厚生労働大臣政務官退任にあたり
10月7日、第三次安倍改造内閣が発足しました。岡山の先輩・加藤勝信代議士の一億総活躍大臣としての入閣など、政権の安定性とともに経済・社会対策を前面に押し出す姿勢を示した改造だったと思います。慣例により閣僚人事に伴い副大臣・政務官も人事異動が行われます。橋本がくも、昨年9月4日付で医療・介護・福祉担当の厚生労働大臣政務官に着任しましたが、おそらく今回で退任する見通しです(追記:10月9日に後任が閣議決定されたので、無事退任となりました)。
この一年間を振り返ってみると、厚生労働省の幅広い仕事に関わらせて頂きとても勉強になりました。また私からもあれこれ注文をつけた部分もあるので、何がしかのよい影響を厚生労働行政に残すことができたら嬉しいなと思っています。私が主に関わってきた仕事について、いくつか振り返りをしてみたいと思います。
◆医療事故調査制度
10月1日、医療事故調査制度が施行されました。これは昨年6月に成立した医療介護総合確保法において制度化されましたが、もとをたどれば十数年にわたる厳しい議論があり、政権交代前には別の方式で法案化一歩手前まで行ったものの棚上げされ、民主党政権下で再出発して自民党政権もその方針を引き継ぎ今回制度化に至ったものです。
政務官着任時には法律は成立していましたが、制度の詳細を決める省令等の内容を検討する必要がありました。昨年11月4日から今年の2月25日にかけて6回にわたり「医療事故調査制度の施行に係る検討会」が開催されました。第1回冒頭のご挨拶で「一度起きてしまった不幸な事態について、きちんと調査をして教訓を学ぶということで、同じような誤りを二度と起こさないようにする。そのことを通じて医療事故を1件でも減らし、国民が安心して医療を受けていただけるようにすることがこの制度の目指すところです。そこにぜひ狙いを定めて御議論をいただければありがたい。」と申しました。激論がありましたが、最終的にはそのような趣旨に則ったまとめを検討会の皆さまにまとめて頂きました。
また、複雑な経緯をたどったこともあり今回の制度のねらいをより正しくご理解いただけるよう、Q&Aを作成して公開しています。ご参考にしていただければ幸いです。
長年の議論の着地点に参画することができたことに感謝するとともに、今回の制度が目指すものが今後実現してゆくことを願ってやみません。
◆厚生労働省まち・ひと・しごと創生サポートプラン
ちょうど昨年、私が厚生労働省に着任した内閣改造で、石破茂・地方創生相が誕生しました。地方創生は日本の将来にとって極めて重要な意味を持つ政策だと考えていますが、なんとなく厚生労働省内では他人事感が漂っていました。しかし、国民のくらしや仕事に直結する所管分野を持つ厚生労働省がそれではダメで、むしろ地方創生を牽引するのは厚労省だ!というくらいの気概が必要だ!と考え、省内で若手検討チームを立ち上げ、厚生労働省としてもビジョンを定めることにしました。
その結果今年3月にまとめたものが「厚生労働省まち・ひと・しごと創生サポートプラン ~頑張る地方を応援します~」です。各自治体や地域のみなさんに参考にしていただきたいと思いますし、このプランの中で課題となった「人口減少下での福祉サービスはどうあるべきか」という命題は、後述する「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」に引き継がれることとなりました。
◆新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン
厚生労働省は高齢者・障害者・児童・生活困窮者など、さまざまな必要を持つ方々に対して公的に提供される福祉を所管しています。それぞれの分野ごとに課題を抱えつつも着実に充実させてきたものと思いますが、一方で縦割りの弊害も日々感じていました。特に、昨年9月に千葉県銚子市で発生したシングルマザーが無理心中を図ろうとして中学生のお嬢さんを手にかけた事件に関し今年6月に懲役7年の地裁判決が出された報道を見た時には、本当に愕然としました。これまで発展してきた各福祉分野の専門性を生かしつつ、もっと包括的に支援を必要とする人や世帯にアウトリーチし、寄り添える仕組みを考えるべきではないかと思いました。また「まち・ひと・しごと創生サポートプラン」の関係で石川県の社会福祉法人佛子園の各施設を見学させていただき、さまざまなサービスや機能を一体的に提供している姿に感銘をうけたことも引き金になりました。「まち・ひと・しごと創生サポートプラン」からの課題も引き継いでの検討が必要でした。
そこで6月末に、鈴木社会・援護局長、三浦老健局長、安藤雇用均等・児童家庭局長、今別府政策統括官(社会保障担当)、藤井障害保健福祉部長(肩書はいずれも当時)による省内横断プロジェクトチーム及び幹事会を結成していただき、議論を重ねて9月にまとめていただいたのが「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」です。
