司法解剖制度の現状
以下は、昨日の警察庁レクチャーのメモである。
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・年間100万~110万人の方が亡くなる。うち変死の数は年間10万人であり、右肩上がりに増加中。原因は定かではないが、孤独死の増加も一因であろう。警察庁としては、変死の中に含まれる犯罪を見逃さないことが重要と考える。
・変死体が発見された場合、まず警察官と医師で検視(目で状況を確認)し、犯罪性があるかどうか判断する。判断に迷ったら専門の「刑事調査官」を呼び検視して判断する。犯罪の可能性があれば司法解剖に付し、ないと判断されたら自然死として扱う。
・時津風部屋力士リンチ事件の場合、愛知県警の警察官と医師が検視したが病死と判断した。遺体を受けたご遺族が不審に思い実家の新潟県警に相談。その結果解剖され、殴打によるショック死と判断された。そういう事態を防ぐために、刑事調査官の増員をしようとしている。ちなみに刑事調査官は全国で160名、岡山県では調査官は3名、補助が3名。
・(橋本質問)時津風部屋事件について、警察官の検視の判断が誤っていたのであれば、現場での検査や教育などが問題なのではないか?刑事調査官の増員と繋がらなくないか?
・(回答)実は時津風部屋事件の際、当時愛知県警に1名しかいなかった刑事調査官が県外出張中で呼べなかったという事情があった。だから増員が必要。
・もう一つの課題は、解剖医が少ないこと。岡山県の場合、岡大医学部に1名のみ。全国で130名。岡山県で変死が年間二千数百件あるが、司法解剖は157体。1名で対応するには限界の数字。頼みづらく、頭が痛い問題。なお、司法解剖一体につき約18万円の謝金を支払っている。以前は7万円だったが引き上げた。
・変死体へのCT検査について。平成19年から開始。1,000体分の予算を確保しているが、病院側に抵抗があるようで消化できていない。しかし判断に迷う場合(殴打による硬膜下出血なのか、病気であるクモ膜下出血かの判断等)の検査方法として期待している。CT検査の場合も病院に相応の謝金を支払う。
・法医学を目指す人は少なくないが、ポストが少ないのが悩み。また、現状を打開するために日本法医学会は「死因究明センター」の設置を提言している。
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要するに、変死体に含まれる犯罪が見逃されているかも知れない、そのために刑事調査官や解剖医を増やしてくれ(もしくはそれに要する予算をくれ)という意味だと僕は理解したんだけど。ただ途中で質問したように、それで本当に問題解決になるのか、まだ疑問は解けていない。
なお、犯罪性がなければ警察は関知しない。彼らは犯罪を捜査するのが仕事だからしょうがない。犯罪性はないと思われるが何故亡くなったかわからない場合は、行政解剖に付される。ただしこの制度が機能しているのはほぼ東京都、大阪市、神戸市のみ。
最近、ある女優さんが死後一週間後に自宅でご遺体で発見されたことがあったが、東京都だから東京都監察医務院が行政解剖を行い、肺炎という死因が判明した。もし倉敷市で同じことがあっても事件性がなければ警察は関知せず、行政的には解剖の機会はない。遺族が病院に病理解剖を依頼すれば別であるが、そうでなければ検視のみで「心不全」といった死因とされていたかもしれない。
肺炎であればあまり実害はないかもしれないが、ガス湯沸かし器の故障等による一酸化炭素中毒死が見逃されて「心不全」とされていた例もある。ただしこれは東京都監察医務院が行政解剖を行っており、あとで遺体検案書を見た遺族が数値に不審を抱き再捜査を要請して判明した。この場合も、当初警察の検視は犯罪の芽を見逃したわけだ。この発見の遅れが被害を拡大したとも言われている。
いずれにせよ、人が亡くなるということに日本社会はもう少し敬意を払い丁重に扱うべきではなかろうか。僕はそう思うんだけど。
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コメント
中川大臣の辞任騒動を見ていて、感じましたが岳先生も、「お酒」に気をつけて下さいね。優秀な方が世界中に恥をさらす姿は見るに忍びません。「酒」「賭け事」「女」「煙草」と禁じられた遊び・誘惑に手を出す心の闇と戦わなければいけません。いつも「天」に見守られているのみならず、「地」にも同時に見られているのですから。
隙のないよう。
投稿: かめ | 2009年2月19日 (木) 12時35分
あのね。
政治家、特にこの間まで政権与党にいた政治家が「日本社会はもう少し敬意を払い」だ? しかも、「解剖医の数を増やす予算をくれ」では解決できないだ?
まず、あなた方がきちんと予算をつけなかった結果だし、敬意を払おうにもない袖は振れない状況で、こんなセリフをよく言えたものだ。
これでは、新聞の読者投稿のレベルだ。
政治家は、だからこそ、「こういう予算をつけるべきであるし、私はそのためにこう働こうと考えている」と書き、「そのために読者にも是非協力してほしい」と書くことが政治家の責任ではないか。
この表現では、傍観者の意見でしかない。
投稿: 柘植秀通 | 2010年7月19日 (月) 07時00分