングや議論に加え、LGBT法連合会が公表している「性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト(第2版)」を相当参考にさせて頂きました。この場で記し、深く感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

 また、さはさりながら、特命委員会にてとりまとめたばかりで、国会議員・地方議会議員をはじめとする自民党全体への周知はまだこれからです。古屋委員長から「わかりやすいQ&Aを作成しよう」と言われており、今後取り組まなければなりません。国政・地方政治を問わず、自民党内にこの問題に対する深い理解が広まれば、相当物事が動きやすくなるのではないかと思います。


◆カムアウトする必要のない社会ってどういう意味?の件

 ここは、補足の必要な点ではないかと思います。実は自民党における検討の際に最も意識にあったのは、自分の性的指向や性自認について「他の人と違うかもしれない」と自覚しながら、「こんなことを口にしたら周囲から非難されるかもしれない」と深く葛藤している方や、また実際に口にして、あるいは意図せず暴露されてしまい非難されたり、いじめの対象になってしまったりする方たちのことでした。「私は同性愛者です!」と既にオープンにして活動している方は、もちろん深い葛藤はあったと思いますが、たくさんあるハードルの一つは乗り越えているとは言えるでしょう。実は「人知れず一人で悩んでいる方」こそが、最も深刻な状態にあるのではないか、という共通認識がありました。

 現状を振り返ってみると、この委員会の最初の役員会にて、セクシャルマイノリティの方が7%程度存在するという調査結果を知って「え、そんなにいるの?ホント??」ととても驚く議員がいた程度に、存在は知っているけど「自分の身の回りのことと思っていない、すなわち自分の身の回りにいないものと思いこんでいる」方が少なからずおられるのが現状です(統計的に言えば、例えば衆議院議員定数475人中、仮に5%として20人以上いておかしくないのですが…)。そしてそのことが、不当な差別や心無いいじめの大きな原因なのではないでしょうか。人にとって、自分の存在が周囲や社会から無視されていると感じることほど辛いことは、ありません。時として自殺にまで繋がってしまう理由はその点にあるものと思います。

 だとすれば本質的な解決策は、性的指向や性自認の多様なあり方についての社会的な認知を後押しすることであり、形式的に差別やいじめを禁止することではない筈です。例えば最低「自分の身の回りで、約20~30人に1人くらいは、性的指向や性自認が典型的ではない人が当たり前に必ず存在する」という一事だけでも周知徹底が図られれば、もう少し平たく言えば例えば「自分の身の回りにもゲイの人やレズビアンの人や性同一性に悩んでいる人も普通にいるよね」という社会的認識が広がれば、そうなれば当事者の方も自分の存在を悪のように悩み、またそのことを思い切って口にするかどうか深刻に悩む必要がなくなるのではないかと考えます。それが目指す「カムアウトする必要のない社会」だと僕は理解しています。もちろん容易な目標だとは思いませんが、理想は高く掲げていたいものです。例え大風呂敷と言われようとも。

 なお、その実現にあたり、もちろんカムアウトする人(というか自分の性的指向や性自認について周囲に語る人)がおられることは大事なことです。このことは、4月27日にBSフジ「プライムニュース」に出演した時にも発言しました。僕が言いたいことは、カムアウトと気張る必要なく、必要な時に口にでき、それが受容される社会であることが望ましいことということです。また少なくとも「理解増進」という目標の実現には、カムアウトした当事者の方々のご協力が絶対に必要です。カムアウトする人を減らしたいのではないかという見方もあるようですが、目標と整合しませんし、そもそもそのようなことは全く考えていません。

