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2009年5月19日 (火)

「異状死死因究明制度の確立に関する提言」覚え書き

 今日13時半から、異状死議連メンバーにて総理官邸にて河村建夫官房長官に面会し、先週まとめた提言書を手渡し「骨太の方針」への記載を要望した。官房長官は時津風部屋事件にも言及され「重要な提言をいただいた」と対応を約束してくださった。まだ要望活動は続くが、とりあえず事務局次長としての重任はひと段落。この活動が、「死因不明社会」日本の改善につながることを切に願う。

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(写真:河村官房長官(右)に提言を説明する保岡興冶会長(中央)と冨岡勉事務局長(左))

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(写真:官邸ロビーにて記者に囲まれノンストップで熱弁をふるう冨岡事務局長)

 ここで、今後の検討のためこの提言に関する覚書を記しておく。

・選挙間近と言われ続けるのこの時期、2月に議連を立ち上げて5月に提言ができたのは、衆院法務委員会での提言や勉強会等の背景に乗ったものとはいえ、ひとえに冨岡事務局長の九州男児らしい気合と、それをがっちり受け止めた保岡会長の熱意が大きい。このことは銘記されるべきである。

・死因究明を担う人材が少なすぎるという現実を直視し、かつ法医学だけで死因究明ができるわけでもないということも認識し、それらをひっくるめた教育研究拠点(仮称:法医育成センター)の設立を提唱したことが最大のポイント。民主党の法案にしても、診療関連死の問題にしても、これまでの死因究明制度の提案は足腰がない机上の空論のような感がある。まずその基盤整備となる部分を行おうということ。

・死因究明を所管する省庁が寄せ集め無責任状態なことに鑑み、制度改革議論に入る前に、まず死因究明推進基本法(仮称)を議員立法で作り政府に検討推進体制づくりをさせることにしたことも、もう一つのポイント。今後の検討舞台は、基本法制定のための党政調の検討機関となろう。

・提言冒頭に死因統計について触れた。この記述により「異状死」以外の死因についても今後検討対象とすることができる。臨床現場でボランタリーに行われているAiや病理解剖も死因究明の一環として検討の対象にできるよう「含み」を持たせてあるということだ。公衆衛生や犯罪発見だけが目的だと、行政解剖と司法解剖しか話が及ばないのだ。しかしいずれ、来院時死亡例など境界領域も拾わねばならなくなるだろう。

・Aiについて。制度提言そのものを見送ったため、死因究明制度にAiを差し込むというような提言も行わなかった。しかし「Aiセンター」という言葉を書きこんであるので、今後の検討に際しうまく活用していただけるだろう。

・本議連の提言や、検討のきっかけの一つである法医学会の提言などを受け、この通常国会では衆議院や参議院の委員会質疑で死因究明について取り上げられる機会がやたら増えた。自分もこの検討のために二回質疑を行った。以下に掲げるので、興味の方はあわせてぜひ以下の議事録にもお目通し願いたい。

衆院法務委員会 平成21年04月28日 細川律夫(民主党)
 ・身元確認作業と警察歯科医
 ・法歯科学の現状
 ・歯牙鑑定の謝金
 

衆院決算行政監視委員会 第四分科会 平成21年04月21日 橋本岳(自民党)
 ・消費者行政と死因究明
 ・全国一元的な死因究明制度に関する都道府県からの要望
 ・死因究明の所管と現状
 ・死体検案書の位置づけ
 ・医師法21条の解釈の食い違い(指摘のみ)
 ・Ai実施理由の認識

衆院決算行政監視委員会 第一分科会 平成21年04月21日 秋葉賢也(自民党)
 ・司法解剖・行政解剖実施率の地域間ばらつき
 ・監察医制度の整備
 ・法医学教室の定員の充実
 ・国家公安委員長・文部科学大臣・厚生労働大臣の会合
 
衆院法務委員会 平成21年04月03日 橋本岳(自民党)
 ・裁判員制度と死因究明
 ・法医学教育の充実
 ・検視体制の充実
 ・Ai(死亡時画像診断)の積極導入
 ・監察医制度の全国展開
 
衆院文部科学委員会 平成21年3月18日 亀岡偉民(自民党)
 ・法医学の現状と今後の取組
 
◎参議院内閣委員会 平成21年03月24日 柳澤光美(民主党)
 ・死因究明医療センターの設置
 ・検視官の増員
 (国会会議録検索システムを参照のこと )

