医療事故調査制度の検討会とりまとめにあたり
3月20日、厚生労働省において記者会見が行われ、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」のとりまとめが発表されました。会見には検討会の山本座長および厚労省の担当課長・室長が出席し質疑対応をしましたが、僕も衆院厚生労働委員会理事会の終了後会見室に駆けつけ、厚生労働省を代表して山本座長および構成員の方々へのお礼と、今後具体化作業にあたる決意を申し上げることができました。
●「医療事故調査制度の施行に係る検討会」における取りまとめについて(厚生労働省)
個人的には医療事故調査制度については当選一回のころから足かけ7年にわたって議論に加わってきました。もちろんこの議論そのものは1999年に発生した都立広尾病院事件において医師法21条の解釈が争点となり、2001年に日本外科学会が診療行為に関連した「異状死」について声明を発表して以来、長年にわたる議論が積み重ねられてきた経緯があります。紆余曲折を重ね、一度は法案化一歩手前までまとまりながら挫折する一幕まであった中で、ある種の「着地」の瞬間に立ち会えたことは政治家としても本当に幸運なことでした。
僕が関わるようになったのは、平成20年正月のある晩に、「第二次試案に反対してください」という医師の方々からのメールを一夜にして何十通も頂いたことがきっかけでした。一体これは何だろうと興味を持って調べ始め、いろんな方に話を伺い、国会でも二度質疑をしました。そのあたりのいきさつは、当時メールを送る側であった方のブログにても記されています。
●医療事故調に関する国会質問(>▽<)!!!by 橋本岳衆議院議員
●平成20年2月28日 予算委員会第五分科会 (第169回通常国会)
●平成20年4月22日 決算行政監視委員会第四分科会(第169回通常国会)
この頃に議論されていた案は、その後「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」として取りまとめられましたが、必ずしも医療界全ての関係者から賛同を得られることができずに法案の国会提出が見送られ、翌21年の政権交代により棚上げされることとなりました。僕も同時に国会から去ることとなり、縁が切れたかに思われました。
ところが民主党政権下でも再び医療事故調査制度に関する検討が再開され、院内での事故調査を基本とする仕組みとして一昨年に検討会の取りまとめが行われました。この頃には安倍政権となっており僕も再び国会に戻っていました。自民党内でも僕が座長を務めていた死因究明推進PTでヒアリングを行ったりしましたが、昨年6月の医療介護総合確保法の成立により医療事故調査制度の創設が決定しました。そして9月に僕が厚生労働大臣政務官を拝命し、所管することとなりました。不思議なめぐり合わせというべきでしょう。
所管にあたり最も気にしたことは、挫折した大綱案の二の舞になってはいけないということでした。もちろん法律は成立していますから実現をしなければなりませんが、しかし院内事故調が中心となるこの制度では現場の医療者の方々が納得して頂かなければ、円滑な施行は望めません。どうせ実現するからには、極力幅広い立場の方々にご納得をいただけるものにしなければならないということは常に意識しました。
もっとも、検討会がスタートしてからは正直出番はありません。構成員の方々のご議論に厚生労働省が口を挟むことはできません。選挙が重なったため全出席は叶いませんでしたが、せめて極力出席してご議論を伺いました。当然、資料の類や意見書、頂いた要望書、お預かりした書籍やDVD等はすべて目を通しています。その上で、僕にできることは検討会に座っていることだけでした。一議員だったときは好きなことを発言できましたが、立場を背負うとかえって自由にものが言えなくなりますからこれは致し方ありません。
検討会の議論は、これまでの議論の積み重ねが凝縮された激しいものでした。主に患者ご遺族の立場の方々と医療者の立場の方々の対立の構図がくっきりと浮かぶものでした。大切なご家族を不本意な形で喪われていたり、誠実に医療行為を行った結果無実の罪で逮捕される経験をお持ちだったりする方がそれぞれにおられます。当然切実な議論になります。そもそも医療事故調査は、誰もハッピーな人がいない状況の中で行われる宿命にあり、当然感情的にもなることでしょう。過去十数年にわたり議論がなかなか交わらずに来たのも故のないことではありません。一部メディアやメール媒体において、僕が医療事故調制度を骨抜きにしようとしているといった情報が流されたりして不本意な思いをしたこともありますが、それだけそれぞれの方々の想いが強いということなのでしょう。
ですから、今般発表されたとりまとめは、まとまったという一事をもって唯一最高の解だと思います。構成員のそれぞれのお立場で不満な点が残らなかったわけではないと思いますが、「医療安全の向上」という一点で合意を形成して頂けたことは、いくら感謝をしても足りません。ここに至るまで長年にわたりさまざまな場で多くの方が検討に参画して頂きました。その全ての方々に心から深く御礼を申し上げます。
「人は誰でも間違える」という言葉は安全学上の大命題です。その視点に立って、ただ単にミスを起こした人が処罰されるのではなく、この制度を通じて誰が担当しても同様の事故が再び起こらないシステム的な対策が医療現場において実現されるようになることを願ってやみません。また同時にこの言葉を裏返すと「人は誰でも間違いの被害者になりうる」という理解もできます。事故調査を次の安全に活かす取り組みには、必ず不本意な犠牲を伴うことも、決して忘れてはなりません。その観点でご遺族に対して誠実に接していただくことも必要です。山本座長は記者会見で「今回の制度は、医療界の自主的な取り組みに信頼を置いている」と語られたそうですが、まさにその通りだと思います。その思いは、ぜひ現場の医療に携われる皆さまに汲んでいただければ幸いです。
なお厚生労働省としては、10月の施行に向け、医療事故調査・支援センターの指定、支援団体の告示、医療機関や国民への普及啓発など、まだまだ残された仕事はたくさんあります。頂いた取りまとめを生かし、引き続き準備を進める所存です。関係各位のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
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コメント
先の地方選で先輩が無所属で当選し、その後自民党に入党しました。岳先生のために頑張らせます!!
