ネット投票について考える。
今日は参議院選挙の投票日です。公職選挙法で投票日当日の選挙運動は禁止されているため、候補者の名前を出すことはできません。けどこれだけは書いておきましょう。皆さん、投票はお済みですか?
さて今回の選挙では、ネットでの選挙運動が解禁されたわけですが、「ネットでの投票」が可能になったと誤解をした人が多いという話を聞きます。今回の改正では投票方法については全く変更していませんので、ご足労ですがお近くの投票所にお出かけいただき、投票用紙に鉛筆で書いて投票をお願いします。僕は期日前投票で済ませました。
では今後はどうなのか。公選法改正の審議中にも、主に日本維新の会の方や民主党の方からネット投票についての質疑もありました。ただよく言われるような「家で投票できたらいいのにな~」という形でのネット投票は僕はすべきではないと思っています。
選挙での投票においては、最低以下のことが守られる必要があると思います。
1)投票の秘密と自由が客観的に担保されること。
2)本人一人につき一票が担保されること。
3)後で票数の確認ができること。
4)できるだけ全立候補者に公平であること。
2)は、たとえばマイナンバーが普及して本人確認が電子的にできるようになれば、技術的にはクリア可能だと思います。3)も技術的に可能ですが、電子的な確認では怪しいというご意見もあるでしょう。しかしたとえば投票は紙で行うが、鉛筆での記名ではなく該当欄への捺印や○印で行うようにして、開票はOCRで読み取る形の「電子開票」という方法もあります(韓国ではそうしていると聞きました)。これでも今よりはきわめて迅速に結果が判明し開票作業の省力化も進み、かつ疑義が生じた場合に目視確認も可能です。
最大の課題は1)です。「家で」とか「職場で」もしくは「モバイルで」などを許すと、例えば投票している人の安全や自由が守られている保証が客観的に不可能です。電子的に本人確認がされ本人が端末を操作したとしても、極端に言えばその人の背後に銃やナイフを突きつけている人がいないとは限りません。または職場の上司の目とか家族の目の中で投票することは、場合によっては自由意思を阻害することになります。安全かつ個別な環境下で自由意思に基づく投票ができること、かつ不正な投票がないことを保証するために、物理的な投票所があり、立会人の方々が必要なのです。ですから「どこでも」投票ができるようにはしてはならないと僕は思います。
ではどうにもならないのか。そんなことはありません。例えば、投票所は現行のまま住所近くに設置するとして、マイナンバーで本人確認の上、どこの投票所に行ってもよいことにする、といった改善は可能だと思います。家の近くに行かなくても、勤務先や出かけ先の投票所に行ってもよいことにできれば、多少便利になるでしょう。またその延長でコンビニやショッピングモールに出張投票所を設けることも可能でしょう。ただし投票後の投票用紙の仕分けをどうするか考えなければなりませんし、また、例えばイオンに投票所を設けたら「そういえばイオンの経営者の身内の候補者がいるよね」みたいなことも起こり得るわけで4)の条件との兼ね合いも考えなければなりません。まあこれはケースバイケースでしょうが。
要は、「投票所で紙で投票」からいきなり「どこでも電子的に投票」に、という極端なアナログから極端なデジタルへ的な発想をするから話が前に進まないのです。アナログの良さを生かしながら、デジタルな技術を染み込ませてどう効率を良くするかを考えてゆけば、将来的に具体化は十分可能です。
数年前、ネパールの制憲議会の選挙を見学に行きました。本人確認は「親指のツメに一週間消えないインクでしるしをつける」という素朴な方法で、かつ投票も字が読み書きできない人のために記号で表示された欄にパンチで穴をあけるというものでした。それでも、朝6時から投票所に人が長蛇の列をつくり、ヒマラヤ山麓の村では3日かけて歩いて投票所に行く人もいるとも聞きました。なぜならば、ネパールでは内戦を経て10年ぶりに行われる選挙だったからです。
投票できることは、今現在の世界の中でも、決して当たり前のことではありません。同時に、投票されて選ばれた人は、その重みをわきまえて職務に当たらなければなりません。どうぞ皆さま方の貴重な一票の権利を無駄にされることがありませんように。
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