 ちなみに、僕がこの問題に触れるきっかけになったのは、あるコミュニティにおいて参加者の方がご自分の性的指向についてカムアウトする場にいた(メーリングリストだったのでメールを読んだのですが)ことです。その際のご本人が記された心境や周囲の方の暖かい受け止め方など、とても印象に残っています。外見上普通に見える人が、実は他の人には理解してもらい難い、存在も認めてもらえない、隠さなければならない(と思いこんでしまう)ような悩みを抱えているというのは、それは辛いことだろうと察しますし、思い切って口にするハードルの高さというのは時として絶望的にも思えるものです。飛んでみたら意外に簡単にクリアできる場合もあるのでしょうが、リアクションによっては本当に絶望の淵に叩き込まれる場合もある。ただその際の問題は、結果として絶望の淵に叩き込んでしまった相手の人も、単に必要な知識がない、誤解に基づく態度でしかなかったのかもしれないことです。それは純粋な悲劇としか言いようがありません。やっぱり社会全体のハードルを下げることが、まず大事だと確信しています。

◆差別禁止に後ろ向きではないか?の件

 実際にさまざまな現場で、いじめや差別のようなことがあるのは現実だと認識しています。採用や解雇における不当な取り扱いや、教育現場でのいじめや職場のハラスメント対策は、既存の枠組みを活用することで相応の効果が期待できるものと思います。これらのことは「政府への要望(案)」に盛り込んでいます。従って「差別禁止に後ろ向き」という批判は必ずしも当たりません。

 また当然ながら、前述のように性的指向や性自認に関して認識を広げる努力を重ねた上で、なお意識的、ないし悪意により差別されたりいじめられたりする例が多数存在するようであれば、改めて方策を講じる必要があるかもしれません。

 ただ現時点では、そもそも認識不足が問題なのですし、かつそれが故に何が「差別にあたる」のかも一般に共通認識ができているとは認め難いのではないでしょうか。性的指向や性自認に関する認識がまだ一般的に十分でない状況下で、差別禁止の名目で新たな規制や体制・制度を設けることは、運用によってどのような状況が生じるのか予測がつきにくく、場合によっては結果として事業者や一般の方の生活や言動に対する不当な行政介入の口実を作ることに繋がる可能性まで考えられます。特命委員会ではそこまで議論した上で、まずは理解増進を目指そうという方針となっています。

◆同性婚およびパートナーシップ制度等に関する件

 まず同性婚についてですが、憲法24条は「婚姻は、両性の合意に基づいて成立し」と書いてあります。両性というのは単一の性ではなく、すなわち男性と女性と解するのが自然だと思います。もちろん、異なる解釈(例えば、親その他の介入を排除して本人たちのみの合意で決めるべきことを規定した条文であり「両者」と解すべき、といった解釈)をとられる方がいることは承知していますが、しかし両性と書いてあるものは両性と解するのが順当でしょう。また、書いていないが禁じられてもいないというご意見もあるようですが、それを言い出せば何でもありの憲法になってしまいます。憲法の他の条文の解釈とも整合的に議論をすべきことでしょう。

 また民法的にも(これはこれで議論がありますが)再婚禁止期間の規定があること等に見られるように、現時点では婚姻と「両者間で子をなすこと」はセットで考えられていることも、あわせて念頭に置かなければならないでしょう。恐らくはこのことを理由に、夫婦関係にはさまざまな義務と権利が認められてきたという歴史的経緯は踏まえておく必要はあると思います。そういう目で見ると、仮に同性婚を検討する場合、男性同士の組み合わせの場合にはその間に実子ができる可能性はありませんが、女性同士の組み合わせの場合、最近は人工授精等の手段により実子が生まれ得ることも頭におかなければなりません。男性同士の場合と女性同士の場合を、一概に同性婚として同列に扱ってよいのか、議論が必要かもしれません。

 同性婚ではないパートナーシップ制度については、それが婚姻に類するものという前提なのであれば、憲法上の抜け穴を作るような話とも解されることであり、本来は憲法改正を求めるのが筋であろうと思います。ただし、婚姻と養子以外に、血縁関係のない人を家族にする新しい制度をつくるべしという趣旨であれば、同性愛当事者の方々のみならずその他の方々のご意向も踏まえ検討の余地はあるかもしれません。そうしたさまざまな議論があり収束の道筋も見えない中ですから、まずはパートナーシップ制度についても国民的な理解と議論が前提であろうと整理をしたところです。

