法曹養成と法曹人口に関する緊急提言
平成21年4月17日
法曹養成と法曹人口を考える国会議員の会
会長 高村 正彦
<現状の分析>
「理想 ―幻想―」と「現実」の乖離
~制度設計時に一部の関係者が想定したことと全く違う事態に陥っている~
法科大学院を中核とする法曹養成制度と法曹人口の年間3000人増員計画の「理想 ―幻想―」は、
1.多様な社会経験等を持つ優秀な人材が、
2.プロセスとして質の高い教育を施され、
3.社会の需要を満たすのに十分な数、
輩出されることであった。
ところが「現実」はこの「理想 ―幻想―」にきわめて遠い。実際は、
1.学費・生活費を負担できる人のみが、
2.学校により司法試験合格率に不均衡があり、全体で二回試験不合格者数も増加し、司法研修所終了時にすら基礎知識不足が指摘されるような者が多く出現するような教育プロセスと、役所自らが認める司法試験合格者数の急増に起因する法曹の「質の低下」により、
3.社会の需要を相当に上回る法曹を生み出し、質量ともに就職難に陥る、
結果になってしまっている。
本会では、法曹養成および法曹人口に関し、これまで累次にわたる関係者ならびに一般からの聞き取りなどの検討を重ねた結果、上記のような認識を共有するに至った。具体的に指摘された点は次の通りである。
【法曹養成制度】適性試験受験者数が急減していること。社会人志願者も激減していること。教員が質量ともにかくほできていないこと。法律基本科目の授業時間が決定的に不足していること。成績評価と修了認定が甘いこと。新司法試験を受験しないものが増加していること。司法研修所で前期修習が廃止されたこと、など。
【法曹人口増員】制度を考えた際の法曹需要増加の論拠がずさんであったこと。法曹需要について事後に検証した形跡が見られないこと。「ノキ弁」、「即独」に象徴される就職困難な新人弁護士が増加していること。司法試験合格者数の決定が「数ありき」になってしまったこと。法曹人口を増やしても「司法過疎」が解決されないこと。隣接法律専門職の存在を無視した法曹人口論議だったこと、など。
「およそ人は自分が信じたいと望むことを喜んで信じてしまう」(ユリウス・カエサル)。だからこそ、私たち政治にあたるものは、不都合であっても現実を直視し、国民国家の利益を守るために変えるべきところは勇気を持って変えていかなければならない。このまま現状を放置した場合、現に法曹養成課程にある者やこれから法曹を志望する者はもちろんのこと、すべての関係者、そして国民が不幸になりかねない危機にある。
そこで、以下の提言を行う。
<提言>
1.予備試験の簡素化・簡易化
予備試験は、司法試験受験者の多様性を確保する重要な道となり得る。法科大学院修了者との公平を確保するため多数の試験項目を課すこととなっているが、法科大学院修了者の合格率が約三割となっている現状や、法科大学院修了者最下層の水準の者がこれだけ多数の科目を一度の試験で問われることに耐えうるのか疑問であることからすると、予備試験は受験者に過剰な負担を課し、結果として法科大学院修了者の優位を確保するための仕組みになる可能性がある。そこで、予備試験は科目数等を簡素化・簡易化し、受験者の負担を軽減するべきで、それに必要な法律改正を今年中に行うものとする。
2.司法試験合格者数「目安」の撤廃
司法試験委員会は、「法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年ころには司法試験合格者数を年間3000人程度とすることを目指す」とされた平成14年3月の閣議決定の「数」のみを前提にして、法科大学院修了者の資質を考慮そないままに定められた「目安」を今年から撤廃し、改めて司法試験が法曹となるべき資質の有無を判定する資格試験であることを宣明すべきである。もちろん結果としてこれまでの合格者数を下回ることもありうる。
3.養成課程の少数化・厳格化
法科大学院は直ちに厳格な成績評価と修了認定に着手し、平成22年度に修了生の資質を抜本的に向上させる。その結果、修了生の数が現状の半分程度となるのはやむを得ない。また合格率等から考えて、74校の法科大学院が約5800人の定員すべてに対し十分な教育を施しているとは言い難い。よって、文部科学省は、直ちに法科大学院における教育の質の向上と学校数および定員の適正化(大幅な削減等)に着手しなくてはならない。
さらに、司法研修所は、その過程および二回試験で厳格にその適正や能力を判定すべきである。あわせて現状では法科大学院の教育内容に不足があることに鑑み、司法研修所における前期修習は復活すべきである。
4.司法試験の受験資格制限について
法科大学院で学ぶ経済的・時間的余裕がなくても、適正と能力があれば誰でも法曹になれるべきであり、本来、受験資格制限は撤廃されるべきものである。よって、①法科大学院修了者の新司法試験合格率よりも予備試験合格者のそれの方が高くなる、②法科大学院修了者の二回試験合格率よりも予備試験合格者のそれの方が高くなる、ことが是正できない場合は、受験資格制限の撤廃に向かうべきである。
5.法曹人口のあり方について
法曹人口のあり方を考える際、法曹の需要が飽和し始めているという現実を重く受け止めなければならない。今後は、不断に法曹の需要を検証し、国民の信頼に足る法曹の質を確保しながら、過剰な法曹人口を作り出さないように努めなければならない。
以上