投稿: 嶋 俊明 | 2015年4月27日 (月) 10時57分
橋本先生こんにちは。
ご無沙汰しております。
小野です。
医療事故調査制度については、新聞記事と合わせて拝読させていただいております。ついに、ここまでやりとげられ、さすが!橋本先生!と思いました。
常日頃は、私も、先生の吉岡の事務所近くの回転寿司屋さんに行くたびに、先生を陰ながら応援させていただいております。
あのお寿司屋さんは、今どきの他の回転寿司よりしっかり食べ応えがあって、穴場ですね。話が脱線してスミマセン。
今回は、健康保険料の抑制策についてなので、分野がちょっと異なりますが、厚生労働省関係ということで、ご容赦ください。
結論から申し上げると、医療費の窓口負担を二段階にすればいいのでは?と思いつきました。
また、誰の負担も増えることなく、保険財政を改善できます。
まず、現在の日本の健康保険制度では、健康な現役世代が保険料を多く拠出し、医者にかかる場合は、そこそこ低い窓口負担で、比較的質の高い医療サービスを受けることができます。
しかし、手軽に医療サービスを受けられるが故に、高齢者がどこも悪くないのに日課のように病院へ通ったり、過度に神経質に自分をいたわる人が、ほっとけば治るような不急の症状でもしょっちゅう医者に診てもらいに行ったりしています。私の祖母や父がそうです。いわゆる「かまってちゃん」で困ってます。
相互扶助の精神は結構ですが、現実には、上記の様な歪みが、医療費を膨張させ、保険料負担を重くさせ、健康に努めている者にとって不公平感を生じさせていると思います。
そこで、保険財政の支出を減らす方法として、高齢者や、過度に自分をいたわる神経質な人が、元来「ケチ」なことに目をつけました。それと、携帯電話の通信料が段階的に増える契約のユーザーは、案外、最低額の範囲内でしか使っていないことをヒントに思いつきました。
まず、医者にかかったときの窓口で支払う自己負担の1割から3割負担を、若干下げます。その自己負担割合で済む医療費のハードルを年間総額である程度の少額に設定しておきます。
その金額を超えたら、少しだけ、例えば、0.5割か1割だけ、自己負担額を増やします。その増えた割合が、現在の自己負担割合と同じくらいに設定しておきます。
老人や自分を過度に神経質にいたわる人は、元来ケチなので、その負担割合の増加を嫌って、低い割合で済む範囲内でしか通院しないことが予想されます。もしかしたら、二段階設定を心理的負担に感じ、少々の症状なら、全く医者に行かなくなるかもしれません。
本当?と思われるかもしれませんが、私の祖母や父のようにケチな人は、元々が低い負担でも、ちょっとした負担の増加を「損をする」と強く敏感に反応します。年金が100円、1円減っても文句を言い、何かの間違いではないかと、年金事務所に電話をするくらいなのです。
慢性疾患などで医療費がやむを得ず多くかかる人は、今まで同様の1割から3割負担で済み、増加は無いので、今よりも困ることも無いはずです。
また、現役世代の3割負担だった層は、例えば、たまたま風邪など、ちょっとした病気で短期間、医者にかかる程度なら、自己負担が少ない割合で済むので、今よりも不公平感が柔らぐと思います。
それでいて、無駄に通院していた人のための保険組合からの支出が減るので、健康保険財政全体が改善し、保険料上昇圧力が減ると思います。
保険財政全体が改善すれば、重病人や慢性疾患で医療費負担が多くかかっていた人の自己負担割合も減らせられるかもしれません。
高齢化がますます進むことに伴い、健康保険財政がもっと苦しくなるのは、このままでは不可避だと思いますので、抑制策の一つ、もしかしたら切り札?として、いかがでしょうか?
本当に減るかどうかは、どこかの地区で実験してみるといいかもしれません。また、この制度は、どの程度の自己負担割合を設定するか、自己負担割合が増えるハードルをいくらに設定するかが肝要になると思いますので、いろいろな地区で、いろいろな値を設けて、最適な値を導いた方がいいかもしれません。地域によって住人の性格の傾向が違うので、最適値が地区によって異なるかもしれませんね。
これから、ますます暑くなりますが、くれぐれもご自愛ください。
先生の今後のご活躍を期待しております。
投稿: 小野 | 2015年5月30日 (土) 13時46分