衆議院法務委員会 平成21年03月11日 細川律夫(民主党)
 ・死因究明に対する見解
 

なおこのリストを作成するのに、「法医学者の悩み事」というブログを参考にした。感謝申し上げる。
 

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13.死因究明制度」カテゴリの記事

コメント

済みません、「異常死」についてというよりも、「死亡時医学検索」一般についての感想なのですが、お忙しいなかメールをお送りするのもご迷惑でしょうから、こちらに書かせて頂きます。

・体表からの診察だけでは死因は分からない、という主張は、ミスリーディングだと考えます。病院における死亡については、入院治療が始まった時点である程度は診断は付いています。経過途中でCTを取ることも多いです。死亡時点ではよりいっそう情報が集まっていますから、7、8割は自信を持った死亡時診断が出来ます。したがって、その時点でCTを取る医学的意義は、かなり疑わしいと言えます。逆に、CTを取ることでより診断が確実となるのであれば、「生きているうちに」撮影していますし、そうするべきだと考えます。

・したがって、臨床医の感覚として、年間100万人近くが体表観察のみの不明確な死亡診断のまま処理されているという主張には賛同しかねます。これはもちろん議員の御主張ではありませんし、念のためリンクを貼りましたが、この統計がそれほどまでにいい加減だというエビデンスは目にしたことがありません。死亡統計は、400年ほど歴史がある統計で、医学や医療政策の大前提です。

・入院時点で診断が困難な場合、入院中の急変などで正確な死因が分からない場合、救急外来に来た患者で既往歴などの情報が不足している場合など、死亡診断書の「死亡の原因」記入が難しいケースに時折遭遇します。そうした際、ルールとして“心不全”と記入することは出来ないため(死亡診断書の書式に但し書きがあります)、CTにより情報量が増えることが期待されれば、臨床医はCTを取ります。救急外来であれば、入院患者以上に情報が少ないうえ、頭、胸という死因に直結する臓器の大きな異常が簡単に除外できるため、より取りたいという判断に傾きます。

・そうした際の費用は、保険診療での請求に含めているハズです。基本的に、費用として安いうえ、病院側に悪意が無いことは明らかであり、患者の利益となる検査であるために、保険審査でも「お目こぼし」が得られていると理解しています。

・仮に、死亡時のpostmortem CTが義務化された場合、CTが無い診療所や病院、地域における死亡診断が、地域医療にかなりの負担をもたらします。北海道の地方のように、救急隊が1チームしか無いような土地であれば、亡くなった方のCTを撮るために1時間、2時間、医療の空白が出来てしまいます。CTがある病院であっても、夜間に放射線科技師がいない病院は山ほどあります。夜間に放射線科技師がいる病院でも、病棟夜勤看護師が2人体制の病棟など、無くなった方のCT撮影のために病棟が1人となってしまい、緊急対応が困難となります。都市部と異なり、既に医療が崩壊している地方では、新たな情報が期待できない処置のために生きている方を危険にさらすのは本末転倒だと考えます。

・治療関連死が疑われる場合や、死因が全く分からない、といった場合、臨床医としての感覚では、まずは家族と相談してCTくらいは撮影します。患者の利益にとって決定的な検査であればなおさらで、夜間に技師さんをたたき起こしてでも取るでしょう。したがって、「死因がよく分からないから心不全」、といった話にはなりませんし、医療過誤を疑う家族の意見を聞かずに荼毘に付す、といった話も、普通の医療機関においてはおこりえません。少なくとも、私が臨床をしてきた北海道の医療機関においては非現実的な仮定です。

・人の死は、厳かであるべきです。病院死された場合、点滴等の抜去、ご遺体処置のために、一時的にご遺体と悲しむ家族を引き離します。医療者は、そうした時間すらも申し訳なく感じています。診断が困難な症例では、当然、CTなり、剖検を依頼することもありますが、それによって得られる情報が限られていると考えられる場合、家族とご遺体を今以上に引き離すことに説得力のある理由は見出しがたいです。それが、院内で完結しない処置であればなおさらです。