 なお一部メディア等の報道を見ていると「LGBT問題=同性婚」というように感じてしまう時があります。しかし同性婚ないしパートナーシップ制度は、直接的には周囲に対してカムアウトしている人にしか恩恵がありません。同性婚を認めれば当事者の方々の要望が満たされるのかといえば、全くそんなことはないでしょう。ですから自民党内の議論では、むしろ周囲に言えずに苦しんでいる人や、言わないで自分の生活を過ごしている人にも光を当てるべきではないかという議論が行われ、そのためまずは現行制度内でできることを、しかし網羅的に推進しようというアプローチをしているのは先述の通りです。

 また民間同士の契約に基づく関係、すなわち雇用関係等は、法令に違反しない限り自由であるべきです。企業の中で、同性カップルを婚姻関係と同様に扱う事例がありますが、これは企業の裁量の範囲内でしょうし、特命委員会の問題意識からすれば歓迎すべきことだと考えます。「政府への要望(案)」でも、政府においてそうした事例の収集や情報提供を行うべきことを記しています。

 あと、一部に「同性婚を認めると少子化が進む」という言説が見られますが、橋本個人としてはこれは客観的根拠がなく不適切な議論だと考えています。そもそも同性婚を認めていない現状でも少子化に歯止めがかかっていないために地方創生とか一億総活躍とか取り組んでいるわけですから、まあそれとこれは関係ないでしょ、と思います。ここは党内で議論してQ&A等で整理したいと考えています。


◆その他

 歴史的経緯で挙げている例が不適切とか、その他にも論点はあろうと思います(これは不勉強ということもあるとは思いますが、あまりあからさまに性行為等の在り方について公式的文書で触れることは控えたかったのです…。そりゃまあ男色とか衆道とか寵童とかいう言葉もありますし、いわゆる腐女子ややおい文化にまで筆を伸ばせばさらに現実に迫る例示になったかも知れませんが、自民党としてはそこまで議論できていませんので…)。

 他にも苦労したのが言葉づかい。当事者の方々について、メディア的には「LGBT」や「性的マイノリティ」という言葉が一般的です。ただLGBTは限定列挙的表現であり、含まれない人がいるという指摘がついて回ります。実際WikipediaのLGBTの項では最長LGBTTQQAIAAPという略語まで紹介されています。また「マイノリティ」「少数者」は、実数としては事実なのかもしれませんが、どうしても優劣に受け取られかねない、あるいは対立的に受け取られかねないきらいがあり、個人的には使いたくない言葉でした。その末に「性的指向・性自認に関する当事者」といった若干こなれていない言葉を使う結果となりました。また、特定の性的指向・性自認を「正しい」とするような表現を避けるべく、「性的指向・性自認の多様性/多様なあり方」という表現をフル活用しています。さらにある団体からは、性的指向の問題と性自認の問題は別だから並べないでほしいというご要望も伺ったりしまして、なかなか難しいなあと未だに頭をひねっています。これも自民党としての現時点での提案だとお考えいただければ幸いです。なお「議論のとりまとめ」にて「性的指向・性自認の多様性の意味するもの」としていくつかの認識を整理させて頂いたことを始め、議論の足掛かりを自民党内に作れたことは実は最大の進歩だと思っています。

 いずれにしても、限られた期間ではありますが、多くの議員の熱心なご議論やアドバイス、ご理解・ご協力を頂いて成果を発表するに至りました。お力を頂いた特命委員会役員はじめ議員各位、またご協力いただいた団体・個人・企業の方々に深く感謝申し上げます。各省庁や衆議院法制局、自民党政調事務局の担当各位も慣れないテーマの仕事でもしっかり頑張ってくれました。個人的にも「あの」自民党の中でここまでの議論ができたことは、ささやかに感慨深いものがあります。ただ、まだ絵に描いた餅にすぎませんから、実現に向けて引き続き前進させなければなりません。

 今後についてですが、この問題は与野党対立的になるテーマにはしたくないと個人的には思っています。まずは連休前に、連立与党である公明党さんにはご説明に伺いましたが、他党や超党派議連にも必要があれば、あるいは機会を頂ければご説明に参上したいと考えています。引き続きご指導・ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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