生涯現役社会の推進に向けた提言

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 生涯現役社会の推進に向けた提言

令和元年5月30日

自由民主党政務調査会
雇用問題調査会
厚生労働部会

 

1.      生涯現役社会推進にあたっての基本的な考え方

 

  • 平成18年に高年齢者の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)に基づき65歳までの雇用確保措置が義務付けられて以来、13年が経過した。公的年金の支給開始年齢の引き上げの影響もあり、60歳以上の世代の就業率は徐々に上昇している。
  • 一方、65歳~69歳世代においては、収入を伴う仕事をしたい(続けたい)方の割合(65.4%)と実際の就業率(44.3%)に差があり、さらに70歳以上においても同様の傾向がある。また女性の就業率は伸びているものの、男性と比較すると低いままとなっている。
  • そうした点を踏まえ、高齢期を迎えた方の健康状態や経済・家庭の状態は人により幅広いものとなることを前提に、その個々のニーズを踏まえ、就労を妨げるバリアをなくし、あるいはハードルを下げ、年齢を問わず希望に応じて様々な形で輝き、稼ぐことができる就労環境および支援する制度を整える必要がある。単にそれまで勤めていた企業の雇用の継続にとどまることなく、転職や学びなおしによるキャリアアップ、あるいはシルバー人材センター等による派遣や、地域に身近な就労や地域活動の担い手等、多様な形態の活躍の選択肢を用意し選べるようにすることが重要である。
  • 同時に、退職金や年金、定年制度など、特定の企業に就職し一定年齢にリタイアすることを暗黙の前提とした諸制度に関しては、人生設計の節目や稼得能力の低下リスクをカバーする制度として一定の合理性が今なおあることには留意しつつも、硬直的な雇用継続を促すことに繋がる側面については、必要な見直しを行うべきである。
  • 我が国の人口減少・少子高齢化が進む中において、高齢者の若返りが進む中において元気で働く意欲のある高齢者も増えてきている。また、我が国の産業構造がものづくりから変革する中で、高齢者の活躍できる職も増えてきている。このような中、高齢者も人材として活用していくという企業側の意識転換も必要である。
  • 企業においても、高齢者雇用についてすでに様々な取り組み例がある中で、先進的な事例に学び横展開することで高齢者が働きやすい環境をそれぞれに整えていただくことは、人手不足が切実な折から、至急な対応が必要であろう。またそうした取り組みを助成金等で後押しすることも重要である。本PTにおいてもさまざまな企業へのヒアリングを行ったところであり、それぞれの工夫について整理した資料を付録として添付する。
  • こうした施策を通じ、日本の人口構造において高齢者の割合が増える中、高齢であっても各々の健康や状況の中で、社会保障や経済社会の担い手となる方が増えてゆくことが社会全体にとっても望ましいことは、言うまでもない。厚生労働部会全世代型社会保障改革ビジョン検討プロジェクトチームがまとめた「新時代の社会保障改革ビジョン」において「社会保障改革の『第3の道(リバランス)』を進めるという発想が必要」と述べられている通りである。
  • この際、これまで就労参加していない中高年齢層の女性の就労を積極的に支援していくことも必要である。
  • また、「就職氷河期世代」にも含まれる団塊ジュニア世代において、正規就労の機会がなく40代を迎えた方が少なからず存在することも大きな課題である。これはバブル崩壊時の雇用の調整弁としてこの世代が犠牲になった結果であり、第三次ベビーブームの不発を招くなど重大な禍根を残している。この世代に対し、教育訓練やマッチングなど就労等に対する十分な支援を行い、より安心して高齢期が迎えられるようにすることは、当事者やその周囲のみならず、社会の将来的な持続可能性の向上という点においても必要である。
  • こうした観点に立脚し、政府は生涯現役社会を目指すべきである。以下に具体的な施策提案を記す。

 

2.      高齢者が能力を発揮できる社会づくりのための雇用・就業施策の基本的方向

 

(ア)  65歳まで継続雇用措置における処遇の向上

  • 現在、高年法に基づき、65歳までの雇用確保措置(65歳まで定年年齢の引き上げ、65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入、定年制の廃止、のいずれか)が雇用主には義務付けられている。継続雇用の場合賃金水準が下がることが多く、このことは判例上も直ちに不合理であるとはされていないものの、同一労働同一賃金の観点から、不合理に下がる例については是認しがたい。継続雇用制度においても、本人のモチベーションや納得性に配慮した、定年前と一体的かつ合理的な評価制度やそれに基づく賃金水準や処遇等を確保させるべきである。

 

(イ)   70歳までの雇用・就業機会の確保

  • 70歳までの雇用・就業機会を確保する観点から、高年法の雇用確保措置を70歳まで延長することとする。ただしその際には、自社内での直接雇用以外の多様な選択肢も含め、労使で定めることができるようにするべきである。
  • 政府においては、新たな選択肢のイメージとして、「他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現」、「個人とのフリーランス契約への資金提供」、「個人の起業支援」、「個人の社会貢献活動参加への資金提供」を示している。新たな選択肢の具体化の検討にあたっては、高齢者の職業の安定という高年法の目的を十分に踏まえ、既存の選択肢との比較において企業が負う責務の程度が不均衡にならないよう、どのような企業の関与を求めるかなどについて、十分に検討することが必要である。

 

(ウ)  労働市場機能の強化

  • 高齢者の強みを適材適所で生かすため、高齢者に対するハローワークにおける職域の開発・開拓を含めた支援や、産業雇用安定センターによるマッチング機能の強化を図るべきである。

 