既にこのビジョンに基づいて概算要求も行っていますし、今後各論の具体化を、行程表を作成して進めるよう指示を行いました。引き続き見守ってゆきたいと思っています。
◆医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会・クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会
医療や介護等の分野で、ICTを活用して施設間や保険者等の情報連携を行うことにより検査や投薬の重複を排除し、より効果的な治療を行うような仕組みの実証実験が各地域で行われています。これを全国的に進めるためには個人を認識するための番号制度がカギとなります。厚生労働省ではかねてから医療等分野における番号制度の活用に関する研究会を行っており、昨年12月に「中間まとめ」を発表しました。かねてから医療等分野のICT化は関心を持っており、また私の大学院時代の指導教官であった金子郁容・慶大教授が座長を務めて頂いていたこともあり、出席させていただいていました。プライバシーへの配慮や情報漏えい等への対策を前提としつつ、よりよい医療や介護の提供のために避けて通れないテーマです。
その後、総務省の長谷川岳大臣政務官よりクラウドやモバイルなどを前提とした勉強会をしようとお声掛けいただき、両省で「クラウド時代の医療ICTのあり方に関する懇談会」を開催しました。こちらでもさまざまな議論がありましたが、私からは診療報酬上の評価を検討すべきではないかといった意見を申し上げました。
医療等ICT化は、塩崎厚労大臣がリーダーシップをとってまとめられた「保健医療2035」でも取り上げられていることもあり、今後は塩崎大臣のもとでより積極的に進められるものと思います。
◆難病等の対策
昨年の6月に難病医療法等が成立しました。この法案の作成にあたっては、自民党難病対策PT事務局長として携わっていましたし、当選一回生の頃から関わっていましたので感無量でした。よって9月に着任してからは、法律に基づく医療費支援の施行に向けた病気の指定や、法律に定められた「基本的な方針」を定めることが厚労省の主な仕事となりました。今年9月15日に「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」が告示され、医療支援のみならず就労支援等を含む生活全般に対し支援を行う方針が決まりました。今後この方針に沿って具体的な施策が充実することが期待されます。
また、指定難病に含まれなかった疾病の方々からもさまざまなお話を伺いました。ひとつひとつ担当と話をしながらできる対策を講じますし、前述の「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」はそういった方々も意識してはいますが、まだ宿題も残っています。繊維筋痛症の患者会の方からお預かりした「体験セット」がまだ政務官室に置いてありますが、そのまま次の厚労大臣政務官に引き継いで頂くつもりです。
◆日本年金機構不正アクセスによる情報流出事案
今年の6月1日に塩崎厚労相が発表した標記事案には、多くの皆さまにご心配とご迷惑をおかけしたことをまずお詫び申し上げます。犯人による執拗な攻撃の結果とはいえ、約100万人の方々の年金番号や氏名等の情報を外部に漏えいしました。この責任をとり塩崎大臣以下、私も含めて政務三役(大臣、副大臣、大臣政務官)は全員給与自主返納を行うとともに、村木厚子次官(当時)および水島藤一郎日本年金機構理事長以下、多数の職員が処分を受けました。
本件の対応には相当時間を割くこととなりました。実は年金局は僕の担当ではありません。そのため事案を知らされたのは大臣が記者会見して発表する一時間前という有様でした。しかしなにせ厚生労働省にはサイバーセキュリティはおろかICTの専門家がCIO補佐官以外はほとんどおらず(そこも問題点の一つなのですが)、私も決して専門家とは言えませんが、後述のように衆議院厚労委員会対応を行わなければならなかったためかなり口を挟ませていただきました。
特に厚生労働省が9月18日に発表した「情報セキュリティ強化等に向けた組織・業務改革―日本年金機構への不正アクセスによる情報流出事案を踏まえて―」をまとめる上では、塩崎大臣より命を受け作業に参加しました。再発防止のためにはまず自らを反省し総括する必要がありますが、この部分はかなり厳しく筆を加えました。特に、問題発生時に表面化する厚生労働省の「悪い報告が上にあがらない」体質は、早急に是正しなければなりません。9月30 日にワシントンD.C.に出張し、アメリカの状況をヒアリングしてきました。同地でも政府機関からの大量情報流出があったため、サイバーセキュリティへの危機感の高さを肌で感じてきました。今後の再発防止策の実現にあたり、こうした経験が次に繋がることを期待しています。
