衆議院総務委員会欧州視察の所感
衆議院議員 橋本 岳
1.視察の所感
○フランス・スペインの地方制度改革について
現在、フランス・スペインともに地方自治体に関する法案が国会に提出されているタイミングであり、地方制度改革の方向性について両国の政府及び議員の方と意見交換を行うことができた。
まず大前提として、日本が市町村―都道府県―国という三層制であるのに対し、コミューン―(広域行政体)―県―州―国(フランス)またはムニシピオ―県―州―国(スペイン)といった四層制(さらに国の上にはEU政府もある)であり、かつ例えばスペインの県議会議員はムニシピオの議員間の選挙による選出であることなど、個々の位置づけや関係も日本とは歴史的に異なることに留意する必要がある。
その上で両国とも、小規模自治体の事業の非効率や二重行政の無駄等を問題意識として持ち、自治体間の権限・事業の整理・集約化により解決を図ろうとしているという印象を受けた。日本では市町村合併によりこうした問題への対処を行ったわけだが、両国とも以前の日本どころではない極端な小規模自治体も抱える(スペインでは人口2~3人のムニシピオまであり、人口100人以下が1,000以上、全体の80%以上が人口5,000人以下。日本でいえば「集落」「町内」というべきスケールの自治体まで存在するということ)中で、合併よりもまず権限の整理や事業の共通化から着手したところに、身近なコミュニティに愛着が深いヨーロッパ共通の手法と課題を見た思いがする。
一方で、フランスの首都パリでは周辺交通網や住宅建設の整備推進を行うグランパリプロジェクトに伴い、グランパリメトロポール(「大パリ都」とでも訳すべきか)を創設し今後県やコミューンが持つ権限を集約し将来的には統合する方向で動いている。リヨンやマルセーユなど他の大都市でも既に同様の状況のようであった。日本においても日本維新の会が提案する大阪都構想など大都市制度が議論されているが、同様の課題があるものという認識を持った。
いずれにしても、単純に「分権」というベクトルではなく、ヨーロッパの経済危機の中で、地方自治体間の事業や権限の整理・合理化を行うことが両国ともに現在直面している改革の方向性であった。日本の三層制の方が「すっきりしている」という印象を持ったのが正直なところであるが、身近なコミュニティへの愛着ぶりは両国に学ぶべきであろう。
○国際放送の在り方について
フランスにて国際放送を行う「フランス24」社に伺い、施設の見学を行い役員の方と意見交換を行った。日本でいう「NHKワールド」に相当する会社である。またその後アスリーヌ上院議員との意見交換でも、同社に関する意見交換を行った。
その中で話題になったのが、公共放送として政府とメディアの関係である。フランス24の予算の財源は元をたどれば税金であるが、その中で「フランスのジャーナリストは一人たりとも政府の指示を聞く人はいない」という役員の方の断言は小気味よく響いた。ただサルコジ政権下で公共放送の会長の任命権を大統領に移し広告をやめて国からの交付金にするといった改革が行われ財政依存性ができた経緯があり、現在のオランド政権下で再び政治的な独立を確保する議論を上院で行う旨の話がアスリーヌ上院議員からあった。
NHKでも国際放送は放送法に基づく要請放送として行われるが、これに関して以前に議論があったことを想起させたが、洋の東西を問わず微妙な問題であることを再認識した。
○通信企業の海外進出について
スペインにおいて、グローバル・メガキャリアであるテレフォニカ社の役員の方と意見交換を行った。日本のNTTと同様国営企業から民営化された経緯を持つが、積極的な海外展開により世界第五位の通信事業者になった企業である。
旺盛な海外進出意欲について「大航海時代からの気性」を挙げ、歴史的なラテンアメリカとの密接な繋がりというスペイン固有の経緯はあったものの、同時に現地事業者とのアライアンスによる拡大戦略や、回線への設備投資を行うことが自社の事業と認識し「アップルやグーグル、フェイスブックには、我が社はならない」という発言、また移動体・固定通信等部門を分けていたのを統合し顧客に対しパックで提供するサービスを開始したということなど、日本の通信事業の海外進出においても学ぶべきヒントがあるものと感じた。
○CERNの視察にて
ジュネーブにてCERN(ヨーロッパ原子核研究機構)を訪問し、施設見学およびヒアリングを行った。中でも「科学は普遍的な万国言語である」という所長のお話通り、100以上の国々から多くの研究者が集まり研究やイノベーション、教育を行っている。またその中で莫大なデータ解析のためのグリッドコンピューティングなど、分散システムの実装も進められている。そうした空気の中で現在のインターネットを支える主幹技術であるWWWが開発・公開されたのだと納得できた。コンピューターセンターのロビーの一角に展示してあった、ティム・バーナーズ=リーが使用した「世界最初のWebサーバ」のNEXT機を見ることができたのは個人的に最も嬉しいことだった。
所長からは日本に対するILC導入への期待のお話もあった。また同時にグリッドコンピューティングプロジェクトでは東京はティア2に留まっており、よりコミットを深めるべきというご意見も研究者の方からいただいた。
(写真:世界最初のWebサーバ。懐かしいNeXTマシン)
○現地の日本人の方々との懇談
パリ・マドリード・ジュネーブ各地で日本から現地法人に勤務する日本の方々との懇談の機会を頂いた。ジュネーブではITUやCERNといった国際組織で頑張っておられ、また企業の方々も各地でそれぞれの事業を展開しておられることに非常に感銘を受けた。現地での生活についても伺ったが、物価や住宅での苦労や納税や社会保障等のお話を聞くと、日本の制度がいかに整っているかという印象をもつことが多かった。
2.欧州視察概要
調査団名:衆議院欧州各国の地方行財政制度及び情報通信等調査議員団
調査日程:平成25年9月3日~10日
派遣先 :フランス・スペイン・スイス
メンバー:山口泰明(団長・自民)、橋本岳(自民)、黄川田徹(民主)、佐藤正夫(みんな)
同 行:野一色裕二(衆議院委員部)、原田淳志(総務省大臣官房総務課長)、森山 真(総務省国会連絡室長)
主なヒアリング先:
(フランス・パリ)
・ルクレール国土平等・住宅大臣補佐官(新グラン・パリ計画担当)
・フランス24社
・アスリーヌ上院議員(フランス上院仏日議連会長)
・マッシオーニ行政改革・地方分権・公務員制度担当大臣首席補佐官
・パリ駐在日系企業等・大使館の皆さま
(スペイン・マドリード)
・ベテタ財務・公共行政省公共行政長官
・エロリアガ下院財務・公共行政委員会委員長
・マドリード駐在企業・大使館の皆さま
(スイス・ジュネーブ)
・CERNロルフ・ホイヤー所長、近藤敬比古教授
・ITU日本人職員の皆さま、CERN日本人研究者の皆さま、大使館の皆さま
3.謝辞
今回の視察にあたりお認めいただいた衆議院総務委員会ご関係各位、ご尽力いただいた衆議院・総務省各位、そして現地でご対応いただいた外務省や訪問先の各位に篤く御礼申し上げます。同時に、私を国会に送っていただきこのような機会を頂いた地元倉敷市・早島町の皆さまにも感謝申し上げます。今回の経験を今後の政治活動に活かして参る所存です。
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