(エ)  地方への人材還流

  • 地方の中小企業の活性化や地方創生、UIJターンといった取組と連携し、モチベーションとスキルがある60 歳代の方々が、都市部の大企業から地方の中小企業に移って活躍できる仕組みを検討するべきである。

 

(オ)  地域における就業機会の確保

  • 地方自治体が主体となって高齢者の就労の場を確保する取り組み(生涯現役促進地域連携事業)の拡充など、地域における高齢者の活躍機会の確保に努めるべきである。
  • ホワイトカラー層の退職者や、女性の会員拡大・就業機会の充実を含めた、シルバー人材センターによる地域の課題解決に貢献する取り組みを強化するべきである。

 

3.      高齢者が能力を発揮できる雇用・就業の環境整備

 

(ア)  中小企業での高齢者の活躍促進

  • 地方を含めた中小企業において、意欲と能力がある高齢者の活躍の場が広がるための、中小企業に対しての助成措置等の支援を強化するべきである。
  • この際、都市部の大企業から地方の中小企業へ人材を還流させるという点に留意すべきである。

 

(イ)   高齢期以前からのキャリア形成支援の推進

  • 労働者が高齢期においても自らの健康状態やキャリアに応じて能力を発揮できるよう、高齢期になる前から主体的に自らの職業生活を点検して、所得と生活の関係も含めて将来を設計し、必要な能力開発やリカレント教育の機会を得ることができるための環境整備を行うべきである。

 

(ウ)  中高年齢層の女性の就労機会の提供

  • 中高年齢層の女性の就労に関する希望や実情を丁寧に把握し、その上で就労の支障を取り除き、また後押しするための支援を行うべきである。
  • 子育てや介護で離職を余儀なくされた女性が積み重ねたキャリアと専門性を活かした質の高い就労環境の整備を進めるべきである。また、ハローワークでの求人受付や公務部門の求人において、不必要な性別・年齢要件等がないか丁寧に確認するなど、中高年齢層の女性の求人を拡大するための取り組みも行うべきである。

 

(エ)  正規雇用の機会の得られなかった団塊ジュニア世代への支援

  • 団塊ジュニア世代の中で、正規雇用の機会がなかった者に対し、一人ひとりが抱える課題に応じた就労支援の充実や、職業能力開発機会の提供、生活支援の充実等による支援を行うべきである。

 

(オ)  高齢者の安全・健康の確保

  • 高齢者の健康リスクや労働災害の増加、とりわけ業種別の労働災害防止団体のない第3次産業における増加の状況も踏まえた、安全・健康に働ける職場環境の整備を推進すべきである。

 

4.      高齢者の働く意欲や能力の発揮に資する年金・退職金等のあり方の検討

年金や税制等の制度に関し、高齢者も含めて多様な働き方に対して中立的なものとなるよう、以下のとおり検討されるべきである。

(ア)  公的年金の加入や受給の柔軟化

  • 公的年金に関しては、高齢者の働き方が多様であることに鑑み、何歳まで保険料を拠出して、何歳から年金を受給するかについて固定的に考えるのではなく、一定の範囲内で柔軟化して就労と年金受給の幅を拡大するべきである。その際、高齢者の就業インセンティブを阻害せず、働いて保険料を拠出したことが、できる限り年金受給に反映されることが重要である。

 

(イ)   在職老齢年金のあり方の検討

  • 60歳~64歳に適用される低在老の基準額は合計28万円と低い。就業抑制効果は明確にはみられないとの分析結果もあるが、女性の年金支給開始年齢の引き上げが完了しこの制度が終了するまで10年以上もあり、中高齢女性の就労促進が大きく期待されていることも踏まえ、制度の見直しや終了の前倒し等について、しかるべきタイミングにおいて再検討を行うべきである。
  • 65歳以上に適用される高在老については、今後高齢者就業が進む中で現役並みに働く者が増加することが見込まれるため、その場合には就業意欲を抑制する可能性も指摘されている。高所得者優遇にならないよう税や保険料で能力に応じた負担を求めることとあわせ、マクロ経済スライドによる年金水準が現在よりも実質的に目減りした年金を受給することになる将来の受給世代がより長く働いて年金と賃金を合わせた所得水準を高めるインセンティブとなるよう、将来的な制度の廃止も展望した見直しを行うべきである。

 

(ウ)  退職金等のあり方の検討

  • 退職金制度については、税制に関する検討とあわせ、DBDC等企業年金およびiDeCo等個人年金のさらなる普及拡大や制度の柔軟化、企業年金連合会が行っている通算企業年金の一層の普及など、転職や退職などに対応して積み立て資産のポータビリティを高める制度を一層推進するべきである。

 

 

(以上)

 

 

(別紙)プロジェクトチーム開催経緯

 

○第1回 平成301122日(木)

議題:高齢者雇用対策の現状と課題について

 

○第2回 平成31129日(火)

議題:高齢者雇用等の現状について(前回ご指摘事項への対応)

 

○第3回 平成31214日(木)

議題:高齢者雇用の推進等について(ヒアリング)

・日本経済団体連合会 

・日本労働組合総連合会

 

○第4回 平成31225日(月)

議題:高齢者雇用の推進等について(ヒアリング)

・株式会社ヨロズ

・有限会社ウェルフェア

 

○第5回 平成31312日(火)

議題:高齢者雇用の推進等について(ヒアリング)

・大和ハウス工業株式会社

・公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会

 

○第6回 平成31326日(火)

議題:高齢者雇用の推進等について(ヒアリング)

・太陽生命保険株式会社

・七欧通信興業株式会社

 

○第7回 平成31411日(木)

議題:これまでのプロジェクトチームにおいて議論があった関連する諸制度について

 

○第8回 令和元年523日(木)

議題:提言(案)について