◆国会対応など
衆議院厚生労働委員会では、厚生労働省代表として理事会の陪席を務めました(ちなみに参議院厚生労働委員会は官房長が陪席)。昨年の臨時国会および今年の通常国会は、労働者派遣法改正案、戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法案、国民健康保険法改正案、医療法改正案など、重要な議案が目白押しで、その上に日本年金機構不正アクセスによる情報流出事案やいわゆる「10.1ペーパー」問題も重なり、両院厚生労働委員会の皆さまには長時間にわたり極めて真摯にご審議を賜りました。結果、今年の通常国会では、衆議院では会議回数および審議時間で厚生労働委員会がトップ(40回、148時間)という記録を達成しました。委員会のセット等を議論する理事会や理事懇談会も、委員会前後に開かれることが通例のようになっており、他委員会よりも委員長や理事の皆さまのご負担も大きかったと思います。私が理事会で発言する回数もかなり多かったのは遺憾ですが(陪席が発言する機会は、多くが政府答弁の補足説明や謝罪等なので…)、たくさん勉強させていただきました。感謝申し上げます。また答弁に立つ機会も多くいただきました。
また、当選1~2回の自民党の若手議員の皆さまに声をかけて、厚労行政勉強会を行っていました。最終的に18回を重ね、厚生労働省が所管する各分野についてディスカッションする機会を持ちましたが、将来的にこの中から日本の厚生労働行政を背負って立つ方が現れることを期待しています。
◆その他
エボラ出血熱疑いの患者さんやMARS疑いの患者さんの発生があった場合には、毎回大臣以下私にも連絡が入っていました。今年の夏のデング熱も含め、結局国内において患者の発生がなかったのは幸いなことですが、引き続き緊張感を持って対応しなければなりません。
東日本大震災復興支援から、広島県の土砂災害、御嶽山の噴火、茨城県等の水害に至るまで、災害対応もありました。緊急医療派遣チーム(DMAT)の派遣や上水道の確保、避難者のケア等、厚生労働省の役目も重いものがあることを改めて確認しました。
また戦後70周年の節目の年に、援護行政を担当することができたのも光栄なことだったと思います。収集したご遺骨のDNAデータベース化や、日本武道館で8月15日に行われる全国戦没者追悼式に若い方に参加して頂いたり、献花の順番についてご遺族を先にするよう変更させて頂いたりしたことも、細かいことですが後世に残るといいなと思います。
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以上、振り返ってみれば、いろんなことに手を出すうちに、あっという間に一年が経ってしまった気がします。もちろん塩崎恭久大臣はじめ永岡桂子、山本香苗両副大臣、高階恵美子大臣政務官のご理解とご指導あってできたことですし、村木厚子前事務次官、原勝則前厚生労働審議官(橋本龍太郎厚生大臣と直接重なっている最後の現役の方でした)以下厚労省幹部および職員の皆さまにご苦労を沢山おかけして、ご協力を頂いてなしえたことです。厚く感謝申し上げます。特に「まち・ひと・しごと創生サポートプラン」や「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」などでは、若手の方々が中心になって(もちろん幹部もそれをしっかり支援して)仕事をまとめていただき、霞が関の次代に希望が持てることを確信しました。…というのは同じような世代か僕の方が年下なのでちょっとエラそうで、言い方を変えれば気軽にいろいろムリを言って聞いていただいた方々ということで、森真弘(政策統括官付社会保障担当参事官室政策企画官(当時))、熊木正人(社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長(当時))、三浦明(大臣官房総務課企画官(当時))の各氏のお名前を代表としてあげ、その他多くの方々とともに深甚なる感謝(と若干のお詫び)の意を表します。また最後に、政務官室の水村主任秘書官、遠坂秘書官、斎藤さん、運転手の村松さんにはとても暖かくサポート頂きました。おかげさまで快適に大臣政務官生活を過ごすことができました。ありがとうございました。
なんとなく引退の辞のようになってきましたが、別に政治家を引退するわけではありません。まだ今後どうなるかわかりませんが、引き続き新たな立場で、国民の「ひと、くらし、みらいのために」仕事する厚生労働行政に関わってゆきたいと思います。
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