・「お目こぼし」という、既存の制度の“運用”で患者の決定的な不利益が回避しうる現状があるなか、医学的に大きな利益が期待しにくい検査のために、地域医療の負担を増し、巨額の公費支出をすることは中々困難なのではないかと愚考致します。Aiに医学的に利益が無いと申し上げている訳ではありませんし、死因不明の際の究明制度が充実していた方が良いことは間違いありません。ただ、医療現場としては、新たな義務を課されることは現状では余りに負担が重く、逆に、現場に対して選択肢を増やして下さる政策を望みます。この件で言いますと、保険診療におけるpostmortem CTの合法化と、病理解剖についての助成等などになるかと考えます。

以上、臨床医としての感想です。“死亡診断”ではなく、“死体検案”についてだと限定して頂けるのであれば、多くの臨床医も納得できるのではないかとも思えます。直接の専門ではありませんので、事実誤認等、失礼があればお許し下さい。

投稿: T | 2009年5月21日 (木) 11時24分

Tさん、コメントありがとうございます。昨日もありがとうございました。逐一突き合わせることはしませんが、いただいたコメントに思ったことを記します。

 なお、昨日の話は話ですが、私の立場は議連提案に依拠するものです。

・正直言って少なくとも議連提案の主要ターゲットには、病院で亡くなる方はあまり入っていません。法医学会提案がきっかけですから、病院の外で亡くなる方を主に考える立場から出発し、検討過程で提言のようになりました。死亡時医学検索全体を視野に入れようとしていますが、メインは死体検案です。

・死亡診断に関し、「お目こぼし」に依拠する現状が今後も継続的に安定するものとは思えません。不妊治療ですら保険を認めていないのに、死者に対する支出を公に認めるというのは保険医療制度の思想を転換させることであり、無理です。むしろ議論の俎上に載せたとたん「不正請求」扱いをせざるを得なくなります。ですから、広く死因究明全般をテーマとし、財源をどうするかも含めてその中にPMCT(というかAi)や病理解剖をどう位置づけるかを考えた方が現実的アプローチと考えます。

・死因統計について、もちろん大部分はきちんとしているのだろうと信じます。ただ、上記決算行政監視委員会第四分科会の私の質疑の議事録はぜひお目通しいただきたいと思います。現状のままで問題ナシとは私は思いません。

投稿: 橋本岳 | 2009年5月21日 (木) 21時52分

お返事を頂けて驚きました。質疑も拝読致しました。基本的な認識は一致しているご様子で、安心致しました。死体検案を主体にした議論ということであれば、多くの医療従事者側も納得できるのではないかと拝察します。

論点としては、コスト負担の問題に尽きるでしょう。死亡診断書のコストも含めて再検討というのは予想外でしたが、一方、「お目こぼし」が現実的で無いというのは、議論の余地があると考えます。というのも、不妊治療、特定疾患等々、税金が投入される保険診療の範囲をどこまでにするかという問題は、保険診療制度の思想の問題でなく、政治的、財源的問題だからです。

一例を挙げます。脳死移植の際、脳死判定を6時間開けて2回行い、変化が無いことを持って“法的に”死亡判定することはご存知でしょう。検査所見に変化が無いのであれば、“医学的に”死亡と言い得るのは時間をさかのぼった1回目のタイミングです。この脳死判定の例では、死亡時点の定義を工夫することで、1回目から2回目の間に掛かった医療費など複数の問題を回避していると理解しています。

したがって、現場としては、例外的な「お目こぼし」を制度化して下さった方が、新たな制度やそれにともなう書類が発生するよりも負担が少なく、現実的な解に感じるのです。質疑を拝読して驚いたのは、制度的な位置づけはないにも関わらず「回答があった二千四百五十施設のうち八百七十六施設でそういうことを実はやっている」、というデータがあることでした。これは、まさにお目こぼしの証左です。

厳密に言えば不正請求に近い内容でも、患者の利益を考えるとそれがベストであるために、あえて医師側がリスクを負うことで現場がうまく回るということが、保険制度にはままあります。その意味では、病理解剖のコスト負担については別の話になりますが、病院死におけるPMCTを大々的に制度化しようとする試みについて言えば、必ずしも患者の利益にならないだろうというのが一般的な臨床医の感覚なのではないかと思います。

ともあれ、死体検案側、異常死側の議論に関してはごもっともな内容ですので、勉強して出直します。法医学、病理学、解剖学、どれも結局は予算以上に人材不足の問題が障害になるのでしょうけれども、制度については政治側の専権事項ですから、出来る範囲で応援させて頂きます。

お忙しいなかお返事を有難う御座いました。

投稿: T | 2009年5月22日 (金) 10時27分

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